論文
第69巻第12号 2022年10月 児童養護施設を経験した若者の
石田 賀奈子(イシダ カナコ) |
目的 幼少期逆境体験(Adverse Childhood Experiences,以下,ACEs)は成人後の健康や貧困に関連する。本研究では,児童養護施設を退所した若者のACEsの実際を把握し,彼らのACEsにどのような要因が作用しているのかを明らかにする。ACEsがどのような要因によって高く示されるのかを明らかにすることによって,児童養護施設を退所した若者のケアについての提言を試みることを目的として実施した。
方法 全国605カ所の児童養護施設に,①2019年3月31日または②2020年3月31日の時点で,高校3年生だった者について回答してもらう調査票を郵送した。質問項目は基本的属性,ACEs,およびポジティブな子ども時代の体験(Positive Childhood Experiences,以下,PCEs)に関連するものであった。調査時期は,2020年11月から2021年1月末とした。605施設のうち,187施設から回答を得た。分析方法は,ACEs得点と2変数間のクロス集計と決定木分析を行った。
結果 844名の若者に関する回答が得られた。性別は,男性427人(51.2%),女性407人(48.8%)であった。何らかの障害があるのは254人(30.2%)で,そのうち,知的障害が最も多く,161人(63.4%)であった。退所から現在までに経験したことを尋ねた項目では,卒業時と同じ事業所で働いている者が最も多かったが,退職や転職のほか,無職の状態や生活保護受給の経験といったネガティブな出来事を経験している者もいた。また,ACEs得点を2群に分けたとき,ハイリスク群が55.3%と非常に高い割合を示した。クロス集計の結果,ACEs得点が高い若者ほど家庭復帰は困難であること,無職を経験していること,入所前に他の社会的養護を経験しておらず,年齢が高くなってからの入所であることが明らかとなった。決定木分析では,「自宅や学校の近隣で,暴力を見たり,聞いたりしたことがあるか」「施設入所時の虐待加算の有無」「母の精神疾患の有無」「児童の性別」がACEsの高い群の特徴であると示された。
結論 本研究の結果,退所後2年以内に状況が大きく変わることへの対応が必要であること,女児のほうが強い逆境体験を有していることが示唆された。児童福祉法改正により,今後は18歳の誕生日で支援を途絶えさせることのないよう切れ目のない支援が求められる。どのような経験を持つ若者が18歳以降にハイリスクな状態につながりやすいのかを把握し,児童養護施設だけではなく,他の様々な社会資源とともに,成人後の支援を充実させることが求められる。
キーワード 社会的養護,児童養護施設,アフターケア,幼少期逆境体験(ACEs),決定木分析