論文
第70巻第13号 2023年11月 母子世帯における母親の身体的・精神的健康の現状-「2017年北海道ひとり親家庭生活実態調査」の二次分析-江 楠(コウ ナン) 鳥山 まどか(トリヤマ マドカ) |
目的 母子世帯の母親はひとりで経済的,仕事や子育てにおける葛藤を抱え,健康に問題が生じやすいと考えられる。母子世帯の母親の健康問題を明らかにすることは,子育て・就労・経済,また健康維持のための支援策の構築にとって意義がある。そこで本研究では,母子世帯の母親の身体的・精神的健康の現状を確認することを目的とした。
方法 「2017年北海道ひとり親家庭生活実態調査」のデータを用い,二次分析を行った。調査期間は平成29年8月1日~8月31日である。札幌市を除く北海道全域で児童扶養手当を受給しているひとり親世帯に質問紙を郵送し回収した。調査票は母子世帯へ3,995票配布し,有効回答票数は1,904票であった(回収率47.7%)。本研究は祖父母等と生計同一ではない母子世帯1,558を分析対象とした。調査項目のうち,「母親の年齢」,社会経済状況として,「就労」「家計状況」「貯金」「学歴」,身体的健康として,「母親の現在の健康状態等」,精神的健康として,「調査時点から過去1カ月の間の母親の心の状態」を用いた。母親の年齢と社会経済状況の項目ごとに,身体的・精神的健康をクロス集計により確認した。心理的ストレスK6得点の10点以上を精神的健康が不調とした。
結果 母子世帯の母親の年齢が高くなるほど,身体的健康に問題を抱えている割合が高かった。経済状況が厳しいほど,働いていない母親,また「中学卒業」と「高校中退」の母親の方が身体的健康に問題を抱えている割合が高く,K6得点が10点以上である割合が高い傾向にあった。2019年国民生活基礎調査における女性より,北海道の母子世帯の母親は身体的健康に問題を抱えている人がより多く,K6得点が高かった。とりわけ,北海道の母子世帯の母親は年齢層がより若い世帯,また社会経済状況と身体的・精神的健康がよりよい層においても,2019年国民生活基礎調査における女性と比べて,身体的健康に問題を抱え,精神的健康も不調の傾向がみられた。
結論 母子世帯における社会経済状況が不利な状況であり,かつ身体的・精神的健康が不調という困難が重なっている母親が一定数存在することを確認できた。ひとり親世帯に対する今後の施策では,母子世帯の母親へのより一層の健康のケアや子育て・就労・経済的支援の必要性がある。また,家族や友人によるソーシャルサポートや育児・家事サービスの利用によって,身体的な負担を軽減し,母親の精神的健康を維持する必要がある。
キーワード 北海道ひとり親生活実態調査,母子世帯,社会経済状況,身体的健康,精神的健康