論文
第69巻第5号 2022年5月 企業における若年性認知症の従業員への対応と課題齊藤 千晶(サイトウ チアキ) 小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) |
目的 就労中に若年性認知症を発症し退職した場合,再就職は難しいことが多く,いかに就労継続できるかが重要である。そこで,企業内での該当従業員への具体的な対応や効果,課題等を明らかにし,就労継続に必要な職場内外部の支援について明らかにするため,若年性認知症の従業員とともに働いた経験のある企業を対象に,アンケート調査を実施した。
方法 2017年度,全国の従業員数が500人以上の企業に対する調査を行い,若年性認知症(疑いも含む)および軽度認知障害と診断された従業員が以前いた,現在いると回答した63社を把握した。2018年度,63社の前年度回答した人事担当者等に,該当者の具体的な業務内容等について調査を行った。
結果 有効回収数は28社(有効回収率44.4%)であった。若年性認知症等の従業員は33名で,診断名ではアルツハイマー型認知症約5割,調査時の就労状況では退職が27名で多かった。また,診断時の平均年齢は53.0歳,退職時の平均年齢は55.3歳であり,在職期間は約2年間であった。診断名を把握した経緯は,「本人の様子の変化を受け,会社から受診勧奨した」が20名,次いで「本人からの相談・申告」が14名であった。該当従業員の具体的な変化は,「もの忘れの増加」や「指示内容の理解の低下」等の認知機能障害に起因する症状が多かった。対応内容は18名が「他の業務や作業に変更した」であり,その内容は14名で,「直属の上司」が中心に決定した。変更までの期間は11名で「診断直後から6カ月未満」で行われていた。また,個別のコメントでは,症状進行に伴う業務内容の変更や見極めの難しさが挙げられた。
結論 企業等では診断後,直属の上司を中心に診断後6カ月未満には職場内で業務や作業内容の変更等の調整が行われており,それにより就労継続が可能となっていた。しかしながら,症状進行に伴う業務内容の見極めやサポート体制構築の難しさが課題として挙がった。認知症の症状や残存機能に配慮した業務内容や環境調整の具体的な方法の検討や若年性認知症の人への支援の専門職が加わることで,就労継続や退職後の生活再建が円滑に進む可能性が考えられる。
キーワード 若年性認知症,企業,就労継続,就労支援,若年性認知症者支援コーディネーター