論文
第71巻第8号 2024年8月 COVID-19に対応した行政職員の
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目的 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)のパンデミックにおいて,日本では地方自治体が管轄する保健所が,パンデミックによる被害を抑える上で極めて重要な役割を果たした。一方で,COVID-19に対応する行政職員には過酷な労働環境によって心理的に大きな負荷がかかった。保健所の機能を維持するためには,職員が良好なメンタルヘルス状況を維持し,十分なパフォーマンスを発揮することが重要である。次のパンデミックや大規模な健康危機が発生することが懸念される中,COVID-19に対応した行政職員(以下,保健所職員)のメンタルヘルス不調とプレゼンティーズムの関連を調査し,今後の健康危機対応に生かすことを目的とした。
方法 2022年12月から2023年1月にかけてCOVID-19に対応した全国の保健所職員を対象にオンライン調査(Microsoft Forms)を用いて実施した。心理的負担は日本版バーンアウト尺度17項目で評価し,プレゼンティーズムはSPQ(Single-item Presenteeism Question)を用いた。解析は重回帰分析を用いた。倫理的配慮として,本研究は産業医科大学の倫理委員会の承認を得て実施した。
結果 1,612名の回答が得られた。プレゼンティーズムとしてパフォーマンス低下は全体平均で27.8%であった。バーンアウトとプレゼンティーズムは有意な関連を認めた。参加者全体をバーンアウトのスコアによって,バーンアウトなし,軽度,中等度,重度の4群に分けた結果,それぞれの群のプレゼンティーズムの平均値は17.6%,24.9%,29.8%,40.3%となり,いずれの群間においても有意な差を認めた。
結論 本調査によって,COVID-19に対応した保健所職員の一部はバーンアウトに陥り,強いプレゼンティーズムを呈していたことが明らかとなった。保健所職員は,見かけ上は働けていたとしても,実際には体調不良によってプレゼンティーズムをきたしており,パフォーマンスが低下した状態で勤務を継続していたことが示唆され,健康危機に対する保健行政にも影響が出ていたと考えられる。次の健康危機に対応するためには,平時からの職員のメンタルヘルス対策が必要であると考えられる。
キーワード 新型コロナウイルス感染症,COVID-19,保健所,健康危機,バーンアウト,プレゼンティーズム