論文
第69巻第6号 2022年6月 新型コロナウイルス感染症の影響下における
内藤 惠介(ナイトウ ケイスケ) 西脇 愛美(ニシワキ アイミ) 鈴木 祐子(スズキ ユウコ) |
目的 新型コロナウイルス感染症の流行や緊急事態宣言等の影響による,がんの診断や治療介入の遅れが大きく問題視されている。新型コロナウイルス感染症が東京都内のがん検診の受診状況等に及ぼした影響を把握するため,新型コロナウイルス感染症の流行前後について区市町村が健康増進法に基づいて実施する住民検診型がん検診の実施状況や受診者数等の変化について調査した。
方法 調査対象は東京都内の62区市町村とし,各区市町村のがん検診事業担当部署に対して厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に示す5つのがん検診の実施状況ならびに受診者数を,電子メールで調査票を送付することで調査した。がん検診の実施状況は2020年6月,9月,2021年1月の時点で調査し,受診者数は2019年度と2020年度の上半期,下半期について調査した。
結果 2020年4月から5月にかけては受診者数が著しく減少し,5月の前年同月比は集団検診で1.0%,個別検診で5.1%であった。緊急事態宣言解除後,徐々に検診が再開され,受診者数も増加していった。9月時点で個別検診の実施区市町村率は9割程度であったが,集団検診の実施区市町村率は6-8割程度であり,また規模縮小された検診もあったことから上半期の全体の受診者数は前年度の63.9%,集団検診については前年度比43.1%となった。1月の検診実施状況は集団,個別検診ともに実施区市町村率100%に近く,下半期全体の受診者数の前年度比は集団検診で104.5%,個別検診で114.4%,全体で113.0%であった。通年の全体の受診者数は前年度比90.5%で233,417人の減少であった。全体的に集団検診で延期や規模縮小等による受診機会の減少の影響が大きかったとみられ,がん種別では胃がんや乳がんなど集団検診の割合がもともと大きかったがん種で前年度比が特に小さかった。2019年度には全体の受診者のうち集団検診を受診したのは15%であったが,2020年度は12.6%に低下し,さらに2020年度通年の全体の受診者数の減少のうち,集団検診の受診者数減少が37.5%を占めた。受診機会の減少のほか,感染への恐怖や人の集まる場所への外出を避ける等のいわゆる受診控えといった受診者側の要因も受診者数の減少に寄与した可能性がある。
結論 新型コロナウイルス感染症の流行下において,区市町村によるがん検診の実施体制維持によって受診機会を確保し,ならびに住民への普及啓発活動を強化することは,がん検診の受診者数減少を防ぐために重要な課題と考えられる。
キーワード がん検診,住民検診,新型コロナウイルス感染症,受診機会,受診控え,東京都