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論文記事:産業保健の政策と学術の国際動向 201511-01 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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第62巻第13号 2015年11月

産業保健の政策と学術の国際動向

堀江 正知(ホリエ セイチ)

目的 産業保健に関して,わが国では労働安全衛生法に基づき企業が労働者の健康管理を行う体制が確立されてきたが,国際的には新しい動きもある。そこで,産業保健の政策と学術に関する国際動向を調査してわが国の現状と比較することを目的とした。

方法 ILO,WHO,ISO,EU,アメリカ合衆国およびわが国が近年公表している産業保健に関する文書から政策動向をまとめ,産業医学に関係する学術誌に最近掲載された論文から学術動向をまとめ,これらの結果から課題を検討した。

結果 ILOは,国がすべての労働者を対象とした職場の産業安全,産業保健,職場環境で一貫した政策の策定,実施,評価を行い,労使と独立の立場から産業保健を供給し発展させること,また,企業が職場の有害要因による健康障害を予防することを求めている。WHOは,「ワーカーズ・ヘルス」という世界行動目標を提唱し,産業保健の知見を一般の疾病予防や健康増進活動に広げて「健康職場」を構築し,雇用,経済,貿易,環境保護の政策とも関連づけようとしている。ISOは,労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格化を検討している。EUは,「労働安全衛生分野の戦略的枠組」で2020年までに先端産業技術や高齢化への対策のほか各国における法制度の調整と簡素化等を推進している。アメリカ合衆国は,「ヘルシーピープル2020」の中で国家安全衛生研究計画(NORA)による成果の社会実装を推進している。わが国は,第12次労働災害防止計画や健康日本21(第二次)で長時間労働,メンタルヘルス,腰痛,熱中症等の対策を重点的に推進している。一方,最近1年間に産業医学関係の18誌に掲載された1,861論文は,職場・作業が労働者の健康,症状,疾病に与える影響を探究したものが大半で,物理化学的な要因に加えて心理的,社会経済的な要因も活発に研究されていた。

結論 産業保健は,労働政策と保健政策の重複領域として体系化されてきたが,両政策には視点や手法の相違がある中で,近年,産業保健の枠組みを活用した保健政策の推進が企図されている。産業医学の特徴である曝露の概念を家庭,学校,地域にも適用することによって保健政策を活性化できる可能性がある。また,わが国の法令には小規模事業場への適用やハイジニストの活用が不十分といった課題がある。欧米では,労働市場の国際化から,法令の簡素化,統一化とともに自律的なリスクアセスメントの推進による成果重視への政策転換が進んでおり,わが国の政策も国際標準との整合性を図る必要がある。

キーワード 産業保健,労働衛生,健康政策,ILO,WHO,ワーカーズ・ヘルス

 

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