論文
第72巻第3号 2025年3月 中高年者における財産管理にまつわる
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目的 50・60代の中高年者を対象に,認知機能低下への備えにおける財産管理にまつわる将来の備えの実態を把握することおよび財産管理にまつわる将来の備えの関連要因を明らかにすることを目的とした。
方法 2021年12月下旬,調査会社のアンケートパネルを用いて,全国の50~69歳の男女1万人を対象に無記名自記式Web調査を実施した。調査項目は,対象者の基本属性および認知機能低下への備えにおける財産管理にまつわる将来の備えの実施有無であった。本研究では,一般的な認知機能低下への備えを1つ以上行っている者のみを分析対象者とした。分析対象者を,財産管理にまつわる将来の備えの実施状況に応じて「財産管理支援サービスの利用群」「身辺整理群」「認知症予防に関する行動のみで財産管理の備えなし群(以下,備えなし群)」の3群に分類し,備え行動(財産管理支援サービス利用・身辺整理)の関連要因を明らかにするために多項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 認知機能低下への備えを行っていた者が882人(全回答者の8.8%)いた。そのうち,「財産管理支援サービスの利用群」は103人(全回答者の1.0%,分析対象者の11.7%),「身辺整理群」は54人(全回答者の0.5%,6.1%),「備えなし群」が725人(全回答者の7.3%,82.2%)であった。多項ロジスティック回帰分析の結果,身辺整理の備えには,年齢が高いこと,性別(女性),自身の認知症の困りごとの予想(預金口座や株式証券等の取り扱いに支障が生じる)が有意な正の関連を示した。財産管理支援サービスの利用には,自身の認知症の困りごとの予想(財産の相続手続き等で家族が困る,預金口座や株式証券等の取り扱いに支障が生じる)が有意な正の,自身の認知症の困りごとの予想(ご自身の介護等で周囲の人のサポートが必要となる)が有意な負の関連を示した。
結論 50・60代の中高年者における財産管理支援サービスの利用は全体の1%程度と低水準であった。財産管理支援サービスの利用の関連要因は,自身が認知症となった場合の困りごととして相続問題や預金口座の取り扱い等の課題を予想していることであった。退職期前後の世代や女性への働き掛け,高齢者の属性に応じた備えのあり方の整理により,財産管理支援サービスによる備えを促進することが期待される。
キーワード 高齢者,財産管理,認知機能低下,備え