論文
第71巻第3号 2024年3月 周産期における救急搬送先選定困難事案の
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目的 わが国の周産期医療提供体制は,比較的小規模な多数の分娩施設が分散的に分娩を担うという特徴を有している。総合母子周産期医療センターを中心とし,地域母子周産期医療センター,主に低リスク分娩を扱う一次分娩施設(一般病院,有床診療所(以下,診療所),助産所)が連携しあい,地域の周産期医療を担うという体制をとっている。その中でも,周産期医療提供体制を構築する上では,母子周産期医療センター(以下,周産期センター)が中心となり,24時間対応できる救急医療体制が求められている。しかし地方都市では,主にローリスク分娩を担っていた産科診療所の自然減により,周産期センターにハイリスク分娩だけでなく,ローリスク分娩も集中している。このことにより周産期センターへの負担が増え,救急搬送先選定困難事案(以下,選定困難事案)が発生している可能性がある。そこで診療所での分娩割合と選定困難事案の発生割合には負の相関がある(診療所での分娩割合が多いと,選定困難事案の発生割合が少ない)という仮説を立て,本研究を行った。
方法 2016年から2020年までの5年間に消防庁が実施した「救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査の結果」に基づき,一般住民から通報される救急要請における周産期救急搬送の現状を分析した都道府県レベルのエコロジカル研究を行った。アウトカムを選定困難事案の発生割合とし,診療所での分娩割合と関連をみるために重回帰分析を行った。調整変数として,15~49歳の女性人口割合,周産期センター数,MFICUとNICUの病床数を調整した。
結果 重回帰分析の結果,選定困難事案の発生割合と15~49歳の女性人口の割合には有意な正の関連(回帰係数=0.63,p<0.01),診療所での分娩割合には有意な負の関連(回帰係数=-0.05,p=0.02)を認めた。
結論 本研究では,選定困難事案の発生割合と診療所での分娩割合の関連をみた結果,負の関連を認めた。周産期救急搬送体制の中で,周産期センターが中心的な役割を果たさなければならないため,平時から周産期センターが受け入れをしやすい体制を整えていく必要がある。その解決策として,既存の診療所を利用することも有用かもしれない。
キーワード 周産期救急搬送,救急搬送先選定困難事案,診療所での分娩割合