論文
第70巻第13号 2023年11月 児童相談所への虐待通告の地域差-都道府県単位の人口密度を用いた分析-松田 昌史(マツダ マサフミ) 奥村 優子(オクムラ ユウコ) 小林 哲生(コバヤシ テッセイ)樋口 大樹(ヒグチ ヒロキ)
|
目的 児童虐待の通告件数には地域差があり,都市ほど通告が多いと指摘されている。ただし,先行研究では質的な区分を用いて都市が定義されていた。本研究では,都市の数量的定義として人口密度を用い,先行研究の知見を検証する。つまり人口密度の高い都道府県ほど虐待通告件数の多いことを実証する。
方法 「令和2年国勢調査」から人口密度および「令和2年度福祉行政報告例」から児童虐待通告件数を取得し,都道府県を単位とした相関係数を求めた。通告件数の分析にあたっては各都道府県人口10万人当たりの数値とした。
結果 都道府県ごとの児童虐待通告件数と人口密度には有意な正の相関係数があり(r=0.66,p<0.001),人口密度の高い都道府県ほど児童虐待通告件数の多いことが確認された。また,通告元による違いを分析したところ,「警察」(r=0.63,p<0.001),「近隣・知人」(r=0.69,p<0.001)からの通告は人口密度と強い相関があった。一方,「児童相談所」(r=0.31,p<0.05)は比較的相関係数が小さくなり,「学校等」(r=0.15,ns)からの通告は人口密度との有意な相関を示さなかった。通告元によって人口密度との関係が異なることが示唆された。
結論 人口密度の高い地域ほど児童虐待通告件数の多い説明として,2つの仮説を提唱する。「発見しやすさ」仮説は,人口密度の高い地域は近隣家庭との物理的距離が近いため,児童虐待の現場を目撃したり,物騒な物音を聞いたりする可能性が高く,結果として児童虐待が通告されやすくなると考えるものである。「心理的要因」仮説は,児童虐待への意識や閉鎖的コミュニティにおける通告への忌避感などの心理的傾向が人口密度によって異なり,都市ほど防止意識が高く,通告忌避が起きにくいと考えるものである。これらの仮説については,今後の検証が待たれる。
キーワード 児童虐待,人口密度,通告,国勢調査,福祉行政報告例