論文
第63巻第3号 2016年3月 電子レセプトによる保健・医療統計の改善に向けて-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その1)-伏見 惠文(フシミ ヨシフミ) 村山 令二(ムラヤマ レイジ) 野々下 勝行(ノノシタ カツユキ) |
目的 電子レセプトの持つ豊富なデータを体系的に統計情報化し,社会医療診療行為別調査等,厚生労働統計調査の整備,改善および普及に資することを目的とする。具体的には,観察単位をレセプトから患者に変換し診療の過程を時系列化することにより,これまで全数では成し得ていない在院/通院期間別,また,地域別,転帰別,傷病分類別等および診療行為別の観察ができるよう,統計数理的分析手法を含め,技術問題を整理するとともに,具体的な統計表現を提案することを目指す。
方法 研究会を組織することにより,外部有識者等からの情報収集,課題の整理・検討を進めるとともに,全国健康保険協会からレセプト・データの提供を受け,推奨すべき新たな統計表を実験的に集計する。
結果 レセプト情報の活用・分析の現状を精査することにより課題を抽出し,これからの電子レセプト統計のあり方を具体的に提案した。すなわち,患者の保険制度間移動や診療報酬改定の影響を避けることの難しいコホート統計ではなく期間統計の方法によって診療エピソード統計を作成するというアイデアを取り入れることである。それによって,NDB利用を開始したことから集計客体数が飛躍的に増加した社会医療診療行為別調査は,大きく改善し得ることを示した。医療費を受診患者発生数と1診療期間当たり医療費に分解してみせる診療エピソード統計は,医療費の増加要因分析においても有効である。本稿では,調剤レセプトについて実現している調剤MEDIASの仕組みを医科,歯科にも拡張することにより医療費分析がより充実したものになることなど,具体的提案をさらに何点か行っている。
結論 電子レセプトデ-タは,診療エピソ-ド統計の作成手法を用いることにより,社会医療診療行為別調査等,保健・医療統計の改善および医療費分析の深化に資することが示された。
キーワード 電子レセプト,レセプト統計,診療エピソード統計,コホート統計,期間統計