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第62巻第6号 2015年6月

妊婦健康診査における公費負担と母子保健衛生に関する地域相関研究

中野 玲羅(ナカノ レイラ) 佐藤 拓代(サトウ タクヨ) 磯 博泰(イソ ヒロヤス)

目的 妊婦の経済的負担の軽減を図り,安心して妊娠・出産ができる体制を確保することを目的として,平成21年より受診が望ましいとされる妊婦健康診査14回分の公費負担が行われている。しかしながら,都道府県ごとの公費負担額にはばらつきがあり,最大で3倍もの格差が生じている。また,近年,分娩が開始して初めて医療機関を受診する,あるいは救急隊要請を行う未受診妊婦あるいは飛び込み出産と呼ばれる事例が顕在している。未受診妊娠は流早産,低出生体重児,NICU入院も多く,母子ともに医学的にリスクの高い事例であるが、未受診の理由としては経済的問題が最も多く,約3割を占めている。このことから,妊婦健康診査における公費負担は,健診受診の促進につながり,ハイリスクな未受診妊娠を減少させる可能性があると考え,平成21年から23年までの都道府県ごとの公費負担額と母子保健衛生指標との関連を分析した。

方法 妊婦1人当たりの健診受診回数,満11週以内の妊娠届出割合,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率,人工妊娠中絶実施率について,それぞれ全14回分の公費負担が開始された平成21~23年前後の値を用い,妊婦健診1人当たりの公費負担額との相関関係を調べた。さらに,妊娠届出週数に対する母の年齢の影響についても検討した。

結果 都道府県ごとの妊婦健診1人当たりの公費負担額は,満11週以内の妊娠届出割合との間に正の相関(r=0.15~0.31)を,人工妊娠中絶実施率とは負の相関(r=-0.19~-0.31)を示した。妊婦1人当たりの健診受診回数,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率は公費負担額との間に明らかな相関はみられなかった。満11週以内の妊娠届出割合は出生時の母の平均年齢との間に正の相関(r=0.27~0.36)がみられた。

結論 妊婦健康診査における公費負担額の拡充は,妊娠早期の妊娠届出を促進し,人工妊娠中絶を抑制する可能性が示された。また,低年齢の妊婦に対する妊娠届出の重要性に関する啓発が必要と考えられた。

キーワード 母子保健,妊婦健康診査,公費負担,妊娠届出,人工妊娠中絶

論文