論文
第62巻第12号 2015年10月 過疎地域に居住する高齢者の介護サービス利用に関する分析杉井 たつ子(スギイ タツコ) |
目的 過疎地域と過疎地域以外における在宅高齢者の介護サービスの利用状況を把握し,生活環境と介護サービスの利用状況の関連を分析することをとおして在宅ケアの課題を明確にする。
方法 平成23年社会生活基本調査を利用した。回答者から65歳以上を抽出し,過疎地域と過疎地域以外に分別した。生活環境は,世帯・家族,住居の種類,自家用車の所有,世帯収入の4項目で比較した。介護サービスは,利用の有無と利用状況について比較した。さらに,介護の必要性が高いことが想定される後期高齢者と高齢者単独世帯の利用状況を比較した。
結果 96,141人(うち過疎地域13,814人,過疎地域以外82,327人)のデータを分析した。過疎地域は,後期高齢者が多く,女性が多い特徴があった。高齢者のみ世帯(単独・夫婦世帯)は,過疎地域以外に多かった。過疎地域では,子どもとの同居率が高く,子どもが同一市区町村内にいない割合も高かった。また,家や自家用車の所有率が過疎地域で高く,年間世帯収入100万円未満の割合が過疎地域で高かった。介護サービスの利用の有無には差がなかったが,過疎地域では,週に3日以下の介護サービスの利用が多く,週4日以上の利用が少ない状況にあった。後期高齢者では,過疎地域でサービス利用率が低く,週1日以上の日常的な利用においても少なかった。高齢者単独世帯では,サービス利用の有無で差は認められなかったが,過疎地域で週1日以下の介護サービスの利用が多かった。
結論 介護サービスの利用については,過疎地域において週1日未満の見守り的なサービスが多く,週4日以上の日常的な介護サービスを利用する高齢者が少なかった。全体的に,1人当たりの介護サービスの利用回数が低いことが明らかとなった。特に,後期高齢者や高齢者単独世帯の介護サービスの利用については,過疎地域で介護サービスの利用が低い状況にあった。この要因として,子どもとの同居率が高いことや世帯収入が低い世帯が多いことが考えられる。過疎地域では,子どもとの同居率が高い反面,子どもが近隣や同一市区町村内にいない割合が高く,日常的な支援が受けにくい高齢者が多い。過疎地域では,日常生活支援が必要な高齢者に適切な介護サービスが提供されているかを検証する必要がある。
キーワード 介護サービス,地域格差,地域ケア,過疎地域