論文
第70巻第4号 2023年4月 家族エンパワメント尺度短縮版の作成佐藤 伊織(サトウ イオリ) 藤岡 寛(フジオカ ヒロシ)松澤 明美(マツザワ アケミ) 涌水 理恵(ワキミズ リエ) |
目的 家族エンパワメントは,何か目前の課題がある場合に家族が自分たちのおかれた状況に気づき,問題を自覚し,自分たちの生活の調整と改善を図る力をつけることを目指すことと定義される。家族エンパワメント尺度(FES)は,障がいのある子どもの主たる養育者が回答する自記式尺度であり,日本を含む世界各地の研究で使用されているが,34項目と項目数が多く,多忙な養育者へ回答を求めるには負担がある。そこで,FESの短縮版を作成し,信頼性および妥当性を検討した。
方法 在宅重症心身障害児の家族を対象とした既存のデータセット(N=561)を用いて項目反応理論(段階反応モデル)により10項目の短縮版を作成した。項目削減プロセスにおいては研究者間で項目内容の検討・議論を行い,全項目版で担保されている内容的妥当性の維持につとめた。情緒・発達障がいのある子どもの主養育者を対象とした別のデータセット(N=204)を用いて,10項目でのCronbachのα係数,再テストの級内相関係数(ICC),FES34項目総合得点との相関係数を算出した。確認的因子分析を行い,一因子モデルの適合度を算出した。
結果 識別力の高い10項目を選択できた。Cronbachのα係数は0.887,ICCは0.737,FES34項目総合得点との相関係数は0.937であった。修正指標に基づき共分散パスを引いた一因子モデルの適合度指標は,χ2値が66.4(自由度=28,p=0.000),RMSEAが0.048,CFIが0.98であった。
結論 FES日本語版の10項目短縮版を,項目反応理論により作成し,内的一貫性・再検査信頼性・基準関連妥当性・構成概念妥当性を確立した。FES10項目短縮版の合計得点はFES総合得点と同様に家族エンパワメントの高さの指標として利用可能である。家族エンパワメントを詳しく査定するために3つの下位尺度得点を算出したい場合は,短縮版でなく元の34項目版を利用すべきである。
キーワード 親,介護者,家族エンパワメント,家族看護,尺度開発,障がい児