論文
第63巻第2号 2016年2月 高齢者向けの集団健診が余命および健康余命に及ぼす影響-草津町介護予防事業10年間の効果評価の試み-西 真理子(ニシ マリコ) 吉田 裕人(ヨシダ ヒロト) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ) 深谷 太郎(フカヤ タロウ) 天野 秀紀(アマノ ヒデノリ) 熊谷 修(クマガイ シュウ) 渡辺 修一郎(ワタナベ シュウイチロウ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ) 谷口 優(タニグチ ユウ) 野藤 悠(ノフジ ユウ) 干川 なつみ(ホシカワ) 土屋 由美子(ツチヤ ユミコ) 新開 省二(シンカイ ショウジ) |
目的 群馬県草津町における介護予防事業の中核を成してきた健診が,余命および健康余命に及ぼす影響を明らかにし,高齢者向け健診の効果を検討することである。
方法 2001年に草津町の70歳以上の地域在宅高齢者を対象に実施した訪問面接調査の応答者のうち,健診会場への移動能力「あり」と判断された者800人について,その後2002年から2005年の4年間に実施した健診の受診回数を調べた(範囲:0-4回)。次いで,4回目の健診が終了した翌月時点で生存が確認された者を,さらに4年11カ月間追跡し,その間の死亡ならびに自立喪失の有無を調べ,4年間の健診受診状況とその後の死亡(余命)および自立喪失(健康余命)との関連を検討した。自立喪失は,新規の介護保険認定または認定なし死亡と定義し,介護保険認定を「要介護2以上」とした基準Aと「要支援以上(全認定)」とした基準Bの2つを設定した。分析では,健診の受診回数により対象者を3群に分類し(0回,1-2回,3-4回),追跡期間中の生存率および自立率の推移をKaplan-Meier法により比較した。その上で,健診の受診頻度の違いによる追跡期間中の死亡および自立喪失のリスクを,性,年齢,2001年時点での総合的移動能力,慢性疾患の既往,心理的変数などの交絡要因を調整変数としたCox比例ハザードモデルを用いて調べた。
結果 健診の受診頻度が高い群ほど,その後の生存率および自立率が良好であった。比例ハザード分析からは,重要な交絡要因を調整しても,健診非受診者に比べて3-4回受診者の死亡リスク(HR=0.57,95%CI=0.36-0.90)および自立喪失リスク(基準A:HR=0.55,95%CI=0.37-0.82)が統計的に有意に低いことが明らかとなった(基準Bでは低い傾向が示された:HR=0.72,95%CI=0.50-1.06)。健診未受診者に比べた1-2回受診者の死亡および自立喪失リスクの低さは有意ではなかった。
結語 草津町で実施した高齢者健診には,余命および健康余命を延伸する効果があり,この効果は継続的に健診を受診した場合に特に期待できるものであることが示された。
キーワード 高齢者健診,総合的機能評価,介護予防,余命,健康余命