論文
第69巻第7号 2022年7月 臨床医師の地理的偏在に関する研究2004-2018年-2次医療圏を単位とした分析-設楽 詠美子(シダラ エミコ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ) |
目的 地方における医師の不足が叫ばれているが,人口当たりの医師の数は継続的に増加しており,医師不足の問題は地域的な偏在に起因していると考えられる。医師の地理的偏在の状況は継続的に変化し,2008年にピークを迎えた医師の不足感を背景に実施された諸政策が,医師の地理的偏在の是正に効果をもたらしたのか否かを実証した研究はまだほとんどない。本研究は,2次医療圏単位での臨床医師の地理的な偏在について最新の測定をし,医師不足問題以後に取られてきた諸政策が地域偏在にどのような影響をもたらしたかを検証することを目的とした。
方法 医師・歯科医師・薬剤師統計を用い2004年から2018年の2次医療圏の臨床医師の地理的偏在をジニ係数により測定した。2次医療圏の境界線を2018年に固定したもの(335医療圏数),各年の医療計画に基づく2次医療圏(2004年に370医療圏あり,2018年には335医療圏となる)のジニ係数を求めた。人口減少による影響を調整するために2次医療圏の境界線を2018年に固定したものに,2004年と2018年の人口を固定し各ジニ係数を計算した。一般病院,大学病院,診療所で働く医師の地理的偏在が臨床医師のジニ係数へ与えた影響を分析するために寄与度・寄与率(2004-2018年)ならびに,変化の寄与度・寄与率(2006-2012年と2012-2018年)を求めた。
結果 新医師臨床医制度後の2006年から2012年までは,2次医療圏の臨床医師のジニ係数は増加傾向にあり,大学病院および一般病院で働く医師の地理的偏在の拡大が臨床医師の地理的偏在の拡大に影響した。しかし,2012年以降は臨床医師のジニ係数は減少に向かった。その減少には一般病院で働く医師の地理的偏在の低下が最も影響し,次に診療所で働く医師の地理的偏在の低下が影響した。
結論 日本の臨床医師の地域偏在は,2012年以降,2018年に向けて改善した。この改善には,一般病院の医師の地域偏在の改善が強く影響し,病院で働く医師の確保が図られ公平な分配に結びついたと評価できる。これは2008年前後の医師不足問題以降に策定された臨床医師の地理的偏在是正諸政策により,一般病院への医師の再分配が進んだと考えられる。また,診療所で働く医師の一貫した地理的偏在の改善は,都市部での地域間競争により地方への分配が促進された。
キーワード 臨床医師,地理的偏在,2次医療圏,ジニ係数,地域保健医療計画,医療計画