論文
第62巻第5号 2015年5月 介護老人福祉施設における褥瘡対策に関する
三谷 佳子(ミタニ ヨシコ) 永野 みどり(ナガノ ミドリ) |
目的 介護老人福祉施設での褥瘡推定発生率は1.21%だが,半数は重度の褥瘡だと指摘されている。介護老人福祉施設は他の介護保険施設と比べ,介護に最も重点をおいた施設だが,介護職の褥瘡ケアに関する知識不足や,褥瘡処置技術に対する不安が報告されている。介護老人福祉施設における褥瘡対策状況を見直し,そこに勤める職員への教育について検討することは,介護老人福祉施設のケアの質や入所者のQOLの観点からも重要である。そこで本研究では,介護老人福祉施設における褥瘡ケアに関する職員教育の実態とその関連要因を検討することを目的とした。
方法 全国の特別養護老人ホーム5,800施設を対象に,郵送法にて質問紙調査を行った。回収数は2,731件で,そのうち褥瘡対策状況に関して回答のあった2,723件を有効回答とし分析を行った。
結果 回答者は看護職員が1,920人(70.5%),開設主体は社会福祉法人が2,309施設(90.3%)であり,褥瘡有病割合は3.0%であった。褥瘡対策チームのある施設は1,275施設(51.0%),褥瘡対策のための職員教育を実施している施設は1,283施設(49.1%)であった。職員教育で取り上げられているテーマは「褥瘡発生予防の勉強会」「褥瘡予防の用具等に関する事」「褥瘡処置・ケアの手順の実技」が多かった。職員教育の手法で最も多かったのは「講義」(31.3%)であった。職員教育の有無と,施設状況,加算算定状況,褥瘡対策状況,入所者の状況,職員状況との関連を検討した結果,職員教育あり群では「同一法人または関連法人が開設・運営する医療機関」を有する割合が有意に多かった(p=0.002)。職員教育の有無は,褥瘡対策チーム・褥瘡対策指針の有無と有意に関連していた(p<0.001)。また,職員教育あり群の方が円座の使用割合は有意に少なかった(p=0.01)。しかし,一方で職員教育あり群でも554施設(54.8%)では円座を使用していた。
結論 職員教育の実施には医療機関との連携体制が関わっており,他の医療機関のサポートが重要であると考えられる。また,褥瘡対策への取り組み状況に施設間で差があることが確認された。一方で,職員教育は褥瘡ケアの新しい知識の普及に有用だが,実際の褥瘡ケアに有用かつ新しく正しい情報が教育されていない,もしくは職員教育を実施しているにも関わらず実際の褥瘡ケアに教育内容が反映されていない施設が少なくないことも示唆された。
キーワード 褥瘡,職員教育,介護老人福祉施設,ケアの質