論文記事
第47巻第6号 2000年6月 薬学部および看護学部女子大生における
大井田 隆(オオイダ タカシ) 曽根 智史(ソネ トモフミ) 望月 友美子(モチヅキ ユミコ) |
目的 将来医療従事者になる予定の薬学部および看護学部女子大生の喫煙行動と喫煙に対する意識を比較分析することによって,医療関係者の喫煙防止対策を推進するための資料とする。
方法 首都圏にある1つの薬学部と2つの看護学部の全女子大生を対象に,プライバシーの確保を考慮した上で,無記名性質問紙調査票による喫煙行動および喫煙に対する意識に関する調査を実施した。
結果 看護学部女子大生喫煙率は15%と薬学部女子大生10%に比べ高かったが統計学的には差は認められなかった。しかし,喫煙に対する意識では,薬学部学生の方が喫煙に対して厳しい考え方をしていた。また,喫煙防止教育の受講状況では看護学部学生の方が受講している率が高かった。
結論 卒業生のほとんどが医療機閑に就職する看護学部学生に対して,患者の健康保持の視点から効果的な喫煙防止教育がより必要なことが示唆された。
Key words:女子大生,喫煙行動,喫煙率,喫煙に対する態度
第47巻第6号 2000年6月 日本人成人男女における周期性四肢運動障害様症状,
影山 隆之(カゲヤマ タカユキ) 黒河 佳香(クロカワ ヨシカ) 新田 裕史(ニッタ ヒロシ) |
目的 睡眠障害の一種である周期性四肢運動障害とrest less legs症候群,および睡眠時頻尿に関する自覚症状(PLMS,RLSおよびNU)について,日本の一般集団における有症率および不眠症との関連を検討するために,住民調査を行った。
対象と方法 全国8地域(都市部住居地域)の住民に自記式質問用紙を配布し,男1,012人,女3,600人から回答を得た。「脚をぴくぴくさせたりけったりしているといわれたことがある」場合をPLMS,「足がほてったりムズムズするので眠れないことがある」場合をRLS,睡眠中の尿回数が3回以上の場合をNUとした。これとは独立して,不眠症状の頻度・持続期間・二次影響等が所定の条件に該当する場合を不眠症とした。不眠症に関連する他要因の影響を多重ロジスティック解析により調整しつつ,各症状と不眠症との関連を検討した。
結果 各症状の性・年齢階級別有症率は,PLMSが第8~12%,女2~5%,RLSが男6~10%,女3~7%,NUが男4~29%,女3~18%で,これまでに欧米等で報告ざれている結果とほぼ同等だった。多変量解析の結果,PLMSと不眠症との関連はみられなかったが,男40~59歳および女40歳以上ではRLSおよびNUがそれぞれ独立して不眠症と関連しており,そのリスクファクターになっていること,つまりこれらの自覚症状に関連した不眠症が公衆衛生の観点から見て重要な課題であることが示唆された。
key words 周期性四肢運動障害,restless legs症候群,睡眠時頻尿,自覚症状,有症率,不眠症
第47巻第7号 2000年7月 カルテの開示に関する意識調査-一般病院勤務医に対するアンケート調査から-谷本 佐理名(タニモト サリナ) 太田 久彦(オオタ ヒサヒコ) 高柳 和江(タカヤナギ カズエ)木村 哲彦(キムラ テツヒコ) 針田 哲(ハリタ アキラ) 大井田 隆(オオイダ タカシ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ) |
日的 カルテは開示される方向で議論が進められているが,インフラの未整備,資料情報を管理する専門家養成の必要性などにより,医師の自発性により推進すべきという意見も根強いという。そこで,実際に臨床に従事している医師を対象に,カルテ開示に関してどのような意識がもたれているかを知ることを目的に調査を行った。
方法 4つの一般病院に勤務する医師377人を対象とし,自己記入式質問票を1999年3月20日発送した。
結果 解析対象は194人で,平均年齢39.1±10.4歳,平均臨床経験年数13.2±10年であった。カルテ開示に「賛成」が40人(20.6%),「どちらかといえば賛成」が59人(30.4%),「どちらとも言えない」が53人(27.3%),「どちらかといえば反対」が21人(10.8%),「反対」が21人(10.8%)(以下前者2群を「賛成」群,後者2群を「反対」群と呼ぶ)であった。カルテ開示を,「社会の情報公開の流れの一貫である」に「大変そう思う・そう思う」と答えたのは77.2%,「インフォームドコンセントの強化である」に「大変そう思う・そう思う」答えたのが61.1%で,いずれも「賛成」群の方が「反対」群より多かった(P<0.01)。「法制化せず進められるべきものである」に「大変そう思う・そう思う」と答えたのは49.0%であった。「カルテ開示は患者に混乱を与えると思いますか」に「与える・どちらかといえば与える」と答えたのか64.4%,「患者に医療情報が理解できないと思いますか」に「理解できない・どちらかといえば理解できない」と答えたのが55.4%で,いずれも「反対」群の方が「賛成」群より多かった(p<0.01,p<0.05)。
考察 1995年と1997年に行われたカルテ開示の賛否の調査によると,賛成と答えた医師が各々18.6%,31.0%,1999年の本調査は51.0%で.カルテの開示に好意的な医師が増えていると推察された。カルテ開示を,社会の情報公開の流れの一環,インフォームドコンセントの強化と位置づけていることに「大変そう思う・そう思う」と答えた医師が,「賛成」群が「反対」群より多かったことから,今後社会の変化に伴って,より一層開示に対して好意的な医師が増えると考えられた。また,「反対」群が,カルテ開示は患者に混乱与えると思う,および患者に医療情報が理解できないと思うと多く答えたことからは,医療を受ける側が診療情報をよりよく理解することができるような環境整備も必要であると思われた。
結論 一般病院に勤務する医師を対象にカルテ開示に関する意識調査を行ったところ,51%がカルテ開示に「賛成」もしくは「どちらかといえば賛成」と答えた。これらカルテ開示賛成群は,反対群よりカルテ開示を社会の情報公開の流れの一環,インフォームドコンセントの強化と位置づけ,開示反対群の方が,カルテ開示は患者に混乱を与えたり,患者に医療情報が理解できないと多く答えた。これらの結果より,社会の変化に伴って開示に関する医師の考が変化していくこと,および診療情報提供にまつわる環境整備が必要であることなどが考えられた。
key words:カルテ,医療情報,開示,医師,意識調査
第47巻第7号 2000年7月 ポリオ患者および脊髄損傷者の疫学調査-身体状況について-藤城 有美子(フジシロ ユミコ) 長谷川 友紀(ハセガワ トモノリ) 平部 正樹(ヒラベ マサキ)井原 一成(イハラ カズシゲ) 高柳 満喜子(タカヤナギ マキコ) 熊倉 伸宏(クマクラ ノブヒロ) 君塚 葵(キミヅカ マモル) 中村 太郎(ナカムラ タロウ) 矢野 英雄(ヤノ ヒデオ) |
日的 ポリオ罹患者においては,症状安定期の後,既存症状の急激な増悪もしくは新規症状の出現を特徴とし,ADLの低下をもたらすような,二次的障害の存在が報告されている。しかし,脊髄損傷者については,このような病態についてはこれまで報告されていない。本研究は,全国規模の疫学調査により,ポリオ患者および外傷性脊髄損傷者について,二次的障害の実態を明らかにし.必要な支援を検討することを目的とした。
方法 全国から任意に選ばれた病院,障害者施設において受診・通所・入所歴を有する者,および障害者団体所属者の中から,ポリオ患者1,385人,脊髄損傷者1,613人が対象とされた。1999年1月から3月にかけて,無記名自記式調査票を郵送により送付・回収した。
結果 脊髄損傷者の方が発症・受傷時の重症度が重く,現在のADLも障害されていた。二次的障害については,従来報告されてきたポリオ患者だけでなく,脊髄損傷者にも認められた。脊髄損傷者の二次的障害の症状はポリオ患者とほぼ同様で,二次的障害があると回答した者では,ないと回答した者よりも症状の発現率が高かった。ただし,両者では発生の様式が異なり,ポリオ患者においては,発症後30年を経過した頃から二次的障害が急激に発生し始めるのに対して,脊髄損傷者においでは,受傷直後からほぼ一定の割合で発生するという違いが見られた。
結論 ポリオ患者に二次的障害が生じることについては,過去の報告が追認された。今後とも二次的障害が高率に発生するであろうことが明らかにされた。ポリオ患者に対する実態の把握と対策が,早急になされる必要がある。脊髄損傷者に関しても,二次的障害の発生が確認された。長期の経過を観察すればポリオ患者と同様に高率で発生し,症状も類似していた。二次的障害は,一部のポリオ患者,脊髄損傷者に限られた問題ではなく,普遍的な問題であることが推察される。今後は,障害の特徴や関連因子を把握し,それに合わせた対応策の立案が求められる。
key words:障害者,ポリオ,脊髄損傷,二次的障害,疫学
第47巻第7号 2000年7月 在宅医療の実態状況-東京都M市において-逢坂 文夫(オウサカ フミオ) 渡邉 一平(ワタナベ イッペイ) 相川 浩幸(アイカワ ヒロユキ)村田 欣造(ムラタ キンゾウ) 谷口 亮一(タニグチ リョウイチ) |
目的 本報告では,在宅医療の経済分析の一環として,東京都M市における在宅医寮の実態調査を行った。
方法 今回実施した市町村レベルでの全数調査は,稀有であり,今後の在宅介護ならびに在宅医療において,貴重なデータになり得るものと確信している。
結果 東京都M市においては,要介護者が在宅で治療を受けている割合は約20数%であった。さらに,日常的に主介護者が要介護者に行っている看護行動の内,治療が必須と思われる項目として,啖を取る(吸引を含む),吸入器の管理,在宅酸素の処置,経管栄養の管理,尿カテーテルの管理および人工肛門の管理が上げられその割合は,約10%であった。
結論 よってこの全数調査により,潜在的な値が顕在化し,在宅医療に関する今後の指針における重要性が示唆きれたと思われる
key words:在宅医療,在宅介護,要介護者,主介護者
第47巻第8号 2000年8月 地域における医療機能連携の実態-紹介状・診療情報提供者に対する返事の分析から-小川 裕(オガワ ユタカ) |
目的 地方都市部における地域医療連携の実態を把握する。
方法 1995年4月から99年3月までの4年間に地方の一診療所で発行した紹介状・診療情報提供書268人分とそれに対する返事を分析対象として,発行対象者の性,年齢,紹介先,紹介目的,返事の有無,返事記載までの日数,返事の内容,返事に対する満足度,転帰について検討した。
結果 1.診療情報提供書発行の対象となった患者は男性より女性が多く,年齢別では男女とも60歳代が最も多かった。紹介先は総合病院が145人(54%),診療所が97人(36%)であった。とくに紹介目的が「治療が必要な場合には原則として当診療所での治療を想定した精密検査」の場合の紹介先は,診察所が7割を占めた。2.診療情報提供書に対して何らかの返事のあった割合は,診察所90%,総合病院80%であった。返事の内容は診療所からのものが病院からのものに比べて,知りたい情報が記載された満足できるものが多かったが,返事記載日までの日数は,病院の方が診療所よりも短い傾向が認められた。3.転帰不明は全体の25%で,とくに慢性疾患で入院外での対処を想定して紹介した場合にその割合は高かったが,転帰が把握できた者については,おおむね紹介目的が達せられたと考えられた。
結論 診療情報提供書発行の目的によっては,病診連携のみならず,診診連携も有用であることが示唆された。医療機能連携の推進のためには,紹介側が紹介先での診療内容や転帰を把捏できる返事が記載されるような条件整備が必要と考えられた。
key words:地域医療,医療機能連携,診療情報提供書
第47巻第8号 2000年8月 要介護難病患者の外来受療状況日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 加納 美緒(カノウ ミオ) |
目的 日常生活に介護を要する難病患者の外来受領状況について分析する。
方法 難病患者等居宅生活支援事業の対象119疾患が原因で介護を要すると考えられる通院・通所中の患者について,1997年9月に岐阜県内の医療施設から報告されたデータ(回収率:病院72.3%,診療所38.6%)を分析。
結果 報告された患者数は2,277人(人口10万対107.7),男女比は0.62で,加齢とともにその割合は高くなっていた。患者の67%は居住市町村内の医療施設に通院・通所していたが,原発性免疫不全症候群,再生不良性貧血,全身性エリテマトーデス,難治性ネフローゼ症候群,難治性視神経症および特発性血小板減少性紫斑病の患者ではその割合が低かった。居住市町村内の医療施設受療は高齢者および市居住者で多く,その他に地域ごとの特徴が認められた。医療施設については加齢とともに身近な施設で受療する傾向がみられた。また,大学附属病院受療には,疾患の特異性の他,アクセスの因子も認められた。
結論 県内の医療施設に通院・通所している要介護の難病患者は人口10万対174.7と推計した。これらの患者は近隣の医療施設で受療する傾向がみられたが,地域あるいは疾患によっては,近隣の施設では十分に対応できていない可能性もある。
key words:難病,居宅,介護,医療施設,外来,医療圏
第47巻第8号 2000年8月 要介護女性高齢者における
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目的 超高齢化社会の到来を目前として,要介護高齢者は増加傾向にあり,健全な食行動とそのためのケアは益々重要性を増している。そこで著者らは要介護女性高齢者を対象に口腔ケアの充実に資する目的で心身と口腔関連諸機能の状況の調査を行った。
方法 AとBの両県において,平成10年11月末から平成11年1月の間に要介護女性高齢者152人(特別養護老人ホーム76人,老人保健施設51人,在宅〈通所者〉25人,平均年齢82.9歳)を対象に心身および口腔諸機能状況の把糧と年齢階級(80歳末満,80歳以上)別の検肘をした。
結果 視力,聴力で正常は6割前後であった。口腔ケアにつながる運動諸機能で正常は3~4割,握力は左右とも極度に低下していた。年齢階級別には,80歳以上は80歳未満に比較して総じて感覚・身体・精神機能低下の割合が高く,聴力,握力の左側,麻痺状態,痴呆では有意の差があった(p<0.05)。日常生活自立度(厚生省)は全体ではランクB,ランクA,ランクJ,ランクCの順で自立の割合が低く,入浴,着替で顕著であった。年齢階級別には80歳以上は80歳未満に比較して総じて自立度の低い割合が高く,ADL状況の食事では有意の差があった(p<0.05)。しかしながら,ADL状況の移動,排泄,着替ではその違いは顕著でなかった。最大咬合力は総じて低値であったが,主観的な咀嚼能力では食べられると考える者は多かった。反復唾液嚥下テスト(才籐によるRSST法)は3回飲み込みの総合時間の平均値は20.8秒で良好であった。言語,咀嚼,嚥下,口腔乾燥,口臭の口腔関連諸機能で不能や問題ありは1割前後と総じては良好であった。食事内容(主食,副食)は普通食は5割前後であった。年齢階級別には,80歳以上は80歳未満に比較して総じて機能低下の割合が高く,左側の最大咬合圧,主観的評価による咀嚼能力,発音では有意の差があった(p<0.05)。しかしながら,反復嚥下テスト,言語障害,嚥下能力,口腔乾燥ではその違いは顕著でなかった。
結論 後期高齢者を中心とした今回の要介護女性高齢者について80歳を境に年齢階級別に心身機能,口腔関連諸機能をみると,それぞれ特徴的な違いがあり,ケアやキュアについては後期高齢者として一律に考えるのではなく,年齢を考慮に入れた工夫が求められる。
key words:要介護女性高齢者,心身および口腔関連諸機能,年齢階級(80歳未満,80歳以上)別検討,口腔ケア
第47巻第8号 2000年8月 ポリオ患者および脊髄損傷者の疫学調査-社会参加について-平部 正樹(ヒラベ マサキ) 長谷川 友紀(ハセガワ トモノリ) 藤城 有美子(フジシロ ユミコ)井原 一成(イハラ カズシゲ) 高柳 満喜子(タカヤナギ マキコ) 熊倉 伸宏(クマクラ ノブヒロ) 君塚 葵(キミヅカ マモル) 中村 太郎(ナカムラ タロウ) 矢野 英雄(ヤノ ヒデオ) |
目的 慢性の障害を有する者にとって,社会参加はQOLを考える上での重要な要素である。本稿ではポリオ患者と脊髄損傷者に対して行った全国規模の疫学調査から,社会参加の実態について報告する。
方法 全国から任意に選ばれた病院,障害者施設において受診・適所・入所歴を有する者,および障害者団体所属者の中から,ポリオ患者1,385人,脊髄損傷者1,613人が対象とされた。1999年1月から3月にかけて無記名自記式調査票を郵送により送付・回収した。社会参加に関する質問領域はICIDH-1の社会的不利の6領域を基に作成した。
結果 社会参加合計および,4領域においてポリオ患者よりも脊髄損傷者のほうが障害が大きかった。ポリオ患者,脊髄損傷者ともに男性よりも女性が,身体症状が重いほど,ADLが障害されているほど社会参加が障害されており.さらにポリオ患者については発症後経過年数が長いほど,脊髄損傷者においては受傷時年齢が高いほど社会参加が障害されていた。また二次的障害によりポリオ患者,脊髄損傷者ともに社会参加に悪影響を及ぼされることが示された。
結論 ポリオ患者と脊髄損傷者の社会参加を維持するためには,機能障害,能力低下という,個人的・身体的な障害のレベルでの介入と,社会環境の整備が必要である。また,二次的障害が社会参加に悪影響を及ぼしており,二次的障害の実態把握,予防・対応策の立案が重要である。
key words:疫学調査,ポリオ,脊髄損傷,社会参加,二次的障害
International Classification of Impairments,Disabilities and Handicaps(ICIDH-l)。
第47巻第10号 2000年9月 横浜市における救急搬送患者数
大重 賢治(オオシゲ ケンジ) 水嶋 春朔(ミズシマ シュンサク) 武笠 基和(ムカサ モトカズ) |
目的 横浜市における救急搬送患者数は,1989年からの10年間において,人口の増加(6.7%の増加)をはるかに上まわる増加(35.1%の増加)を示している。このことから,横浜市消防局と横浜市立大学医学部公衆衛生学教室では,横浜市における救急搬送患者数増加の原因解明を目的として,過去10年間の救急搬送患者数の動向について調査を行った。
方法 横浜市衛生局保健部地域保健課発行の横浜市衛生年報,横浜市企画局政策部統計解析課の年齢別人口統計および横浜市消防局警防部救急課において集計されている救急記録から,過去10年問の人口の増加率と救急搬送患者数の増加率を得,比較検討した。また,年代別の人口の増加率と救急搬送患者数の増加率を比較した。
結果 横浜市における救急搬送患者数は,過去10年間で,50歳以上,特に65歳以上の年代において急激な増加が認められた。また,年々,横浜市の老年人口割合は増加しており,それにほぼ正比例する形で人口千人当たりの救急搬送患者数が増加していることが明らかになった。
結論 横浜市における救急発生は,老年人口の影響を大きく受けており,今後,人口の高齢化の進展に伴い,救急搬送患者数はさらに増加することが予想された。
key words:救急搬送,高齢化社会,老年人口,横浜市
第47巻第10号 2000年9月 国家公務員の死因特性-人口動態統計との比較検討-石塚 正敏(イシヅカ マサトシ) |
目的 約80万人に及びcohortに近い大規模集団である一般職国家公務員(職員)の死因特性を一般国民との比較・分析によって明らかにすることで,今後の公務職場における健康管理システムのあり方を検討する。
方法 職員の死因調査統計と国民の人口動態統計を資料に,主要疾患に関する標準化死亡比 (SMR)や年齢階級別死亡率等について,職員と一般国民とのデータの比較並びに分析を行った。
結果及び考察 ①国民全体に対する職員の全死因SMRは男女とも国民の半分ほどであるが,この背景にはいわゆるhealthy worker effectの存在のほか,公務職場における健康管理対策の成果がある程度示唆されよう,②近年のがん死亡率の低下には主に胃がんの減少が寄与してきたが, 最近,検診受診率の伸び悩みもあってか死亡率が横這いとなり,男の胃がんSMRは上昇している。大腸がんSMRも相対的に高く,今後も患者数の増加が懸念される,③肺がん(男)は,大部分の年齢層で職員の死亡率が国民を下回っているものの,主要なrisk factorである喫煙率は 国民と大差ない高水準にあるため退職後の死亡率上昇が懸念され,禁煙サポートの推進が課題 といえる,④女性のがんでは,年次推移やSMRからみて乳がん対策が今後の課題であり,検診制度の導入等についての検討が必要と思われる,⑤昭和54年度まで死因の第2位を占めてきた 脳卒中は減少を続け,現在は第5位まで低下したが,これには脳内出血の減少が寄与している。 脳内出血(男)では加齢に伴う死亡率の上昇が抑えられており,健康管理対策がうまく機能している可能性も示唆される。一方,最近脳内出血死亡率を上回ったくも膜下出血への対応が,今後の課題と考えられる,⑥ここ十年来横這い状態にあった虚血性心疾患死亡率が最近上昇傾向を示しており,high risk groupへの重点的取組みが必要になってこよう。
結論 退職後の生活習慣病の発症抑制には在職中に,いかに健全なlife-styleを確立しておくかが肝要であり,今回の分析により得られた国家公務員の死因特性に着目した的確な施策の展開が求められよう。
key words:国家公務員死因調査統計,人口動態統計,標準化死亡比(SMR),生活習慣病,公務職場の健康管理システム
第47巻第10号 2000年9月 乳幼児の事故予防に関する調査岡永 真由美(オカナガ マユミ) 牛山 明(ウシヤマ アキラ) 近藤 政代(コンドウ マサヨ)河本 恭子(コウモト キョウコ) 大西 良之(オオニシ ヨシユキ) 水上 みどり(ミズカミ ミドリ) 小嶋 由美(コジマ ユミ) 後藤 幸枝(ゴトウ サチエ) 下元 裕子(シモモト ユウコ) 堀江 和美(ホリエ カズミ) 山口 洋子(ヤマグチ ヨウコ) 尾崎 米厚(オザキ ヨネアツ) 藤田 利治(フジタ トシハル) 福島 富士子(フクシマ フジコ) 井原 成男(イハラ ナルオ) |
目的 本研究は,豊島区の「子ども事故予防センター」設立に先立ち,乳幼児の家庭内事故の実態を把握し,健康教育の重点を明らかにすることを目的とした。
方法 池袋保健所管内12箇所の児童館と1歳6カ月健診に来所した母親152名を対象として,偶発的標本抽出による聞き取り調査を実施した。調査内容は,家庭内事故に関する意識・知識・経験および,事故予防対策のチェックリストとした。2群間の比較はχ2検定,t検定,Fisherの直接確率を用いて諸要因の関連性を検討した。
結果 1) 母親の心配する子どもの事故は,乳児が誤飲・転落・やけどであった。幼児は交通事故・ やけど・転落であった。
2) 家庭内の事故経験は,90%が経験していた。その内訳は,ひやっとした経験が68%(転落・打撲外傷・誤飲),家庭内で手当てを要した経験が16%(打撲外傷・転落),病院受診した経験が16%(転落)であった。
3) チェックリストでの事故子防対策については,転落・転倒・誤飲・窒息・やけど予防には注意が払われていたが,溺水は値が低かった。
4) 子どもの年齢によって,母親の心配する事故は異なっていた。誤飲は子どもの成長と共に母親の心配は減少し,交通事故は,子どもの成長と共に増加した。
5) 子どもの事故経験によって,母親の心配する事故は異なっていた。誤飲と交通事故は,子どもの事故経験と,母親の心配の有無に関連があった。
結論 母親の経験した子どもの事故は,「ひやっとした事故」も事故経験として取り上げたため,対象者の90%が何らかの事故経験があった。「ひやっとした事故」も重大事故につながる可能性が あるために,このレベルの事故予防に対する安全環境づくりの見直しの機会となる健康教育活動が重要であると考える。また,子どもの成長と共に,母親の心配する事故は変化するので, 保健指導場面では,体系化した定期的な健康教育内容の展開や教育媒体の開発が望まれる。
key words:乳幼児,家庭内事故,実態調査
第47巻第10号 2000年9月 コホート生命表による平均余命の推移渡辺 智之(ワタナベ トモユキ) 宮尾 克(ミヤオ マサル) 大沢 功(オオサワ イサオ)佐藤 祐造(サトウ ユウゾウ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ) |
目的 わが国は近年において世界トップクラスの長寿国となっている。この要因を解明するための研究の1つとして,出生コホート(同時出生集団)についての生命表,つまりコホート生命表を作成した。そこで,従来の期間生命表,との比較によってコホート生命表の意義について考えるとともに,各世代における平均余命の推移を考察した。
方法 コホート生命表の作成には,まず1891年から1995年における0歳から90歳までの期間生命表(通常の「生命表」)の各歳死亡率qxを要素としたマトリックスに対し,右斜め下へと縦断的にqxを捉えていき,これをコホート生命表の死亡率として考えれば一連の生命関数を導き出すことができる。しかし,統計資料の限界上,平均余命(。ex)を算出できない出生コホートに関しては,x歳集団における(x + 10)歳までの1人当たりの平均生存年数(10。ex)を定義することにより算出した。
結果 1891年か ら1915年までの各出生コホートの平均寿命は,男女ともに1891年当初から漸増した。しかし,1898年出生コホート以降は徐々に男女差は広がった。さらに,65歳平均余命についても,男女ともにはじめは漸増傾向を示していたが,第2次世界大戦以降は特に女性について大きく延長した。また,1891年から1915年までの各出生コホートにおける年齢階級別の平均余命を算出した。この時代は乳児死亡率が非常に高く,どの世代についても平均寿命は低かった。また,第2次世界大戦中の死亡率の激増で,男性の平均余命曲線に凸凹部分が見られる。女性 に対する戦争の影響は男性と比較すると小さい。さらに年齢別の10年間平均生存年数を算出した。男性は各年齢で第2次世界大戦の影響を受けていた。また,乳児死亡率が非常に高い0歳集団は10年間平均生存年数が非常に短く,また高齢になるほど短くなっていた。しかし,近年では0歳集団は生後10年間にほとんどが生存するまでになった。女性については,男性とほぽ同様の傾向を示しているが,特に80歳からの10年間について顕著な延長を示した。
結論 期間生命表が横断的な捉え方をする一方で,コホート生命表は縦断的に捉えているため,戦争などの影響をより強く反映させることができる。したがって,集団の生存状況をよりよく把握することができ,コホート生命表による考察は意義のあるものといえる。
key words:生命表,平均余命,コホート
第47巻第11号 2000年10月 全国保健所におけるたばこ対策実施状況調査の
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目的 生活習慣病対策にたばこ対策も重要な位置を占めている。昭和62年と平成3年に厚生省は保健所におけるたばこ対策実施状況調査を行ったがその後行われていない。今回保健所のたばこ対策実施状況のその後の実態と今後の課題を明らかにするために調査を行った。
方法 調査対象は全国657全保健所および神戸市区保健部9カ所(平成10年8月現在)とし,平成10年12月に調査票を所長宛に送付し,自記式郵送法により実施した。回収率は88.4% (666カ所中589カ所)であった。
結果 ①たばこ対策を行った保健所は平成3年の全国91%から今回72%に減少し,県型以外の保健所(以降県型以外)では65%であった。②たばこ対策の対象は全国で47%が「学校」に向けられていたが,県型以外は30%と少なかった。③禁煙教室および講演会の内容は喫煙の害についてがそれぞれ8割以上と多かった。④喫煙実態調査を行わなかった保健所は全国で78%で,県型以外は87%と少なかった。禁煙教室の効果判定を行わなかった保健所は48%,県型以外は64%であり、講演会の効果判定については全国で58%で,県型以外は70%であった。⑤保健所長の喫煙率は男22%,女30%,職員の喫煙率は男36%,女2%で全国喫煙率の男51%,女10%に比べて低かった。所長が喫煙しない場合,保健所がたばこ対策を行う割合は74%であったが,所長が喫煙する場合は61%と低下した。
結論 県型に比ぺて県型以外の保健所はたばこ対策が遅れていることが明らかになった。また県型保健所では慢性疾患の一次予防としてたばこ対策を「学校」と連携する保健所が増加していることも明らかになった。
Key words:喫煙,たばこ対策,保健所,実態調査,効果判定
第47巻第10号 2000年9月 日本におけるPRECEDE-PROCEED Model適用
藤内 修二(トウナイ シュウジ) |
目的 ヘルスプロモーションの展開モデルであるPRECEDE-PROCEED Model (MIDORIモデル) の日本における展開の課題を明らかにするとともに,その課題の克服について考察する。
方法 九州各地城におけるMIDORIモデル適用20事例について,事例分析用フォーマットに基づいて,適用の実際と展開における課題を分析した。
結果 モデルが適用された領域は,歯科保健,生活習慣病,食生活改善,健康な地城づくり,食品衛生,環境衛生,精神保健,障害児療育と多岐にわたっていた。公衆衛生活動の類型では,新たな施策の検討,健康教育の見直し,保健計画や指針の策定,協議会の立ち上げや活性化,事業の評価,地域診断に適用されていた。 これらの事例においては,第1段階から第4段階までほぽ同じ手順で進められていた。すなわち,①当事者や関係者からヒアリングを行い,②Quality of Life,健康問題,健康問題に影響を及ぼす生活習慣や環境因子,さらに,それらに影響を及ぽす準備・強化・実現因子を抽出し,③必要に応じて実態調査を行い,各因子についての事前評価(アセスメント)を行って, ④取り組むべき課題や対策を明確にするという手順を踏んでいた。第5段階(運営・政策診断)の作業は,展開された活動の類型により異なっていた。ほとんどの事例で,これらのプロセスは住民参加を得て展開されていた。各事例の展開における課題として,優先順位を決定するための実証的根拠の不足,モデルによる展開を支援するスーパーバイザーの不足が挙げられていた。
結論 日本におけるMIDORIモデルの適用は優先順位を検討するための実証的なデータの蓄積など,解決すべき課題を有するものの,各段階に住民参加を得ながら展開できるように工夫され,公衆衛生の各領域で適用されていた。このモデルが「健康日本21」の地方計画の策定や保健事業第4次計画で導入されたヘルスアセスメントや個別健康教育に適用されることにより,ヘルスプロモーションの実践が着実に展開されることが期待される。
key words:PRECEDE-PROCEED Model (MIDORIモデル),ヘルスプロモーション住民参加,健康日本21,ヘルスアセスメント,個別健康教育
第47巻第11号 2000年10月 高齢者介護関連施設における
山本 栄司(ヤマモト エイジ) 菊池 清(キクチ キヨシ) 米原 恵子(ヨネハラ ケイコ) |
目的 病院から介護関連施設へ要介護高齢者を移送するにあたり,施設が施設内感染対策をどのように進めているか,またMRSA保菌者の増加をどのように受けとめ,どのような対応をとって いるかを調べた。
方法 島根県内の105の介護施設に対して郵送による記名式アンケート調査を行った。
結果 82施設(78%)からの回答を得た。感染対策は各施設とも重視し,多くの施設が担当者を置くとともにマニュアルを作成していた。環境や職員の細菌検査まで行っているところは少なかった。感染予防に関する職員教育を定期的に行っているところは15施設(18%)に留まった。MRSA鼻腔・咽頭保菌者への基本的な対応は,感染者と同等またはどちらかといえば感染者として対応する群が全体の7割にのぽった。具体的に最も重視する対策としては,52施設(63%) が介護行為ごとの手洗いをあげ,そのほか隔離や医療機関への移送と答えた施設もあった。病院からの移送に際しては,MRSA感染症に羅患していたかどうかの情報提供,MRSA保菌状況確認のための細菌検査,退院までの除菌処置のいずれもを,はとんどの施設が要望していた。
結論 病院退院後の介護の担い手である施設が,施設内感染防止の必要性を重く受けとめて対策をとっている反面,広く社会に定着したMRSA保菌者については,その対応に混乱がみられることが判明した。病院内感染対策同様,施設においても職員教育を定期的に行って,手洗いを中心とする標準予防策を徹底させることにより,鼻腔・咽頭のみの健康保菌者をことさらに特別視しないような対応が望まれる。
Key words:高齢者介護施設,施設内感染対策,MRSA保菌者
第47巻第11号 2000年10月 喫煙が糖尿病発症に及ぼす影響:
中西 範幸(ナカニシ ノリユキ) 吉田 寛(ヨシダ ヒロシ) 松尾 吉郎(マツオ ヨシオ) |
目的 喫煙が糖尿病の発症に及ぽす影響を明らかにするため,定期健康診断で測定された空腹時血糖値を用いて5年問における喫煙と糖尿病発症との関連について検討を行った。
方法 1994年5月に定期健康診断を受診し,空腹時血糖値が109mg/dl以下を示した者で糖尿病の既往と治療歴を持たない35~59歳男子事務系勤務者1,257人を観察コーホートに設定し,1999年5月までの5年間における糖尿病の発症を調査した。糖尿病の診断はアメリカ糖尿病協会の診断基準に準拠して行い,空腹時血糖値が110~125mg/dlをIFG (impaired fasting glucose) 126mg/dl以上をⅡ型(インスリン非依存性)糖尿病とした。
結果 コーホート設定時の年齢,Body mass index,飲酒,運動,糖尿病の家族歴,空腹時血糖値 を調整したIFG,および'Ⅱ型糖尿病発症のハザード比は,1日当たりの喫煙本数と喫煙箱年(喫煙本数/日×喫煙年数/20)の増加にともない有意に高値を示した。「吸ったことがない」を1.0とする「21~30本/日」,「31本以上/日」 の調整ハザード比はそれぞれ1.85 [95%信頼区間 (CI) : 1.06-3.23], 2.78 (95%C1 :1.67-4.65)であり,「40.1箱年以上」の調整ハザード比は 2.54 (95%CI :1.54-4.21)であった。またⅡ型糖尿病発症の調整ハザード比も,1日当たりの喫煙本数と喫煙箱年の増加にともない有意に高値を示した。「21~3O本/日」,「31本以上/日」 の調整ハザード比はそれぞれ3.43 (95%CI :1.34-8.78), 4,42 (95%CI :1.80-10.84)であ り,「40.1箱年以上」の調整ハザード比は4.28 (95%CI : 1.76-10.39)であった。「以前は吸っていた」者に比べて「31本以上/日」喫煙者のIFG,およびⅡ型糖尿病の発症率の増加は0. 098 (95 %C1 : 0.027-0.169)と有意に高く,1人の糖尿病の発症予防に必要な禁煙者は10.2人(95% CI: 5.9-36.7)であった。
結論 1日当たりの喫煙本数と喫煙箱年は糖尿病発症の危険因子となり,糖尿病の発症予防には禁煙が重要な課題となることが示された。
Key words:喫煙,impaired fasting glucose, Ⅱ型糖尿病,壮年期,男子勤労者,コーホート研究。
第47巻第11号 2000年10月 地域での保健と医療・福祉の連携に関する研究-住民から見た連携の必要性(障害児の子育てから見た問題点)-福永 一郎(フクナガ イチロウ) 巽 純子(タツミ ジュンコ) 百渓 英一(モモタニ エイイチ)橋本 美香(ハシモト ミカ) 玉井 真理子(タマイ マリコ) 木村 浩之(キムラ ヒロユキ) 平尾 智広(ヒラオ トモヒロ) 實成 文彦(ジツナリ フミヒコ) |
目的 障害児の子育てにあたっては,公共社会資源,民間社会資源を十分,あるいは効率的に活用することが難しく,保健・医療・福祉・教育の各サービス・制度を横断的にサポートする体制を整えることが必要である。このことに着目して,障害児保健福祉領域を保健と医療と福祉の連携についての調査対象とし,当事者への調査を行った。
方法 3府県のダウン症親の会会員の対象とし,子育てに関して住民(障害当事者)からみた保健, 医療,福祉,教育の現状と,連携の関連事項について無記名自記式質問票にてたずねた。実施時期は1998年12月から1999年1月で,発送数は466件,回収数は197件で回収率は42.3%であっ た。
結果 保健サーピスの利用度は高くないが公的な親子教室や親の会の活動は利用度が高い。療育手帳の取得度は高く,医療費,生活費の補助利用は地域差があった。子育ての情報は親の会,医療機関や施設,発達相談は良好であるが,役場の福祉の窓口は不十分で,保健婦は利用が多いが情報は十分ではない。公共サービス内容の満足度は低く,役場の福祉および教育委員会の窓口は対応の印象が不良で,保健婦は印象はよいが接触がない回答もあった。保健,医療,福祉 の問題点と住民参加では関係機関の連携不十分に起因する問題点が多かった。住民中心の地域保健,医療,福祉活動への参加では総体として関心は高い。
結論 障害児の子育てにあたっての地域におけるサーピス・制度は,当事者からみて不十分な状況であり,とりわけ,関係各機関の連携の不十分さに起因する要素が多いと考えられた。保健・ 医療,福祉・教育の各サーピス・制度を横断的にサポートする体制を整えるためには,地域における問題や活動目的をみんなで共有し,親の会などの住民当事者の活動を中心に,地域での連携体制を構築することが必要である。
Key words:連携,障害,住民参加,セルフヘルプグループ,組織育成,情報
第49巻第1号 2002年1月 患者調査に基づく移動距離算出の方法論の検討宇多 真一(ウダ シンイチ) 中川 真紀(ナカガワ マキ) 藤本 真一(フジモト シンイチ)烏帽子田 彰(エボシダ アキラ) |
自的 移動距離は,患者が医療機関受診のために市町村間を移動する範囲について,客観的に表現する手法として開発された。この方法では,患者調査データを元に,「移動距離」,すなわち,患者が居住地から医療機関を受診するのにどのくらいの距離を移動するかを算出する。しかし患者調査では患者居住地については市区町村までしか住所データは取られていないため,市区町村までのデータから,推定して求めるよリ他はない 。そこで,推定の方法により,どの程度の差が生じるか検討した。
方法 平成7年の広島県患者調査のデータから,三次市・三原市のデータを用いて,患者居住地に関して次の3種類の方去により算出した数値の比較を行った。(1)最短市町村法:患者はすべて患者居住地の市役所・区役所または町村役場(以後,市区町村役場という)の 「周辺」に居住しているものとする。(2)市投所法:患者はすべて患者居住地の市役所・区役所または町村役場に居住しているものとする。(3)医療施設間距離平均法:ある医療施設を受診する患者は,その医療施設と他医療施設の距離の1/2を平均したものを移動距離とする。
結果 三次市では,最短市町村法が4.00km,市役所法では2.27km,医療施設距離平均去が1.94kmであった。三原市では,最短市町村法が4.26km,市役所法が1.96km,医療施設問距離平均法が1.49kmであった。移動距離としては,大きな数字を示す施設もあったが,受診患者数が少なく,全体の平均移動距離にはあまり大きな影響を及ぼさなかった。むしろ,受診者数が多い施設は,距離は短くても全体への影響は大きかった。3つの方法による市内間の移動距離の違いを,市外患者も含めた集計,および,二次医療圏の集計に適応した結果,市単位で見た場合には,計算方法によって1km以上の差があったが,二次医療圏単位で見ると,1km以内の小さな差となった。
結論 平均移動距離を用いるには,二次医療圏,あるいはそれを越えるような広範な圏域の評価に適している。また,現実の移動距離を正確に反映したものではないということを念頭において,慎重に評価する必要がある。
キーワード 地区医療計画,二次医療圏,平均移動距離,患者調査
第49巻第1号 2002年1月 重症心身障害児(者)の
福田 雅臣(フクダ マサオミ) |
目的 重症心身障害児(者)(重症児)施設入所者において,1982年から現在まで,定期的な歯科健康診査とその結果に基ついた口腔保健管理を継続して行っている。今回,歯科医師および看護・介護者によって,長期間かつ継続的に行っている口腔内保健管理の効果を評価する目的で横断面的および縦断面的に解析した。
対象と方法 1982年調査 (I調査: 104人),1989年調査( Ⅱ調査: 98人),1994年調査(Ⅲ調査:97人)および1998年調査(Ⅳ調査:97人)の 4時点を分析対象とした。口腔診査は視診型診査にで行い,う蝕は DMF,歯肉炎状況はPMA-Ⅰを用いて前歯部歯肉を観察した。各調査時点の口腔保鍵状況を比較するとともに,4回連続して口腔診査を受診した62人を対象に I調査時の年齢階級を10歳ごとに区分し,Ⅰ調査時点からの各年齢群の口腔保健状況の推移について追跡調査を行った。
結果 横断面的調査の結果では,Ⅰ-Ⅳ調査間でDMFTには大きな変化は見られなかった。DT,MT, FT別にみるとDTは減少し,FT, MTは増加した。一方, PMA-ⅠスコアはⅠ調査に比べⅡ調査以降改善した。追跡調査の結果では,DMF者率は10歳未満群を除く各年代群で100%となったが,D者率はⅡ調査以降減少した。健全歯数は 10歳未満群で増加し,10代群以上では I-Ⅳ 調査間で僅かに減少し,またⅠ-Ⅳ調査間の⊿DMFTは10代未満群で1.9本,10~30代群で4本台,4代t群で2.8本であった。Ⅰ-Ⅳ調査間でDTは10歳未満群を除きⅠ-Ⅳ調査間で減少し,FT, MTは増加し,PMA-IはⅠ調査に比べⅣ調査では各年代群とも低下し,歯肉炎状況は改善されたことが示された。
結論 重症児の口腔保健管理を行っていくにあたっては,1次予防だけでなく,2次・3次予防を含めた幅広いアプローチが必要であり,また,歯科医師と看護・介助者との一体となった長期間の継続的な口腔保健管理を行うことにより,重症児の口腔保健状況が大幅に改善されたことがわかった。
キーワード 重症心身障害児(者),口腔保健管理,う蝕,歯肉炎,追跡調査
第49巻第1号 2002年1月 特別養護老人ホームにおける心理・社会的ニーズ-施設入所高齢者と施設職員との認識に関する比較研究-岡田 進一(オカダ シシイチ) 岡本 秀明(オカモト ヒデアキ) |
目的 本研究では,特別養護老人ホームに入所している高齢者とその施設職員との問に,心理・社会的ニーズの認識でどのような違いがあるのかを明らかにすることとした。また,ADLなどの身体状況に関する両者の認識と比較して,心理・社会的ニーズにどのような認識の違いがあるのかも明らかにする。
方法 調査対象者は,調査協力が得られた近畿地方の特別養護老人ホーム6か所に入所している高齢者(以下,「高齢者」とする)およびその施設職員である。調査期間は,1999年11月7日から 12月10日までである。調査方法は,質問紙を用いた横断的調査方法である。質問方法は,高齢者に対しては,質問紙を用いた面接調査を実施し,施設職員に対しては自記式質問紙による留め置き調査を実施した。高齢者に対する面接調査は,面接調査の訓練を受けた数人の大学院生が担当した。調査協力が得られた高齢者は85人で,施設入所高齢者全体の約10%を占めている。施設職員に対する調査では,調査協力が得られた85人の高齢者とかかわりが深いと考えられる施設職員とをマッチングし,基本属性以外の高齢者のADLと心理・社会的ニーズに関する質問項目は,高齢者に回答を求めた質問項目と同じ内容の項目とした。そして,高齢者・施設職員の85ペアのデータが最終的に得られた。
結果 ADLや心理,社会的ニーズに関する共通項目における高齢者と施設職員との回答一致率を見るために,単純一致率とコーヘン(Cohen)のカッパ(κ)係数を算出した。その結果, ADLにおいては,一致率も高く,高齢者と施設職員との回答傾向に多くの違いは見られなかった。しかし「中位群」において多少の違いが見られた。高齢者がADLレベルを「中位」と回答している場合,該当する高齢者に対する施設職員の判断に,ばらつきが見られた。一方,心理・社会的ニーズにおいては,回答傾向に多くの違いが見られ,全般的に施設職員の方が高齢者よりニーズを多く見る傾向が示された。特に,高齢者が心理・社会的ニーズは少ないと回答している高齢者の「低位群」で,施設職員がニーズは多くあると判断している傾向が見られた。ADLについては,単純一致率は高くカッパ係数も中程度であった。しかし,心理・社会的ニーズにおいては,単純一致率が30%から40%代であった。最も高いパーセンテージは,「社会領域,社会的活動」における41.2%で,最も低いパーセンテージは,「社会領域・他者とのコミュニケーション」および 「社会領域・情報の取得」の30.6%であった。さらに,カッパ係数においては,「社会領域・社会的活動」の0.154から「心理領域・抑うつ傾向」の-0.031で, ADLと比較するとかなり低い係数値となった。
結論 本研究で得られた結果は,海外でなされた先行研究と一致するものであり,社会福祉領域においても,ケア提供者である施設職員とケア受領者である施設入所高齢者との間にニーズ認識の大きな違いが見られた。特に,心理・社会的ニーズにおいて,両者に大きな認識の違いがあり,施設職員が高齢者の心理・社会的ニーズを過大査定してしまう傾向が見られた。このような結果を受けて,施設入所高齢者のケアを行う施設職員には,高齢者とのコミュニケーションや日常観察の機会を多くし,高齢者のニーズや要望に対してできるだけ敏感に対応していくことが求められる。
キーワード 特別養護老人ホーム,施設入所高齢者,施設職員,心理・社会的ニーズ,ニーズ認識
第49巻第1号 2002年1月 年齢階級別医療費の国際比較府川 哲夫(フカワ テツオ) |
目的 フランス,ドイツ,日本,オランダ,イギリス,アメリカの6か国をとりあげ,各国の医療費のnational dataをもとに65歳以上の人口1人当たり医療費の大きさを比較検討することを日的とした。
方法 医療費の内訳は入院,外来(医科外来),歯科,薬剤(外来薬剤),その他とし,年齢階級は0~14歳,15~44歳,45~64歳,65~74歳,75~84歳,85歳以上を基本とした。各国のnational dataをもとにして、医療費に含まれている高齢者の介護費を除く修正も行った。
結果 各国のnationa dataで医療費倍率(6.5歳以上人口 1人当たり医療費の65歳未満人口 1人当たり医療費に対する倍率)をみると,日本の4.8倍がもっとも高く,ドイツの2.6倍が最も低かった。日本,オランダ,アメリカで 4倍を越えており,これらの国では高齢者介護費が医療費に大きな影響を号えていることがうかがわれる。人口1人当たり医療費の l人当たりGDPに対する割合でみると,アメリカが群を抜いて高く,日本は65歳未満でイギリスを除く5か国中最も低かった。医療費に含まれている高齢者の介護費(ナーシング・ホーム費など)を除くと医療費倍率は特にオランダやアメリカで大きく低下した。人口 1人当たり医療費の l人当たりGDPに対する割合をみると,75歳未満ではフランス,ドイツ,オランダの 3か国がほとんど一致し,オランダやアメリカで75歳以上の抵下が顕著であった。
結論 人口1人当たり医療費の倍率は日本,アメリ,オランダで高く,医療費の中に含まれている高齢者の介護費を除くという修正を行うと(修正の度合いはデータの制約上,国によって異なる)オランダやアメリカで倍率の低下が顕著であった。日本の修正は直接的なデータが無いため複数のケースを実施したが,医療費倍率は概ね4倍前後であった。より注目すべき点は,人口 1人当たり医療費の1人当たりGDPに対する割合におけるアメリカの高さ及び日本の65歳未満の低さである。
医療費の年齢別パターンには各国の医療システムにかかわる制度の相違も大きな影響を与えている。各国の制度上の特徴を総合すると,日本,オランダ,アメリカなどでは何らかの形で医療制度において高齢者が優遇されており,そのため高齢者の受診率が高いことが医療費倍率が高くなる原因であると考えられる。
キーワード 年齢階級別医療費,人口 1人当たり医療費,医療費倍率,高齢者介護費,制度的要因
第49巻第2号 2002年2月 群馬県におけるツツガムシ病田中 伸久(タナカ ノブヒサ) 富岡 千鶴子(トミオカ チヅコ) 橋爪 節子(ハシヅメ セツコ) |
目的 群馬県におけるツツガムシ病の実態を明らかにし,予防対策上の基礎資料とする。
方法 県内各地で野鼠を捕獲し,牌臓を材料としたマウス累代継代により,ツツガムシ病 リケッチアOrientia tsutsugamushiの分離を試みた。併せて吸着ツツガムシを採取・同定した。また,平成 2~12年度に県内でツツガムシ病が疑われ,かつ血清検査が陽性だった者を対象に疫学調査を行い,回収した調査票を集計,解析した。
結果 23年問に県内49市町村から,1,216頭の野鼠を捕獲し,このうち31市町村でO.tsutsugamushiの存在を確認した。また媒介種であるフトゲツツガムシLeptotrombidium pallidumあるいはタテツツガムシLeptotrombidium scutellareが39市町村から採集された。一方,血清検査陽性者は196人で, 75%がKarp株に対して強い反応を示した。推定感染地の過半数が吾妻郡内であった。月別発生教は10~ 12月に 9割が集中し,感染機会では農作業が多かった。所見として,刺し口,高熱,発疹の発現とCRP,GOT, GPT,LDHの上昇が高率に認められた。
結論 群馬県におけるツツガムシ病は,フトゲツツカガムシによるKart型が中心である。危険度に差はあるものの,本病発生の可能性は県内広範囲に潜在することが示唆された。危険因子としては,秋季の農作業が特に大きい。また,刺し口,高熱,発疹の発現とCRP, GOT,GPT, LDH の上昇が,診断上有用な所見であることが確認された。
キーワード ツツガムシ病,ツツガムシ病リケッチア,ツツガムシ,疫学調査,群馬県
第49巻第2号 2002年2月 1998/1999シーズンの三重県における高齢者に
寺本 佳宏(テラモト ヨシヒロ) 高橋 裕明(タカハシ ヒロアキ) 福田 美和(フクダ ミワ) |
目的 老人保健施設,特別養護老人ホームなどの集団入所施設に入所している65歳以上の高齢者に対するインフルエンザワクチン接種の安全性と有効性について検討した。
方法 調査は, 1998 / 1999シーズンに行った。対象者は,三重県内の老人保健施設,特別養護老人ホーム等の集団入所福祉施設に入所している65歳以上の高齢者とし,属性調査および臨床経過調査を行った。またワクチンの接種前後およびインフルエンザ流行後に抗体価の測定を行った。
結果 ワクチン接種における副反応は軽度の発熱,発赤,腫脹という局所的な症状が若干みられたが,重篤な症状は特にみられなかった。ワクチン接種により抗体価は大きく上昇した。インフルエンザが曝露した施設では,ワクチン接種群が非接種群に比べ,38℃以上の発熱をオッズ比0.18(p<0.001)と有意に減少することが明らかとなった。
結論 65歳以上の高齢者において,インフルエンザワクチンの接種により,抗体価が上昇し,インフルエンザ症状の 1つでもある発熱が軽減された。また問題になるような副反応はみられなかった。したがって,インフルエンザワクチンは,65歳以上の高齢者に対して安全かつ有効であり,重症化の防止にもつながるものと考えられる。
キーワード インフルエンザ,ワクチン,高齢者,発熱,流行
第49巻第2号 2002年2月 勤労者の主観的健康指標と食品摂取パタン須山 靖男(スヤマ ヤスオ) |
目的 健康日本21の実施に象徴されるように,わが国の健康管理は疾病の予防,健康保持・増進という一次予防をさらに重視する施策が積極的に行われるようになってきたむ健康管理における一次予紡の主軸となるライフスタイルのあり様を考えたとき,客観的な指標のみならず,主観的健康指標とライフスタイルの関係を見極めることも重要な課題と考える。本報告は主観的健康指標を取り上げ,これらの指標が食品摂取パタンにいかなる影響を与えるかを検討したものである。
対象 対象は生命保険会社に勤務する職員で,調査項目に全て回答された男性4,671人と女性25,346人である。
方法 健康度自己評価は「非常に健康」から「健康でない」,自己評価は「大いに自信がある」から「自信がない」の 4つの選択肢をそれぞれ用いた。食品摂取パタンは15食品(群)からなる食品摂取頻度調査を基に,因子分析を試行し,最適解の得られた各因子の名称を総称したもので、今回の結果,3因子が抽出され,第 1因子が「副食の植物性食品の選択パタン」,第 2因子が「副食の動物性食品の選択パタン」,第 3因子が「主食の選択パタン」とそれぞれ解釈された。分析は,各食品摂取パタンを意味する因子得点を従属変数,健康度自己評価,自己評価,飲酒習慣, 契煙習慣,性を独立変数,年齢を共変数とする一般線形モデルを試行した。
結果 ①男性の健康度自己評価で「あまり健康でない」とする者,体力自己評価で「あまり自信がない」とする者はいずれも 40歳代に高率に認められ,各年齢階級のその分布は 『逆U字型』が示された。②女性の健康度自己評価で「あまり健康でない」とした者の割合は各年年代とも男性よりも高率に認められ,その分布は, 20歳代から50歳代まで漸増した。体力自己評価で「大いに自信がある」とする者は40歳代を除き男性よりもその割合は低くかった。③健康度自己評価と有意な関係が認められた食品摂取パタンは「副食の動物性食品の選択パタン」と「主食の選択パタンJ」,体力自己評価と有意な関係が認められた食品摂取パタンは「副食の植物性食品の選択パタン」と 「主食の選択パタン 」であった。このように,食品摂取パタンと健康度自己評価,体力自己評価には密接な関係を有することが明らかにされた。
結論 今回の結果から主観的健康指標の結果も参考にし,保健指導などを実施する必要があることが明らかにされた。
キーワード 食品摂取パタン,健康度自己評価,体力自己評価,勤労者,喫煙習慣,飲酒習慣
第47巻第11号 2000年10月 「平均移動距離」による静岡県地域医療の利便性評価藤本 眞一(フジモト シンイチ) 大道 貴子(オオミチ タカコ)吹野 治(フキノ オサム) 中村 敏雄(ナカムラ トシオ) |
目的 「平均移動距離」という概念を新たな指標として提示し,受療状況調査から得られた客観的なデータから,静岡県の地域医療を例にとって地域医療の利便性を科学的に評価した。
方法 平成6年10月実施の「静岡県患者調査」では,静岡県内に居住する患者185,882人(入院患者 31,287人,外来患者154,595人)について,個々の調査票には,傷病の種類,医療機関所在地などが記録されているが,患者の市町村内の詳細な住所は記録されていない。そこで,患者の受療による市町村間の移動を指標化するために,次のことを仮定した。仮定1:患者はすべて患者住所地の市役所または町村役場(以下,「市町村役場」という。)の「周り」に居住しているものとする。「周り」とは,その市町村から最も近接する市町村までの距離の半分の位置と考え る。仮定2:医療機関はすべて医療機関所在地の市町村役場に所在しているものとする。この2つの仮定により,静岡県内の市町村役場の相互間の距離から,特定の患者集団毎に,患者1人当たりの移動距離が求められる。これを「平均移動距離」の定義とし,平均移動距離を受療行動別,医療機関別などに求めて評価し,利便性の指標として妥当かどうか検討した。
結果 (1)患者住所地の平均移動距離は,ほとんどの市町村において入院が外来を上回る結果となっ た。(2)厚生省の推進している医療機関の役割分担が,静岡県内において機能していると推量される。(3)若年者を除き,女性よりも男性の方が平均移動距離が長い傾向にあった。
結論 (1)平均移動距離の概念は.地域医療を科学的に評価する際のひとつの指標となる。(2)平均移動距離を用いて,静岡県の二次医療圏毎に医療機関の機能・役割を評価すると,それぞれの地域特性が明確に示され,特に結核の入院医療体制や,県東部における先天異常疾患に対する体制が求められること,さらには北遠医療圏の存在意義など,具体的に数値として地域保健医療上の課題を提示することができた。(3)患者が受療のために遠方の医療機関を訪れるのは不便であるが,静岡県の標準化平均移動比で示されたとおり,都市部では概ね同一市町村を含んだ近接の市町村を受療していることが明らかになった。
Key words:地域医療計画,二次医療圏,平均移動距離,患者調査
第47巻第13号 2000年11月 健康日本21におけるデータ収集のあり方尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) 谷原 真一(タニハラ シンイチ)大木 いずみ(オオキ イズミ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ) |
目的 健康日本21におけるフォローアップ体制のあり方を明らかにすること。
方法 健康日本21報告書及び米国におけるHealthy People 2000の目標指標と対比しながら,現状におけるわが国の情報収集体制を分析した。
結果 わが国の現状における情報収集体制は,人口動態統計,国民栄養調査など,非常に優れたものがあり,健康日本21における目標指標の多くは全国値であれば入手可能である。ただし,既存資料から都道府県,市町村の値が得られる指標は少なく,また,米国のHealthy People 2000 で採用されている指標のなかで,異常者のうち治療を受けている者の割合などの情報は,現在,わが国では十分に収集されていない。これらの問題点に対処するために,市町村,都道府県などで新規の調査を実施すべきものがある。また,国民栄養調査や労働者福祉施設・制度調査報告などは,既存の統計調査に一部項目を追加すべきである。また,精神保健,母子・思春期保健などに関しては,新たな統計調査を実施すべきであろう。さらに,実施されている統計調査を一覧することのできるようなシステムの構築が望まれる。
結論 わが国の情報収集体制は非常に優れているが,既存の調査に項目を追加したり,新規の調査を実施したりする必要性がある。
Key words:健康日本21,統計調査,情報収集,保健指標,生活習慣病,Healthy People 2000
第47巻第13号 2000年11月 栃木県の4市町における国民健康保険医療費と
神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) 加藤 清子(カトウ セイコ) 向山 晴子(ムコウヤマ ハルコ) |
目的 国民健康保険の医療費適正化のための事業の一環として,医療費の市町村格差に,住民の保健行動や健康習慣,保健事業との関わりがどう関連しているのかを検討した。
方法 平成6年度の国民健康保険統計資料をもとに,栃木県の市町のうち,医療費が高いK町,医療費が低いK市,O町,B町の4市町に居住する20歳以上の国保加入者を無作為に抽出して,郵送法による調査を実施した。
結果 高額医療費町のK町では,低額医療費群と比較して高齢化は進んでいなかった。保健事業の周知に関して,K町では,健康手帳の交付について知っている者の割合が低額医療費群と比べて低かった。また,機能訓練について知っている者の割合も,K町では低額医療費群と比べて低かった。
結論 K町と低額医療費群の市町との比較から,保健事業の周知状況などから覗える住民の意識のあり方が医療費の低減に役立っている可能性が示唆された。
Key words:医療費,保健事業,保健行動,国民健康保険
第47巻第13号 2000年11月 青森県内の事業所の従業員に向けた
佐藤 秀紀(サトウ ヒデキ) 佐藤 秀一(サトウ シュウイチ) |
目的 本研究は,今後の事業所の従業員に向けた退職前後期における生活支援対策事業を効果的に提供するための指針を得ることをねらいとして,青森県内における事業所の社会活動参加への支援体制,退職後の生活に対する取り組みを検討した。
方法 調査地域は,青森県内において従業員数100人以上の規模の464事業所すべてを調査対象とし た。調査は各事業所の労務担当部署に対して質問調査票を郵送法により配布,回収した。本調査は記名式・自記式記入法で行った。なお,311事業所から回答が得られ,回答率は67.0%であった。
結果 大企業を中心に数多の問題を抱えながらも,意欲的に社会活動参加への支援体制や定年退職者のための準備教育への試みが始められていることが明らかになった。一方,中小企業では,社会活動参加や定年退職準備のための体系的指導活動や援助帯り度の必要性を認識されてはいるものの,経済的裏づけ,業務量の増大,効果が期待できないなどの理由から,その実現が難しいことが示された。
結論 中小企業の生活支援対策事業については,まだまだ効果的な対応策を欠いた状況が続いており,大企業との格差は依然として大きいことが明らかにされた。今後,事業所内での中高年齢化の急速な進展のなかで,勤労者の定年後の生きがいをめぐって生じるニーズがますます多様 化していくものと想定される。事業所においては,在職中の早い段階から,地域社会に生きがいを求めソフト・ランディングを図っていく視点をもって,社会活動参加への支援体制や退職準備プログラムの指導をさらに充実させていくことが必要と示唆される。
Key words:事業所,退職,生活支援対策
第47巻第13号 2000年11月 特定疾患治療研究事業対象疾患の選定方法に関する検討佐藤 俊哉(サトウ トシヤ) 稲葉 裕(イナバ ユタカ) 黒沢 美智子(クロサワ ミチコ)高木 廣文(タカギ ヒロフミ) 大野 良之(オオノ ヨシユキ) 津谷 喜一郎(ツタニ キイチロウ) 吉田 勝美(ヨシダ カツミ) |
目的 特定疾患治療研究事業対象疾患選定方法の見直しの基礎資料を作成することを目的に,1998年に特定疾患調査研究事業対象疾患分科会長に対して実施した調査結果のまとめを行う。
方法 特定疾患調査研究事業対象118疾患の各分科会長に患者数,5年生存率などからなる16項目の調査票を送付し,回答を得た。調査結果にもとづき,患者の立場,行政の立場,研究者の立場,という3つの異なった立場から各疾患の優先度を検討する。
結果 行政の立場からの優先度と特定疾患治療研究事業対象疾患との間に関連が見られた。患者,行政,研究者3つの立場ですべて優先度が上位半数以上に入る疾患は32疾患であったが,そのうち特定疾患治療研究事業の対象となっているのは20疾患(62.5%)であった。また,3つの立場ですべて優先度が下位の疾患であっても,4疾患が特定疾患治療研究事業対象となっていた。
結論 特定疾患治療研究対象疾患の選定には複数の目的が混在するため,一つの基準だけで順位付 けした結果を用いることには無理があり,複数の異なった観点から優先度を考え,それぞれの上位に入る疾患を実情に合わせて特定疾患治療研究事業対象疾患として選定すべきだと考えられた。
Key words:特定疾患,治療研究事業,調査研究事業,難病対策の見直し
第49巻第2号 2002年2月 出生性比の年次推移に見られる著名な出産順位別格差永井 正規(ナガイ マサキ) 内田 博之(ウチダ ヒロユキ) 渕上 博司(フチガミ ヒロシ) |
目的 わが国で近年観察された出生性比の低下傾向の原因を明らかにするための一法として,出産順位別出生性比の年次推移を記述し検討すること。
方法 人動態統計資料により1947年から1998年までの出産順位別性別出生数を得て,9年間の出生性比推移を求めた。
結果 総数の出生性比が上昇していた1970年頃までは,第1児,第2児,第3児以降のいずれの出産順位の出生性比も上昇していた。1970年頃,総数の出生性比が低下し始めて以来,いずれの出産順位の性比も低下を始めたが,低下傾向は第2児,第3児以降で著しかった。特に1970頃まで第2児,第3児以降の出生性比が第1児の出生性比よりも高かったが,1970年代にはこれが逆転し,第2児,第3児以降の出生性比は第1児の出生性比よりも低くなったという特異な所見が認められた。
結論 出生性比の年次推移は出産順位によって著しく異なっている。特に1970年頃を境とした上昇傾向から下降傾向への変化の違いは顕著であり,胎児期または受精時における人為的な性の選択,ダイオキシン類などの化学物質による環境汚染が原因であるかどうかの検討が必要である。
キーワー 出生性比,出産順位,性の選択,ダイオキシン類,環境汚染
第49巻第3号 2002年3月 諸外国における若者の望まない妊振の予防対策劔 陽子(ツルギ ヨウコ) 山本 美江子(ヤマモト ミエコ) 大河内 二郎(オオコウチ ジロウ)松田 晋哉(マツダ シンヤ) |
目的 欧米先進諸国で州既に行われている若者の望まない妊娠対策を調査することにより,わが国における効果的な若者の望まない妊娠対策の方法を模索する。
方法 諸外国における若者の望まない妊娠の子防対策活動について,フランス,オランダ,スウェーデン,ドイツ,アメリカ合衆国,イギリス,アイルランド,カナダを対象に各国政府,関係機関等を通じて文献調査を行った。フランス,オランダ,スウェーデン,ドイツ,アメ リカ合衆国に関しては現地調査も行った。
結果 欧米諸外国においては,その宗教的背景などにより人工妊娠中絶,避妊の是非について女性の権利と胎児の生存する権利という視点から今だ議論がなされている。しかしこれらの国々では日本よりも一足先に 10代望まない妊娠,人工妊娠中絶,性感染症などが問題になっており,公衆衛生上の問題として認識されている。具体的な対策としてピア・エデュケーションを含む健康教育の一環としての性教育の充実,プライパシーの保護が徹底された青少年クリニックなどの設置と経口避妊薬の無料または非常に少ない自己負担での配布などが行われている国が多く,特にこういった活動が広く行われているオランダでは先進諸国の中でも非常に低い10代妊娠率ー人工妊娠中絶率を誇っている。
結論 わが国の10代の妊娠率,人工妊娠率は今までは先進諸国の中で非常に低いものであり,現在でも決して高いとは言えないが,近年 10代の性行動の活発化が報告されており,実際lこ10代の人工妊娠中絶実施率は増加傾向にある。しかしこういった状況への対策は欧米諸国に比べ非常に遅れており,一般にはリブログクティブ・ヘルス/ライツといった考え方もあまり普及していないのが現状である。欧米諸外国で実際に行われ,効果が認められている対策にはわが国が参考にすることのできるものも多いと思われ,こういった対策を参考にしてリブロダクティブ・ヘルス/ライツの視点に立った,わが国に適した対策の方法を考えていくべきである。
キーワード 10代,望まない妊娠,人工妊娠中絶,欧米先進諸国
第49巻第3号 2002年3月 飲酒が血圧に及ぼす影響-若年者,および中高年者における検討-中西 範幸(ナカニシ ノリユキ) 佐藤 満(サトウ ミツル) 白井 こころ(シライ ココロ)岡本 光明(オカモト ミツハル) 吉田 寛(ヨシダ ヒロシ) 松尾 吉郎(マツオ ヨシオ) 多田羅 浩三(タタラ コウゾウ) |
目的 飲酒が血圧に及ぼす影響を明らかにするため,若年者,および中高年者を対象として飲酒状況と血圧レベレ,高血圧の頻度,および高血圧の発症との関連について検討した。
方法 1952年5月の定期健康診断を受診した23~59歳の男子事務系勤務者5,275人を対象として血圧測定を実施した。さらに,降降圧剤の服用,高血庄の既往がなく,正常血圧(収縮期血圧140mmHg未満かつ拡張期血圧90mmHg未満)を示した1,784人を観察コホートに設定し,2000年5月までの4年間における高血圧(収縮期血圧140mmHg以上あるいはかつ拡張期血圧90mmHg以上,およぼ降圧剤の服用)の発症を調査した。
結果 23~35歳,36~47歳,48~59歳のいずれの年齢階級においても,血圧(収縮期・拡張期)の平均値,高血圧の頻度は非飲酒者が最も低く,1日当たりのアルコール摂取量が多い者ほど高値を示した。年齢,Body Mass Index(BMI),高血圧の家族歴,喫煙,降圧剤の服用,総コレステロール,トリグリセライド,空腹時血糖を調整した非飲酒者と「アルコール摂取が46g以上/日」の飲酒者間の血圧(収縮期・拡張期)の平均値の差は,それぞれ23~35歳で4.3mmHg[95%CI :1.7-6.8],2.0mmHg[95%CI :0.1-4.0],36~47歳で 4.4mmHg[95%CI :2.2-6.6],3.5mmHg[95%CI :2.1-5.3],48~59歳で7.9mmHg[95%CI :6.0-9.8],6.4mmHg[95%CI :5.0-7.8]であった。また,コホート設定時の年齢,BMI,高血圧の家族歴,喫煙,総コレステロール,トリグリセライド,空腹時血糖を調整した非飲酒者を1.0とする高血圧発症のハザード比は,23~35歳,36~47歳,48~59歳のいずれの年齢階級においてもアルコール摂取量が増加するにともない高値を示し,アルコールが「46g以上/日では、それぞれ2.45[95%CI :1.35-4.47],2.14[95%CI :1.45-3.14],2.04[95%CI :1.47-2.84]であった。
結論 本研究の成績は,中高年者のみならず若年者においても飲酒は高血圧の危険因子となることを示唆するものである。
キーワード 飲酒,血圧,若年,中高年,男子勤務者
第47巻第13号 2000年11月 健康診査対象者の推計方法の検討三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ) 川口 毅(カワグチ タケシ) |
目的 老人保健法に基づく健康診査の対象者数を本研究者らが提案した方法によって推計し,その有用性を検討することを目的とした。
方法 本研究者らが提案している健康診査対象者数の推計方法を用いて,平成7年の検診対象者数を推計し,平成7年度の健康マップ数値表(実績値)との比較を,平均値,最小値,最大値,ヒストグラム,回帰分析,市町村別受診率の分布図によって行った。
結果 ①対象者数の平均値,最小値,最大値の比較によって,基本健康診査では,推計対象者数は実績対象者数より少なく,胃がん検診,肺がん検診,大腸がん検診,子宮がん検診,乳がん検診では,多いことが分かった。人口規模別の比較では,基本健康診査と胃がん検診については, 市,町村とも人口規模が大きくなるほど推計値/実績値の比が火きくなる傾向が,肺がん検診,大腸がん検診,子宮がん検診および乳がん検診については,町村で人口規模が大きくなるほど比の値が大きくなる傾向が認められた。②健康診査種類別の受診率の分布をヒストグラムにして比較すると,基本健康診査以外のヒストグラムでは,推計受診率と実績受診率の分布は類似の分布であったが,概ね推計値の方が分布の幅が小さい傾向が認められた。人口規模別の比較では,各種がん検診の受診率については,いずれの人口規模でも,推計値の分布と実績値の分布の形は類似していたが,推計値の方が分布の幅が小さく,値の小さい方にシフトしていた。③実績対象者数の常用対数値を目的変数,推計対象者数の常用対数値を説明変数とした1次回帰分析を健康診査の種類別人口規模別に試みた。決定点数はどの健康診査も0.9以上であったが,人口規模別にみると子宮がん検診の特別区・政令市が0.994と最も高く,基本健康診査の2万以上の町村が0.263と最も低かった。④市区町村別受診率の分布図を推計値と実績値との場合で比較すると,いずれの検診でも分布図は類似したものであった。
結論 回帰分析の決定係数の大きさ,および実績の分布との比較によっても分布のパターンには大きな差が認められなかったことなどから,「健康診査対象者数を一定の方法によって推計する」という本推計方法は全国市区町村の受診率の比較こは有用な方法と考えられた。
Key words:老人保健法,健康診査受診率,対象者推計方法,回帰分析,地理分布図
第47巻第15号 2000年12月 広島県における給食サービス事業の
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目的 給食サービス事業は,高齢者の在宅生活支援に重要な役制を持っているが,その管理運営面や施設の衛生面など実施については今まで十分に把握されていなかった。そこで,給食サービスの位置づけや課題を明らかにするために,実態調査及び実地調査並びに給食サーピス利用者の需要調査を実施し,配食型サービスと会食型サービスの比較検討を行った。
方法 1 . 給食サービス事業の実態調査:1998年9月~10月に,広島県内の83市町村の実施主体91団体及び172事業団体を調査対象とし,給食サービス状況,管理連営体制,衛生管理状況,実施にあたっての課題・要望などについて把握した。
2 .給食サービス利用者の需要調査:1999年9月~10月に,広島県三原保健所管内(3市8町)給食サービスの利用者(配食型1,768入,会食型695入)を調査対象として,利用者本人の状況,給食サーピス利用の状況,今後の希望内容などについて把握した。
結果 1.給食サービス事業の実態調査:給食サーピスの実施主体85団体のうち,責任の所在が「実施主体」であるとした団体は38団体(45%)であり,そのうち8団体は緊急時の連絡体制が未整備であった。各給食サービス事業者の現在の問題点や課題では,衛生管理面が最も多く,食品衛生面での不安が大きかった。
2. 給食サービス利用者の需要調査:食生活について必要だと思われる支援では,配食型では「配達による食事」34%,「買い物の手伝い」17%,「簡単料理集の発行」15%などであった。 会食型では「地域の仲間との会食」25%,「配達による食事」12%などであった。特に配食型において「買い物の手伝い」,「簡単料理集の発行J などが会食型より多い傾向を認めた。性・年齢別にみると,85歳以上の男性では配食型で「配達による食事」42%, 「買い物の手伝い」20 %,「調理の手伝い」16%などが多い傾向を認めた。
結論 配食型と会食型それぞれについて,サービス実施団体の管理運営体制・衛生管理状況,サー ビス利用者の希望内容において特徴が認められた。保健所はそれに基づいた対策を講じる必要 がある。そこで,保健所としては,配食型サーピスに従事するボランティア団体に研修会を実施したり,給食サービス実施施設の現地指導や危害防止マニュアル作成及び所内外の関係者による連絡会議を継続的に育成したいと考える。
Key words:高齢者,給食サービス事業,管理連営体制,衛生管理,保健所
第47巻第15号 2000年12月 父親の育児サポートに関する母親の認知中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) 桑田 寛子(クワタ ヒロコ) 林 仁美(ハヤシ ヒトミ)岡田 節子(オカダ セツコ) 朴 千萬(パク チョンマン) 齋藤 友介(サイトウ ユウスケ) 間 三千夫(ハザマ ミチオ) |
目的 本研究では,母親における父親の育児参加に関連したサポート認知に関する尺度開発を目的とした。
方法 調査対象は,公立保育所を利用する関東圏「M市」859人ならびに関西圏「I町」1,057入の母親であった。父親の育児関連サポートに関する母親の認知は,情緒的・手段的・情報的・評価的サポートの21項目で把握した。尺度開発は,探索的因子分析による内容的妥当性と確証的因子分析による構成概念妥当性を基礎に行った。
結果 探索的因子分析により,母親の育児サポートに関する認知は,情緒的サポート4項目,手段的サポート4項目,情報的サポート2項目で構造化できることが示された。確証的因子分析により,前記3つの因子を一次因子,また「父親の育児サポートに関する母親の認知」を二次因子とするニ次因子モデルが,データに十分適合することが示された。また10項目で構成される前記尺度の信頼性係数は0.915であった。
結論 開発された「父親の育児サポートに関する母親の認知尺度」は,妥当性と信頼性を十分備えた尺度であり,今後の母親のストレスに関する因果関係を解明する上で有効に機能するものと推察された。
Key words:育児サポート認知,妥当性,信頼性
第47巻第15号 2000年12月 首都圏一般人口における児童虐待の調査徳永 雅子(トクナガ マサコ) 大原 美和子(オオハラ みわこ) 萱間 真美(カヤマ マミ)吉村 奏恵(ヨシムラ カナエ) 三橋 順子(ミツハシ ジュンコ) 妹尾 栄一(セノオ エイイチ) |
目的 児童虐待は近年深刻な問題になっているが,それは児童相談所に通告され社会的に認知された顕在化したものに過ぎない。社会福祉法入子どもの虐待防止センターでは,児童虐待の実態と養育上の有害な育児行動の要因分析を行うための一環として,本調査を行った。
方法 首都圏に在住する,就学前の子どもを少なくとも一人以上は持つ女性500人を,エリアサンプリングの方法で,都内27カ所設定して(離島は除く), 調査員が地域内を訪ね歩いて聞き取りを行った。
結果 有効回答数494人中「虐待群」と、判別されたのは44人(8.9%),虐待傾向群は150人(30.4%) であった。母親が虐待行為としてよくやっているのは,大声で叱る,泣いても放っておく,お尻をたたく,手をたたく,頭をたたくが多かった。母親の年齢25~29歳,核家族,年収の低い家族,育児支援者のない母親は虐待群,虐待傾向群の率が高かった。子どもは男子,8歳,9歳が虐待を受けやすく,ハイリスクとしての双子,未熟児,病気がある,発達・発青の遅れがある,問題行動がある,継子,気の合わない子も虐待群,虐待傾向群が多かった。EPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票)を使用して,母親の産後うつ状態を評価した結果,493人中45人 (9.1%)がうつ群と判別され,先行調査と一致する値であった。第1子,男子を持つ母親はうつの評価面は高得点であった。
結論 今回の調査から,一般の母親の中にも予備軍ともいえる虐待行為を行う母親は,地域にごく普通に生活しておリ,危うい子育て状況にあることが分かった。虐待が生起する家庭と,そうではない家庭になぜ分かれるのか,家庭や家族の脆弱性について今後も多面的に研究をして児童虐待の治療や予防に役立てていきたい。
Key words:母親,子ども,虐待,有害な育児行動,産後うつ,気の合わない子
第49巻第3号 2002年3月 主観的良好状態評価一覧(General Well-Being
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目的 主観的良好状態評価一覧(General Well-Being Schedule : GWBS)はl970年,米国のDupuyらが開発した「心理的良好およぴ苦悩状態Jを評価する自記式質問票である。GWBSは最近 1か月間の心理的良好・苦悩状態に関する18項目(6因子モデル)の質問に回答を求め,その結果,得られる得点の合計によって個人の主観的良好状態を測定するもので,高い妥当性と信頼性から広い分野への応用が推奨されている。本研究の目的はGWBSの日本語版の開発と,日本人の特性を考慮した因子モデルの提示である。
方法 東京都東部のA区の保健所における基本健康診査受診者の 40歳.・50歳・60歳の男女による 1,224人の便宜的標本。信頼性の検討はクロンパックのα係数,一部の対象者による再テスト法によった。妥均性の検討は確認的因子分析と探索的因子分析による因子妥当性(構造的妥当性,または構成概念妥当性)の検討と,すでに日本語版が普及している 5つの心理測定尺度との相関を調べることで並存的妥当性を検討した。さらに回答に要する所要時聞と負担を尋ねて受容牲の検討を行なった。
結果 既に欧米で報告されている因子モデルの妥当性が確認されると共に,日本人の回答パターンの特性を考慮した17項目 3因子モデル(うつ,健康関心,生活満足度と情緒的安定住)が提示された。α係数は0.90~0.91,再テスト去によるピアソン相関係数0.81,級内相関係数0.85であった。並存的妥空宇佐についてはGeneral Health Questionnaire 60項目版, State-Trait Anxiety Inventory,Center for Epidemiologic Studies Depression Scale, Self-rating Deprresion Scale, Profile of Mood StateとGWVBS日本語版総得点との間に0.55 ~0.88の相関がみられた。回答の所要時間の中央値は 5分であり, 80%の回答者がGWBS日本語版を「回答しやすい」と感じていた。
考察 GWBS日本語版の信頼性・妥当性・受容性は十分なレベルにあると言える。今後,わが国においても,さまざまな領域で活用できる心理測定法のーつとなる可能性がある。
キーワード 心理測定尺度,自記式質問票,Quality of life,妥当性,信頼性,受容性
第49巻第4号 2002年4月 患者二ーズ調査に基づいた大阪府立成人病センター
蓮尾 聖子(マスオ セイコ) 田中 英夫(タナカ ヒデオ) 木下 洋子(キノシタ ヨウコ) |
目的 がん・循環器専門医療施設を受療した患者の喫煙対策に関するニーズを定量するとともに,その成績を元に行われた喫煙対策について紹介する。
方法 1997年5月9日,大阪府立成人病センターに来訪した全員に自記式調査票を配布し,外来随所に設置Lた回収箱により回収した。同年5月8日,同センター入院患者のうち自分で調査票への記入が可能な者に対し看護婦が調査票を配布し,翌日回収した。調査票の質問項目は,同センター耳鼻咽喉科外来喫煙患者14人を対象に行った禁煙支援をテーマとしたフォーカスグループ、インタピューの分折結果を元に作成した。推定回収率は,外来で69.4% (874/1,259),入院で76.3% (383/500)であった。
結果 回答者の80%が医療機関でめ割副流煙による不快感を経験しておリ,97%が禁煙・分煙対策の必要性を認識していた。調査時喫煙者の割合制合は,外来・入院患者共に19%であった(外来156/839,入院70/375)。喫煙者のうち朝1本目を吸うまでの時間が5分以内と答えたニコチン依存性の高い者の割合は,外来患者では入院患者に比べて高かった(34%対21%)。また,入院喫煙患者は外来喫煙患者に比べて禁煙の準備性が高い者(準備期)の割合か高かった(29%対6%)。喫煙者の46%が医療従事者から禁煙指導を受けた経験がないと回答した。禁煙の阻害要因 では「イライラしてストレスがたまる」が62%,促進要因では「体調を崩したり健康を害した時」が69%で最も多かった。禁煙の手助けとしては,禁断症状を和らげる薬剤を望む者が最も多かった(36%)。
これらの成績を元に当センターでは喫煙対策推進に向けた職員の合意形成を関リ,喫煙コー ナーの分煙化,タバコの自動販売機の散去,禁煙教室の開催,保健婦による個別禁煙サポートの実施,そして全館禁煙を実施させた。
結論 がん・循環器専門医療施設における喫煙対策の推進には,対策を実施するための特別委員会の設置と患者(および医療従事者)側の正確な二ーズの把握が必須となる。これらが円滑に行われ,得られた結果を喫煙対策推進の根拠とLて職員の合意形成を図り,具体策へとつなげて実現していくことが,患者に対する広義の禁煙サボートとなると推察した。
キーワード 喫煙対策,禁煙サボート,患者調査,ニーズ調査
第49巻第4号 2002年4月 大阪府守口市における介護保険制度の現状と課題-会員意識調査からの検討-寺西 伸介(テラニシ シンスケ) 常徳 誓(ジョウトク チカイ) 小野山 攻(オノヤマ オサム)生野 弘道(イクノ ヒロミチ) 和田 光彦(アキタ ミツヒコ) |
目的 介護保険制度の施行から1年が経過した時点で,大阪府守口市医師会会員の意識調査を行い,当市における現状を把握することでその対応を検討L,会員に反映することを目的とした。
対象と方法 本調査の対象は守口市医師会のA会員で144人全員にアンケート調査を施行Lた。内容 は「主治医意見書について」「要介護認定について」「介護サーピスの計画および利用について」「利用者の苦4情について」の項目に分けて計15問について行った。さらに,会員年齢分布が二峰性を示していることから,それぞれの項目について回答を2段階年齢区分別に集計し,年齢群間にこ有意の差があるかを検討した。回収率は100%であった。
結果 主治医意見書については69%が意見書作成に不満をもっていた。その内容は「保存用に複写 式にしてほしい」「認定の見直しのたびに作成するめが大変である」などであった。要介護認定に関しては「認定結果の介護度をいちいち希望して意見書に知らせるように記載しておかなければならない」ことに88%の会員が不満を持っており,認定結果に対しても解答者の約半数に不満があった。介護サーピス計画や利用については,59%の会員が介護サービス事業者やケアマネジャーとの対話がこの1年間全くなかったとしている。利用者の苦情については,約半数の会員が利用者本人やそカ家族から不満を聞いており,その内容は「サーピス内容」「介護度」「サーピス施設や担当者」「利用料金J の順であった。2段階年齢区分別集計では,とくに「意見書作成にあたって」「介護度の結果について」「介護サーピス事業者やサーピス担当者に対して」などのめ質問項目に若年会員ほど不満が強いという印象が感じらた。しかし,統計学的に 年齢群間に有意の差は認められなかった。
結論 介護保険制度に関して,守口市は門真市,四條畷市と共に「くすのき広域連合」という連合体を形成Lでいる。これは他の地区とは異なった形体で,かつ,各地域行政の独自性から,介護サーピス決定までの作業や様式は異なるため,他地区と共通した不満内容とはいえないが, 様々な不満が指摘された。行政との対応にあたっては,一市の意見を反映させるには三市の協議のもとに行わざるを得ないことの煩雑さがあり,連合体のーつの欠点と考えられた。介護保健制度の推進にあたって,このような現場における不満に対し,行政としては積極的な対応を図っていかなければならない。また,現場においても今後の取り組みとして,利用者の意見を含めた行政およびサービス担当者との連携の重要性が強く要望された。
キーワード 介護保険制度,広域連合,主治医意見書,要介護認定,介護サーピス計画
第49巻第4号 2002年4月 地域における食塩摂取目標値の設定吉田 登代子(ヨシダ トヨコ) 日置 敦巳(ヒオキ アツシ) 桑原 加奈子(クワバラ カナコ)和田 明美(ワダ アケミ) |
目的 日本人の食生話上の大きな課題の一つである減塩目標値について検討する。
方法 2000年の岐阜県の県民栄養調査(栄養摂取状況調査,身体状況調査および健康意識調査)に併せ,69世帯の調理担当者に対して食塩摂取量についての意識調査を行い,減塩目標値の設定 とその達成方法について検討した。
結果 摂取エネルギー当たりの食塩摂取量は1~14歳の者では他よリ有意に少なく,女性では男性よリ多かった。食塩摂取量が普通だと思っている世帯力割合は37.7%であった。また各世帯の調理担当者自身の食塩摂取量が13g/日を超えているにらかかわらず食塩摂取量が普通だと思っている者は5割に達していた。減塩の必要性を感じている者の割合は,食塩摂取量が「多い 方」または「かなり多い」と思っている者では62.5%であったのに対し,摂取量が普通だと思っている者では11.5%に過ぎなかった。
結論 1~14歳の者では相対的に薄味での摂食ができていることから,中学校卒業後に濃い味付けになっていかないような支援策が必要と考えた。各自の食塩摂取量については正しく認識させる機会をさらに提供する必要がある。集団レベルでの減塩目標値は10g/日未満に設定し,若年者を中心に個人レベルではさらに低い8-9g/日未満とした取り組みが必要であると考えた。
キーワード 食塩摂取量,目標,減塩、栄養調査,食生活
第49巻第4号 2002年4月 乳幼児突然死症候群関連情報の
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目的 乳幼児突然死症候群(SIDS)予防対策の効果について,従来の死亡率推移だけでなく関連情報受容後の保護者の行動変容状況で評価するため、保護者に対する調査を実施した。
方法 平成7~13年までのSIDS死亡児の年次推移を観察した。新潟,岐阜,静岡,広島県及び横浜市における234市町村・区において,平成11年11,12月に実施された1 歳6 か月児健康診査対象児の保護者14,879入を調査対象とし,自記式無記名の調査票を用いてSIDSに関する項目の調査を行った。発症危険因子等の精報取得にあたって,各取得経路と危険因子除去に向けた保護者の行動変動変容との関連についてロジスティック回帰モデルを用いて解析した。
結果 10.900人から同答を得た(回答率73,3%)。病院・診療所において危険因子等の情報を取得した人は19,O%, 保健所では3. 7%と低率であったが,テレピでは71.1%とマス・メディアでは高率を示した。友人からの情報取得率も9.2%と低値であった。行動変容の程度について,情報取得先や両親の性,年齢,子どもの数等の変数で調整後解析したところ,病院・診療所での情報取得は,全ての危険因子に関連した行動変容の惹起に有意な影響を与えていた。また,栄養方法に関する危険因子については保健所から,寝かせ方については子育てグループから,喫煙習慣については友人から情報を取得することがそれぞれ行動変容に有意に結びついていることが認めらた。マス・メディアからの情報取得と行動変容の有無の間には全てめ危険因子において関連が認められなかった。
結論 医療機関,行政機関もしくは個人的情報源に比してマス・メデアめ方が圧倒的に情報量及び伝達効率は高いが,情報伝達の最終的効果である情報取得後の行動変容の有無に着目すると,逆に病院・診療所や保健所,育児グループ等による情報伝達に効果が認められ,マス・メディアには認められないことから,情報提供自体の効率と情報取得後の行動変容の程度とには 明確な乖離が認められることが明らかとなった。情報受容者の行動変容を狙った情報提供に際して従来の画一的手法ではもはや限界があることから,今後は情報内容及び受容者属性に応じた多様な伝達手法の展開・組み合わせが必要不可欠であリ,今回の解析結果はそれらの考え方に1つの根拠を与えるもめと考える。
キーワード 乳幼児突然死死症候群(SIDS),人口動態統計,危険因子,行動変容,ロジスティック回帰分析,母子保健
第49巻第5号 2002年5月 沖縄県の慢性閉塞性肺疾患
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目的 1998年に著者らは沖縄県(沖縄)と大阪府とで,死亡の季節変動についで,年齢調整を行った死亡率による比較検討を行い,沖縄が全病死,虚血性心疾患、脳血管疾患は低く,慢性閉塞性肺疾患は高いことを明らかにした。本研究では,沖縄における慢性気管支炎(lCD-9:490-49L ICD-10: J4I-J42),肺気腫(ICD-9 :492, ICU-10: J41~J42),喘息(ICD-493, ICD-10:J45~J46)による死亡が全国と比べて高いめか否かを明らかにするために,標準化死亡比(SMR)による検討を行った。
対象と方法 全国と沖縄の慢性気管支炎,肺気腫,喘息に関する7年間(1992- 1998年)め入口動態死亡情報および1995年の国勢調査人口を用いて,沖縄全体,市部と郡部,本島と離島に関し, 性別に全国を標準(100とする)としたSMRを算出した。
結果 年齢階級別にみると沖縄の慢性気管支炎と肺気腫の死亡数は,40歳以降の中高年に多く,喘息は0歳以降から発生があった。いずれの疾患による死亡数も年齢が高くなるに従って多くなる傾向があった。性別にみると慢性気管支炎と喘息は女に多く(163人対234人,252人対337人),肺気腫は男に多かった(273人対106人)。沖縄の慢性気管支炎および喘息による死亡リスクは男女とも全国に比べ有意に高かった(男120,女197および男129,女185)。肺気腫の死亡リスクは女で有意に高く,男では全国とほぱ同じレベルであった(男101,女166)。総数でみると慢性気管支炎と喘息の死亡リスクはいずれも市 部,郡部,本島で有意に高かった。肺気腫は市部と本島において死亡リスクが有意に高くなっ た。3疾患とも女の死亡リスクが特に高くなる傾向がみられた。
結論 沖縄で慢性気管支炎および噛息による死亡者数は男より女の方が多いという特異なパタ 一ンを示した。沖縄の女のこれら3疾患はよる死亡リスクは全国の1.7~2.0倍に上ってており, その原因究明めため喫煙状況などの生活習慣とともに大気汚染や農作業等による環境因子につ いても今後調査していく必要がある。
キーワード 慢性気管支炎,肺気腫,噛息,SMR,リスク要因,沖縄
第49巻第5号 2002年5月 岐阜県における脳血管疾患
田中 耕(タナカ タガヤス) 森 洋隆(モリ ヒロタカ) 重村 克巳(シゲムラ カツミ) |
目的 従来から岐阜県の女性は,男性に比較して平均寿命が長いもののその全国順位は著しく低く,平均寿命の男女格差が少ない県であるとれてきた。そして,その主な要因として,女性の脳血管疾患死亡の多いことか指摘されてきた。そこで,年齢階級別に昭和30年から平成10年までの長期的な脳血管疾患死亡の推移について検討した。
方法 観察期間を昭和30年から平成10年までとして,岐阜県における40歳以上の男女について,5歳階級別の脳血管疾患死亡率を求めその推移を観察した。また,年齢階級別に全国の死亡率との比(岐阜県/全国)を求め,全国値との比較を行った。
結果 岐阜県男性の脳血管疾患死亡率ほ,昭和30年には全年齢階級にわたりて全国レべル以下であ ったが,昭和43年から平成7年頃まで75歳以上の高齢者に限り全国レベルをわずかに上回る傾向となり、平成10年には再び全国レベル以下まで低下した。また,女性の脳血管疾患死亡率については男性と同様に昭和30年には全年齢階級にわたって全国レベル以下であったが,昭和35年から50歳以上のほとんどの年齢階級で全国レベルを大きく上回る傾向となり,男性に比較して著しく悪い状況にあった。しかし、昭和55年をピークに次第に全国レベルにまで近づき,平成10年にはおおむね全国レベルにまで低下した。
結論 今後,平成10年の脳血管疾患死亡率の水準を維持できれば、男性のみならず岐阜県女性の平均寿命についても全国水準で推移できるものと考えた。
キーワード 岐阜県女性,脳血管疾患,年齢階級別死亡率,疾病構造,平均寿命,出生コホート
第49巻第5号 2002年5月 児童養護施設児童の入園時と退園時
佐藤 秀紀(サトウ ヒデキ) 鈴木 幸雄(スズキ ユキオ) |
目的 本研究は,北海道内にあるA園に入退園した児童およびその保護者を対象に,児童およびその保護者の抱える問題を把握するとともに,児童の入園時と退園時での問題行動上の変化について検討した。
方法 調査の対象は,A園に1946(昭和21)年から2001(平戒13)年にかけて入園および退園した児童909人(男児484人,女児425人)とした。解析に当たリ,まずすべての調査項目に対し記述統計で検討した。次に,入園時および退園時の児童の問題行動の有無については,性別に着目し,χ2検定で検討した。また,入園時と退園時の児童の問題行動上の変化については,入園時と退園時の問題行動の有無の結果を各項目毎にクロス集計し,MeNemarの検定を行った。
結果 その結果,入園時の児童の問題行動は,「問題あリ」と判漸された児童は60.2%となっていた。個々の行動では,盗み,その他,低学力ポーダー, 家出の順であった。退園時の児童の問題行動は,問題ありと判断された児童は43.3%となっていた。個々の行動では,盗み,金品持ち出し,その他,不登校の順であった。入園時と退園時の児童の問題行動上の変化は,男児においては,盗み,怠学,喫煙,不登校, いじめられる,嘘を言う・食事をこう・同情をひく,夜尿・失禁,低学カポーダー,その他の 9項目において問題行動の改善が示された。一方,女児においでは,盗み,怠学,不良交遊,性的非行,喫煙,不登校,嘘を言う・食事をこう・同情をひく,低学力ボーダー,その他の9 項月において問題行動改善が示された。
結論 今日,施設養護を必要とする児童が質的に変化してきておリ,深刻な虐待の後遺症を背負ってやってくる児童が確実に増えてきている。都市部など児童養護施設が不足する地域にあっては,定員拡大を早急に対応することが必要である。児童養護施設も家庭に代ってそめ生活を保障するといった従来の保護的機能のみなら,社会的不適応問題を抱える児童には通常の生活指導とともに治療教育的機能をより整備する必要性があるものと考える。
キーワード 児童養護施設,問題行動
第49巻第6号 2002年6月 乳幼児をもつ母親の特性的自己効力感及び
金岡 緑(カナオカ ミドリ) 藤田 大輔(フジタ ダイスケ) |
目的 乳幼児をもつ母親の人格特性的傾向である自己効力感が,乳幼児をもつ母親のソーシャルサポートの認知と,育児負担感の構成要素となる育児に対する否定的感情に及ぱす影響について分析する。
方法 調査対象者は,大阪府I市在住の乳幼児をもつ核家族の母親843人で, 4か月・1歳6か月・ 3歳6か月乳幼児健康診査を利用し,健康診査対象児の保護者宛てに「育児に関する調査」と題した質問紙を事前郵送にて配布,健康診査時に回収した。調査期間は2000年8月から9月であった。調査内容は,個人的背景変数と心理調査項目めうち,特性的自己効力感であるSE尺度,育児負担感の構成要素として育児に対する否定的感情の認知、支援ネットワーク尺度をとりあげ分析した。
結果 乳幼児をもつ母親については,経産婦において特性的自己効力感が有意に低い傾向が認められ,逆に育児に対する否定的感情の認知では,有意に高い傾向であった。一方,子どもの年齢別の推移では,子どもめ成長に伴い,支援ネットワークの認知,なかでも手段的支援ネットワ ークが有意に低くなリ,逆に育児に対する否定的感情が有意に高くなる傾向が観察された。各変数間の相関では,特性的自己効力感とソーシャルサポートの認知は,育児に対する否定的感情に対して負の相関を示し,逆に特性的自己効力感はソーシャルサポートの認知に討して正の相関を示した。さらに,ソーシャルサポートの機能別では,情報的支援ネットワークはすべての年齢群において他の2つの変数問で顕著な差が観察されたものめ,手段的ネットワークは, 子どもの年齢が上がるほど,特性的自己効力感との関連性が強くなり,逆に育児に対する否定的感情は最も低い関連性を示していた。
結論 乳幼児をもつ母親の特性的自己効力感が,育児に対する否定的感情の認知と支援ネットワークとしてのサポートの認知とに関連することが明らかとなった。とりわけ,サポート認知の程度が,母親の育児に対する効力期待や育児に対する否定的感情の認知に大きな影響を与えることが確認された。したがって,母親のサボート感充足のための支援を行うことは,育児によって生じるストレッサーをネガティブなもめと評価するレベルを減弱させ,問題の回避あるいは対処行動を促し,母親自身の心身の健康を増進させることによって,育児の継続・充実が期待 されるものと考えられる。
キーワード: 乳幼児をもつ既親,特性的自己効力感,ソーシャルサボート,育児に対する否定的感情,育児負担感
第49巻第6号 2002年6月 連続携行式自己腹膜灌流(CAPD)療養者家族の生活-療養者のADLと家族のQOL・生活力量-人見 裕江(ヒトミ ヒロエ) 畝 博(ウネ ヒロシ) 中村 陽子(ナカムラ ヨウコ)小河 孝則(オガワ タカノリ) 宮脇 敏代(ミヤワキ トシヨ) 大澤 源吾(オオサワ ゲンゴ) |
目的 本研究は,連続携行式自己腹膜灌流(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis,以下CAPD)療養者のADLの状態とCAPDI療養者家族のQOLの実態および家族が健康課題に対処する力量との関係を明らかにし、CAPD療養者のADL状態に応じた家族看護の課題を明確にすることを目的とした。
方法 全国の血液透折(Hemodialysis,HD)とCAPDの両方の治療を実施Lている1. 292施設(1998 年全国透折医学会施設会員名簿)に研究依頼をした。本研究への了解が得られ紹介された141施設のCAPD療養者及びその家族700組に質問紙を郵送した。回答は522組(74.6%)から返送された。そのうち,家族のQOLおよび生活力量(Assessment Scale of Family Power,以下ASFP)が明らかであった432人(63.1%)を本研究の分析対象とした。調査期間は1998年6月から10月である。分析は統計パッケージSPSS10.0を用いて行った。療養者442人(男性242人,女性200人,平均年齢は55.3土13.2歳)のADLを「自立群」,「家族内自立群」,「寝たきり群」 の3群に分けた。ADL3群間の療養者家族のQOLとASFP9領域の平均値を,一元配置分散分析を用いて比較した。
結果 CAPD継続年数は平均4.2土3.4年で,CAPD開始年齢は平均51.1±14.0歳であった。療養者のADLは,自立群258人(58.4%),家庭内自立群136人(30.8%),及び寝たきり群48人(10.9%)であった。療養者家族のQOLは,いずれめ項目においでも寝たきり群の平均値が最も低かった。QOLの平均値が最も高かったのは自立群の<医薬品と医療依存度>であった。QOLの平均値が最も低かったのは,寝たきり群の<余暇活動の参加と機会>であった。家族の生活力量の く関係調整・統合力>は自立群で最も強く,次いで寝たきリ群,家庭内自立群の順で強く,有意差(p<0.01)が認められた。<介護力または養育力>は寝たきリ群で最も強く,次いで家庭内 自立群,自立群の順で強く,有意差(p<0.05)が認められた。
結論 療養者家族の本調と心理的状態は,療養者のADLが低下するほど悪化し,直接的な身体介護のための支援を含めた家族指導が求められる。また,療養者家族の心的支援と共に,療養に伴う情報や技術に関する知織の情報提供を適切に行うことが重要である。さらに,療養者家族の社会参加の機会が得られる介護の交替が得られる支援が必要である。療養者のADL自立度が高ければ,家族関係を調整したリ,統合したりする力が高い。ADL低下に伴い,家族介護力を強め,社会資源を活用して,家族の健康課題に対処しようとしていることが示唆された。
キーワード Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis (CAPD) , Family Power, Caregivers' QOL
第49巻第6号 2002年6月 横浜市における地理情報システム(GIS)を用いた
水嶋 春朔(ミズシマ シュンサク) 大重 賢治(オオシゲ ケンジ) 鎌田 久美子(カマタ クミコ ) |
目的 横浜市における循環器疾患死亡率と関連要因として,老年人口割合,救急出動数,医療整備状況などの指標による解折は地理情報システム(GIS)の手法をモデル的に応用し,地域・小区域別の健康問題の把握のための保健統計情報利活用システムの整備,有効な予防対策研究方法の開発に寄与することを目的とする。
方法 平成5~9年人口動態保健所・市区町村別人口動態統針特殊報告,平成7年国勢調査結果,救急発生件数(平成10年横浜消防局警防部救急課資料)および医療整備状況(循環器科標榜医療機関の所在地情報,横浜市衛生局報告書)を利用し,地域ごとに急性心筋梗塞死亡率,標準化死亡比,老年入口割合,虚血性心疾患による救急発生件数、循環器科標榜医療機関などについて地理情報システム(GIS)ソフトを用いて地理的に検討した。
結果 急性心筋梗塞死亡率,標準化死亡比は,老年人口割合の高い中央部・旧市街地3 区で高い傾向にあったが,虚血性心疾患の教急発生率は,地理的な分布をみると,老年人口割合,心筋梗塞粗死亡率とは,やや異なった傾向であった。循環器科標榜医療機関数は,区ごとにみると最低の5から最高の26まで分布しておリ,循環器標榜機関の半径細500mの円を地図上に描き,メ ッシュ図と併用することで,圏内に居住する人口を算出Lたところ,全人口の44%相当がカバーされることがわかった。
結論 地理情報システム(GIS)の利用により,様々なデータベースに地理データ(空間データ)を 付加し複合的に解析することが可能となる。さらに,死亡小票情報を利活用した小区域解析や診断精度,緊急時救急搬送体制, 2次医療圏内の施設整備状況等の検討についても統合的に進め,客観的な地域診断を進めることが肝要であると考えられる。
キーワード 地理情報 システム(GIS),急性心筋梗塞,死亡率,救急発生率,医療整備,横浜市
第49巻第6号 2002年6月 肝がん死亡の地理的分布と年次推移渡辺 由美(ワタナベ ユミ) 三浦 宣彦(ミウラ ヨシヒコ) 藤田 利治(フジタ トシハル)簑輪 眞澄(ミノワ マスミ) |
目的 近年,増加している肝がん死亡の発生要因の解折や予防対策の確立に資することを目的に,日本の肝がんの特徴を肝がん死亡の地理的分布とその年次推移から検討した。
方法 1971~1995年の25年間の死亡票と1970~1993年の6年次の国勢調査人口を資料として,1971年から5年毎に5つの期間に区分し,各々の期間別に,肝がんの全国の性別・年齢階級別死亡率(5歳階級,5年平均)を基準死亡率とした性別・市区町村別SMRを算出した。次に,SMRの平均値,分散をもとにベイズ推定量を算出し,SMRのベイズ推定量を60未満,60~80, 80~120, 120~140, 14O以上の5段階に区分し,全国市町村別地図を作成した。
結果 SMRを算出した5期間の肝がん死亡率は,男では,11.7(人口10万人対)から33.0と約倍に増加し,女では,6,6から11.7の約2倍に増加していた。年齢階級別死亡率は,男では60~64歳 以上の年齢階級では増加を示していたが,40~44歳以下の年齢階級では,横ばいないし減少 傾向を示していた。女では80歳以上では増加傾向を示しでいたが,60~65歳から75~79歳の年齢階級では減少から増加の推移を,20~24議から55~59歳の年齢階級では減少傾向を示Lていた。SMRベイズ推定量を用いて5期間の全国市町村別分布図を作成し,その地域分布を検討結果,富士川流域,大阪湾沿岸,中国地方の瀬戸内沿岸,北九州に高死亡率市町村が集積し, 西高東低が顕著になってきたことが町らかとなった。
結論 肝がんめ死亡率は,1929~1933年に出生した世代に高率であり,この25年間で,HCV感染の多いと思われる地域に死亡率の高い地域の集積が明確化していることから,肝がん死亡とHCV持続感染との関連がされた。
キーワード 肝がん死亡,年次推移,地理的分布,SMR,ベイズ推定量. HCV
第49巻第7号 2002年7月 スウェーデンと日本における福祉施設入所者の
松田 政登(マツダ マサト) 畝 博(ウネ ヒロシ) 輪田 順一(ワダ ジュンイチ) |
目的 スウヱーデンと日本における福祉施設入所者の疾病構造と日常生活動作 Activity of Daily Living (ADL),について比較検討することを目的とした。
方法 スウェーデンの福祉施設に入所している高齢者57人と日本の介護老人福祉施設の入所者50人を対象として,入所する原因となった疾病と歩行,食事,更衣,排泄および入浴の基本的5項目のADL,ニついて調査した。
結果 ADLでは歩行,食事,更衣および排泄の4項目において,スウェーデンの福祉施設入所者の方が日本よリ有意に自立度が高く,特に歩行と食事で大きな差が認められた。入浴では両国ともに全員何らかの介護が必要であった。福祉施設へ入所する原因となった疾患は,脳血管疾患がスウェーデンでは22.8%に過ぎなかったが,日本では52%を占めた。日本の福祉施設入所者の自立度が低い理由として,脳血管疾患の後遺症のためにより重度の身体的障害を有する者の多いことが考えられた。
結論 スウェーデンと日本における福祉施設入所者の比較研究により,日本ではスウェーデンと比較して,脆弱な介護体制の上に,より重度の身体障害を持った高齢者を介護しているという厳しい状況が明らかになった。
キーワード 高齢者福祉,日常生活動作ADL,国際比較,スウェーデン,サービスハウス,介護老人福祉施設
第49巻第7号 2002年7月 大病院志向患者の意識構造分析についての一考察斎藤 実(サイトウ ミノル) |
目的 数年来患者の大病院志向が問題となっており,病院管理学や医療政策学などを用いた分析が試みられている。本稿では分析の視点を変え,サービスマーケティング論から観た患者の大病院志向について考察している。まず大病院の持つサービスデザインの構成要素について分析し,その後,真の大病院志向患者の意識構造を明らかにするべく,既存のサービスマーケティング理論をレビューした後に仮説の設定とその実験的検証を通じて研究目的の達成へのアプローチを試みたものである。
方法 複数の病院の外来患者から無作為のアンケー卜調査によってデータを収集し実験的調査・分析を試みた。調査対象として は,病床数約500の市立病院,病床数約900の大学病院の外来患者へ1998年10月から12月にかけて出口調査を随時行い無作為にアンケートを実施した(筆者が当時担当していた大学病院などを1998年に札幌市内で筆者が集作為に実施)。回収は現地での回収と郵送による回収の2通りで行い,また同様のアンケートを地域の専門病院にて実施した(耳鼻科病院,胃腸科病院において実施した)。大病院と専門病院とで回収数が異なるが,それぞれの患者群において質問への回答者数の割合を示した。更にアンケートには被調査者の率直な考えを反映させるため,自由回答の項目を設けた。
結果 大病院においてはアンケート提出件数144通のうち,有効件数76通,回収率53%であった。小規模な専門病院においてはアンケート提出件数74通のうち,有効件数,56通,回収率76%であった。アンケートは大病院も小規模病院も同じ質問項目で実施 し,相違が明確になるようにした。アンケートの内容は被調査者の負担軽減の観点から安易な質問5項目とした。
結論 患者の大病院志向はサービスデザインにおけるコアサービスのみならずコンティンジェンシーサービスに対して他の病院以上の期待が存在することが影響していることが明らかとなった。また,本調査では大病院が「リスク軽減志向患者の治療の入り口」に位置し大病院は急性疾患者に対応し専門病院は慢性疾患患者に対応している可能性があり,さらに緊急対応サービスを期待される大病院という図式は,逆に大病院と患者との関係性の弱さも明らかとなり医療サービスにおいてもサーピスマーケティング理論による分析が可能であることが明らかとなった。
キーワード 大病院志向患者,サービス構成要素,コアサービス,サブサービス,コンティンジェンシーサービス
第49巻第7号 2002年7月 地域性民において生活時間が総体的健康度に及ぼす影響-共分散構造分析を用いて-桝本 妙子(マスモト タエコ) 八木 克己(ヤギ カツミ) 小笹 晃太郎(オザサ コウタロウ)福本 惠(フクモト メグミ) 堀井 節子(ホリイ セツコ) 中西 淳子(ナカニシ ジュンコ) 市野 浩子(イチノ ヒロコ) 渡邊 能行(ワタナベ ヨシユキ) |
目的 身体面,精神面,社会面の3つの側面を総体的に把握した「健康度」に対して,生活時間の配分がどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。
方法 京都市2行政区の選挙人名簿から無作為抽出した20歳以上の男女1,000人と,京都市に隣接する農村地域K町の住民基本台帳から年齢階級層別に層化無作為抽出した男女400人,あわせて1,400人のうち,了解の得られた都市部202人(回収率20.2%),農村部192人(同48.0%),合計394人に留め置き自記式質問紙を郵送し,無記名で郵送により回収した。うち,調査内容すべてに回答のあった232人を分析対象とした。調査内容は,性,年齢,職業等の基本的属性のほか,健康度指標として身体的健康度(ブレスローの7つの健康段階),精神的健康度(日本版General Health Questionnaire 28項目版),社会的健康度(安梅勅江の社会関連性尺度18項目)および生活時間(外出,睡眠,身の周りの用事,食事,仕事,学業,日常家事,その他家事,社会参加,趣味,テレビ,ラジオ,新開雑誌,休息,療養,その他の16項目)である。分析方法に,因子分析で生活時間を集約した後,共分散構造分析を用いた。
結果 因子分析により抽出された3つの潜在変数(役割としての家事,役割としての仕事,自分のこと)と2つの観測変数(テレビ視聴時間,睡眠時間)を説明変教とした,「健康度」へのパスモデルを設定した。このパスモヂルに共分散構造分析を適用して若年群と高年群を比較したところ,テレビから「健康度」への因果係数は若年群で0.28,高年群では-0.20,睡眠から「健康度」への因果係数は若年群で0.14,髙年群で-0.34と,いずれも有意差がみられた。つまり若年群はテレビ視聴時閥が多いほど健康度が良好になり,この傾向は高年群より有意に強かった。高年群では睡眠時間が多いほど健康度が低くなり,この傾向は若年群より有意に強かった。
結論 若年群と高年群とでは,同じパスモデルであっても生活時間が総体的健康度に及ぼす影響が異をっていた。若年群にとってのテレビ視聴は,他者との共通話題を持つために必要であったり,気分転換などの娯楽性が高いと考えられた。高年群においては,睡眠時間が健康度に影響するというより,健康度の低い人は睡眠時間が多くならざるを得ないという因果関係の方が説明しやすいと考えられた。
キーワード 地域住民,生活時間,総体的健康度,共分散構造分析
第49巻第8号 2002年8月 平均移動距離を用いた広島県地域医療の利便性評価藤本 眞一(フジモト シンイチ) 中川 真紀(ナカガワ マキ) 宇多 真一(ウダ シンイチ)烏帽子田 彰(エボシダ アキラ) |
目的 受療状況調査から患者の移動を客観的に示す「平均移動距離」指標を用いて,受療状況調査から得られた客観的なデータから,広島県の地域医療の利便性を,科学的に検証した。
方法 平成7年10月現在,広島県内に居住する患者232,332人を対象として,入院・外来別,全医療機関・病院・診療所別など,様々に分類した患者集団について,それぞれ平均移動距離を求め,広島県の地域医療について検討した。
結果・考察 (1)患者住所地の平均移動距離は,ほとんどの市町村区においても外来より入院が,診療所より病院が長くなっていた。(2)厚生労働省が推進していると考えられる医療機関の役割分担のうち,「入院は病院」の傾向が観察できた。(3)若年者を除き,女性よりも男性の方が,平均移動距離が長い傾向があった。(4)先天以上や周産期に発生する病態など,医療の特殊性の高いものは,平均移動距離が長くなる傾向があり,地域偏在をきたさないような病床整備のあり方を検討する必要がある。(5)過疎地域の患者の平均移動距離は,非過疎地域の倍以上の長さであった。
結論 (1)広島県は,3種類の医療圏域を設定しているが,10圏域に細分化されたサブ保健医療圈の現実に見られるように,過疎地の医療設備整備を促進することが困難であるなら,その圏域設定は適当でないと考える。(2)「平均移動距離」を用いた指標のひとつである。患者住所地と医療機関所在地の圏域外依存比は,医機圈設定的の科学的評価に特に有効な指標と考えられる。(3)広島県はもともと地域差の大きな県であるが,過融地域の医療提供体制は未だ不十分であると思われるので,改著していく必要牲が示唆された。(4)性別や年齢による受療行動や傷病の種類による受療行動は,全国的に同じような傾向であった。(5)「平均移動距離」は,地域医療を科学的に評価するための1つの有効な手段である。
キーワード 広島県,地域医機計画,二次医療圈,平均移動距離,患者調査,過疎
第49巻第8号 2002年8月 鍼灸院通院患者の健康状態について-EuroQol EQ-5Dを用いて-石崎 直人(イシザキ ナオト) 高野 道代(タカノ ミチヨ) 福田 文彦(フクダ フミヒコ)矢野 忠(ヤノ タダシ) 川喜田 健司(カワキダ ケンジ) 丹澤 章八(タンザワ ショウハチ) |
目的 鍼灸治療の社会的貢献度を知るための基礎情報として,全国の鍼灸院に通院する患者の健康レべルを調査することを目的とした。
方法 明治鍼灸大学同窓会の会員が開業する323の鍼灸院のうち,地区別にランダム抽出した101施設に通院する患者を対象とした。健康状態についてはヨーロッパで健康調査票として広く用いられているEuroQolの日本語版を用いた。
結果 配布した2,210通の質問票のうち,1,319通が返信され,そのうち今回の解析に必要なデータを満たした1,209人(男性383人,女性826人)についてデータ解析した。解析対象の年齢の平均値(標準偏差)は53.3(17.2)歳(男性50.6(17.5)歳,女性54.5(17.0)歳)であった。EuroQolの5項目健康状態であるEQ-5Dから算出した効用値の平均値(標準偏差)は 0.78(0.16)であった。また5つの各項目(移動の程度,身の回りの管理,普段の活動,痛み/不快感,不安/ふさぎ込み)においてなんらかの問題を有する患者は年齢が高くなるに伴い増加する傾にあった。特に痛み/不快惑を訴える患者は全体で66.0%で京都府の健康診断受診者と比較して明らかに高い割合を示した。何らかの問題を有する患者の割合は,移動の程度,不安/ふさぎ込み,普段の活動においても健診受診者と比較して高い割合を示した。男女の比較では痛み/不快感,不安/ふさぎ込みの項目において女性の方が男性に比べて高い割合で訴えることがわかった。一方,VASによる患者の健康状態の平均値(標準偏差)は68.5(16.6)で効用値の値と有意に正の相関をもっていた(r=O.43 ; Spearmanの順位相関係数)。
考察 今回の調査で,鍼灸通院患者は痛み/不快感を抱える患者が特に多く,これらの症状に対する治療を求めて来院する者が多いと考えられた。
キーワード 鍼灸,健康関連QOL,EuroQoL,EQ-5D
第49巻第8号 2002年8月 高齢者における日常生活自立度低下
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自的 本報告では,日常生活自立度低下をもたらすリスクファクターのうち「抑うつ」に注目した。抑うつに関連する要因としては,疾病への罹患,LADL低下,低い健康度自己評価,ソーシャルネットワークの欠如,趣味,楽しみの欠如,住環境,経済状態などが考えられるが,高齢者の抑うつを目的変数とし,関連が想定される要因を説明変数として分析を行うことによって,これらの仮説を検証した。
方法 兵庫県の3市町において65歳以上の住民2,719人を対象に調査を実施し,2,594入の調査票を回収した。そのうち,抑うつに関連する項目等に欠損値のある人を除外した2,000人を分析対象とした。まず,抑うつ傾向との関連を想定した項目と抑うつ傾向の有無の間でクロス集計を行い,次に,抑うつ傾向の有無を目的変数とし,クロス集計関連が有意であった項目を説明変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 ロジスティック回帰分析によリ75歳未満と75歳以上の両方において,抑うつ傾向と有意に関連する項目は,低い健康度自己評価,家族と会話する機会が少ないこと,家計に余裕がないことであり,75歳未満ではさらに,6か月間の体重変動, IADL低下,友達等との会話機会が少ないことが有意に関連し,75歳以上では,食生活が良好でない,歩行時の足腰の痛み,外出頻度が少ないことが有志の関連を示した。
結論 高齢者の抑うつと日常生活自立度低下は,相互に影響しあって悪循環を形成すると考えられる。高齢者の抑うつを予防あるいは改善していくためには,ソーシャルネットワーク,家計状態などの社会的次元の要因にも注意を向けることが必要である。
キーワード 日常生活関連動作(IADL),介護予防,生活機能と障害の国際分類(ICF),抑うつ
第49巻第8号 2002年8月 高齢者における日常生活自立度抵下
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目的 後期高齢者人口の今後の急速な増大を考慮すると,介護予防は重要な課題である。本研究では,高齢者の日常生活自立度の低下と関連する要因を明らかにするため,日常生活関連動作(IADL)の低下を指標とし,65歳以上,75歳未満(前期高齢者),75歳以上(後期高齢者)のそれぞれのIADL低下の関連要因を明らかにすることを目的とした。その際,WHOの「生活機能と障害の国際分類(ICF)」の枠組みを参考にした。
方法 兵庫県の3市町において2001年2月に調査を実施した。対象は65歳以上の住民2,719人で,自記式調査票を2,594人から回収した。そのうち入院・入所の人,IADL関連項目に欠損値のある人等を除外した2,399人について分析した。まず,IADL低下との関連を想定した項目とのクロス集計を行い,次にIADL低下の有無を目的変数とし,クロス集計において関連が有意であった項目を説明変教として多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 多重ロジスティック回帰分析で,75歳未満と75歳以上の両方に共通して,脳卒中あり,歩行時の足腰の痛み,外出頻度が少をいこと,転倒に対する不安がIADL低下に対して有意のオッズ比を示した。75歳未満では,ぞれに加えて,男,食生活が良好でない,最近6か月間の体重変動,抑うつ傾向,50歳代の健診未受診,配偶者ありが有意であった。75歳以上では,視力低下,聴力低下,楽しいと感じる趣味活動なしがIADL低下に対する有意なオッズ比を示した。
結論 前期高齢者のIADL低下の予防には,良好な食生活や健診受診など中年期からの健康管理の重要性が示唆された。後期高齢者のIADL低下を予防するには,週2・3回以上は外出する,趣味活動を継続するといった,ICFにおける「活動・参加」の領域の条件確保が重要であることが示唆された。
キーワード 日常生活関連動作(IADL),介護予防,生活機能と障害の国際分類(ICF),抑うつ