論文
第62巻第7号 2015年7月 1歳半児の咀嚼力と養育者の児への食事提供の実態上野 祐可子(ウエノ ユカコ) 佐伯 和子(サエキ カズコ) 良村 貞子(ヨシムラ サダコ) |
目的 子どもの咀嚼力低下が問題視され,口腔発達に合わせた食事提供が重要視されるようになった。しかし,口腔発達に合った硬さの食事や大きめの物を食べていない状況があり,養育者の食事提供の視点から成長発達に合った食事支援について検討する必要がある。そこで本研究では,1歳半児の咀嚼力と養育者の食物の硬さと大きさに対する認識および児への食事時の声かけとの関連を明らかにすることを目的とした。
方法 2013年6~10月,北海道内の4市で行われた1歳6カ月児健康診査を受診した児の養育者を対象に,無記名自記式質問紙を配布し,郵送法で回収した。調査票は児の咀嚼力,養育者の児への食事の与え方で構成した。咀嚼力は「よく噛んでしっかり飲みこむ力」と定義した。分析には,児の咀嚼力との関連を検討するため,各変数のカテゴリーを2群に分け,χ2検定,Fisherの直接確率検定を行った。統計的有意水準はP<0.05とした。
結果 調査票配布は501部,うち有効回答者200人(有効回答率39.9%)であった。咀嚼力がある児は128人(64.0%)であった。養育者は,食物の硬さの目安として大人に近い硬さを29.2%が,大人と同じ硬さを11.2%が与えており,硬いものを入れる頻度は,「いつも入れる」「たまに入れる」を合わせて77.4%であった。普段から噛み切って1口サイズにする大きさの食物を提供している養育者は16.2%と少なく,普段から細かく数個をまとめて1口で食べる大きさを目安としている者は9.0%であった。声かけの頻度は,「いつもかける」「たまにかける」合わせて164人(82.0%)であった。養育者が硬いものを児の食事によく取り入れ(P=0.005),噛み切って1口サイズにするような大きなものを児の食事に取り入れている群(P=0.037)は有意に咀嚼力があった。また,硬いものや大きなものをあげた時に噛むよう声をかける群は有意に咀嚼力があった(P=0.002,P=0.014)。
結論 咀嚼力がある1歳半児は6割程度であった。養育者は,硬いものを与える意識が高いが,児の発達段階より硬すぎるものを目安として提供する傾向にあること,切歯で噛み切る必要のない大きさの食べ物を与える傾向にあることが示唆された。1歳半児には,発達に合わせた硬さ・前歯で噛む必要がある大きめな物を提供し,摂取時にしっかり噛むよう児へ声かけするよう提案する必要性が示唆された。
キーワード 咀嚼力,食物の硬さ,食物の大きさ,声かけ,1歳半児