論文
第62巻第8号 2015年8月 児童虐待問題を抱える家族の特徴に関する研究-児童相談所の虐待実態調査に関するクラスタ分析比較を通して-加藤 洋子(カトウ ヨウコ) |
目的 本研究は,児童相談所が対応している児童虐待事例に関する2つの実態調査の2次分析から虐待問題を抱える家族の特徴を明らかにし,虐待を深刻化させない対策を検討することを目的とした。
方法 「児童相談所が対応する虐待家族の特性分析」(2003年)と,全国児童相談所長会による「全国児童相談所における虐待の実態調査」(2008年)の2次分析(個別票データ)より,虐待が起こっている家族を類型化し比較を行った。2003年調査は,世帯別の416ケース(児童数501人)を分析対象とした(3都道府県内にある児童相談所に質問紙を送付・回収した。調査期間は2002年12月~2003年1月とし,2002年度中に一時保護し,一定の方針が立ったケースになる)。2008年調査は,全国の児童相談所(195/197カ所回収)が受理した虐待またはその疑いがあるケースを調査対象としている(2008年4月1日~6月30日までの期間に新規に受理したケース)。世帯別では7,256ケース(虐待相談として受理した児童数9,895人)になる。分析は多重コレスポンデンス分析の次元得点を利用したクラスタ分析を行った。
結果 類型は,「両親型」「ひとり親型」「祖父母同居型」「内縁型」に分かれ,どの家族形態(世帯)においても虐待が認められた。「ひとり親型」「祖父母同居型」の類型では,世帯の経済状況・就労状況の厳しさが明らかになり,「ひとり親型」では保護者が精神疾患に罹患しているケースが多いことがわかった。各類型とも身体的虐待,ネグレクトが大きな割合を占めており,次に心理的虐待の割合が高かった。2003年調査と2008年調査で経年の変化を確認したが,家族の特徴は大きく変化していなかった。
結論 本研究より「ひとり親型」「祖父母同居型」は経済的な状況が厳しい傾向が強く,経済的支援が欠かせないことが明らかになった。また「ひとり親型」では「ネグレクト」への配慮を十分に行うことが不可欠であり,保護者の精神疾患にも留意しなければならないことがわかった。それらを踏まえ,「ひとり親型」の家族には精神面と家事等における援助が必要であり,その施策の拡充がさらに求められるであろう。個々の家族を支援するソーシャルワークの必要性と,類型からみた家族の特徴をとらえた対応を同時に意識すること,またそれに合わせた施策の整備を行うことが現場では求められ,虐待死につながるような重篤な虐待を防ぐためには,これらの類型から導き出され重なり合っている注意すべき項目を見逃さず家族を支援しなければならない。
キーワード 児童虐待実態調査2次分析,虐待家族の特徴,クラスタ分析, 類型化の比較