論文
第69巻第3号 2022年3月 病臥者の居場所の変遷-1987年から2017年まで30年間の推移-加藤 尚子(カトウ ナオコ) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ) |
目的 医療機能分化施策が本格化した1980年代以降,30年間における病臥者の居場所の変遷を把握することを目的とした。各種の統計資料から施設・病床の区分ごとに,さらに長期入院・短期入院および高齢者・若年者の別に,詳細に病臥者数を分析した。本研究でいう病臥者とは,公的な医療福祉介護サービスによる何らかのケアを必要として療養している人のことであり,医師による診断治療中の患者には限定していない。
方法 1日当たりの入院患者数,介護福祉施設の在所者数,在宅療養者数を,厚生労働省が発行する各種の統計資料から抽出した。3年ごとに実施される患者調査のデータを主として,1987年から2017年までの30年間,計11回分の調査データを使用し,年齢は65歳以上と65歳未満,入院期間は3カ月以上と3カ月未満に区分した。他の統計資料のデータも患者調査の発行年に合わせた年次で収集した。
結果 1987年から2017年までの1日当たりの病臥者数の年次推移を見ると,病臥者総数は1.7倍に増加し,2017年には3,284,977人である。最も数が多いのは在宅療養者で病臥者総数の35.9%を占めている。一方,病院一般病床の入院患者数は減少しており,1987年に病臥者総数の43.7%を占めていたものが2017年には21.7%,713,300人になっている。病院一般病床の患者数の内訳をみると,最も患者数が多いのは入院期間3カ月未満・65歳以上のグループで,2017年時点で458,200人,全体の64.2%を占めていた。
結論 病臥者の居場所の変化をたどることで,機能分化施策に従って高齢者の居場所が細分化されていく経緯が明らかになった。1980年代には,病院・福祉施設・在宅というシンプルな構図の元,病院に偏っていた長期療養の高齢者が,30年の間に一般病床から療養病床へ,介護福祉施設へ,そして在宅へと分散していった経緯が見て取れる。機能分化施策が本格化する以前,1970年代に社会的入院として問題視された人たちは,病院の一般病床の長期・高齢者のグループに多く含まれていたと想定できるが,1990年代以降は著しく減少している。
キーワード 機能分化施策,長期入院,社会的入院,地域医療計画,病臥者,居場所