論文
第65巻第11号 2018年9月 世帯における社会経済的要因と
清原 昭子(キヨハラ アキコ) 福井 充(フクイ ミツル) |
目的 本論文では,政府統計を用いて日本における世帯の社会経済的要因と,世帯員(成人)の食物・栄養摂取状況および健康状態との関連性を明らかにすることを目的とした。
方法 厚生労働省の「国民生活基礎調査」と「国民健康・栄養調査」の個票データのうち,両調査が接続可能な世帯別データ3,308件を用いて,世帯の社会経済的要因が,世帯員の食物・栄養素の摂取,身体状況に与える影響を検討した。分析対象とした人の属する世帯の調整済み家計支出額(等価家計支出額)を説明変数とし,エネルギー,総たんぱく質,総脂質,炭水化物,ナトリウム,ビタミンA,レチノール,コレステロール(栄養素摂取量),穀類,いも類,野菜類,果実類,魚介類,肉類,卵,乳類,嗜好飲料類の摂取量(食品群摂取量),BMIと血圧の値(身体状態)を目的変数として重回帰分析を行った。また,調整済み家計支出(等価家計支出額)を説明変数とし,BMI,血圧(最高・最低),糖尿病といわれたか,血圧を下げる薬,脈の乱れを治す薬,インスリン注射または血糖を下げる薬,コレステロールを下げる薬の服薬の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った。いずれの分析でも,性別,年齢,市町規模,世帯構造,同居する65歳以上の世帯員数,同居する18歳未満の未婚者数,本人の教育歴を調整変数とした。
結果 重回帰分析の結果から,野菜,果実,肉類,嗜好飲料類の摂取量,エネルギー,総たんぱく質,総脂質等の栄養素の摂取量について世帯の等価家計支出額と有意な正の相関がみられた。穀類の摂取量は等価家計支出額と有意な負の相関がみられた。一方,いも類等の摂取量,BMI,血圧の値と家計支出の間に有意な相関はみられなかった。また,ロジスティック回帰分析の結果,インスリン注射または血糖を下げる薬の服薬と等価家計支出額の間に弱い負の相関がみられた。
結論 本研究の結果から,経済力がある世帯に属し,教育歴が長い者ほどそうでない者に比べて果実類や野菜類,乳類を取り入れた食生活を送り,たんぱく質や脂質の摂取量に恵まれる傾向にあると言える。一方,社会経済的要因が人々の身体・健康状態に与える影響については,明確な関連はみられなかった。今後は,経済力や教育歴といった要因がどのような経路で食生活に影響を与えるのかについての検討,そして社会経済的要因は相互にどう関係して,食生活に影響を与えるのかについての検討が必要である。
キーワード 社会経済的要因,食品摂取量,栄養素摂取量,国民生活基礎調査,国民健康・栄養調査
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