論文
第70巻第12号 2023年10月 高齢者介護施設における理念浸透の実態-一般介護職員の理念浸透の構造と離職意向との関係-種橋 征子(タネハシ セイコ) |
目的 本研究は,一般介護職員の理念浸透の構造および理念浸透と情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい,離職意向の関係性を明らかにすることを目的とした。
方法 開設から5年以上経過した4府県の小規模多機能型居宅介護事業所と3府県の特別養護老人ホームの一般介護職員を調査対象とし,質問紙調査を実施した。理念浸透の構造を明らかにするために先行研究を基に「理念浸透モデル」を措定し,共分散構造分析を行い,モデルの適合度と各因子間の関係性を確認した。さらに,理念浸透が一般介護職員の組織に対する認識に及ぼす影響を明らかにするために,「理念浸透モデル」と一般介護職員の情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい,離職意向との関係について共分散構造分析を行い,適合度と各因子間の関係性を確認した。
結果 「理念浸透モデル」について共分散構造分析を実施した結果,「制度化」は「内面化」よりも「共感」に及ぼす影響の方が大きく,「共感」の方が「内面化」を促進することが明らかになった。「上司の態度」は「内面化」に直接の影響はなかったが,「同僚の態度」は「内面化」に直接影響を及ぼすという結果となった。また,離職意向に負の影響を及ぼす「仕事のやりがい」には,「情緒的組織コミットメント」「同僚の態度」が直接影響を及ぼしていた。
結論 高齢者介護施設における一般介護職員の理念浸透の構造および理念の制度化が一般介護職員の情緒的組織コミットメントや仕事のやりがいを向上し,離職意向を低減する効果があることが明らかになった。そして,上司(リーダー)よりも身近で,共に理念を反映した利用者支援にあたる同僚や先輩の存在が一般介護職員の理念の内面化や仕事のやりがいに影響を及ぼすことが示された。
キーワード 理念浸透,理念の制度化,介護職員,離職意向,情緒的組織コミットメント,仕事のやりがい