論文
第62巻第8号 2015年8月 日豪の特別養護老人ホームにおける介護労働の比較研究-介護労働軽減プログラムと腰痛・筋骨格系の愁訴について-三宅 眞理(ミヤケ マリ) 上田 照子(ウエダ テルコ) Claire Emmanuel(クレア エマニエル)下埜 敬紀(シモノ タカキ) 神田 靖士(カンダ セイジ) 西山 利正(ニシヤマ トシマサ) |
目的 高齢化の進展から高齢者介護施設の需要も高まり,2025年には237~249万人の介護職員が必要とされている。本研究では,介護労働環境の異なる日本とオーストラリアの特別養護老人ホームの施設と職員に対し質問紙を用いて調査し,介護労働環境が介護職員に与える影響について検討した。
方法 対象は日本の近畿地方にある特別養護老人ホーム20施設(以下,JN)と,オーストラリアのビクトリア州にあるナーシングホーム7施設(以下,AN,日本の特別養護老人ホームにあたる施設)である。対象施設の代表者には調査票Ⅰを配布し,人員配置や給料,労働環境や労働安全教育などの基本情報を得た。調査票Ⅱは同施設の介護職員とし,JNの474人とANの324人を対象に,介護労働軽減プログラムとしての電動移乗介助機器(以下,リフト)の使用,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用の3つの介助動作の状況や腰痛および筋骨格系の愁訴などについて,各々日本語版と英語版の調査票を用いて尋ねた。
結果 JNはANに比較して腰痛や筋骨格系の愁訴が高率であった。その背景として,入居者のADLが低いことや介護職員1人当たり入居者数が多いこと,また,移乗介助や排泄介助などにおける作業が,ANとは異なり1人での介助が主となっていることが考えられた。JNでは,リフトの使用状況,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用が少なく,両群に有意な差が認められた。
結論 JNでは移乗介助や排泄介助において,ANとは異なり1人での介助が主となっていることや,介護労働負担軽減プログラムとしてのリフトの使用,排泄介助におけるベッドの高さの調整,スライディングシートの使用が少ないなど,介助における身体的負担が大きく,腰痛や筋骨格系の愁訴が高率となる要因として考えられた。ANでは,No Lift Policy「人力のみによって患者を移乗することを禁止した指針」を推進している。これにより移乗,排泄介助には必ず複数人での介助とリフト機械を利用することが義務づけられている。わが国の介護労働負担軽減のための介護労働環境の改善が必要であり,これらの見直しは喫緊の課題である。
キーワード 高齢者介護福祉施設,介護労働負担軽減,介護職員,腰痛,筋骨格系の愁訴,オーストラリア