論文
第71巻第11号 2024年9月 高齢ボランティアによる介護予防体操普及活動と
|
目的 人口減少,少子高齢化が進行するわが国では,生活の質の充実と健康寿命の延伸に向けて多くの地域で介護予防の取り組みが展開されてきたが,介護予防事業の評価として健康寿命を用いた十分な検討は見当たらない。栗盛らは健康寿命の1つである障害調整健康余命(DALE:disability adjusted life expectancy)について高齢者健康指標としての妥当性を報告している。そこで,本研究では高齢ボランティアによる介護予防体操普及活動と地域における健康余命との関連について検討し,高齢ボランティアによる体操普及活動の介護予防事業としての有用性を明らかにすることを目的とした。
方法 分析対象は,平成17年からシルバーリハビリ体操指導士養成事業を展開する茨城県全市町村(n=44)とした。分析項目とした体操普及活動指標は,事業開始15年経過時における65歳以上人口千人当たりの指導士養成人数,教室延べ開催数,教室参加指導士延べ人数,住民参加延べ人数とし,健康余命のデータは,性別ごとの平成27~31年(5年間)のDALEの平均値とした。茨城県44市町村における体操普及活動実績データ(指導士養成人数,教室延べ開催数,教室参加指導士延べ人数,住民参加延べ人数)は,茨城県立健康プラザから提供を受けた。茨城県44市町村の65歳以上人口は,茨城県の年齢別人口(茨城県常住人口調査結果)四半期報に公表されているデータを使用した。茨城県44市町村におけるDALEのデータは,「令和元年度47都道府県と茨城県44市町村の健康寿命(余命)に関する調査研究報告書」に報告されたものを茨城県立健康プラザから提供を受けた。分析は,市町村における15年にわたる各体操普及活動指標と5年間のDALEとの関連を検討するために,性・年齢階級別にSpearmanの順位相関係数により検討を行った。すべての統計処理には,SPSS(Ver.22.0 for Windows)を用いた。有意水準は5%に設定した。
結果 男性において65~69歳と70~74歳の階級では,教室延べ開催数および住民参加延べ人数とDALEの間には有意な相関が認められたが,その他の体操普及活動指標はDALEと有意な相関を示さなかった。
結論 前期高齢者の男性において,介護予防体操普及活動が地域における健康余命の延伸に寄与する可能性が示唆されたことから,高齢ボランティアによる体操普及活動が介護予防事業として有用であることが示された。また,健康寿命に影響する要因の男女の違いを明らかにすることで,その違いを踏まえた介護予防事業を効果・効率的に展開できると考えた。
キーワード 高齢ボランティア,介護予防,体操普及活動,障害調整健康余命,介護予防事業