論文
第62巻第2号 2015年2月 統計調査における費用対効果の検証方法に関する調査研究阿部 正浩(アベ マサヒロ) 高畑 純一郎(タカハタ ジュンイチロウ) 坂爪 洋美(サカヅメ ヒロミ) |
目的 近年,厳しい行財政改革の下で的確な統計調査の実施には限界が生じつつあり,加えて政策評価の観点から,統計調査についてその有効性や効率性について評価すべきとの指摘がなされている。しかしながら,公的統計の分野においてはこれまで政策評価の観点から有効性や効率性が検討されたことはなく,そのための明確な概念や評価指標はこれまでのところ存在していない。そこで本研究では,統計調査に関する費用対効果など一定の効果測定の考え方と手法の具体化を目的に調査研究を行った。
方法 統計調査の場合,費用が調査手法や調査対象者数でおおむね自動的に決まってしまうため,これを検討する意味はあまりない。一方,統計調査の効果については,金銭的な効果を測定ないし推計することは一般には困難であり,金銭的効果以外の国民の便益を評価できる指標を作成する必要がある。そこで,従来から用いられている政策評価手法を整理し,統計調査にも有用な評価手法を研究し,国民の便益を評価する指標についての開発を試みた。
結果・結論 まず公的統計が広く公共財と指摘されている記述を紹介し,公共財の持つ性質を説明する。経済理論的には,社会的に望ましい政府によって供給されるべき公共財の水準と,実際に各家計の意思決定に任せた場合の社会全体で供給される公共財の水準とでは,後者の方が小さくなることを理論的に示した。また,公的統計の公共財としての性質を考慮しつつ,既存の政策評価手法に関してレビューについても行った。公共投資や環境評価で主に利用されてきた手法について紹介し,公的統計の評価への適用可能性について検討した。その結果,公的統計を評価するには従来の評価方法を適用することは難しく,アンケートによる評価,すなわち仮想評価法が有力な手法としてあげられそうだとの結論に達した。さらに,公的統計の政策評価に仮想評価法が適用可能かどうかを検証するため,アンケートを試行的に実施し,調査内容と調査結果の解釈の方法について検討した。具体的には,厚生労働省が調査している代表的な公的統計の結果の一部を回答者に見せた後で,それぞれの統計の必要性や有用性などを尋ね,その結果から仮想評価法の有用性について検討した。
キーワード 公共財としての公的統計,公的統計の政策評価,政策評価手法,仮想評価法,フリーライダー問題