論文
第69巻第12号 2022年10月 離島市町村における自殺死亡の現状と
波名城 翔(ハナシロ ショウ) |
目的 日本の自殺者数は平成10年代のピーク時から,近年右肩下がりで減少傾向にある。離島市町村においては自殺死亡率の低さが報告される一方で,自殺死亡率の高い離島市町村も存在することが報告されている。本研究では,離島市町村の自殺死亡の現状と社会生活指標との関連を明らかにし,今後の自殺予防対策としての基礎資料を得ることを目的とした。
方法 研究対象地域は,橋などで本土とつながっていない離島63市町村(8市31町24村)を対象とした。平成20年から同30年までの人口動態調査死亡票のデータから,離島市町村の自殺EBSMRを作成した。市町村別の自殺EBSMRの分布を確認するとともに,人口規模4区分別,男女別の自殺EBSMRの違いを検討した。また,自殺死亡率と社会生活指標についてSpearmanの順位相関分析を行った。
結果 離島63市町村の対象期間11年間の自殺者の総数は,1,587人であった。人口10万対自殺死亡率の推移では,段階的に自殺死亡率は低下傾向にあるが,全国との比較では男性が高く,女性は低く推移していた。人口規模別にみた自殺EBSMRの中央値は,男女とも「5,001人以上10,000人以下」で有意に高かった。都道府県単位では,すべての市町村で自殺EBSMRが100以下の都道府県がある一方で,低率市町村と高率市町村が混在する都道府県もみられ,①人口規模の大きい「市」,②小規模離島が周辺にある中規模以上の市町村,③複数の市町村で構成される島では自殺EBSMRが高くなることが考えられた。また,社会生活指標との関連では男性は離婚率と年少人口割合,病院病床数が正の相関を示し,女性は病院数,病院病床数が正の相関を,診療所数,医師数で負の相関を示した。
結論 離島市町村における自殺死亡率は,市町村の規模や人口の移動,複数市町村で構成されるなどの影響や男性の自殺死亡率の高さが強く影響されると考えられた。男性はコミュニティのつながりと都市化,女性は診療所,医師数などの身近な医療関連指標が関係することが推察された。
キーワード 離島市町村,自殺EBSMR,人口動態統計,社会生活指標