論文
第72巻第2号 2025年2月 介護保険保険者機能強化推進交付金の
|
目的 健康日本21(第三次)の基本的方針に,「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が掲げられ,平均寿命を上回る健康寿命の延伸が期待されている。健康寿命の延伸を達成するには,PDCAサイクルに沿った事業の評価・分析を通じて,より効果的な健康づくりを行うことが重要である。PDCAサイクルに沿った事業の評価・分析を推進するため,介護保険保険者機能強化推進交付金の評価制度が導入されている。しかし,どのような取り組みが健康寿命の推移と関連するかは明らかとなっていない。そこで,本研究は,同事業評価の各項目スコアと健康寿命の年次推移との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 本研究は,健康寿命の算定誤差が大きくなる人口1万2千人未満(2021年時点)の自治体を除く1,147自治体を分析対象とした。要介護度2以上を不健康期間とする「日常生活動作が自立している期間」について,市区町村別,男女別に,2017年から2021年の65歳時の健康寿命を算定し,5年間分の健康寿命の推移を算出した。また,介護保険保険者機能強化推進交付金の評価スコアの集計データを用いて,5年度平均のスコア得点率を市区町村別に算出した。健康寿命または不健康期間の推移を従属変数,事業評価スコア得点率を独立変数,2017年の健康寿命,課税対象所得,可住地人口密度を調整変数として,重回帰分析を実施した。
結果 分析の結果,男女ともに,要介護状態の維持・改善の状況等の評価スコア得点率が高い自治体ほど,健康寿命の推移が大きい傾向がみられた(男性:β=0.107,p<0.001,女性:β=0.115,p<0.001)。一方,要介護状態の維持・改善の状況等の評価スコア得点率が高い自治体ほど,不健康期間の推移は小さくなる傾向がみられた(男性:β=-0.210,p<0.001,女性:β=-0.234,p<0.001)。
結論 要介護状態の維持・改善の状況等の評価スコアは,健康寿命の推移と正の関連がみられ,不健康期間とは負の関連がみられた。今後は,個人レベルでの事業効果の検証や長期的データを用いての分析等が期待される。
キーワード 介護保険,保険者機能強化推進交付金,PDCAサイクル,高齢者,健康寿命の推移