論文
第71巻第2号 2024年2月 健康寿命の延伸と健康づくり事業実施量との関係性-基礎自治体を対象とする生態学的研究-友澤 里穂(トモザワ リホ) 細川 陸也(ホソカワ リクヤ) |
目的 健康寿命の地域差を説明する要因として,基礎自治体(市区町村)の健康づくり事業の取り組み状況の差異については十分に検討されていない。本研究では,健康寿命の経年的な変化量と健康づくり事業の事業実施量との関連性について検討した。
方法 全国1,726カ所の基礎自治体を分析対象とする生態学的研究を実施した。2015年から2020年まで6年間分の男女別の65歳時健康寿命(要介護2以上を不健康期間とする「日常生活動作が自立している期間の平均」)を用いて,分散の逆数を重みとする重み付き線形回帰直線を自治体ごとに算出した。この回帰直線の傾きを健康寿命の変化量として目的変数とし,健康づくり事業(特定健診・特定保健指導・介護予防普及啓発事業・介護予防活動支援事業)の事業実施量を説明変数,2015年時健康寿命と自治体の特徴(75歳以上人口割合・可住地人口密度・1人当たり課税対象所得額)を調整変数とする重回帰分析を実施した。
結果 全国の健康寿命の変化量は,男性で0.118(標準誤差(SE)=0.001,p<0.001),女性で0.104(SE=0.001,p<0.001)であった。また分析対象の自治体ごとに算定したところ,男性の健康寿命の変化量が正であった自治体は82.7%,女性の健康寿命の変化量が正であった自治体は77.6%であった。重回帰分析の結果では,男性では特定健診(標準化回帰係数(β)=0.132,p<0.001),特定保健指導(β=0.096,p<0.001)の事業実施量が健康寿命の変化量と正の関連を示し,女性では健康寿命の変化量と特定保健指導(β=0.097,p<0.001),介護予防活動支援事業(β=0.045,p=0.033)の事業実施量が正の関連を,介護予防普及啓発事業(β=-0.059,p=0.005)の事業実施量が負の関連を示した。
結論 男性では特定健診・特定保健指導,女性では特定保健指導・介護予防活動支援事業の事業実施量が多い自治体ほど健康寿命の延伸量も大きく,自治体の事業実施量の差異が健康寿命の延伸に関連している可能性が示唆された。しかし,その説明力は小さく,これら事業により健康寿命の延伸を達成するには,一定の事業実施量を確保していく必要があると考えられる。事業の質・過程などを考慮したさらなる分析が期待される。
キーワード 健康寿命,日常生活動作が自立している期間の平均,健康づくり事業,自治体