論文
第71巻第11号 2024年9月 DPC制度が病院間・二次医療圏間の
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目的 2003年に「急性期の入院医療に対する新しい診療報酬制度(以下,DPC制度)」が導入された。DPC制度下では,医療資源を集約して多くの患者を短い在院日数で効率的に診療する病院が有利である。制度導入後DPC病院における患者分布にどのような変化が生じたのか,2012年から2019年にかけて各病院における入院患者数と病床利用率の変化を検討した。さらに,この変化に関連する要因を検討した。
方法 本研究の対象は,厚生労働省「DPC導入の影響評価に係る調査」の対象病院である。この調査で公表されている「退院患者調査」には,DPCコード10桁ごとに集計した各病院の退院患者数および平均在院日数が掲載されている。2012年度と2019年度のデータが存在する1,740病院のデータを結合し,さらに各病院の病床数,病院所在地の二次医療圏名,二次医療圏内の人口,病床数の情報を結合した。全DPCの総件数および総在院日数(平均在院日数に患者数をかけた数値)の経年変化を検討した。二次医療圏内の総件数・総在院日数のシェアの変化を,GINI係数を用いて検討した。最後に,これらの変化と関連する病院側要因および二次医療圏側の要因を検討した。
結果 2012年から2019年にかけて,対象病院における総件数の合計は14.8%増加したにもかかわらず,総在院日数の合計は0.5%しか増加しなかった。全DPCの総件数は約半数の病院で増加したが,約30%で減少した。全DPCの総在院日数は約30%の病院で増加し,約40%で減少した。全DPCの総件数・総在院日数のGINI係数は有意に増加した。大学病院本院,手術・処置あり件数の割合が高い病院,総件数/病床数比,総在院日数/病床数比が高い病院で総件数・総在院日数は増加しやすかった。総件数・総在院日数は人口が多い二次医療圏の病院ほど増加しやすく,医療圏内に1つしか病院がない場合は減少しやすかった。
結論 DPC制度導入後,特定の病院への患者の集中化がみられた。規模が大きい病院,手術や高度な処置を多く提供している病院,病床回転率や病床利用率が大きい病院では,総件数や総在院日数が増加しやすい。また人口が小さい医療圏では病院の規模が小さいため,他の医療圏に患者が流れやすい。今後も医療の高度化や在院日数の短縮化とともに,医療資源が豊富で急性期の診療機能が高い病院への患者のシフトが続くことが示唆された。
キーワード 急性期医療,症例数,市場占有率,二次医療圏