論文
第70巻第13号 2023年11月 生活実態調査を用いた小・中学生の抑うつに関する分析-学校生活と子どもの抑うつとの関連に注目して-近藤 天之(コンドウ タカユキ) 加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 石塚 一枝(イシツカ カズエ) 阿部 彩(アベ アヤ)
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目的 わが国における子どもの抑うつ研究は,家庭関係という視点からの研究成果が蓄積されている一方で,子どもが多くの時間を過ごす学校に関連する要因に注目した研究は極めて少ない。本研究では東京都および広島県の子どもの生活実態調査を利用し,小学5年生および中学2年生の抑うつ症状の社会人口学的要因を明らかにするとともに,学校生活に関する調査項目と子どもの抑うつ症状との関連に焦点を当てて分析を行った。
方法 大規模調査である「子どもの生活実態調査」から作成した小学5年生とその保護者(n=16,350),中学2年生とその保護者(n=14,927)のデータセットデータを分析に使用した。抑うつの評価には,抑うつ自己評価尺度(DSRS-C)を用いた。分析では,子どもの抑うつに関する社会人口統計学的データを示した上で,学校生活を「友人関係」「教師との関係」「部活動」「学校の授業」の4つの側面に分け,それぞれの側面を表す変数と抑うつとのクロス分析を行い,関連性を検討した。
結果 小学5年生は全体の14%(男子13%,女子14%)が,中学2年生は全体の23%(男子20%,女子25%)が抑うつ群であるという結果となった。学校生活との関係について,「友人との交流が少ない」「いじめを受けた経験がある」「先生と会うことが楽しみでない」「部活動に参加していない」「部活動が楽しみでない」「学校の授業が楽しみでない」「授業理解度が低い」子どもについて,抑うつ群の割合が有意に高いという結果を示した。
結論 学校生活と抑うつの関係については,おおむね先行研究と一致する結果であったと確認できた。また,学校生活の中でも特に,友人との関係の悪さ・希薄さが抑うつと強い関連をもち,その傾向は男子より女子のほうが,小学5年生より中学2年生のほうがより顕著であることが示唆された。教師との関係についても,友人関係ほど強くないが子どもの抑うつに与える影響が示唆された。本研究の限界として,学校生活と抑うつとの関連を再確認できたものの,横断研究であるため因果推論が難しい。抑うつの時系列的な変化を観測し要因を特定するためには,コホート調査の実施が重要である。
キーワード 学校,抑うつ,小学生,中学生,思春期,子どもの生活実態調査