第59巻第12号 2012年10月 アジア太平洋地域における全死亡に占める
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目的 アジア太平洋諸国の脳血管疾患(以下,脳卒中)対策を講じるためには,国全体の脳卒中死亡・発症について経時的な実態把握および国際比較を行い,各国の脳卒中死亡の特徴とその要因を捉える必要がある。同時に脳卒中において脳出血と脳梗塞では発症機序や治療など予防対策が異なるため,また医療資源や対策を考える上で,脳卒中死亡だけでなく脳卒中病型別死亡の実態把握が重要となる。本研究ではアジア太平洋地域の4カ国の政府統計に基づき,全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合を指標として,その年次推移を観察,国際比較を行った。
方法 対象はアジア太平洋地域の政府統計とし,公的統計が整備され精度が高い,脳卒中,脳梗塞,脳出血死亡者数の男女別データが経年で入手可能な国を探索したところ,日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの4カ国が選択された。これら4カ国の政府統計に基づき脳出血,脳梗塞,病型別不明/その他の各死亡数を全死亡数で除した値を全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合として算出し,年次推移を観察した。
結果 全4カ国で全死亡に占める脳卒中死亡割合は減少傾向であること,日本と韓国では全死亡に占める脳出血死亡割合が減少しているのに対し,脳梗塞死亡割合は増加後,日本は1990年代以降横ばい傾向,韓国は2005年以降減少傾向を示すこと,オーストラリアとニュージーランドでは,日本と韓国に比べて全死亡に対する脳卒中死亡割合は少なく,脳卒中病型別でみると全死亡に占める脳出血死亡割合は不変,脳梗塞死亡割合は減少傾向であることなどがわかった。
結論 日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの政府統計に基づく全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合は,日本と韓国,オーストラリアとニュージーランドでそれぞれ類似した傾向を示した。オーストラリアとニュージーランドの結果は脳卒中病型別死亡不明の割合が多く,過去のコホート研究結果を考慮すると脳梗塞死亡割合が過小評価されている可能性がある。政府統計を用いて脳卒中病型別死亡を検討する場合は,全脳卒中死亡に占める脳卒中病型別不明の割合,その国の脳卒中病型別の診断状況,その国のコホート研究結果を考慮して検討する必要がある。
キーワード 脳卒中,脳梗塞,脳出血,政府統計,国際比較,アジア太平洋地域