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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第67巻第4号 2020年4月

DPCデータを用いたミトコンドリア病の記述的研究

居林 興輝(イバヤシ コウキ) 藤本 賢治(フジモト ケンジ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)
伏見 清秀(フシミ キヨヒデ) 三牧 正和(ミマキ マサカズ)
後藤 雄一(ゴトウ ユウイチ) 藤野 善久(フジノ ヨシヒサ)

目的 従来,わが国のミトコンドリア病の疫学調査は,おもに病院アンケート調査によって行われ,全国規模の患者調査は実施困難であった。しかし,近年電子レセプトデータの利用環境が整備・拡充されつつあり,研究目的の利用も推進されている。本研究では,DPCデータを用いてミトコンドリア病の有病者数の推定を行った。また,今回利用したDPCデータの利用可能性および今後の課題について検討した。

方法 一般社団法人診断群分類研究支援機構の調査研究に協力している国内のDPC参加病院のデータを用いて,病名検索によりミトコンドリア病患者を抽出した。主要評価項目は,ミトコンドリア病の有病者数とした。また,副次評価項目として,ミトコンドリア病患者の各種集計(疾病グループ,性別,年齢,在院日数,ICD10分類,各種医療行為,入院患者の都道府県別分布,入院中の死亡)を行った。

結果 ミトコンドリア病の有病者数は1,386人と推定された。

結論 DPCデータを利用することで,ミトコンドリア病の有病者数は推定可能であることが示唆された。しかし,より悉皆性の高い調査を行うためには,DPCに参加していない病院の入院患者,および外来患者のデータベースを加えて調査する必要がある。

キーワード ミトコンドリア病,指定難病,有病者数,DPC,記述疫学

 

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第67巻第4号 2020年4月

ヒトT細胞白血病ウイルス1型キャリア支援に
向けた実態調査

滝 麻衣(タキ マイ)

目的 本調査研究の目的は,ヒトT細胞白血病ウイルス1型(以下,HTLV-1)のHTLV-1感染者(以下,キャリア)を対象とした健康関連QOL(以下,HRQOL)実態調査を行うことで,HTLV-1総合対策におけるキャリア支援体制の確立に向けた布石とすることである。

方法 対象は,関西地区に存在するHTLV-1専門外来で経過観察中のキャリアのうち,2017年11月から1年の期間内に調査協力が依頼できた120名とした。調査項目は基本属性,キャリアと診断された際の経緯や思いに関する質問およびHRQOL測定のためのMOS Short-Form 36-Item Health Survey Ver.2(以下,SF-36)を用いた。得られた回答の度数分析はExcelを用いて集計し,HRQOL平均得点や変数間の比較においてはRを用いたt検定を実施した。

結果 有効回答53件のうち女性が84.9%,50代が35.8%を占めていた。キャリアであることを知ったきっかけは「献血後の通知」が最も多く47.2%,次いで「妊婦健診」が28.3%であった。その他の回答には,術前検査や,家族の関連疾患発症をきっかけに検査を勧奨された者も含まれていた。キャリア診断後は家族やパートナー,医療者に相談したとの回答が多い一方,18.9%は「誰にも相談できなかった」と回答していた。96.2%は医師に相談したいと回答しており,必要なHTLV-1関連情報は「専門的な知識」が最も多かった。HRQOL得点は,全体では男性より女性の方が低い傾向にあり,女性では50歳未満において全体的健康感(p<0.05),活力(p<0.01),こころの健康(p<0.05),精神的健康感(p<0.01)が50歳以上の女性および健康成人女性の国民標準値より有意に低かった。

結論 女性の回答者割合が多かったのは全国的な男女比に合致していた。回答者の大半が「医師」による「関連疾患の発症や治療に関する情報」を必要としていたのは,キャリアが相談窓口で期待する情報を入手できなかった経験や,一般診療では関わることのない臨床心理士の役割を知らないなどの可能性が考えられた。HRQOL得点で50歳未満の女性キャリアが50歳以上の女性および同年代における健康成人女性の国民標準値より有意に低かったのは,出産・子育て世代の女性特有のストレスに加え,キャリア診断後の支援体制が十分とは言えないことが不安材料となっている可能性が高いと考えられる。HTLV-1総合対策が推進するHTLV-1母子感染対策協議会の設置や研修,普及・啓発活動が行われていない都道府県も少なくないが,キャリアが少ない地域こそ徹底した母子感染・水平感染防止策を講じる必要があるといえ,抗体価検査後の確定検査を含む相談・支援体制の整備を図る必要があると考える。

キーワード ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1),ヒトT細胞白血病ウイルス1型感染者(キャリア),健康関連QOL(HRQOL),実態調査,HTLV-1総合対策,キャリア支援

 

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第67巻第4号 2020年4月

学校・学区を単位とした子ども・子育て支援の実施状況

-全国市町村調査結果を踏まえて-
澁谷 昌史(シブヤ マサシ)

目的 地域共生社会への関心が高まる一方,学校教育を目的として設置・設定される学校・学区を,学齢期の子どもと保護者の生活課題に取り組むためのプラットフォームとしていくことに関心がもたれるようになっている。しかし,そのための素地が実際にどの程度形成されているのかについては明らかにされていない。本研究では,この点についての実態把握を行い,学校・学区を単位とした子ども・子育て支援の課題について検討した。

方法 全国1,698市町村(政令市を除く)を対象に質問紙調査を実施した。調査期間は2018年12月中とした。学齢期の子どもと保護者を対象に含む19の子ども・子育て支援を取り上げ,それらの学校・学区単位での実施例の有無をたずねるとともに,実施必要性・実施可能性の有無,実施にあたっての障壁について回答を求め,自治体の規模別でクロス集計とχ2検定を行った。

結果 有効回収率は26.1%(443件)であった。「子どもの居場所の設置」はほとんどすべての自治体で「実施例あり」として回答された。障害児や要保護児童等への支援を学校・学区単位で行うことについては,「実施例あり」の回答割合が中程度以上みられた一方,ショートステイやトワイライトステイ,食事サービスのように,既存の学校教育機能の範疇にないと考えられやすいものは「実施例なし」の回答割合が大きかった。学校・学区を単位とした連携システムについては,幼稚園・保育所・小学校間での連携にかかるものを除くと,施策として明示的に発達させる対象とはなっていなかった。

結論 学校のプラットフォーム化はまだ普及しておらず,学校数減少という課題に直面している自治体が少なくないこともあって,今後も急速にその方向へと動いていく状況にはない。ただし,国が予算措置を含むリーダーシップを発揮することが施策の推進に大きく関与するものと推測された。また,学校・学区単位で支援を実施するだけでなく,支援者同士が連携を図るシステムができるように市町村で計画的な施策の推進を行う必要がある。

キーワード 地域共生社会,学校プラットフォーム,子ども・子育て支援,市町村

 

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第67巻第4号 2020年4月

各市町村における病児対応型保育定員と一般保育所在所者数,
小児科医師数,財政指標との関係

江原 朗(エハラ アキラ)

目的 乳幼児は月に平均2回程度医療機関を受診しているが,軽微な急性疾患に罹患した子どもの登園を保育所は原則認めていない。病児対応型保育施設が整備されつつあるが,地方間の偏在が認められる。そこで,市町村の病児対応型保育定員の地方間格差を人口,医療資源,財政的な側面から説明する。

方法 重回帰分析(線形回帰)により,各市町村における病児対応型保育定員を,一般保育所在所者数,小児科医師数,実質単年度収支および市町村の所在する地方,市町村の人口規模のダミー変数により説明する回帰式を計算した。

結果 重回帰における調整済み決定係数(R2)は,0.684(P<0.001)であり,各市町村の病児対応型保育定員の68.4%を今回の解析で説明することができた。各市町村の病児対応型保育定員は,一般保育所在所者千人あたり1.806人,小児科医師数1人あたり0.071人,市町村の実質単年度収支10億円あたり0.735人増加した(ともにP<0.001)。また,関東地方の市町村に比べて,他の地方の市町村では保育定員が多く,その差の最高値は中国地方の2.656人であった(中部,中国,四国,九州・沖縄では差が0である確率はP<0.05)。一方,人口規模20~30万人の市町村に比べて,政令指定都市では定員が2.920人少なかった(P=0.020)。また,各説明変数の影響の大きさを比較するために,平均0標準偏差1にそろえた標準偏回帰係数を求めると,その絶対値は,(一般保育所在所者数)>(小児科医師数)>(実質単年度収支)>(地方による加算定数のうち正の最高値,中国地方)>(人口規模による加算定数のうち負の最低値,政令指定都市)の順であった。

結論 病児対応型保育定員の全国格差は,養育環境その他の地域性よりも市町村における一般保育所在所者数,小児科医師数や財政収支といった構造的な問題によるところが大きく,全国であまねく病児対応型保育を普及するには,病児保育事業を実施する主体を市町村から都道府県などの広い圏域に拡大することや財政の脆弱な市町村へのさらなる財政支援が必要であると思われた。

キーワード 病児保育,子育て支援,感染症,外来受療率,地方間格差

 

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第67巻第4号 2020年4月

都市部高齢者における
食品摂取多様性および所得と精神的健康度との関連

田中 泉澄(タナカ イズミ) 北村 明彦(キタムラ アキヒコ) 横山 友里(ヨコヤマ ユリ)
成田 美紀(ナリタ ミキ) 清野 諭(セイノ サトシ) 遠峰 結衣(トオミネ ユイ)
西 真理子(ニシ マリコ) 新開 省二(シンカイ ショウジ)

目的 高齢期の精神的な健康に寄与する要因の一つとして食品摂取に着目し,都市部の高齢者の精神的健康度と食品摂取多様性の関連について,経済的要因としての所得等を考慮して検討した。

方法 対象は,東京都大田区に在住し要介護認定を受けていない65歳以上の男女である。15,500名に自記式調査票を郵送し,回答を得た11,925名のうち,本研究の条件を満たす10,266名を解析対象とした。精神的健康度はWHO-5(日本語版)により,食品摂取多様性は10品目からなる食品摂取多様性スコア(DVS)によりそれぞれ評価した。DVSおよび所得と精神的健康度との関連は,目的変数を精神的健康度,説明変数を等価所得区分およびDVS区分とし,その他の関連因子を強制投入した二項ロジスティック回帰分析を用いた。

結果 低DVS群に比べて高DVS群では,精神的健康度が良好である多変量調整オッズ比(OR)は,男性で1.99(95%信頼区間:1.73-2.30),女性で1.73(1.52-1.96)であった。また,等価所得が最も低い群に比べて高い群では,精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比は,男性で2.27(1.95-2.64),女性で1.37(1.19-1.58)であった。DVSと等価所得を組み合わせた検討では,低所得・低DVS群を基準とすると,男性では低所得・高DVS群(OR 1.54),中所得・高DVS群(OR 1.83),高所得・高DVS群(OR 1.73)の精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比が有意に高値であった。女性では,中所得・高DVS群(OR 1.56),高所得・低DVS群(OR 1.47),高所得・高DVS群(OR 2.16)において,精神的健康度「良好」の多変量調整オッズ比が有意に高かった。

結論 都市部在住の高齢者において,DVSおよび等価所得は精神的健康度と有意に関連し,等価所得を考慮した上でもDVSが高い群では精神的健康度が良好であることが明らかとなった。本研究より,多様な食品を摂取することは精神的な健康と関連している要因の一つとなる可能性が示された。

キーワード 高齢者,食品摂取多様性,都市部,等価所得,精神的健康度

 

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第67巻第3号 2020年3月

国際生活機能分類(ICF)の
社会統計としての活用に関する考察

-スイス,ドイツの状況と国連障害者権利条約(CRPD)等の観点から-
高橋 秀人(タカハシ ヒデト) 大夛賀 政昭(オオタガ マサアキ)

目的 国際生活機能分類(ICF,以下,ICF)は健康状態を生活機能(「心身機能,身体構造」と「活動と参加」)であらわし,その規定要因として「環境因子」「個人因子」を考える統計分類である。またICFは「生活実現化モデル」として,様々な対象者に対し,「個人の生活状況」「生活を支えるための必要な支援」を記述することができるようになり,これにより国家統計(社会統計)として国別比較などのより広い分野での活用が期待されている。その一方で,国際障害者権利条約(CRPD,以下,CRPD)や,持続可能な開発目標(SDGs,以下,SDGs)における包摂性として,「障害者」「生活弱者」などの権利保全や対策効果の見える化としての社会統計が求められている。本研究の目的は,ICFの国の代表指標(社会統計)への活用に関し,CRPDの観点から諸外国(スイス,ドイツ)では,どのようにCRPDへ取り組んでいるのか,社会指標としてどのようにICFを活用しているのかについて明らかにし,今後の日本における「社会統計」への実装に関する検討を行うことである。

方法 第7回厚労省ICFシンポジウム(2019年1月)における,シンポジストおよびWHO-FIC総会(2018年10月)資料,ICF関連ポスターの紹介(501-527)計27研究より本研究に関連する発表(訪問先)を2題(スイスとドイツ)決定し,その発表者を訪問しヒアリングを行った。質問項目は,貴国ではどのようにCRPDに取り組んでいますか,社会指標としてどのようにICFを活用していますか等である。

結果 スイスではICFを用いた社会統計の実装は進んでいない。ドイツではCRPD履行のための法律整備および法律をもとにした行動計画が進んでいる。これはICFの概念に基づいているため,CRPD履行による統計整備がそのままICFに基づいた社会統計の実装につながると考えられる。

結論 ICFを国の代表指標(社会統計)として実装するためには,CRPDへの対応としての「法律整備」をICFの概念を用いて整理すること,すなわち「健康に関する生物心理社会的モデル」を用いることが重要となる。また他の指標と組み合わせて政策・介入効果を検証できるような仕組みを加えることで,この分野のエビデンスの飛躍的な創出が期待できる。そのためには,対象者を「障害者」のみならず「生活弱者」「福祉対象者」を含むようにより広く設定すること,およびICF概念の数量化のために,既存の統計調査をICFコンポーネントにより読み替える,あるいはICF一般セットやWHO障害調査スケジュール(WHO-DAS)2.0などの既存セットを活用する,または新たに数量化方法を開発するなど,具体的な方法が必要となる。

キーワード 社会統計,国際生活機能分類(ICF),国際障害者権利条約(CRPD),持続可能な開発目標(SDGs),WHO障害調査スケジュール(WHO-DAS2.0)

 

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第67巻第3号 2020年3月

原死因確定作業についての実態・問題点の把握,
ならびに正確・効率性向上に向けた機械学習の
適用可能性と課題に関する調査研究

今井 健(イマイ タケシ) 明神 大也(ミョウジン トモヤ) 大井川 仁美(オオイガワ ヒトミ)
香川 璃奈(カガワ リナ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 人口動態調査は国勢調査と並ぶ国の主要統計で公衆衛生施策の中心的資料である。本研究ではこの中で死亡票に着目し,わが国における原死因確定作業の実態と問題点を明らかにすること,また,正確・効率性向上に向けた機械学習の適用可能性と課題について調査・検討を行うことを目的とした。

方法 まず,文献と厚生労働省担当者へのヒアリングを通じて,わが国における原死因確定プロセスの概要ならびに現状のオートコーディングシステムと人手確認作業の実態について調査を行った。次に,検証用に作成したダミーの死亡診断書ならびに原死因確定作業データを対象とし,諸外国で広く用いられているオートコーディングシステムIrisを用いた原死因確定作業の検証を行った。また,これらのプロセス分析結果を元に,正確・効率性向上のための機械学習の適用可能性について検討を行った。

結果 現行のオートコーディングシステムはルールに基づいた処理であること,同システムでICD-10コードが完全付与できないケースや付帯情報が含まれている場合については人手での目視確認による原死因確定作業が行われ,月約10万件の死亡票データのうち,約4割を占めていることが判明した。また死亡票ダミーデータを用いた分析から,特に付帯情報は最終原死因コードの確定に大きく影響を及ぼし得ることが判明した。原死因確定作業のさらなる高精度化と効率化のための機械学習の適用については,①Ⅰ欄Ⅱ欄傷病名に対するICD-10コーディングや②ICD-10コードの組み合わせからの選択ルールに基づいた仮原死因確定作業については,機械学習の適用が困難,あるいはメリットが大きくない一方で,③付帯情報を考慮した最終的な原死因確定プロセスについては,機械学習適用のメリットが大きいことが判明した。また,機械学習の適用シナリオとしては,「プロセス全体に対する適用」と「プロセス分解による部分的適用」の2つが考えられたが,後者は前者に比べて大幅な精度向上が期待できると共に,付帯情報の影響に特化して学習できる点からより適していると考えられた。

結論 今後,わが国の原死因確定プロセスに対し,上記のシナリオに準じ機械学習を部分適用することによって,現状の月約4万件に及ぶ人手確認作業の大幅な効率化と高精度化が期待できると考えられた。

キーワード 人口動態調査,死亡票,原死因確定プロセス,ICD-10,機械学習

 

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第67巻第3号 2020年3月

全国市区町村別にみた自宅死に占める外因死の割合

谷口 雄大(タニグチ ユウタ) 渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 翠川 晴彦(ミドリカワ ハルヒコ)
太刀川 弘和(タチカワ ヒロカズ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ)

目的 急速に高齢化が進むわが国では,地域包括ケアシステムの構築に向けて在宅医療体制の充実が求められている。その際に考慮すべき重要な課題の1つが看取りの場であるが,現状では国民の多くが自宅で最期を迎えることを希望しているにも関わらず,実際は大半が自宅ではなく病院で死亡している。一方,厚生労働省による「在宅医療にかかる地域別データ集」等の統計や多くの先行研究では,死亡場所が自宅であった死亡すべてを自宅死としてきた。しかし,この定義による自宅死の中には自宅での看取り以外に自殺や孤独死も含まれるため,すべてが望まれた自宅死ではない可能性がある。本研究では,自宅死に占める外因死の割合を全国の基礎自治体別ならびに都道府県別に明らかにし,在宅医療体制の指標として現行の自宅死を用いることの妥当性を検証した。

方法 厚生労働省より提供を受けた2014年人口動態調査死亡票を用いた。全国の基礎自治体における65歳以上の日本人の自宅死数ならびに自宅での外因死数を把握し,自宅死に占める外因死の割合を算出した。

結果 自宅死数が1名以上であった1,700市区町村について,自宅死に占める外因死の割合の中央値(四分位範囲)は6.25(1.99,10.6)%であった。また都道府県別にみた場合,最大値は13.5%(福岡県),最小値は3.66%(和歌山県)であり,自治体間のばらつきを認めた。

結論 在宅医療体制の指標として自宅死数を用いる際は,その中に自宅での看取り以外の死が一定数含まれること,その割合は自治体ごとに異なることに留意する必要がある。またより適切な在宅医療体制の指標として,自宅死全体から外因死を除いた値を用いることも検討すべきである。

キーワード 自宅死,在宅医療,地域包括ケアシステム,外因死,高齢者,指標

 

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第67巻第3号 2020年3月

発達障害のある子どもを養育する家族のレジリエンス

涌水 理恵(ワキミズ リエ)

目的 養育レジリエンスとは,「発達障害のある子どもの養育が困難であるにもかかわらず,親が良好に養育に適応していることを表す特徴やその過程」を指す。家族の養育レジリエンスは,当該児と家族を外来や地域コミュニティで継続的にケアしていくための家族看護における主要アウトカムである。今回は,当該家族を対象に,家族の養育レジリエンスの実態を把握し,その関連要因を探索することを目的とした。

方法 2017年4月に,当該家族に対し,web上で無記名自記式質問紙調査を実施した。質問項目は,回答者の属性・子どもの属性・養育に関連したサービスの利用・家族の養育レジリエンスであった。家族の養育レジリエンスは,①子どもの特徴に関する知識,②社会的支援,③育児への肯定的な捉え方,の3要素で構成されるParenting Resilience Elements Questionnaire(PREQ)日本語版を用いて評価した。

結果 315名の子どもを育てる281名の親が調査に参加した。調査時の当該児年齢は平均11.3±5.1歳,診断時年齢は平均6.3±4.2歳であった。いずれのサービスも利用していない子どもが約4割を占め,利用割合が多かったのは児童デイサービスで約3割だった。現在利用しているサービスを今後も継続することを希望する親が多い一方で,新規サービスについては約8割が親向け子育てプログラムを希望していた。PREQ総得点は平均78.7±12.7点であり,ホームヘルプサービスを利用していること(p=0.042),その他のサービスを利用していること(p<0.001),きょうだいがいないこと(p=0.023),当該児の養育について頼れる家族外のサポーターがいること(p=0.049)が高いPREQ総得点に関連していた。

結論 本研究により,発達障害のある子どもの属性やライフステージに応じたサービスの利用実態や家族のニーズ,養育レジリエンスの実態が示された。今後は発達障害のある子どもと家族が必要とするサービスのアドボカシーを進めると同時に,家族の養育レジリエンスを高める具体的な支援の方策を検討する。

キーワード 家族看護,サービス,発達障害,養育レジリエンス

 

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第67巻第3号 2020年3月

レセプトデータからみた認知症の地域差

-新潟県の全後期高齢者による検討-
田代 敦志(タシロ アツシ) 菖蒲川 由郷(ショウブガワ ユウゴウ) 齋藤 玲子(サイトウ レイコ)

目的 住民の高齢化に伴い増加が予想される認知症患者について,新潟県の全後期高齢者のレセプトデータより市町村別の男女別入院割合や住民当たりの入院医療費の地域差を明らかにし,将来的に認知症に伴う入院医療費がどのように変化するか検証することを目的とした。

方法 新潟県後期高齢者医療広域連合が保有し,外部委託機関で匿名化処理された2012年から5年間の医科レセプトデータを元に,市町村別の認知症入院割合(住民全体に対して認知症で入院した者の割合)と住民当たりの認知症入院医療費(認知症による入院総医療費を住民数で除したもの)について地理情報システム(GIS)を用いて可視化し,認知症の入院割合と住民当たりの認知症入院医療費の関連についてピアソンの相関係数を求めた。認知症に関連する入院医療費推計は,国立社会保障・人口問題研究所の市町村別人口構成の将来予測を参考に医療圏単位の人口構成の変化を年齢階層別に再構成し,2015年の世代別の住民当たり認知症医療費が一定という仮定の下で2040年までの予測を行った。

結果 認知症の入院割合は男性で3.5%~6.1%,女性で3.2%~6.7%(2012~2016年の5年間の平均値)と自治体によって大きく異なっていた。認知症の住民当たりの入院医療費は,男性で4.5万円~10.1万円,女性で3.9万円~11.4万円(2012~2016年の5年間の平均値)であり,入院割合と同様に地域差が大きかった。入院割合と住民当たりの入院医療費の相関は,男性でr=0.76(P<0.001),女性でr=0.78(P<0.001)の相関を認めた。医療圏別の認知症の入院医療費は,新潟市を除いて2040年までにピークに達し,人口減少が大きい佐渡医療圏では減少に転じると予測された。

結論 新潟県において認知症による入院割合や住民当たりの入院医療費は,自治体により大きく異なり2倍以上の地域差を認めた。認知症の入院医療費は人口減少により2040年までに都市部を除いてピークに達することから,今後は人口が集中する地域において介護分野を含めた認知症対策の重要性が増すことが予想される。

キーワード 認知症,入院割合,入院医療費,データヘルス,地域差

 

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第67巻第2号 2020年2月

認知症の人の家族介護者(主たる介護者)に対する
エンパワーメント評価尺度の開発

菅沼 一平(スガヌマ イッペイ) 南 征吾(ミナミ セイゴ)
中西 亜紀(ナカニシ アキ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究の目的は,認知症の人の家族介護者(主たる介護者)のエンパワーメントを測定するための評価尺度(Empowerment Assessment Scale for Principal Family Caregivers of Persons with Dementia:EASFCD)を開発し,その尺度の妥当性および信頼性を検証することである。

方法 調査対象者は,吹田市,豊中市,京都市,加古川市,北九州市,伊万里市における介護事業所等のサービス利用者の家族介護者(主たる介護者)190名である。調査票については,調査協力に同意した家族介護者に手渡し等で配布を行い,郵送あるいは手渡しでの回収(無記名)を行った。その結果,117部を回収(回収率61.6%)した。尺度の基本的な構成概念の確定のために探索的因子分析を行い,併存的妥当性の検証のために,基準となる標準尺度を用いて相関分析を行った。また,尺度の信頼性の検証を行うために,Cronbachのα信頼性係数を用いた信頼性分析を行った。

結果 45項目のEASFCD試作版は,因子分析の結果,6因子33項目となった。その因子は,因子1(介護への否定的感情),因子2(介護の知識・技術に関する自己効力感),因子3(介護に対する意識・結果・期待),因子4(介護への肯定的感情),因子5(被介護者との関係性),因子6(相談相手の有無と情動的サポート)であり,累積寄与率は57.1%であった。また,基準となる尺度との相関については,中程度(0.3~0.4程度)の負の有意な相関がみられた。因子ごとのCronbachのα信頼性係数は,相談相手の有無と情動的サポート以外は,おおむね0.7以上であった。これらのことから,尺度の構成概念について,基本的な構成概念は検証されたと考える。尺度の基準関連妥当性については,基準となる尺度との関連性がみられたため,基準関連妥当性があると判断でき,因子ごとのCronbachのα信頼性係数も,ある程度の高い数値を示しているため,尺度の内的一貫性(信頼性)があると判断できた。

結論 本研究で開発された尺度(EASFCD)の構成概念については,一部の変更があったが,基本的な構成概念については検証されたと考えられる。また,基準関連妥当性や内的一貫性(信頼性)については検証され,本尺度は,妥当性および信頼性を有する尺度であると言える。

キーワード 認知症の人,家族主介護者,エンパワーメント,尺度開発

 

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第67巻第2号 2020年2月

墓数の推計と今後の予測モデルの確立に関する検討

久保 慎一郎(クボ シンイチロウ) 西岡 祐一(ニシオカ ユウイチ)
野田 龍也(ノダ タツヤ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 墓は年間約130万人が死亡している中で,今後その需要が増大すると考えられている。しかし,墓制を見直す動きもある中,日本は少子高齢化が進み,人口は減少傾向にある。そのため現在は墓が増加しているが,将来は一転して人口減少により墓数の大幅な減少(未継承墓の増大)が見込まれる。よって,日本は未継承墓(無縁仏)が乱立する危機的な状況に陥る可能性がある。これは大きな社会問題となり得るが,正確な将来推計がないため問題提起されているとは言い難い。この推計は一見すると簡単だが,日本の複雑な墓の継承制度を考慮すると,男系の継承の複雑さや死亡・未婚で未継承となるため,きわめて困難な推計となる。本研究では,人口の推移と死亡率等より過去から将来にわたる墓数の推移について推計し,墓地行政への基準となる算定方法を確立することとした。さらに,墓制は文化や家族の在り方・心情などが影響することを含め,今後の墓制の在り方を検討する。

方法 墓数の推計モデルとして1960年(昭和35年)を起点とし,世代間は30年を想定し,基準となる第一世代の墓の数(その世代の長男の数)を100万基とし,継承のプロセスを経ることによってその推移を推計した。80年で1世代が終了すると仮定し,その後の5世代を経て2160年には,「継承墓」「新規墓」「未継承墓(無縁仏)」の3種類で墓数が何基になるか推計した。4世代以降の推計は3世代と同様の発生確率であったと仮定して,どのように推移するかを5世代目まで算出した。継承には様々な確率や誘因を伴うため,各種統計調査より未婚・死亡・男子の生まれる比率を確率化し,その世代ごとに何%継承するかを算出した。これらを基に墓数を集計し,簡易的な計算方法として合計特殊出生率を用いた墓数の推計と比較した。その結果をもとに今後の方策を政策提言し,未継承を低減させる方法を提唱した。

結果 合計特殊出生率を用いて単純に墓数を算出した際は,1世代目の時点で5%ほど墓数は減少し,3世代を経ることで半分以下となることがわかった。出生比率から計算した墓数の推計によって,墓数は3世代を経ることでほぼ2倍,5世代を経ることで2.6倍になることがわかる。また,既存の墓で継承する墓数は合計特殊出生率を用いた計算法方法とほぼ一致した。ただし,一方で未継承墓(無縁仏)は年々増加し,5世代を経ることで急激に増加することがわかった。今後の墓政としては,継承の在り方を変える,現在の形式にとらわれない様々な埋葬を行う,墓地のルールを変えるなどの方策が考えられる。

結論 今後日本では,墓数は増大するが,継承できる墓数は減少し,墓地には無縁仏があふれる状況がわかった。ただし,これは単純集計に基づいたものであり,今後の出生率や死亡率の変化によっては大きく数値が変わる可能性がある。従って,この数値が重要なのではなく,この数値をもとに今後の墓政の見直しを日本全体で見直すことが一番重要であるといえよう。

キーワード 墓数,未継承墓,新規墓,無縁仏,墓制

 

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第67巻第2号 2020年2月

市町村長申立事案を担う市民後見人の
現状分析と支援課題の検討

-成年後見実施機関の支援・監督を受けて活動する市民後見人に焦点をあてて-
永野 叙子(ナガノ ノブコ) 小澤 温(オザワ アツシ)

目的 市民後見人の選任が進まない現状を踏まえ,市民後見事業のモデルとなっている地域で活動する市民後見人に焦点をあて,市民後見人と被後見人の現況,後見事務実施状況,関連機関との連携経験と内容を分析することで,市民後見人の必要性と期待される後見事務を明らかにし,支援課題を検討した。

方法 2016年12月~2017年3月に,Z県10カ所の成年後見実施機関(以下,実施機関)を後見監督人とする個人受任の市民後見人142名に対して質問紙調査を実施し,市民後見人の基本属性と「市民後見人の定義」,被後見人の概要と受任調整時に用いられる「市民後見人選任基準」とを比較した。後見事務の実施状況は,契約を伴う法律行為と日常生活を支援する行為は頻度,非日常性の対応は経験の有無と内容,また,関連機関との連携経験と内容の回答を求めた。

結果 市民後見人は「国家資格等を所有」「受任経験がある」「実施機関の支援・監督下にある」点で最高裁判所の定義を超え,また,選任基準を超えた在宅生活者の被後見人への後見活動が確認された。後見事務実施状況では,受任ケースは純粋に財産管理のみの後見事務は極めて少なく,大部分は医療,福祉,介護サービスの受給を含む日常の契約行為や生活支援が多くなされていた。一方で「ケア会議への出席」は,「活動なし」が全体の1/4程度みられた。「緊急入院」等の非日常性の対応経験がみられた。市民後見人が連携した関連機関は,実施機関に集中しており,連携内容では「ケースの相談」「専門的助言」が多く行われていた。

結論 市町村長申立案件,低報酬等から,市区町村が市民後見人を公共的な後見人として活用している現状が認められた。これらの実績を他の第三者後見人との違いとして成年後見制度の利用支援システムにおいても明確にする必要がある。今後期待される後見事務は,施設ケアのプラン作成に関わるスタッフと意見交換するケア会議に,市民後見人が被後見人と共に参加することが望まれる。支援課題の検討では,非日常性の対応において実施機関担当者が適宜,市民後見人の活動報告書に対するフィードバックを行うことで,市民後見人自身の判断の振り返り,支援関係者との連携に役立つ基礎資料となる。一方で,実施機関は相談支援の要として関連機関との連携・調整といった役割が一層期待されており,市民後見人の選任促進のためには,実施機関の人員確保が課題である。

キーワード 成年後見制度,市民後見人,市町村長申立,成年後見実施機関,成年後見制度利用促進基本計画

 

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第67巻第2号 2020年2月

日本における40代から70代の性別,年代別
健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシーの現状

井本 知江(イモト チエ) 中井 あい(ナカイ アイ)
山田 和子(ヤマダ カズコ) 森岡 郁晴(モリオカ イクハル)

目的 日本における40代から70代の性別,年代別健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシーの評価値を明らかにし,健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシーに関わる今後の研究の基礎資料を提供する。

方法 対象者は40~79歳の男女1,197名とし,調査は郵送による無記名の自記式質問紙法で行った。健康増進ライフスタイルの把握には日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(以下,HPLPⅡ)を,ヘルスリテラシー(以下,HL)の把握には14-item Health Literacy Scaleを用いた。性別にHPLPⅡ,HLの合計得点と下位尺度の得点の平均値をt検定で比較した。さらに,年代別にHPLPⅡ,HLの合計得点と下位尺度の得点の平均値を一元配置分散分析で比較し,有意差があった項目はTukeyまたはGames-Howellで差の検定を行った。加えて,年代による変化傾向をみるためTrend検定を行った。

結果 有効回答率は男性37.6%,女性41.9%であった。HPLPⅡの合計得点の平均値は,男性2.53±0.38(平均±標準偏差)点,女性2.69±0.35点であった。合計得点と下位尺度の平均値はいずれも男性が女性を下回り,合計得点,健康の意識,人間関係,栄養,ストレス管理において有意差があった。また,男性,女性とも年代が上がるにつれて合計得点の平均値が有意に高くなる傾向にあった。性別HLの合計得点の平均値は,男性51.65±8.52点,女性55.61±8.04点であった。合計得点と下位尺度の平均値はいずれも男性が女性を下回り,合計得点,相互作用的HL,批判的HLにおいて有意差があった。また,男性,女性とも年代が上がるにつれて合計得点の平均値が有意に低くなる傾向にあった。

結論 HPLPⅡの合計得点,健康の意識,人間関係,栄養,ストレス管理の平均値は男性が女性に比べて有意に低く,男女とも年代が上がると合計得点の平均値は有意に高くなった。性別HLの合計得点,相互作用的HL,批判的HLの平均値は男性が女性に比べて有意に低く,男女とも年代が上がると合計得点の平均値は有意に低くなった。

キーワード 健康増進ライフスタイル,ヘルスリテラシー,性別,年代別

 

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第67巻第2号 2020年2月

在宅での看取りに関連する住民の認識

-在宅死が多い地域を対象とした分析を通して-
末田 千恵(スエダ チエ)

目的 在宅死が多い地域住民の在宅療養や在宅看取りおよび地域特性に対する認識から,在宅での看取りに関連する要因を明らかにすることを目的とした。

方法 平成29年11月~平成30年1月に,横須賀市の市民活動サポートセンターが主催する地域活動に参加している住民700名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,基本属性や在宅看取りの経験や在宅療養や地域特性に関する認識40項目であった。分析方法は,探索的因子分析により,在宅での看取りに関連する要因を検討した。

結果 調査対象者は349名(有効回答率49.9%)で,基本属性は女性が226名(64.8%)で,年齢は65歳以上の高齢者が245名(70.4%)を占めていた。また200名(59.3%)が家族・友人知人・近所のいずれかに在宅看取りをした人がいると回答した。因子分析の結果,在宅死に影響を与えている要因として30項目から8因子が抽出された(累積寄与率51.2%,全体のCronbachのα係数0.90)。抽出された因子は『安心できる療養体制(医療・看護・介護)』『家族の結びつき』『地元への愛着』『地域とのつながり』『死への畏敬と受容』『在宅療養への行政の支援』『療養する場への安心感』『在宅療養に必要な知識』であった。

結論 各自治体で在宅での看取りを促進していくためには,医療・看護・福祉のフォーマルな社会資源の充実,住民への在宅療養に関する知識の普及啓発により在宅療養に安心感をもてるようにすること,地域において住民同士が助け合えるようなインフォーマルな地域の介護力を醸成し,これからも住み続けたいという地域への愛着を感じられるような方略が重要である。

キーワード 在宅死,看取り,地域,住民,在宅療養

 

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第67巻第2号 2020年2月

無料低額診療事業の利用者の特性に関する研究

-無料低額診療の実態と効果に関するコホート研究より-
西岡 大輔(ニシオカ ダイスケ) 玉木 千里(タマキ チサト) 古板 規子(フルイタ ノリコ)
中川 洋寿(ナカガワ ヒロカズ) 佐々木 恵林(ササキ エリン) 長谷川 美智子(ハセガワ ミチコ)
植松 理香(ウエマツ リカ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 医療アクセスの格差は世界的に観察されている。日本でも所得が低い人ほど受診抑制を経験するなど,経済状況による医療アクセスの格差が知られている。無料低額診療事業は「生計困難者が経済的理由で必要な医療を受ける機会を制限されることのないように無料又は低額な料金で診療を行う事業」として社会福祉法に規定されており,医療アクセス格差の是正に寄与している可能性があるが,実際の運用状況や利用者の特性等についてはほとんど明らかになっておらず,意義や効果を疑問視する政策議論もある。そこで本研究では,同制度の利用者の特性を分析することを目的とした。

方法 進行中の「無料低額診療の実態と効果に関するコホート研究」の2018年7月1日から12月31日までのデータを用いた。同研究は京都府の3つの医療機関で無料低額診療事業を適用した成人患者のうち,研究に対して同意を得た者を対象としている。適用を審査する際に用いた面談データ,および生活歴等を聴取する質問紙と健康関連QOL(SF-8)の調査データを用いて,利用者の背景要因を集計・記述した。

結果 対象者は80人で,平均年齢は68.3歳であった。40人(50.0%)が男性で,42人(52.5%)が独居であった。生活保護制度の支給基準額周辺の世帯所得の人が多く,無収入のものもいた。41人(51.3%)は友人知人に会う機会が月1回もなく,過去1年間に経済的な理由で受診を控えたことがある者は23人(28.8%)であった。傷病の罹患については,「糖尿病」が17人(21.3%),「脂質異常症」が20人(25.0%),「高血圧症」が26人(32.5%),「悪性腫瘍」が18人(22.5%)であった。利用者のSF-8のサマリースコア(偏差値)の中央値は,身体的スコアが37.4で,精神的スコアが41.9であった。

結論 無料低額診療事業の利用者は,実際の疾病の罹患に加え,一般集団に比べて健康関連QOL尺度のスコアが低く,無就労や友人知人との交流が少ないなど,心理社会的な課題を有している可能性が示唆された。同事業の利用をきっかけとして,経済的な支援に加えて,地域での社会的包摂につながるような制度設計が望ましい。今後は全国的なデータにより本研究同様に利用者や医療機関の特性,無料低額診療事業が及ぼす健康と健康格差への効果,および経済的影響を明らかにすることが求められる。

キーワード 無料低額診療事業,無低診,社会福祉,健康の社会的決定要因,健康格差,社会的処方

 

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第67巻第1号 2020年1月

里親委託等を推進するための指標の在り方に関する考察

平林 浩一(ヒラバヤシ ヒロカズ)

目的 社会的養護を必要とする児童の養育について,平成28年の児童福祉法改正では,原則として里親や養子縁組といった家庭養護を優先して推進することとした。しかし,里親委託等の推進に係る現行指標である「里親等委託率」の定義(算出方法)には課題があり,養子縁組の成立が里親等委託率を低下させる要因となっている。本研究では,各都道府県の乳児院・児童養護施設の定員と里親委託等の状況を比較・分析し,その上で,特別養子縁組等に係る児童福祉法改正や民法改正の方向性を踏まえながら,里親委託等を推進するための指標(数値目標)の在り方について考察した。

方法 平成28年度「福祉行政報告例」のうち,乳児院・児童養護施設の定員・入所児童数,里親・ファミリーホームに委託されている児童数,里親数の統計データを用いて里親委託等の状況の比較・分析を行った。次に,各年度の「福祉行政報告例」のうち,里親委託解除理由の統計データにより,里親委託解除から養子縁組となった児童の状況等をみるとともに,現行指標の定義を見直し,里親委託等と養子縁組の両制度の成果を一つの指標とした場合について試算を行った。

結果 都道府県別の「乳児院・児童養護施設定員の要保護児童数に対する割合」と「里親等委託率」との相関をみると,施設定員が要保護児童数に比べて多い都道府県ほど,里親等委託率は低くなる傾向にある。また,指標の定義を見直し,現行の里親等委託率を構成する数値に,養子縁組成立により里親委託解除となった児童数を加え,里親委託等と養子縁組の両制度の成果を一つの指標とした場合,成果値は25.1%となり,現行(里親等委託率18.3%)よりも6.8ポイントの増加となった。

結論 現行指標の定義では,里親委託等と養子縁組との間に相殺関係が生じており,両制度を推進するとした国の方向性と齟齬がある。試算の結果,現行指標では成果値も過少となる。現行指標のままでは,例えば,妊娠中から児童相談所が相談に対応し,特別養子縁組を前提とした新生児の里親委託を行うなどの,地方公共団体の先進的取組の成果も十分に反映できないだろう。令和元年の民法改正により特別養子縁組の対象年齢が拡大となったが,これにより,今後さらに相殺の影響も拡大するだろう。このため,家庭養護優先の考え方を徹底し,現行指標の定義を改正して,里親委託等と養子縁組の両制度の成果を表す指標を採用すべきであろう。

キーワード 里親委託,養子縁組,特別養子縁組,家庭養護,指標,里親等委託率

 

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第67巻第1号 2020年1月

障害者支援施設の生活支援員の不適切なケアの実態と関連要因

岡本 健介(オカモト ケンスケ) 時實 亮(トキザネ リョウ) 谷口 敏代(タニグチ トシヨ)

目的 障害者支援施設で発生する虐待の背景要因には風通しの悪い組織風土や職員相互の指摘ができない人間関係が指摘されており,不適切なケアから虐待へと移行する可能性がある。不適切なケアの予防には職員自身のストレスのない活気ある働き方や風通しの良い組織風土は重要である。本研究は不適切なケアの実態把握と,職員の活気ある働きと組織の特性との関連を明らかにすることを目的とする。

方法 中国地方5県の障害者支援施設217施設の生活支援員を対象とし,1施設6名分郵送した。調査内容は,個人特性,不適切なケア尺度,日本語版組織的公正尺度,職業性ストレス簡易調査票の職場の支援尺度,日本語版ワーク・エンゲイジメント短縮版尺度を使用した。分析方法は,本研究で用いた変数の度数と割合を不適切なケアの「あり群」と「なし群」別に算出し,割合の比較にはχ2検定を行った。不適切ケアの下位尺度のうち,「あり群」が30%以上を示した項目を従属変数とし,組織風土,職場の支援,ワーク・エンゲイジメントの各変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。

結果 未記入などの欠損データを除いた616名(有効回答率47.8%)を分析対象とした。不適切なケアの下位尺度のうち,あり群は「不当な言葉遣い」が42.7%,「施設・職員の都合を優先した行為」が38.3%,「プライバシーに関わる行為」が5.4%,「職員の怠慢」が5.0%,「自己決定侵害」が3.2%であった。「不当な言葉遣い」と「施設・職員の都合を優先した行為」の有無では,それぞれ,「手続き的公正が高い群」を基準としたとき,中群と低群では「あり群」が有意に高かった。

結論 情報提供や意見聴取などの行動および組織内の意思決定への参加などの手続きに関する組織特性が高いことが不適切なケアの発生を防ぐ可能性が示唆された。しかし,風通しの良い組織風土は生活支援員の独自の努力で改善することには限界がある。障害者支援施設の管理者は,上司,部下間との信頼関係の形成や支援に必要な情報の共有や協力体制を整備し,組織として不適切なケアの防止に取り組むことが求められる。

キーワード 生活支援員,不適切なケア,組織の公正,職場の環境整備,障害者支援施設

 

論文

 

第67巻第1号 2020年1月

妊娠の種類別にみた多胎出生の特徴

大木 秀一(オオキ シュウイチ)

目的 国内で入手可能なデータを基に,過去10年間における妊娠の種類別多胎出生の動向について詳細に分析した。

方法 厚生労働省が公表している人口動態統計と日本産科婦人科学会(日産婦)が公表しているARTデータブック(ART:生殖補助医療)を分析に用いた。目的にかなった年齢階級別データが入手できる2007年から2016年の値を分析(推定)に用いた。

総多胎出生数=自然妊娠多胎出生数+不妊治療妊娠多胎出生数=自然妊娠多胎出生数+(一般不妊治療妊娠多胎出生数+ART妊娠多胎出生数)より 一般不妊治療妊娠多胎出生数=総多胎出生数-ART妊娠多胎出生数-自然妊娠多胎出生数 となる。自然妊娠多胎出生数の推定に当たっては,自然の多胎出生数は30歳代後半までは母親の年齢(階級)とともに上昇し,40歳以降で急減するという生物学的現象を用いた。1970年代は不妊治療の影響が非常に少ないと考えられるので,1974年から1978年までの多胎妊娠を自然妊娠とみなし,この5年間の加重平均を年齢階級別自然妊娠多胎出生割合の基準値とした。ART治療中の自然妊娠はないとみなし,あらかじめこれを除き,年ごとに(総出生数-ART出生数)×年齢階級別多胎出生割合 により年齢階級別自然妊娠多胎出生数を推定した。日産婦が公表しているARTデータブックの数値を基に,2007年から2016年(最新)までのARTによる年齢階級別総出生数と総多胎出生数の推定を行った。

結果 全体的な傾向は以下のとおりであった。①自然妊娠の割合は,不妊治療妊娠の割合よりも多く,2011年に最も高かった。②不妊治療妊娠では,一貫して一般不妊治療妊娠の割合がART妊娠の割合を上回っていた。年齢階級別にみると,35歳以上に関しては,2007年を除いて自然妊娠が最多であるが,その割合は現在横ばいであり,不妊治療ではART妊娠が一般不妊治療妊娠を上回るとともに,2011年以降上昇傾向にあった。

結論 不妊治療による多胎出生割合はピークを過ぎたとはいえ,今なお多胎出生全体の半数近くに迫っており重要な課題である。特に,35歳以上のARTによる妊娠の増加傾向が注目された。正確な疫学的な記述を求めるのであればARTだけではなく一般不妊治療の登録も必須であると思われた。

キーワード 多胎出生,自然妊娠,不妊治療妊娠,一般不妊治療妊娠,生殖補助医療,人口動態統計

 

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第67巻第1号 2020年1月

NSAIDs貼付剤の処方状況に関する調査

-後発医薬品の使用促進と処方制限の視点から-
田中 博之(タナカ ヒロユキ) 石井 敏浩(イシイ トシヒロ)

目的 日本において,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)貼付剤は広く使用されているが,過去のNSAIDs貼付剤の処方状況を調査した報告では,後発医薬品の処方割合が極端に低いことや処方量の地域差などが指摘されている。また,2016年4月の診療報酬改定では,医療資源の効率化や医薬品の適正使用のために外来患者に対する貼付剤の処方が70枚/回に制限された。そこで,本論文では,近年の日本における医療費削減に関する施策である後発医薬品の使用促進や処方制限がNSAIDs貼付剤の処方量に与える影響を検討するとともに,処方量に関連し得る因子を明らかにすることを目的とした。

方法 厚生労働省ホームページで公開されている第2回,第3回レセプト情報・特定健診等情報データベースオープンデータの「薬剤」データより,NSAIDs貼付剤の処方量を調査した。また,得られたデータを処方区分別(「外来(院内)」「外来(院外)」「入院」),薬剤別,先発医薬品-後発医薬品別,年齢群別(非高齢者:0~64歳,高齢者:65歳以上),性別,都道府県別に再集計し,解析を行った。

結果 NSAIDs貼付剤の処方量は2015年度から2016年度の間に5.8億枚以上減少していることが明らかとなり,薬価ベースでの削減額は約273億円であると試算された。薬剤別の処方量は,両年度ともにケトプロフェンが最も多く,次いでロキソプロフェンであった。2016年度におけるNSAIDs貼付剤全体の後発医薬品処方割合は,2015年度と比較して5.9ポイント増加しており,特にロキソプロフェン貼付剤では29.1%から38.2%まで上昇した。年齢群別,性別の検討からは,高齢者および女性でNSAIDs貼付剤を多く使用している状況が明らかとなった。処方量の減少率は,年齢群間には差がみられず(高齢者:△12.3%,非高齢者:△11.7%),性別間では女性で△12.9%,男性で△10.6%と女性で大きくなる傾向がみられた。2016年度には,すべての都道府県で処方量の減少がみられ,また,その地域の高齢化率と処方量との間には正の相関がみられた。

結論 本研究によりNSAIDs貼付剤の処方状況が明らかとなり,近年の日本における医療費削減に関する施策である後発医薬品の使用促進や処方制限の効果が明確になった。また処方量に関連し得る因子として,性別や地域の高齢化率が示唆された。

キーワード 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),貼付剤,処方量,後発医薬品,処方制限

 

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第67巻第1号 2020年1月

大都市居住傘寿者のコホート調査

-追跡対象者の特性と4年6カ月後の生命予後および介護・医療サービスの利用状況-
長田 斎(オサダ ヒトシ) 古谷野 亘(コヤノ ワタル) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ)
澤岡 詩野(サワオカ シノ) 甲斐 一郎(カイ イチロウ)

目的 東京都杉並区は80歳の高齢者を対象に5年間のコホート調査を行う健康長寿モニター事業を実施した。本論文の目的は,基礎自治体が自ら企画・実施した後期高齢者対象のコホート調査の概要と結果の一部を示し,その意義について考察することである。

方法 2012年9月に杉並区が対象年齢の区民全員(3,749名)に郵送した質問紙調査に回答し,杉並区および東京都後期高齢者医療広域連合が所管する個人情報の利用に同意した1,846名を追跡対象者,無回答または不同意の者のうち9月中の死亡者を除く1,888名を非追跡対象者とした。追跡期間は2012年10月から2017年3月までの4年6カ月であった。住民基本台帳,介護保険情報,その他の区が所管する情報のほか,医療保険に関する情報を広域連合から提供を受けて追跡調査項目とし,追跡対象者の特性および調査期間中の生命予後,介護・医療サービスの利用状況の分析に供した。調査期間中の介護・医療サービスについては,月平均介護サービス点数および月平均医療費とその内訳を指標とした。

結果 追跡対象者は2012年10月時点の対象年齢集団全体の約半数(49.4%)だが,非追跡対象者に比較して男女とも介護保険料区分が低位である者が少なく,要支援・要介護認定者率,1人あたり介護サービス点数,1人あたり医療費が低かった。特に重度認定者率,入所・居住系サービスの利用点数,入院医療費において差が顕著に認められた。追跡対象者においては,調査期間中の死亡率は男性17.7%,女性8.7%,要支援・要介護認定率は男性43.6%,女性52.3%であった。月平均介護サービス点数はすべての指標において女性の方が高かった。月平均医療費は最大値を除く各指標で男性の方が女性より高かった。調査期間中の死亡による影響は介護サービス点数よりも医療費に強く現れていた。

考察 追跡対象者は対象年齢集団の中では比較的社会経済状態が良好で,より健康度の高い集団であった。自治体が実施主体となった調査では,選択バイアスを量的に把握できること,自治体独自の情報も付加して,生活保護受給者を含め漏れなくデータ収集が可能であることなどの特長が認められた。

キーワード 大都市,後期高齢者,コホート調査,生命予後,介護サービス点数,医療費

 

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第66巻第15号 2019年12月

農林業への関わりと高齢者の健康との関連性についての分析

廣松 正也(ヒロマツ マサヤ) 和田 有理(ワダ ユリ)
服部 真治(ハットリ シンジ) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 介護予防の観点から,農林業への関わりと高齢者の主観的健康感との関連性を調べることを目的とした。

方法 鳥取県智頭町において2017年7月に行われた介護予防・日常生活圏域ニーズ調査をもとに,要介護状態でない高齢者2,452人に対し自記式調査票を用いて郵送調査を行った。年齢と性別に欠損値の無い有効回答は1,358票(55.4%)で,このうち,目的変数である主観的健康観の欠損が無い1,307票(53.3%)を対象として分析を行った。目的変数は主観的健康感とし,説明変数は,「何らかの作物を育てているか」「山仕事をしているか」「農林業をいつからしているか」「農林業の頻度はどのくらいか」の4つの指標をそれぞれ用いた。統計的分析には,年齢,性別,経済状況を調整因子として多重ロジスティック回帰モデルを用いた。

結果 年齢,性別,経済状況について調整した上で主観的健康感と農林業への関わりの関連性を見たところ,農林業に関わりがある人ほど主観的健康感が良い傾向にあることがわかった。また,何らかの農林業を行っている人と行っていない人との間で,要介護リスクのうち,「運動機能低下者割合」「1年間の転倒あり割合」「閉じこもり者割合」「うつ割合」の計4指標について比較を行ったところ,農林業に関わっている人の方が関わっていない人よりも該当者が少ないという傾向がみられた。

結論 本研究で,農林業に関わることは,主観的健康感の良さに関連することを明らかにした。

キーワード 主観的健康感,農業,林業,要介護リスク,高齢者

 

論文

 

第66巻第15号 2019年12月

就労継続支援事業所に通所する精神障がい者における
災害時の症状マネジメントと必要な支援

中井 寿雄(ナカイ ヒサオ) 板谷 智也(イタタニ トモヤ)
濱田 衿菜(ハマダ エリナ) 西岡 由江(ニシオカ ヨシエ)

目的 就労継続支援事業所に通所する精神障がい者の,災害時の症状マネジメント,精神障がいによる生活のしづらさやこだわり,災害時の支援の必要性を明らかにすることである。

方法 対象地域は,南海トラフによる大津波の被害が想定されている太平洋側に位置するB市とした。対象者は,精神障がいによりA障害福祉サービス事業所(事業所)に通所する精神障がい者37人だった。調査方法は,K-DiPSシートを用いた聞き取り調査を行った。聞き取りは事業所の看護師に依頼した。K-DiPSシートとは,在宅療養者が,生活支援を担当している専門職と一緒に記入することで,災害時に必要となる医療機器や処置,材料,投薬,生活上の留意点などを把握することができるシートである。精神障がい者版は,災害時の症状マネジメント,精神障がいによる生活のしづらさやこだわり,災害時に必要な支援の必要性が含まれている。

結果 対象者の約68%が,自分の病状悪化の徴候を知っており,約57%が,自分の病状悪化をイメージでき,73%が,対処ができると考えていた。一方で,一般避難所で生活できると答えた者は約22%だった。したがって,症状マネジメントができる者も,一般の避難所では生活できないと考えている可能性がある。80%以上の者が,服薬行動に生活のしづらさやこだわりを持っており,約95%の者が災害時に支援が必要と考えていた。約68%の者が,運動,仕事等と休息・睡眠に生活のしづらさやこだわりを持っており,災害時に支援が必要と考えていた。

結論 服薬を継続するための支援ができる専門職の配置と,平時から自分の薬剤を備えておける仕組みの必要性が示唆された。

キーワード 精神障がい者,災害,症状マネジメント,就労継続支援事業所

 

論文

 

第66巻第15号 2019年12月

周囲の自殺者の有無と援助希求行動に
対する抵抗感の関連

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 本研究の目的は,周囲の自殺者の有無と援助希求行動に対する抵抗感の関連について明らかにすることである。

方法 名古屋市が2017年12月から2018年1月に実施した質問紙調査の回答データを使用して二次解析を行った。質問紙は,名古屋市内在住の16歳以上の市民から無作為抽出された10,000人を対象に配布され,4,747人から回答を得た(回収割合47.5%)。質問紙では,援助希求行動に対する考え方(他人を頼る行為への見解,相談の意思),自殺念慮の有無,周囲の自殺者の有無,精神的健康状態などを尋ねていた。周囲の自殺者との関係は「家族」「親戚」「その他」に区分した。自殺念慮の有無,他人を頼る行為への見解または相談の意思を目的変数,周囲の自殺者の有無を説明変数としてロジスティック回帰分析によりオッズ比を算出した。オッズ比は周囲に自殺者がいない人を対照とした。調整オッズ比を算出する際には,性別,年齢層,職業の3変数で調整するモデル1と,さらに精神的健康状態を加えた4変数で調整するモデル2の2種類を検討した。

結果 周囲の自殺者の有無および調整変数に欠損がなかった4,244人を分析対象者とした(有効回収割合42.4%)。モデル1とモデル2で調整オッズ比に顕著な差はみられなかった。最近1年以内に自殺念慮を抱いた調整オッズ比(モデル2による,以下同様)を自殺者との関係別にみると,「家族」が3.22(95%信頼区間:1.53-6.78),「親戚」が1.62(1.06-2.48),「その他」が2.21(1.63-3.00)であった。他人を頼る行為を恥ずかしいことだと思う調整オッズ比は「家族」が1.67(1.05-2.66),「親戚」が1.40(1.12-1.75),「その他」が0.99(0.83-1.17)であった。深刻な悩みを抱えても相談しない調整オッズ比は「家族」が1.96(1.17-3.28),「親戚」が1.15(0.88-1.50),「その他」が1.00(0.82-1.22)であった。

結論 「家族」を自殺で亡くした人は自殺念慮を抱きやすい一方で,援助希求行動に対して抵抗感を抱くリスクが高い可能性が示唆された。今後は援助希求行動に対する抵抗感を減らす方法について検討する必要がある。

キーワード 自死遺族,援助希求行動,相談,抵抗感,オッズ比,家族

 

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第66巻第15号 2019年12月

乳児用液体ミルクは母親の育児負担を軽減するか

-韓国の母親に対する調査結果からみえた課題-
水野 智美(ミズノ トモミ) 徳田 克己(トクダ カツミ) 趙 洪仲(チョウ ホンジュン)

目的 韓国において,乳幼児を育てている母親が乳児用液体ミルク(以下,液体ミルク)をどのように利用しているのか,育児負担の軽減につながっているのかについて明らかにし,日本で液体ミルクを製造,販売する際に,どのようなことに留意しなければならないのかを明確化することを目的とした。

方法 韓国の麗水市内の幼稚園,保育所に子どもを通わせている母親453名に対する自記式の質問紙調査と韓国の麗水市内の保育所に子どもを通わせており,子どもに液体ミルクを飲ませた経験のある母親40名に対するヒアリング調査を行った。

結果 質問紙調査の結果,子どもが授乳期に液体ミルクを与えた経験のある人は約1割に過ぎなかった。また,与えていた人は,日常的に使用しているケースは少なく,外出時など使用場面が限定されていた。ヒアリング調査の結果,液体ミルクを子どもが飲まなかった,飲みたがらなかったケースがあった。その理由として,普段飲んでいる粉ミルクと液体ミルクの味が異なること,液体ミルクの温度が低いことが挙げられていた。液体ミルクを使用することによって,外出時にミルクを作る手間が減ったことが挙げられる一方で,デメリットとして値段の高さを挙げる人が多かった。また,液体ミルクが育児負担の軽減に効果があったと答えた人は20%のみであった。

結論 日本で液体ミルクを製造,販売する際に,値段,温度と味,賞味期限,販売形態について検討する必要性が考えられた。

キーワード 乳児用液体ミルク,育児負担,韓国,災害,人工乳

 

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第66巻第15号 2019年12月

運動・スポーツ施設の開設が近隣地区の
身体活動と身体活動促進要因へ及ぼす影響

-健康づくりの長期的調査結果からの検討-
久保田 晃生(クボタ アキオ) 松下 宗洋(マツシタ ムネヒロ)
荒尾 孝(アラオ タカシ) 杉山 岳巳(スギヤマ タケミ)

目的 気軽に運動・スポーツを開始できる運動・スポーツ施設やレクリエーション施設は,住民の身体活動に影響を及ぼす可能性がある。そこで,本研究では新たな運動・スポーツ施設の開設が,近隣住民の身体活動と身体活動促進要因へ及ぼす影響を健康づくりの長期的調査結果から施設の利用を促進するための施策の認知や利用の状況も合わせて把握し,検討することを目的とした。

方法 静岡県長泉町民対象の健康づくりの調査結果を分析した。調査対象者は静岡県長泉町在住の30歳から75歳で,住民基本台帳を基に各調査年(2013,2014,2015,2017年)3,200名が無作為抽出され質問紙調査が実施された。調査項目は,基本属性(年齢,性,ほか),身体活動(歩行頻度,運動習慣),身体活動促進要因(運動・スポーツ環境の認知,運動・スポーツ実践者の認知,運動・スポーツ実践の意欲),開設された多目的運動施設と施設の利用を促進するための施策である健康マイレージの認知と利用の状況であった。分析は郵便番号から多目的運動施設に近い近隣地区と遠い非近隣地区に分け,各調査年の調査項目の変化を把握するとともに,長期的な変化について一般化線形モデルを用い検討した。

結果 分析対象者は,2013年が近隣地区706人,非近隣地区308人,2014年が近隣地区738人,非近隣地区315人,2015年が近隣地区864人,非近隣地区312人,2017年が近隣地区879人,非近隣地区363人であった。基本属性はいずれも両地区で統計的な有意差は認められなかった。歩行頻度,運動習慣,運動・スポーツ環境の認知,運動・スポーツ実践者の認知,運動・スポーツ実践の意欲は経年的に多少の変化があったものの,長期的な変化の検討では有意差はなかった。多目的運動施設の認知は両地区とも90%以上であったが,利用は50%以下で非近隣地区は近隣地区より低い傾向であった。また,健康マイレージの認知は両地区とも約30%で,利用は5%以下であった。

結論 本研究の結果,新しい多目的運動施設が開設されても,近隣地区の住民の身体活動は向上しなかった。運動・スポーツ実践の意欲は,既に住民の8割以上にあることから,多目的運動施設の利用や実際の運動・スポーツ実践といった行動変容へとつなげる仕組みや支援を増やすことが,地域の身体活動を促進する上で重要なことかもしれない。

キーワード 身体活動,運動習慣,運動・スポーツ施設,生活環境

 

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第66巻第13号 2019年11月

高校生の自傷行為の経験率における性差の検討

石田 実知子(イシダ ミチコ) 井村 亘(イムラ ワタル) 江口 実希(エグチ ミキ)
渡邊 真紀(ワタナベ マキ) 國方 弘子(クニカタ ヒロコ)

目的 本研究は,「殴る」「刺す」「つねる」「かきむしる」「切る」の自傷行為様式および種類数別における経験率の性差を検討することを目的とした。

方法 岡山県内の高等学校5校に通う高校生3,820名を対象に,無記名自記式の質問紙調査を実施した。調査内容は,対象者の性,学年,自傷行為で構成した。統計解析には,分析に必要な調査項目に欠損値がない3,316名分のデ-タを使用した。統計解析は,自傷行為の経験率および自傷行為種類数別の経験率を男女2群に分け,その割合の比較をpearsonのχ2検定を用いて検討した。いずれの検討においても,有意水準を両側検定で5%未満とした。

結果 何らかの自傷行為を行った者の経験率は,男性が有意に高かった(p<0.01)。また,「自分のからだや壁をこぶしで殴る」は,各学年および全生徒で,また,「自分の髪や皮膚をかきむしる」は,1年生,3年生および全生徒で占める割合は男性が有意に高かった(p<0.01)。その他の自傷行為では,有意差が認められなかった。さらに,自傷行為種類数別では,いずれの種類数においても有意差が認められなかった。

結論 何らかの自傷行為を行った者の経験率は,男性が女性と比較して有意に高く,「殴る」「かきむしる」を経験した割合は,男性が有意に高かった。自傷行為種類数別では,いずれの種類の選択数においても男女差はなかった。今後,自傷行為に対する正しい知識と理解を持ち,特に男性に配慮した支援方法が求められる。

キーワード 自傷行為,性差,経験率,高校生

 

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第66巻第13号 2019年11月

全国データによるわが国のヤングケアラーの実態把握

-国民生活基礎調査を用いて-
渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト)

目的 わが国で全国データを用いてヤングケアラー(家族の介護を行う18歳未満の子ども)の実態把握を行った例はない。本研究では,わが国の公的統計の中で介護者の実態を最も明らかにすることができる国民生活基礎調査を用い,ヤングケアラーの同定とヤングケアラーおよび彼らが介護している被介護者についての記述を行った。

方法 平成16・19・22・25・28年国民生活基礎調査の匿名データを用いた。同世帯の介護が必要な人に対して主介護者として介護を行っている18歳未満の子どもをヤングケアラーと定義し,ヤングケアラーおよびその被介護者を分析対象とした。

結果 ヤングケアラーのいる世帯は,世帯構造ではひとり親と未婚の子のみの世帯(以下,ひとり親世帯)と三世代世帯が多く,人口15万人以上の市ではひとり親世帯が,人口15万人未満の市および郡部では三世代世帯が最も多かった。一月の家計支出総額では20万円未満が最も多かった。ヤングケアラーの12.8%は主観的健康観がよくなく,35.6%は心理的ストレスがあるとされるK6が5点以上であった。ヤングケアラーが介護している被介護者は,ひとり親世帯では80%以上が母親,三世代世帯では80%以上が祖父母・曽祖父母であった。被介護者の最も気になる疾病はうつ病やその他のこころの病気が16.7%と一番多く,被介護者が母親の場合は特に多かった。

結論 わが国のヤングケアラーは,ひとり親世帯で親(主に母親)を介護している場合と,三世代世帯で祖父母・曽祖父母の介護をしている場合が多かった。人口15万人以上の市ではひとり親世帯が,それ以外では三世代世帯が最も多いという地域差がみられた。経済的に豊かでない世帯,心身の健康に不安のあるヤングケアラーも多かったことから公的支援が望まれるが,地域の実情に応じた対策を考える必要があるだろう。一方,先行研究より,本研究ではヤングケアラーを捉えきれてはいないと考えられる。今後さらなる調査・研究,支援を行っていく際には,実施方法について慎重に検討する必要があると考える。

キーワード 国民生活基礎調査,家族介護,インフォーマルケア,ヤングケアラー,若年介護者,介護者支援

 

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第66巻第13号 2019年11月

児童養護施設版「生活安全感・安心感尺度」
活用の可能性の評価研究

松村 香(マツムラ カオリ) 鈴木 寛(スズキ ヒロシ)
宇津木 孝正(ウツキ タカマサ) 岡 隆(オカ タカシ)

目的 児童養護施設の入所児童の約6割は被虐待児童であることから,その養育には困難が伴い,状況によっては,施設内において人権侵害問題に発展する場合がある。そのため,施設内で子どもが安全で安心に生活できることは重要な課題である。施設内で子どもが感じる安全感・安心感の向上のために,松村らは児童養護施設版「生活安全感・安心感尺度」(Scale of Children’s Sense of Safety and Security:以下,SCSSS)を開発している。本研究では,その尺度を児童養護施設で活用することが,子どもの安全感・安心感の向上のために有効であるか評価することを目的とした。

方法 2015~2017年の間に毎年1回,合計3回児童養護施設に暮らす子どもを対象に,SCSSSの効果を評価するために,SCSSSを使った調査を実施した。3回とも調査を実施できたのは神奈川県,埼玉県にある5施設であった。そのうち調査の条件が異なる2施設を除外した3施設に入所中の子ども(有効回答 調査1回目:154名,調査2回目160名,調査3回目:158名)を対象に,SCSSSの生活安全感・生活安心感得点の経年的推移から,SCSSSを活用した介入の有効性を検討した。

結果 生活安全感得点は,調査3回目が調査1回目に比し,有意に上昇するなど(P<0.01),子どもが感じる施設内での安全感は高まった。一方,生活安心感得点には,調査3回目は調査1回目に比し得点の伸びは認められたものの,両者間で有意差は認められなかった。また,SCSSSを使った調査に関して約7割の子どもが有効性を感じ,調査の継続性も望んでいた。また,自由記述の中には,安全感・安心感に関して,子どもの意識が向上していることを示す記述があった。

結論 SCSSSを使った調査による介入は,児童養護施設で暮らす子どもが感じる安全感・安心感の向上ならびに安全感・安心感に対する子どもの意識の変化に有効であることが示唆された。

キーワード 児童養護施設,生活安全感・安心感尺度,介入,評価研究

 

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第66巻第13号 2019年11月

保育士が必要とする保育ソーシャルワーク内容の因子構造

山本 佳代子(ヤマモト カヨコ) 山根 正夫(ヤマネ マサオ)

目的 保育所では虐待や貧困,発達障害など福祉的な課題をもつ子どもへの支援に際し,保育士などがソーシャルワーク機能を果たすことが求められている。しかし,支援に必要なソーシャルワークの内容や専門性,それらを習得するための方法論等について統一した見解は明らかにされていない。本研究では保育士養成や具体的な支援のあり方の検討に資するため,保育士が現場実践において必要としている保育ソーシャルワークの内容について,その因子構造を明らかにすることを目的とした。

方法 2016年12月から2017年2月にかけてA県内の保育所等951施設に勤務する保育士および施設管理者,計2,853名(通)を対象に,48項目からなる保育ソーシャルワーク内容に関する質問紙調査(郵送法)を実施し,1,006名(通)の有効回答を得た。調査内容について因子分析の解析およびCronbachのα信頼係数を算出して,因子構造および因子の内的整合性の検討を行った。また,各因子の尺度としての妥当性と因子間の関連を検証するため確認的因子分析を行った。

結果 探索的因子分析の結果,7因子が抽出され,保育士が必要とする保育ソーシャルワーク内容は「特別な配慮を要する子どもと保護者への支援知識」「地域子育て支援」「ソーシャルワーク知識」「権利保障」「個別援助」「地域連携」「社会資源」の因子から構成された。また,Cronbachα係数は0.729~0.978であり,各因子の内的整合性が確認された。さらに,確認的因子分析によるデータと因子構造の適合度はGFI=0.909,AGFI=0.891,RMSEA=0.048であり,因子構造の妥当性を確認した。

結論 本研究において得られた保育士が必要とする保育ソーシャルワークの内容は,先行研究を系統的かつ包括的に網羅する結果であり,一般妥当性を有すると判断できた。今後は,調査対象や範囲の拡大による調査結果の累積および現場での有効なソーシャルワーク活用を目指し,保育ソーシャルワークに関連する要因とそれらの因果関係性について検討する。さらに,保育士のソーシャルワークに対する認識と実際行動との乖離の検証等を行うことも課題としたい。

キーワード 保育ソーシャルワーク,保育士,保育所,保育ソーシャルワークの内容,因子構造

 

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第66巻第13号 2019年11月

小児慢性特定疾病がある医療的ケア児における
就学の有無別にみた支援ニーズの実態

-2017年医療的ケア児実態調査-
木村 愛(キムラ アイ) 月野木 ルミ(ツキノキ ルミ)
遠藤 公久(エンドウ キミヒサ) 石田 千絵(イシダ チエ)

目的 本研究は,2016年の児童福祉法や障害者総合支援法など,医療的ケア児支援に関連する法改正後の,就学の有無別にみた支援ニーズとその要因を比較検討することを目的とした。

方法 対象は,小児慢性特定疾病医療給付制度を利用している医療的ケア児とし,全国の保健所および全国規模の医療的ケア児親の会経由で募集した。医療的ケアは,人工呼吸器・在宅酸素・気管切開・痰の吸引・胃ろう・経管栄養のいずれかと定義した。調査期間は2017年7~10月で,WEB無記名自記式質問紙法で母親に調査した。調査内容は,医療的ケア児の基本的属性9項目,生活環境因子10項目とし,調査内容のうち支援ニーズは『ケアによる負担』5項目,『生活リズムの維持』1項目,『児の体調管理』1項目,『社会資源に関する情報不足や利用困難』3項目で構成した。有意水準は5%未満とし,就学の有無と支援ニーズの関連はχ2検定を用いた。

結果 研究協力機関(36保健所・親の会4団体)が選定した272名のうち,102名から回答が得られ(回収率:37.5%),95名を解析対象者とした(有効回答率:93.1%)。その結果,医療的ケア児の未就学・就学群双方において,支援ニーズが高いと答えた者の割合が,全項目で58.8~100%と高かった。就学群は,未就学群と比較して,医療的ケアと介護サービスに関する支援ニーズが有意に高かった[「サービス利用中や学校等に通っている間の医療的ケアの提供」41名(93.2%,p=0.04),「子どもに対応する訪問介護サービス」38名(86.4%,p=0.003),「子どもの生活リズムに合わせたサービス」40名(90.9%,p=0.02)]。就学群の特徴として,神経・筋疾患の占める割合が高く(31名,70.5%),人工呼吸器に関連するケアが必要な児が29名(65.9%)であった。母親は,主観的健康状態が悪く[身体平均57.8点(標準偏差:SD25.5),精神平均58.6点(SD25.9)],福祉・教育サービスへの不満を抱える者が多かった[福祉18名(40.9%),教育21名(47.7%)]。

結論 就学している医療的ケア児は,自宅以外での医療的ケアの提供と訪問介護サービス,子どもの生活リズムに配慮したサービス提供について,特に支援を必要としていた。その背景として,成長や病気の進行,学校生活に関連するケアが新たに加わることによる介護負担増加の影響が考えられる。また,24時間体制を必要とする高度な医療的ケアの代行者がいないことの影響も推察された。

キーワード 医療的ケア,小児在宅療養,重症心身障害児,難病,就学

 

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第66巻第13号 2019年11月

幼児の食行動問題のタイプ別からみた養育環境の検討

志澤 美保(シザワ ミホ) 志澤 康弘(シザワ ヤスヒロ) 義村 さや香(ヨシムラ サヤカ)
趙 朔(チョウ サク) 十一 元三(トイチ モトミ)
星野 明子(ホシノ アキコ) 桂 敏樹(カツラ トシキ)

目的 本研究は,4~6歳の幼児を持つ養育者を対象に,食行動の問題をもつ子どもの養育環境について検討することを目的とした。

方法 対象者は,A県2市において研究協力の同意が得られた保育所,幼稚園に通う4~6歳の子ども1,678人の養育者とした。協力機関を通じて養育者に無記名自記式質問紙を配布し,回収は,各協力機関に設置した回収箱および郵送とした。調査は845人から回答が得られ(回収率50.4%),その内,有効回答数は766人(有効回答率45.6%)であった。調査項目は,①子どもの基本属性,②養育者による食行動評価,および③育児環境指標(Index of Child Care Environment;ICCE)であった。統計解析は,χ2検定,Fisherの直接確率検定,因子分析およびt検定を行った。食行動の問題については,養育者による食行動評価を因子分析により3因子が抽出された。分析には,食行動問題の3因子「偏食と食事中の行動」「食事環境への固執性」「食べ方の特徴」の個人の因子得点を用いて食行動問題のタイプ分類し,育児環境指標(ICCE)の4つのサブカテゴリー別に平均値を比較した。

結果 食行動の問題の第Ⅱ因子「食事環境への固執性」については,問題のない児(タイプ1)と問題のある児(タイプ2)のいずれかに明確に分かれることが示された。第Ⅱ因子タイプ別2群で属性を比較したところ,タイプ2において母子・父子家庭などのひとり親家庭の割合が有意に高かった(p<0.05)。次に,第Ⅱ因子タイプ別2群でICCEの各カテゴリーのスコアを比較すると,タイプ2において統制的で罰の頻度が高いことが明らかとなった(p<0.05)。

結論 養育として「制限や罰」を用いることとひとり親家庭は,食行動の上で負の影響を与えていることが明らかとなった。子どもの食行動の問題への支援には養育環境も視野に入れ,対応していく必要性が示唆された。

キーワード 幼児,食行動の問題,養育環境,ひとり親家庭,制限や罰

 

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第66巻第12号 2019年10月

Age-period-cohort分析を用いた男児出生割合の変動と
震災による心的外傷後ストレス障害

内田 博之(ウチダ ヒロユキ) 小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ)

目的 男児出生割合は,震災後に受ける心的外傷後ストレス障害(PTSD)により低下する可能性が危惧されている。本研究は,2011年3月11日に発生した東日本大震災後に受けたであろう心的外傷後ストレスの影響が男児出生割合の年次推移に影響を及ぼす可能性について,年齢効果,時代効果およびコホート効果のトレンドを推定することで検討した。

方法 出生数は,1979~2016年(全国は1947年から)の人口動態統計から都道府県別に母の年齢別(15~44歳)の性別出生数を使用した。震災による死亡者数,不明者数および負傷者数から,PTSDの発症の危険が低かったであろうと考えられた33都道府県(非被災地域)および発症の危険が中等度以上であったであろうと考えられた14都道府県(被災地域)に分類した。男児出生割合の移動平均(3年移動平均)の年次推移を観察するとともに,ベイズ型age-period-cohort(APC)分析を用いて,非被災地域および被災地域の男児出生割合の経時的変動に対する年齢効果,時代効果およびコホート効果を推定した。

結果 男児出生割合の移動平均の年次推移は,全地域および被災地域では2011年および2012年において低下傾向,非被災地域では2012年に低下が観察された。全地域と比較して被災地域の方は低下傾向が強かった。また,非被災地域と比較して被災地域は,時代効果が震災前に比べ震災時の2011年および翌年の2012年に低減し,男児出生割合が震災前に比べて震災後に低下する可能性が観察された。そして,コホート効果が1967年生まれから1973年生まれのコホート,1987年生まれから1997年生まれのコホートにかけて低減し,男児出生割合が震災後,1967年生まれから1973年生まれの母親の出産,1987年生まれから1997年生まれの母親の出産で低下する可能性が観察された。

考察 男児出生割合の移動平均の年次推移の観察,ベイズ型APC分析の時代効果,コホート効果のトレンドの観察は,いずれも趨勢変化を伴うために,震災が男児出生割合に与える影響を明らかにするためにはさらなる研究が必要である。

キーワード 男児出生割合,震災,心的外傷後ストレス障害,出生コホート,ベイズ型age-period-cohort分析

 

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第66巻第12号 2019年10月

単身赴任が身体的・精神的健康および
QOLに及ぼす影響に関する1年間の縦断研究

中田 ゆかり(ナカダ ユカリ)

目的 一製薬企業で企業戦略により転勤を余儀なくされ,同時期に初めて単身赴任となった労働者を対象に,単身赴任が身体的・精神的健康およびQOLに及ぼす影響について,1年間縦断的に検討することを目的とした。

方法 2012年11月から2013年3月までに初めて単身赴任者となった労働者36名を対象とした。そのうち16名(男性15名,女性1名)から同意が得られ,欠損値のない男性14名を分析対象とした。調査項目は,基本属性として年齢,性別,測定項目としてBody Mass Index(BMI),収縮期・拡張期血圧,唾液アミラーゼ,睡眠効率,自記式質問紙調査項目として,平日・休日睡眠時間,日本版General Health Questionnaire-12(GHQ-12),WHOQOL26を使用した。データ収集は「転勤前」「転勤3カ月後」「転勤6カ月後」「転勤12カ月後」の4回実施した。「転勤前」「転勤3カ月後」「転勤6カ月後」「転勤12カ月後」の各々の数値化されたデータについて反復測定による分散分析を行い,有意差が認められた場合,Tukey法を用いた多重比較を行った。

結果 BMI,収縮期・拡張期血圧,唾液アミラーゼ,睡眠効率,平日・休日睡眠時間,GHQ-12において有意差は認められなかったが,WHOQOL26の「身体的領域」「環境領域」「平均QOL」において有意差が認められた。Tukey法を用いた多重比較によれば,「身体的領域」では「転勤前」と「転勤12カ月後」および「転勤6カ月後」と「転勤12カ月後」で有意差が認められた。また,「環境領域」では「転勤前」と「転勤3カ月後」,「平均QOL」では「転勤前」と「転勤12カ月後」で有意差が認められた。

結論 転勤3カ月後や転勤12カ月後での単身赴任者へのフォローの必要性が示唆された。しかし,本研究では単身赴任者のみを対象とし,対象者数も少なかったため,今後はさらに対象者を増やし,家族帯同者との比較検討や長期的な検討を試みていく必要がある。

キーワード 単身赴任,メンタルヘルス,健康影響,睡眠,QOL,Actiwatch

 

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第66巻第12号 2019年10月

心の健康問題で休職した看護師の
現場復帰支援の現状と課題

木村 恵子(キムラ ケイコ) 榎本 敬子(エノモト ケイコ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)

目的 心の健康問題で休職した看護師の現場復帰状況の現状と課題を検証することが本研究の目的である。

方法 岐阜県内の200床以上の20病院518名の役職看護師(看護師長,主任,業務リーダー)を対象に心の健康問題で休職した看護師の現場復帰支援の状況に関する自記式質問紙調査を2016年1~3月に実施し,20病院316名(回収率61.0%)から回答を得た。その中で無効回答が顕著なケースを除く286名を解析対象とした。統計検定にはKruskal-Wallis検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,統計的有意水準は5%とした。

結果 心の健康問題で休職した看護師の現場復帰率は54.5%であり,そのうち休職と現場復帰を繰り返している看護師は13.9%であった。一方,退職率は41.6%であり,休職後現場復帰した看護師より高かった。看護師のメンタルヘルス対策への役職看護師の参加率は30.4%と低かった。参加者の内訳では特に業務リーダーが4.4%と低かった。不参加理由は「対策を必要としていない」が66.3%を占めた。心の健康問題で休職した看護師に対応する職種は看護師長が86.0%を占め,看護師以外の職種は15.0%にとどまった。現場復帰支援の方法は「個人の力量で行っている」が44.1%で多かった。現場復帰支援の経験率は,役職看護師間で違いがあった。現場復帰後の問題発生率は,多数の項目で80%以上となった。「復職可能となった判断基準」での問題の発生については,役職看護師間で発生率に統計的に有意な差があった。現場復帰支援未経験の役職看護師で,統計的に有意に問題発生率が高かった。

結論 役職看護師の約7割はメンタルヘルス対策の必要がないと認識していた。現場復帰支援は,病院全体で行われず看護師が独自に支援している現状であった。そのため,役職看護師間の復職可能基準の共通認識がなく,現場復帰後の業務に問題が発生していた。さらに復帰基準がないことにより,現場復帰支援未経験の役職看護師が心の健康問題で休職した看護師の受け入れについて不安や偏見を持つことにつながる可能性がある。役職看護師の職階によって,病気情報開示の範囲に差が生じていた。そのため,現場復帰した看護師の病状を直接対応する現場看護師が知らされていないことで業務上の問題を生じ,さらに再休職や退職の要因となることが示唆された。心の健康問題で休職した看護師の現場復帰支援が十分に行われず,順調に現場復帰できる環境が整っていないことが示唆された。

キーワード 心の健康問題,看護師,休職,現場復帰支援,メンタルヘルス対策

 

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第66巻第12号 2019年10月

山梨県の肝がん死亡率低下と医療行政施策の関連の検討

-Joinpoint回帰-
横道 洋司(ヨコミチ ヒロシ) 岩佐 景一郎(イワサ ケイイチロウ) 内田 裕之(ウチダ ヒロユキ)
小野 千恵(オノ チエ) 米山 晶子(ヨネヤマ アキコ)
高倉 江利花(タカクラ エリカ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 日本の肝がん有病率は,世界の中で大きい。国と県は,1970年代より肝がん対策を行ってきた。全国と同様に,山梨県の肝がんによる死亡率は低下を続けている。これには多くの肝炎,肝がん対策が奏効していると考えられるが一方で,どの施策がその死亡率低下にどれだけ影響しているかは明らかではない。治療の向上や施策の導入の効果を推定した資料は,今後,感染症に起因する疾病に対抗する施策を考える上で必要となる。本研究は,国と山梨県が行ってきた肝炎,肝がん対策の歴史と県内の肝がんによる死亡率の変曲点との関係を,生態学的に検討することを目的とした。

方法 国と県の肝炎,肝がん対策を年次推移にまとめた。次に2000年から2015年までの10万人あたりの山梨県における肝がん死亡率の分岐点をJoinpoint回帰により探索し,統計学的に変曲点を探索した。肝がん死亡率は昭和60年の日本人モデル人口により直接法で調整した。肝炎,肝がん対策の変遷と肝がん死亡率の推移を比較し,死亡率の変曲点の意味づけを試みた。

結果 肝がん死亡率は2000年から2016年にかけて大きく低下し,全年齢では3つの変曲点が検出された。年齢階級別の解析では死亡率に単調な低下傾向はあるものの,変曲点は見いだされなかった。

結論 B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチン投与は1982年から段階的に拡大され,現在では乳児の定期接種ワクチンとなっている。このワクチンが肝がん死亡率低下に効果を現すのは2020年代後半以降だろうと考えられた。B型肝炎ウイルスの持続感染に対し,1985年にインターフェロン(IFN)療法が,2000年代に相次いで核酸アナログ製剤の投与が導入された。2005年からの急峻な肝がん死亡率低下にこの治療成績が寄与している可能性が示唆された。C型肝炎ウイルス持続感染に対して1992年にIFN療法が開始されている。2002年に老人保健法による「節目検診」として肝炎ウイルス検査も行われるようになった。2005年からの肝がん死亡率低下にこれらの施策も同様に貢献している可能性がある。2011年からの急峻な低下には,2001年のHCV持続感染に対するIFNとリバビリンの併用療法導入が貢献している可能性がある。山梨県がん登録データから,B型・C型肝炎の治療の発展が肝がん死亡率の低下に貢献している可能性が示された。

キーワード 肝がん,肝炎ウイルス対策,がん登録,B型肝炎ワクチン,日赤献血事業,核酸アナログ製剤

 

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第66巻第12号 2019年10月

経済協力開発機構方式を用いた
都道府県別医療制度パフォーマンスの検討

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ)

目的 経済協力開発機構(以下,OECD)は,日本の医療制度パフォーマンス(以下,PERF)の悪化を指摘しており,その現状を把握するため,都道府県別(以下,県)PERFを検討した。

方法 OECD方式に従って27指標を用い,指標別に平均値からの相対値(以下,RV)±2標準偏差(以下,SD)を求めて,PERFを評価した。

結果 北海道・東北で,-2SD>RVと悪いのは,北海道の喫煙率,青森の男・女平均寿命(以下,寿命),男・女65歳時平均余命(以下,65歳余命),喫煙率,岩手の30㎞圏救命救急センター人口カバー率(以下,人口カバー),入院の性・年齢調整標準化レセプト出現比・一般病棟7対1・10対1(以下,入院レセプト比),秋田の男寿命,人口カバー,山形の肥満率,福島の女虚血性心疾患(以下,心疾患)死亡率,肥満率,男・女心筋梗塞(以下,AMI)死亡率,+2SD<RVで良いのは,岩手と山形の抗菌剤販売量であった。関東で-2SD>RVは,栃木の男・女心疾患死亡率,埼玉の女心疾患死亡率,医師数,看護師数,東京のアルコール消費量(以下,飲酒量),大気汚染,神奈川の大気汚染,+2SD<RVは,埼玉と千葉の要介護認定率,東京の大腸がん生存率であった。中部で-2SD>RVは,福井の収入対医療費,石川の抗菌剤販売量,+2SD<RVは,福井の肥満率,長野の男65歳余命であった。近畿で-2SD>RVは,大阪の大気汚染,和歌山の女心疾患死亡率,収入対医療費,三重の周産期死亡率,+2SD<RVは,滋賀の男寿命であった。中国・四国で-2SD>RVは,鳥取の周産期死亡率,岡山の男AMI死亡率,徳島の抗菌剤販売量,高知の男AMI死亡率,+2SD<RVは,高知の入院レセプト比,後期高齢者医療制度医療費,看護師数,病院病床数であった。九州・沖縄で-2SD>RVは,長崎の要介護認定率,大分の入院受療費,宮崎の飲酒量,鹿児島の飲酒量,人口カバー,沖縄の肥満率,大腸がん生存率,+2SD<RVは,福岡の後期高齢者医療制度医療費,佐賀の医療費地域差指数,大分の入院レセプト比,沖縄の女65歳余命,入院レセプト比であった。

結論 健康状態7指標のうち,4以上RVが悪いのは,青森,秋田,福島,栃木,和歌山,リスク要因4指標のうち,3以上悪いのは青森,医療へのアクセス5指標のうち,3以上悪いのは栃木,医療の質6指標のうち,4以上悪いのは岡山,医療資源5指標のうち,3以上悪いのは茨城,栃木,埼玉,千葉,東京,静岡,愛知であった。特に健康状態,医療へのアクセス,医療資源が悪い栃木,健康状態とリスク要因が悪い青森では,PERF全体が悪く,早急な対応が必要である。

キーワード 医療制度パフォーマンス,健康状態,リスク要因,医療へのアクセス,医療の質,医療資源

 

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第66巻第12号 2019年10月

肺炎で入院した高齢者の退院支援のための
長期入院リスク要因スクリーニング票の開発

新山 美柳(ニイヤマ ミリュウ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ)

目的 高齢肺炎患者にとって長期入院は廃用症候群や認知症のリスクとなる。医療施設側や患者の社会的な背景も踏まえた長期入院リスク要因のスクリーニング票を開発した。また,退院支援の必要性を判断する目的で同スクリーニングスコアのカットオフ値を検討した。

方法 東京都内の1医療施設で過去の患者の診療記録を用いた。2013年10月から2014年9月までの1年間に肺炎の病名で退院した患者のうち,肺炎の診断で内科に緊急入院し抗菌薬の経静脈投与により治療を受けた65歳以上の患者を対象にした。入院21日以上を長期入院とし,身体的・社会経済的・医療サービス利用に関する要因を測定した。ポアソン回帰分析で長期入院リスク比を求めて点数化し,スクリーニングカットオフ値を検討した。

結果 対象者371人中,長期入院は157人であった。高齢,肺炎重症,認知症,医療処置,独居,要介護1-2は長期入院リスクが高く,生活保護,かかりつけ医ありの者はリスクスコアが低かった。スクリーニング点数は76から102点まで分布,91点では感度66%,特異度62%,陽性尤度比1.71であった。

結論 かかりつけ医との連携は長期入院を減らす可能性がある。スクリーニングカットオフ値として91点以上を提案する。

キーワード 肺炎,高齢者,退院支援,長期入院要因,スクリーニング票,かかりつけ医

 

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第66巻第11号 2019年9月

グループホーム利用者の退所実態に関する研究

-グループホーム退所者の「退所理由」に着目して-
古屋 和彦(フルヤ カズヒコ)

目的 本研究では,2018年4月より障害者福祉サービスにおける共同生活援助(以下,グループホーム)の新類型として,重度化・高齢化の障害者の利用者を想定した「日中サービス支援型共同生活援助」が創設されることをかんがみ,現状の「外部サービス利用型共同生活援助」「介護サービス包括型共同生活援助」の2類型のグループホームの退所者を対象に,具体的な退所理由に着目し,退所者の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 全国のグループホームを運営する6,603事業所を対象に,2017年8月4日~8月21日を調査期間として,郵送方式でのアンケート調査を行った。調査内容は,2017年8月1日時点でのグループホーム利用者全体の定員数と現員数,障害支援区分,年齢等の基礎情報および,2016年度1年間にグループホームを退所した利用者の退所後の居住の場,退所の理由等とした。得られた回答より,死亡退所者を除く退所者を抽出し,そのうち退所理由を記述した退所者を主な分析対象とした。

結果 3,586事業所より回答があり(回収率54.3%),その後にデータクリーニングを行い,3,509事業所を有効回答とし,10,485ホーム,58,299人の利用者データが得られた。そのうち2016年度退所者について,死亡退所者295人以外の3,487人から退所理由の回答が得られたのは2,473人であった。集計の結果,ステップアップ型(自立,一人暮らし,就労,結婚等を理由とした退所者の群)が628人,身体・医療的ケア型(病気・入院,高齢・介護,障害支援区分上昇,身体的困難等を理由とした群)が1,038人,集団生活不適応型(規約違反,問題行動,犯罪,なじめず等を理由とした群)が496人,自宅可逆型(本人が同居を希望,親や親族が同居を希望,事業所が同居を勧めた,親と同居のため等を理由とした群)が311人であった。

結論 グループホーム退所者の実態をみると,利用者の多くは継続利用だが,毎年一定数の退所者が存在していると推測される。制度設計の段階で想定されていたであろう,グループホームを経由して自立生活へ移行する「ステップアップ型」は,利用者全体からみると1.1%であった。この結果より,現時点ではグループホームが暮らしの場の終着点となっていることが多いといえる。今後は,重度化・高齢化など多様なニーズに応えられるグループホームの整備を進めていくとともに,退所理由に応じて相談支援事業所等と連携した地域支援ができる環境の整備が,今後のグループホームに求められる機能の重要な課題といえるだろう。

キーワード グループホーム,退所者,退所理由,年齢,障害支援区分,転居先

 

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第66巻第11号 2019年9月

都道府県別にみた5年間の障害調整健康余命(DALE)と
加重障害保有割合(WDP)の年次推移と年間比較

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 星 旦二(ホシ タンジ)
須能 恵子(スノウ ケイコ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 65歳以上の健康寿命に関連して,都道府県別の障害調整健康余命(DALE)と年齢階級別加重障害保有割合(WDP)の2010~2014年の年次推移および年間比較を行い,その変化を明らかにし,「健康日本21(第二次)」の目標達成に向けた,都道府県も活用できる基礎資料の整備を行うことを研究目的とした。

方法 DALEとWDPは,サリバン法で算出した。算出には,各年10月の介護保険認定者のデータ,各年の住民基本台帳の人口,2010年の都道府県別生命表を用いた。2010~2014年のDALEとWDPについて分散分析およびBonferroni法による多重比較検定にて平均値の比較を行った。

結果 DALEの上位県,下位県は島根県と鳥取県を除いて,どの年齢においても,男女とも都道府県の順位に大きな変化はなかった。WDPは上位県は年齢が上がるほど,いずれの年次も上位であり,下位県はどの年齢階級でもいずれの年次も下位であった。多重比較検定の結果から,男女とも年順にDALEが有意に低下していた。WDPについては,女性の75~79歳では有意な低下が認められたが,85~89歳では男女とも有意な上昇が認められた。

結論 都道府県がDALEを延伸させ,ならびにWDPを低下させるとともに,順位の改善を図ることを目標に掲げ,そのための具体的な方策を示し,年次推移をモニタリングしながら,方策を実践していくことが地域間格差の縮小につながり,平均余命を上回る健康余命の延伸は可能と考えた。年間比較から,WDPが年々低下した年齢階級はあるものの,全体のDALEの延伸には反映されていないことが明らかになった。本研究結果は,都道府県が策定する「健康日本21」の目標達成に向けた基礎資料を整備したという点では意義は大きいと考えられた。

キーワード 障害調整健康余命(DALE),加重障害保有割合(WDP),65歳以上,年次推移,年間比較,基礎資料

 

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第66巻第11号 2019年9月

東日本大震災の被災者における転居の範囲と健康状態との関連

菅原 由美(スガワラ ユミ) 遠又 靖丈(トオマタ ヤスタケ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 東日本大震災で被害程度の大きかった沿岸部では,被災後に地区外へ転居した者が多い。しかし,転居の範囲と健康影響との関連については明らかではない。本研究の目的は,被災後の転居の範囲によって,被災者の健康状態が異なるかを検討することである。

方法 東北大学地域保健支援センターでは,東日本大震災前に宮城県石巻市の雄勝地区・牡鹿地区に居住していた者を対象として,毎年,被災者健康調査を実施している。震災7年目となる2017年6月,上記の者のうち,研究同意が得られている3,517名を対象に自記式アンケート調査票を配布した。このうち,有効回答が得られた2,342名(66.6%)を本研究の解析対象者とした。現在住所の回答に基づいて,対象者を「地区内居住(雄勝地区・牡鹿地区内居住)」「市内転居(石巻市内への転居)」および「市外転居(石巻市外への転居)」に分類した。アウトカムは,主観的健康感不良(あまり良くない,良くない),睡眠障害(アテネ不眠尺度が6点以上),心理的苦痛(K6が10点以上)とした。解析は,多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を用い,「地区内居住」群を基準とした「市内転居」群と「市外転居」群における各アウトカムについて,オッズ比と95%信頼区間(以下,CI)を算出した。調整因子は,性別,年齢,居住形態(震災前と同じ,プレハブ仮設,新居,災害復興住宅,その他),就業状況(就業中,求職中,無職)とした。

結果 対象者のうち,「地区内居住」群は1,216名(51.9%),「市内転居」群は846名(36.1%),「市外転居」群は280名(12.0%)であった。睡眠障害のオッズ比は,「市内転居」群で1.30(95%CI:1.02-1.66),「市外転居」群で1.42(95%CI:1.02-1.99)となり,被災地区から転居した群で睡眠障害のオッズ比が有意に高かった。さらに,転居の範囲と睡眠障害との関連は,震災前に居住していた地区から離れるほど強くなっていた(傾向性のp値=0.02)。一方,被災後の転居の範囲と主観的健康感,心理的苦痛に関連はみられなかった。

結論 被災後の地区外転居者では,睡眠障害リスクが高いことが示唆された。

キーワード 東日本大震災,被災者,転居地域,睡眠障害

 

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第66巻第11号 2019年9月

要介護高齢者の介護サービス利用の
阻害をめぐる研究動向と課題

-研究論文統計調査-
高木 剛(タカギ ツヨシ)

目的 本研究は高齢者の虐待・判断能力・意思決定などそれぞれ個別の研究テーマで共通して指摘されている,介護の阻害の問題に焦点をあてている。介護サービス利用の阻害の観点から,現行介護保険法の施行以来これまで何がどのように研究され,どのような知見が蓄積されてきたのか,国内の研究動向を明らかにし,今後の研究に示唆を得ることを目的にした。

方法 論文検索システムによりキーワード検索が可能な論文を研究材料にした,研究論文の統計調査である。「高齢者」と「介護」のキーワードが登場する「高齢者・介護論文」を調査の母集団とした。この母集団から「阻害」のキーワードが登場する「阻害論文」を抽出し,阻害が発生した対象者,発生した阻害の原因を調査して年間発表件数を集計した。さらに今後の研究に示唆を得るため,研究分野を区分してどの分野の研究が進み,どの分野で研究が進んでいないのかを確認し,高齢者介護を阻害する問題について今後の研究課題を考察した。

結果 高齢者・介護論文の母集団が14,460件,阻害論文が74件であった。母集団は2000年介護保険法の施行後の6年間4,247件から,2006年以降の12年間10,213件へと論文の蓄積が拡大するなか,阻害論文も16件から58件へと拡大した。阻害論文の割合は有意に増加している。しかし研究分野別に比較すると,医療・保健の分野の有意な増加に支えられた結果であり,介護・福祉の分野の研究は上げ止まりの状態である。医療・保健の分野で阻害の原因に関して利用者本人を原因とする研究が集中する一方,介護・福祉の分野では取り巻く環境を原因とする研究が多数を占めた。介護・福祉の分野での利用者本人を原因とする阻害の研究は,むしろ傾向として衰退に直面している。

結論 介護・福祉分野の研究母数は上げ止まり,介護・福祉の阻害論文は減少の傾向に直面している。とりわけ本人の意識に関わる研究の蓄積が進んでいない。主体的な生活を求める団塊の世代の介護需要拡大に備え,利用者本人の意識に着目したさらなる研究の取り組みが急務であろう。

キーワード 高齢者,介護サービス,阻害,自己決定,尊厳,パターナリズム

 

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第66巻第11号 2019年9月

手助けや見守りを要する者がいる世帯における
世帯員の健康とストレスの状況

-国民生活基礎調査の匿名データの解析-
世古 留美(セコ ルミ) 宮本 美穂(ミヤモト ミホ) 齋藤 彩那(サイトウ サヤナ)
山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 手助けや見守りを要する者がいる世帯における主介護者と他の世帯員について,健康とストレスの状況を平成22年国民生活基礎調査の匿名データに基づいて解析した。

方法 統計法36条に基づく匿名データを利用した。20歳以上の世帯員から,40歳未満の手助けや見守りを要する者とその世帯員などを除く,72,024人を解析対象者とした。男女ごとに,手助けや見守りを要する者がいない世帯の世帯員を基準として,手助けや見守りを要する者がいる世帯の主介護者と他の世帯員について,通院,健康意識,悩みやストレス,こころの状態のオッズ比をそれぞれロジスティック回帰で年齢を調整して推定した。

結果 手助けや見守りを要する者がいない世帯の世帯員を基準とする年齢調整オッズ比をみると,主介護者において,「悩みやストレスあり」は男性で2.14と女性で2.49,「健康意識がよくない」は男性で1.36と女性で1.31,「こころの状態がよくない」は男性で1.86と女性で1.65であり,いずれも有意(p<0.05)に大きかった。他の世帯員において,「悩みやストレスあり」は男性で1.11と大きい傾向(p<0.1),女性で1.26と有意に大きく,「こころの状態がよくない」は女性で1.30と有意に大きかった。

結論 手助けや見守りを要する者がいる世帯において,主介護者には健康とストレスによくない状況があることが確認された。他の世帯員には,主介護者と同様に悩みやストレスが生じていること,女性では精神的問題の生ずる可能性が大きいことおよび主介護者と異なり健康意識の低下が生ずる可能性が大きくないことが示唆された。

キーワード 国民生活基礎調査,匿名データ,介護,ストレス,家族

 

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第66巻第8号 2019年8月

わが国におけるICD-11フィールドトライアル

-診断用語コーディングの分野別解析-
佐藤 洋子(サトウ ヨウコ) 水島 洋(ミズシマ ヒロシ)

目的 ICD-11(国際疾病分類第11版)が10年以上の改訂作業を経て,2018年に公表された。ICD-11の適用性,信頼性,有用性などを検討するICD-11フィールドトライアルは,ICD-11改訂プロセスの最終段階に位置づけられ,WHOが主導となり国際的に共通のプロトコールとプラットフォームが提供された。わが国のICD-11フィールドトライアルは2017年に実施され,評価者として診療情報管理士378名が参加した。ICD-11フィールドトライアルでは,診断用語とケースサマリーが提供された。本研究では診断用語コーディングにおける分野ごとの解析を行い,分野ごとの特徴・課題を踏まえ,ICD-11のわが国への導入に向けた提言を試みた。

方法 評価者はICD-10とICD-11でそれぞれコーディングしたのち,難しかったか(「はい」「いいえ」),コードの詳細さ(「ちょうどいい」「詳細すぎる」「十分でない」),コードのあいまいさ(「いいえ」「はい」)について評価した。コーディング時間は自動記録された。各評価項目について,分野ごとのICD-10/11比較と,ICD-10およびICD-11での分野間比較を行った。ICD-10/11比較分析には,マクネマー検定およびウィルコクソンの符号付き順位検定を,分野間比較分析にはボンフェローニ補正をした正規近似による比率の差の検定およびウィルコクソンの符号付き順位検定を行った。

結果 評価者378名のうち,診断用語コーディング全症例の評価を終えたのは83名(22.0%)で,合計の回答数は38,654件だった。診断用語は22分野に分けられた。「難しかった」と答えた割合をICD-11とICD-10で比較したところ,19分野ではICD-11の割合の方が高かった(p≦0.035)。詳細さが「ちょうどいい」と答えた割合のICD-10/11比較においては,13分野でICD-10の値が高かった(p≦0.044)。一方で,「04免疫機構の障害」と「07睡眠・覚醒障害」はICD-11の割合が高かった(p<0.001,p=0.038)。詳細さが「あいまいである」と答えた割合のICD-10/11比較においては,18分野でICD-11の値が高かった(p≦0.006)。

結論 コーディングの難しさ,コードの詳細さ,コードのあいまいさをICD-11/10で比較したところ,総じてICD-10の評価が高い結果となった。理由としては,ICD-11に関する事前の教育不足や英語環境下での評価であったことが大きく影響したと考えられた。しかし新しく追加された免疫疾患や睡眠・覚醒障害の章では,ICD-11の評価が良好だった。ICD-11は2022年に発効予定であり,わが国で今後予定されているICD-11の日本語翻訳作業に並行し,わが国の医療・診療体制に即した独自のプロトコールによる導入のためのフィールドトライアルを行う必要がある。

キーワード ICD-11,国際疾病分類,フィールドトライアル,診療情報管理士,診断用語コーディング,情報共有

 

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第66巻第8号 2019年8月

公立病院における病床規模別の収益構造を踏まえた
経営管理指標のあり方について

-他会計繰入金控除後の医業収益比率の高い群と低い群の比較から-
石川 雅俊(イシカワ マサトシ)

目的 急性期医療を提供する公立病院を対象として,他会計繰入金控除後の医業収益比率の高い群と低い群における収入および費用の差異について病床規模や地域特性等を考慮し定量的に分析し,公立病院が収益管理を行う際に重視すべき経営管理指標について検討することを目的とした。

方法 主として急性期医療を提供する公立病院を選定し(n=458),総病床規模(100床未満,100-300床未満,300床以上)を考慮した上で,他会計繰入金控除後の医業収益比率の高い群と低い群の収入および費用の構造の差異について,t検定を行った。病院のデータは,平成27年度地方公営企業年鑑を参照した。

結果 すべての病床規模で有意差がみられたのは年間退院患者数,1日当たり外来患者数,病床利用率,給与費合計比率,減価償却費比率,委託料比率,経費比率,医師数(100床当たり),医師平均年齢だった。一方で,すべての病床規模で有意差がみられなかったのは,事務職員数(100床当たり),事務職員給与費単価,准看護師・事務職員の平均年齢,1床当たり器械・備品資産額,人口だった。

結論 定量的な分析手段を用いて,病床規模,地域特性等を考慮しながら,公立病院の経営におけるコスト効率の重要性を検証した。コスト集中戦略により売上の最大化が重要であることを示した。また,公立病院が収益管理を行う際に重視すべき経営管理指標について提示した。

キーワード 公立病院,経営管理指標,横断分析,病床規模

 

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第66巻第8号 2019年8月

企業等における若年性認知症の人の就労継続の実態

-業種別,従業員人数別の検討-
小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ)

目的 65歳未満で発症する若年性認知症は現役世代であり,疾患の進行により退職すると経済的問題が生じ,居場所がなくなって社会的な役割が果たせなくなる。退職してしまうと収入が減少するので,可能な限り現在の職場で継続して勤務することが望ましい。しかし,企業の,若年性認知症に対する理解や就労継続する上での配慮等については,十分であるとは言い難い。そのため,企業における若年性認知症の人の雇用状況や,継続雇用を実現させるために必要な支援等を把握するために企業における若年性認知症の人の就労に関する調査を行った。

方法 全国の従業員500人以上の企業等6,733カ所に対し,調査票を郵送した。調査項目は,企業の属性(業種,従業員の人数,平均年齢等),障害者雇用(障害者雇用の有無,障害者雇用率),介護している従業員(介護している従業員の有無,介護離職者等),若年性認知症(若年性認知症の認知度,若年性認知症の従業員の有無,人数,就労状況,該当者を把握した経緯,該当者に対する企業の対応,今後,該当者がいた場合の企業の対応,若年性認知症に係る相談機関の認知度,制度・サービスの認知度と利用状況)等である。

結果 有効回答は938件であった(回収割合:13.9%)。若年性認知症について,「知っていた」と「聞いたことはある」を合わせると96.2%と高かった。従業員に若年性認知症等の人がいるのは,以前にいた企業が39社,現在いる企業が26社であった。現在いる企業では,就労中の若年性認知症の人は5人,休職中が7人,就労中の若年性認知症疑いの人および休職中の人はそれぞれ4人,就労中の軽度認知障害の人は3人,休職中は1人であった。把握した経緯では,会社からの受診勧奨が最も多く,次いで本人からの相談・申し出であった。会社の対応中,業務内容については,「他の業務・作業に変更した」が最も多く,報酬・雇用に関しては「作業能力低下でも報酬維持した」が最も多かった。就労継続支援に関する相談機関では,約5割で市町村の相談窓口,4割で障害者職業センターを把握していた。該当者が利用できる制度やサービスでは,「障害者手帳」は7割以上で知られていた。

結論 企業で働いている若年性認知症の人数はわずかであったが,配置転換,報酬維持など一定の配慮が払われていた。しかし,企業における認知症に対する理解はまだ不十分であり,該当者があった場合の対応にも不安があると考えられた。

キーワード 若年性認知症,企業,就労継続,支援,現役世代

 

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第66巻第8号 2019年8月

保険者別の要介護者数および介護サービス受給者数の推計

村松 圭司(ムラマツ ケイジ) 得津 慶(トクツ ケイ)
大谷 誠(オオタニ マコト) 松田 晋哉(マツダ シンヤ)

目的 長期的視野に立った介護保険事業計画の策定を支援するため,2045年までの要介護者(要支援)認定者数および介護サービス種類別の受給者数を保険者別に推計した。

方法 国立社会保障・人口問題研究所の都道府県・市区町村・性・年齢階級別の推計人口(2018年推計)および2015年度介護保険事業状況報告の保険者・性別要介護(要支援)認定者数を用いて,2015年時点の要介護認定率が変わらないと仮定し,将来の要介護(要支援)度別の認定者数を推計した。また,要介護(要支援)度別の認定者数と2015年度介護保険事業状況報告の介護サービス受給者数を用いて,サービス受給率が2015年と不変であると仮定し,サービス種類別1カ月あたり受給者数を推計した。さらに,結果を簡便に閲覧できるツールを作成し,ウェブサイト上に公開した。

結果 北九州市の将来の要介護(要支援)者数およびサービス種類別ひと月あたり受給者数を推計した。要支援および要介護1の者は2035年を,その他の者は2040年をピークに減少すると推計された。介護サービスの受給者も,訪問介護は2035年を,その他のサービスは2040年をピークに減少すると推計された。

結論 将来の介護需要を推計することで,介護保険事業計画の策定に資する知見を得ることができた。

キーワード 将来推計人口,介護保険事業状況報告,要介護認定者数推計,介護サービス受給者数推計,介護保険事業計画

 

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第66巻第8号 2019年8月

女子大学生の隠れ肥満者における
身体計測値,骨密度,運動器の機能について

佐藤 亜美(サトウ アミ) 吉村 良孝(ヨシムラ ヨシタカ) 今村 裕行(イマムラ ヒロユキ)
次森 久江(ツギモリ ヒサエ) 下村 美保子(シモムラ ミホコ)
酒井 美沙季(サカイ ミサキ) 樋園 和仁(テゾノ カズヒト)

目的 平成28年国民健康・栄養調査の「身体に関する状況」では,肥満者(BMI25以上)の割合はこの10年でみると男女とも有意な増減はみられないと報告されており,またやせの者(BMI18.5以下)はこの10年でみると女性で有意に増加していると報告している。一見すると若年者の肥満が少ないような印象を受けるが,肥満は「体脂肪の過剰蓄積」と定義されていることからBMIのみならず体脂肪率を測定して肥満を判定することが望ましい。BMIでは正常であるが,体脂肪率30%以上である隠れ肥満については,これまでにいくつか報告されているが十分ではない。本研究の目的は,女子大学生を対象として隠れ肥満者の身体計測値,骨密度,運動器の機能について検討することである。

方法 被験者は特に疾患のない健康な女子大学3年生77名である。被験者の身体計測値,血圧,骨密度を測定した。骨密度はSOS,BUA,スティフネス値,%.YAMを測定した。運動器の機能については,閉眼片足立ち(最高120秒),30秒椅子立ち上がりテスト,握力を測定した。

結果 被験者77名の内訳は,正常群40名(52%),隠れ肥満群24名(31%),肥満群13名(17%)であった。身体計測値では正常群と比較して隠れ肥満群および肥満群の体重,BMI,体脂肪率,除脂肪体重,脂肪量が有意な高値を示した。また,隠れ肥満群と比較して肥満群の体重,BMI,体脂肪率,除脂肪体重,脂肪量が有意な高値を示した。収縮期血圧では,正常群と比較して隠れ肥満群および肥満群が有意な高値を示し,拡張期血圧では正常群と比較して肥満群が有意な高値を示した。骨密度の指標項目では,BUAにおいて正常群と比較して肥満群が有意な高値を示した。その他の項目には有意な差は認められなかった。本研究における運動器の機能の測定結果は,正常群と隠れ肥満群および肥満群との間に有意差は認められなかった。

結論 隠れ肥満のレベルであっても肥満と同様に循環器系への影響が考えられた。一方,隠れ肥満群の運動器の機能の特徴を把握するには至らなかった。若年女性の場合,BMIではやせと判断されても体脂肪率では肥満となる者がいることと,隠れ肥満者の血圧などの特徴をかんがみると,若年女性においては,定期的に身体測定とともに血圧,骨密度などの測定も行って,健康維持増進に留意する必要があると思われた。

キーワード 隠れ肥満,骨密度,若年女性,体脂肪率,運動器の機能

 

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第66巻第8号 2019年8月

91市区町における地域組織参加率と
要支援・介護認定率の関連

-地域組織の種類・都市度別の分析:JAGESプロジェクト-
伊藤 大介(イトウ ダイスケ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ)
宮國 康弘(ミヤグニ ヤスヒロ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 地域組織への参加など高齢者の社会参加は介護予防施策で重視される。市町村介護保険事業計画では,各地域の課題に基づく目標設定と計画作成,取組の評価,評価に基づく計画の見直しが重要とされる。よって,介護予防のための地域の取組の進捗や成果を把握するための指標が求められる。そこで本研究では介護予防に資する地域診断指標の開発に向け,市区町村単位の地域組織参加率につき,要支援・介護認定率(以下,要介護認定率)との関連を地域組織の種類と都市度別に検討し地域診断指標としての妥当性を明らかにした。

方法 対象は,Japan Gerontological Evaluation Study(JAGES)プロジェクトの『健康とくらしの調査2016』に参加した39市町につき,政令指定都市を行政区で分割した91市区町である。同調査の188,583人分と行政機関により公開されているデータを市区町単位で集計し分析した。分析は要介護認定率を目的変数とする重回帰分析を行った。説明変数には,ボランティア,趣味関係など8つの種類別の地域組織参加率と単身高齢者世帯割合など計6つの変数を用いた。まず,対象91市区町で説明変数をすべて同時投入し(地域組織参加率は種類別に1つずつ)分析した(分析1)。次に,分析1で関連の示された種類の地域組織参加率につき都市度による相違をみるため,対象91市区町を可住地人口密度の三分位で3群に層別化し分析した。層別化後のサンプルサイズを考慮し,説明変数は地域組織参加率を含む3つに絞り同時投入し分析した(分析2)。

結果 対象91市区町による分析1では,ボランティア,趣味関係,スポーツ関係,介護予防・健康づくりの活動の4つの地域組織への参加率(β=-0.49~-0.23)が要介護認定率と有意な関連を示し(p=<0.05),町内会・自治会(β=-0.18)も関連のある可能性は示された(p<0.10)。都市度で3群に層別化した分析2では,ボランティア(β=-0.27)のように可住地人口密度の高い群でのみ,町内会・自治会(β=-0.34)のように低い群でのみ,スポーツ関係(β=-0.59~-0.48)などのように2群にまたがり有意な関連を示す地域組織という三様の結果がみられた。いずれも地域組織参加率が高い市区町で要介護認定率は低いという関連であった。

結論 ボランティア,趣味関係,スポーツ関係,介護予防・健康づくりの活動など一部の種類の地域組織への参加率は地域診断指標として妥当である可能性が示された。一方,地域組織の種類や都市度により要介護認定率との関連の強さは異なる可能性も示唆された。

キーワード 介護予防,地域診断,参加,地域組織,要介護認定率,都市度

 

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第66巻第7号 2019年7月

学齢期の障害児を育てる母親の就業についての実態調査

-就業形態別の比較に焦点を当てて-
春木 裕美(ハルキ ヒロミ)

目的 本研究は,放課後等デイサービス事業創設5年が経過した2017年に,学齢期の障害児を育てる母親の就業実態を明らかにした。無職,非正規就業,正規就業別に対象児の属性,就業状況,福祉サービス利用,家族の協力について比較し,さらに,放課後等デイサービス事業創設後の就業状況の変化を比較した。

方法 近畿地区の肢体不自由,知的障害特別支援学校の在籍児を育てる母親を対象に質問紙調査を実施した。分析は,第1に,母親の就業状態を概観し,一般の子育て世帯と本調査の就業率の比較をした。第2に,従属変数を無職,非正規就業,正規就業とし,独立変数に属性,福祉サービス利用日数,家族の協力を用いて,クロス集計,一元配置分散分析を行った。第3に,従属変数を非正規就業,正規就業とし,独立変数に継続就業状況,職業,通勤時間,対象児の病欠時の家族の対応を用いて,クロス集計,t検定を行った。さらに,非正規就業,正規就業を階層にし,放課後等デイサービス利用の日数や時間の変化と労働時間の変化,就業形態の変化をクロス集計で比較した。

結果 一般の子育て世帯に比べ障害児の母親の就業率は極めて低いことが示された。無職である要因には対象児が肢体不自由校在籍,知的障害と身体障害の重複,医療的ケアが必要,介助度が高い,学校まで家族の送迎が必要または訪問教育という傾向がみられた。放課後等デイサービスは就業形態によらず利用割合が多く,他のサービス利用は極端に少なかったが非正規就業,正規就業は学童保育,日中一時支援など利用の傾向もみられた。家族の協力では配偶者の協力は母親の就業形態で差がなく,正規就業は祖父母の協力,きょうだい児の協力を得ている傾向がみられた。対象児の病欠時には就業形態によらず母親自身が仕事を休む割合が多かったが,正規就業は配偶者が仕事を休む,祖父母に頼むなどやや分散化傾向もみられた。正規就業は出産前からの継続就業,専門・技術的職業の傾向がみられた。放課後等デイサービス事業の創設前と比べると非正規就業は,同サービス利用が増えた場合には労働時間も増え,働いていなかったが働き始めた傾向もみられた。

結論 障害児の母親の就業状況は,障害児への福祉サービス向上により就業率についてはやや改善されたが一般の子育て世帯よりはるかに低い。特に医療的ケアや通学に送迎が必要であると就業が制限される。配偶者の協力は母親の就業形態で変わりなく,働く母親への負担は高い。非正規,正規就業の違いには継続就業できたか否かの影響が大きいと考えられた。

キーワード 障害児,母親,就業,放課後等デイサービス

 

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第66巻第7号 2019年7月

高齢化に伴う今後の外来診療需要の推計と総合診療の役割

佐藤 幹也(サトウ ミキヤ) 前野 哲博(マエノ テツヒロ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ)

目的 高齢化の進行に伴って国民の医療や介護の需要が急増すると予測されている。本研究では,厚生労働統計を用いて2025年の外来診療需要を推計し,高齢化に伴う外来診療需要増に対する総合診療の役割について検討した。

方法 2016年(平成28年)国民生活基礎調査,日本の将来推計人口(2006年3月推計),2016年度(平成28年度)介護保険事業状況報告を用いて2016年と2025年の外来通院者数,通院傷病件数,要介護認定者数を世代別(年少・生産年齢・前期高齢者・後期高齢者)に推計して比較した。

結果 2016年から2025年にかけて年少人口は179万人,生産年齢人口は28万人,前期高齢者は398万人減るのに対して後期高齢者は544万人増え,総数では61万人減ると推計されている。同期間の外来通院者数は年少で29万人,生産年齢で8万人,前期高齢者で248万人減るのに対して後期高齢者では392万人増え,総数では107万人増加する。同期間の通院傷病件数は年少で36万件,生産年齢で7万件,前期高齢者で499万件減るのに対して後期高齢者では969万件増える。また同期間の要介護認定者数は,前期高齢者では11万人減るのに対して後期高齢者では241万人増える。これらの変化を大都市部と地方部で比較すると,外来通院者数は地方部,都市部の年少,生産年齢で減少し,増えるのは主として都市部の後期高齢者に限定される。

結論 2016年からの10年間に外来診療需要は増加するが,この変化は都市部に限局的で,もっぱら多疾患併存によって後期高齢者の通院傷病件数が増加することに起因すると推測された。都市部で後期高齢者の外来診療需要が急増するのに対応しつつ医療の質を保ちながら医療費を適正化するためには,傷病ごとに診療する専門医型の外来診療から,1回の診療で1人の患者の多彩な健康問題に対応する総合診療医型の外来診療への転換が有効であると考えられた。

キーワード 総合診療,総合診療医,外来需要推計,外来診療,多疾患併存

 

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第66巻第7号 2019年7月

日本の対策型検診における直近5年度分の偶発症頻度について

町井 涼子(マチイ リョウコ) 高橋 宏和(タカハシ ヒロカズ) 中山 富雄(ナカヤマ トミオ)

目的 がん検診は診療と異なり無症状の健康な人を対象としているため,受診者の不利益を最小化することが最も重要である。がん検診の不利益の一つである偶発症について,日本の対策型検診(住民検診)での発生頻度を明らかにする。

方法 国の地域保健・健康増進事業報告のデータを利用し,2011~2015年度に発生した重篤な偶発症数および偶発症頻度(検診/精検10万件あたりの偶発症割合)を集計した。対象のがん種は国の指針に基づく5種類(胃,大腸,肺,乳がん検診は40歳以上,子宮頸がん検診は20歳以上)とし,各々検診時と精検時における偶発症数を把握した(大腸がん検診では精検時の偶発症のみ)。また精検時の死亡例について,具体的な精検方法や死亡までの経緯を自治体に照会した。

結果 5年間の偶発症数合計は,検診時では胃がんが最も多く(210件),次いで乳がん(46件),子宮頸がん(39件),肺がん(28件)の順に多かった。精検時では大腸がん検診で最も多く(168件),次いで肺がん(69件),胃がん(53件),乳がん(39件),子宮頸がん(15件)の順に多かった。これらの偶発症数と検診受診者数の年齢階級別分布はほぼ一致しており,検査件数の増加に伴って不利益も増えることが示された。発生頻度(検診/精検10万件対)としては,検診時では胃がんが最も高く(1.13),次いで乳がん(0.30),子宮頸がん(0.17),肺がん(0.07)の順に高かった。精検時では肺がんが最も高く(9.41),次いで大腸がん(7.99),子宮頸がん(4.79),胃がん(4.07),乳がん(3.88)の順に高かった。検診と精検を合わせた検診プログラム全体の偶発症頻度は,5部位のがん共通で,高齢者(75歳もしくは80歳以上)で高かった。精検時の死亡例は5年間で17件報告されたが,そのうち1件を除き,医療記録の保管期限が過ぎているなどの理由により詳細が確認できなかった。

結論 日本の対策型検診における偶発症頻度を初めて明らかにし,75歳もしくは80歳以上の高齢者で偶発症割合が高いことを明らかにした。高齢者における検診の不利益を減らすためには,諸外国での対応を参考に,日本でも検診対象の上限年齢を新たに設定する必要があると考えられるが,当面の対策としては,検診の不利益を事前に十分に説明するなど,検診受診の意思決定を適切に支援していく必要がある。

キーワード がん検診,偶発症,地域保健・健康増進事業報告,対策型検診,不利益

 

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第66巻第7号 2019年7月

日本における鍼灸治療利用者の特徴

-全国横断調査データを利用した多変量解析-
石崎 直人(イシザキ ナオト) 鍋田 智之(ナベタ トモユキ) 安野 富美子(ヤスノ フミコ)
藤井 亮輔(フジイ リョウスケ) 矢野 忠(ヤノ タダシ) 

目的 鍼灸治療を含む補完代替医療の利用者の特徴は世界各国から報告されているが,日本の鍼灸治療利用者に特化した情報は限られている。今回,2012年に著者らが実施した全国規模の横断調査の結果を利用した二次的な解析を通して,鍼灸治療利用者の特徴を探索的に検討した。

方法 2012年3月の時点における全国20歳以上の男女個人からのランダムサンプル2,000名を対象として実施した鍼灸治療の利用状況に関する調査で取得したデータを利用して,鍼灸治療経験の有無を目的変数とし,年齢,性別,学歴,都市規模を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。

結果 調査対象者2,000名中1,331名(66.6%)から回答を得た。1,331名中,過去に1度でも鍼灸治療を経験したことがあると回答した者は336名(25.2%)であった。鍼灸治療経験者と未経験者の年齢(中央値)は,それぞれ55歳と48歳であり,鍼灸治療経験者の年齢が有意に高かった。学歴および都市規模においては,鍼灸治療経験の有無による差は明らかではなかった。鍼灸治療経験の有無を目的変数とし,回答者の基本属性を説明変数としたロジスティック回帰分析の結果において有意となった因子(OR[95%CI])は,年齢(40-59歳:1.903[1.368-2.648],60歳以上:2.405[1.693-3.416])であった。性別(女性:1.073[0.834-1.380]),最終学歴(高校卒:1.229[0.791-1.909],大学卒:1.559[0.973-2.500]),都市規模(その他の市:1.086[0.812-1.451],町村0.617[0.368-1.037])などの要因はいずれも有意には至らなかった。

結論 日本における鍼灸治療利用には高齢であることが一要因であることが示唆されたが,健康状態,収入等他の要因を含めた調査が今後必要であると考えられた。

キーワード 鍼灸,全国調査,利用者,多変量解析,年齢,学歴

 

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第66巻第7号 2019年7月

定年退職等により新たに国民健康保険の被保険者になった者の
特徴および国保連が行う保険者支援に関する実態調査

小池 創一(コイケ ソウイチ) 古井 祐司(フルイ ユウジ) 磯 博康(イソ ヒロヤス)
山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ) 津下 一代(ツシタ カズヨ) 三浦 克之(ミウラ カツユキ)
宮本 恵宏(ミヤモト ヨシヒロ) 立石 清一郎(タテイシ セイイチロウ) 岡村 智教(オカムラ トモノリ)

目的 特定健康診査・特定保健指導も制度開始から10年が経過し,将来的な健診・保健指導制度の在り方,特に生涯を通じた健康づくりに対して,保険者が制度を超えてどのように対応していくかについて検討することは重要になっている。このような状況を踏まえ,本研究では,定年退職等により新たに市町村国民健康保険(国保)の被保険者になった者の特徴,保険者による健康状況の把握や制度周知に関する取り組みの状況,国民健康保険団体連合会(国保連)が行う保険者支援の実態等について明らかにするとともに,今後の課題について検討することとした。

方法 市町村国保の保険者と国保連に,郵送による自記式質問紙調査を行った。質問項目は,保険者調査では,定年等による新規加入者の健康状態や受療行動の課題,前保険者に求めたい取り組み,国保へ異動してきた者への取り組み内容を,国保連向け調査では,国保へ異動してきた者の健康状態や受療行動,個々の保険者支援,保険者間異動時の情報のやり取り等の有無と内容について,選択肢を提示するとともに自由記載欄を設けた。

結果 1,225保険者(回収率71.4%),38国保連(回収率80.9%)から有効回答を得た。国保へ異動してきた者と国保に継続して加入している者の健康状態や受療行動に差があるかとの質問について,保険者調査では3/4,国保連調査でも4割強が分からないと回答していたが,差があると感じている場合には,国保移行者の方が特定健康診査の受診率や特定保健指導の完遂率などが高いと感じる保険者と,低いと感じる保険者はほぼ拮抗していた。保険者が,前保険者に期待していることには,制度変更に関する情報提供が約2/3と最多で,前保険者の健診結果等のデータ提供や,「健康問題への意識づけ」についても約半数の保険者が選択をしていた。国保連に関して,保険者間異動時の情報のやり取りや健康管理の引き継ぎに関しては,9割近い国保連から議論を行っているとの回答を得た。

結論 保険者,国保連に対するアンケート調査の結果,保険者間異動前後の保健指導や受療動向や,各種データの活用についてはいまだ課題があることが明らかになった。また,保険者間異動後も継続的に取り組める生活習慣病の重症化予防に向けた取り組みの重要性も示唆された。

キーワード 国民健康保険,保険者支援,保険者間異動,重症化予防

 

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第66巻第6号 2019年6月

医師・歯科医師・薬剤師調査を用いた専門医数の将来推計

麻生 将太郎(アソウ ショウタロウ) 康永 秀生(ヤスナガ ヒデオ) 小池 創一(コイケ ソウイチ)

目的 これまで日本の専門医数の将来推計を行った研究はない。専門医の適正配置のために各診療科の専門医数の将来推計を行った。

方法 2010年から2014年の医師・歯科医師・薬剤師調査の個票データに基づいて,Markovモデルを用いて,基本領域(精神科,臨床検査科を除く)の専門医数の将来推計を2038年まで行った。新人医師数が7,000人/年増加すると仮定し,男女比を7:3とした。定年退職する医師の男女比は実測値に基づき,年に応じて変化させた。専門医取得,維持,喪失のステータスの移行確率は,推計期間中一定とした。労働力を算出する際の重みづけは,60歳以上,あるいは女性は0.8,それ以外は1とした。

結果 256,885人の医師の背景は,男性77.9%,平均年齢40.9歳,診療所勤務28.9%,市中病院勤務50.8%,大学病院勤務20.3%であった。ほぼすべての診療科で専門医数は増加し,2014年と比較して,形成外科(1.66倍),救急科(1.58倍)で比較的大きく増加する。男性の専門医数はリハビリテーション科(0.68倍),外科(0.85倍)で減少する。女性の専門医数は全診療科で増加し,特に形成外科(3.27倍),泌尿器科(3.04倍)で比較的大きく増加する。2016年を1としたときの2038年における「女性の専門医数の増加比」はすべての診療科で1.5以上であり,特に泌尿器科(2.73),リハビリテーション科(2.72),外科(2.48)が大きい値となった。「労働力の増加率」もすべての診療科で1倍以上であり,特に形成外科(1.91倍),救急科(1.78倍)で大きい値となった。

結論 専門医数は全診療科で増加するものの,診療科によって大きなばらつきがある。女性の専門医数が増加するものの,専門医の労働力の減少にはつながらないことが示唆された。

キーワード 専門医,将来推計,Markovモデル,医師・歯科医師・薬剤師調査

 

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第66巻第6号 2019年6月

島根県江津市の中山間地域に暮らす中高年者に対する
地域包括エンドオブライフ・ケア構築の課題

伊藤 智子(イトウ トモコ) 阿川 啓子(アガワ ケイコ) 加藤 真紀(カトウ マキ)
諸岡 了介(モロオカ リョウスケ) 浅見 洋(アサミ ヒロシ)

目的 本研究の目的は,島根県江津市の中山間地域に暮らす人々のエンドオブライフに関する3年間の意識変化を明らかにし,市民の意志を大切にした地域包括エンドオブライフ・ケアの課題を検討することである。

方法 島根県江津市中山間地域において40歳から79歳までの市民800名に対し,平成23年,平成26年にエンドオブライフに関する郵送調査を行い,その変化を解析した。調査用紙は,厚生労働省の「終末期療養に関する調査」を参考に,独自の自記式質問紙を用いた。解析は性別と2群に分けた年代別(40~59歳群・60~79歳群)にて行った。

結果 3年間で60~79歳群において「死への不安や恐れ」を感じる人が有意に増加した。また,自宅死の可能条件は,男性群にて「自治体などの経済的支援」,女性群にて「カウンセラーの支援」が有意に増加した。60~79歳群で「死への不安や恐れ」を感じる人が有意に増加したのは,この3年間で江津市の中山間地域で暮らすことが十分な医療を受けることを難しくしていることの1つの表れと推察された。不治の病気になった場合の治療継続を希望する人の割合が有意に減少したことと,男性群にて「自治体などの経済的支援」,女性群にて「カウンセラーの支援」が有意に増加したことから,市民は尊厳死を望み,エンドオブライフ全般に対する困りごとに対する相談者を求めていることが推察された。

結論 江津市の中山間地域に暮らす中高年の地域包括エンドオブライフ・ケアを推進するためには,死を受容できる医療・福祉の確保,QOLを重視した個別サービスの充実,家族への介護費用支援,エンドオブライフを支える総合的ケアマネジメント力を有する人材育成が課題と考えられた。

キーワード エンドオブライフ・ケアニーズ,中高年者,中山間地域,3年間の変化

 

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第66巻第6号 2019年6月

悩みや不安を感じている者の割合と
失業率との時系列相関分析

神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ)

目的 日本における悩みや不安を感じている者の割合と失業率との時系列相関分析を行うことを目的とした。

方法 「悩みや不安を感じている」者の割合は,内閣府および旧総理府による「国民生活に関する世論調査」から得た。失業率は,総務省の「労働力調査」から完全失業者数と労働力人口を得,前者を後者で除することで得た。回答者全体と性・年齢階層別に,「悩みや不安を感じている」者の割合やそれぞれの回答者(「悩みや不安を感じていない」「わからない」者も含む)の中での各々の具体的な悩みや不安を持つ者の割合と失業率との時系列での単相関分析を行った。

結果 悩みや不安を感じている者の割合と失業率との相関係数は,回答者全体で0.82であった。性・年齢階層別では,男性の20歳代から50歳代および女性の30歳代以上において0.7以上と高かった。特に,男性の30歳代・40歳代と女性の40歳代では0.8を超えていた。悩みの具体的な項目では,期間中に最も高い割合が認められたものは同年代の男女では共通しており,20歳代では「自分の生活上の問題について」で,30歳代では「今後の収入や資産の見通しについて」で,40歳代・50歳代・60歳代では「老後の生活設計について」であった。それらと失業率との相関係数は,20歳代・30歳代の男性,40歳代・50歳代の男女,60歳代の女性で0.6以上であった。

考察 失業の増減が,悩みや不安を感じている者の割合の増減の直接の原因であることは考えにくい。しかし,失業率がより高い社会経済状況下では,たとえ自身が失業者とはならなくとも,失業の不安を感じたり,所得の減少や伸び悩み等に直面することで,悩みや不安を持つ者の割合が増加することは十分に考えられる。悩みや不安を感じている者の割合という主観に関する指標と失業率という客観的指標を関連づけたところに本研究の意義があると考えられる。

キーワード 悩み,不安,失業,自殺,経済,時系列相関分析

 

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第66巻第6号 2019年6月

保育所における虐待リスクの重複による
対応上の困難感および関連機関との連携の現状

井上 信次(イノウエ シンジ) 松宮 透髙(マツミヤ ユキタカ)

目的 本研究では,虐待リスクの重複は対応する保育士の主観的困難感を高めること,虐待に関する保育所と関連機関との連携が不十分であることを実証的に明らかにすることにした。

方法 A県に所在するすべての保育所を対象に質問紙調査を行い,利用児における虐待リスクの重複状況などを尋ね,統計学的に分析を行った。調査票は2013年10月から同年11月に配布し回収した。郵送調査法により行った。410施設に配布した内,139施設(33.9%)から調査票が返却された。その内,本研究に該当する調査票への記入があった調査票は79票(19.3%)であった。79票には344人の利用児についての記載があった。初めに,関係機関との連携について基礎集計から明らかにした。虐待リスクの数と保育士が持つ対応上の困難感との関係について,オッズ比から明らかにした。分析では「対応上の困難感」を従属変数とし,「虐待の有無」「利用児の障害の有無」「親のメンタルヘルス問題の有無」「同居家族」「世帯の所得状況」「保育所内での連携」「市町村担当課との連携」および「児童相談所との連携」を独立変数とした,2項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 連携について,保育所内と市町村担当課に比べて,児童相談所とは非常に低かった。次に,保育士が有する困難感について,3つの虐待リスクの内,虐待リスクが2件以上ある場合と2件未満の場合との間に,統計学的な有意差が認められた。一方,虐待リスクが3件の場合と2件の場合との間と,1件の場合と0件の場合との間には,その困難感について統計学的な有意差が認められなかった。利用児に対応する際の保育士の困難感について,低年齢児の場合,「虐待の有無」「親のメンタルヘルス問題の有無」「利用児の障害の有無」の順に影響を与えていた。また,高年齢児の場合は,「虐待の有無」が保育士の認識に影響を与えていた。

結論 複数の虐待リスクを有するか,または被虐待が感知された状況が,保育士の対応上の主観的困難感に影響を与えていることが示唆された。主観的な困難感を通じて,保育士は虐待およびその好発状況についていち早く感知するモニタリング機能を発揮し得ると推察される。さらに,保育所と児童相談所との連携が約8割でできていなかったことから,虐待リスクを感知しながらも,保護者との関係維持を考慮して問題として取りあげづらく外部機関にも気軽に相談しにくい状況に,保育士が置かれている可能性が示唆された。

キーワード 保育士,メンタルヘルス,子ども虐待,虐待リスク,保育所との連携

 

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第66巻第6号 2019年6月

自立高齢者の運動頻度における主観的ウェルビーイングと
3年後の自立度との関連

児玉 小百合(コダマ サユリ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 山登 一輝(ヤマシロ カズテル)
薬師寺 清幸(ヤクシジ キヨユキ) 星 旦二(ホシ タンジ)

目的 自立した高齢者における3年間の縦断調査により,楽しみ・生きがいの対象として運動に取り組むことは,3年後の自立度低下を抑制するという仮説を検証することを目的とした。

方法 25府県の「明るい長寿社会づくり推進機構」の事業に参加した9,508人を対象に,2013年にアンケート調査を実施し(回収率45.7%),第1回調査回答者のうち第2回以降の調査に協力の意思を示した3,990人を対象に,2016年に同内容の調査を実施した(回収率92.6%)。両調査の継続回答者3,693人から性・年齢不明者(24人),65歳未満者(510人),死亡者(35人),欠損値があった761人を除いた2,363人を分析対象とした。運動を楽しみや生きがいの対象として選択した群のうち,運動頻度の回答が「週2回以下」の群を「楽しみ生きがい・週2回以下(以下,楽生・週2回以下)」とし,「週3回以上」の群を「楽しみ生きがい・週3回以上(以下,楽生・週3回以上)」にカテゴリー化し,それ以外は運動頻度の「週2回以下」と「週3回以上」に分類した(楽しみ生きがい運動頻度)。自立に関連する項目は,できる場合を1点として最高12点で評価した。3年後の自立度平均値11.40点の前後で,対象者を「自立度平均未満」と「自立度平均以上」に分類した。楽しみ生きがい運動頻度との総合的な関連は,3年後の「自立度平均未満」を従属変数としたロジスティック回帰分析により分析した。

結果 調査開始時の運動状況は,「週2回以下」17.9%,「楽生・週2回以下」26.2%,「週3回以上」6.8%,「楽生・週3回以上」49.0%であった。3年後の自立度は,「週2回以下」11.27点と「楽生・週3回以上」11.50点の間に有意な差(P<0.05)が認められた。楽しみ生きがい運動頻度の「週2回以下」をオッズ比(以下,OR)が1となる基準カテゴリーに設定したところ,性・年齢・基本的属性・健康関連要因を調整変数として投入したモデルにおいて,3年後の自立度平均未満と有意に関連した変数は,「楽生・週3回以上」(OR:0.76(95%信頼区間(以下,CI):0.59-0.97),女性(OR:0.46,95%CI:0.37-0.59),年齢(OR:1.02,95%CI:1.00-1.04),収入のある仕事(OR:0.77,95%CI:0.61-0.97),過去1年転倒骨折なし(OR:0.54,95%CI:0.42-0.71),主観的健康感(OR:0.70,95%CI:0.59-0.84),食事の多様性(OR:0.95,95%CI:0.93-0.97)であった。

結論 高齢者の運動は,主観的ウェルビーイングに関連する楽しみ・生きがいの対象として取り組むことが,3年後の自立度低下の抑制に関連する可能性が示唆された。

キーワード 運動頻度,主観的ウェルビーイング,自立度,高齢者,縦断調査

 

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第66巻第5号 2019年5月

急性期病院のソーシャルワーカーのための
クオリティ・インジケーターの開発

-ソーシャルワーカーへの調査と患者調査によるクオリティ・インジケーターの評価-
原田 とも子(ハラダ トモコ) 大出 幸子(オオデ サチコ) 笹岡 真弓(ササオカ マユミ)
西田 知佳子(ニシダ チカコ) 宮内 佳代子(ミヤウチ カヨコ) 高橋 理(タカハシ オサム)
小山 秀夫(コヤマ ヒデオ) 福井 次矢(フクイ ツグヤ)

目的 急性期病院のソーシャルワーカー(SW)が質の高い支援を患者に提供するためのQuality Indicator(QI)の研究は進んでいない。そこで,2011年からQI開発の研究を進め,14項目のQIを作成した。本研究では,作成したQIが現場のSWに実用性があるかを明らかにし,評価を行い,QIを完成させることを目的とした。

方法 管理的役割にあるSWへのQIの質問紙調査と入院患者を対象としたQIに関連する調査を全国の急性期の100病院へ郵送調査で実施し,QIの評価を行った。

結果 SWへの調査は81病院から回答を得られた。患者調査は56病院から回答を得られ,患者総数は7,075人であった。14項目のQIは回答したSWの46~96%に必要と評価された。90%以上のSWに必要性が評価されたQIは,「退院患者へのSWが関わった割合」と「虐待」のQIであった。「退院患者へのSWが関わった割合」は,患者調査によっても,SW介入がどの程度であるかを把握でき,病院によって差があることも明らかとなった。「緊急ケース」「予定外の再入院」「キーパーソンが不在」「無保険」のQIは,SWの77~80%に必要と評価され,症例数は少なかったが,SWが重要視していることが確認された。また,SWの介入の多い疾患と思われた「脳卒中」「認知症」「リハビリ継続患者」のQIは,患者調査においても多く介入していることがわかり,それらのQIは必要であると思われた。「患者・家族の意向を記録した数の割合」や「複数の療養方法を提示した患者数の割合」の結果からも,支援に必要なプロセスの評価が可能であることが確認された。今後データを取りたいとSWの50%以上が回答したQIが6項目あった一方で,50%以上の病院でデータを取ることは困難と回答されたQIが7項目あり,必要性は認識するが,データ取得が困難であるという課題も明らかとなった。

結論 調査結果から,研究班でQI項目の再評価を行い,一部修正し,13項目のQIを確定した。本研究は,QI研究の第一歩であり,妥当性の検証は今後の課題である。QIは質的評価を行い,部門の目標・課題を見いだすツールとして有効である。このQIデータを用いた質向上の取り組みは,全国のSWのQIデータの集約により,必要とされるガイドラインや研修課題も見いだせる可能性もあり,QIの探求を継続していく意義も示唆された。

キーワード ソーシャルワーカー,Quality Indicator(QI),患者支援,支援プロセス,質評価,質向上

 

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第66巻第5号 2019年5月

高齢者のセルフ・ネグレクト尺度開発に関する研究

鄭 煕聖(チョン ヒソン) 孟 浚鎬(メン ジュンホ)

目的 本研究は,高齢者がセルフ・ネグレクトに陥るリスクを正確に把握し効果的な介入方法と支援体制の確立に資することをねらいとして,在宅高齢者の自己記入式セルフ・ネグレクト測定尺度を開発することを目的とした。

方法 本研究では,韓国・ソウル市に居住し,老人総合福祉館と総合社会福祉館を利用する65歳以上の在宅高齢者を対象に,韓国語の無記名自記式質問紙調査を実施した。調査内容は,対象者の基本属性とセルフ・ネグレクトとし,セルフ・ネグレクト測定尺度は19項目で構成した3因子二次因子モデルを仮定した。分析に先立ち,韓国語の調査項目を日本語に訳した。統計解釈には,韓国の277名のデータを基礎に,そのモデルの構成概念妥当性を構造方程式モデリングによる確認的因子分析で検討した。また,高齢者の個人属性を独立変数とするMIMICモデルのデータへの適合度を検討した。

結果 因子構造モデルのデータへの適合度はCFIが0.921,RMSEAが0.065であり,統計学的に支持された。Cronbachのα信頼性係数は0.803で,許容範囲であった。なお,個人属性とセルフ・ネグレクトとの関連について,MIMICモデルの適合度はCFIが0.924,RMSEAが0.046であり,配偶者との同居状態(0.165,p<0.05)および月収(-0.216,p<0.01)に有意な関連性が認められた。

結論 セルフ・ネグレクトのリスク要因を早期に発見し,本尺度が潜在的リスクを有する高齢者への予防的介入に向けた方策を模索するための有効な手段となることを議論した。

キーワード 在宅高齢者,セルフ・ネグレクト,尺度開発,確認的因子分析,MIMICモデル

 

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第66巻第5号 2019年5月

過眠症状を呈し睡眠専門外来を受診した看護学生の睡眠実態

-看護学生への睡眠衛生教育の必要性-
萱場(木村) 桃子(カヤバ(キムラ) モモコ) 笹井(咲間) 妙子(ササイ(サクマ) タエコ)

目的 過眠症状を呈し睡眠専門外来を受診した看護学生の睡眠習慣,主観的な日中の眠気,健康関連QOL(Quality of Life)の特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 睡眠専門外来を受診した大学生・専門学校生である患者194名を対象に,診療録と自記式の質問票から,睡眠習慣,主観的な日中の眠気,健康関連QOLについての情報を収集し,看護学生と他科の同年代の学生とを比較した。終夜睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査(MSLT)を受検した患者についてはその検査データも収集した。

結果 対象者194名のうち,看護学生は15名(女性13名,男性2名;平均年齢21±1歳),他科学生は179名(女性126名,男性53名;平均年齢20±1歳)であった。終夜睡眠ポリグラフ検査ならびにMSLTを受けた学生は,看護学生では4名,他科学生では74名であり,ナルコレプシーもしくは特発性過眠症の診断に合致する学生は,看護学生では2名,他科学生では55名であった。平日の睡眠時間が6時間未満と回答した患者の割合は,他科学生群(10%)に比べ看護学生群(33%)で有意に高く,睡眠不足症候群の基準を満たす者の割合についても,他科学生群(8%)に比べ看護学生群(27%)で有意に高かった。主観的な眠気を表すエプワース眠気尺度得点は,看護学生群(18±3点)の方が他科学生群(15±4点)に比べて有意に高かった。健康関連QOLについては,看護学生群と他科学生群の間で有意差をみとめなかった。

結論 睡眠専門外来を受診した看護学生には睡眠不足症候群の者が多く,日中の眠気も重度であることが示唆された。看護学生に対する早期の睡眠衛生教育と潜在する睡眠関連疾患に関する知識の拡充を要する。

キーワード 看護学生,過眠症,睡眠不足,睡眠衛生教育

 

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第66巻第5号 2019年5月

中山間地域住民のウェルビーイング増進要因の検討

-宇治田原コホート研究-
古俣 理子(コマタ ミチコ) 星野 明子(ホシノ アキコ) 黒川 剛(クロカワ タケシ)
小川 英人(オガワ ヒデト) 千葉 圭子(チバ ケイコ) 小嶋 操(コジマ ミサオ)
藪 千津子(ヤブ チヅコ) 志澤 美保(シザワ ミホ) 臼井 香苗(ウスイ カナエ) 桂 敏樹(カツラ トシキ)

目的 京都府宇治田原町では,2009年に成人住民を対象にコホートを設定し,それをベースラインとして追跡し健康関連要因を検討している。本研究は,2015年まで追跡したコホートを用いて中山間地域成人住民のウェルビーイング増進要因を縦断的に明らかにすることを目的とした。

方法 2009年の初回調査は,18歳以上の町民から無作為に抽出した3,000人を対象とした。自記式質問紙による郵送法で調査を実施し,1,295人から回答を得た。2回目の調査は2015年に実施し,初回調査に回答があった1,295人中死亡・転出等216人を除いた1,073人を対象として,793人から回答が得られた。調査項目は,基本属性,主観的健康感,既往歴,身長,体重,歯科健診受診状況,運動,栄養,喫煙,飲酒,休養,WHO-5 Well-Being Index(以下,WHO-5),主観的生活満足感,社会的つながりの有無であった。

結果 2015年のウェルビーイング良好者は,男性が女性に比べて多く,年齢階級別で有意差があった。ウェルビーイング増進要因は,女性では,既往歴(心臓病)がないこと,主観的生活満足感が高いことであった。年齢階級別にみると,18~39歳ではウェルビーイング増進要因は年齢が高いことであった。40~64歳では,飲酒習慣があること,喫煙しないこと,食事時間が規則的であることであった。65歳以上では,年齢が若く,既往歴(心臓病)がないこと,最近1年間に歯科健診を受診していること,社会的つながりがあること,主観的生活満足感が高いこと,経済的なゆとりがあること,居住年数が長いことであった。

結論 ウェルビーイングに関連する要因は,性別,年齢階級別で異なっていることが明らかになった。青年期においては,自分の家族を形成することがウェルビーイング増進要因になる可能性が示唆された。中年期においては健康なライフスタイルがウェルビーイング増進要因となる可能性が示唆された。高齢期では,歯科健診受診,社会的つながりがあること,主観的生活満足感が高いこと,経済的なゆとりがあること,居住年数が長いことがウェルビーイング維持増進要因となった。一方で,既往歴や高齢がウェルビーイング低下要因であることが明らかになった。地域住民の健康で安全安心な街づくりは,より対象に合わせた取り組みを実施する等の工夫が必要である。

キーワード ウェルビーイング,中山間地域,WHO-5,コホート,健康増進計画

 

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第66巻第5号 2019年5月

梅毒患者数の増加に関連する要因解析

井上 英耶(イノウエ ヒデヤ) 鈴木 智之(スズキ トモユキ)
小嶋 美穂子(コジマ ミホコ) 田村 和也(タムラ カズヤ) 井下 英二(イノシタ エイジ)

目的 近年,梅毒患者が増加している一方,増加要因については不明なところが多いため,都道府県別のデータを用いて背景因子を探索した。

方法 都道府県別の2014年から3年間の急性梅毒の1期,2期の平均患者数を人口で除したものを罹患率とし,2015年の個室付き浴場数,2015年の無店舗型性風俗特殊営業1号店舗数,2015年外国人訪問率を使用した。まず,男女間の罹患率の相関および男女別の患者数と上述の要因との相関を求めた。次に,罹患率を目的変数とし,個室付き浴場数,無店舗型性風俗特殊営業1号店舗数,外国人訪問率を説明変数として,罹患率に関連する要因を探るために,Williamsの重み付き二項ロジスティック回帰分析で検討した。

結果 梅毒の男女間の罹患率について有意な正の相関が認められた(p<0.01)。また,男女とも梅毒の患者数と個室付き浴場数,無店舗型性風俗特殊営業1号店舗数,外国人訪問率について,有意な正の相関が認められた(p<0.05)。一方,Williamsの重み付き二項ロジスティック回帰分析の結果として,無店舗型性風俗特殊営業1号店舗数が罹患率に最も大きな影響を持つことが判明した。

結論 梅毒患者数増加の背景として,無店舗型性風俗特殊営業という性風俗産業の業態が重要であることが示唆された。

キーワード 梅毒,性風俗産業,外国人訪問率,感染拡大要因,Williamsの重み付き二項ロジスティック回帰分析

 

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第66巻第5号 2019年5月

認知症の要介護者における介護サービス
の利用に伴う自己負担額に関する研究

-国民生活基礎調査介護票をもとに-
河野 禎之(カワノ ヨシユキ) 山中 克夫(ヤマナカ カツオ) 伊藤 智子(イトウ トモコ)
野口 晴子(ノグチ ハルコ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ)

目的 わが国の社会的課題である認知症について,その介護に伴う経済的な負担を利用者視点から明らかにすることは喫緊の課題である。特に,他疾患との比較や合併症との関連性から現状の負担を明らかにすることは,今後の支援政策を考える上で重要な示唆をもたらす。本研究では,介護サービスの利用に伴う自己負担額に焦点を当て,介護が必要となった主な原因が認知症の場合と,その他の原因の場合との比較から負担の大きさを明らかにすること,また,認知症が他の原因と合併することによる自己負担額への影響について検証することを目的とした。

方法 平成25年国民生活基礎調査のうち,介護票の回答者の結果を用いた。最終的な分析対象者は4,414人(平均年齢83.2±8.5歳,男性1,438人,女性2,976人)であった。介護票の質問項目のうち,介護が必要となった原因および主な原因と,介護サービスの自己負担額,現在の要介護度,介護サービスの種類を分析に用いた。これらの項目から,介護が必要となった主な原因別での介護サービスの自己負担額および種類の比較と,認知症が合併する場合とその他の原因が合併する場合の自己負担額の比較を行った。

結果 介護サービスの自己負担額について2要因分散分析(介護が必要となった主な原因×要介護度)を行った結果,各要因の主効果のみが認められた。具体的には,原因では認知症が他疾患に比べ自己負担額が最も高く,要介護度が高い場合ほど自己負担額が高いことが明らかにされた。また,介護サービスの種類別に比較すると,認知症の場合は特に居住系サービスの利用割合が高くなっていた。さらに,認知症が合併症として重なる場合は,他の疾患が合併するよりも自己負担額が有意に増加し,特に要介護1-3の段階では糖尿病に認知症が合併した場合に自己負担額が最も上昇することが明らかにされた。

結論 認知症は介護サービスの自己負担額を増やし,認知症の本人や家族等に経済的負担を強いる可能性がある。特に糖尿病と合併することにより,その傾向は最も高まることが考えられる。そのため,介護保険制度だけではなく民間の保険制度を含め,重症度に応じて認知症の人の経済的な負担の不均衡を取り除く社会システムや制度を早急に構築する必要がある。

キーワード 認知症,介護サービスの自己負担額,国民生活基礎調査,介護票,合併症,介護保険

 

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第66巻第4号 2019年4月

都道府県別のがん死亡率は喫煙率と相関する

池上 匡(イケガミ タダシ)

目的 都道府県別のがん死亡率には明確に差があるが,その原因は複合的と考えられる。しかし喫煙ががん死亡リスクを増加させることは自明であり,本研究の目的は,都道府県別の喫煙率とがん死亡率の関係を明らかにすることである。

方法 厚生労働省の公開データより,都道府県別の男女喫煙率と年齢調整後のがん死亡率との相関関係を検討した。喫煙率調査は,2001年度から2016年度の間で3年ごとに計6回行われた。同じ年度同士の相関関係と,年度の経過に伴う相関関係の傾向および2016年度のがん死亡率と過去の年度の喫煙率の相関を求めた。また,女性喫煙率と男性喫煙率の相関を検討した。2016年度からみた以前の各年度の喫煙率の低下率とがん死亡率の低下率についても検討した。

結果 男性では2016年度の喫煙率と年齢調整後のがん死亡率が有意な相関関係を示した。女性では2001年度から2013年度まで有意な相関関係を認めた。2016年度のがん死亡率と過去の喫煙率との関係は,男性では2013年度の喫煙率との間に有意な相関が,また女性では2010,2013年度の喫煙率と有意な相関関係が認められた。都道府県別の女性喫煙率は,男性喫煙率と強い相関関係を示した。2001年度と2016年度の間の喫煙率低下とがん死亡率の低下には,男女ともに有意な相関関係がみられた。

結論 都道府県別のがん死亡率は男女ともに喫煙率と相関が認められ,がん死亡率の地域差に喫煙が関与していると考えられる。

キーワード 喫煙率,がん死亡率,都道府県,年齢調整死亡率

 

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第66巻第4号 2019年4月

日本における主観的健康指標と
客観的健康指標の乖離について

佐川 和彦(サガワ カズヒコ)

目的 OECDによる加盟国を対象とした調査研究によれば,日本は平均寿命ではトップでありながら,主観的な健康状態では最低ランクという状態であり,健康に関しては国際的にみて大きな矛盾を抱えた国ということになる。日本を対象として主観的健康指標と客観的健康指標との関係について分析を行う。

方法 分析には都道府県別データを使用し,HLM(階層線型モデル)の推定を行う。主観的健康指標が良好であるほど,客観的健康指標も良好になると仮定する。そのうえで,主観的健康指標の良好さが客観的健康指標の良好さにつながる度合いについて,地域ごとに格差が生じているかどうかを検証する。さらに,医療資源量がこのような格差を生じさせる要因となっているかどうかについても検証する。本研究において客観的健康指標として用いたのは,平均寿命である。また,主観的健康指標として用いたのは,自己報告による健康度である。これは,「国民生活基礎調査」のアンケートで「自覚症状なし・日常生活影響なし・通院なし」と回答した者の割合である。

結果 実証分析によって,自己報告による健康度が良好であるほど,平均寿命が長い傾向があることが確認された。また,自己報告による健康度の良好さが平均寿命の長さにつながる度合いには都道府県間で統計的に有意な差異が存在することが確認できた。人口10万人当たり一般病院病床数が多い都道府県では,自己報告による健康度に対応する係数が大きいこと,すなわち,自己報告による健康度の良好さが平均寿命の長さにつながる度合いがさらに高くなっていることが確認された。

結論 人口当たり病床数が多い地域ではそれ以外の地域と比べて,主観的健康指標と客観的健康指標との乖離(標準化した客観的健康指標-標準化した主観的健康指標)が大きくなっている可能性がある。

キーワード 主観的健康指標,客観的健康指標,人口当たり病床数,HLM(階層線型モデル)

 

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第66巻第4号 2019年4月

特定健康診査の受診率に関連する
社会人口学的因子および施策の検討

田島 敦(タジマ アツシ) 奥山 ことば(オクヤマ コトバ) 
久保 武一(クボ タケカズ) 鴇田 滋(トキタ シゲル)

目的 市区町村国保被保険者の特定健康診査(以下,特定健診)受診率と関連のある諸因子を把握するため,各自治体が公開している市区町村データを用いて受診率と関連する社会人口学的因子および施策を検討した。

方法 市区町村国保被保険者の特定健診受診率および受診率向上を目的とした施策をWebサイト上で公表している市区町村を対象とし,各市区町村の社会人口学的因子および施策のデータを平成29年4~8月にWebサイトから収集した。受診率と関連する因子を検討するため,受診率を目的変数,社会人口学的因子および施策を説明変数とした多変量線形回帰分析を実施した。また,各変数でのサブグループ解析を実施し,受診率の調整済平均値を算出した。

結果 4県95市区町村よりデータを得た。特定健診の平均受診率(±標準偏差)は41.4(±11.9)%,調査対象とした全95市区町村の平均年齢は50.6(±3.7)歳であった。受診率向上を目的とした施策として,53市区町村(55.8%)が個別の受診推奨(郵送,メール,訪問など)を行っており,20市区町村(21.1%)が実施方法の工夫(送迎・訪問健診,早朝・夜間・休日健診,実施回数の充実など)を2つ以上行っていた。多変量線形回帰分析の結果,9変数(社会人口学的変数7つおよび施策2つ)に受診率との関連が示された。社会人口学的変数では,財政力指数,完全失業率,人口10万人当たり病院・診療所数,1人当たり国保医療費に受診率との負の関連がみられ,可住地面積割合,人口1人当たり市区町村税収入額,人口10万人当たり脳血管疾患死亡者数に受診率との正の関連がみられた。施策では,実施方法の工夫の数と受診券・問診票の配布に高受診率との関連がみられた。サブグループ解析の結果,工夫の数が多い(2~3つ)市区町村では少ない(0~1つ)市区町村よりも受診率が8.9ポイント高く(48.4%対39.5%),受診券・問診票を配布していた市区町村では,配布していない市区町村に比べて受診率が4.5ポイント高かった。

結論 本研究により,特定健診受診率との関連が高いと考えられる市区町村の社会人口学的因子および施策が示された。受診券・問診票を事前に配布するなどの健診への意識づけを促すような取り組みは,受診行動につなげる上で有用な施策といえるかもしれない。また,実施方法の工夫の数が多いほど受診率が高いという結果から,受診率向上のためには,実施時間や期間・回数を拡大するなど柔軟な体制で健診の機会を提供していくことが重要である可能性がある。

キーワード 特定健康診査(特定健診),受診率,市区町村国保,施策

 

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第66巻第4号 2019年4月

地域の在宅療養支援診療所数に影響を与える要因

-都道府県データを用いた実証分析-
西本 真弓 (ニシモト マユミ) 西田 喜平次(ニシダ キヘイジ)

目的 在宅療養支援診療所(以下,在支診)数は,全国的に増加傾向にあるが,都道府県ベースでみると在支診数にはかなりの地域差が生じている。本研究では,こうした地域差はどういう要因により生じるのかを明らかにすることを目的としている。

方法 データはすべて2010年の都道府県データで,被説明変数には在支診数として高齢者10万人当たりの在支診数を用いている。また説明変数として,在支診の地理的要因の1つである雪日数,経済的要因の1つである後期高齢者医療費,そして設置に関わる状況的要因として一般病院数,一般診療所数,療養病床数,医師数,看護師・准看護師数を用い,最小二乗法で推定を行った。

結果 分析の結果,以下のことが明らかになった。①雪日数が多い都道府県では在支診数が有意に少なくなる傾向がある。②後期高齢者医療費が高い都道府県では在支診数が有意に多くなっている。③一般診療所数は在支診数に有意な正の影響を,療養病床数は有意な負の影響を及ぼす。④医師数が多い都道府県では在支診数が有意に多くなる傾向がある。

結論 在支診数は雪日数が多い地域ほど少なくなる傾向がある。24時間の往診や訪問看護が求められる在支診にとって,雪はスムーズな移動を妨げる要因となり往診における労力がかかることが届け出を躊躇させている可能性がある。また,後期高齢者医療費が高い都道府県では在支診数が有意に多くなっている。この結果から,高齢者の医療機関での支払いが多い地域では経済的インセンティブが働き,在支診の届け出が促される傾向があると考えられる。一般診療所数は在支診数に有意な正の影響があることが示されたが,一般診療所が多い地域は,在支診として届け出を出せる診療所が多いことを意味しており,この結果は予想どおりである。一方,療養病床数は有意な負の結果が示された。在支診と療養病床は対象患者の属性がほぼ同じであることから,療養病床が多い地域では在支診の必要性が少なく,在支診として届け出をしない傾向があるという結果も予想どおりである。また,医師数が多い都道府県では在支診数が有意に多くなる。地域の医師数が少ない地域では,24時間対応を可能にするほどの医師数を確保できない可能性が高くなり,在支診の届け出を抑制することが考えられる。

キーワード 在宅療養支援診療所,終末期医療,療養病床,医師数,後期高齢者医療費,降雪

 

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第66巻第4号 2019年4月

配食サービスを利用する
地域在住高齢者の食生活に関する研究

馬場 保子(ババ ヤスコ) 岡野 茉那(オカノ マナ) 山下 久美子(ヤマシタ クミコ)

目的 健康における食生活の大切さを自覚している高齢者は多く,高齢者世帯数の増加や医療・介護の在宅化等の流れを受けて,配食市場規模は拡大している。本研究の目的は,配食サービスを利用する地域在住高齢者の食生活の実態と,配食サービス利用後の食生活や健康状態の変化,配食サービスの満足度を明らかにすることである。

方法 地域在住の高齢男女83名を対象に自記式無記名質問紙調査を行った。対象者宅へ訪問の承諾を確認したうえで配食の際に研究者が業者に同行して質問紙の配布を行った。調査内容は,対象の属性と,主観的健康観,食材などの購入手段,食習慣に関すること(食事の回数,間食の有無,外食頻度,食生活への認識と行動),配食サービスの利用状況や満足度,配食サービス利用後の食生活や健康状態の変化,配食サービスに対して望むこと(自由記述)とした。配食サービス利用後の食生活と満足度の関係はSpearmanの順位相関を用いた。

結果 年齢の記載がないデータや65歳未満の男女を除外し,64名を分析の対象とした。平均年齢は78.1±9.14(範囲65-94)歳で,87.6%が週に5~7回配食サービスを利用していた。対象の約8割は,食器の後片付けや生ごみの始末など簡単な動作はできていた。配食サービスを利用していないときは,自分で調理したり,市販の弁当・惣菜で賄っていた。配食サービスによって約8割が,買い物の負担や調理の手間がかからなくなった,栄養のバランスがわかるようになった,と感じていたが,健康状態に関しては,あまり変化がみられなかった。献立・量・味付け・価格・職員の対応ともに約9割の対象が配食サービスに満足しており,「食べる楽しみ」は,献立・味付け・価格・量の満足度と有意に相関がみられた。

結語 対象の約6割は介護認定を受けておらず,6割弱は必要な時に買い物を頼める援助者がいることから,要介護・要支援の前段階の比較的身の周りのことを自身でできる虚弱高齢者が,自身でできることと配食サービスを組み合わせて生活していると思われる。配食サービスは,配達員による安否確認も兼ねており,地域で暮らす高齢者にとって食生活を支える役割を果たしていた。定期的に利用者の献立に関する意見や要望を取り入れる仕組みを作ることでさらに満足度は高くなると思われる。

キーワード 配食サービス,地域在住高齢者,食生活

 

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第66巻第4号 2019年4月

特定健康診査受診者における
糖尿病有病者の治療状況と血糖コントロール状況

徳留 明美(トクトメ アケミ) 山田 文也(ヤマダ フミヤ)
延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 萱場 一則(カヤバ カズノリ)

目的 医療保険者に義務づけられている特定健康診査は,糖尿病に主眼が置かれている。本研究は,特定健診結果を経年観察し,糖尿病有病者の治療状況と血糖コントロール状況の実態把握を試みたものである。

方法 平成20年度から27年度の埼玉県市町村国保の特定健診受診者を対象として,糖尿病有病率,未治療率(服薬がない者),コントロール不良率(HbA1c 7.0%以上の者)を性・年齢階級別に算出し,経年観察した。また,連続受診者の初年度と次年度の糖尿病有病率,未治療率を観察した。有病の定義は,空腹時血糖126㎎/dL以上,または随時血糖200㎎/dL以上,またはHbA1c 6.5%(NGSP値)以上,または服薬回答に「はい」と回答している者とした。

結果 解析対象者は男173,471-221,309人,女247,973-296,864人,連続受診者は男112,666-158,613人,女169,411-219,422人であった。糖尿病有病率は男14.4-16.7%,女7.8-9.1%で男は女の1.8-1.9倍であり,年齢階級が高くなるに従い有病率は高くなっていた。未治療率は男41.8-49.6%,女42.8-46.8%であり,年齢階級が低いほど未治療率は高かった。服薬者におけるコントロール不良率は男38.2-42.4%,女39.0-44.4%であり,年齢階級が低いほどコントロール不良率が高かった。連続受診者では初年度糖尿病有病で未治療の者の男73.9-76.6%,女72.1-75.3%が次年度も有病であり,それらの者の未治療率は男73.3-75.3%,女72.8-75.6%であった。

結論 本研究の結果,初年度糖尿病有病であり未治療の者の75%が次年度も有病であった。さらに,その有病者の75%は未治療であり,各年度の未治療率を大きく上回っていた。服薬がなく2年連続して有病であった者には,受診勧奨が必要ではないだろうか。検診後のフォローを十分にすることで未治療の者を減らせるのではないかと考える。糖尿病を予防する対策とともに,有病になってしまった者への対策が急務である。本研究結果は,保健事業を計画する自治体の立案,評価の一助になるといえよう。

キーワード 特定健康診査,市町村国保,糖尿病有病率,未治療率,コントロール不良率,連続受診

 

論文

 

第66巻第4号 2019年4月

食事バランスガイド「菓子・嗜好飲料類摂取目安(200㎉/日)」
の妥当性に関する検討

宮川 淳美(ミヤガワ アツミ) 髙橋 佳子(タカハシ ヨシコ) 古畑 公(フルハタ タダシ)

目的 第3次食育推進基本計画では,「若い世代を中心とした食育の推進」が重点課題として挙げられている。特に,子育て世代においては次世代の育成のために,適切な栄養摂取や健全な食生活の実践が望まれる。その一方で,若年女性の「やせ」や「菓子の摂取比率の増加」などが問題となっている。また,食生活指針の普及ツールである「食事バランスガイド」では,主食・主菜・副菜のバランスを考慮し,菓子・嗜好飲料類の摂取目安を200㎉/日としているが,その根拠となる調査や研究は少ない。本研究では,菓子・嗜好飲料類の摂取量を200㎉/日とする妥当性について,食事摂取状況と生活習慣から検討することを目的とした。

方法 対象は,平成27年11月~平成28年1月の間で,千葉県松戸市の「1歳6カ月児健診」を受診した幼児の母親とした。簡易版自記式食事歴法質問票(BDHQ)と生活習慣調査票を用いて,菓子・嗜好飲料類の摂取エネルギー量を200㎉/日で群分けし,生活習慣,栄養素摂取量,総エネルギーに占める各食品群のエネルギー寄与率,食事バランスガイドを用いたサービング(SV)数の評価について検討を行った。

結果 食事摂取状況においては,菓子・嗜好飲料類の摂取エネルギー量が「200㎉/日以上の群」では,「200㎉/日未満の群」と比べ,総エネルギー摂取量および菓子類・嗜好飲料類のエネルギー摂取量は有意に高く,菓子・嗜好飲料類のエネルギー寄与率も2倍以上高かった。エネルギー摂取量を補正すると,多くの栄養素摂取量が,「200㎉/日以上の群」で「200㎉/日未満の群」と比べ,有意に少なかった。また,「200㎉/日以上の群」で「200㎉/日未満の群」と比べ,穀類,肉類,油脂類のエネルギー寄与率が有意に低かった。「200㎉/日以上の群」では,「200㎉/日未満の群」に比べ,食事バランスガイドの主食・主菜・副菜のSV数が目安量未満の者の割合が有意に多かった。生活習慣においては,朝食欠食習慣に差は認められなかったが,睡眠時間は「200㎉/日以上群」が「200㎉/日未満群」に比べて,短かった。

結論 菓子・嗜好飲料の摂取エネルギーが200㎉/日を超えると,食事のバランスの偏りを生むだけでなく,生活習慣へも影響を及ぼす可能性が示唆され,菓子の摂取エネルギー量を10%程度(160~200㎉)にすることが望ましいと考えられた。

キーワード 菓子・嗜好飲料類,簡易版自記式食事歴法質問票(BDHQ),食事バランスガイド

 

論文

 

第66巻第3号 2019年3月

平成27年都道府県別生命表における平均寿命の地域差分析

首藤 陽平(シュトウ ヨウヘイ) 嶋村 拓生(シマムラ タクオ) 六車 史(ムグルマ フミト)

目的 平成27年において,各都道府県の平均寿命の全国の平均寿命に対する差(地域差)を,年齢別・死因別の寄与へと分解することによって,地域差の要因を明らかにする。また,平成22年と平成27年の年齢別・死因別の寄与を比較することによって,その経年変化を明らかにする。

方法 各都道府県の平均寿命と全国の平均寿命の差(地域差)に対する年齢別の寄与は,全国の死亡率を低い年齢から順次,各都道府県の死亡率に置き換えたときの平均寿命の変化量として算出した。また,死因別の寄与は各年齢に対し,死亡率を死因別に分解することで同様に死因別寄与を求め,全年齢の総和として算出した。

結果 男で平均寿命が1位の滋賀県の地域差は,年齢階級別には50歳以上が大きくプラスに寄与している。また,死因別には不慮の事故を除くすべての死因がプラスに寄与している。また平成22年に1位で,平成27年に2位の長野県の地域差は,死因別には悪性新生物が大きくプラスに寄与しているが,脳血管疾患や自殺がマイナスに寄与している。女で平成22年から平成27年における平均寿命の延びが最も大きかった鳥取県の地域差は,マイナスからプラスに転じ,年齢階級別には0歳などの若年層の寄与が改善している。また,死因別には,悪性新生物や肺炎,自殺の寄与が改善している。また平成22年と平成27年で地域差を比較すると,地域差は減少しているが,全体的な傾向は変わっていない。

結論 各都道府県の平均寿命の全国の平均寿命に対する差(地域差)を年齢別,死因別に分析するとそれぞれの特徴は都道府県により異なる。また,地域差の年齢別・死因別寄与の経年変化を観察することで,地域差の変化や平均寿命の都道府県別順位の変化の要因を詳細に分析できる。

キーワード 都道府県別生命表,平均寿命,地域差,年齢,死因,寄与

 

論文

 

第66巻第3号 2019年3月

平成27年市区町村別生命表における平均余命の誤差評価について

六車 史(ムグルマ フミト) 中井 亮平(ナカイ リョウヘイ)

目的 平成27年市区町村別生命表報告書に記載のある,平均余命の標準誤差について,その評価式の導出過程を明らかにするとともに,人口規模と誤差の大小関係を観察することを目的とした。

方法 Chin Long Chiang氏の方法に基づき,実績死亡数を人口の回数分の真の死亡確率によるベルヌーイ試行の結果とみなすことから出発し,平均余命の標準誤差を,死亡率の分散を使って表現した。

結論 人口の常用対数と平均寿命の標準誤差率の間には負の相関がみとめられ,相関係数は男-0.79,女-0.74であった。

キーワード 試行結果としての死亡数,平均余命の誤差,人口規模

 

論文

 

第66巻第3号 2019年3月

簡易生命表における平均寿命の延びの寄与年数への分解

嶋村 拓生(シマムラ タクオ) 首藤 陽平(シュトウ ヨウヘイ) 六車 史(ムグルマ フミト)

目的 簡易生命表においては,平均寿命の前年からの延びに対する死因別寄与年数を公表し,その算定方法を報告書に載せているところである。本論文では,2つの生命表間の平均寿命の差を要因別寄与年数へと分解する手法の一般論を解説し,平成29年簡易生命表における死因別・死亡月別寄与年数への分解結果を解説する。

方法 平均寿命の前年からの延びを,まず年齢階級別の寄与年数へと分解した後,それらをさらに死因別に加法分解することで行列展開し,それを死因ごとに足し上げることで死因別寄与年数を求めた。

結論 平成29年簡易生命表における平均寿命の前年からの延びの死因別寄与年数をみると,その主要な部分は,「肺炎」による正の寄与,「その他」による負の寄与,次いで「悪性新生物」による正の寄与によるものであることがわかった。

キーワード 2生命表間の平均寿命の差,年齢階級別寄与,要因別寄与,マトリックス展開

 

論文

※この論文の21頁については調整頁であったため省略しております。

 

第66巻第3号 2019年3月

第22回生命表の作成方法について

六車 史(ムグルマ フミト) 今井 秀紀(イマイ ヒデノリ)

※こちらの論文には抄録はございません

 

はじめに

 

本稿は,第22回生命表(平成27年完全生命表)の作成方法について,報告書よりもさらに踏み込んだ解説をし,各種数式についてなぜそうなるのか,その導出過程まで明らかにすることを目的とする。特に,Lagrangeの補間公式の微分ないし積分計算から導かれる,死力および定常人口の計算公式をすべて示す。

 

1 作成に用いた基礎資料

 

第22回生命表の作成に用いた基礎資料は次のとおりである。

⑴ 平成27年,性・生年・年齢・月別死亡数(人口動態統計):厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)

⑵ 平成27年,性・日(月)齢別乳児死亡数(人口動態統計):厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)

⑶ 平成26年および27年,性・月別出生数(人口動態統計):厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)

⑷ 平成27年10月1日現在,性・年齢・出生の月別日本人人口(国勢調査):総務省統計局

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)
を活用した感染症対策の提案

田邊 好美(タナベ ヨシミ) 栗田 順子(クリタ ジュンコ) 長洲 奈月(ナガス ナツキ)
土井 幹雄(ドイ ミキオ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 大日 康史(オオクサ ヤスシ)

目的 茨城県では「学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)」の導入により,2014年には0歳から18歳までの集団生活をする園児,児童・生徒らの感染症の発生状況がリアルタイムで把握できることとなった。本研究では,一保健所での取り組みとその結果を紹介する。

方法 水戸保健所では同システムを利用して,システムから自動的に検出される増加基準を超えた場合に,システム上で動向を把握した上で当該学校あるいは保育園等に電話し,状況や対応の確認を行った。調査対象期間は,2015年4月1日から同年12月31日までとした。アウトカムとしては,集団発生の有無とした。集団発生したとする判断する基準は社会福祉施設における報告基準を準用して1施設当たり10名以上とした。

結果 おおむね1クラス内3名程度の同一症状の欠席が発生した時点で電話連絡した。電話の内容は,状況や対応の確認でおおむね3分程度であった。この9カ月間に52回学校や保育園等に電話した。その内,49回(94.2%)で集団発生基準,つまり1施設で10名以上の欠席は認められなかった。

結論 94.2%で集団発生が発生しなかったため,この取り組みは効果的な感染症対策である可能性が高い。計2時間半を電話での指導に費やしたことになるが,一度施設で集団発生が生じ現地での指導となると,複数名が2時間半以上をかけて対応することになる。したがって,今回の電話での指導は明らかに保健所での業務を軽減した。また当然ながら患者数も激減しているため,公衆衛生の改善にも確実に寄与した。この取り組みにおいても状況や対応の確認のための指導は必要ないと考えられ,学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)が運用されている地域では実施可能であると考えられた。今後は学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランスを含む)が全国の学校や保育園等で活用され,またその情報を今回の水戸保健所同様に保健所や行政,あるいは医師会が活用し,もって公衆衛生が大幅に向上することが期待される。

キーワード 学校欠席者情報収集システム(保育園サーベイランス),集団発生,予防,感染症,保健所

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

保育所における保育者の防災に取り組む姿勢

-災害危険度への認識レベルが異なる地域間比較を通して-
岡本 和花(オカモト カズカ) 白神 敬介(シラガ ケイスケ)

目的 保育所が所在する地域による違いに着目し,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢との関連について明らかにすることを主な目的とした。

方法 郵送法による自記式アンケート調査を実施し,調査期間は2016年11月中旬から12月末であった。対象者は,新潟県・栃木県・静岡県の3県にある保育所の園長22名並びに保育者293名であった。設問は,「訓練」「教育」「共通認識」「防災に取り組む態度」「災害発生を想定した時の危機感」「知識」などの項目から構成され,園長のみに尋ねた項目もあった。分析は,統計的検定における有意水準5%を基準とし,各県の保育所における避難訓練の実態と知識問題の平均正答数では一元配置分散分析と多重比較Tukey法を用い,その他ではχ2検定と残差分析を用いた。

結果 調査対象者からの回収率は85.1%であり,災害危険度への認識レベルが異なる3県の比較では,次の3点において違いがみられた。「豪雨」と「洪水」を想定した避難訓練の実施状況では,ともに新潟県での実施が有意に多く(p<0.01),静岡県での実施が有意に少なかった(p<0.05)。保育所で行われる防災に関する活動である「職員が防災について話し合う機会」は,新潟県では「いつも参加している」保育者(p<0.01),栃木県では「ときどき参加している」保育者が有意に多く(p<0.05),新潟県では「ときどき参加している」保育者が有意に少なかった(p<0.01)。また,保育者の防災に関する知識の平均正答数では,静岡県における保育者が他県よりも有意に多かった(p<0.05)。

結論 保育所が所在する地域による違いは,保育所における保育者の防災に取り組む姿勢にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。一方,保育者の防災に関する知識には,保育所が所在する地域による違いの影響がみられた。つまり,保育者の防災に取り組む姿勢は保育所が所在する地域による違いではなく,別の要因が影響を及ぼしている可能性が高い。しかしながら,保育所における避難訓練で想定されている自然災害の種類や実施回数では地域差が確認された。また,ほとんどの保育者が意識の強さや参加頻度に違いはあるものの,日頃から災害対策を意識し,施設における防災に関する活動に参加していることが読み取れた。

キーワード 保育所,保育者,防災意識,災害危険度,地域差

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

中国・内陸都市における高齢者の認知症
に対する認識と対応に関する調査研究

-四川省成都市における訪問介護を受ける高齢者に対する調査をもとに-
王 吉彤(オウ キットウ) 呉 茵(ゴ イン) 児玉 善郎(コダマ ヨシロウ)

目的 本研究では中国・成都市を対象とし,高齢者の認知症に対する認識の現状と対応の在り方を明らかにし,今後どのような認知症対策が必要かを検討することを目的とした。

方法 本研究では,成都市において訪問介護サービスを受けている60歳以上の高齢者を対象に,訪問介護スタッフを通じて無記名の質問紙調査票を直接配布し,その場で回答してもらったうえで回収した。

結果 本研究では500部の調査票を配布した。回収された499部のうち,高齢者本人が回答した331部を分析対象とした(回収率99.8%)。認知症を知っていると回答した人が7割近くであるが,具体的な認知症の症状についての認識はいずれの項目も5割以下にとどまっており,正確に理解していない人が一定の割合を占めていることが把握できた。7割近くの回答者は認知症になっても自宅での生活を希望し,家族による介護を強く願っていた。質問項目を回答者の属性別に解析した結果,認知症を知っている群は知らない群より具体的な認知症症状についてよく認識しており,認知症への心配の度合いも高かった。また,認知症が心配になった時,大型総合病院を相談先として選ぶ傾向が強く,身近な行政機関である社区相談窓口は相談先として認識されていないことが示された。

結論 中国・成都市においては,認知症を正確に認識している高齢者がまだ少ないことがわかった。また,認知症をよく認識している人ほど,認知症への心配の度合いが高いことが把握できた。さらに,認知症が心配になった時に,身近な相談先が十分ではないことがわかった。この結果から,今後,中国において認知症高齢者の数が増えていく中では,高齢者が認知症の症状を正確に認識するように取り組む必要がある。また,社区に身近な認知症の相談先を整備することにより,認知症予防の取り組みや認知症の早期受診などを促進することが求められる。

キーワード 認知症の症状,認知症の相談先,介護の場所,認知症予防

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

兵庫県の認知症カフェにおける
ボランティア活動の現状と課題

相原 洋子(アイハラ ヨウコ) 前田 潔(マエダ キヨシ)

目的 認知症カフェを拠点にボランティアが,認知症の人を居宅訪問する取り組みが提案されるなど,認知症カフェにおけるボランティア活動の促進が提案されている。しかし認知症カフェでのボランティア活動の実態についてほとんど把握されていない。本研究では,ボランティアが活動する認知症カフェの特性と活動の課題を検証することを目的とした。

方法 2017年6月時点で把握された兵庫県の認知症カフェ全数を対象とした。調査期間は2017年6~8月とし,データ収集は構造化質問紙を用いた。ボランティアが活動している認知症カフェの特性を把握するため,ボランティア活動の有無をアウトカムとし,認知症カフェの基本情報,運営上の課題,地域特性を説明変数とし,χ2検定もしくはWilcoxonの順位和検定を用い分析を行った。また認知症カフェでボランティアが活動するうえでの課題について,自由記述を得て質的内容分析を行った。

結果 252の認知症カフェに調査票を郵送し,167の認知症カフェから回答を得た(回収率66.3%)。ボランティアが活動している認知症カフェは85カ所(50.9%)あった。ボランティアが活動している認知症カフェは,ボランティアがいないカフェと比べて1回あたりの認知症の人の参加人数が多く,また開設されている地域の総人口に占める認知症サポーター,キャラバンメイトの割合が高かった。認知症カフェでボランティアが活動するうえでの課題として,〈ボランティアのコーディネート〉〈ボランティアとしての資質〉〈ボランティアの人選・募集〉〈ボランティアの育成支援〉が抽出された。

結論 地域における認知症支援の拠点となり得る認知症カフェが,ボランティア活動の促進などその役割を発展するうえで,社会全体で認知症カフェの周知を高める工夫が重要である。またボランティアのコーディネートや人材育成など,すでに経験を持つ機関や認知症カフェが,そのノウハウを共有できる機会が重要であることが示唆された。

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行う
アセスメントにおける情報把握の構成要素

綾部 貴子(アヤベ タカコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究では,居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行うアセスメントにおける情報把握の構成要素を明らかにした。

方法 調査対象者は,近畿2府4県の500カ所の居宅介護支援事業所の介護支援専門員各1名である。2017年2月に無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。分析は,探索的および確認的因子分析を行った。

結果 有効回収率は186票(37.2%)であった。分析の結果,「家族介護者の状況」「身体的精神的状況」「人的経済的状況」「生活観とライフスタイルの考え方」の4因子19項目が抽出された。モデルの適合度は,χ2(df)=217.800(142),GFI=0.900,AGFI=0.854,CFI=0.947,RMSEA=0.050と統計学的な許容水準を満たしていた。

結論 居宅介護支援事業所の介護支援専門員が行うアセスメントにおける情報把握では,利用者だけでなく,利用者の家族介護者も視野に入れた情報把握を行っていることが明らかとなった。

キーワード 介護支援専門員,アセスメント,情報把握

 

論文

 

第66巻第2号 2019年2月

犯罪被害者支援における多機関連携の実態

-被害者支援を担う部署に対する全国調査をもとに-
伊藤 冨士江(イトウ フジエ) 大岡 由佳(オオオカ ユウカ)

目的 犯罪被害者支援は,2006年犯罪被害者等基本法の施行により,官民挙げての取り組みが推進され大幅に進展してきた。2016年4月より第3次犯罪被害者等基本計画が始まり,地方公共団体等にて,犯罪被害者等に関する専門知識・技能を有する専門職の養成・活用,支援活動における福祉・心理関係の専門機関等との連携の充実などが喫緊の課題とされている。しかしながら,各部署の担当者の勤務状況や対応姿勢,実際に被害者支援においてどのような連携を行っているかについて把握できていない部分も多い。そこで,犯罪被害者等の対応にあたる部署に対して全国調査を実施し,その実態と連携における課題を明らかにした。

方法 犯罪被害者等の対応にあたる,全国の①警察・犯罪被害者支援室の担当職員,②民間被害者支援団体の支援統括責任者,③地方自治体・被害者対応窓口担当者,④医療機関のソーシャルワーカー(無作為抽出),⑤女性センターの相談担当者などを対象に,調査協力の依頼書,調査の実施要領と自記式質問票等を郵送し,紙媒体もしくは電子媒体での回答を依頼した。調査期間は2017年5月1日~6月5日であった。

結果 担当者の属性や対応については,被害者担当経験の長い者は警察と民間被害者支援団体に多い,全担当者の4割近くは支援・援助の資格を有していたが,市区町村では有資格者が少ない,面接や付き添い等の直接対応を行っているのは民間被害者支援団体と医療機関で多いことなどが明らかになった。多機関連携については,全体では仲介型や集中型の支援が多く,中長期支援は民間被害者支援団体と医療機関で多いが,支援の方針会議等を行ったのは全体の約4割であり,とくに司法関連機関と医療・福祉機関の連携上の分断がみられた。

結論 支援全般を充実させるためには,各機関・団体の被害者対応部署における有資格者の配置や研修会等を通した専門性の向上が必須であり,多機関連携においてはケアマネジメントの発想にもとづく体制整備を目指す必要があることが示唆された。

キーワード 犯罪被害者等,被害者支援,多機関連携,生活支援,情報共有

 

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第66巻第2号 2019年2月

婚姻状況と健診受診との関連

-平成22年国民生活基礎調査より-
川田 裕美(カワタ ユミ) 前田 光哉(マエダ ミツヤ) 佐藤 智代(サトウ トモヨ)
丸山 広達(マルヤマ コウタツ) 和田 裕雄(ワダ ヒロオ)
池田 愛(イケダ アイ) 谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 健診を受診していない者は,喫煙習慣,運動習慣,血圧値等の健康状態や健康行動に課題が多いことが示されている。また,健診受診行動は社会経済要因によって異なることが報告されているが,婚姻関係に着目した研究はない。そこで,わが国の大規模かつ代表的な調査である国民生活基礎調査データを用いて,婚姻状況と健診受診との関連について分析した。

方法 平成22年国民生活基礎調査票の質問に回答した40~74歳の男性17,520人,女性18,577人を分析対象とした。婚姻状況は,「配偶者あり」「未婚」「死別・離別」の3群に分け,過去1年間に健診等(健康診断,健康診査および人間ドック)を受けたと回答した者を「健診受診者」と定義した。分析は男女別に年齢,就業状況,最終学歴,医療保険の加入状況,喫煙状況を調整した多変量調整ポワソン回帰分析を用いた。

結果 健診受診者の割合は,男性で75.6%(13,248/17,520),女性で67.5%(12,541/18,577)であった。男女ともに「配偶者あり」群を対照群とし,健診受診の多変量調整Prevalence ratio(PR)(95%信頼区間)を算出した結果,男性では「未婚」「死別・離別」群で有意に低く,それぞれ,0.90(0.88-0.93),0.95(0.93-0.99)であったが,女性においては有意な関連は認めなかった。さらに,国民健康保険,被用者保険の医療保険別2群に分けた結果,男性では国民健康保険加入者群,被用者保険加入者群ともに,「未婚」群でPRが有意に低い値を示したが,女性では,国民健康保険加入者群において,「未婚」「死別・離別」群のPRが有意に低い値を示し(未婚0.84:0.77-0.92,死別・離別0.94:0.90-0.98),一方,被用者保険加入者群では「未婚」「死別・離別」群のPRが有意に高い値(未婚1.10:1.06-1.14,死別・離別1.05:1.01-1.09)を示した。

結論 男性では「配偶者あり」群に比べて,「未婚」「死別・離別」群では健診受診率が有意に低く,女性では,国民健康保険加入者群において「未婚」「死別・離別」群では,健診受診率が有意に低かった。受診率の格差をなくすためには,男性の未婚者,死別・離別者,女性の自営業者や非正規雇用者における未婚者,死別・離別者や専業主婦に向けた健診受診の普及啓発が望まれる。

キーワード 健診,婚姻状況,国民生活基礎調査

 

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第66巻第1号 2019年1月

介護サービス利用によるその後の
ADL維持期間への影響

宮原 優太(ミヤハラ ユウタ) 新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ)
寺西 敬子(テラニシ ケイコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 

目的 介護保険の認定審査資料を分析し,在宅生活開始時の介護サービス利用状況と,その後の障害高齢者の日常生活自立度維持期間との関連を明らかにすることを目的とした。また,観察開始年度が平成17年度までと18年度以降とでその関連に相違があるのかを検討する。

方法 平成11年10月から平成29年3月までの期間にT県N郡にて介護認定を受け,更新回数4回以内に自宅での介護認定調査が行われた第一号被保険者から,年齢95歳以上,要介護度3以上,ADLランクB,C,認知度Ⅲ以上の者を除く5,231名分の介護認定審査資料を対象とした。ADL維持期間は在宅生活を開始した時点からADLランクB,Cの記載がある申請情報までとし,最長60カ月で観察を打ち切った。介護サービス利用状況は在宅生活開始の申請情報から把握し,1度でも利用のある者は利用有,1度も利用のない者は利用無とした。性別,年齢階級別,要介護度別,ADL別,認知度別にADL維持期間の25パーセンタイル値をKaplan-Meier法を用いて算出した。次に各介護サービスにおいて観察開始時のADL別に性別,年齢階級,認知度を共変量としたCox比例ハザードモデルを用いて,サービス利用有を基準としたADL悪化のハザード比と95%信頼区間を求めた。通所サービスにおいては,ADLランクがJ2,A1,A2の者を対象にサービス利用有かつ後期(平成18年度以降に観察開始),サービス利用無かつ後期を基準としたADL悪化のハザード比と95%信頼区間を求めた。

結果 各特性のADL維持期間の25パーセンタイル値を求めた結果,すべての特性においてADL維持期間に差を認め,各特性のランクが自立に近いほどADL維持期間は長い結果となった。各特性を調整した結果,通所サービスでは観察開始時ADLがJ2,A1,A2において,サービス利用無群は利用有群に比べてADL悪化のリスクが有意に高く,そのハザード比はそれぞれ1.21,1.49,1.24であった。在宅生活開始年度の前期(平成17年度以前に観察開始)と後期で比較した結果,有意な差は認められなかった。

結論 ADLランクがJ2,A1,A2の者において在宅生活開始時の通所サービス利用がその後のADL維持に有効であることが認められた。在宅生活開始年度の違いを検討した結果,明らかな差は認められなかった。

キーワード 介護サービス,ADL維持,要介護高齢者

 

 

論文

 

第66巻第1号 2019年1月

朝食欠食と血圧の関係

-朝食摂取頻度と血圧を報告した20研究のメタ分析-
橋本 泰央(ハシモト ヤスヒロ) 岩﨑 陽佳(イワサキ ハルカ)
上田 由喜子(ウエダ ユキコ) 小塩 真司(オシオ アツシ)

目的 朝食摂取の有無によりどの程度の血圧の差がみられるのかメタ分析によって明らかにすることを目的とした。

方法 医中誌,CiNii‚ Medlineから検索式「(朝食or朝食欠食or朝食摂取)AND(血圧or SBP or DBP)」もしくは「((skip breakfast)or(omit breakfast)or(breakfast consumption))AND((blood pressure)or SBP or DBP))」を用いて233本の論文を収集した。そこから⑴大学紀要等を除く査読付き原著論文で,⑵健常者を対象とし,⑶朝食の有無と血圧の関係を調査した,⑷朝食摂取群と朝食欠食群の血圧の平均値の記載がある,⑸参加者間に対応のない論文14本(20研究,朝食摂取群合計27,322人,欠食群合計6,325人)を分析対象とした。効果量には標準化された平均値差dを用い,変量モデルで算出した。効果量の異質性の指標にはQ統計量およびI2を用い,性別,年齢ごとに感度分析を行った。出版バイアスの有無はEgger法とBegg法で検定し,さらにfailsafe Nおよびtrim and fill法を用いて分析結果の頑健性を検討した。

結果 11本(16研究)が朝食摂取群と欠食群を習慣的な朝食摂取の有無で,3本(4研究)が調査当日の朝食摂取の有無で分けていた。収縮期血圧は全体の分析でも,性別,年齢ごとの分析でも欠食群の方が朝食摂取群よりも有意に高かった(全体:d=-0.10,95%CI[-0.15,-0.05];女性:d=-0.07,95%CI[-0.14,-0.01];男性:d=-0.12,95%CI[-0.24,-0.01];18歳以上:d=-0.07,95%CI[-0.13,-0.02];18歳未満:d=-0.14,95%CI[-0.22,-0.06])。効果量間には中程度から高い異質性がみられた。出版バイアスの影響はあっても小さいと推定された。拡張期血圧は全体の分析と女性,18歳未満では欠食群の方が朝食摂取群よりも有意に高かった(全体:d=-0.08,95%CI[-0.12,-0.04];女性:d=-0.08,95%CI[-0.14,-0.03];18歳未満:d=-0.12,95%CI[-0.19,-0.06])が,男性と18歳以上の分析では有意な差はみられなかった。効果量間の異質性は男性では高く,18歳未満では中程度であったが,他は低かった。出版バイアスの影響はあっても小さいと推定された。

結論 朝食欠食群の方が朝食摂取群よりも血圧が高いことが示され,高血圧予防策としての習慣的な朝食摂取の有効性が示唆された。

キーワード 朝食欠食,血圧,メタ分析,効果量,異質性,フォレストプロット

 

 

論文

 

第66巻第1号 2019年1月

障害者就業・生活支援センターにおける精神障がい者の
アセスメント実践活動を促進させる個人要因に関する研究

青山 貴彦(アオヤマ タカヒコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ)

目的 本研究は,障害者就業・生活支援センター(以下,就業・生活支援センター)における精神障がい者のアセスメント実践の質的向上を図るため,アセスメント実践活動を促進させる個人要因について明らかにすることを目的としたものである。支援担当者個人の意識や態度に着目した量的調査を行い,実証的な検討を行った。

方法 全国に所在するすべての就業・生活支援センターに実施した郵送調査から,欠損値のない362の回答を対象に検討を行った。個人要因に関する探索的因子分析を実施し,因子モデルの構成概念妥当性について,共分散構造分析による確認的因子分析により確認した。また,抽出された因子の下位尺度得点を算出し,基本属性との関連について相関分析を行った。そのうえで,個人要因を独立変数,先行研究で確認されたアセスメント実践活動測定尺度を従属変数とする因果モデルを構成し,その適合度について検討した。

結果 個人要因に関して,「省察」「積極的姿勢」「批判的思考態度」という3因子が抽出された。「省察」と「積極的姿勢」に関しては,研修の参加回数との間でごくわずかな正の相関がみられたものの,「批判的思考態度」に関しては,いずれの基本属性とも相関がみられなかった。個人要因を独立変数,アセスメント実践活動を従属変数とする因果モデルは一定の適合を示した。「省察」から「アセスメント実践活動」への標準化係数は0.29,「批判的思考態度」から「アセスメント実践活動」への標準化係数は0.49であり,有意な正の関連がみられた。「積極的姿勢」と「アセスメント実践活動」には,有意な関連はみられなかった。

結論 就業・生活支援センターにおける精神障がい者のアセスメント実践活動を促進させる個人要因として,積極的姿勢を中核に,省察および批判的思考態度を意識的に実践することの重要性を示した。そして,就業・生活支援センターの支援担当者を対象とした研修において,「批判的思考態度に関する内容を教授し,演習などを通じて批判的思考態度が意識できるようにトレーニングすること」を提言した。

キーワード 障害者就業・生活支援センター,精神障がい者,アセスメント,省察,批判的思考態度

 

 

論文

 

第66巻第1号 2019年1月

世代効果を用いた地域格差指標の検討

-脳血管疾患・肺炎・自殺死亡-
三輪 のり子(ミワ ノリコ) 中村 隆(ナカムラ タカシ)

目的 世代(同時出生集団)の観点から地域格差を捉える新しい指標を提案し,健康施策の評価と今後の戦略の検討に資することを目的とした。健康日本21(第二次)では「健康格差の縮小の実現」が掲げられ,国民の健康に影響を及ぼす社会環境の改善に向けた取り組みが重視されている。その評価に際し,主要死因の死亡率の地域差は地域格差を表すものとみることができるが,これには人口の年齢・世代構成の違いによる影響も含まれている。世代によって取り組みによる影響の受け方は異なることが考えられ,世代の観点から地域格差を捉えることは高リスク戦略の1つにつながる。

方法 脳血管疾患,肺炎,自殺の死亡数(人口動態統計)と国勢調査人口に基づく47都道府県の性別死亡率(15~90歳)を,ベイズ型ポワソンAge-Period-Cohortモデルにより,総平均効果,年齢効果,時代効果,世代効果に分離した。これらのうち,世代効果に総平均効果を足して死亡率に戻した「世代死亡率」を用いて,全体(男女別47都道府県)と性別(47都道府県)でみたジニ係数を世代別(1861~1995年生まれ,5年区切り世代)に算出した。また,世代死亡率の高さで3分類した都道府県マップを作成した。

結果 脳血管疾患では,ジニ係数(全体)は1888年前後生まれから1923年前後生まれにかけて低くなったが,1928年前後生まれ以降,再び高くなっていた[0.16-0.20]。1886~1900年生まれ女性の地域格差が目立ち,福井の死亡率が高かった。1981~1995年生まれは,男女に共通して栃木・他2県の死亡率が高かった。肺炎では,ジニ係数(全体)は新しい世代ほど高くなる傾向がみられた[0.15-0.26]。1888年前後生まれと1971~1995年生まれ女性の地域格差が大きく,前者は青森・岩手・他5県,後者は青森・秋田・他5県で死亡率が高かった。自殺では,ジニ係数(全体)は1913年前後生まれを底にして,それ以降の世代で高くなり[0.14-0.31],地域格差に加えて,性別格差の拡大を認めた。1886~1895年生まれと1981~1995年生まれ女性の地域格差が大きく,前者は岩手・他7県,後者は秋田・他8都府県の死亡率が高かった。

結論 世代死亡率に基づくジニ係数では,各世代の地域格差の程度と世代間の差異,性別格差を捉えることができる。都道府県マップでは,都道府県レベルで各世代がもつリスクの程度を俯瞰できる。これら指標は,日本全体あるいは地域における取り組みの成果を地域格差の観点で評価し,高リスク戦略でターゲットとすべき世代や地域の把握,世代がもつリスク因子や背景因子の検討に活用できる可能性が示唆された。

キーワード 地域格差,死亡率,世代効果,ジニ係数,健康施策,高リスク戦略

 

 

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第65巻第15号 2018年12月

まき網漁船乗組員の長期船内生活が
下肢パワーと身体活動量に及ぼす影響

阿野 忍(アノ シノブ) 久佐賀 眞理(クサガ マリ)
飛奈 卓郎(トビナ タクロウ) 平野 かよ子(ヒラノ カヨコ)

目的 健康日本21(第二次)では身体活動・運動対策の指標として,「日常生活における歩数の増加」「運動習慣者の割合の増加」が掲げられている。まき網漁船乗組員は東シナ海を主な漁場とするまき網漁船に乗船しており,1カ月のうち約22日間を船内で生活する。出港から帰港まで長期航海を行う乗組員は,陸上生活者とは労働環境,生活条件,ライフスタイルに大きな違いがある。そこで本研究は大中型まき網漁船従業員の下肢パワーと漁船乗組員の船内での身体活動量を測定し,長期の船内生活が身体に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

方法 本研究の調査対象をN県内のS水産(株)従業員とした。下肢パワーについては,まき網漁船に乗船している乗組員27人と陸上勤務者である網師6人計33人の下肢パワーを測定し,生活環境による属性で3群に分け,一元配置分散分析と多重比較をTurkyHSDを用いて分析した。身体活動量については,乗組員11人と網師6人に活動量計を7日間装着してもらい,1週間あたりのメッツ・時と1日平均の歩数についてt検定を用いて分析した。

結果 下肢パワーについては労働環境や生活環境による違いが認められた。また,身体活動量については乗組員のメッツ・時/週と歩数が網師のそれに対して有意に低いことが認められた。

結論 身体活動量の低下が及ぼす健康障害予防のため,運動がしやすい船内環境整備が必要であることが示唆された。

キーワード まき網漁船乗組員,網師,長期航海,下肢パワー,身体活動量

 

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第65巻第15号 2018年12月

介護職員の介護実践に関する研究

-介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士の勤務年数による比較-
武田 啓子(タケダ ケイコ) 久世 淳子(クゼ ジュンコ) 藤原 秀子(フジワラ ヒデコ)
水谷 なおみ(ミズタニ ナオミ) 丹羽 啓子(ニワ ケイコ)
間瀬 敬子(マセ ケイコ) 高木 直美(タカギ ナオミ)

目的 本研究は介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士資格を所持する介護職員を対象に勤務年数による介護実践能力を明らかにすることを目的とする。

方法 A県内の実習施設として登録されている特別養護老人ホーム,介護老人保健施設および障害者支援施設の計35施設に勤務する介護職員を対象に自記式質問紙調査を行った。対象者554名のうち介護福祉士養成課程を卒業した介護福祉士130名を分析対象とした。調査項目は性別,年齢,所持資格,勤務先の種別,勤務年数,雇用形態,職位の有無,および介護実践23項目を設定した。勤務年数について,5年未満,5年以上10年未満,10年以上を3群とし,3群間の差を確認するために,連続変数では一元配置分散分析および多重比較(Bonferroni法)による分析を,離散変数にはχ2検定を用いて検討した。

結果 5年未満群は43名(33.1%),5年以上10年未満群は36名(27.7%),10年以上群は51名(39.2%)であった。介護実践23項目のうち,3群間で有意差が認められたのは「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」など11項目(47.8%)であった。多重比較の結果では,「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」について,3群間すべてに有意差が認められた。その他10項目について,5年未満群と5年以上10年未満群間では有意差はみられなかった。

結論 介護福祉士養成課程を卒業した介護職員の勤務年数5年未満群と5年以上10年未満群では有意差が認められたのは,1項目のみであった。介護福祉士養成課程を卒業することにより,勤務年数5年未満の介護職員も,介護実践力の基盤が育まれている状況を示した。勤務年数を経るごとに「ケア提供者の中で中核的な役割を果たすことができる」は向上し,勤務年数10年以上の介護職員は高い介護実践能力を示した。

キーワード 介護職員,介護実践,介護福祉士養成課程,介護福祉士,勤務年数

 

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第65巻第15号 2018年12月

地域高齢者の食品摂取の多様性を形成する
食品摂取パタンと介護予防活動への応用

熊谷 修(クマガイ シュウ)

目的 高齢者の介護予防のための栄養改善活動の主要テーマとして食品摂取の多様性の増進がある。しかし,食品摂取の多様性を形成している食品摂取パタンが明らかにされておらず改善手段の開発が十分ではない。本研究の目的は食品摂取の多様性得点を形成する食品摂取パタンを明らかにし,その特性に着目した栄養改善手段を立案することにある。

方法 分析対象は秋田県大仙市に在住する地域高齢者,男性7,199名,女性9,372名,計16,571名である。食品摂取の多様性得点を形成する食品摂取パタンの探索は,食品摂取の多様性評価票による10食品群摂取頻度調査結果にもとづく因子分析によった。

結果 分析対象の平均年齢(標準偏差)は男性74.2(6.7)歳,女性74.8(6.8)歳,全体では74.5(6.7)歳であった。食品摂取の多様性得点の性,年齢調整後の平均値は4.37点であった。探索的な因子分析は因子数が4のときに最適解が得られ,第1因子は,芋類(0.777),海藻類(0.706),果物類(0.663),第2因子は肉類(0.747),油脂類(0.729),卵(0.628),第3因子は緑黄色野菜類(0.726),魚介類(0.683),大豆・大豆製品(0.682),第4因子は牛乳(0.947)が正の高い因子負荷量を示し累積寄与率は60.7%であった。したがって,第1因子は植物食品摂取パタン,第2因子は欧米食パタン,第3因子は日本食パタン,第4因子は牛乳摂取パタンと解釈され,食品摂取の多様性は4つの食品摂取パタンで形成されていることが示された。そこで食品摂取の多様性得点を各食品摂取パタンで高い因子負荷量を示した食品群でグループ化し4つの下位得点を作成した。第1因子にもとづく下位得点を植物食品得点,第2因子は欧米食得点,第3因子は日本食得点,第4因子は牛乳得点とした。重回帰分析の結果,各因子の因子得点と下位得点の間には強い正の関係が認められ,作成した各下位得点は表出した因子の特性を反映した変数であることが確認できた。本研究集団の植物食品得点,欧米食得点,日本食得点,牛乳得点の性,年齢調整後の平均値はそれぞれ0.83点,0.98点,2.07点,0.47点であり,食品摂取の多様性得点の47.3%が日本食得点に依拠していた。

結論 地域高齢者の食品摂取の多様性の形成が日本食パタンに大きく依存していることが明らかになった。介護予防のための栄養改善活動では欧米食パタンと植物食品摂取パタンを促す食事様式に着目した活動が必要になると考えられる。

キーワード 地域高齢者,食品摂取の多様性得点,食品摂取パタン,栄養改善活動,介護予防

 

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第65巻第15号 2018年12月

男性の育児参加が次子の出生に与える影響

-三世代同居との交互作用の検討-
加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 福田 節也(フクダ セツヤ)

目的 長年に渡る少子化の結果,わが国はすでに人口減少のフェーズに入っている。政府は,希望出生率1.8を目標に出生率回復に向けて様々な案を掲げているが,それらの案の有効性については明らかになっていない。本研究では,大規模縦断調査を用いて男性の育児参加および三世代同居と出生行動との関連を検証した。

方法 本研究では,厚生労働省が実施している21世紀出生児縦断調査の2001年コホートを用いた。2001年に第一子が生まれた17,329世帯と同年に第二子が生まれた13,154世帯に分けて分析を行った。主な説明変数として,生まれた子どもが6カ月時点での男性の育児参加度(高・中・低の三群)と初回調査から第三回目調査までの三世代同居の有無(同居なし・父方の祖父母との同居・母方の祖父母との同居の三群)を用いた。被説明変数として,第一子もしくは第二子出生から6年の間に次子の出生があったかどうかを用いた。分析には,多変量ロジスティック回帰分析を用い,母親の年齢や学歴などを調整した。

結果 2001年に第一子が生まれた世帯の68%において,その後6年の間に第二子が生まれており,第二子が生まれた世帯のうち22%において第三子が生まれていた。第一子の世帯においては,男性の育児参加度を低群と比較した場合,中群と高群では次子出生のオッズ比が有意に高かった[中群の調整オッズ比=1.4]。第二子の世帯でも同様の傾向がみられた。三世代同居に関しては,次子の出生のオッズに対して第一子の世帯では正の影響がみられなかったが,第二子の世帯では,父方の祖父母との同居に正の影響がみられた[調整オッズ比=1.3]。また,第二子の世帯において,男性の育児参加度が低くかつ三世代同居していない群と比較した場合,男性の育児参加度が中群でかつ父方の祖父母と同居している群が第三子出生の確率が最も高かった[オッズ比=1.6]。

結論 男性の積極的な育児参加と次子出生に関しては第一子および第二子の世帯で正の影響がみられたが,三世代同居は,世帯の子どもの数などの状況によって影響が異なる可能性が示された。今後,有効な少子化対策の根拠となりうる知見を提供するためにさらに分析を進めていく必要がある。

キーワード 男性の育児参加,三世代同居,少子化,育児支援,21世紀出生児縦断調査

 

論文

 

第65巻第15号 2018年12月

地域高齢者における新たな生活機能指標の開発:
JST版活動能力指標の測定不変性ならびに標準値

岩佐 一(イワサ ハジメ) 吉田 祐子(ヨシダ ユウコ) 稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ)
増井 幸恵(マスイ ユキエ) 島田 裕之(シマダ ヒロユキ) 菊地 和則(キクチ カズノリ)
大塚 理加(オオツカ リカ) 野中 久美子(ノナカ クミコ)
吉田 裕人(ヨシダ ヒロト) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ)

目的 近年の高齢者は以前よりも健康状態が向上しているという知見や,高齢者を取り巻く生活環境の変化をかんがみるに,より高いレベルの生活機能指標の開発が必要である。本研究では,「JST版活動能力指標」の計量心理学的特性の検討の一環として,①因子構造の交差妥当性の検証,②測定不変性の検証,③標準値の報告,④性差・年齢差の検討を行った。

方法 本研究では,2つの集団のデータを解析に使用した。層化二段無作為抽出法により選出した全国に居住する高齢者2,000人(65~84歳男女)に対する留置き調査を2回実施した(それぞれ,1,333人,1,274人が参加)。上記2,607人のうち,データに欠損値を含まない者2,573人(男性1,196人,女性1,377人)を分析対象者とした。JST版活動能力指標は,4つの下位尺度各4項目(二件法),計16項目から構成される。対象者基本属性を記述するため,独居,教育歴,経済状態自己評価,健康度自己評価,移動能力,老研式活動能力指標を用いた。①2つの集団間で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。②性別(男性vs.女性),年齢(前期高齢者vs.後期高齢者),老研式活動能力指標(低群[10点以下]vs.高群[11点以上]),都市規模(21大都市居住者vs.その他地域居住者)で多母集団同時分析を行い,測定不変性を検証した。③5歳刻み年齢で対象者を分割し(65~69歳,70~74歳,75~79歳,80~84歳),性別(2水準)と組み合わせ8群ごとに標準値(平均値,95%信頼区間,標準偏差)を報告した。④性別(2水準)×年齢(4水準)の2要因分散分析を実施し,性差・年齢差を検討した。

結果 ①2つのサンプル間で測定不変性が確認され,先行研究と同じ4因子解が再現された。②いずれの基準変数においても測定不変性が確認された。③性別・年齢ごとに標準値を算出した。④性差・年齢差が認められ,男性のほうが得点が高いこと(偏η2=0.01),年齢が高いほど得点が低いこと(偏η2=0.11)が認められた。

結論 JST版活動能力指標は,因子構造の交差妥当性が認められ,安定した4因子構造であることが示された。性別,年齢,老研式活動能力指標,都市規模を基準とした場合に測定不変性を有し,これら変数において構成概念は同質であることが示唆された。男性のほうが女性よりも得点が高かったが,効果量は小さいためJST版活動能力指標の性差は大きくないことが考えられた。顕著な年齢差が認められ,JST版活動能力指標は年齢を経るほどに生じる生活機能の低下を反映することが示唆された。

キーワード 地域高齢者,生活機能,JST版活動能力指標,測定不変性,標準値,交差妥当性

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

X線CT検査に従事する診療放射線技師の
需給状況および将来の需要予測

岡野 員人(オカノ カズト)

目的 X線CT(CT)検査に従事する診療放射線技師の需要状況について医療施設(静態・動態)調査・病院報告を基に調査し,将来の需要予測について検討した。

方法 2008年,2011年,2014年の医療施設(静態・動態)調査より医療施設数,外来患者延数,新入院患者数,CT装置の設置台数(CT装置数),CT検査を実施した患者数(CT検査数),診療放射線技師数をまとめ,総患者延数(外来患者延数と新入院患者数の合計)に対するCT検査数の割合(CT検査実施割合),CT装置1台に対する検査数(CT装置稼働実績数),CT装置1台に対して診療放射線技師が1名必要であると仮定したときの全診療放射線技師に対するCT検査に従事する診療放射線技師の割合(CT従事技師割合)を算出した。CT検査に従事する診療放射線技師の将来需要は,CT検査数の予測値とCT装置稼働実績数より算出した必要なCT装置数と将来のCT従事技師割合より算出した。

結果 全国の病院数や外来患者延数が減少している一方で,全国に設置されているCT装置数やCT検査数は増加しており,診療放射線技師数も増加傾向にあった。CT検査に従事する診療放射線技師の需要予測は,現在のCT検査実施割合の増加が続いた場合は2040年に21,091人に達し,CT従事技師割合は27.1%から29.7%と現状より高くなる予測となった。一方,CT検査実施割合を一定とした場合では,CT検査数の大幅な増加はみられず,CT従事技師割合は年々減少し,2040年では19.6%と大きく減少する予測となった。

結論 現在のCT検査数の増加が継続されれば,診療放射線技師不足が続く恐れがある。しかし,CT装置の有効活用などの対策を施すことで診療放射線技師不足の解消に期待ができる。また,将来の診療放射線技師の需要は,医療需要の変化よりもCT装置の発展や診療放射線技師を取り巻く環境により変化する可能性がある。

キーワード X線CT,診療放射線技師,医療施設調査,需要予測,医療需要

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

東日本大震災後の在宅介護における介護困難の特徴と
その変化についての一考察

岩渕 由美(イワブチ ユミ) 佐藤 嘉夫(サトウ ヨシオ) 狩野 徹(カノウ トオル)
田中 尚(タナカ ヒサシ) 湊 直司(ミナト ナオシ)
大冨 和弘(オオトミ カズヒロ) 二瓶 さやか(ニヘイ サヤカ)

目的 東日本大震災から6年半が経過した被災地の介護者の生活と介護の実態と課題を明らかにし,著者らが過去2回行った被災地の介護者調査と比較しつつ,震災後の介護困難の変化とその要因を明らかにする。

方法 調査対象地域は,東日本大震災被災地の岩手県沿岸4市町で,調査対象は,地震,津波,火災等の被災者と,被災しなかった人が,ほぼ6対4の割合になるよう10カ所の居宅介護支援事業所に任意に抽出してもらった。調査方法は,留置き,自記式,無記名アンケートで,450名に配布し,郵送により回収した。調査期間は平成28年11月~平成29年2月である。

結果 調査票の回収率は78.4%(回収数353),有効回答率は77.8%(有効回答数350)で,性別は男女比21対79,年齢は50歳未満(11%),50歳代(29%),60歳代(36%),70歳以上(23%)である。震災により約8割が物的・心的に大きなダメージを受け,また,約半数が現在も暮らし向きが厳しい状況にある。被介護者は中・重度化し,介護時間も長くなっていることで介護負担は軽減せず,体の不調が増している。介護からの解放希求も高く,利用しているサービスは通所(施設利用)型サービスに偏重している。今後の介護の継続意向は高いが,暮らし向きや介護負担の厳しい状況と介護の継続意向の高さにはギャップが感じられる。

結論 被災地全体の暮らし向きの厳しさと,震災の影響による居住地の移動を含む生活環境の変化が,買い物や通院等のアクセスの不便さを招いただけでなく,近隣,友人,親戚等との疎遠による社会関係の断裂も加わり,家族介護は,長時間介護が必要な,高齢化,中・重度化した被介護者を,同居の介護者が,拘束感と介護負担の過重化の中で行っており,介護から派生する複雑で多様な生活課題を自力で解決していくのは非常に困難な状況にあることが明らかになった。また,そういった状況が,多様な介護サービスの効果的な組み合わせで介護負担を軽減させる考え方に目を向ける余裕を失わせ,通所(施設利用)型サービスの利用や入所型サービス希望への偏重を招いていると考えられる。被災地の家族介護者支援には,単なる介護サービス利用のマネジメントにとどまらず,複雑な介護ニーズを抱えた被介護者とその家族の生活状況や思いをくみ取り,必要な支援へとつなげるソーシャルワーク的支援機能の強化とシステムづくりが求められている。

キーワード 東日本大震災,家族介護者,介護保険サービス,ソーシャルワーク

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

ドイツで老後を迎える日本人高齢者の健康意識の検証

三原 博光(ミハラ ヒロミツ) 金井 秀作(カナイ シュウサク)
國定 美香(クニサダ ミカ) 岡村 和典(オカムラ カズノリ)

目的 ヨーロッパ諸国のなかで,英国に次いで在留邦人の多いドイツで老後を考えている日本人高齢者の健康意識について検証することが目的である。検証の内容は社会生活,生活機能全般,運動器機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知機能,うつに関してであった。

方法 2015年5月から2016年1月の期間,質問紙調査を実施した。質問紙の内容は,日本のことをよく思い出すか,ドイツの老人ホームの入所希望などの社会生活の質問項目と厚生労働省による介護予防事業の基本チェックリストであった。調査はミュンヘン,ハンブルグ市などの在留邦人に対して実施された。

結果 調査対象者の106名から回答を得た。調査対象者の多くは日本のことをよく思い出しながらも,日本での老後は考えておらず,ドイツの老人ホームへの入所も望んでいなかった。また,介護予防が必要な特定高齢者に該当する人はいなかった。特に,栄養については良好な結果となった。

結論 調査対象者の多くは,異文化での老後生活であるが故に,健康に配慮し,介護予防の生活を送っている。しかし,今後,老化が進み,在宅での生活支援が困難になったとき,日本的文化に配慮した支援サービスが課題となろう。

キーワード ドイツ在留邦人,老後,健康意識,調査,日本文化

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

在宅強化型の介護老人保健施設における自宅復帰の実態

中村 豪志(ナカムラ ゴウシ)

目的 在宅強化型の介護老人保健施設(以下,老健)は,在宅復帰率が50%超でなければならないが,純粋な自宅だけでなく,在宅系施設への退所も在宅復帰に含まれる。在宅強化型老健の自宅退所数がどの程度であるかは明らかにされていない。在宅強化型老健において,純粋な自宅と在宅系施設への退所者数の実態を把握することと自宅復帰を阻害している要因を考察することを目的とした。

方法 公益社団法人全国老人保健施設協会ホームページにて,平成29年4月15日現在で在宅強化型老健である352施設を対象とした。平成28年度の1年間の在宅復帰,加算取得状況,自宅復帰できなかった利用者の要因に関して,郵送による質問紙調査を行った。

結果 有効回答は121通だった(有効回答率34.4%)。総退所者のうち自宅へ退所した利用者数の割合は46.9%だった。また,自宅への退所のみで50%超の要件を満たしている施設は38.8%だった。加算取得状況では,通所リハビリテーションにおける認知症短期集中リハビリテーション等の実施が少なかった。自宅退所できなかった利用者の要因として,家族介護者の介護意欲が十分でないという項目が最も高い指標を示し,利用者の介護意欲がないという項目と比較して有意に高かった。また,利用者の認知機能の低下が2番目に高い指標を示した。

結論 在宅強化型老健は増えているが,自宅退所のみで在宅復帰率50%超の要件を満たしている施設は多くないことがわかった。自宅への退所を促進するために,通所リハビリテーションにおける認知症リハビリテーションの実施,家族介護者への支援が重要だと考えられた。

キーワード 介護老人保健施設,在宅強化型,自宅退所

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

特定健診受診者を対象とした服薬治療群
と非服薬治療群の3年間の体重変化

-2008~2011年度と2012~2015年度の比較-
上村 精一郎(カミムラ セイイチロウ) 宮脇 龍一郎(ミヤワキ リュウイチロウ) 柴田 優子(シバタ ユウコ)
榎本 亜里沙(エノモト アリサ) 水野 真希(ミズノ マキ) 鳥飼 恵子(トリカイ ケイコ)
今任 拓也(イマトウ タクヤ) 畝 博(ウネ ヒロシ) 

目的 特定健診受診者を対象として2008年度と2011年度,並びに2012年度と2015年度の3年間の体重変化を服薬治療群と服薬治療を受けていない群(非服薬治療群)に分けて比較分析した。

方法 対象は2008年と2011年の両年度(前期),並びに2012年と2015年の両年度(後期)の特定健診をともに受診した40~59歳の男性それぞれ2,313人と3,715人である。対象者をメタボリック症候群の診断基準に従ってメタボリック症候群(メタボ群),メタボリック症候群の予備群(予備群),非該当群に分類するとともに,服薬治療群と非服薬治療群に分けて3年間の体重変化について比較した。

結果 前期についてみると,メタボ群では非服薬治療群の体重変化は-0.493㎏と有意な減少であったが,服薬治療群は+0.094㎏と横ばいであった。後期では非服薬治療群の体重変化は-1.095㎏,服薬治療群のそれは-0.679㎏でともに有意な体重減少が認められた。前期後期ともに,非服薬治療群の体重の減少幅は服薬治療群より大きかった。体重変化の前期と後期の比較ではメタボ群の非服薬治療群と服薬治療群ともに,後期の方が体重の減少幅が有意に大きかった。

結論 特定保健指導の対象者であると考えられるメタボ群の非服薬治療群では前期と後期ともに有意に体重が減少しており,その減少幅も服薬治療群より大きかったことは特定健診・特定保健指導の効果を示唆するものであった。メタボ群の非服薬治療群と服薬治療群ではともに,後期の方が前期より体重減少の幅が有意に大きかった。このことは時間の経過とともにメタボリック症候群に注目した特定健診・特定保健指導の概念が広く浸透して行っていることを示しているのではないかと考えられた。

キーワード 特定健診・特定保健指導,3年間の体重変化,生活習慣の改善,メタボリック症候群

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

後期高齢者における歯数と医療費との関連

-三重県後期高齢者医療広域連合歯科健診の結果とレセプトデータから-
齋藤 瑞季(サイトウ ミズキ) 嶋﨑 義浩(シマザキ ヨシヒロ)
野々山 順也(ノノヤマ トシヤ) 田所 泰(タドコロ ヤスシ)

目的 高齢者における医療費の増加は重大な社会問題であり,医療費の抑制および適性化が課題となっている。これまで,口腔の健康と全身の健康との関連については数多く報告されているが,歯数と医療費との関連についての報告は少なく,情報が限られている。本研究は,後期高齢者に対する歯科健診結果およびレセプト情報をもとに,歯数と医療費との関連について検討した。

方法 平成26年度に三重県後期高齢者医療広域連合が実施した歯科健診の結果およびレセプト情報を用いた。歯科健診の対象者は75歳および80歳の被保険者で,歯科健診を受診した4,984人のうち分析に用いるデータに欠損がなく,レセプト情報との突合が出来た4,799人(男性2,184人,女性2,615人)を分析対象とした。第3大臼歯を除く健全歯,未処置歯,処置歯の合計を現在歯数とした。医療費については,レセプト情報をもとに,対象者ごとの1年間の医科診療医療費,歯科診療医療費およびそれらを合わせた医科・歯科診療医療費を算出した。現在歯数を28歯,20-27歯,10-19歯,0-9歯の4群に分け,各医療費を25パーセンタイル値と75パーセンタイル値により3群(低位,中位,高位)に分け,相互の関連について分析を行った。各医療費を3群に分けたものを従属変数,現在歯数およびその他の変数を独立変数とした多変量多項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 現在歯数20-27歯および10-19歯群は,28歯群と比較して,年齢,性別,喫煙およびBMIで調整したうえで,医科診療医療費および医科・歯科診療医療費が低位に対する高位である調整済みオッズ比が有意に高かった。現在歯数0-9歯群は,28歯群と比較して医科・歯科診療医療費が低位に対する中位および高位のオッズ比が有意に高かった。歯科診療医療費については,28歯群と比較して,10-19歯および20-27歯群の歯科診療医療費が低位に対して中位または高位である調整済みオッズ比が有意に高い一方で,0-9歯群の医療費が低位に対する中位である調整済みオッズ比は有意に低かった。

結論 歯を喪失している後期高齢者は,歯科医療費だけではなく医科の医療費も高いことから,高齢期まで多くの歯を維持することは,医療費の抑制に貢献できる可能性が示唆された。

キーワード 後期高齢者,歯数,医療費,レセプト情報

 

論文

 

第65巻第13号 2018年11月

東京都内に保険証住所地がある
在宅医療患者への都外医療機関による訪問診療

石崎 達郎(イシザキ タツロウ) 光武 誠吾(ミツタケ セイゴ) 寺本 千恵(テラモト チエ)
清水 沙友里(シミズ サユリ) 井藤 英喜(イトウ ヒデキ)

目的 東京都は人口密度が高く,交通網が発達していることから,隣県の医療機関が都内への訪問診療に参入している可能性が考えられる。東京都における在宅医療のあり方を検討する際には,都内の医療機関だけでなく,都外医療機関から訪問診療を受けている患者数と医療機関数の把握も必要であるが,その実態は明らかにされていない。そこで本研究は,東京都後期高齢者医療広域連合の被保険者である75歳以上の高齢者のうち,2014年8月に訪問診療を受けた患者を対象に,在宅医療提供医療機関の所在地を把握し,都外医療機関から訪問診療を受けた患者数とその特徴を分析することを目的とした。

方法 本研究で使用したデータは,東京都後期高齢者医療広域連合から提供された匿名化済み医科レセプトデータである。2014年8月に訪問診療を受けた75歳以上の在宅医療患者を分析対象とした。まず,二次保健医療圏別に在宅医療患者数を把握し,75歳以上の全被保険者数に占める在宅医療者の割合を,性,年齢階級別に集計した。次に,保険証住所地の二次保健医療圏別に,訪問診療提供医療機関の所在地を把握し,都外医療機関から訪問診療を受けた患者数を把握した。最後に,都外医療機関による訪問診療を受けた患者特性をχ2検定と多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

結果 都内に保険証住所地がある75歳以上の在宅医療患者(2014年8月診療分)は71,312人(全被保険者の5.4%)で,うち11,085人(全在宅医療患者の15.5%)が都外医療機関から訪問診療を受けていた。都外医療機関の所在地は神奈川県,埼玉県,千葉県がほとんどであった。居住系施設等で訪問診療を受けた患者は,その27.1%が都外医療機関による訪問で,居住系施設等への同時訪問は都外医療機関による訪問診療提供と極めて強く関連していた(調整済みオッズ比18.0,P<0.001)。

結論 東京都における在宅医療の提供体制を検討する際,都外医療機関による在宅医療の提供を把握すると同時に,在宅医療患者の実際の居住地を都道府県や市区町村レベルで把握可能な仕組みを構築し,在宅医療の需要と提供医療機関数の過大評価を避ける必要がある。

キーワード 後期高齢者,在宅医療,訪問診療,居住系施設,住所地特例,東京都

 

論文