論文
第69巻第5号 2022年5月 地域在住女性高齢者の抑うつ傾向と生活機能との関連真鳥 伸也(マトリ シンヤ) 上城 憲司(カミジョウ ケンジ) 井上 忠俊(イノウエ タダトシ)兼田 絵美(カネダ エミ) 納戸 美佐子(ノト ミサコ) 中村 貴志(ナカムラ タカシ) |
目的 本研究の目的は,地域在住女性高齢者を対象とし,前期高齢者と後期高齢者のそれぞれについて,抑うつ傾向の有無に関連する生活機能の要因を特定し,年代別の特徴を明らかにすることである。
方法 2015年度から2018年度の4年間にA町の認知症予防推進事業に参加した65歳から84歳までの地域在住女性高齢者を対象とし,年齢,転倒歴,運動習慣,握力,ロコモティブシンドローム質問票(ロコモ),Geriatric Depression Scale短縮版(GDS),Mini-Mental State Examination(MMSE),Trail Making Test partA(TMT),老研式活動能力指標(老研式)の評価を行った。対象者はGDSを用い5点以上を抑うつ傾向群,4点以下を非抑うつ傾向群の2群に分類した。抑うつ傾向の有無別の各測定値の比較は,対応のないt検定を,転倒歴,運動習慣については,χ2独立性の検定を用いて分析した。抑うつ傾向の有無を判別する要因はロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を行いて分析した。
結果 対象者は375名であり,前期高齢者の抑うつ傾向群は41名,非抑うつ傾向群は119名,後期高齢者の抑うつ傾向群は70名,非抑うつ傾向群は145名であった。抑うつ傾向の有無別に各測定値を比較した結果,前期高齢者では握力(p=0.013),ロコモ(p=0.012)に有意差が認められた。後期高齢者では握力(p=0.001),ロコモ(p=0.002),MMSE(p=0.001),TMT(p=0.001),老研式(p=0.001)に有意差が認められた。抑うつ傾向の有無を判別する要因は,前期高齢者では,ロコモ(オッズ比(OR)0.711,p=0.029),握力(OR:0.908,p=0.030)が,後期高齢者では,老研式(OR:0.813,p=0.023),MMSE(OR:0.882,p=0.018),握力(OR:0.905,p=0.020)が抽出された。
結論 前期高齢者では運動機能と握力が,後期高齢者では,IADL,認知機能,握力が抑うつ傾向と関連することが明らかとなった。前期高齢者と後期高齢者では抑うつ傾向と関連する要因が異なるため年代を考慮した取り組みが重要であると考える。
キーワード 抑うつ傾向,地域在住女性高齢者,生活機能