論文
第71巻第12号 2024年10月 睡眠時間と脂質代謝異常との関連-日本の就労者を対象とした大規模な縦断研究-小泉 和可奈(コイズミ ワカナ) 谷川 武(タニガワ タケシ) |
目的 わが国では多くの就労者が短時間睡眠にさらされている。短時間睡眠はさまざまな疾患の発症に寄与することが報告されているが,睡眠時間と脂質代謝異常との関連は未だに明らかにされていない。そこで大規模な就労者の集団を対象に睡眠時間と脂質代謝異常との関連を縦断的に明らかにし,肥満の有無がその関連に与える影響についても検討することを目的とした。
方法 対象者は2016年ならびに2019年に健康診断を受診し,ストレスチェックに回答した20~74歳の男女15,638人とした。脂質代謝異常は,Low Density Lipoprotein Cholesterol(LDL-C)値140㎎/dL以上を高LDL-C血症,High Density Lipoprotein Cholesterol(HDL-C)値40㎎/dL未満を低HDL-C血症,Triglyceride(TG)値150㎎/dL以上を高TG血症と定義した。睡眠時間は5時間未満,5~6時間未満,6~7時間未満,7~8時間未満,8時間以上の5群に分類し,睡眠時間と脂質代謝異常との関連について多変量調整ロジスティック回帰分析を行った。また,肥満(Body Mass Index:BMI25㎏/㎡以上)の有無による層別解析を行い,交互作用を検討した。
結果 2016年の睡眠時間が7~8時間未満の群に対し,睡眠時間5時間未満の群における2019年に新たに発症した高LDL-C血症,低HDL-C血症,高TG血症の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は,0.94(0.75-1.19),1.70(1.02-2.81),1.05(0.80-1.40)であった。また,肥満の有無による層別解析の結果,睡眠時間と低HDL-C血症との関連において,非肥満群のみで有意な関連が認められたが,肥満群では有意な関連は認められなかった(交互作用P=0.02)。
結論 本研究により,短時間睡眠は低HDL-C血症の危険因子となり,肥満の有無はその関連に修飾効果をもたらす可能性が示された。
キーワード 睡眠, 脂質代謝異常, 縦断研究, 肥満