論文
第71巻第8号 2024年8月 死亡前の介護保険制度利用状況に関する遺族の評価高橋 理智(タカハシ リチ) 中澤 葉宇子(ナカザワ ヨウコ) 宮下 光令(ミヤシタ ミツノリ) 山崎 里紗(ヤマザキ リサ) 小川 朝生(オガワ アサオ) |
目的 わが国の死因の大部分を占めるがん,脳血管疾患,心疾患,肺炎,腎不全で死亡した患者の死亡前の介護保険サービスの利用状況等を明らかにし,介護保険サービスを利用した場合の満足度に関連する要因を探索した。
方法 2017年,2018年にがん,脳血管疾患,心疾患,肺炎,腎不全のいずれかで死亡した患者を対象として,厚生労働省人口動態調査死亡票情報を用いて抽出した患者の遺族に,郵送法で無記名自記式の調査票を送付し,回答を得た。診断されてから死亡までの期間が3カ月以内であった場合および介護保険の対象外となる年齢の場合を除外した。年齢,死亡場所,疾患別に介護保険サービスの利用状況等を記述した。また,介護保険サービスを利用した場合の満足度に関連する要因について,ロジスティック回帰分析を行った。
結果 135,037名の遺族に調査票を送付し,そのうち43,940名が解析対象となった。死亡前6カ月間に介護保険サービスを利用していた患者の割合は,がん56.6%,脳血管疾患73.9%,心疾患71.1%,肺炎77.6%,腎不全78.8%だった。ロジスティック回帰分析の結果,満足度のオッズ比は,死亡場所では病院・診療所を基準とすると,介護老人保健施設・老人ホームで1.75(95%信頼区間,1.52-2.02),自宅で2.21(95%信頼区間,2.03-2.39)だった。死亡前1カ月間の日常生活活動度では,自立を基準とすると,一部介助,全介助でオッズ比は各々1.25(95%信頼区間,1.09-1.43),1.46(95%信頼区間,1.28-1.68)だった。また,死亡前1カ月間に支払った医療費・介護費が高くなるほど,満足度のオッズ比は減少しており,回答者のからだの健康状態が悪くても満足度のオッズ比は減少していた。回答者の介護負担については,負担感がない方が満足度のオッズ比が高かった。
結論 がんでは他の疾患よりも,死亡前の介護保険サービスの利用割合が低かった。しかし,がん以外の疾患での利用割合が現状で十分なのか不十分なのかは明らかではなく,満足度の関連要因を考慮しながら,今後の利用割合の推移を観察し評価していくことが必要である。
キーワード 緩和ケア,遺族,介護保険,がん,慢性疾患,満足度