論文
第71巻第2号 2024年2月 墨田区保健所における保育園サーベイランスの活用
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目的 墨田区では2013年度に保育園サーベイランスシステムを区内すべての保育園において導入した。本研究では,導入後約9年間の保育園サーベイランスの活用状況について分析した。
方法 保育園では,毎日,症状,疾患診断別の欠席者数,また,保育中の発症についてシステム入力が行われる。入力情報は保健所,保育主管課,園医等で参照され,感染症の発生状況が関係者に伝達されるとともに日常的な指導等にも活用されている。2013年8月より2022年12月までを分析期間とし,評価の要素は,探知経路,対応方法,対応内容,疾患・症状,各保育園での通算対応回数,探知事例の患者数とした。新型コロナウイルス感染症に関しては,2020年以降の分析期間中,一例発生ごとに保育園から保健所に報告され,他の感染症とは扱いが異なるため検討の対象から除外した。
結果 保育園で発生した感染症の探知件数は,2014年度が最も多く,次いで2022年度が多かった。このうち,保育園サーベイランスで探知された割合は,2020年度を除き47~88%であった。対応方法として2013年度から2020年度までは訪問の割合は少なかったが,2021,2022年度は訪問の割合(それぞれ32%,18%)が増加した。対応内容は発生状況確認が最も多かった。疾患ではインフルエンザ,感染性胃腸炎,症状では嘔吐,下痢,発熱が多かった。全期間で対応を要する回数が10回以上であった保育園は全体の24%にみられた。探知事例の患者数は10人が最頻値であった。最大患者数56人の事例は2022年度に発生し,患者数が24人を超える事例は,すべて2022年度に発生していた。
結論 保育園サーベイランスで探知された割合は高く,これは保育園で流行が探知され保健所に連絡されるよりも先に,保健所が対応していることを意味している。症状と疾患の両面からサーベイランスを行い感染症の発生状況をモニタリングする症候群サーベイランスのアプローチが感染症の早期探知には有用である。2022年度は新型コロナウイルス感染症の流行が大きくなり,その対応が優先されたことから保育園サーベイランスによる探知,介入が遅れた可能性がある。保健所における保育園サーベイランスの活用の評価は厳密な意味では困難であるが,2022年度の集団発生の多さや,規模の大きさは逆説的に保健所における保育園サーベイランスによる早期探知,早期介入がいかに重要であるかを示していると考えられた。
キーワード 症候群サーベイランス,感染症,早期探知,集団感染,保育園児