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論文記事:協会けんぽレセプトを用いた1人当たり医療費の地域差分析 202405-03 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

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第71巻第5号 2024年5月

協会けんぽレセプトを用いた1人当たり医療費の地域差分析

-算出方法による差異の考察-

中村 さやか(ナカムラ サヤカ) 野口 晴子(ノグチ ハルコ)

丸山 士行(マルヤマ シコウ) 高木 俊(タカギ シュン)

目的 都道府県別の1人当たり医療費は医療の地域差を分析するための重要な基礎データであるが,先行研究では自営業者や高齢者等が被保険者となっている地域保険が対象とされ,職域保険における医療費の地域差はほとんど検討されていない。地域保険と異なり,職域保険では加入者の所属地域は自明ではなく,職域保険間の加入者の移動もある。そのため職域保険の地域別医療費の算出にはさまざまな方法が可能であり,正確性や外部妥当性の観点から算出方法の比較検討が必要である。そこで本稿では都道府県別1人当たり医療費の算出において,①医療費の帰着に勤務先の所在地(以下,支部)を使うのか居住地を使うのか,②対象となる医療費や母数となる受診者数の算出に年度内のどの時点を用いるのか,の2点に着目し算出方法の違いが及ぼす影響を検証する。

方法 令和元(2019)年度の全国健康保険協会(以下,協会けんぽ)加入者(約4000万人)の診療明細情報の個票を用い,協会けんぽの公表資料に用いられている方法を含む7つの方法で都道府県別1人当たり医療費を算出し,比較検討する。

結果 期中での資格喪失への対処や算出基盤を月次にするか年次にするか等による影響は比較的軽微である一方,集計を支部ベースで行うか,居住地ベースで行うかが都道府県別1人当たり医療費に一定の差をもたらすことが確認された。支部ベースの算出では1人当たり医療費が千葉・神奈川・埼玉・滋賀等の大都市周辺地域では居住地ベースよりも高くなり,逆に東京・大阪等では低くなる傾向が観察された。支部ベースか居住地ベースかで1人当たり医療費の順位にも変動がみられた。費目別の集計では,この支部ベースと居住地ベースの違いは外来において相対的に大きかった。これらの算出方法間の違いは,性・年齢調整を行うと縮小することが確認されたが,東京周辺地域など大都市圏では違いが残った。

結論 都道府県別の1人当たり医療費の分析に際しては,算出方法による差異は限定的であることが確認できたが,費目別では外来医療,地域別では東京周辺地域など大都市圏に関しては算出方法による差異に注意が必要である。保険者の観点からは,その管理目的に照らして支部ベースでの算出値は一定の意義を有するが,医療費の地域差の解明を目的とした分析には居住地ベースのデータを用いることが最善である。何らかの理由で地域差の解明のために支部ベースの算出値を用いる場合には,次善の策として,居住地ベースとの差が縮小するよう,性・年齢調整を行ったデータを使用することが推奨される。

キーワード 協会けんぽ,診療報酬明細情報,1人当たり医療費,医療費の地域差,性別・年齢階級による調整

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