論文
第62巻第11号 2015年9月 地域在住高齢者の歯の状態と
藤井 啓介(フジイ ケイスケ) 神藤 隆志(ジンドウ タカシ) 相馬 優樹(ソウマ ユウキ) |
目的 地域在住高齢者の歯の状態(残存歯数と義歯の使用の有無)と身体機能および転倒経験との関連性を明らかにすることを目的とした。
方法 2013年に茨城県笠間市で開催された健診事業に参加した地域在住高齢者205名(平均年齢74.1±4.5歳;男性49.8%)を対象とした。自記式質問紙により残存歯数と義歯(入れ歯やインプラント等)使用の有無を調査し,「残存歯数20本以上」「残存歯数19本以下かつ義歯有り」「残存歯数19本以下かつ義歯無し」の3群に分けた。握力,5回椅子立ち上がり時間,開眼片足立ち時間,Functional Reach,重心動揺軌跡長,Timed Up & Go,5m通常歩行時間により身体機能を評価した。また,過去1年間の転倒経験の有無を調査した。主たる統計解析には,従属変数に各身体機能評価項目または転倒経験の有無,独立変数に歯の状態を投入した共分散分析およびロジスティック回帰分析を用いた。各分析の共変量には年齢,性,教育年数,経済的な暮らし向き,Body Mass Indexを使用した。
結果 「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数20本以上」群に比べ重心動揺軌跡長が有意に長かった(p<0.05)。Timed Up&Goにおいては,「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数20本以上」群および「残存歯数19本以下かつ義歯有り」群に比べ有意に遅い値を示した(p<0.05)。「残存歯数19本以下かつ義歯無し」群は「残存歯数19本以下かつ義歯有り」群に比べ5m通常歩行時間が有意に遅い値を示した(p<0.05)。「残存歯数20本以上」群と比べ,「残存歯数19本以下かつ義歯が無し」群は,過去に転倒歴を有している割合が有意に高かった(オッズ比=5.80,95%信頼区間=1.74-19.37)。
結論 地域在住高齢者の身体機能は歯の状態によって異なり,さらに歯の状態と転倒経験に関連があることが示唆された。特に「残存歯数19本以下かつ義歯が無い」高齢者はバランス能力,歩行能力の低下が生じていることや,転倒リスクが高い可能性がある。
キーワード 地域在住高齢者,口腔機能,残存歯数,義歯,転倒,身体機能