論文
第62巻第15号 2015年12月 わが国における専門医の地理的分布等に関する検討堀岡 伸彦(ホリオカ ノブヒコ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 坂上 裕樹(サカガミ ユウキ)丸井 英二(マルイ エイジ) 谷川 武(タニガワ タケシ) |
目的 わが国の専門医の地理的分布並びに標ぼうする診療科と専門医資格との関連を明らかにする。
方法 平成22年医師・歯科医師・薬剤師調査に基づき,医師,専門医の地理的分布について分析を行った。専門医数と人口密度,医学部入学定員,臨床研修医在籍数との関連についてスピアマンの順位相関係数を求めた。さらに,人口密度ごとに標ぼうする医師数の増加率の低い診療科と高い診療科の専門医数の比を求めた。また,各診療科を標ぼうする専門医数を各診療科別医師数で除し,「専門医取得率」を計算した。
結果 都道府県別の人口10万人当たりの医師数と専門医数は,いずれも約2倍の偏在が認められた。二次医療圏別では,医師数で15倍,専門医数では67倍もの偏在が認められた。一方,人口密度ごとの医師数の増加率の低い診療科と高い診療科の専門医数の比は,人口密度との関連は認められなかった。また,都道府県別の専門医数は,臨床研修医在籍数と強い正の関連が認められた(p<0.001)。各診療科別の専門医取得率で最も高いのは脳神経外科の76.3%,低いのは内科の12.1%であった。外科は病院医師の方が診療所医師よりも高い専門医取得率を示していた。
結論 二次医療圏別の専門医は,医師よりも偏在が大きく,専門医の診察を受けることを希望する患者にとって公平性が保たれていないことが示された。医師よりも専門医の偏在が大きい原因として,標ぼうしている医師数が増加している診療科の専門医が人口密度の高い地域に集中している可能性を予想していたが,今回の分析結果からは否定された。一方,都道府県別の専門医と医師の偏在は同程度であり,都道府県単位では一定レベルで専門医へのアクセスが確保されていると考えられた。都道府県ごとの専門医数は,医学部入学定員よりも臨床研修医在籍数と関連が強く,専門医の地域偏在をさらに解消するためには,臨床研修医在籍数の増加を促進する取り組みが有効である可能性が示された。また,専門医取得率は多くの科で40%から60%程度であり,内科は12%と最も少なかった。今回の結果から,相当数の医師が専門医を取得せずに,その診療科を標ぼうしていることが示された。本研究は,専門医の地理的分布を全国的に分析した初めての研究である。各分野の専門医の適切な養成,配置は医療政策上重要な課題であり,今後も様々な観点から継続的に分析し,全国民が専門的な医療に公平にアクセスできるような施策を実施することが重要と考えられる。
キーワード 医師・歯科医師・薬剤師調査,専門医,総合診療医,医師数,地域偏在,研修医