論文
第69巻第11号 2022年9月 国民健康保険制度改革が医療費適正化と
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目的 本稿の目的は,国保における都道府県単位化と保険者努力支援制度の導入が市町村の医療費適正化と予防・健康づくりにどのような影響をもたらすのかについて,都道府県と市町村の階層構造を考慮しながら実証分析を行い,明らかにすることである。
方法 分析対象は,医療費が高額とされる中国地方,四国地方と九州地方の都道府県および市町村である。分析に使用する主要なデータは,国民健康保険の実態から医療費の3要素,人口動態統計特殊報告平成25年~平成29年人口動態保健所・市区町村別統計から死亡率,保険者努力支援制度交付基準から設定された各指標である。被説明変数には,医療費の3要素である受診率,1件当たり日数および1日当たり費用額又は死亡率を採用した。説明変数は,保険者努力支援制度における市町村の12の指標と都道府県の3つの指標に加え,被説明変数に影響を及ぼす社会的要因と地域的要因をコントロールするために,人口密度,15歳未満人口割合や課税対象所得等を投入した。また,推定には,都道府県と市町村の階層構造を考慮するため階層線形モデルによる分析を行った。
結果 被説明変数を受診率とした場合の推計結果は,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標で有意にマイナスであった。1件当たり日数では,市町村指標のうち3つの指標で有意にマイナスであった。次に,1日当たり費用額では,2つの市町村指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。最後に,死亡率については,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。
結論 推定結果を総合的に解釈すると,保険者努力支援制度交付金の交付基準として設定されている市町村指標は医療費適正化に対して一定の効果を発揮し,都道府県指標は死亡率との関連性が観察された。また,死亡率と関連のあった指標は,都道府県から市町村への積極的関与を含み,指導・助言を行うこと等であった。一方で,すべての指標が効果を発揮しておらず,指標として適正であるのかについて証拠に基づく政策立案という観点から検討する必要性が示唆された。
キーワード 国民健康保険,都道府県単位化,保険者努力支援制度,階層構造