論文
第69巻第13号 2022年11月 沖縄長寿の神話-戦前・戦後を通じた沖縄県民死亡率のコホート分析-岡本 悦司(オカモト エツジ) |
目的 沖縄県男性の平均寿命は1980~85年に全国一となり「健康長寿県」のイメージが定着したが,その後は急落し,最新の2015年生命表では36位である。戦前においても沖縄県は決して長寿県ではなく,沖縄県男性の長寿化は戦後35~40年の一時的な現象であった。その原因として,1945年の沖縄戦による選択的生存仮説すなわち「戦争による犠牲の大きかった世代ほど,戦後の生存率がよかったのではないか」という仮説をたて,戦前戦後の人口統計や生命表を用いて検証した。
方法 戦前と戦後に琉球政府によって実施された国勢調査ならびに生命表より沖縄戦前後の相対生存率を出生コホート別に推計し,コホート別の戦後の標準化死亡比(SMR)との相関を評価する。
結果 沖縄県男性について沖縄戦前後の相対生存率と戦後の標準化死亡比とを出生コホートごとに比較したところ,正相関(R2=0.34)がみられた。すなわち,沖縄戦前後で相対生存率の低い(=戦争による犠牲が大きい)世代ほど,戦後の標準化死亡比が低い(=死亡率が低い)傾向がみられた。女性についてはそのような正相関はみられなかった。
結論 戦争による犠牲の多い世代ほど,生き残った者の戦後の死亡率は低い傾向がみられた。沖縄戦は3カ月以上に及ぶ過酷な戦闘であり,強い生命力を有する者だけしか生存できない,いわゆる「選択的淘汰」が働いたと考えられる。戦後35~40年に沖縄県男性の平均寿命が一時的に全国1になったのは,食生活やライフスタイルの影響ではなく,沖縄戦による一時的な効果であったと考えられる。
キーワード 沖縄県,コホート効果,選択的生存,標準化死亡比,生命表