論文
第71巻第6号 2024年6月 ポジティブ心理学に基づく幸福感を高めるための
|
目的 介護従事者の不足懸念の払拭や,よりよいケアの質を保つためにも,介護従事者がいきいきと幸せに働ける職場環境の整備が必要である。よりよく生きること,繁栄や幸せを探求する学問であるポジティブ心理学は,医療や看護の現場にも応用されており,介護現場においても有用と考えられる。本研究の目的を,ポジティブ心理学の知見から介護従事者の幸福感を高める研修プログラムを構築し,全6回の各回研修前後の幸福度の変化を検討することとした。
方法 ポジティブ心理学や幸福学で幸福感を高めるとされる行動の中で,仕事に生かすことができ,特に介護の仕事に有用と考えられる項目を研修内容として選定し,プログラムを構築した。研修は全6回で,3つの介護事業者に対して,1年4カ月~1年9カ月かけて実施した(途中,新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から中断あり)。研修プログラム開始1カ月前に,研究対象者へのアンケート調査を実施し,対面により研修を開始したが,コロナ禍で中断後,動画視聴やオンラインに切り替えた。研修に参加した全84名を対象とした「対象1」と,研修全6回すべてに参加した29名を対象とした「対象2」の2つの対象において,各回研修前後の幸福度の変化を,対応のあるt検定で分析した。幸福度の測定には,主観的幸福の総合指標として人生満足度(Satisfaction With Life Scale:SWLS)と,幸せの4つの因子の質問を用いた。
結果 各回研修実施前後の幸福度の変化について,人生満足度は「対象1」では第1回から第6回それぞれについて研修後で有意に高く,「対象2」では,第1回,第2回,第4回,第6回について有意に高かった。幸せの4つの因子については,「やってみよう!」因子と「なんとかなる!」因子は,各回研修後に高まっている回が多かったが,「ありがとう!」因子と「ありのままに!」因子は,研修回により異なる傾向がみられた。
結論 幸福感が高い人は,健康で生産性も高く,離職も少なく,良い結果を産み出すとされており,幸福感を高めるとされる行動や考え方に関する研修を実施し,介護従事者の幸福感を高めることで,辞めることなく幸せにいきいきと働ける可能性を示唆した。
キーワード 介護従事者(介護職員),ポジティブ心理学,幸福感,職員研修,サティスファクション・ミラー