論文
第71巻第12号 2024年10月 医療従事者6職種の地域偏在Gini係数の
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目的 医療資源の地域偏在指標として多用されているGini係数には,①地域偏在度の相対的な差異や位置づけを直感的に認識しにくい,②確率的に理解しにくい,などの難点があると考えられる。このような難点を改善するため,本研究では,医療従事者6職種それぞれのGini係数の確率分布を検証したうえで,その確率分布の活用例を提案する。
方法 分析対象は医師,看護師,薬剤師,診療放射線技師,理学療法士,作業療法士とし,厚生労働省の医療施設静態調査(2020年)のデータを用いた。分析の地域単位は二次医療圏とし,医療従事者数の分析単位は人口10万人当たりとした。各職種の都道府県別Gini係数が従う分布の適合度検定を5手法で行った。その確率分布の活用方法を実証した。
結果 都道府県別Gini係数は6職種すべてにおいて平均値と中央値が同程度の値であり,ほぼ左右対称の分布であるため,正規分布を帰無仮説として5手法の正規性検定を行った結果,6職種すべてがおおむね正規分布に従うことを検証した。さらに,ヒストグラムと理論分布の対比,QQプロットにより,医師,理学療法士,作業療法士の3職種では外れ値の影響によりp値が低下していることを検証した。正規分布の活用例として上側確率と偏差値の2指標を提案し,全都道府県の6職種を対象に地域偏在度を算出し,地域偏在度の相対的な差異や位置づけを認識しやすい形式に整理した。
結論 医療従事者6職種すべての都道府県別Gini係数は,おおむね正規分布に従うと考えられる。その分布全体の適合度の良さは,実績値と理論分布を対比したヒストグラムとQQプロットからも明らかであった。各職種の都道府県別Gini係数はほぼ0~0.3に分布しており地域偏在度の相対的な差異や位置づけを識別しにくいが,正規分布の性質を利用して上側確率を指標とすると,1%未満が千葉県(医師),東京都(医師,看護師,薬剤師,診療放射線技師),山梨県(理学療法士,作業療法士)のように地域偏在度の著しい状況を明瞭に検知できることが判明した。また,偏差値を指標とすると,各職種の地域偏在度をおおむね30から90までの値に置き換えることができ,地域偏在度が高い職種と都道府県の状況を容易に識別できることを検証した。このように地域偏在Gini係数を確率的な意味を有する直感的にわかりやすい評価指標に置き換えることができることを実証した。
キーワード 医療従事者,地域偏在,二次医療圏,Gini係数,正規分布,上側確率