論文
第69巻第12号 2022年10月 COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴-パネルコホート研究を用いた2019年度と2020年度の比較-松本 宗賢(マツモト ムネノリ) 李 响(リ ショウ) 焦 丹丹(ジャオ ダンダン)張 瑾睿(チャン ジンルイ) 王 妍霖(オウ エンリン) 乾 美玲(ガン メイリン) 朱 珠(シュ シュ) 朱 言同(シュ ヤントン) 劉 洋(リュウ ヤン) 崔 明宇(サイ ミンウ) Ammara Ajmal(アマラ アジュマル) Yolanda Graça(ヨランダ グラサ) Alpona Afsari Banu(アルポナ アフサリ バヌー) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡邉 多恵子(ワタナベ タエコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ) |
目的 本研究は筆者らが1998年より継続している,北海道から沖縄まで全国の延べ667カ所の保育園,こども園,幼稚園に在籍する0歳から6歳までの園児の保護者と保育専門職によるパネルコホート調査の2019年度調査と2020年度調査データの比較を行い,2020年度のCOVID-19感染拡大下の育児環境の特徴を明らかにすることを目的とした。
方法 対象は,全国の保育園,こども園,幼稚園(9カ所)に在籍する,0歳から6歳までの園児の保護者とし,2019年11月13日~12月31日と2020年11月16日~12月31日に調査を行った。調査は,各園より保護者に依頼し,紙面またはオンラインで回答を得た。保護者には育児環境に関する10項目,育児サポートとして育児の相談者や支援者の有無等3項目,保護者の特性として育児に対する自信,ストレスの程度,子どもの特性として年齢,性別,きょうだいの有無,子どもの社会適応として園生活への適応について調査した。分析は,COVID-19感染拡大による影響を検討するため,各項目について,感染拡大前の基準年(2019年度)調査データと感染拡大後の2020年度調査データの変化を検討した。次に,保護者の不適切な行為と関連する要因を他の項目の影響を互いに調整した上で検討するため,性別と年齢,きょうだいの有無を調整した,子どもをたたく頻度を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。独立変数としては,子どもをたたく頻度と基準年のそれ以外の項目とのχ2検定を行った。
結果 2019年度に比べて2020年度では,育児環境に関する人的かかわり領域の「家族で食事をする機会が乏しい」の割合が有意に減少し,「本を読み聞かせる機会が乏しい」「一緒に歌を歌う機会が乏しい」「配偶者の育児協力の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。制限や罰の回避領域の「子どもをたたく頻度」の割合は,2019年度21.0%,2020年度18.6%と有意に減少していた。また,2019年度に比べて2020年度では,社会的かかわり領域の「公園に連れていく機会が乏しい」「知人との交流の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。育児サポートでは,2019年度に比べて2020年度は,「育児支援者がいない」「配偶者と子どもの話をする機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。さらに,子どもをたたく頻度の関連要因として,保護者の「子どもの誤りへの不適切な対応」と「育児に対する自信がない」ことの2項目が明らかとなった。
結論 COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴として,2019年度に比べて2020年度では「家族で食事をする機会」が示す子どもの保護者と過ごす機会が増加し,「公園に連れていく機会」「知人との交流の機会」が示す社会的かかわり,および「育児支援者」が減少した。また,先行研究で保護者のストレスとの関連が確認されている「保護者が子どもをたたく頻度」が,COVID-19感染拡大下では減少し,保護者のストレスとの関連は確認されなかった。
キーワード COVID-19,生活の変化,育児環境,育児サポート,育児意識,パネルコホート調査