論文
第70巻第4号 2023年4月 熊本地震被災者の中長期的メンタルヘルスの実態と関連要因-コロナ禍からの復興-大河内 彩子(オオコウチ アヤコ) 何 慕(カ モ) 佐美三 知典(サミソ トモノリ) |
目的 熊本市で最大11万人が避難した熊本地震の発災後5年となった。しかし,東日本大震災では復興期に睡眠障害および心理的苦痛となる割合が増加したことから,熊本地震被災者についても同様の状況が危惧され,熊本地震の被災者の健康や生活における中長期的影響の評価が必要である。さらに,熊本地震では復興期に新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)パンデミックが生じた。よって,コロナの影響を含めて,仮設住宅退去後の熊本地震被災者の生活状況とメンタルヘルスリスクとの関連を精査し,今後の支援に役立てることを目的とした。
方法 仮設住宅を退去した熊本地震被災者のうち熊本市内居住18歳以上の者全数を対象とし,11,479世帯に調査票を配布し,郵送回収した。データ収集期間は2020年7-12月とし,回答のあった8,966人のデータを分析した。調査項目は,属性,現在の住まい・生活習慣・社会関係・コロナによる変化,メンタルヘルスリスク(要支援基準該当の有無,心理的苦痛,不眠症,PTSDリスク)である。独立性の検定後,メンタルヘルスリスクの有無を従属変数としオッズ比と95%信頼区間を用いたロジスティック回帰分析を行った。
結果 ロジスティック回帰分析の結果,現在の住まいが公営住宅,孤独感あり,コロナによる活動機会減少が心理的苦痛・睡眠障害・PTSDリスク・要支援基準(熊本市が支援を必要と考える基準)のすべてに関連していた。中でも孤独感ありのオッズ比が最も高かった。また,女性は要支援基準を除いた,すべてのメンタルヘルスリスクに関連していた。
結論 東日本大震災後の社会的孤立者の全死亡リスクの増加もあり,孤独感との関連について今後精査が必要である。女性との関連では,性差への配慮が必要である。現在の住まいの形態との関連は,東日本大震災の復興公営住宅居住者ほど心理的苦痛が高い傾向だったのと同様であり,つながりづくりが求められる。最後にコロナという新たなストレッサーに配慮した支援が求められる。
キーワード 熊本地震,新型コロナウイルス感染症,メンタルヘルス,孤独,女性,現在の住まい