論文
第71巻第14号 2024年12月 健康の要因としての貧困および富裕に関する分析-「国民生活基礎調査」の匿名データを用いて-平原 幸輝(ヒラハラ ユウキ) |
目的 近年,所得格差に関心が集まる中,貧困層だけでなく,富裕層や中間層を含めた上で,人々の健康状態や相談状況には差があるのかどうかを明らかにし,有効な対策について検討することが,本論文の目的である。
方法 1998年と2013年の「国民生活基礎調査」の匿名データを用いた分析を行う。人々の等価所得に基づき,貧困線未満の者を貧困層,中央値の2倍以上を富裕層,他を中間層と,それぞれ分類した上で,その所得分類別に,人々の健康状態や相談状況についてまとめた。また,人々の健康に関する変数を従属変数,性別,年齢,所得分類に関する変数を独立変数に設定した二項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 富裕層に対して,貧困層は主観的健康や精神的健康が良くないといった,所得分類と人々の健康状態に関連性があることが確認された。その上で,性別や年齢をコントロールしてもなお,貧困層であることは,主観的健康悪化の要因となり,悩みやストレスの要因となり,その影響力は維持・拡大されてきたことが確認された。ただ,富裕層であることは,主観的健康悪化の抑制要因や,悩みやストレスの抑制要因とはなっていないことも確認された。その上で,富裕層に対して,貧困層は,健康診断の受診率が低く,身近な人への相談があまりできておらず,公的機関や病院への相談が多く,相談したいと思いつつもなかなか相談できていない状況が確認された。
結論 貧困層が厳しい健康状態にある中で,性別や年齢をコントロールしても,貧困層であることが健康悪化に影響し,その影響力が維持・拡大していることからは,貧困層への健康支援の重要性が示された。また,貧困層は,健康診断の受診率が低く,その理由に「費用がかかる」ことがあげられ,この点から,費用面での支援を踏まえた貧困層に対する健康診断の受診促進が重要であると考えられた。そして,相談先としての公共機関や病院も重要であり,よりオープンな相談体制の整備,情報の更なる周知が求められていることが示された。
キーワード 貧困,富裕,格差,健康,健康診断,国民生活基礎調査