論文
第69巻第15号 2022年12月 精神障害者保健福祉手帳の等級と
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目的 精神障害者保健福祉手帳所持者が,国際連合の国際障害統計ワシントン・グループ(以下,WG)の指標にどのように回答するかを明らかにすることを目的とした。
方法 長野県飯山市(人口約2万人)において,全障害者手帳所持者1,221名(身体867名,療育154名,精神200名)を対象に令和2年11月,質問紙法調査を郵送法により実施した。短い質問群全6項目(WG-SS:「見ること」「聞くこと」「移動」「コミュニケーション」「記憶・集中」「セルフケア」)に加えて,短い質問群拡張版(WG-SS Enhanced)から4項目(「不安」「憂うつ」の頻度と程度)の結果を分析した。
結果 589名(48.2%)(身体407名,療育75名,精神80名,重複19名,不明8名)から回答を得て,精神障害者保健福祉手帳所持者80名のうち等級を回答した75名を解析対象とした。①WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」であった者は21.4%であった。6項目のうち最も多く「障害あり」と判定されたのは「思い出したり集中すること」で,「全くできない」0%,「とても苦労する」17.3%であった。②WG-SS Enhancedの「不安」の頻度への回答では,「毎日」45.3%,「週に1回程度」20.0%であり,「憂うつ」の頻度は,「毎日」37.3%,「週に1回程度」20.0%であった。精神障害者保健福祉手帳1級所持者は2級所持者に比べて,WGの「不安」および「憂うつ」の頻度を「毎日」と回答した者は少なかった。③WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」を選択した者,または,「不安」の頻度または「憂うつ」の頻度で「毎日」または「週に1回程度」を選択した者の合計は70.7%であった。
結論 本研究では,WG-SS6項目だけでは精神障害者保健福祉手帳所持者の約2割しか「障害あり」と判定しなかったが,WG-SS6項目に「不安」の頻度と「憂うつ」の頻度を加えた合計8項目では精神障害者保健福祉手帳所持者の約7割を「障害あり」と判定した。WGの指標をわが国で使用する場合には,WG-SS6項目に「上肢」2項目,「不安」2項目,「憂うつ」2項目を加えたWG-SS Enhanced(合計12項目)を使用することを提案し,令和4年生活のしづらさなどに関する調査(厚生労働省)では採用された。また,WGの指標では「障害あり」と判定されることもある障害者手帳非所持の高齢者がどの程度いるかを,高齢者を対象とする調査で確認しておくことが望ましいと考えられた。
キーワード 国際障害者統計,ワシントン・グループ,生活のしづらさなどに関する調査,国民生活基礎調査,精神障害