論文
第70巻第13号 2023年11月 育児中の母親の生活習慣と育児に関する
縞谷 絵理(シマタニ エリ) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ) |
目的 生活習慣病の発症には性差とライフステージが関連し,特に育児中の母親は,望ましい生活習慣の維持が難しいと報告されている。育児中の母親を対象とした健康増進のための支援は限られており,母親の生活習慣と情緒的支援,手段的支援などの関連を明らかにした研究はほとんどない。そこで,本研究では,母親の生活習慣と育児に関する情緒的支援,手段的支援の関連を明らかにすることを目的とした。
方法 関東圏内の保育所と幼稚園の合計10施設に子どもを通所・通園させている母親1,309人を対象に,2016年6~7月に無記名自記式質問紙調査を行った。生活習慣の測定には,日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(HPLP)を用い,育児に関する情緒的支援,手段的支援との関連を検討するため,年代,家族構成,子どもの人数,就業状況を調整変数として,強制投入法による重回帰分析を行った。
結果 485票(有効回答率37.1%)を分析対象とした。対象者は,30歳代が63.3%であり,HPLP得点の平均値は2.5点であった。育児に関する情緒的支援については,家事・育児の相談相手がいると回答した割合は95.3%であった。手段的支援では,夫の育児参加,子どもの体調不良時に子どもの世話をしてくれる存在,自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在は,いずれも「時々している」「時々いる」と回答した割合が50.1%,47.0%,51.5%と最も多かった。重回帰分析の結果,HPLP得点には,育児ストレスが少ないこと(β=-0.18,p<0.001),育児不安が少ないこと(β=-0.13,p=0.006),家事・育児の相談相手がいること(β=0.23,p<0.001),夫の育児参加があること(β=0.08,p=0.046),自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在がいること(β=0.08,p=0.035),が関連しており,調整済み決定係数は0.225であった。
結論 母親の健康増進に向けた生活習慣には,育児ストレスの少なさ,育児不安の少なさ,家事・育児の相談相手がいること,自分の体調不良や受診時に子どもの世話をしてくれる存在がいることが関連していた。母親のよりよい生活習慣を支援するためには,家事と育児に関する相談相手を確認すること,母親の体調不良や受診のための支援が重要であることが示唆された。
キーワード 母親,生活習慣,健康増進,情緒的支援,手段的支援