論文記事
第53巻第11号 2006年10月 藤沢市における個別健康支援プログラムの有効性の検討鈴木 清美(スズキ キヨミ) 小堀 悦孝(コボリ ヨシタカ) 相馬 純子(ソウマ ジュンコ)小野田 愛(オノダ アイ) 齋藤 義信(サイトウ ヨシノブ) 尾形 珠恵(オガタ タマエ) 李 廷秀(リ チョンスウ) 森 克美(モリ カツミ) 川久保 清(カワクボ キヨシ) |
目的 藤沢市が厚生労働省から委託を受けて実施した「国保ヘルスアップモデル事業」(平成14~16年度)は,対象とする生活習慣病とその予備群を選定の上,健康度という概念と指標を設定し,個別健康支援プログラムの開発・実施と事業効果の分析・評価を行うものである。本研究は,開発した藤沢市個別健康支援プログラムの有効性を検討することを目的とした。
方法 プログ ラムの有効性を検討するため,年1回の健康診断と健康相談を受けるコース1,コース1の内容に加えて半年後の効果測定と食生活相談を受けるコース2,コー ス2の内容に加えて週1回の運動トレーニングを行い,総合的に健康づくりを行うコース3の3種類のコースを設定した。各コースについて,健診結果と生活習 慣調査結果のデータにより,正味2年間の介入前後の比較,事業に参加した介入群(979人)と対照群(4,570人)の変化量の比較を行った。
結果 介入群における介入前後の比較で数値データの変化をみると,コース2,3とも,体重,BMI,血清HDLコレステロール値が改善した。またコース2では中性脂肪値が改善し,コース3では血圧値が改善した。対照群との比較では,コース2,3とも,体重,BMI,収縮期血圧,血清総コレステロール値の変化が有意であった。またコース2では中性脂肪値に,コース3では収縮期血圧,拡張期血圧,血清LDLコレステロール値に有意差があった。生活習慣についてはコース1,2,3とも介入前後の比較で改善を示し,コース2,3は対照群との比較でも有意差があった。
結論 藤沢市 個別健康支援プログラムは,生活習慣の改善,身体状況の改善の両者において有効であることが実証された。特にコース2参加者は中性脂肪値の改善が有意であ り,コース3参加者は血圧値の改善が有意であることが明らかになったことから,今後,この結果を踏まえた食生活および運動習慣を配慮した総合的健康づくり システムを構築していく方向性が示された。
キーワード 国保へルスアップモデル事業,個別健康支援プログラム,生活習慣病
第53巻第11号 2006年10月 地域福祉活動の住民満足度分析に関する研究-地域福祉活動計画への活用-増子 正(マスコ タダシ) |
目的 地域福 祉は,住民の生活の満足度を向上させるという目標を有している。本研究では,市町村社会福祉協議会が実施している地域福祉事業への住民満足度に影響を与え ている要因を分析して,地域福祉計画,地域福祉活動計画策定に反映させることで,住民ニーズに立脚した計画の策定とアカウンタビリティ(説明責任)確保の 遂行に寄与することを目的としている。
方法 著者が日本学術振興会の科学研究費補助を受けて開発した「ベンチマーク方式による社会福祉協議会の事業評価」の手法を活用して,秋田県A町在住の18歳以上の男女1,197名を対象に,同町社会福祉協議会が実施している地域福祉事業に対する住民意識調査の結果からデータベースを構築し,地域福祉活動や事業に対する住民の満足度に影響を及ぼしている要因を分析した。
結果 事業に対する満足度と,周知度,居住地,居住年数,年齢との関係を分析した結果,活動や事業に対する住民の周知度の違いが,それぞれの事業への期待度と満足度に大きく影響を及ぼしていて,事業に対する周知度が低い集団で満足度のスコアが極端に低いことがわかった。
結論 地域福祉計画,地域福祉活動計画の策定段階で,住民満足度を的確に分析し,ニーズ把握に活用することは,計画のアカウンタビリティ確保に有用であり,事業に対する住民の周知度を高めることが住民の生活の満足度の向上に寄与することが検証された。
計画策定の目標のなかに,地域福祉活動や事業に対する住民の認識度を向上させるための情報提供システムを再構築することの重要性が示唆された。
キーワード 地域福祉活動,住民満足度,地域福祉計画,地域福祉活動計画,事業評価
第53巻第11号 2006年10月 がん終末期患者の在宅医療・療養移行の課題-病状説明,告知の現状-沼田 久美子(ヌマタ クミコ) 清水 悟(シミズ サトル) 東間 紘(トウマ ヒロシ) |
目的 終末期がん患者が在宅での医療・療養継続を希望した場合に,急性期病院(以下「急性期」)医師と地域での医療を担う(以下「地域」)医師の連携に重要となる課題およびそれぞれの役割を明らかにする。
方法 第7回日本在宅医学会大会に参加した医師を対象に調査用紙を配布・回収した。医師は,急性期医師と地域医師の2群とし,それぞれ自記式での回答を求めた。
結果 調査対象医師数は185人で,回答者数123人(急性期医師35人,地域医師88人),回収率66.5%であった。急性期医師は年齢45.7±9.2歳,医師経験18.7±9.0年,在宅移行経験88.6%,訪問診療経験77.1%,地域医師は年齢47.2±8.9歳,医師経験20.9±9.2年,訪問診療経験93.2%,在宅看取り経験93.2%であった。急性期医師の告知に関する回答は「病名はするが余命告知はしない」25.7%,「病名・余命の告知をする」28.6%,「家族の希望に沿う」が42.9%であり,特に,訪問診療経験のない急性期医師は経験のある医師と比較して,余命告知をする割合が低かった(p<0.05)。また,「余命の告知をしないことで患者への対応に困難を感じた」との回答は急性期医師71.4%,地域医師77.3%とそれぞれ高率であった。病状理解について,「退院時に患者・家族は病状理解ができている」と回答した急性期医師は85.7%,地域医師では58.0%と認識に差がみられたが,患者・家族の病状理解が不十分な時には急性期医師の80.0%,地域医師では83.0%が対応困難と感じていた。また,「急性期医師よりの病状申し送り内容と患者の病状理解が一致していない」と地域医師の51.2%が回答し,その医師は全員,対応困難を感じていた。地域医師の回答で,退院時に「患者・家族が不安に思っていること」は「夜間の医療対応」71.6%,「緊急時の病院対応」68.2%,「介護への不安」46.6%,「病状」が27.3%であった。
結論 急性期医師の1/4 は「余命告知をしない」と回答し,特に,訪問診療経験のない急性期医師は告知をしない割合が高いことから在宅療養における告知の重要性の認識が薄いと考え られた。多くの地域医師は,患者が余命告知をされていないことや病状理解が不十分なために対応困難を抱えており,患者・家族も退院に当たって病状について 大きな不安を抱いている。急性期医師は在宅での医療・療養の特性を理解した上で,対応困難が生じると思われる事項を患者の入院中に改善し,患者・家族の置 かれている状況や療養上必要な情報を地域医師へ的確に引き継ぐことが重要である。その上で,患者・家族の不安を地域医師と共有し,それぞれの役割を生かし た連携を行うことが望まれる。
キーワード 在宅医療,がん終末期患者,アンケート調査,在宅移行連携,医師の認識
第53巻第13号 2006年11月 昭和ヒトケタ男性の寿命-世代生命表による生存分析-岡本 悦司(オカモト エツジ) 久保 喜子(クボ ヨシコ) |
目的 1980年代に社会的関心を集めた「昭和ヒトケタ短命説」について,その寿命への影響を世代生命表を用いて30歳以降の生存率により定量的に検証した。
方法 1920~1949年出生の男性コホートについて,戦争などの影響を受けていない30~55歳の年齢別死亡率から生存率を算出し推移を観察した。さらに,戦争などの影響を受けなかったと仮定した場合の生存率の改善を傾向線で表現し,昭和ヒトケタを中心とした世代の観察された生存率と傾向線との差から,戦争などによるコホート効果を65歳までの生存率で定量的に推計した。
結果 1926~1938年に出生した男性において,30歳以降の生存率の停滞が明瞭に観察され,その相対的低下は1932年生まれにおいて最も顕著であった。この年に出生した男性の30歳のうち65歳まで生存した者の割合は,戦争などの影響がなかったとしたら辿ったであろう生存率と比較して1.87%低かった。この世代の30歳時人口が約82万人であったことから,65歳まで到達できた者が約1.5万人,あるべき数より少なかったことを意味する。1926~1938年間全体では30歳男性1037万人に対して65歳到達者は,あるべき数より11.7万人少なかった(1.1%)。また,30歳以降の生存率は,世代を追うごとに改善されてきたが,1929年出生者については,わずかながら前世代を下回る現象が確認され,さらに終戦時に乳幼児だった1942~1944年出生世代でも,30歳以降の生存率にわずかながら停滞現象が観察された。
結論 発育期を戦争中に過ごしたという「負い目」は30歳から65歳までの生存率を1%以上低下させる影響をもたらした。戦後生まれ世代との格差は彼らが老齢に入るにつれてますます拡大している。彼らがまだ中年だった頃に初めて発見された現象は一時的なものではなく,人生最後までつきまとう「この時期に生まれたるの不幸」であった。
キーワード 世代生命表,コホート効果,生存率,中高年死亡
第53巻第13号 2006年11月 訪問介護サービスを利用している独居高齢者の主観的健康感に
中尾 寛子(ナカオ ヒロコ) 平松 正臣(ヒラマツ マサオミ) |
目的 独居で介護保険の訪問介護サービスを利用している要援護高齢者の主観的健康感に影響する社会関係要因を明らかにし,さらに独居年数によってどのように異なるのかを検証する。
方法 対象は,中国地方のA県B市内4カ所のホームヘルプステーション(訪問介護事業所)で介護保険の訪問介護サービスを利用している独居高齢者51人である。対象者の自宅を調査員が訪問介護員に同行訪問して,調査票を用いた個別の面接聞き取り調査を行い,年齢,婚姻歴,子どもの有無,要介護度,独居年数などの属性と主観的健康感,QOL(生活満足度尺度K)および社会関係についての情報を得た。独居年数が明らかでなかった2人を除く対象者を独居年数が10年未満(短期)群(n=20)と10年以上(長期)群(n=29) の2群に分けて,グループごとに主観的健康感に関連する要因を社会関係の中から探り,その結果を2群間で比較した。単変量解析とカテゴリカル回帰分析を実 施し,カテゴリカル回帰分析の従属変数は主観的健康感(よい[1]~よくない[4]),説明変数は年齢,性,要介護度,社会関係指標とした。
結果 カテゴリカル回帰分析から,両群ともに有意な関連が認められた。独居年数10年未満群では「男性」「デイサービス・デイケアを利用」「近所づきあいに満足」「閉じこもり傾向なし」が,独居年数10年以上群では,「女性」「近所づきあいに満足」が主観的健康感を有意に高める傾向にあることを示した。また,両群ともに「年齢」「要介護度」と主観的健康感との間に有意な関連はなかった。主観的健康感に最も有意な関連性をもつのは「近所づきあいの満足度」であった。
結論 独居期間が短い要援護高齢者の心身の健康にとっては,「デイサービス・ デイケアの利用」や「閉じこもり予防事業への参加」がより高い効果を発揮する可能性が示された。また,独居年数にかかわらず,独居要援護状態の高齢者の主 観的健康感には,離れて住む子どもや友人よりもむしろ「近隣住民との関係性」のほうが強い影響を及ぼすことが明らかになった。これらのことから,デイサー ビス・デイケアや閉じこもり予防事業などの地域福祉サービスを独居開始の早い時点つまり「適切な時期」に利用につなげる援助と,本人自身が近隣住民と満足 できる関係性を築くことへの援助の両方が,要援護高齢者にとって高い健康感をもちながらひとり暮らしを続けるためには特に重要であると考えられた。
キーワード 独居要援護高齢者,主観的健康感,社会関係,独居年数,近所づきあいの満足度
第53巻第13号 2006年11月 島嶼地域住民の主観的健康感の関連要因に関する研究志水 幸(シミズ コウ) 小関 久恵(コセキ ヒサエ) 嘉村 藍(カムラ アイ) |
目的 サクセスフル・エイジングに資するべく,日常生活行動の典型例の抽出が可能な島嶼(しょ)地域住民を対象に,ライフスタイルを構成する多元的要素を包括する視点から主観的健康感に関連する要因を明らかにする。
方法 山形県酒田市飛島に居住する満40歳以上の住民208人を対象に,訪問面接調査法(一部,配票留置法)による悉皆調査を実施した。調査項目は,基本属性,社会関連性指標,老研式活動能力指標,ソーシャルサポート,生活満足度,健康生活習慣に関する85項目を設定した。解析方法として,単変量解析では,質的変数の検定にχ2検定を,量的変数の検定にはt検定を適用した。さらに,多変量解析では,主観的健康感を目的変数とし,単変量解析で有意差が認められた項目を説明変数とするロジスティックモデルを構築し,強制投入法により変数の独立性について検討した。
結果 調査対象者のうち,192人(回収率92.3%)から回答を得た。壮年期ではISI(社会関連性指標)の「便利な道具の利用」の「実施群」が,高齢期ではISIの「訪問機会」「積極性」の「実施群」,LSI-Kの「去年と同じように元気である」の「肯定的回答群」が,壮年期・高齢期の両群ではLSI-Kの「物事を深刻に考える」の「肯定的回答群」において,主観的健康感が高いことが明らかになった。
結論 主観的健康感は加齢に伴い,身体的要因よりも精神的・社会的要因の影響を強く受けることが示唆された。
キーワード 主観的健康感,サクセスフル・エイジング,ライフスタイル,島嶼地域
第53巻第13号 2006年11月 家族介護者の介護負担感と関連する因子の研究(第2報)-マッチドペア法による介入可能な因子の探索-平松 誠(ヒラマツ マコト) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 梅原 健一(ウメハラ ケンイチ)久世 淳子(クゼ ジュンコ) 樋口 京子(ヒグチ キョウコ) |
目的 介護負担感を軽減する支援策を探るために,交絡因子の条件を同一にするマッチドペア法を用いて,介護負担感と関連する介入可能な因子を検討した。
方法 対象は,A県下の7保険者の地域代表サンプルの介護者(7,278人)である。回収数(率)3,610(49.6%)のうち,主介護者によって回答された3,149人を分析対象とした。今回,検討を行った介入可能な因子は,ソーシャルサポート,副介護者の有無,十分な介護情報の有無,趣味や気晴らし,介護者のGDS(Geriatric Depressive Scale-short form)-15項目短縮版,ストレス対処能力(SOC; Sense of Coherence)である。また,第1報での検討をふまえ,8つの交絡因子をマッチさせたマッチドペア法を用いて,介護負担感が高い群(20以上)と,低い群(19以下)の2群間で差がみられる因子を検討した。マッチさせた条件は,介護者の年齢,性別,続柄,障害老人の日常生活自立度,認知症老人の日常生活自立度,要介護度,1日の平均介護時間,目の離せない時間の8因子である。
結果 介護負担感が低い群には,情緒的サポートがあり,手段的サポートがあり,介護情報があり,趣味や気晴らし活動をしており,ストレス対処能力(SOC)が高く,GDSが低いものが,有意に多かった。介護負担感との関連性の大きさ(γ係数)をみると,ストレス対処能力(-0.61),GDS(0.57)や情緒的サポート(-0.45)などの介護者の認知や主観を反映する因子で高く,一方,十分な介護の情報(0.26),副介護者の有無(0.08),趣味や気晴らし(0.33)などの因子で低い傾向が示された。
結論 従来検討されてきたソーシャルサポートなどの客観的な側面の因子と介護負担感の関係よりも,むしろストレス対処能力やGDSなどの介護者の主観的な側面を反映する因子で関連性が大きかった。このことは介護負担感の軽減にむけての支援策として客観的状況を変える支援だけではなく,認知や主観への介入も今後は検討すべきことを示唆していると思われる。
キーワード 要介護高齢者,介護負担感,心理,介護者支援,ストレス対処能力,うつ
第53巻第13号 2006年11月 幼稚園児の母親を対象とした育児不安の研究本村 汎(モトムラ ヒロシ) 上原 あゆみ(ウエハラ アユミ) |
目的 本研究では,「インフォーマルな支援」としての「夫からの協力」「夫とのコミュニケーション」「友人からの支援」,母親の「性役割分業意識」が,母親の育児不安にどのような影響を与えているかを明らかにし,その影響のメカニズムを検討することを目的とした。
方法 調査対象はA県H市の私立幼稚園に通園している幼児の母親から無作為に抽出された300名(有効回収率74.3%)であり,調査方法は自計式質問紙法で,調査時期は平成15年10月末~11月末とした。測定尺度としては9項目から構成された「育児不安」尺度と,支援測定尺度の副尺度である夫からの協力尺度(5項目),夫とのコミュニケーション尺度(5項目),友人からの支援尺度(3項目)を用い,そのいずれも4件法で測定した。尺度の信頼係数(cronbachのα係数)は国際基準0.70以上に達している。母親のパーソナリティの測定尺度としては,標準化されているPOMS(Psychiatric Outpatient Mood Scale)を用いた。
結果 1)一元配置分散分析によれば,インフォーマルな支援が増大すると,そ れに対応する形で母親の「育児不安」は減少していた。2)一元配置分散分析のレベルでは,母親の「性役割分業意識」は育児不安になんらの影響も与えていな かったが,夫婦関係のありかた如何によっては,影響があることを示していた。3)母親のパーソナリティとの関連では,いずれの「心理因子」も母親の育児不 安に影響を与え,「活力因子」以外の因子は,いずれも母親の育児不安に「負」の効果をもたらしていた。4)重回帰分析は,「友人からの支援」と母親のパー ソナリティの「活力因子」が「育児不安」の減少に貢献していた。
結論 支援効果をあげていくためには支援の量を増大するだけでなく,母親のパーソナリティ特性に注目し,母親のネガティブな心理因子の「負」の効果を減少させるために,「活力因子」の強化に焦点をあてた支援の必要性が示された。
キーワード 育児不安,パーソナリティ構造,インフォーマルな支援,一元配置分散分析,重回帰分析
第53巻第15号 2006年12月 一般世帯および食物アレルギー患者世帯における食品表示などの利用状況-妊産婦教室および乳幼児教室の参加者を対象として-野村 真利香(ノムラ マリカ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ) |
目的 厚生労働省によって新たに提示された介護予防施策では,「一般高齢者」「特定高齢者」「要支援高齢者」「要介護高齢者」の4つの階層を用意し,対象と給付の関係を明確化した。しかし対象者の選定には『基本チェックリスト』と『要介護認定方式』が並行的に運用され,そこから抽出される「特定高齢者」と「要支援高齢者」の境界や階層性の関係は,いまだに明らかにされていない。本研究では,「要支援高齢者」の候補者である旧要支援,旧要介護1の認定者に対して,『基本チェックリスト』により試行的に判定し,「特定高齢者」と「要支援高齢者」との間の階層的な関係について検証を行った。
方法 対象は,東京都A市において旧要支援,旧要介護1の認定を受けた者のうち,介護保険以外の生活支援型サービスを利用している在宅高齢者767名である。調査は,2006年2月に自記式の郵送調査によって実施し,回収率は92.3%であった。調査内容は,厚生労働省の『基本チェックリスト』およびIADL(手段的日常生活動作)5項目の遂行能力を問う項目を用いた。本研究では,すべての調査項目に回答した456名(旧要支援:107名,旧要介護1:349名)を分析対象とした。
結果 旧要支援,旧要介護1の認定者に『基本チェックリスト』による判定を試行した結果,特定高齢者に選定されたのは,旧要支援では33.6%,旧要介護1では57.8%となり,「要支援高齢者」であるにもかかわらず「特定高齢者」には選定されないケース,つまり施策の想定とは逆の階層関係となるケースが,約半数に出現することが明らかとなった。次にIADL5項目による自立者の割合を確認した結果,旧要支援,旧要介護1認定者の54.8%がすべてのIADL項目が自立していた。これに対して,IADLが非自立であった者の4分の1に当たる25.7%が特定高齢者に選定されなかった。
結論 2つの異なる基準から抽出された特定高齢者と要支援高齢者の間には,階層関係が逆転しているケースが約半数にみられ,両者を階層的に位置づけるのは困難であることが明らかとなった。その要因の1つは,新たに開発された基本チェックリストが,要介護認定との階層的な関係を十分に考慮せずに作成されたことにある。もう1つは,要介護認定方式が,IADLの能力を適切にスクリーニングできず,自立(非該当)との境界が曖昧になっている点が示唆された。今後,介護予防施策を一貫したシステムとして構築するためには,介護予防施策の対象者の統合も含めて,基本チェックリストと要介護認定方式の抜本的な見直しが不可欠である。
キーワード 介護予防,要介護認定方式,基本チェックリスト,給付区分,特定高齢者
第53巻第15号 2006年12月 介護保険施設におけるケアマネジメント実践の検証真辺 一範(マナベ カズノリ) |
目的 介護保険施設におけるケアマネジメントの実践内容を概念的モデルとの比較から検証し,施設ケアマネジメントのあり方を模索した。
方法 先行研究に基づきケアマネジメント実践の程度を測るための項目を用い,兵庫県内の介護保険施設491カ所に所属する施設ケアマネジャーを対象として,郵送によるアンケート調査を実施した。質問紙の作成に際しては,回答者が理解しやすいように各質問項目を介護保険施設の現状に合うよう適切な表現に変更し,その実践度合いを5段階のリッカートスケールでたずねた。有効回答数(率)は,330名(67.2%)であった。調査結果の分析は,施設ケアマネジメントの実践プロセスの枠組みを明らかにするためにそれぞれ因子分析(主因子法・バリマックス回転)を行った。さらに実際の援助プロセスごとに回答者の属性による違いを明らかにするため,その因子分析で抽出されたそれぞれの因子を従属変数とし,属性を独立変数としたt検定,一元配置分散分析(F検定)および下位検定の多重比較(Tukey法)を行った。また,因子分析の結果と概念的モデルを比較し,ケアマネジメント実践プロセスに関する分析を行った。
結果 因子分析により抽出された因子は「アセスメント」「モニタリング」「ケース発見」であった。「アセスメント」に関しては,性別,年齢,基礎資格,基礎資格経験年数(基礎年数),ケアマネ人数,所属施設,勤務形態(専任兼任),事例検討形式の研修受講有無(事例研修)によって有意差がみられた。特に所属施設においては「老人保健施設(以下,老健)」が「特別養護老人ホーム(以下,特養)」より有意に高かった。また,「モニタリング」に関しては,担当ケース数,担当者会議の有無,着任経緯によって有意差がみられ,特に担当ケース数では「40~59件」が「0~39件」より有意に高かった。「ケース発見」に関しては性別,演習形式の研修受講有無,事例検討形式の研修受講有無によって有意な差がみられた。なお,相談相手の有無や講義形式の研修受講有無ではすべてのプロセスにおいて有意な差はみられなかった。
結論 1)施設ケアマネジメントの特徴は,「アセスメント」とその後に続く「目標設定とケア計画」「ケア計画実施(リンキング)」のプロセスが一体的に連動して実施されており,実践プロセスではその部分が明確に区別されていない。2)「評価」については,具体的で実効性のある手法を開発し,実践レベルに導入できる取り組みが早急に必要である。
キーワード 施設ケアマネジメント,介護支援専門員の専門性,介護保険制度,施設ケアマネジメント実践の定義,研修システム
第53巻第15号 2006年12月 介護保険施設における施設ソーシャルワークの構造と規定要因-介護老人福祉施設と介護老人保健施設の相談員業務の比較分析を通して-和気 純子(ワケ ジュンコ) |
目的 介護老人福祉施設と介護老人保健施設における相談員業務の比較分析を通して,介護保険施設における施設ソーシャルワークのあり方を検討するための基礎データを作成することを目的とする。
方法 無作為抽出(系統抽出法)した介護老人福祉施設500カ所および介護老人保健施設500カ所の生活相談員・支援相談員のうち,当該施設で最も経験年数の長い相談員を対象に郵送調査を実施した。調査時期は,2004年11~12月,回収率は48.4%である。30項目の業務内容の頻度を5段階で尋ね,一元配置分散分析によって各業務頻度の比較を行った後,探索的因子分析によって因子構造を把握した。その上で,各因子得点を従属変数とし,施設特性および相談員特性を独立変数とする重回帰分析を行い,相談員業務を規定する要因の異同について考察した。
結果 介護老人保健施設の相談員は,入退所をめぐる相談・調整業務に多くの時間を費やしているのに対し,介護老人福祉施設の相談員は利用者の日常生活支援や地域社会と関わる幅広い業務により頻繁に従事している。業務の因子構造では類似点もみられるが,抽出された因子数や因子寄与率に差異が認められた。各業務因子に影響を与える要因では,介護老人福祉施設の場合は施設特性の影響力が強く,介護老人保健施設では相談員特性のみが規定要因となっていることが判明した。
結論 施設としての役割や機能を異にする介護老人福祉施設と介護老人保健施設であるが,入所者の権利を擁護し,その生活の質を高めるために,いずれの施設にあっても施設ソーシャルワークを担う相談員が果たす役割はますます重要になっていくものと考えられる。介護保険施設として,利用者のニーズに最も的確に応える相談員業務の設定と必要な専門性の確保が求められる。
キーワード 介護保険施設,介護老人福祉施設,介護老人保健施設,ソーシャルワーク,相談員
第53巻第15号 2006年12月 身体障害者福祉施設の施設職員が認識する
仁坂 元子(ニサカ モトコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 髙橋 美樹(タカハシ ミキ) |
目的 本研究は,身体障害者福祉施設の施設職員(施設長を含む)が認識する自立の構造を明らかにすることが目的である。
方法 調査対象者は,近畿2府4県の身体障害者福祉施設150カ所の職員,施設長各1名ずつの計300名であり,調査方法は無記名の自記式郵送調査である。調査期間は2005年2月14日から3月11日で,有効回答率は66.0%であった。調査項目は,基本属性,先行研究から抽出された自立に関連する項目を設定した。施設職員が認識する自立概念を明らかにするため,分析方法にはバリマックス回転を伴う因子分析(主因子法)を用いた。
結果 本研究の分析から,施設職員が認識する自立概念は,「生活主体者という立場からの自己実現志向」「一個人として尊重されていることへの気づき」「社会制度の選択・開発過程への積極的関与」「身辺および経済面における自助志向」「他者との非依存的な人間関係の構築」の5因子からなることが明らかとなった。
結論 本研究は,自立を「身体的」や「経済的」側面から捉えていくことの限界を示唆した先行研究を支持する結果となった。そして,施設職員は,自助志向の従来の自立観と自己実現などをキーワードとする新しい自立観という2つの立場を内包していることが明らかとなった。今後,施設職員は,障害者に対する適切な自立支援を行っていくためにも,何を自立と考えるのかを明確にし,具体的な自立支援の方法を考えていくことが必要となる。また,従来の自助志向の自立観も否定されるものではないが,その考え方が障害者から必ずしも支持されてきた自立観ではないことから,今日の自立支援の方向性として,個人として尊重されることや社会制度との関わりを意識した支援が求められる。そして,社会制度の利用を自立と捉えることは,障害者自立支援法に基づいた支援を行っていくにあたり,非常に重要なことであり,障害者に対する「権利擁護」の考え方にもつながるものであると考えられる。
キーワード 身体障害者,施設職員,施設長,自立
第53巻第15号 2006年12月 高齢者のボランティア活動に関連する要因岡本 秀明(オカモト ヒデアキ) |
目的 人口高齢化の進行の中にあって元気な高齢者数も増加しているわが国では,高齢者は社会や地域に貢献する資源であるという観点を持ち,高齢社会を構築していくことが求められる。本研究では,高齢者のボランティア活動に関連する要因を明らかにすることを目的とした。
方法 大阪市24区のうち8区から無作為抽出し,65~84歳の高齢者1,500人を対象に自記式質問票を用いた郵送調査を実施した。有効回収数771人のうち,特定項目に欠損値のない671人を分析対象とした。分析は,ボランティア活動の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。独立変数は,「家族・経済・他(4変数)」「健康(2変数)」「暮らし方の志向性(7変数)」「技術や経験(2変数)」「社会・環境的状況(2変数)」という5領域の計17変数とし,統制変数は,年齢と性別を投入した。領域ごとに分析し,次に,統計学的な有意が認められた変数をすべて投入して分析を行った。
結果 ボランティア活動をしている者は24.0%であり,年1~2回活動している者が最も多かった。ボランティア活動への関心がある者は58.8%,活動への参加意向がある者は48.9%であった。ロジスティック回帰分析を行った結果,ボランティア活動をしている者の特性として,「中年期にボランティア経験がある」「地域に貢献する活動をしたい」「ボランティア活動情報の認知の程度が高い」(p<0.001),「技術・知識・資格がある」「親しい友人や仲間の数が多い」(p<0.01),「主観的健康感が高い」(p<0.05)ということが明らかになった。
結論 ボランティア活動への関心のある者は6割弱,参加意向のある者は5割弱であるのに対し,実際に活動している者は2割強にとどまっていた。活動への関心や参加意向のある者を実際の活動に結びつけやすいよう環境を整備していくことにより,ボランティア活動に参加する高齢者が増加することが期待できる。高齢期以前にボランティア経験を持てるような場の設定や啓発,活動への参加の機会に関する情報を多くの高齢者に認知してもらえる環境を整えていくことなどが求められる。
キーワード 高齢者,ボランティア,社会活動,社会参加
第54巻第1号 2007年1月 子どもの発達の全国調査にもとづく園児用
安梅 勅江(アンメ トキエ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ) |
目的 全国の保育園児の発達状態について実態を調査し,それに基づいた園児用発達チェックリストを開発することを目的とした。
方法 対象は,長時間保育を含む全国98カ所の認可保育所を利用する22,819名の子どもである。担当保育士が各々の子どもの発達状態について,園児用発達チェックリスト試案を用いて運動発達(粗大運動,微細運動),社会性発達(生活技術,対人技術),言語発達(表現,理解)の6領域,各領域32項目,全192項目について評価した。すべての項目について,10%の子どもが実施可能となる月齢(10パーセンタイル値),50%の子どもが可能となる月齢(50パーセンタイル値),90%の子どもが可能となる月齢(90パーセンタイル値)を算出した。
結果 すべての項目について,10パーセンタイル値,50パーセンタイル値,90パーセンタイル値が試案の序列に添った形で抽出され,また基準月齢が10~90パーセンタイル値の範囲内にあることが確認された。信頼性は各領域で82.5~97.9%であった。
結論 この園児用発達チェックリストが,現在の日本における園児の発達を評価する指標として妥当であることが示された。
キーワード 子どもの発達,保育,評価,園児,全国
第54巻第1号 2007年1月 高齢者を対象とした地域における運動教室の医療経済効果神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) 白澤 貴子(シラサワ タカコ) 小出 昭太郎(コイデ ショウタロウ)高橋 英孝(タカハシ エイコウ) 川口 毅(カワグチ タケシ) 久野 譜也(クノ シンヤ) |
目的 地域における高齢者を対象にした運動教室について,開始前1年間と開始後の2年間以上のデータを用い,3年間以上の年間医療費の推移を示した形で,医療経済評価を行うことを目的とした。
方法 新潟県M市,富山県S市,埼玉県K市,愛媛県W町の健康運動教室参加者のうちの国民健康保険の被保険者(以下,国保加入者)を運動群とするとともに,国保加入者の中から運動教室に参加していない約3倍の人数を対照群として抽出し,両群の年間の医療費の推移を比較した。医療費の増減の総和を明らかにするために,各年の1人当たり医療費をみるだけではなく,教室開始前の医療費に教室開始後の年間医療費を次々に加えていく累積医療費を算出し,運動群と対照群とで比較を行った。
結果 4市町において,運動群は対照群に比較して,運動教室の開始前から医療費が低いものの,累積医療費でみると,教室開始1年目,2年目とその差が広がっていくことが示された。
結論 教室開始前と開始後2年間以上の国民健康保険の医療費データを用い,運動群と対照群を比較することで,地域における高齢者を対象とした運動教室による医療経済効果の可能性が示唆された。
キーワード 高齢者,運動教室,筋力トレーニング,医療経済
第54巻第1号 2007年1月 地域福祉に対するコミュニティワーカーの意識構造谷川 和昭(タニカワ カズアキ) |
目的 地域福祉が学問として生誕したのは1970年代のことであるが,地域福祉の推進を専門とするコミュニティワーカーの意識構造を手がかりとして,未だ定かとなっていない地域福祉とは何かを明らかにすることが本研究の目的である。そのため地域福祉の構成要件を提起し,その体系化の可能性について検討した。
方法 市区町村社会福祉協議会のコミュニティワーカーへの郵送調査(2003年2~3月)を行い,分析項目のすべてに欠測のない222票のデータを用いた。探索的因子分析の手法を用いて,最初に地域福祉に関わる因子の抽出と解釈を行い,続いて地域福祉計画に関わる因子の抽出と解釈を行った。また,両者間の関連の有無を相関分析によって確認した。その後,地域福祉に関する質問33項目と地域福祉計画に関する質問32項目を合成した地域福祉概念に関する65項目の質問項目を用いて一次因子分析を行い検討した。次に,この一次因子分析で析出された因子構造についてさらなる知見を得るため,二次因子分析を行い,因子の抽出と解釈を試みた。また,一次因子分析による構成因子の特徴について考察するためクラスター分析を行った。
結果 地域福祉に関わる因子,地域福祉計画に関わる因子のいずれも抽出とその解釈が可能であった。また地域福祉と地域福祉計画との関連が認められた(r=0.834,p<0.001)。合成した地域福祉概念についての一次因子分析の結果,10個の因子が抽出され,その解釈は可能であった。これら10個の因子による二次因子分析の結果も解釈が可能であった。クラスター分析の結果,関係性が見いだせそうな組合せや独立した因子が明らかになった。
結論 分析結果から,「地域福祉の原理・原則」「新旧社会政策との調整」「予防的社会福祉の増進」「地域社会サービスの整備」「地域のコミュニケーション」「福祉のネットワーキング」「地域福祉圏域の設定」「福祉サービス利用への支援」「社会福祉の空間づくり」「地域における福祉の方向性」が地域福祉の構成要件として示された。また,これらは「制度・政策・施策」「実践・方法・理念」の2つに集約された。さらに,以上の要件のうち,「地域における福祉の方向性」が地域福祉の推進にとって重要と考えられた。
キーワード 地域福祉,地域福祉計画,地域福祉の構成要件,コミュニティワーカー,意識構造
第54巻第1号 2007年1月 東北地方の在宅高齢者における
高橋 和子(タカハシ カズコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) 矢部 順子(ヤベ ジュンコ) |
目的 「虚弱高齢者」から「極めて元気な高齢者」まで,その体力レベルに応じた役割の創造と開発を目的に,東北地方における在宅高齢者の地域・家庭での役割の実態把握を行い,現状での役割にはどのような要因が影響しているのかを明らかにすることで,高齢者の役割の創造・開発における課題を検討する。
方法 福島県S市A地区の高齢者から無作為抽出した693人を対象に,郵送法による質問紙調査を行った。高齢者の役割については,収入の伴う仕事の有無,シルバー人材センター・高齢者事業団の仕事の経験の有無,家の中での役割,地域の団体・組織・会とのかかわり,現在または最近行ったボランティア活動を把握した。分析方法は,各質問の回答を2項目に分類して行った。最初に各変数についてFisherの直接法を用いて性差を確認した。次に役割の有無による属性の比較を行い,p値が0.05未満となったものを投入し,変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 高齢者の役割のうち,収入の伴う仕事は女性よりも男性で有している割合が有意に高かった。家の中での役割は,男性は「大工仕事や家の修繕」,女性は家事全般において実施している割合が高く,男女で有意差が認められた。地域の団体・組織・会とのかかわりは,男女とも「町内会・自治会」「老人会・高齢者団体」に入っている割合が高かった。ボランティア活動は,男女とも「美化・環境整備の活動」「農作業に関する活動」の実施割合が高かった。高齢者の属性による役割の有無の比較では,収入の伴う仕事,家の中での役割,地域の団体・組織・会とのかかわり,ボランティア活動ともに,日常生活自立度のレベルにより役割の有無に差が認められ,自立者で割合が高かった。また,役割を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果においても,現在の役割の有無には日常生活自立度が大きく影響していた。
結論 現在,高齢者が担っている家の中や地域での役割は,性や日常生活自立度で違いがあり,日常生活で介助を要する者は役割を持たない者が多いことがうかがわれた。新たな役割の創造・開発を行う上で,性・年齢とともに高齢者の活動レベルに応じた役割を検討することの重要性が確認された。
キーワード 社会参加,社会活動,役割,在宅高齢者
第54巻第1号 2007年1月 高齢者福祉活動の必要性に関する地域住民の意識渡辺 裕一(ワタナベ ユウイチ) |
目的 近年,地域の高齢者福祉問題の解決に向けた地域住民の参加への期待は高まっている。しかし,多くの地域住民の力は潜在化し,その期待にこたえられる状況にあるとは言えない。地域住民が主体的にこれらの問題を共有し,解決に向けて働きかけることが求められており,その導入に高齢者福祉活動の必要性意識を持つという過程があると考えられる。そこで,本研究では高齢者福祉活動の必要性に関する地域住民の意識の現状を把握し,その意識に影響を与えている要因を探索的に明らかにすることを目的とした。
方法 1つの中学校区を対象として社会調査からデータを収集し,χ2検定などを行った。従属変数として,①介護の方法や知識について勉強する機会(学習機会),②介護が必要になることを予防するための活動(介護予防),③高齢者が交流するサロンや趣味,サークル活動(高齢者交流),④介護をしている人が交流する機会(介護者交流)に関してそれぞれ必要と思うかを質問した。独立変数には,「性別」「年齢」「家族構成」「配偶者」「学歴」「永住希望」「広報紙(市・区・自治会レベル)」「地域の集まり」「住居」「仕事の有無」「65歳以上の方と同居しているか」「介護の必要な方と同居しているか」を用いた。
結果 「介護予防」との間に有意な関連が認められた独立変数は,「学歴」「年齢」「地域の集まり」「配偶者」「住居」「仕事の有無」「広報紙(市・区・自治会レベル)」であった。「高齢者交流」と各独立変数との間には有意な関連は認められず,「介護者交流」は,「年齢」「家族構成」「地域の集まり」「65歳以上の方と同居しているか」との間に有意な関連が認められた。「学習機会」は「地域の集まり」「広報紙(市・区レベル)」との間に有意な関連が認められた。
結論 高齢者福祉活動の必要性意識に影響を与えている要因は,内的要因(年齢,性別,その他)と外的要因(広報紙,地域の集まり,その他)の2つに分類することができる。内的要因に外的要因を重ねていく働きかけによって,地域住民の高齢者福祉活動に関する必要性意識を高めていくことができる可能性が示唆されたと言える。
キーワード 高齢者福祉活動,必要性意識,共有,地域住民,参加,エンパワメント
第54巻第2号 2007年2月 胃がんと肺がんにおける死亡年齢と罹患年齢の年次推移高橋 菜穂(タカハシ ナホ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 亀井 哲也(カメイ テツヤ)谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 栗田 秀樹(クリタ ヒデキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ) |
目的 胃がんと肺がんにおいて,人口構成の変化を調整した上で,死亡率と罹患率とともに,死亡年齢と罹患年齢の年次推移を検討した。
方法 1975~1999年の性・年齢階級別の死亡数と罹患数から,年齢調整死亡率,年齢調整罹患率,調整平均死亡年齢と調整平均罹患年齢を算出した。
結果 胃がんにおいて,1999年の平均死亡年齢は男で70.9歳と女で73.0歳,平均罹患年齢は男で67.7歳と女で69.7歳であった。年齢調整死亡率と年齢調整罹患率は年次とともに低下傾向,調整平均死亡年齢と調整平均罹患年齢は上昇傾向であった。肺がんにおいて,1999年の平均死亡年齢は男で72.4歳と女で73.8歳,平均罹患年齢は男で71.1歳と女で71.6歳であった。年齢調整死亡率と年齢調整罹患率は上昇傾向であったが,1990年ごろから上昇の鈍化傾向あるいは横ばい傾向がみられた。調整平均死亡年齢と調整平均罹患年齢は上昇傾向であったが,1990年ごろから男で上昇の鈍化傾向,女で横ばい傾向がみられた。
結論 胃がんと肺がんにおいて,死亡年齢と罹患年齢が年次とともに大きく変化していることを示した。
キーワード 胃がん,肺がん,死亡年齢,罹患年齢,年次推移
第54巻第2号 2007年2月 地区単位のソーシャル・キャピタルが主観的健康感に及ぼす影響藤澤 由和(フジサワ ヨシカズ) 濱野 強(ハマノ ツヨシ) 小藪 明生(コヤブ アキオ) |
目的 地区を単位としたソーシャル・キャピタル変数が全体的健康感に対してどの程度,影響を及ぼしているかに関して明らかにすることを目的とした。
方法 日本国内に居住する満20歳以上75歳未満の男女3,000人を調査対象者とし,抽出方法は層化二段無作為抽出法を用いた。2004年2月に調査員による面接調査を実施し,1,910人(男性870人,女性1,040人)から回答を得た(回収率63.7%)。分析方法は,相関分析および性別,年齢,慢性疾患の有無,暮らし向き,ソーシャル・キャピタル(6項目)を独立変数,全体的健康感を従属変数とする重回帰分析を行った。なお,分析においては,分析単位を地区としていることから,各変数について平均値および割合を用いて地区単位への集約を行った。
結果 全体的健康感と相関が示されたソーシャル・キャピタルは5項目であり,さらに重回帰分析を行った結果,「私の住んでいるこの地区はとても安全である」「私の近所の誰かが助けを必要としたときに,近所の人たちは手をさしのべることをいとわない」「急病の時など,すぐにかかれる医療機関があって安心できる地域である」「私の地域では,お互いに気軽に挨拶を交し合う」において統計的に有意な関連が示された(p<0.05)。なお,慢性疾患率および暮らし向きについても有意な関連が示された(p<0.05)。
結論 本結果から,地区単位のソーシャル・キャピタルは,他の変数とともに全体的健康感に一定の影響を与えていることが明らかとなった。慢性疾患率や暮らし向きなどの変数が全体的健康感に影響を与えているのは非常に理解しやすいものであるが,これらの変数と同様に複数のソーシャル・キャピタル変数が全体的健康感に同程度の影響を与えていた点が注目に値する。今後は,ソーシャル・キャピタル概念の理論的検討,その健康への影響プロセス,そして規定要因としての分析上の問題を克服する必要があると考えられる。
キーワード ソーシャル・キャピタル,主観的健康感
第54巻第2号 2007年2月 都道府県における母子保健統計情報の収集・利活用状況に関する研究鈴木 孝太(スズキ コウタ) 薬袋 淳子(ミナイ ジュンコ) 成 順月(チェン シュンユエ)田中 太一郎(タナカ タイチロウ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ) |
目的 現在わが国において,市町村から都道府県,国へと伝達されている母子保健統計情報は,人口動態調査,地域保健・老人保健事業報告のみである。しかしながら今後,「健やか親子21」で提示している母子保健の取り組みなどについて目標値の設定・評価などを行う際には,それら以外の母子保健統計情報が必要である。そこで本研究では,都道府県における母子保健統計・情報の集計実態について調査し,その現状を把握することを目的とした。
方法 都道府県の母子保健担当者の連絡先(E-mailアドレス)を,都道府県ホームページなどから検索した。E-mailを用いて,担当者に母子保健統計情報の収集・利活用状況に関する調査票を送付し,回答をE-mailまたはFAXで回収した。具体的な調査内容は,市町村における母子保健統計情報を都道府県が把握・集計するシステムの有無,その情報の内容,乳幼児健診の形態(集団・個別),情報公開の有無などである。
結果 回答は全都道府県から得られ,45都道府県(95.7%)において市町村で集計したデータをまとめていた。しかし,情報内容については,乳幼児健診の受診率(100%)およびその内容・結果(77.8%)をほとんどの都道府県で集計している一方,妊婦の喫煙(6.7%)や小児の事故(15.6%)についてはあまり集計されていなかった。このように集計している情報の内容は都道府県によりかなりばらつきがあり,また政令市については政令市以外の市町村と一括して集計していない道府県が大半であった。
結論 国としてまとめている人口動態調査,地域保健・老人保健事業報告以外の母子保健統計情報について,45都道府県において市町村が集計した情報をまとめていたが,その内容にはばらつきがあるため,調査内容について今後より精査する必要がある。また今回の研究結果は,様々な母子保健の指標を評価するのに必要な,情報の標準化・規格化を目指すうえでの基礎資料となりうる。
キーワード 母子保健,乳幼児健診,健やか親子21,統計情報,情報公開
第54巻第2号 2007年2月 少子化の人口学的要因と社会経済的要因の解析小島 里織(コジマ サオリ) 上木 隆人(ウエキ タカト) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ) |
目的 わが国の2000年出生率は1970年の約半分までに低下し,出生率低下の主な原因として晩婚化・晩産化が指摘される。代表的な社会経済指標を取り上げ,出生率などとの相関を検討して,出生率低下に影響を及ぼす社会経済的要因を明らかにする。
方法 1970年から2000年までの人口動態統計と国勢調査のデータをもとにして,わが国の出生率などの年次推移を1970年を1とした比で算出した。次に,25~29歳と35~39歳の有配偶率と有配偶出生率について,社会経済指標である第三次産業就業人口割合,15~44歳女子労働力,1人当たり県民所得との相関を,また20~24歳の有配偶率と有配偶出生率について進学率との相関を求めた。
結果 (1)2000年の出生率は1970年と比べて,20~24歳と25~29歳では半減し,30~34歳と35~39歳では低下の後で上昇した。有配偶率は全体に低下傾向で,20~24歳と25~29歳で半減した。有配偶出生率は20~24歳と25~29歳で横ばい,30~34歳と35~39歳で低下の後に上昇した。(2)有配偶率や有配偶出生率と社会経済指標との相関は,25~29歳有配偶率は第三次産業就業人口割合と,25~29歳有配偶出生率は女子労働力や1人当たり県民所得と,35~39歳の有配偶率と有配偶出生率は第三次産業就業人口割合と相関がみられた。20~24歳の有配偶率と有配偶出生率は進学率と負の相関を示した。(3)社会経済指標間の相関は,女子労働力は第三次産業就業人口割合や進学率と負の相関,1人当たり県民所得は進学率と正の相関を示した。
結論 女子労働力,第三次産業就業人口割合,1人当たり県民所得,進学率などの指標に現れる社会経済的要因が相互に関係しつつ,晩婚化,晩産化をもたらしたと考えられる。出生率低下への対応は,女子労働の問題や,出産・育児や子どもの教育に関連する経済的負担,住宅事情に関連する問題などを年代ごとにとらえる必要があろう。
キーワード 出生率,有配偶率,有配偶出生率,第三次産業就業人口割合,女子労働力,進学率
第54巻第5号 2007年5月 都道府県別たばこ消費本数と主要死因別標準化死亡比との関連竹森 幸一(タケモリコウイチ) |
目的 都道府県別たばこ消費本数と主要死因別標準化死亡比(以下SMR)との関連を検討することにより,都道府県における喫煙の健康影響について探求することを目的とした。
方法 各都道府県の2002年,2003年,2004年のたばこ売渡本数から返還本数と課税免除本数を差し引いた値を同年の各都道府県男女別15歳以上人口で除して,男女別15歳以上1人当たりたばこ消費本数を求めた。都道府県の男15歳以上1人当たりたばこ消費本数の年次間の相関と平均値の差をみた。都道府県別15歳以上1人当たりたばこ消費本数と全死因,悪性新生物(総数,胃,大腸,肝及び肝内胆管,気管・気管支及び肺),心疾患(総数,急性心筋梗塞)および脳血管疾患の各SMRとの相関係数を男女別に求めた。
結果 男15歳以上1人当たりたばこ消費本数は年次間に高い相関がみられ,2002年から2004年にかけて有意に低下していた。15歳以上1人当たりたばこ消費本数との間に,男の2002年で全死因,気管・気管支及び肺の各SMR,2003年で全死因,悪性新生物総数,気管・気管支及び肺の各SMR,2004年で気管・気管支及び肺のSMRに有意な正相関がみられた。女では2003年で悪性新生物総数のSMRに有意な正相関がみられた。15歳以上1人当たりたばこ消費本数と基本健康診査喫煙率,国民生活基礎調査喫煙率および国民栄養調査から計算した喫煙者指数との間に有意の正相関がみられた。
結論 都道府県別たばこ消費本数と主要死因別SMRとの相関関係から,気管・気管支及び肺などの主要死因で喫煙の影響を否定しえない結果が得られた。
キーワード たばこ消費本数,都道府県別標準化死亡比,悪性新生物,全死因
第54巻第2号 2007年2月 中都市在住高齢者の手段的ソーシャルサポート選好度とその構造-大都市在住高齢者との比較の視点に基づいた考察-権 泫珠(コン ヒョンジュ) |
目的 中都市在住高齢者が自分自身に手段的ソーシャルサポートが必要になったとき,誰に対して,どの程度の支援を求めたいと考えているのかといった手段的ソーシャルサポート選好度およびその構造を明らかにすることを目的とした。また,大都市在住高齢者を対象とした同様の先行研究の結果と比較し,高齢者の選好度の特徴を考察する。
方法 愛知県A市に在住する65歳以上の高齢者のうち,900人を無作為抽出し,自記式質問紙を用いた郵送調査を行った。調査期間は,2004年11月1~15日であり,有効回収率は51.6%(464票)であった。分析方法は,手段的ソーシャルサポート選好度の構造を把握するために因子分析を行った。また,因子ごとの平均値からそれぞれのサポート源に対する選好の程度を把握した。その結果を大都市高齢者対象の先行研究と比較した。
結果 手段的サポートに対する選好度は,家事や介護サポートを家族に求めたいという選好度が最も高く,次いで,介護や経済サポートを行政や福祉機関に求めたいという選好度が高かった。また,因子構造は,「フォーマルサポート源への選好」「家族以外のインフォーマルサポート源への選好」「家族への選好」「経済サポート/フォーマル機関への選好」の4因子となった。因子ごとの平均値は,「家族への選好」が最も高く,次いで「経済サポート/フォーマル機関への選好」「フォーマルサポート源への選好」「家族以外のインフォーマルサポート源への選好」の順であった。
結論 研究結果は大都市高齢者を対象とした先行研究とも一致するものであり,高齢者の手段的ソーシャルサポート選好度の構造および選好順位は地域間での違いはみられず,一般化できる可能性が示唆された。一方,「家族への選好」因子の平均値は,中都市高齢者の方で高く,地域差がみられた。
キーワード 中都市在住高齢者,ソーシャルサポート選好度,手段的ソーシャルサポート,大都市在住高齢者,地域差
第54巻第3号 2007年3月 静岡県における自殺死亡の地域格差および社会生活指標との関連久保田 晃生(クボタ アキオ) 永田 順子(ナガタ ジュンコ)杉山 眞澄(スギヤマ マスミ) 藤田 信(フジタ マコト) |
目的 本研究の目的は,自殺死亡の低率県である静岡県内の自殺死亡の地域格差について確認するとともに,自殺死亡に関連する社会生活指標を検討し,今後の静岡県における自殺予防施策の基礎資料を得ることとした。
方法 静岡県内における男女別の自殺死亡標準化死亡比(SMR)(1999~2003年)をマップ化して,地域格差を確認した。また,地域の社会生活指標を収集し,自殺死亡SMRとの関連について,主成分分析および重回帰分析を行い検討した。
結果 静岡県内の自殺死亡SMRは,男女とも同様の分布を示し,市よりも町の方が高い値を示した。また,女性では自殺死亡SMRが200を超える地域が3町あり,男性より地域間の格差が認められた。本研究の社会生活指標を主成分分析した結果,第1主成分は都市化の程度を分ける指標,第2主成分はサービス産業と生活の豊かさを分ける指標として解釈された。さらに,自殺死亡SMRを加えた分析においても,因子構造は同様であった。自殺死亡SMRを目的変数に,社会生活指標を説明変数に用いた重回帰分析を行った結果,男性では「小売店数(人口千対)」,女性では「離婚率(人口千対)」「第二次産業就業者比率(%)」「健康相談延べ人数(人口千対)」が選択された。このうち,自殺死亡SMRとの単相関では,男性の「小売店数(人口千対)」のみ,有意な正の相関を認めた。
結論 静岡県の自殺死亡SMRは,男女とも都市化の程度が影響することが示唆された。この状況は,秋田県,岐阜県との報告と同様であり,自殺予防には過疎地域への働きかけが重要であると考えられた。
キーワード 自殺,標準化死亡比,社会生活指標,地域格差
第54巻第3号 2007年3月 青森県および長野県の市町村別たばこ売渡本数と
竹森 幸一(タケモリ コウイチ) |
目的 青森県および長野県の市町村別たばこ売渡本数と主要死因別標準化死亡比(以下SMR)との関連を検討することにより, 市町村における喫煙の健康影響について探求することを目的とした。
方法 各市町村の2002年,2003年,2004年のたばこ売渡本数を同年の男女別15歳以上人口で除して,男女別15歳以上1人当たりたばこ売渡本数を求めた。青森県および長野県の男15歳以上1人当たりたばこ売渡本数の年次間の相関と平均値の差をみた。また各年の青森県と長野県の男15歳以上1人当たりたばこ売渡本数の県間の差をみた。15歳以上1人当たりたばこ売渡本数と全死因,悪性新生物(総数,胃,大腸,肝及び肝内胆管,気管・気管支及び肺),心疾患(総数,急性心筋梗塞),脳血管疾患のSMRとの相関係数を青森県と長野県について男女別に求めた。
結果 男15歳以上1人当たりたばこ売渡本数は両県とも年次間に高い相関がみられ,2002年から2004年にかけて有意に低下し,2002年,2003年,2004年ともに青森県が長野県より有意に高かった。15歳以上1人当たりたばこ売渡本数との間に,青森県の場合,男の2002年で悪性新生物総数,大腸,2003年で悪性新生物総数,胃,大腸,脳血管疾患,2004年で全死因,悪性新生物総数,胃,大腸,脳血管疾患に有意な正相関がみられた。女では関連がみられなかった。長野県の場合,男の2002年で胃,大腸,2003年で胃,大腸,2004年で大腸に有意な正相関がみられ,女の2002年で悪性新生物総数,大腸,2003年で悪性新生物総数,大腸,2004年で悪性新生物総数,大腸に有意な正相関がみられた。
結論 市町村別たばこ売渡本数と主要死因別SMRとの相関関係から,多くの主要死因で喫煙の影響を否定しえない結果が得られた。
キーワード たばこ売渡本数,市町村別標準化死亡比,悪性新生物,心疾患,脳血管疾患
第54巻第3号 2007年3月 医療費からみた国保ヘルスアップモデル事業の評価-福島県二本松市における個別健康支援プログラムの検討-小川 裕(オガワ ユタカ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) |
目的 生活習慣病の一次予防を目的とした個別健康支援プログラムに基づいて実施されたヘルスアップモデル事業を2年間の追跡により医療費の面から評価する。
方法 福島県二本松市における基本健康診査または国保人間ドック受診者のうち,脂質,血糖,血圧,BMIのいずれかで「要指導」または「要医療」であった者をモデル事業の対象者として介入群と対照群を設定し,介入年1年間とその後2年間の追跡が可能であった40~69歳のそれぞれ119人についてレセプト情報に基づき医療費に関する分析を行った。
結果 受療状況では,有意ではなかったが「レセプトが認められなかった」者が介入群では経時的に増え,介入後2年には対照群より多かったこと,「入院レセプトが認められた」者がいずれの年にも対照群に多く,その差が介入年より介入後に大きかったことが介入効果を示唆する結果であった。また,レセプト件数,点数,日数の検討では,入院外のレセプト点数が対照群のみで有意な増加を示し,入院外と入院を合計した件数,点数,日数のいずれも介入2年後の増加率が対照群で高かった。このうち点数の年齢別検討では,60歳以上で介入効果が大きいことが示唆された。さらに介入年に入院外レセプトのみ認められた者について個人ごとにレセプト件数,点数,日数の変化を比較したところ,いずれも介入後に減少した者の割合は介入群で高く,60歳以上ではレセプト件数,点数,日数における減少者の割合が介入後2年でも維持される傾向がみられた。介入年における入院外点数の「高」・「低」別に比較した検討では,「高」点数群において介入効果が高く,効果が持続される可能性が示唆された。
結論 実施した個別健康支援プログラムが,医療費関連指標を低下させること,とくに60歳代で入院外レセプト点数の比較的高い群で介入効果が大きくなる可能性が示唆された。
キーワード 生活習慣病,一次予防,個別健康支援プログラム,医療費,ヘルスアップモデル事業
第54巻第3号 2007年3月 国民栄養調査の解析による「健康日本21」目標達成の予測-肥満を中心に-若林 チヒロ(ワカバヤ シチヒロ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 萱場 一則(カヤバ カズノリ)三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ) |
目的 「健康日本21」で挙げた項目は現状のまま推移して2010年までに目標を達成するか否かを性年齢階級別の人口集団ごとに検討した。特に肥満者割合とそれに関連する栄養・食生活,身体活動・運動の項目を中心に,今後強化すべき対策について検討した。
方法 国民栄養調査で,肥満者割合(BMI≧25.0),脂肪エネルギー比,日常生活における運動習慣のある者の割合,日常生活における歩数について性年齢階級別に1995年から2003年までの値で回帰分析を行い,2010年における予測値を算出して,「健康日本21」目標達成の可否を検討した。
結果 肥満者割合について2010年までに目標を達成できるのは女性の40歳代以下のみで,男性のすべての年齢階級と女性の50歳代以上では目標を達成することができないと予測された。特に30歳代以上の男性の肥満者割合は増加傾向が強く,2010年には40%近い値になると予測された。脂肪エネルギー比では40歳代以上,運動習慣者割合では男女共60歳代のみ,日常生活における歩数では20歳代男性と40歳代女性のみが目標を達成できると予測され,他の性年齢階級では目標達成は困難と予測された。肥満者割合で目標達成できないと予測された人口集団のうち,脂肪エネルギー比では男性30歳代以下,運動習慣者割合では男性50歳代以下と女性50歳代,日常生活における歩数では男性30歳代以上と女性50歳代以上では目標達成できないと予測され,これら人口集団に対して対策を強化する必要があると考えられた。
結論 「健康日本21」で肥満者割合について挙げた目標の達成は大部分の性年齢階級で困難と予測された。肥満に関連する栄養・食生活や身体活動・運動に関する項目でも目標達成困難な集団が多く,今後集団ごとにきめ細かな対策をとりいれる必要がある。
キーワード 健康日本21,国民栄養調査,肥満,健康政策,栄養・食生活,身体活動・運動
第54巻第3号 2007年3月 吹田市基本健診での生活習慣とメタボリックシンドロームに関する研究奈倉 淳子(ナグラ ジュンコ) 小久保 喜弘(コクボ ヨシヒロ) 川西 克幸(カワニシ カツユキ)小谷 泰(コタニ ヤスシ) 伊達ちぐさ 岡山(ダテ チグサ) 明 友池(オカヤマ アキラ) |
目的 都市住民のメタボリックシンドローム(Mets)有病率とMets定義病態に関連する生活習慣の特徴を性・年齢ごとに評価した。
方法 平成16年度吹田市基本健康診査受診者のうち問診票で有効回答が得られた30~89歳の26,522人の男女を対象とした。MetsはUS National Cholesterol Education Program: Adult Treatment Panel Ⅲの基準を改変して診断した。Mets有病率,Mets有病者での構成因子の有病率を求め,さらにMetsと関連する生活習慣の検討を行った。
結果 30~89歳でのMetsの有病率は,男性19.4%,女性10.7%であった。Mets有病者のうち,若年群では肥満の有病率が高く(30歳代:男性82%,女性90%),高齢群では血圧高値の有病率が高い傾向にあった(80歳代:男性99%,女性98%)。生活習慣では,「他の人より食べる量が多い」「早食いである」「睡眠が不規則である」「立位・歩行時間が1時間未満である」は,男女ともすべての年代でMetsと関連していた。4項目のいずれにも該当しない対象者と1項目該当の対象者のMetsの多変量調整オッズ比は1.29~2.17の値をとり,2個では1.66~4.60,3個では3.13~5.09で,4個すべてに該当する対象者では5.36であった。
結論 Metsの構成因子は年齢により異なっていたが,過食・早食い・不規則な睡眠・運動不足はすべての年代でMetsとの関連がみられ,これらを多く満たす人ほどMetsのリスクが高かったことから,これら4つの項目はMetsの予防・改善の保健指導の項目となりうる生活習慣と考えられた。
キーワード メタボリックシンドローム,有病率,生活習慣
第54巻第4号 2007年4月 生活習慣病予防事業による医療費への影響亀 千保子(カメ チホコ) 馬場園 明(ババゾノ アキラ) 石原 礼子(イシハラ レイコ) |
目的 現在,多くの自治体で生活習慣病予防事業が行われているが,無作為比較対照研究による介入前後での医療費抑制効果の報告はされていない。そこで,本研究では,無作為比較対照研究による予防事業の介入前,介入中,介入後での医療費とその変化を比較し,介入による医療費への影響を明らかにすることを目的とした。
方法 対象者を目標達成型プログラム介入A群,従来型プログラム介入B群の2群に無作為抽出法により割付け,2群間および両群合わせた全体で,介入前々年,前年,介入年の介入前中後の3期間における平均入院外医療費(歯科は除く)についてウィルコクソン符号付順位検定により比較を行った。なお,医療費は年齢に比例して高くなるため,医療費変化を介入前中後で比較し,増加抑制効果をみることで年齢による影響を考慮した。群間差の比較は,ウィルコクソン順位和検定を行った。介入中期間においては,傷病マグニチュード按分法(PDM法)ver.3を用いて,傷病別にも同様の解析を行った。さらに,複数・多・重複受診件数およびこれら受診件数の変化についても同様の解析を行った。
結果 介入中期間の平均入院外医療費は,両群および全体において平成14年度と比べて15年度には有意に増加,平成15年度と比べて16年度には,有意差はないが減少傾向がみられた。医療費変化では,介入中期間の全体においてのみ有意な増加抑制が認められた。有意な増加抑制は他の期間ではどの群においても認められなかった。介入中期間における傷病別分析では,両群および全体で有意な入院外医療費減少と増加抑制が認められた傷病に重症な傷病は含まれていなかった。
結論 両群および全体において重症でない疾患の有意な平均入院外医療費減少と増加抑制につながり,複数受診件数も介入A群と全体において有意な増加抑制が認められた。しかしながら,4カ月間の介入では,有意差をもって平均入院外医療費減少は示せず,介入中期間では全体における増加抑制効果は有意差をもって示せたもののプログラムA,B間の差を有意に示すに至らなかった。生活習慣病におけるこれらの効果を明らかにするためには,無作為比較対照試験での長期間の追跡が必要であると考えられる。
キーワード 生活習慣病予防事業,保健事業,医療費,レセプト,複数受診,無作為比較対照試験
第54巻第4号 2007年4月 認知症高齢者を居宅で介護する家族介護者の主観的QOLに関する研究-“介護に関する話し合いや勉強会”への参加経験や参加に対する意思との関連性について-朴 偉廷(パク ウィジョン) 遠藤 忠(エンドウ タダシ) 佐々木 心彩(ササキ シンサイ)時田 学(トキタ ガク) 長嶋 紀一(ナガシマ キイチ) |
目的 認知症高齢者を居宅で介護する家族介護者の“介護に関する話し合いや勉強会”の参加状況および参加に対する意思について把握すること,家族介護者の主観的QOL(現在の満足感,生活のハリ,心理的安定感)を測定すること,両者の関連性について検討し,家族介護者支援を考案するための基礎資料を得ることを目的とした。
方法 調査対象者は,A県で要介護高齢者を居宅で介護する家族介護者2,262名であった。そして「介護に関する話し合いや勉強会」9項目(栄養,介護の仕方,介護保険,認知症の方との関わり方,認知症の知識,介護サービス,医療サービス,身体的な健康管理,介護予防教室のような集まり)の参加の有無(経験群,未経験群),未経験群の参加への意思(経験希望群,無関心群),家族介護者の主観的QOL尺度,要介護高齢者の認知障害の程度を把握するための日本語版SMQ等を調査した。
結果 1,462名の調査票が回収され(回収率64.6%),調査項目に未回答のあった671名と日本語版SMQにおいて非認知症と評価された55名を除いた736名の認知症高齢者の家族介護者を分析対象とした。介護に関する話し合いや勉強会の参加状況は,経験群で10.7~23.9%,未経験群のうち無関心群は40.4~54.4%,経験希望群は31.1~45.5%と参加経験者の割合が低かった。介護に関する話し合いや勉強会9項目の参加状況および参加に対する意思を独立変数,主観的QOL尺度総得点を従属変数,主観的QOLと相関係数において有意であった家族介護者の年齢,家族介護者の健康状態,日本語版SMQを統制変数として共分散分析を行った結果,全項目において有意差が認められ,多重比較の結果から,特に認知症の方との関わり方,認知症の知識,介護の仕方の項目において,無関心群は経験群に比べて主観的QOLが低いことが示唆された。
結論 特に無関心群の家族介護者が,認知症高齢者の介護をひとりで抱え込まず,認知症の疾患や関わり方の知識を得る場,家族介護者同士の交流の場など介護に関する話し合いや勉強会に参加意欲や意思をもち,積極的に参加していくとともに,主観的QOLを高めていくこと,そのための効果的な開催方法を考案することが課題として考えられた。
キーワード 認知症高齢者,介護に関する話し合いや勉強会,家族介護者,主観的QOL
第54巻第4号 2007年4月 母親の育児関連Daily Hasslesと児に対するマルトリートメントの関連唐 軼斐(ト ウジヒ) 矢嶋 裕樹(ヤジマ ユウキ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) |
目的 母親の育児に関連したDaily Hassles(DH)の経験頻度およびストレス強度を明らかにし,Hillsonらのモデルに基づき,育児関連DHの経験頻度およびストレス強度と,虐待やネグレクトといったマルトリートメント(不適切な関わり)との関連を検討することを目的とした。
方法 2004年11月現在,S県S市内の協力の得られた保育所16カ所を利用していたすべての母親1,700人を対象に,無記名自記式による質問紙調査を実施した。育児関連DHの測定には,Parenting Daily Hassles Scale(PDH)を日本語訳して使用した。母親の児に対するマルトリートメントは,母親の子どもに対するマルトリートメント傾向指標を用いて測定した。統計解析には構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling: SEM)を使用し,育児関連DHの経験頻度が,それら育児関連DHのストレス強度を介して,児に対するマルトリートメントの実施頻度に影響を与えるといったモデルを構築し,そのモデルのデータに対する適合度と各変数間の関連を検討した。
結果 育児関連DHの経験率をみると,ほとんどの項目において8割以上の母親が経験していた。また,育児関連DHに対するストレス強度得点も,米国の母親を対象とした先行研究とおおむね一致していた。SEMの結果,育児関連DHの下位領域「育児タスク」の経験頻度が高い者ほど,ストレスを強く感じ,心理的虐待およびネグレクトの発生頻度が高かった。また,育児関連DHの下位領域「挑戦すべき児の行動」の経験頻度が高い者ほど,ストレスを強く感じ,身体的虐待と心理的虐待の発生頻度が高かったことが明らかとなった。
考察 育児タスクが心理的虐待やネグレクトを促進していたことから,育児ストレス軽減のために,育児の代行機能を有する託児サービスの重要性が示唆された。また,児の挑戦すべき行動が身体的虐待と心理的虐待と関連していたことから,母親が児の挑戦すべき行動に適切に対応できるように,地域育児教室や両親教室等の機会を利用して,児の発育や発達に関する情報提供や児の挑戦的な行動に対する母親の受容的な態度の養成を促す必要性が示唆された。
キーワード 児童虐待,ストレス,母親,育児
第54巻第4号 2007年4月 脳卒中患者における自宅退院の時代変遷に関する研究-富山県脳卒中情報システム事業より-須永 恭子(スナガ キョウコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 遠藤 俊朗(エンドウ シュンロウ)野村 忠雄(ノムラ タダオ) 野原 哲夫(ノハラ テツオ) 福田 孜(フクダ ツトム) 垣内 孝子(カキウチ タカコ) 木谷 隆一(キタニ リュウイチ) 飯田 博行(イイダ ヒロユキ) 瀬尾 迪夫(セオ ミチオ) |
目的 入院患者数増と高齢化が進む脳卒中患者の自宅退院には,社会的支援が必要な場合が多く,在宅療養サービス利用の増加が予測される。そこで,富山県脳卒中ケアシステム事業登録者の自宅退院割合と富山県の在宅療養支援サービスの充足・利用状況を把握し,社会的支援の影響下,脳卒中患者の自宅退院の動向を考察した。
方法 富山県脳卒中情報システム事業の登録者のうち,発症年が平成3年7月から平成15年12月で,退院時死亡と退院先未定を除いた14,952名を抽出した。そのうち,30歳以上の14,040名と55歳以上の12,160名を分析の対象とした。分析には,登録情報のうち,「退院先・年齢・発症年・自力による行動範囲・認知症状の有無」を使用した。自宅退院の概況として30歳以上の性別・年齢別・発症年次(時代)別の各々について自宅退院割合を,自宅退院の時代変遷として,1991~1993年を基準に年齢調整自宅退院比と時代以外の影響を調整した自宅退院のオッズ比を求めた。
結果 退院先の割合は,自宅退院が最も高く69.9%で,次いで転院,その他の順だった。年齢別,時代別の動向では,男女ともに高齢と時代推移に伴い自宅退院割合はおおむね減少していた。1991~1993年を基準とした時代別年齢調整自宅退院比では,男性の1994~1995年のみ1を越え,それ以外では男女ともに1未満であった。自宅退院のオッズ比について,1991~1993年に対する各時代群の結果は,すべて1以下で,時代推移に伴い低下していたが,介護保険開始年の2000~2001年では,その低下の傾きがやや緩やかになっていた。医療・福祉制度改正を考慮し,介護保険開始以降,各施設数・利用者数の推移を社会的支援の時代変遷として確認した。富山県の療養型病床群の病床数・新患者数は経年的に増加し,平成12~15年の病床利用率は90%台であった。また,介護老人福祉施設,介護老人保健施設の利用者数増加率は全国より高く,介護老人福祉施設の方が高かった。
結論 自宅退院割合の時代推移に伴う低下が明らかになった。この低下を介護保険開始以降の在宅療養サービスにおける各施設数・利用状況から検討した結果,介護老人福祉施設・療養型病床群の施設充実とその利用が進む中,脳卒中患者は退院先の幅を広げ,自宅退院以外を選択していることが考えられた。
キーワード 脳卒中,自宅退院,脳卒中情報システム事業,介護保険
第54巻第5号 2007年5月 健診実施の適正間隔に関する検討須賀 万智(スカマチ) 吉田 勝美(ヨシダカツミ) |
目的 定期健診を効率的かつ効果的なものにするために,健診の内容(項目)を見直す動きがあるが,健診実施の適正間隔に関する検討もまた必要である。本研究では,健診実施の適正間隔について,某事務系事業所の定期健診データベースを用いて,異常所見のない状態が連続している者における健診実施の省略の可否を検討した。
方法 某事務系事業所の定期健診データベースから,BMI,血圧,空腹時血糖,総コレステロール,中性脂肪,尿酸の6項目を①連続4年分得られた30~59歳の男性12,045名,女性1,708名,②連続5年分得られた30~59歳の男性10,959名,女性1,496名を対象とした。①の連続4年分のデータでは2年連続異常所見のない者,②の連続5年分のデータでは3年連続異常所見のない者を項目ごとに抽出して,(A)「1年後の検査から検出された異常所見の割合(1年後有所見率)」と「1年後と2年後の検査から検出された異常所見の割合(2年間累積有所見率)」,(B)「1年後と2年後の検査から検出された異常所見の割合(2年間累積有所見率)」と「2年後の検査から検出された異常所見の割合(2年後有所見率)」について,性別,年齢別,BMI別に,二項分布のZ値による率の差の検定を実施した。
結果 (A)の1年後有所見率と2年間累積有所見率の比較について,男性は5項目すべてで有意差を認めた。女性は高血糖について3年連続異常所見のない45~59歳群と2年連続異常所見のない肥満なし群,高中性脂肪について2年連続異常所見のない45~59歳群と3年連続異常所見のない肥満あり群,高尿酸について2年連続異常所見のない者のすべての群で有意差を認めず,それ以外については有意差を認めた。(B)の2年間累積有所見率と2年後有所見率の比較について,男性は5項目すべてで有意差を認めた。女性は高血糖について2年連続異常所見のない者の30~44歳群を除いたすべての群と3年連続異常所見のない者のすべての群,高コレステロールと高中性脂肪について3年連続異常所見のない45~59歳群,高尿酸について2年連続異常所見のない者および3年連続異常所見のない者のすべての群で有意差を認めず,それ以外については有意差を認めた。
結論 血圧,空腹時血糖,総コレステロール,中性脂肪,尿酸の5項目のうち,尿酸は2年連続異常所見がない女性において翌年の検査を省略しうるが,それ以外は少なくとも年1回検査することを原則にすべきと考えられた。
キーワード 定期健診,検査間隔,生活習慣病予防
第54巻第5号 2007年5月 介護予防施策における対象者抽出の課題-特定高齢者と要支援高齢者の階層的な関係の検証-石橋 智昭(イシバシトモアキ) 池上 直己(イケガミナオキ) |
目的 厚生労働省によって新たに提示された介護予防施策では,「一般高齢者」「特定高齢者」「要支援高齢者」「要介護高齢者」の4つの階層を用意し,対象と給付の関係を明確化した。しかし対象者の選定には『基本チェックリスト』と『要介護認定方式』が並行的に運用され,そこから抽出される「特定高齢者」と「要支援高齢者」の境界や階層性の関係は,いまだに明らかにされていない。本研究では,「要支援高齢者」の候補者である旧要支援,旧要介護1の認定者に対して,『基本チェックリスト』により試行的に判定し,「特定高齢者」と「要支援高齢者」との間の階層的な関係について検証を行った。
方法 対象は,東京都A市において旧要支援,旧要介護1の認定を受けた者のうち,介護保険以外の生活支援型サービスを利用している在宅高齢者767名である。調査は,2006年2月に自記式の郵送調査によって実施し,回収率は92.3%であった。調査内容は,厚生労働省の『基本チェックリスト』およびIADL(手段的日常生活動作)5項目の遂行能力を問う項目を用いた。本研究では,すべての調査項目に回答した456名(旧要支援:107名,旧要介護1:349名)を分析対象とした。
結果 旧要支援,旧要介護1の認定者に『基本チェックリスト』による判定を試行した結果,特定高齢者に選定されたのは,旧要支援では33.6%,旧要介護1では57.8%となり,「要支援高齢者」であるにもかかわらず「特定高齢者」には選定されないケース,つまり施策の想定とは逆の階層関係となるケースが,約半数に出現することが明らかとなった。次にIADL5項目による自立者の割合を確認した結果,旧要支援,旧要介護1認定者の54.8%がすべてのIADL項目が自立していた。これに対して,IADLが非自立であった者の4分の1に当たる25.7%が特定高齢者に選定されなかった。
結論 2つの異なる基準から抽出された特定高齢者と要支援高齢者の間には,階層関係が逆転しているケースが約半数にみられ,両者を階層的に位置づけるのは困難であることが明らかとなった。その要因の1つは,新たに開発された基本チェックリストが,要介護認定との階層的な関係を十分に考慮せずに作成されたことにある。もう1つは,要介護認定方式が,IADLの能力を適切にスクリーニングできず,自立(非該当)との境界が曖昧になっている点が示唆された。今後,介護予防施策を一貫したシステムとして構築するためには,介護予防施策の対象者の統合も含めて,基本チェックリストと要介護認定方式の抜本的な見直しが不可欠である。
キーワード 介護予防,要介護認定方式,基本チェックリスト,給付区分,特定高齢者
第54巻第5号 2007年5月 がん検診受診行動に関する市民意識調査川上 ちひろ(カワカミ) 岡本 直幸(オカモトナオユキ) 大重 賢治(オオシゲケンジ)杤久保 修(トチクボオサム) |
目的 日本が世界一の長寿国であることはすでに周知の事実であるが,この長寿による人口の高齢化に伴い死亡原因も大きく変化し,昭和56年以降,死因の第1位はがんである。がん対策は高齢化社会での重要な保健政策課題であり,なかでも,がん検診の受診率を向上させることは早期発見・早期治療を行う上で非常に重要になってきている。本研究では,がん検診の受診行動に影響を与える要因について質問票による調査を実施し分析を行った。
方法 横浜市在住の40~69歳の男女3,000人を対象に無記名自記式による質問票調査を行った。調査実施期間は平成18年2~3月であり,この間に調査票の配布,回収を行った。本研究では40歳代の回答率が30%に届かなかったため,50・60歳代の回答について分析を行った。50・60歳代への質問票送付は2,000通で,21通があて先不明等にて返送,611人より回答を得た(回答率30.9%)。主な調査項目は,1)がん検診の受診経験,2)病気の予防に対する責任,3)病気の予防に支払える金額,4)がん検診を受診する際の受診行動に影響を与える因子(コンジョイント分析)である。本調査では,検診場所,自己負担額,検診の所要時間,検診の信頼性を受診行動に影響を与える因子として設定し分析した。
結果 1)がん検診の受診経験は,年1回受診(35.8%),数年に1回受診(30.3%),受診経験なし(33.2%)であった。2)病気の予防に対する責任について,責任者を個人・行政(市町村)・国の3者に分け,全体で100%になるように回答を求めた。個人の責任が50%と回答した人が24.5%と最も多く,次いで60~70%と回答した人が21.3%だった。3)世帯全体で1年間に病気の予防に支払える金額を尋ねた結果,1万円以上5万円未満との回答が,最も多く43.7%であった。4)仮想状況でのがん検診受診希望を質問した結果,がん検診の受診行動に影響を与える因子は検診にかかる時間と費用であった。
結論 病気の予防は個人の責任で行うべきとの回答者が多い反面,がん検診に費用や時間をかけることができないという回答が多かった。このことを踏まえ,住民にとって受診行動を起こしやすくなるような検診システムを構築し受診率を向上させることが,早期発見・早期治療のための課題のひとつであると考えられる。
キーワード がん検診,受診率,質問票調査,受診行動,コンジョイント分析
第54巻第5号 2007年5月 保健医療福祉分野における地方自治体の施策の目標と指標橋本 修二(ハシモトシュウジ) 逢見 憲一(オオミケンイチ) 曽根 智史(ソネトモフミ)遠藤 弘良(エンドウヒロヨシ) 浅沼 一成(アサヌマカズナリ) 中嶋 潤(ナカジマジュン) 浜田 淳(ハマダジュン) 三觜 文雄(ミツハシフミオ) 藤崎 清道(フジサキキヨミチ) |
目的 保健医療福祉分野において地方自治体の施策の推進上,その目指す目標と実施状況について,複数の地方自治体を広域的な視点から比較することが重要と考えられる。ここでは,地方自治体の施策が目指す目標およびその実施状況を表す指標について,選定の基本的考え方を定めるとともに,具体案の作成を試みた。
方法 複数の専門家が議論を重ね,全員の合意によって選定の基本的考え方を定めた。その基本的考え方に従って,保健医療福祉のあるべき姿や地域差の状況などを考慮しつつ,同様の進め方により具体案を作成した。
結果 基本的考え方において,選定のねらいは保健医療福祉分野における地方自治体による施策の実施状況を把握し,今後の施策の推進に資することと定めた。目標の選定では地域住民の視点に基づくこと,基本的目標,目標,具体的目標の層的構造とした。指標の選定では具体的目標に対応すること,結果指標,中間指標,取り組み指標の層的構造とした。結果指標は具体的目標の達成状況を,取り組み指標は施策の投入した量と質を,中間指標はその中間段階の進捗状況を表すものとした。具体案において,基本的目標は「健康で安心して暮らせる地域社会」「生きがいと尊厳をもって暮らせる地域社会」「安心して子育てできる地域社会」の3つとした。基本的目標ごとに3つの目標,目標ごとに1~4の具体的目標とした。具体的目標ごとに,1~4の結果指標,0~5の中間指標,1~5の取り組み指標を定めるとともに,評価・留意点を示した。
結論 目標と指標の選定の基本的考え方と具体案を提示した。今後,実際の使用に向けて様々な面から検討を重ねることが重要であろう。
キーワード 指標,施策,保健医療福祉,地方自治体
第54巻第5号 2007年5月 質問紙健康調査票THIに対する新総合尺度の特性と有効性浅野 弘明(アサノヒロアキ) 竹内 一夫(タケウチカズオ) 笹澤 吉明(ササザワヨシアキ)大谷 哲也(オオタニテツヤ) 小山 洋(コヤマヒロシ) 鈴木 庄亮(スズキショウスケ) |
目的 質問紙健康調査票THI(Total Health Index)は,妥当性や信頼性の検討が数多くなされ,様々な疫学調査で応用されるとともに,職場・地域・学校における健康増進活動にも利用されてきた。THI調査に対するパソコン支援システムの開発を契機に,基準集団を見直し新基準集団を設定するとともに,従来の尺度に主成分分析を適用し構築した新総合尺度の利用を開始した。その後の調査で新総合尺度の有効性が確認できたので,死亡傾向との関連性も含め報告する。
方法 2003年に設定した新基準集団のデータを用い,「多愁訴,呼吸器,目と皮膚,口と肛門,消化器,直情径行,虚構性,情緒不安定,抑うつ,攻撃性,神経質,生活不規則」の12尺度に対し主成分分析を適用し,T1,T2の2主成分を導出した。必要な統計処理を行い,特徴を抽出するとともにその有効性を検証した。また,7年後の死亡・転出データに対しCoxの比例ハザードモデルを適用し,T1,T2と死亡傾向の関連性についても検討した。
結果 第1主成分T1は,全尺度の変動をよく吸収していた。特に,T1が5ptl(パーセンタイル値)未満あるいは95ptl以上の場合,12尺度の個人変動はほぼ平均的パターンに限定され,健康状態を総合的に判定する指標として好ましい性質を持つことが確認された。さらに,死亡傾向とも統計的に有意な関連性が認められ,T1が中央値から95ptlまで上昇する(健康状態が悪くなる)と死亡リスクが1.4倍になることが判明した。これに対してT2は,1尺度並の情報しか有しておらず,さらに,死亡との関連も明確ではなかったが,心と体の健康バランスを示しており,T1を補足する指標として活用できることが示唆された。
考察・まとめ パソコンを利用した支援システム「THIプラス」の開発を契機に,アドバイスシートの返却を開始した。その過程で,12尺度+3傾向値を要約する総合尺度が必要となった。今回構築したT1は,総合尺度としてふさわしい性質を持つばかりでなく,身体表現性障害とも密接に関連しており,意義深い尺度になっていることが確認された。また,T2は従来の尺度・傾向値にはない特徴を有しており,これらと併用できることが示唆された。今回の知見を活用し,個人の心の健康対策や生活習慣病の予防に役立つ,より有効なアドバイスシステムを構築していきたいと考えている。
キーワード THI,質問紙健康調査票,総合尺度,死亡リスク
第54巻第4号 2007年4月 基準病床数制度による病床数への影響に関する研究-入院需要量の変化に対する病床数の変化について-溝口 達弘(ミゾグチ タツヒロ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ) |
目的 基準病床数制度が,病床数の増減に与えた影響を明らかにし,また,もし仮に,現状で基準病床数制度を廃止した場合に,どの程度病床が増床するのか検討することを目的とした。
方法 対象は,病床の種別にかかわらず病院における全病床および全入院患者とした。病床供給の検討は,入院需要量の変化を考慮した上で行うこととし,入院需要量の変化として,予想される入院患者数の年次推移を推計し用いることとした。推計は昭和59年,昭和62年,平成2年,平成5年,平成8年の5つの時点を基準として行った。推計された5つの入院患者数の年次推移を,それぞれ基準とした時点のモデルと呼ぶこととし,各モデルの比較検討,実際の人口との関連および実際の病床数との比較,基準病床数制度導入前のモデルから求めた平成16年の病床数と実際の病床数との比較を行った。
結果 5つのモデルは,いずれも年々増加する結果となった。平成16年時点において比較すると,多い方から,昭和62年モデル,平成2年モデル,昭和59年モデル,平成5年モデル,平成8年モデルの順であった。いずれのモデルにおいても,総人口との相関が強く,それ以上に65歳以上人口との相関が強かった。65歳未満人口とは負の相関が強かった。基準病床数制度導入前のモデルから算出された病床数と実際の平成16年の病床数との差は,53~62万床であった。
結論 必要病床数制度が制定されて以降現在に至るまで,入院需要は高齢化による影響で常に増加傾向にあり,介入等何らかの要因がない限り,病床数も増加しようとする傾向があったと考えられた。必要病床数制度導入以降,予想される入院需要の増加を上回る病床数の増加が一時的にあったものの,平成5年以降は,入院需要の増加に対して病床数は減少し,昭和59年時点と比べて限定された入院需要にしか対応できていないことが示唆された。また,基準病床数制度を撤廃すると,平成16年現在で,約50万床以上増床する可能性があることが示唆された。
キーワード 医療計画,病床規制,基準病床数,必要病床数,入院需要
第54巻第6号 2007年6月 健康危機管理事件発生時のリスクコミュニケーションにおける
今村 知明(イマムラ トモアキ) 下田 智久(シモダ トモヒサ) 小田 清一(オダ セイイチ) |
目的 過去の食品災禍事件における公的情報提供(文字情報)と報道内容の間に発生した情報格差を把握するとともに,その発生原因を分析することで,良好なリスクコミュニケーションの実施に資する。
方法 O157事件,BSE事件において,関係行政機関が提供した文字情報と国内主要紙の報道内容を比較し,格差の有無の確認,発生状況を把握・分析し,この原因について考察した。
結果 O157事件では,厚生省(当時)が中間報告したO157の感染源に関する調査結果について報告書の中で感染源の特定を否定したが,報道の中には「感染源が特定した」との印象を与えるものもあった。BSE事件では,スクリーニング検査陽性(確定検査では陰性)の検体の発生に関する情報提供について,「偽陽性」と「疑陽性」を混同した報道も散見された。
結論 公的情報提供と報道内容の格差は,「事実の捉え方の相違」や「報道機関の表現方法の選択」により発生するものと推測される。これらに起因する情報格差の発生を抑止するためには,関係行政機関が報道関係者と日頃からコミュニケーションを図るとともに,正確な情報伝達や発信情報の一元化を行うための体制の確立が必要である。
キーワード 大規模健康被害,健康危機管理,リスクコミュニケーション,報道
第54巻第6号 2007年6月 無職世帯における乳児死亡・周産期死亡・死産西 基(ニシ モトイ) 三宅 浩次(ミヤケ ヒロツグ) |
目的 わが国の無職世帯における乳児死亡・周産期死亡・自然死産・人工死産の特徴を検討する。
方法 1995年から2004年までの10年間の乳児死亡・周産期死亡・自然死産・人工死産につき,人口動態統計の世帯主の職業別の統計資料を基に,無職世帯に着目して分析した。
結果 「勤労者2の世帯」が,これらの指標すべてで最低(最良)の値を示したのに対し,無職世帯はすべてで最高(最悪)の値を示し,かつそれらの値は突出して高かった。10年間の通算で,無職世帯の乳児死亡率は「すべての世帯」の4.2倍,周産期死亡率は2.3倍,自然死産率は2.6倍,人工死産率は8.4倍にのぼった。無職世帯のこれらの率が「すべての世帯」と同等であったと仮定すると,今回の10年間で2,300人余りの乳児死亡,1,700件余りの周産期死亡,5,500件余りの自然死産,34,000件余りの人工死産が,それぞれ減少傾向はうかがえるものの,過剰に存在したと推測された。母年齢階級別の検討では,若年における人工死産が多いことが目立った。
結論 世帯の収入が少ないことが,そうでなければ普通に出生・成長したであろう生命を喪失させる原因の1つと考えられ,無職世帯に対する経済的援助は,わが国の少子化を抑制する手段として有効であると思われた。
キーワード 無職,人口動態統計,乳児死亡,周産期死亡,死産
第54巻第6号 2007年6月 日本語版「ソーシャル・サポート尺度」の信頼性ならびに妥当性-中高年者を対象とした検討-岩佐 一(イワサ ハジメ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ) 増井 幸恵(マスイ ユキエ)稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) 河合 千恵子(カワアイ チエコ) 大塚 理加(オオツカ リカ) 小川 まどか(オガワ マドカ) 髙山 緑(タカヤマ ミドリ) 藺牟田 洋美(イムタ ヒロミ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ) |
目的 本研究は,Zimet GDらが開発した「ソーシャル・サポート尺度」(Multidimensional Scale of Perceived Social Support)の日本語版を作成し,中高年者を対象として信頼性ならびに妥当性の検討,短縮版尺度の作成を行うことを目的とした。
方法 58~83歳の中高年者1,891人(男性760人,女性1,131人)を分析の対象とした。ソーシャル・サポート尺度は12項目から成り,回答は7件法(1:「全くそう思わない」~7:「非常にそう思う」)で求め,ソーシャル・サポート尺度全体ならびに下位尺度ごとに平均値を算出し得点化した。得点が高いほどソーシャル・サポートが高いことを意味する。その他,居住形態,婚姻状況,親友の人数,親子関係満足度,夫婦関係満足度,General Health Questionnaire 28項目版(GHQ)を測定し分析に用いた。
結果 ソーシャル・サポート尺度の因子分析を行ったところ,原版と同様の3因子構造(「家族のサポート」「大切な人のサポート」「友人のサポート」)が確認された。内的整合性の指標であるクロンバックのα係数を算出したところ,ソーシャル・サポート尺度と3つの下位尺度におけるα係数は,それぞれ,0.91,0.94,0.88,0.90であり,十分な信頼性を有していることが示された。ソーシャル・サポート尺度ならびに3つの下位尺度と居住形態,婚姻状況,親友の人数,親子関係満足度,夫婦関係満足度,GHQ間には関連が認められ,上記要因を外部基準とした場合の妥当性を有していることが示された。また,7項目から成る「ソーシャル・サポート尺度短縮版」は,ソーシャル・サポート尺度12項目版と高い正の相関関係にあり,得点分布形状,性差ならびに年齢差は12項目版と同様の傾向を示し,信頼性ならびに妥当性を有していることが示された。
結論 ソーシャル・サポート尺度日本語版ならびに同短縮版は信頼性ならびに妥当性を備え,中高年者におけるソーシャル・サポートの測定指標として有用であることが考えられる。
キーワード ソーシャル・サポート尺度,中高年者,信頼性,妥当性,横断調査
第54巻第6号 2007年6月 幼児期における子育ち環境が学童期の子どもの心身の健康に及ぼす影響安梅 勅江(アンメ トキエ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)丸山 昭子(マルヤマ アキコ) 田中 裕(タナカ ヒロシ) 酒井 初恵(サカイ ハツエ) 宮崎 勝宣(ミヤザキ カツノブ) 小林 昭雄(コバヤシ アキオ) 宮本 由加里(ミヤモト ユカリ) 天久 真吾(アマヒ サシンゴ) 埋橋 玲子(ウズハシ レイコ) |
目的 本研究は,幼児期の子育ち環境が学童期の子どもの心身の健康にどのような影響を及ぼすのか実証的な根拠を得ることを目的とした。
方法 対象は,2005年に全国19カ所の保育園の卒園児調査に参加した134名であり,2002~2004年にその保育園に在籍した際,保育園児調査に参加した者131名を対象とした。学童期の心身の健康に,幼児期に把握した保育専門職の評価に基づく発達状況,気になる行動,保育時間,保護者の回答に基づく育児評価,子どもと家族の属性が及ぼす影響を多重ロジスティック回帰分析により明らかにした。
結果 幼児期に「家庭で歌を歌う機会等に乏しい」場合,機会のある場合に比較して,学童期に「いらいらする」12.20倍,「不機嫌で怒りっぽい」15.69倍多くなっていた。幼児期に「同世代の子どもを訪問する機会に乏しい」場合,機会がある場合に比較して,学童期に「疲れやすい」4.83倍,幼児期に「育児支援者がいない」場合,いる場合と比較して,学童期に「疲れやすい」が5.65倍,幼児期に「育児相談者がいない」場合,いる場合と比較して,学童期に「あまり頑張れない」が44.05倍,幼児期に「配偶者の子育て協力が得られない」場合に,得られる場合と比較して,学童期に「勉強が手につかない」が33.54倍,幼児期に「保護者の育児への自信がない」場合に,ある場合と比較して,学童期に「誰かに怒りをぶつけたい」が7.03倍,多くなっていた。
考察 学童期の子どもの心身の健康と,幼児期の家庭における適切なかかわりや保護者へのサポートの関連性が示され,子どもと保護者を対象にした子育て支援の重要性が示唆された。
キーワード 学童,子育ち環境,コホート研究,子育て支援
第54巻第6号 2007年6月 健康保険組合被保険者の医療受診における所得効果川添 希(カワゾエノゾミ) 馬場園 明(ババゾノアキラ) |
目的 医療アクセスが良いことで高い評価を得てきたわが国の医療制度において,医療費の抑制を目的とした患者自己負担の引き上げが行われてきている。公正な医療アクセスを保障することは国民皆保険制度において重要な課題であることから,医療受診における所得効果を検証することが重要である。平成14年度末の健康保険組合のデータを用いて,被保険者本人,家族,幼児について,入院,外来,歯科別の受診行動への所得効果に影響を与える指標を明らかにすることを目的として本研究を行った。
方法 被保険者本人,家族,幼児について,入院,外来,歯科別の受診率,1件当たり診療日数,1人当たり医療費を受診の指標として用いた。健康保険組合において受診に影響を与える組合特性としては,被保険者数,扶養率(扶養者数/被保険者数),老人加入率(老人加入者数/全加入者数),平均標準報酬月額,被保険者の平均年齢,性比(男性の被保険者数/女性の被保険者数)を選択した。受診指標を目的変数,組合特性を説明変数とし,強制投入法で重回帰分析を行った。影響は標準偏回帰係数によって定量化し,モデルは決定係数で検証した。統計解析には,SPSSのPC版(13.0J)を用いた。
結果 入院の受診指標については,被保険者本人,家族,幼児ともに平均標準報酬月額や扶養率との明らかな関連は認められなかった。外来と歯科の受診率については,平均標準報酬月額と正の相関,扶養率と負の相関,外来と歯科の診療日数については,平均標準報酬月額と負の相関が認められた。幼児の受診指標については,平均標準報酬月額との関連は認められなかった。
結論 外来や歯科受診において,所得が低ければ受診率が低くなり,受診日数が長くなる傾向が認められた。これは,自己負担が一層重くなった場合,低所得者の医療アクセスを確保しなければ,必要な受診が控えられる可能性があることを示唆している。また,生活習慣病など自覚症状に乏しい疾患では,自己負担が重くなると受診が抑制されることが予想され,予防事業などを充実させていくことが必要であると考えられる。
キーワード 受診指標,健康保険,強制加入,定率負担,高額療養費制度,所得効果
第54巻第6号 2007年6月 メタボリック・シンドロームからみた生活習慣病対策の重要性鈴木 賢二(スズキ ケンジ) 石塚 範雄(イシヅ カノリオ) 枡田 喜文(マスダ ヨシフミ)富所 直美(トミドコロ ナオミ) 森 誠(モリ マコト) 荒井 親雄(アライ チカオ) 柏倉 義弘(カシワクラ ヨシヒロ) |
目的 メタボリックシンドロームを対象とした生活習慣病予防対策の重要性を検討し,当該対策を実現するための具体的な方法を考察する。
方法 安定した結果を得るために職域大規模集団を対象として,メタボリックシンドロームの病態(①肥満:BMI≧25,②高脂血症:中性脂肪≧150㎎/dlまたはHDLコレステロール<40㎎/dl,③高血糖:空腹時血糖≧110㎎/dl,④高血圧:収縮期血圧≧130㎜Hgまたは拡張期血圧≧85㎜Hg)について集積パターンの発現率を求め,1995,2000,2004年度の年次推移と各集積パターンにおける冠動脈硬化・眼底動脈硬化の出現率を検討した。
結果 (1)いずれか1個保有群,2個集積群,3個以上集積群とも,1995~2004年度において増加傾向を示した。(2)心電図虚血性変化は,健常群に対して男性の3個集積群で8.2~14.5倍,4個集積群で10.6~31.7倍,眼底動脈硬化性変化は3個集積群で男性10.0~56.0倍,女性0~54.2倍,4個集積群では男性24.0~106.8倍,女性0~83.9倍のリスクを示した。(3)各集積パターンにおける心電図虚血性変化,眼底動脈硬化性変化の出現率は,男女とも全年齢層で集積数が多くなるに伴い高頻度となった。
考察 (1)各病態の程度が軽くてもその集積が単独より危険度を増し,冠動脈硬化・眼底動脈硬化を合併しやすく,脳心血管疾患発症の基盤として重要となる。(2)メタボリックシンドロームの予備群を抽出するための健診は各制度とも受診率が低く,健診会場に出向かなければ受けられない従来の健診では受診率アップに限界がある。
キーワード メタボリックシンドローム,動脈硬化性所見,生活習慣病予防対策,健診受診率
第54巻第6号 2007年6月 小中学校における子ども虐待対応構造に関する考察-子ども虐待に関する知識の組織内配分と意思決定手続きに注目して-澁谷 昌史(シブヤマサシ) |
目的 本研究は,公立小中学校において虐待対応に不可欠な法制度上の知識がどのように共有され,またどのように対応が進められているのかに焦点を当てながら,その虐待対応構造にかかる現状把握および提言を行うものである。
方法 全国の公立小中学校から5%の無作為抽出を行い(小学校1,158カ所,中学校515カ所),学校単位で回答する「基本調査票」「事例調査票」,教職員個人が回答する「意識調査票」の3種類の調査票を郵送法にて配布・回収した。調査期間は平成17年6月24日より同年7月末日とした。
結果 小学校1,013カ所,中学校439カ所から回答があった(回収率はそれぞれ87.5%,85.2%)。意識調査に回答した教職員は,小中学校あわせて17,056名であった。主たる結果から,校長や教頭が虐待対応の知識を比較的多く所有する傾向にあり,同時に校内における虐待対応方針決定の鍵を握っているものと考えられた(ただし,中学校の場合は生徒指導主事が意思決定の要となっている場合も多かった)。また,校内チーム体制と専門的知識の不足が,学校としての対応に不安定性をもたらしている可能性が示唆された。
結論 すべての教職員に対して研修機会を保障することで虐待対応の基本事項を周知するとともに,チーム体制整備の周知徹底や,虐待対応にかかる専門家派遣制度の創設など,小中学校における虐待対応構造に安定性をもたらす要素を加えていく必要があると提言した。
キーワード 子ども虐待,対応構造,小中学校
第54巻第7号 2007年7月 都道府県介護支援専門員相談窓口の運営実態および医師・弁護士による関与吉江 悟(ヨシエ サトル) |
目的 全国の都道府県に設置されている介護支援専門員向け相談窓口の運営状況や医師・弁護士による関与状況についての実態把握を行い,より効果的・効率的な相談窓口のあり方を検討することを行うことを目的とした。
方法 2005年1~2月に,都道府県ケアマネジメントリーダー活動等支援事業による相談窓口を開設している機関の相談員47名(各県1名)を対象として郵送質問紙調査を実施し,36名から回答を得た。
結果 36都道府県中,29都道府県(81%)で介護支援専門員相談窓口が設置されていた。開設頻度や相談員の人数等,窓口の運営状況は多様であった。相談内容については,個人情報を記録に残している場合が半数以上であり,相談への対応方法の中で,少数ではあるが相談員が直接利用者・家族へ連絡するという対応も取られていた。専門職の関与状況については,医師・弁護士・臨床心理士といった介護以外の領域の専門職が関与している都道府県が少数ながらみられた。また,医師や弁護士の関与に対しては,回答者の6割以上がその必要性を感じており,既に医師・弁護士が関与している都道府県においては,その割合はより高かった。
結論 本研究により,全国における都道府県介護支援専門員相談窓口の多様な実態が明らかになったが,個人情報に関しては,基本的には相談の匿名性が確保された範囲で窓口を運営するのが望ましい。また,回答者の過半数が医師・弁護士の関与を望んでいた。関与の仕方については,導入としては相談員に助言をするという間接的な関わりで十分だと考えられるが,弁護士や臨床心理士については,相談者への助言や面接等の直接的関与が有効である可能性がある。
キーワード 介護支援専門員,ケアマネジメント,相談窓口,医師,弁護士
第54巻第7号 2007年7月 保健医療福祉統計に基づく高齢者の平均自立期間の推移加藤 昌弘(カトウ マサヒロ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)林 正幸(ハヤシ マサユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) |
目的 保健医療福祉統計に基づく要介護者割合を用いて,1995年の高齢者の平均自立期間が橋本・宮下らにより算定(以下,旧法)されたが,それ以後は調査内容の変更に伴って,同一の定義による要介護者割合を求められない。本研究では,いくつかの異なる定義による要介護者割合を用いて,1995年から2001年の平均自立期間の推移を検討した。
方法 資料は1995年・1998・2001の複数の統計から得た。要介護者の定義として,区分①(要介護の在宅者,医療施設の要介護入院者,老人保健施設と老人福祉施設の在所者),区分②(日常生活動作に影響ありの在宅者,医療施設の入院者,老人保健施設と老人福祉施設の在所者)などの7通りを用いた。区分①が旧法であり,区分②のみが1995年・1998・2001とも利用可能であった。7通りの要介護者割合を用いて旧法と同じ方法で,平均自立期間を都道府県別に算定した。
結果 1995年の65歳時の平均自立期間をみると,7通りの全国値は男で最長が区分①の15.1年,最短が区分②の13.9年であり,女でも同様にそれぞれが18.4年と16.9年であった。区分①と区分②による都道府県の値の相関係数は男で0.87,女で0.76であった。1995年から2001年において,区分②による65歳時の平均自立期間は男女ともにいずれの都道府県も延長しており,その延びは全国値で男が0.8年と女が0.6年であった。65歳時平均余命に占める平均自立期間の割合には上昇傾向が認められなかった。
結論 要介護の定義には問題があるものの,平均自立期間は1995年から2001年の間で延長していることが示唆された。今後,平均自立期間は介護保険の要介護度に基づいて算定することが考えられる。
キーワード 健康指標,健康寿命,平均自立期間,保健統計
第54巻第7号 2007年7月 高齢者におけるQuality of Lifeの縦断的変化に関する研究-静岡県高齢者保健福祉圏域別の検討を中心として-久保田 晃生(クボタ アキオ) 永田 順子(ナガタ ジュンコ) 杉山 眞澄(スグヤマ マスミ)藤田 信(フジタ マコト) 高田 和子(タカダ カズコ) 太田 壽城(オオタ トシキ) |
目的 本研究は,静岡県における大規模縦断調査の結果を分析し,高齢者のQOLを構成する要素が,6年間でどのように変化するのか明らかにした後,本県内圏域別に6年間のQOLの変化を算出し地域格差を確認した。さらに,圏域別の6年間のQOLの変化と,社会生活指標との関連について分析を加え検討を行った。これらにより,高齢者のQOLの維持・向上を図るための社会的な計画や施策を立案する際の参考になる基礎的な資料を得ることを目的とした。
方法 1999年10月1日時点で静岡県内に在住していた65歳以上の者を,静岡県内の全市町村から,性・年齢階級(65~74歳,75~84歳)別に75人ずつ層化無作為抽出して調査対象者とし(計22,000人),同年12月に郵送留置法で,QOLとライフスタイルについて調査した。なお,有効回答が得られた者に対しては,3年後と6年後に再度,郵送留置法にて同内容を調査した。この調査で得られた結果を基に,QOLの状態を得点化し,性・年齢階級別および圏域別の経年的な変化を観察した。さらに,圏域別のQOLに関しては,社会生活指標との関連を分析した。
結果 高齢者のQOLは,6年間という比較的短い期間にも関わらず,加齢とともに低下することが明らかとなった。QOLを構成する要素では,生活活動力で年齢階級差,精神的健康で性差が顕著に認められた。また,QOLの変化が少なかった要素は,人的サポート満足感と経済的ゆとり満足感であった。一方,圏域別ではQOLの明らかな差は認められなかったが,圏域別のQOLの縦断的変化には,「保健師数」「高齢者のいる世帯割合」「ショートステイ年間利用日数」が有意な関連を示した。
結論 短期間でも低下しやすい高齢者のQOLの維持・向上を図るためには,家族や保健活動による支援を受けながら,可能な限り家庭で生活できるような圏域および地域づくりが重要ではないかと考えられた。
キーワード 高齢者,QOL,社会生活指標,圏域差,縦断調査
第54巻第7号 2007年7月 保健師の支援による高齢者の食生活の変化および医療費推移との関連神山 吉輝(カミヤマ ヨシキ) 小出 昭太郎(コイデ ショウタロウ)川口 毅(カワグチ タケシ) 青木 啓子(アオキ ケイコ) |
目的 保健師の高齢者に対する家庭訪問保健事業において行われた食生活指導について,高齢者の行動変容と医療経済効果の面から評価すること。
方法 三重県美里村(現,津市美里町)において行われた65歳以上の高齢者の全数訪問事業において,初年度と翌年の訪問時の保健師による食生活状況の記録と医療費データとを個人ごとにレコードリンケージし,高齢者の行動の変化および医療費の推移を追跡した。
結果 初年度に食生活指導があった者はなかった者に比べて,より大きな割合で食生活行動が変化していた。食事で気を付けているものがなかった男性では,翌年までの食生活行動の変化の割合が小さかった。食生活指導を受けて,翌年までに食行動が変化していた者は変化しなかった者に比べて,1人当たり累積医療費がより低く推移していた。
結論 保健師による高齢者に対する食生活指導が実際に高齢者の食生活行動を変化させていることが示唆された。また,食生活指導後の食生活行動の変化が医療費の削減に繋がる可能性が示唆された。
キーワード 食生活,高齢者,保健師,訪問指導,行動変容,医療費
第54巻第7号 2007年7月 ケアワーカーの情報把握の構造とその関連要因に関する研究-施設高齢者の精神心理状況の情報把握調査をもとに-笠原 幸子(カサハラ サチコ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ) |
目的 本研究は,ケアワーカーが行う施設高齢者の精神心理状況に対する情報把握の構造とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とする。
方法 全国の介護老人福祉施設を無作為に600カ所抽出した。ケアプラン作成に携わっている施設のケアワーカー(各施設1名の介護福祉士)を対象に,郵送調査を行い346名より回答を得た。高齢者ケアにおいて必要な情報(精神心理状況に限定)を20項目設定し,4段階の回答選択肢でたずねた。精神心理状況の構成因子を実証的に捉えるために,因子分析を行った。さらに,関連する要因を明らかにするために重回帰分析を行った。
結果 因子分析の結果「思考傾向」「認知と意識の状態」「好み」の3因子が抽出された。さらに,上記3因子をそれぞれ従属変数とし,「対人援助職としての価値」「援助関係の形成」,基本的属性等を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,「援助関係の形成」等が高齢者の精神心理状況の情報把握に有意な要因であった。
結論 本研究の成果として,ケアワーカーが行う情報把握の実践は,高齢者との援助関係の形成と不可分の関係にあることが理解できた。また,「対人援助職としての価値」といった理念や視点ではなく,高齢者との「援助関係の形成」といった具体的な行動や態度が,ケアワーカーの実践に直結していると考えられる。
キーワード ケアワーカー,高齢者の精神心理状況,情報把握,援助関係の形成,アセスメント
第54巻第7号 2007年7月 訪問介護サービス提供責任者の調整業務の質についての研究-サービス調整業務のレベルが訪問介護計画の有効感に与える影響-須加 美明(スガ ヨシアキ) |
目的 訪問介護においてサービス提供責任者が行うサービス調整業務の質に影響する要因を明らかにするため,新規の利用者にサービスを開始する時の調整方法や自立支援の判断など責任者の業務内容の違いや事業所の業務実態などの影響を検討した。
方法 東京都A市の49訪問介護事業所のサービス提供責任者158名を対象に2005年12月に質問紙調査を行い,113件(72%)を回収,分析対象とした。サービス提供責任者が行う調整業務の質は,事業所の訪問介護計画がサービスの質の向上に役立つと感じる程度に何らかのかたちで関係していると仮定し,これを尋ねた訪問介護計画の有効感を従属変数とし,調整業務の内容を表す5変数,業務実態2変数,責任者の業務経験年数を独立変数として,クラスカル・ウオリスの検定およびカテゴリカル回帰分析によって影響を調べた。
結果 訪問介護計画の有効感は,調整業務の内容では「サービス内容の説明と同意」のレベルだけでなく,事業所として始めての利用者にどのようなやり方でニーズを把握し調整してから登録ヘルパーに仕事を引き継ぐか(新規開始時のサービスの調整方法)や,ある人には必要であるが制度外になるかもしれない仕事についての考え方(自立支援の判断)によっても影響されていた。また業務実態では,サービス提供責任者がどの程度,調整業務に専念できるかの違いによって訪問介護計画の有効感は影響されていた。さらに責任者としての業務経験の年数の違いも影響していた。
結論 訪問介護におけるサービス調整の質は,サービス内容の説明と同意や自立支援の判断など責任者個々の力量の違いに影響されるだけでなく,新規開始時にどれだけ手厚くサービス調整の手間をかけられるか,また定期訪問を兼務させず調整に専念できるような業務体制が確保されているかによって影響されている。訪問介護においてサービス調整の質を高めるためには,サービス提供責任者が,その本来の役割である調整業務に専念できる制度的な仕組みを整える必要が示唆される。
キーワード 訪問介護,サービス提供責任者,サービス調整,コーディネイト,訪問介護計画
第54巻第8号 2007年8月 日本語版「WHO-5精神的健康状態表」の信頼性ならびに妥当性-地域高齢者を対象とした検討-岩佐 一(イワサ ハジメ) 権藤 恭之(ゴンドウ ヤスユキ) 増井 幸恵(マスイ ユキエ)稲垣 宏樹(イナガキ ヒロキ) 河合 千恵子(カワアイ チエコ) 大塚 理加(オオツカ リカ) 小川 まどか(オガワ マドカ) 髙山 緑(タカヤマ ミドリ) 藺牟田 洋美(イムタ ヒロミ) 鈴木 隆雄(スズキ タカオ) |
目的 世界保健機関が精神的健康の測定指標として推奨する「WHO-5精神的健康状態表」(WHO5)の信頼性ならびに妥当性の検討を行った。
方法 64~89歳の地域高齢者1,098人(男性423人,女性675人)を分析の対象とした。WHO5は,日常生活における気分状態を対象者本人に問う5つの質問項目(例:「最近2週間,あなたは,明るく,楽しい気分で過ごすことができましたか」)から構成される。各質問項目について6件法で回答を求め,各項目の素点を加算しWHO5総得点を算出した(得点範囲:0~25点,得点が高いほど精神的健康が良好であることを意味する)。既存の精神的健康測定尺度(General Health Questionnaire28項目版(GHQ),Philadelphia Geriatric Center morale scale(PGCモラール尺度)),社会経済的要因(教育歴,ひとり暮らし,経済状態,ソーシャル・サポート),身体的要因(1年以内の入院有無,生活習慣病(脳卒中,心臓病,高血圧,糖尿病,がん),身体的痛み,高次生活機能(老研式活動能力指標で測定),握力,健康度自己評価)を測定し分析に用いた。
結果 WHO5の5項目におけるα係数は男女とも0.81であった。WHO5総得点には性差が認められなかった。WHO5総得点には年齢差が認められ,80歳以上の高齢者は64~69歳の高齢者よりも得点が低いことが示された。WHO5総得点と,既存の精神的健康測定尺度(GHQならびにPGCモラール尺度)や,社会経済的要因(教育歴,ひとり暮らし,経済状態,ソーシャル・サポート)ならびに身体的要因(1年以内の入院,生活習慣病,身体的痛み,握力,高次生活機能,健康度自己評価)との関連が見いだされた。
結論 WHO5は信頼性ならびに妥当性を有しており,地域高齢者の精神的健康を測定する簡易的尺度として有用であることが考えられる。
キーワード WHO-5精神的健康状態表,地域高齢者,信頼性,妥当性,横断調査
第54巻第8号 2007年8月 福岡県における介護給付費増加の要因分析西山 知宏(ニシヤマ トモヒロ) 松田 晋哉(マツダ シンヤ) |
目的 介護給付費の増加要因について検討し,その状況にあった対策を考察することを目的とした。
方法 平成15年3月に県内20の単独保険者全市に調査票を送付し,回答の得られた13保険者(市)の平成13年5月と平成14年5月の介護給付の状況を調査した。その調査票をもとに,平成13年から14年にかけての介護給付費の増加要因を検討した。また,各自治体の高齢者の割合を含め,その増加要因を類似性のある保険者(市)ごとにまとめるため,クラスター分析と主成分分析を行った。
結果 各保険者(市)はその増加要因が,利用者割合(%)(以下,利用者割合)が大きく寄与しているか,利用者における1人当たり平均給付額(以下,1人当たり平均給付額)が大きく寄与しているかによって分類され,それによって地域の特性も明らかとなった。また,クラスター分析,主成分分析の結果により,各保険者(市)は,「利用者割合の増加の寄与が大きく,65歳以上人口割合が比較的大きい地域」「利用者割合の増加の寄与が大きく,65歳以上人口割合が比較的小さい地域」「1人当たり平均給付額が他と比較して顕著な保険者(市)」「総給付額が他と比較して顕著な保険者(市)」の4つに分類された。
結論 介護保険ですでに収集しているデータを用いることで増加要因とその対策の検討など,地域公衆衛生行政に役立つ分析が可能である。
キーワード 介護保険,サービス利用者の増加,財政の健全化,高齢者,介護給付費の増加要因
第54巻第8号 2007年8月 介護保険統計を用いた都道府県別障害調整健康余命(DALE)と健康指標としてのその意義栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 中村 桂子(ナカムラ ケイコ)渡辺 雅史(ワタナベ マサフミ) 高野 健人(タカノ タケヒト) |
目的 本稿は,介護保険統計を利用した障害調整健康余命(DALE)および加重障害保有割合(WDP)の算出方法を紹介し,介護保険制度改革が本格的に実施された2006年4月直前の介護保険統計を用いて都道府県別に算出したそれぞれの値を提示する。さらに,これらの指標間の関連性を分析し,その健康指標としての意義について検討することを目的とした。
方法 先行研究より得られた介護度別の効用値(要支援=0.78,要介護1=0.68,要介護2=0.64,要介護3=0.44,要介護4=0.34,要介護5=0.21),年齢階級・介護度別認定者数,年齢階級別人口を用いて都道府県別年齢階級別WDPおよび年齢調整WDPを男女別に算出した。都道府県別65歳以上のDALEは性・年齢階級別WDPおよび生命表を用いてSullivan法により算出した。65歳平均余命(LE65),65歳DALE(DALE65),年齢調整WDPとの関連性を相関係数によって検討した。
結果 都道府県別DALE65は,男性15.07~16.93年,女性18.25~20.07年であった。DALE65の上位3県は,男性は,長野16.93年,熊本16.65年,山梨16.59年,女性は,福井20.07年,沖縄20.02年,山梨19.87年であった。下位3県は,男性は,青森15.07年,大阪15.33年,秋田15.43年,女性は,大阪18.25年,青森18.35年,秋田18.42年であった。年齢調整WDP(65~89歳,人口千対)は,男性48.11~74.05,女性53.82~91.04であった。上位3県は,男性は,山梨48.11,茨城49.24,宮崎49.87,女性は,福井53.82,茨城56.74,静岡57.03であった。下位3県は,男性は,大阪74.05,沖縄71.98,秋田70.27,女性は,大阪91.04,徳島87.23,青森86.33であった。DALE65とLE65および年齢調整WDPとDALE65は男女ともに有意な相関を示したが,年齢調整WDPとLE65は男性のみ弱い相関を示し,女性は有意な相関が認められなかった。
結論 本稿で提示した方法を用いることで,都道府県および市町村単位で継続的にDALEを算出することができ,短期的および長期的な保健医療福祉政策の策定に応用することが可能となる。また,年齢調整WDPとLE65は男性では有意な弱い相関があるものの,WDPはLEと独立した地域健康指標としても有用であると考えられた。
キーワード 健康余命,障害調整健康余命,加重障害保有割合,健康指標,効用値,介護保険認定率
第54巻第8号 2007年8月 地域社会における子育て支援の拠点としての児童館の活動効果に関する研究八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ) 小河 孝則(オガワ タカノリ) 田口 豊郁(タグチ トヨヒロ) |
目的 地域における児童館の子育て支援の課題を探るために,3市の児童館の子育て支援活動の実態とその活動効果を明らかにし,児童館活動効果に影響を与える要因を検討した。
方法 3市の児童館の子育て支援活動に参加している保護者(母親)を対象に自記式調査用紙を配布し,留置き調査を行った。回収数733,回収率54.9%,有効回答数627,有効回答率85.5%であった。調査内容は,対象者の属性,子育て状況,子育て観,子育て不安やストレス,児童館利用状況,児童館活動効果に関する95項目であった。分析方法については,子育て不安と児童館活動効果に関するカテゴリカル因子分析(プロマックス回転)と段階反応モデルによる各因子の母数値の推定,属性,子育て状況,児童館利用状況と地域のクロス集計とχ2検定,子育て不安得点・ストレス得点・児童館活動効果得点と属性・子育てサポート・子育て観・児童館利用状況との一元配置分散分析,子育て不安・ストレス得点と児童館活動効果得点相関係数の算出,子育て不安得点・児童館活動効果得点を従属変数とするステップワイズ法による重回帰分析を行った。
結果 項目反応理論を用いた項目母数の検討を行った結果,子育て不安の4項目とストレス項目の1項目を除くことになった。地域差については,C市に比べB市の子育て状況や児童館利用状況が良好とはいえず,子育て不安得点も高く,児童館活動効果得点も低かった。母親の子育て不安を軽減するために,児童館の子育て支援活動が何らかの影響を与えていることが推察された。児童館での仲間や職員が児童館活動効果に影響を与えていることが明らかになった。
結論 地域の実情にあった児童館の子育て支援活動を展開していくためには,子育て支援の実践評価尺度の作成,子育て支援活動(プログラム)を創りだすための実践モデルの開発,ソーシャルワーカーとしての児童館職員の役割の重要性が示唆された。
キーワード 児童館,子育て支援,子育て不安,児童館活動効果,項目反応理論
第54巻第8号 2007年8月 介護サービスにおける量的介護評価から質的介護評価の標準化と専門性-量的介護評価の要介護認定から質的介護評価の総合介護認定の開発-住居 広士(スミイ ヒロシ) |
目的 介護保険制度では,要介護認定による施設介護サービスの介護時間である量的介護評価が重視されている。量的介護評価の介護時間で要介護認定するだけでなく,介護モデルに基づく身体介護・認知症介護・介護負担に対する質的介護評価である「総合介護認定」を開発する研究をした。
方法 要介護認定改訂版(2003年版)の方式に基づき,介護老人福祉施設における全介護職員13名と要介護者68名を対象とした24時間の自計式タイムスタディ調査と,さらに介護職員3名対調査員3名に対する1分間タイムスタディの他計式調査法にて,調査員と介護職員の認知症介護と介護負担に対する介護評価基準を同期しながら記録した。統計解析はSPSS 9.0 for WindowsでT検定とPearsonの相関係数,Amos 7.0で変数間の因果関係をパス図で解析した。
結果 要介護度が重度になるほど自計式の介護時間が増加傾向にあり,各要介護度と介護時間の統計的有意差を認め,その相関係数は0.444であった。要介護度別に有意差があった介護サービス業務は食事と移動移乗体位変換であった。パス図で要介護度には食事と移動移乗体位変換が直接関与し,日常生活自立度では障害老人は移動移乗体位変換,認知症高齢者は食事を介する間接関与が示唆された。他計式の介護時間の総数(n=540)における介護職員と調査員の認知症介護の有無の一致係数はKendall W=0.60(p<0.01)で,介護負担の有無の一致係数はKendall W=0.37(p<0.01)で,中等度前後の一致性が認められた。
結論 日常生活活動(ADL)介護サービスは,その大部分が身体介護サービスであるため,身体介護の介護時間が多くなると要介護度が重度になる傾向がある。要介護認定のケアコードが身体介護サービスを中心としたADLケアコードになっているために,認知症介護や介護負担が要介護度に反映されにくい。その介護評価基準によるタイムスタディで,認知症介護は介護負担に影響を与える,認知症介護は第三者でも捉えられる可能性がある,認知症介護と介護負担を捉えていく必要があることが示唆された。介護時間による量的介護評価の要介護認定から,身体介護・認知症介護・介護負担に基づく質的介護評価による総合要介護認定の総合化が求められる。
キーワード 介護サービス,介護評価,介護保険,要介護認定,介護時間,標準化,専門性
第54巻第10号 2007年9月 禁煙意思に関するコンジョイント分析後藤 励(ゴトウ レイ) 西村 周三(ニシムラ シュウゾウ) 依田 高典(イダ タカノリ) |
目的 喫煙者の禁煙意思の詳細な分析を行うために,価格や健康リスクといった情報に対する喫煙者の反応について定量的に分析し,それらの反応がニコチン依存度によって異なるかどうかを検討する。
方法 対象は,モニター調査会社に登録している現在喫煙者である。FTNDテスト(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence)により高度喫煙者,中度喫煙者,低度喫煙者に分類された616名の被験者に対して,近年医療経済学での応用例の多いコンジョイント分析を実施した。コンジョイント分析では属性として,たばこの価格,喫煙による死亡リスク,公共の場所での喫煙に対する罰金,急性上気道感染症による自宅安静期間,たばこを吸わない家族に対する肺がんリスクを用いた。コンジョイント分析の属性以外に,年齢,性別,喫煙に関する知識の各変数を用いた。
結果 たばこの価格は喫煙者の喫煙継続確率を下げるのに重要な変数であり,その効果はニコチン依存度が高くなるほど小さくなった。価格以外の変数の影響は,ニコチン依存度によって大きく変わり,高度喫煙者に対しては有意な影響はみられなかった。中低度喫煙者に対する価格以外の変数の影響は,短期的なリスクの増加や,家族の健康リスクの増加は大きいものの,公的な場所での喫煙に対する罰金の導入や長期的な死亡リスクの増加については,その影響が少なかった。年齢や性別,喫煙に対する知識といった変数の影響もニコチン依存度を調整すれば一定のものではなかった。
結論 たばこの価格は喫煙確率の減少に重要な変数であるが,ある程度大規模な喫煙者の減少のためには大幅な価格増大が必要となる。また,特に高度喫煙者に関してはより高い価格でないと禁煙を行わないため,現在の緩徐な喫煙価格政策の限界を示唆する。健康リスクに対する反応はニコチン依存度によって大きく異なるため,喫煙の健康情報が禁煙意思に与える効果についてもニコチン依存度の違いが大きく関係している。
キーワード 禁煙行動,コンジョイント分析,健康リスク,たばこ価格,FTND
第54巻第10号 2007年9月 肥満学生を対象とした生活習慣の行動変容支援プログラム
松園 美貴(マツゾノ ミキ) 戸田 美紀子(トダ ミキコ) 中山 博子(ナカヤマ ヒロコ) |
目的 肥満は生活習慣病の要因として認識され,若い時代からの介入の必要性が説かれている。生活習慣の改善や疾病コントロールには,行動療法が応用されてきている。九州大学健康科学センターでは,平成13年度から肥満学生を対象として,生活習慣病予防を目的としたウエルカムホームベース型健康支援プログラムを実施している。プログラムは,本人が選択した行動目標を支援するものである。今回はプログラムに参加した学生の体重,BMI,体脂肪率,血圧を指標として,プログラムの有効性を検討することにした。
方法 対象者は,平成16年度の学生定期健康診断時にBMIが25以上であった学生で,5~7月までの10週間プログラムを継続した男子93名,女子28名の計121名とした。4月定期健康診断時と7月時の体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の変化を検討した。
結果 4月定期健康診断時と7月時の各測定値の変化は,体重は男性が81.1㎏から77.4㎏,女性が67.4㎏から64.6㎏に有意に減少した。BMIは男性が27.6㎏/㎡から26.3㎏/㎡,女性が26.7㎏/㎡から25.6㎏/㎡に有意に減少した。体脂肪率は男性が27.7%から24.1%,女性が36.3%から32.5%に有意に減少した。収縮期血圧は男性が138.9mmHgから124.4mmHg,女性が126.2mmHgから114.3mmHgに有意に低下し,拡張期血圧は男性が80.2mmHgから74.2mmHgに,女性が74.1mmHgから68.3mmHgに有意に低下した。体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の低下は,男・女,学部生・大学院生に関係なく観察された。また行動目標の選択の違いによる体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧の低下に差はなかった。
結論 今回の結果では,プログラムに10週間参加した121名は,男・女,学部生・大学院生の区別なく,体重,BMI,体脂肪率,収縮期血圧,拡張期血圧が有意に低下していた。この結果から,10週間参加した大学生の短期的な評価では,ウエルカムホームベース型健康支援プログラムは有効であることが示唆された。今後は,長期的な評価や対照を用いた研究を行い,ウエルカムホームベース型健康支援プログラムの行動変容プログラムとしての有効性をより明らかにしていく必要がある。
キーワード 肥満,生活習慣病,行動変容プログラム,大学生
第54巻第10号 2007年9月 最近のベイズ推定研究の小地域の人口動態指標推定への応用の研究高橋 千尋(タカハシ チヒロ) 大竹 まり子(オオタケ マリコ) 赤間 明子(アカマ アキコ)鈴木 育子(スズキ イクコ) 小林 淳子(コバヤシ アツコ) 叶谷 由佳(カノヤ ユカ) |
目的 各都道府県における夜間を含む在宅支援サービスの整備状況とその関連要因について検討することを目的とした。
方法 全国47都道府県を対象に,既存の統計資料を用いた調査と質問紙調査を行った。調査期間は平成17年8月から11月である。既存の統計資料からの調査内容は,一般世帯数,高齢者のみの世帯数割合,三世代世帯数,三世代世帯数割合,共働き世帯数,共働き世帯数割合,平均寿命,介護保険第1号被保険者数,要介護(要支援)認定者数,傷病分類総患者数,在宅以外の療養場所数,病床在院日数などである。質問紙調査の調査内容は,夜間在宅支援サービスを含めた在宅支援に関わる事業所数,夜間在宅支援サービスについての自由記述などである。
結果 夜間の在宅支援サービスの中で最も少ないのは老人性認知症センターで,人口10万人対の平均施設数は0.2(±0.1)カ所であった。また,平均訪問介護事業所数は20.3(±5.5)カ所だが,平均24時間対応訪問介護事業所数は2.8カ所にとどまった。高齢者人口構成割合が高いほど短期入所生活介護実施事業所数,在宅介護支援センター数が多かった。要介護(要支援)認定者数が多いほど訪問看護ステーション数,緊急時訪問看護加算届出ありの事業所数,短期入所生活介護実施事業所数,短期入所療養介護実施事業所数,在宅介護支援センター数が多かった。24時間対応訪問介護事業所数を把握している都道府県は把握していない都道府県に比べて,65歳以上人口構成割合,75歳以上人口構成割合,三世代世帯数割合,共働き世帯数割合が高く,要介護4認定者数,脳血管疾患患者数,悪性新生物患者数が多かった。独自の夜間の在宅支援サービスとして,宿泊サービスを行っている自治体が5県あった。
結論 在宅支援のニーズが高いほど在宅支援に関わる事業所数が多くなっていた。しかし,平均24時間対応訪問介護事業所数が少なく,夜間の在宅支援サービスの整備状況は不充分であった。今後,夜間の在宅支援サービスの量と質を含めた整備と新たなサービスの定着が課題であることが示唆された。
キーワード 夜間介護,在宅支援サービス,整備状況,関連要因
第54巻第10号 2007年9月 肥満および体重変化が10年後の終末期を除く医療費に及ぼす影響-体重減少は健康に有益か?-日高 秀樹(ヒダカ ヒデキ) 広田 昌利(ヒロタ マサトシ) |
目的 肥満は生活習慣病の原因として重要であり,生命予後を含めた健康の悪化要因とされる。この肥満および体重変化が10年後の健康に及ぼす影響を,職域の定期健診結果と5年間の終末期を除く医療費を指標として検討した。
方法 対象は1992年度に定期健康診断を受けた40~59歳の男性で,2004年度末にも健在で健保に加入していた6,867名と,この間に死亡を理由に健保を脱退した182名である。医療費は終末期の高額医療費を除くために1999~2003年度の5年間の診療報酬明細書から医科と調剤を用いて算出した。
結果 1992~1994年度の3年間の平均体重で求めたBMIを5分位で検討すると,医療費はBMIが大きいほど高額であった。年齢調整累積死亡率が最も低かったのはBMI20.9~22.3の群であった。2001~2003年度までの10年間の体重変化を5分位で検討すると,体重減少が最も大きい群で医療費は高額であった。観察開始時のBMIで3群に分けて体重変化と医療費の関係をみても,体重の大きな減少は高額医療費と関連していた。最も医療費が少ないのは,観察開始時BMIが小さい群では約3㎏増加,大きい群では約1㎏低下する群であった。糖尿病では,観察開始時の肥満度に関係なく体重増加は高額医療費と関連した。高額医療費を示す主な保険主傷病名は,虚血性心疾患,脳血管疾患,悪性新生物,高血圧などであり,糖尿病では体重増加にしたがってこれらの疾患頻度は増加傾向にあった。喫煙に関しては,10年間の観察期間中の新たな禁煙群が最も医療費は大きかったが,この群で多くみられる体重増加は医療費に関係しなかった。
結論 肥満は10年後の終末期を除く医療費を高額とした。死亡率が低かったのはBMI21~22の群であった。10年間の体重の減少は医療費を高額とした。体重低下と高額の医療費は重大な疾患に罹患したための二次的なものと考えるのが妥当である。禁煙による体重増加は医療費を増加させなかった。これらから男性では,「中年までの肥満の予防が重要であること」「BMI22~23を目標とした体重管理が好ましいこと」「糖尿病では体重の増加は高額の医療費をもたらすこと」「意図した体重の管理が重要であること」などが示唆される。今後,意図した体重減少が長期的な健康に好ましいことを証明する研究が必要である。
キーワード 肥満,体重変化,定期健診,診療報酬明細書(レセプト),医療費,喫煙
第54巻第10号 2007年9月 母子生活支援施設に入所中の母親支援の検討-抑うつとの関連-大原 美知子(オオハラ ミチコ) 妹尾 栄一(セノオ エイイチ)今野 裕之(コンノ ヒロユキ) 近藤 政晴(コンドウ マサハル) |
目的 近年,公衆衛生領域では周産期の母親へのメンタルヘルス支援を行い,効果を挙げているが,ドメスティックバイオレンス(以下,DV)など多くの困難な出来事にさらされることによるメンタルヘルスの影響や,その援助への検討はいまだに取り組まれていない。そのため様々な困難を抱えているであろう母子生活支援施設入所者を対象として,どのような支援が有効であるのかを明らかにすることを目的に調査を行った。
方法 東京都内母子生活支援施設(以下,支援施設)に入所中で調査協力の得られた母親を対象とし,自記式アンケート調査(匿名郵送回収)を行った。調査項目は,基本的属性,ソーシャルサポート,メンタルヘルス(うつ評価尺度・解離性体験尺度),母親の子どもへの愛着(愛着形成障害評価尺度),子どもへの不適切な育児,実家との関係,パートナーとの関係など多面的な項目を設定した。解析方法は抑うつの有無を独立変数に,従属変数として量的変数にはt検定,質的変数にはχ2検定(Exact-Test)を用いた。抑うつの要因については抑うつ傾向得点との関連が有意であった変数を独立変数,不適切な育児得点を従属変数として,強制投入法による重回帰分析を行った。
結果 143名から回答を得た。調査結果から対象者の半数(49%)に抑うつ傾向がみられた。また入所者の67.4%がパートナーからの被暴力経験を持ち,95%がパートナーとの関係に葛藤性を抱えていた。抑うつ傾向と各項目間では,ソーシャルサポート(がない),実家との関係(被虐待経験),解離傾向の有無,愛着障害得点,不適切な育児得点とに関連がみられた。抑うつ傾向は子どもへの愛着障害にも影響し,さらに子どもへの攻撃性や放置などの育児行為にも影響していた。
結論 支援施設入所者の就労割合は78.9%と高く,その約半数が抑うつ傾向を持ちつつ就労しており,生活・育児面にかなりの困難さを有しているであろうことが推測されたが,調査結果からも子どもへの愛着や不適切な育児への影響が確認された。DVなどをはじめ,様々な困難を抱える母親には,子どもへの影響および世代間連鎖を阻止する視点からも,メンタルケアを含め経済・生活面への総合的支援が必要であることが示された。
キーワード 母子生活支援施設,抑うつ,ソーシャルサポート,愛着障害,不適切な育児,メンタルケア
第54巻第10号 2007年9月 特別養護老人ホームにおける小規模ケアの実施と介護職員のストレスの関係長三 紘平(ナガミ コウヘイ) 黒田 研二(クロダ ケンジ) |
目的 施設形態別の介護職員のストレス症状を把握するとともに,ストレス関連要因を検証する。また,ケア形態が多様化する中で介護ストレスを軽減させるために施設ではどのように対処すべきか,その基礎データの構築を目的とする。
方法 A府社会福祉協議会研修センターの平成16年度社会福祉専門ゼミナールへの参加者の属する施設の介護職員(常勤)を調査対象者とした。調査は郵送法による自記式質問紙調査で,2005年5月下旬から7月上旬に実施した。有効回収率は97.5%(14施設,313人)であった。調査項目は,施設属性,介護職員の基本属性,ストレス症状(蓄積的疲労兆候,バーンアウト)およびストレス関連要因(ストレッサー,組織特性,仕事特性)を設定した。回答施設を小規模ケア型と従来型に分け比較を行った。施設属性および介護職員の基本属性に関する変数は,両群の項目ごとの度数分布を調べ,χ2検定を実施した。ストレス尺度は各項目別に得点の平均値を算出し,t検定を行った。さらに,施設形態別のストレス関連要因がストレス症状にどの程度関連しているか,施設形態がストレスに影響を及ぼしているかを分析するために重回帰分析を行った。
結果 ストレッサーの事務的仕事の負荷,蓄積的疲労兆候の労働意欲の低下,バーンアウトの脱人格化,組織特性の施設長のリーダーシップの各項目において,小規模ケア型が従来型より平均値が高い傾向にあった。施設形態別のストレス症状とストレス関連要因の分析結果では,蓄積的疲労兆候に対して両群でストレッサーが正の関連を示し,さらに従来型では仕事特性が負の関連をみせた。バーンアウトに対しては,両群でストレッサーが正の関連,仕事特性が負の関連を示したことに加え,従来型では負の関連を示す要因として組織特性がそれぞれ統計学的に有意であった。さらに,施設形態がストレスに影響を及ぼしているかについての分析では,小規模ケアの実施はバーンアウトを促進する要因となりうる可能性を示唆した。
結論 介護職員の主観的ストレス感と施設全体のストレス要因に関して,小規模ケア型は従来型より介護職員のストレスを深刻化させる傾向にあった。しかしながら,調査方法に限界があり,多くの課題を残した。今後さらなる継続的な調査の必要性がある。
キーワード 介護職員,小規模ケア,主観的ストレス感,特別養護老人ホーム
第54巻第11号 2007年10月 住宅改修が要介護認定者の在宅継続期間へ及ぼす影響山田 雅奈恵(ヤマダ カナエ) 田村 一美(タムラ ヒトミ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ) 永森 睦美(ナガモリ ムツミ) 上坂 かず子(コウサカ カズコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) |
目的 要支援から要介護3までの新規認定者を対象として,全体および要介護度別にみた住宅改修が在宅継続期間へ及ぼす影響について検討することを目的とした。
方法 富山県のN郡(3町村)に居住し,2001年4月から2004年12月に自宅で新規認定を受けた要介護4,要介護5を除く第1号被保険者である1,316人を分析対象者とした。その間に住宅改修した209人(男性81人,女性128人)を「改修群」とし,住宅改修しなかった1,107人(男性367人,女性740人)を「非改修群」とした。介護認定審査会資料から初回認定時情報を把握し,介護保険利用情報より転帰(死亡,施設入所,転出)を把握した。主治医意見書に記載された診断名は,脳卒中,筋骨格系疾患(骨折含む),認知症,がんの記載の有無について調査した。まず,性別・要介護度別に在宅継続期間(在宅継続開始月から転帰月までの月数)をKaplan-Meier法を用いて25パーセンタイル値および50パーセンタイル値を算出し,有意性の検定にはlog-rank検定を用いた。次にCox比例ハザードモデルにより改修群と非改修群の在宅継続に対する中断のハザード比を求めた。
結果 要支援・要介護1の50パーセンタイル値,要介護2の25パーセンタイル値以外は,ほぼ改修群が長い在宅継続期間を示し,特に要介護3では全体で改修群に在宅継続期間が長い傾向が認められた(P<0.1)。しかし,その他の群間では顕著な差は認められなかった。改修群に比べ非改修群はハザード比が1.29と高い傾向が認められた(P<0.1)。つまり,性別,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度を調整しても住宅改修者に在宅継続期間が長かった。要介護度別の検討においては非改修群と改修群の在宅継続中断のハザード比に顕著な差は認められなかった。
結論 非改修群に在宅継続中断リスクが高く,性,年齢,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度を調整しても要支援から要介護3までの新規認定者の在宅継続期間は,改修群に長い傾向が認められた。要介護度別においては,非改修群と改修群の在宅継続中断のハザード比に顕著な差は認められなかった。今回,住宅改修の在宅継続期間を評価するために用いた25パーセンタイル値を算出する方法は,短期間の評価指標として有用であると考えられる。
キーワード 住宅改修,要介護認定者,在宅継続期間
第54巻第11号 2007年10月 2004年の都道府県別在宅死亡割合と医療・社会的指標の関連宮下 光令(ミヤシタ ミツノリ) 白井 由紀(シライ ユキ) 三條 真紀子(サンジョウ マキコ)羽佐田 知美(ハサダ トモミ) 佐藤 一樹(サトウ カズキ) 三澤 知代(ミサワ トモヨ) |
目的 わが国では,多くの一般集団および患者が終末期に自宅で療養すること,自宅で死亡することを望む。しかし,実際に自宅で死亡する割合は2004年では12.4%であり,希望と現実には大きな乖離が存在する。そこで本研究では,2004年の都道府県別在宅死亡割合と医療・社会的指標との関連の検討を行った。
方法 平成16年人口動態統計の死亡場所別にみた都道府県別死亡百分率から,2004年の自宅における死亡割合を把握した。厚生労働省等の全国統計資料および総務省統計局による「統計でみる都道府県のすがた2006」から,先行研究を参考に都道府県別在宅死亡割合に関連する可能性がある2004年または直近の医療・社会的指標を抽出した。単変量解析としてPearsonの積率相関係数を計算し,多変量解析として重回帰分析を行った。
結果 単変量解析の結果,都道府県別在宅死亡割合には病院数(人口10万対)がr=-0.66,病院・診療所病床数(人口10万対)がr=-0.67,病院病床数(人口10万対)がr=-0.64,診療所病床数(人口10万対)がr=-0.63,入院受療率(65歳以上人口10万対)がr=-0.74,平均在院日数がr=-0.67の関連を示した。重回帰分析の結果,都道府県別在宅死亡割合の独立した有意な関連指標と考えられたものは,老衰の死亡率(人口10万対,標準化偏回帰係数0.48,P=0.001),病院・診療所病床数(人口10万対,標準化偏回帰係数-0.66,P=0.001)であった。また,一般病院の100床当たり看護師・准看護師数(標準化偏回帰係数0.14,P=0.13)も最終的なモデルに含まれた。このモデルの決定係数(R2)は0.690であり,自由度調整済み決定係数(R2)は0.668であった。
結論 都道府県別在宅死亡割合は,老衰の死亡率(人口10万対)と有意な正の相関を示し,病院・診療所病床数(人口10万対)と有意な負の相関を示した。
キ-ワ-ド 終末期医療,緩和ケア,在宅死,指標,地域相関研究
第54巻第11号 2007年10月 寝具におけるダニアレルゲン低減のための実用的対策祝部 大輔(ホウリ ダイスケ) 有山 絵美(アリヤマ エミ) 池田 みのり(イケダ ミノリ)金澤 要介(カナザワ ヨウスケ) 國土 将平(コクド ショウヘイ) 松本 健治(マツモト ケンジ) |
目的 近年,気管支喘息などのアレルギー疾患が増加しており,多くの報告が室内アレルゲンと喘息の関連を示唆している。現在最も重要なダニアレルゲンの供給源として注目されているのが寝具類であり,その発症を防ぐには,室内・寝具等のダニアレルゲンレベルを下げる必要がある。今回,ダニアレルゲン量が多く,低減対策が求められている寝具類に重点を絞り,学校や家庭で応用できるダニアレルゲン低減対策の検証を目的とした。
方法 ダニアレルゲン量の測定には,マイティチェッカーを用い,A小学校,B中学校,C養護学校の保健室のベッドを対象に調査した。掃除方法(ハウスダスト除去剤,粘着ローラー,布団ローラーをつけた掃除機,付属のヘッドをつけた掃除機)による効果の違いや除湿剤の効果,天日干しの効果について検証した。
結果 A小学校とB中学校では,マットレスの表面はダニアレルゲンレベルが高く,マットレスの裏面は低かった。一方,C養護学校は,すべての寝具において「±」もしくは「-」と,全体的に非常に低かった。また,各掃除方法によるダニアレルゲンレベル低減効果について,ハウスダスト除去剤は,2例の「++」が「+」になったが,10例の「+」には変化がなかった。粘着ローラーは,1例の「++」が「+」に,また11例の「+」のうち2例(18.2%)のみが「±」になったが,9例には変化がなかった。布団ローラーは,2例の「++」が「+」に,また11例の「+」のうち4例(36.4%)が「±」になったが,7例(63.6%)は変化がなかった。付属のヘッドは,1例の「++」が「±」に,また12例の「+」のうち6例は変化がなかったが,6例(50.0%)が「±」になり,統計学的に有意(p=0.016)な低減がみられた。除湿シートは,ダニの繁殖できない湿度まで低下させることができるが,効果の持続性がない。天日干しは温度の上昇というより湿度を低下させることでダニの生存を阻むことは可能であるため,天日干しは黒ビニールで全体を覆わず,一般的な方法で行うことが効果的である。
結論 いずれの掃除方法でもダニアレルゲンレベルは,「-」にはならなかった。そのため,アレルギー疾患を持つ児童・生徒の寝具類では,低アレルゲンレベルを維持するために掃除機付属のヘッドを用い,こまめに掃除することが必要である。また,過度に神経質になることなく,無理なく実行できることを習慣づけていくことが大切である。
キーワード 学校環境衛生,ダニまたはダニアレルゲン,寝具
第54巻第11号 2007年10月 介護保険制度下の要介護高齢者における認知症の特徴筒井 孝子(ツツイ タカコ) |
目的 認知症高齢者の増加は,介護保険制度の運用において重要な課題となってきている。しかし,対策をすすめる上で必要と考えられる,介護を要する認知症高齢者の特徴を示す資料は,十分に提示されているとはいえない状況である。そこで本研究では,全国から収集された要介護認定に関わるデータを用いて,特徴を把握した。
方法 分析データは,2001年4月から2003年3月までの24カ月間に全国で要介護認定を受けた高齢者(以下,要介護高齢者)の年齢,性,要介護度,認知症の有無に関する月別のデータ(延べ22,074,815名分)である。要介護高齢者の性・年齢別分布の特徴を分析し,次に,要介護高齢者集団における認知症の特徴に関して性別,年齢階層別,要介護度別の分析を行った。
結果 要介護高齢者の特徴の第1は,71.3%が女性で,このうち75歳以上が56.4%で後期高齢層の女性の割合が高かった。第2に,男性は,女性に比べ75歳未満の前期高齢者の占める割合が高かった。第3に,要支援・要介護1の認定を受けた者は4割を超えていた。以上のことから,要介護高齢者集団の多くを占めているのは,80歳以上の要介護度が低い非認知症の女性であることが示された。次に,認知症は,これらの集団の47.6%と,ほぼ半数を占めており,この割合は,年齢と共に増加する傾向がみられた。認知症の人数は,男性が28.0%,女性が72.0%であり,認知症の女性の人数は,男性の2.6倍であった。また認知症の60.1%が75~94歳の高齢女性であった。ただし,性別にみた認知症の有症割合は,男性が46.5%,女性が48.1%であり,男女ともに認知症の有症割合は約5割であった。しかし,年齢が高くなる程に認知症は増加し,かつ,男性は平均寿命が短いため,人数としてみた場合,女性の有症数が男性よりも多くなっていた。
結論 高齢社会の最大の問題である介護の問題は,後期高齢女性における介護問題であることが示された。すなわち女性は平均寿命が長く,男性よりも要介護高齢者になる可能性が高く,その分,認知症の要介護者となるリスクも高いことが明らかにされた。このことから,わが国における介護の問題の解決のためには,女性の高齢期における健康政策を進めることが重要であると考えられた。
キーワード 認知症,要介護,高齢者,後期高齢者,介護保険制度
第54巻第11号 2007年10月 日本の出生性比動向(1899~2004年)羊 利敏(ヨウ リビン) 坂本 なほ子(サカモト ナホコ) 丸井 英二(マルイ エイジ) |
目的 この数十年間先進国において出生性比(男性の出生割合)が低下し続けているという報告がある。本研究では,1899~2004年の日本全体の出生性比,さらに都道府県別の出生性比の年次推移,地域特徴について検討する。
方法 出生数の資料は1899~2004年(106年間)の人口動態統計の性・都道府県別出生数である。出生性比は男性出生児数/女性出生児数×1,000によって算出した。また,アメリカのNational Cancer Instituteが経年的変化を捉えるために開発したJoinpoint回帰を用いて,出生性比の年次推移の有意な変曲点(Joinpoint)および変曲点間の平均年変化率を求めた。
結果 日本全国の出生性比は,1910年から1970年にかけて上昇し,1971年頃以降低下傾向がみられた。都道府県別では,多くの都道府県において1910年代から1970年頃にかけて出生性比上昇傾向がみられた。1970年代以降,有意な低下傾向を示す県は北海道のほか6都府県であった。一方,1970年代以降,有意に上昇し続ける県は青森県のほか23県であった。
考察 1970年代以降出生性比が有意に低下した県のうち,半数以上は京浜工業地帯,京葉工業地域など首都圏を囲んだ重化学工業地帯に分布しているという特徴がみられた。出生性比の低下は,農薬,大気汚染物質の曝露,メチル水銀,地震に伴うストレス,排卵誘発剤の使用など様々な要因との関連があると指摘されているが,どれも決定的ではなく,詳しい原因の究明を行う必要がある。
キーワード 出生性比,Joinpoint回帰
第54巻第11号 2007年10月 日本人女性の出生動向における年齢・時代・世代影響と出生数の将来推計小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ) 内田 博之(ウチダ ヒロユキ) |
目的 ベイズ型age-period-cohort(APC)分析を使用して,1985年から2005年の期間の日本人女性(19~38歳)による出生動向に対する年齢,時代およびコホート(同年代出生コホート)の影響について明らかにし,さらに2006年から2018年までの出生数を推計することを目的とした。
方法 1985年から2005年までの人口動態調査によって得られた19歳から38歳の母の年齢別出生数と出生順位別出生数(第1子,第2子および第3子以上の合計)および人口推計年報に記載された各歳別日本人女子推計人口を使用して標準コホート表を作成した。これにベイズ型APC分析を適用して,出生動向に与える年齢,時代,コホートの各変数についてそれらの影響の大きさ(効果)を推定した。さらに,2006年から2018年の期間の当該年齢層の日本人女性の出生数について推計した。
結果 日本人女性の総出生の動向に対しては,3効果のうち年齢効果が最も大きく,28歳で出生への効果が最大であった。時代効果は1992年を変曲点として低減トレンド(トレンドは各効果の変化の方向性を指す)から増大トレンドへの転換が認められたが,効果の大きさは他の2効果と比べて相対的に小さかった。コホート効果は年齢効果に次いで大きく,1961年生まれ以降のコホートにおける低減トレンドが,1977年生まれを変曲点として,以降のコホートでは増大トレンドに転じていた。出生順位別の出生動向に対する分析結果においても年齢効果が最も大きく,効果が最大となる年齢は第1子で26歳,第2子で29歳,第3子以上では31歳であった。時代効果は他の2要因と比べて小さく,出生動向への影響は小さかった。コホート効果は,第1子の場合は1963年生まれ,第2子では1959年生まれ,第3子以上では1957年生まれ以降のコホートでの低減トレンドが,第1子と第2子の場合には1977年生まれ,第3子以上の場合には1973年生まれを変曲点として増大トレンドに転じていた。2006年から2018年の期間の年間出生数は,2005年の出生数102.2万人(実測値)から減少を続けて,2018年には約81.0万人(95%信用区間:54.1~118.8万人)にまで減少すると推計された。
キーワード 出生,ベイズ型age-period-cohort分析,日本人女性,少子化
第54巻第11号 2007年10月 都市自治体における認知症高齢者の介護保険サービスパッケージ分析平野 隆之(ヒラノ タカユキ) 奥田 佑子(オクダ ユウコ) 笹川 修(ササガワ オサム)藤田 欽也(フジタ キンヤ) 中島 民恵子(ナカシマ タエコ) |
目的 認知症ケアモデルの確立と地域ケアの推進が,今日の介護保険政策上の命題となっているにもかかわらず,認知症高齢者に特化した介護保険サービスの利用実態の把握と分析は十分にされていない。本研究の目的は,認知症の有無等の状態像区分を加味した介護保険の利用データを分析することで,認知症高齢者,とりわけ「動ける認知症」のサービス利用の特性と2時点間での利用の変化を把握し,認知症高齢者の地域ケアの推進のための基礎的データを提供することにある。あわせて,より実態に即した介護保険事業計画策定を可能にする分析手法の提案を都市自治体に対して行うという意義をもつ。
方法 15保険者からの介護保険給付データと認定データを結合させ,認知症高齢者を特定しうるデータベース(50,434人分)の作成をもとに分析を行った。分析では,障害高齢者と認知症高齢者の日常生活自立度から,状態像を「虚弱」「動ける認知症」「寝たきり」「寝たきり認知症」の4つに分類し,比較することでサービス利用の特性を把握する。また,サービスの機能の組み合わせに着目した「サービスパッケージ」分類を用い,よりケアプランに近い利用の実態を把握することとした。また,15保険者のうちの4保険者については,2003年(16,667人分)と2005年(19,405人分)の2時点でのデータ比較を行い,2年間での状態像と利用の変化を把握した。
結果 認知症高齢者は,利用者数の50%以上,介護費用額の70%以上を占め,介護保険の主要な利用者となっている。認知症高齢者は他の状態像と比べて,通所系と居住系のサービス利用割合が高く,「動ける認知症」では通所系サービスの利用が60%を占めている。2年間の変化では,継続利用者の70%が動ける認知症を維持し,複数機能のサービスパッケージと居住系サービスの利用が伸びた。23%は「寝たきり認知症」に移行し,施設利用割合が大幅に増加した。
結論 「動ける認知症」は,通所系のサービス利用を中心に高い利用水準を示すなど,他の高齢者とは異なる利用パターンを示している。「動ける認知症」を施設入所に至ることなく,地域で支える上では認知症に対応した通所系サービスの充実と,複数の機能を組み合わせたサービスパッケージの増加,居住系サービスの充実が望まれる。こうしたサービスは地域密着型サービスに相当するが,自治体の計画策定においては,障害像に伴う利用特性に応じたサービス整備量の推計を行ったうえで,地域密着型サービスの整備をすすめ,地域で支えるための仕組みづくりを指向する必要がある。
キーワード 介護保険,動ける認知症,サービスパッケージ,地域密着型サービス,状態像変化
第54巻第13号 2007年11月 2006/07年シーズンにおけるインフルエンザワクチンの需要予測-「食生活改善行動の採用」尺度と行動変容モデルの予測-延原 弘章(ノブハラ ヒロアキ) 渡辺 由美(ワタナベ ユミ)三浦 宜彦(ミウラ ヨシヒコ) 中井 清人(ナカイ キヨヒト) |
目的 インフルエンザワクチンの計画的な供給に資することを目的として,2006/07年シーズンのインフルエンザワクチンの需要予測を行った。
方法 インフルエンザワクチン供給に実績のある医療機関など5,099施設を対象として,2005/06年シーズンのインフルエンザワクチンの購入本数,使用本数,接種状況および2006/07年シーズンの接種見込人数について調査を行い,2006/07年シーズンのインフルエンザワクチン需要見込本数の推計を行った。
結果 2006/07年シーズンのインフルエンザワクチン需要は,約2191万本から約2278万本と推計された。
結論 2006/07年シーズンのワクチンメーカーの製造予定数は最大で2300万本であり,ほぼ需要に見合う量の供給が行われるものと推測された。
キーワード インフルエンザワクチン,需要予測
第54巻第13号 2007年11月 シックハウス症候群の有病状況の推計-電話調査による東京特別区の2002年と2004年の経年差-城川 美佳(キガワ ミカ) 岸 玲子(キシ レイコ) 長谷川 友紀(ハセガワ トモノリ) |
目的 東京都特別区の居住者を対象に,シックハウス症候群(以下,SHS)の有病状況およびSHSに関する知識や行動,SHS様症状の特徴を調査し,2002年と2004年で比較した。
方法 対象は,東京都特別区に居住する成人である。調査は,Random Digit Dialing(RDD)法による電話調査により2002年11月と2004年12月に実施し,SHS様症状の有無とその特徴,SHSに関する知識およびSHS様症状の対処行動について回答を得た。
結果 有効回答数は2002年299,2004年305である(有効回答割合[回答/(回答+家族による拒否+本人による拒否)]は,それぞれ25%,26%)。2群で性・年齢階級別分布に違いはなかった。本研究では,SHS有病者を,厚生労働省が公表したSHSの主な8症状の1つ以上を過去1年間に経験しており,かつその症状が,建物の外に出ると軽減し,季節性が認められない者と定義した。SHS有病割合は,2002年で14%,2004年で6%であった。SHSについては,2002年では77%,2004年では90%が知っていると回答した。2002年では42%,2004年では20%が過去1年間にSHS様症状を1つ以上経験したと回答した。SHS様症状のうち,「皮膚が乾燥する,赤くなる,かゆくなる」は,両年とも回答者が最も多かった(2002年51%,2004年50%)。SHS様症状に対する医療機関受診や市販薬の利用は,ほとんど行われていなかった。
結論 東京都特別区では,SHSの有病割合は減少している,SHSについての知識はすでに相当普及している,建築基準法改正などの施策により有病割合が減少した可能性がある,SHSは医療機関受診や市販薬利用に至らない比較的軽症なQOL疾患と認識されている可能性があることが知見として得られた。
キーワード シックハウス症候群,シックビルディング症候群,地域対象研究,有病状況,電話調査
第54巻第13号 2007年11月 飲食店における受動喫煙対策の現状と課題-北海道「空気もおいしいお店推進事業」登録店の調査から-北田 雅子(キタダ マサコ) 武藏 学(ムサシ マナブ) 中村 永友(ナカムラ ナガトモ) |
目的 飲食店の受動喫煙対策を推進するのに必要な資料を得るため,対策を実施している店の現状を調査した。
方法 対象店は,北海道庁が2002年末より実施している「空気もおいしいお店推進事業」に登録している外食料理店(2006年1月4日時点の352件)である。調査方法は,登録店の店舗責任者を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を実施した。調査内容は,受動喫煙対策の内容,健康増進法について,利用者の状況,対策を実施した理由,対策を実施してのメリットやデメリット,登録店制度について等である。
結果 アンケート回収数は256件(回収率71%)であった。完全禁煙店は213件(88%),完全分煙店は29件(12%)で,その内訳はレストランと食堂(24.6%),ラーメン店とそば屋(21.3%)等であった。営業当初から対策を実施していた店は,110件(48.9%),途中から実施した店は115件(51.1%)であった。対策を実施した理由は,「料理の味や香りを大事にしたい(49.6%)」「お客様の健康に配慮(37.5%)」が多かった。また,途中から喫煙対策に踏み切った店では,営業当初から対策を実施していた店よりも「健康増進法を知ったから」「お客さんからの要望」という理由が有意に多かった。メリットは,「お店の評判アップにつながった(46%)」「働く環境としてよい(68.4%)」との回答が多く,自由記述では「従業員や自分の体調が改善した」「店内が清潔になった」「客の回転数がアップした」等の内容がみられた。デメリットに関しては,途中から対策を実施した店の20%が,客数や売り上げの減少について禁煙の影響を認めており,喫煙者からのクレーム対応に苦慮している様子が伺えた。全体では,8割以上の飲食店が,喫煙対策を実施してよかったと回答していた。道庁の推進する登録店制度については,登録申請を保健所から勧められたところが多い(39%)が,メリットを感じている店は約3割(29%)で,行政側の広報・宣伝が不十分であるとの回答は7割近くを占めた。
結論 今後,飲食店の禁煙を推進するためには,健康増進法のさらなる周知と有効な受動喫煙防止策について広く啓発する必要がある。禁煙店は,顧客のみならず,従業員の健康を守るために必要な対策であることから,行政側は,登録店を中心に,さらに積極的な広報宣伝を実施していくことが必要であると考えられた。
キーワード 飲食店,受動喫煙対策,登録店制度
第54巻第13号 2007年11月 公立保育園における子育て支援-東京都A区の場合-塩田 公子(シオタ キミコ) |
目的 児童福祉法の平成15年改正法により,市町村は,すべての子育て家庭に対する様々な子育て支援事業の充実を図ることになった。「平成16年子ども・子育て応援プラン」策定により,平成21年までの5年間に取り組む数値目標が設定された。A区の公立保育園において,どのような子育て支援がされているのか現状を知り,今後の課題を検討する。
方法 東京都A区の公立保育園における子育て支援の内容を知るために,A区統計資料,平成15年4月に行われた「保育サービス利用者アンケート報告書」およびA区行政情報室の資料を収集して検討した。
結果 A区の合計特殊出生率は,平成15年0.79と全国平均1.29と比較して低く,子育て支援の必要性を感じた。A区公立保育園数は,平成17年4月現在54カ所で,利用している在籍児数は5,046名,そのうち3~5歳が61%を占めている。また,0歳児保育は少なく,5%である。保育園を利用している85.8%の家が居宅外労働をしており,98.3%がほぼ毎日利用していた。A区による「平成15年子育て環境調査」によれば,保育園について71%が満足していた。今後利用したい子育てのサービスとしては,通常保育の他に,一時保育をあげた人が56.7%,延長保育42.4%,休日保育36.2%,病児保育34.5%,0才児保育28.6%であった。子育て相談は,54園すべての保育園で実施されていた。
結論 保育園は,保護者が安心して働けるように子どもを預かり,そして子育てをしている保護者の精神的な支援をする場所として,また,地域子育て支援センターとしての役割も担っているので,今後,保育園は,多様な保育サービスの充実や地域とのネットワークの取り組みが必要とされている。
キーワード 公立保育園,地域子育て支援センター,子育て支援
第54巻第13号 2007年11月 体重の毎日測定・記録による中高年者の健康管理と健康教育の可能性小林 正子(コバヤシ マサコ) |
目的 体重を毎日測定して記録し,グラフにする,これを継続することが中高年者の健康管理に役立つか,また健康教育になり得るかについて検討する。さらに,体重変動の特徴を把握し,体重による健康管理のポイントを明らかにする。
方法 現在大きな健康問題のない56~84歳の男女12名(男性5名,女性7名)を対象として,全員に同一の体脂肪計付き体重計を配布し,各家庭において毎日,各自が決めた時間帯に体重を測定し記録してもらった。測定期間は1年1カ月を設定し,その間1カ月ごとにFAXで記録を送付してもらう。それをグラフに表すとともにコメントを付けて返信する。一方で,体重の推移と曜日ごとの変動に着目した分析を行った。
結果 体重の毎日測定・記録は脱落者もなく1年余継続し,ほぼ全員が毎日測定・記録を肯定する結果となった。単に測定するのみでなく記録しグラフに表すことで自らの生活を省みる契機となり,1カ月ごとに記録を送付することもあって健康について積極的に考えるようになる効果があった。また,体重の変動で1週間のリズム(週内変動)がみられたことから,週末に増加しないよう注意することで体重減少が促進された。
結論 体重の毎日測定,グラフ化は,日々の生活の仕方を省みたり,健康をより意識するようになるなど健康管理に効果があり,健康教育としても有効である。また,自らの体重変動の特徴を知ることや週内変動や季節変動などのリズムを把握することが体重管理に重要と考えられる。
キーワード 体重,中高年,健康管理,健康教育,週内変動,メタボリックシンドローム
第54巻第13号 2007年11月 健常成人男性集団で体重が血圧に与える影響-経年的測定データの多重レベル解析-近藤 高明(コンドウ タカアキ) 上山 純(ウエヤマ ジュン) 木全 明子(キマタ アキコ)山本 佳那実(ヤマモト カナミ) 堀 容子(ホリ ヨウコ) |
目的 職域での健常男性集団の4年間の健診データを用いて,肥満度と血圧との関連を明らかにするため多重レベル解析を実施し,職域健診で蓄積された定期健康診断結果を連結した縦断的観察データの有効な利用法を提示することを目的とする。
方法 対象集団は愛知県内の2つの職域で,1997年を観察開始時として2000年までに実施された4回の定期健康診断データを欠損なく入手できた40~59歳の男性である。観察開始時では自記式質問票による健康調査を行い,糖尿病か高血圧治療者を除外した4,588名の健診データを本研究に利用した。多重レベル解析には一般線形混合モデルを適用し,収縮期血圧と拡張期血圧を結果変数,4回の健診受診時のbody mass index(BMI)を説明変数として扱った。母数効果モデルには,共変量として健診受診時年齢,観察開始時での濃い味つけの好み,喫煙習慣,飲酒習慣,余暇身体活動,高血圧家族歴を組み入れた。また変量効果モデルでは,個人レベルでのBMIと血圧との関係を表す回帰直線の切片と傾きには,個人間変動があるとみなした。副分析として観察開始時BMI(<25㎏/㎡,≧25㎏/㎡)別,喫煙習慣別の多重レベル解析も実施した。
結果 BMIは収縮期血圧,拡張期血圧と有意な正の関連を示した。また変量効果の推定値から,この直線関係での切片と傾きで個人間の変動が有意に大きいことが示された。観察開始時BMI別解析,喫煙習慣別解析でもBMIの血圧に及ぼす効果は同様に有意であり,また切片での個人間変動も有意に大きかった。しかし喫煙歴の無い肥満群では,BMIと拡張期血圧には有意な関連が認められなかった。
結論 職場での定期健康診断データを縦断的観察とみなして多重レベル解析を行うことで,個人間の変動による影響を調整したうえでのBMIと血圧との有意な関連が示された結果は,個人内での追跡観察期間中のBMIの変動幅は小さくとも,その血圧に及ぼす効果は大きいと解釈される。本研究結果は,適正な体重を維持するための職域での保健指導の実践が,血圧管理にも有意義であることを示す根拠となる。
キーワード 縦断的観察,一般線型混合モデル,多重レベル解析,母数効果,変量効果,労働安全衛生規則
第54巻第13号 2007年11月 医学部・医科大学設立後の医師供給の変化に関する検討豊川 智之(トヨカワ サトシ) 兼任 千恵(カネトウ チエ)井上 和男(イノウエ カズオ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ) |
目的 新設医学部・医科大(以下,医学部)が設置された県(新設県)とそれ以前から設置されていた県(既設県)について,昭和55年以降の医師供給の年次変化について過疎市町村に焦点を当てて比較検討した。
方法 分析対象とした都道府県は,1県1医大政策以降に設立された医学部のある県で,それまで医学部のなかった「新設県」と,同制度以前から私大を含め医学部が1つのみあった「既設県」である。医師数については医師・歯科医師・薬剤師調査,人口については国勢調査の結果を用い,これらの調査年度が一致した昭和55年,平成2年,12年のデータを用いた。過疎市町村については,平成12年12月31日における行政区分および過疎地域自立促進特別措置法に基づいて分類した。
結果 昭和55年には,新設県は既設県に比べて人口10万対医師数で4.4下回っていたが,平成12年には新設県は既設県を0.1上回り,差はなくなっていた。過疎地域について新設県と既設県を比較すると,人口10万対医師数では,既設県過疎地域が36.4増加したのに対し,新設県過疎地域は30.9の増加であった。増加率はともに1.5倍程度であったが,過疎地域の人口減の影響を受けていた。非過疎地域についてみると,昭和55年では,新設県は既設県に比べて人口10万対医師数が少なかったが,平成12年には新設県・既設県ともに150を超え,新設県の人口当たり医師供給数は既設県以上となった。ジニ係数により人口に対する医師分布の状態を評価すると,既設県では,昭和55年0.304,平成2年0.299,平成12年0.300と,微減あるいはほとんど変化がみられなかった。他方,新設県は昭和55年0.302,平成2年0.309,平成12年0.312と微増しており,医師の地域偏在が進んだことが示された。
結論 医学部の新設県は,既設県に比べ医師数が相対的に多く増加し,平成12年時点で人口10万対医師数について差がなくなっていた。特に非過疎地域において新設県と既設県との差が解消された。一方,過疎市町村についてみると,新設県と既設県の人口10万対医師数の格差は広がる傾向がみられ,医学部新設による医師偏在への緩和効果は示されなかった。
キーワード 医師供給,地域偏在,へき地医療,1県1医大制度,ジニ係数
第54巻第15号 2007年12月 処方された医薬品の患者満足度に関する共分散構造分析塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ) 藤澤 弘美子(フジサワ クミコ) 岩井 高士(イワイ タカシ)笹林 幹生(ササバヤシ ミキオ) 福原 浩行(フクハラ ヒロユキ) |
目的 処方された医薬品に関する個別項目の患者満足度が,処方された医薬品に関する全体的な患者満足度に与える効果を検証した。
方法 東京都に在住する20歳以上の医療消費者を対象に2006年に行った医療および医薬品に対する満足度と製薬産業のイメージに関する調査から得られたデータを使用した。分析手法は因子分析と共分散構造分析を使用した。
結果 本研究のモデルにおいて,因子分析の結果から「効き目」「安全性」「品質」「飲みやすさ・使いやすさ」それぞれの患者満足度の背後に存在する潜在変数として「医薬品の属性」に対する患者満足度を設定し,「価格」「情報」「最新の医薬品の服用」「患者の意思尊重」それぞれの患者満足度の背後に存在する潜在変数として「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度を設定した。そして,これら2つの潜在変数から全体的な満足度指標である「処方された医薬品」の患者満足度へのパスを設定した。このモデルは共分散構造分析を用いて解析を行い,適合度指標の基準から採択されると判定された。「医薬品の属性」に対する患者満足度から「処方された医薬品」の患者満足度へのパス係数は0.504であり,1%水準で有意に正であった。「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度から「処方された医薬品」の患者満足度へのパス係数は0.257であった。値はやや小さいが1%水準で有意に正であった。
結論 本研究の分析により,処方された医薬品の全体的な患者満足度に対して個別項目の患者満足度が与える影響は,抽象レベルにおいて「医薬品の属性」に対する患者満足度と「医療供給者側の裁量」に対する患者満足度の2つルートが存在することが定量的に明らかになり,前者の影響が後者の影響より大きいことが定量的に示された。
キーワード 医薬品,処方,患者満足度,因子分析,共分散構造分析
第54巻第15号 2007年12月 小児救急医療の現状と問題点-保護者の立場からの分析-松村 多可(マツムラ タカ) 土田 賢一(ツチダ ケンイチ) 杤久保 修(トチクボ オサム) |
目的 現在行われている小児救急医療体制の検討に役立てるために,保護者側からみた小児救急医療の問題点と保護者のニーズを分析する。
方法 調査場所は横浜市で,調査期間は平成16年5月から平成17年1月である。調査対象はこの期間に1歳6カ月あるいは3歳になる子どもの保護者で,3万人であった。小児急病と小児救急医療体制に関する質問票を送付し,子どもおよび保護者が子どもの定期健康診査を受けるために福祉保健センターを訪れた際に,記入した質問票を提出してもらい統計分析した。
結果 対象保護者3万人のうち,20,567人の保護者から回答が得られた(回収率68.6%)。かかりつけ医を持っているのは91.5%で,そのうち,小児科医は63.2%,小児科も診療する内科医が32.8%,それ以外の診療科医と不明をあわせて4.0%であった。過去1年間に子どもの急病やけがを経験しているのは63.3%で,そのときの症状は発熱,嘔吐,下痢の順であった。保護者が子どもの急病に気づいた時間は,18~20時をピークとした夕方から深夜にかけてであった。受診決定までの時間は,けが,けいれんでは,すぐに決定するケースが多く,それぞれ49.5%,66.8%が30分以内に受診を決断していた。一方,他の疾患にはこの傾向はみられなかった。救急医療機関の役割分担があることを知っていたのは10.8%であった。今後の小児救急医療について希望することは,専門の小児科医に診てほしいという意見が多く(47.8%),次いで24時間対応など時間の延長(42.8%)や,電話などでの医療職との相談(39.8%)であった。
結論 子どもの急病に保護者が気づくのは夕方から深夜に多く,また急病に気づいてから,受診を決定するまでの時間は,けが,けいれんを除いて,特定の傾向がなかった。今後,需要の多い時間での診療供給や,現在試行されている対策の適切な評価と,強化の検討が望まれる。
キーワード 小児救急,質問票,保護者
第54巻第15号 2007年12月 基本健康診査受診者の14年後の死亡リスクと要介護リスクに関するコホート研究武田 俊平(タケダ シュンペイ) |
目的 老人保健法における基本健康診査(以下,基本健診)の受診者について,受診14年後の時点における生死および要介護・要支援(以下,要介護等)認定状況を分析することにより,死亡に関連する危険因子(以下,死亡リスク)および要介護状態に関連する危険因子(以下,要介護リスク)を明らかにする。
方法 仙台市若林区における1991年度基本健診受診者のうち,脳卒中治療中および既往歴のあった者等を除いた3,224名について,受診時における年齢,喫煙・飲酒習慣,肥満度,血圧,尿蛋白,尿潜血,血清総コレステロール値,肝機能,赤血球数,血糖値を独立変数とし,2005年5月1日(受診14年後)の時点における生死および要介護等認定(有病)の有無を従属変数として,男女別にロジスティック回帰分析を行った。
結果 基本健診受診者3,224名のうち,受診14年後の時点において,自立者は男572名(71.9%),女1,911名(78.7%),要介護等認定者は男47名(5.9%),女216名(8.9%),死亡者は男145名(18.2%),女176名(7.2%,市外転居者は男18名(2.3%),女85名(3.5%),転帰不明者は男13名(1.6%),女40名(1.6%)であった。つまり,死亡率は男が女の2.5倍であり,要介護等認定率は女が男の1.5倍であった。受診14年後の時点における生死に関して,ロジスティック回帰分析を行ったところ,男では,高齢,喫煙,貧血,高血糖が死亡と有意に関係し,女では,高齢,喫煙が死亡と有意に関係した。同様に,受診14年後の時点における要介護等認定の有無に関して,ロジスティック回帰分析を行ったところ,男では,高齢,貧血,高血糖が要介護等認定と有意に関係し,女では,高齢,喫煙,尿蛋白陽性が要介護等認定に有意に関係した。したがって,高齢を除くと,男では貧血と高血糖,女では喫煙が,死亡と要介護等認定の両方に関係しているところから,健康寿命との密接な関係が示唆された。
キーワード 高齢者,基本健康診査,死亡リスク,要介護リスク,ロジスティック回帰分析,コホート研究
第54巻第15号 2007年12月 麻疹流行における予防接種と免疫低下の関連性の分析-数理モデルによるシミュレーション-古島 大資(フルシマ ダイスケ) 梯 正之(カケハシ マサユキ)田中 政宏(タナカ マサヒロ) 大野 ゆう子(オオノ ユウコ) |
目的 近年,予防接種を受けたにも関わらず麻疹に感染するケースが報告されている。この一因としては,予防接種の普及により麻疹流行が小規模になり,野生株によるブースター効果が弱まり,免疫の低下が起こる可能性が考えられている。これを防ぐための方法としてワクチンの2回接種方式が有効とされている。本研究では,数理モデルを用いて,予防接種方式の違いによる集団の免疫保有状態および麻疹流行の抑制効果に関する検討を行った。
方法 本研究ではシステムダイナミクス理論に基づくシミュレーションを行った。まず,人口集団を年齢階級ごとに感受性保持者・罹患者・免疫保持者・免疫低下者の4つの区分に分けたモデル(SIRDモデル)を構築し,幼児における罹患率を高めに設定した上で,その人口変化を微分方程式で表現した。既存の資料をもとにパラメータと初期条件を設定し,1回目のワクチン接種後における免疫低下と2回目のワクチン接種のブースター効果に関する一定の仮定の下で,①予防接種が実施されていない状態での麻疹流行の定常状態(平衡状態),②定常状態において,ワクチン1回接種法と2回接種法それぞれを実施した場合の,4つの区分それぞれの人口変化の検証を行い,接種方式・接種率の違いによる流行状況と免疫低下の関連性の分析を行った。
結果 シミュレーションの結果,定常状態における感受性保持者・罹患者・免疫保持者の人数の割合は,それぞれ1.26%,0.02%,98.7%であった。ワクチンの1回接種を行った場合,予防接種が実施されていない状態に比べ,罹患者数を大きく減少させることができたが,人口集団におけるウイルスの持続感染は存続し,感受性保持者数が増加した。特に成人期での感受性保持者数の増加が顕著であり,接種率を高いレベルにするほどこの傾向は強くなった。これに対し2回接種では,90%以上の接種率において麻疹ウイルスの持続感染はなくなり,感受性保持者数も低い水準に保たれた。しかし,2回接種においても個々の接種率が85%の場合,麻疹の流行は持続することが示され,また,1回目,2回目の接種率がそれぞれ(60%,90%)の場合は,(90%,60%)の場合と比べ,麻疹の罹患者数は高いレベルで維持された。
結論 本研究のモデルにおいては,従来の1回接種法では集団における麻疹流行の完全な防止は難しく,現行の2回接種法がより有効であると推定された。しかし,流行防止には接種率が大きく関係しているため,接種方式に関わらず接種率の向上が必要であり特に1回目の接種率の向上が強く望まれる。
キーワード 麻疹,数理モデル,予防接種,ブースター効果,免疫低下
第54巻第15号 2007年12月 介護保険制度施行5年後の高齢者の介護サービス認知と利用意向-全国調査(2005年)のデータ分析を通して-和気 純子(ワケ ジュンコ) 浅井 正行(アサイ マサユキ)和気 康太(ワケ ヤスタ) 武川 正吾(タケガワ ショウゴ) |
目的 全国調査を通して,介護保険制度施行5年後の高齢者の介護サービスに関する認知と利用意向の実態と要因についてAndersenモデルを活用して分析する。
方法 層化2段抽出法によって全国100地点から抽出された65歳以上80歳未満の高齢者1,053名を対象に,14種類の介護サービスについて認知と利用意向を個別面接調査でたずねた。調査実施時期は2005年3月である。分析においては,個別サービスの認知と利用意向の単純集計を行ったうえで主成分分析を行い,利用意向については施設サービス利用意向と在宅サービス利用意向の2因子を抽出した。そのうえで,サービス認知,施設サービス利用意向,在宅サービス利用意向のそれぞれを従属変数として,Andersenモデルにおける個人要因を構成する素因,ニーズ要因,利用促進要因に帰属する計15変数を独立変数とする階層的重回帰分析を実施した。
結果 サービス認知ではグループホームなどの新しいサービスで認知度が低く,学歴,居住年数,世間体,保健行動,社会階層,ソーシャルサポートが統計的に有意な規定要因となっていた。一方,サービス利用意向は,施設サービス利用意向と在宅サービス利用意向の2因子構造になっており,後者の利用意向が前者に比較して高くなっていた。さらに,階層的重回帰分析の結果から,両者ともサービス認知が規定要因であることに加え,施設サービス利用意向では老親介護規範,IADL,社会階層,在宅サービス利用意向では年齢,保健行動,IADLが規定要因となっていた。
結論 介護保険制度施行5年後の時点で,新しいサービスについて認知が十分に図られていないことが判明した。またサービス認知を阻む要因として社会経済的格差や社会関係の希薄さが認められ,これらの改善を図る必要性が示された。介護サービスの利用意向では施設サービスと在宅サービスの利用意向が異なり,施設サービスでは依然として老親介護規範といった伝統的な意識の影響をうけるが,在宅サービスについてはそうした傾向は認められず,若い高齢者を中心に健康維持や介護予防の観点から利用が志向されていることが示唆された。
キーワード Andersenモデル,介護保険,サービス認知,サービス利用,全国調査
第55巻第1号 2008年1月 青壮年層の地域住民が高齢者に期待する役割高橋 和子(タカハシ カズコ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) 芳賀 博(ハガ ヒロシ) |
目的 青壮年層の地域住民が高齢者に期待する役割を明らかにする。
方法 対象は,福島県S市A地区在住の20~64歳の住民3,442人のうち,1/4を無作為抽出した861人である。調査方法は,自記式質問紙を用いて郵送法にて行った。調査内容は,対象者の属性および高齢者に期待する役割とした。「高齢者に期待する家での役割」は,食事の支度,掃除,孫の世話や保育などの16項目,「高齢者が参加したり重要な役割を果たすことができる団体・組織・会」は,町内会・自治会,老人会・高齢者団体,地域の文化・祭り関係の会などの16項目,「高齢者が参加したり重要な役割を果たすことができるボランティア活動」は,環境美化・整備活動,子育て支援等の活動,高齢者福祉関連活動等の11項目を挙げ該当項目を選択してもらった。分析は,Fisherの直接法にて性別比較と性・年齢別比較を行った。
結果 高齢者に期待する家での役割は,男女ともに「庭や花壇・菜園の管理」「留守番・電話番」の順であった。男女比較では「家計や財産の管理」で,男性の割合が高く,女性では「漬物・乾物・味噌作りなど」の割合が有意に高かった。参加や役割を果たせる団体・組織・会は,「老人会・高齢者団体」が男女ともに7割以上を占め,最も高い割合であった。ボランティア活動では,男女ともに「環境美化・整備活動」「子どもへの遊びの指導等」の割合が高く,男女比較では「農作業に関する活動」「子育て支援等の活動」「子どもへの遊びの指導等」で女性の割合が有意に高かった。性・年齢別の比較では,男性は年齢による差は認められなかった。女性は,年齢間での差があり,20~39歳では,子育て支援や子どもに関する活動,地域文化への関わりなど,40~59歳では,介護や高齢者福祉に関する役割期待が高かった。
結論 青壮年層が高齢者に期待する役割は,日常生活やその地域の中で実際に高齢者が行うことがイメージできる身近な内容が挙げられていた。高齢者が役割を持って地域での生活を続けていくためには,引退・隠居という社会的通念にとらわれずに,家庭内での役割の継続や高齢者が関われる地域活動を盛んにし,高齢者が主体的に担える役割を増やすことが重要である。
キーワード 青壮年,高齢者,地域住民,役割期待
第55巻第1号 2008年1月 高齢期のケア付き住宅に団塊世代が期待する条件佐々木 千晶(ササキ チアキ) 今井 幸充(イマイ ユキミチ) |
目的 高齢者のニーズの変化に即した将来的なケア付き住宅のあり方を検討するための基礎的資料として,団塊世代がケア付き住宅に求める条件の構造を示し,それらに対する期待度の違いからケア付き住宅に対する志向タイプを分類することを目的とした調査を行った。
方法 東京都A区の住民基本台帳から無作為抽出した昭和22~25年生まれの男女3,039名(女性1,522名,男性1,517名)を対象とし,2006年2月6~20日にかけて郵送法によるアンケートを実施した。質問内容として高齢期のケア付き住宅に必要な条件40項目に対する期待度を7件法で尋ね,探索的因子分析により妥当な解釈が可能な因子構造を確認した。次に回答者の志向タイプを分類するために,設定された因子の因子得点によるクラスター分析を行ってそれぞれの志向タイプの特徴を検討した上で,志向タイプと個人属性の関連をχ2検定により検討した。
結果 回収された393名(回収率12.9%)のうち,年齢の項目で55~59歳と回答され,ケア付き住宅に必要な条件40項目に欠損値がない342名(有効回答割合11.3%)を分析対象とした。探索的因子分析の結果からはケア付き住宅に必要な機能として「安全・快適」「コミュニティ機能」「自律性」の3因子が示された。因子得点によるクラスター分析の結果では,「個人志向タイプ」「交流・快適志向タイプ」「平均タイプ」「独立・快適志向タイプ」「控えめタイプ」の5タイプに分けられた。回答者の属性とタイプとの関連では,性別とタイプとの関連に有意差が認められ,女性では男性よりも「交流・快適志向タイプ」が多く「控えめタイプ」が少なかった。健康状態が「良い」グループでも同様の傾向がみられた。
結論 団塊世代がケア付き住宅に求める機能として「安全・快適」「コミュニティ機能」「自律性」の3領域が示された。回答者のクラスター分析の結果では,全ての領域で期待度が高い「交流・快適志向タイプ」が全体の1/4を占め,特にケア付き住宅の利用者の多数派となる女性でこの割合が高かった。これらのことから,将来のケア付き住宅には「交流・快適志向タイプ」の要求を満たすサービス水準が必要になることが示唆された。
キーワード ケア付き住宅,団塊世代,高齢者,志向タイプ,利用者のニーズ
第55巻第1号 2008年1月 日本の損失生存可能年数(YPLL)-10年間の推移-今井 博之(イマイ ヒロユキ) |
目的 1995年にわが国の死亡統計がICD-10に変更されて以降,2005年までの10年間に,損失生存可能年数(Years of Potential Life Lost:以下,YPLL)値がどのように変化したかについて調べた。
方法 該当する年の日本の人口動態統計から得た疾患別・年齢階級別の死亡数を用いて65歳未満のYPLLを算出した。また,この10年間に進行した少子高齢化の影響を排除するために,年齢調整YPLLについても検討した。
結果 日本の65歳未満YPLL値は,この10年間は減少傾向にあり,2005年のYPLL値は2,504,633年で,1995年と比較して19%減少した。疾患別YPLL値で最も高かったのは悪性新生物で,1995年は総YPLL値の26.9%を占め,2005年も27.1%とほとんど変化がなかった。外因死のYPLL値は,1995年の28.4%から2005年の30.0%へと増加の傾向がみられ,1998年に悪性新生物のYPLLを超えた。しかし,外因死のうち不慮の事故によるYPLL値はこの10年で約6ポイント低下したが,依然として10%以上を占めており,心疾患よりもわずかに高い値を示した。また,自殺によるYPLL値は約18%を占めており,10年間に8ポイント以上増加した。自殺のYPLLが不慮の事故のYPLLを越えたのは1998年であった。年齢調整YPLLについても上記の傾向とほぼ同様であった。しかし,年齢調整YPLLでは,総YPLLに占める悪性新生物の割合が21.5%であったのに対し,外因死が33.5%と,より大きな比重を占めていた。
結論 日本の総YPLL値は減少傾向にあるが,外因死によるYPLL値は心疾患を大きく上回っており,1998年以降は,単一で最大の原因である悪性新生物よりも高い値となった。この傾向は年齢調整YPLLでみるとさらに明らかで,2005年の年齢調整総YPLLに占める外因死の割合は33%を越えていた。外因死のうち,不慮の事故のYPLLは減少を続けている。一方,自殺のYPLLの増加は顕著であり,事故予防と自殺予防を包括した総合的な外傷防止対策が必要であることを示している。
キーワード YPLL,外因死,事故,自殺,safety promotion
第55巻第1号 2008年1月 神経内科的疾患患者の在宅介護者に対する
宮下 光令(ミヤシタ ミツノリ) 秋山 美紀(アキヤマ ミキ) 落合 亮太(オチアイ リョウタ) |
目的 神経内科的疾患(パーキンソン病,脳梗塞,筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅介護者に対して,個別化された重みつきQOL尺度であるSEIQoL-DW(Schedule for the Evaluation of Individual QoL-Direct Weighting)を実施し,介護者のQOL評価に関するSEIQoL-DWの実施可能性とその性質を検討する。
方法 調査期間は2001年8月から2003年3月であった。調査対象はパーキンソン病3人,脳梗塞8人,筋萎縮性側索硬化症6人の合計17人であった。半構造化面接法により,SEIQoL-DWに関する質問を行った。倫理的配慮として,書面による説明と同意を行った。
結果 患者は男10人,女7人,平均年齢68±15歳であった。介護者は男4人,女13人,平均年齢62±14歳であった。SEIQoL-DWに関しては,17人の対象から合計79のキュー(大切な事柄)が挙げられた。キューの集計では,最も多かったものが「自分の健康」であり,順に「家族」「趣味」「経済」「将来」であった。SEIQoL-DWインデックスは平均59±24,最大値94,最小値17であり,ばらつきが大きかった。ADL(Barthel Index)が低いほどSEIQoL-DWインデックスが高い傾向にあった(r=-0.59,P=0.06)。他の背景要因との有意な関連はなかった。
考察 介護者に対するSEIQoL-DWを測定した研究はわが国で初めてである。神経内科疾患の介護者は,自分の健康に留意しながら,患者を含む家族を大切にしながら介護を行っていることが明らかになった。SEIQoL-DWインデックスは広く分布し,介護者のQOLを広い範囲で捉えることができる可能性がある。また,介護負担感尺度ZBIとは関連がなく,SEIQOL-DWは介護負担感とは別の視点からの介護者のQOLを測定できる可能性があることが示された。
結論 神経内科的疾患を在宅で介護する介護者17人に対し,SEIQoL-DW評価を行い,実施可能性と性質を確認した。今後は症例をさらに蓄積し,介護者のQOL測定に対する,SEIQoL-DWの有用性を検証することが課題である。
キーワード QOL,SEIQoL-DW,介護,評価,筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,脳梗塞
第55巻第1号 2008年1月 Breslow健康指数と生活習慣病危険因子および食生活習慣との関連早川 瑞希 (ハヤカワ ミヅキ) 井上 和男(イノウエ カズオ) |
目的 Breslowの7つの生活習慣にもとづく健康指数(Health Practice Index: HPI)と生活習慣病危険因子および具体的な食生活習慣との関連を検討した。
方法 2002年に3事業所で職員健診を受診した891名のうち,必要なデータが得られた844名(男603名,女241名)を対象とした。Breslowの7つの生活習慣(喫煙,運動,飲酒,睡眠,肥満,朝食,間食)に基づいてHPIを算出し,対象群を低値群(HPI=0~3:301名),中値群(HPI=4:287名),高値群(HPI=5~7:256名)に分類した。3群間で生活習慣病危険因子を含む17項目(血圧および生化学的検査)の値,食生活習慣15項目(塩分,緑黄色野菜,果物,炭水化物,蛋白質食品,肉料理,揚げ物,海藻類や小魚,乳製品,インスタント食品,菓子類,ジュースや缶コーヒーの摂取,栄養バランスを考慮する,ゆっくり噛んで食べる,就寝前2時間は食事をしない)の頻度を比較した。生活習慣病危険因子については分散分析を行い,食生活習慣についてはχ2検定とロジスティック回帰分析を行った。
結果 生活習慣病危険因子に関しては白血球数,GPT,γGTP, HDLコレステロール,トリグリセリド,尿酸の検査値に3群間で有意差がみられ,いずれもHPIの高い群ほど検査成績は良好だった。食生活習慣に関しては,好ましい食習慣の頻度を性別比較すると10項目で女性の方が高かったのに対し,男性の方では1項目のみであった。好ましい食習慣の頻度をHPIで分類した3群間で比較したχ2検定では,ほとんどの項目において有意差がみられ,HPIの高い群ほど好ましい食生活習慣を有していた。ロジスティック回帰分析で低値群と中値群を比較すると7項目(緑黄色野菜,果物,炭水化物,乳製品,ジュースや缶コーヒー,栄養バランスの考慮,就寝前の食事)で有意差がみられ,低値群と高値群で比較するとさらに4項目(塩分,蛋白質,海藻類や小魚,ゆっくり噛んで食べる)でも有意差がみられた。
結論 HPIの高い群ほど生活習慣病危険因子の検査成績が良く,好ましい食生活習慣を有する傾向にある。BreslowのHPIは幾つかの生活習慣病危険因子との関連を有するとともに,食生活全般の健康度を推定する上でも有用な指標といえる。
キーワード Breslow, Health Practice Index,生活習慣病,食生活,健康診断
第55巻第2号 2008年2月 居住費・食費の負担の見直しによる介護保険3施設への影響-介護保険給付費実態調査月報から-林原 好美(ハヤシバラ ヨシミ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 高橋 秀人(タカハシ ヒデト)柏木 聖代(カシワギ マサヨ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ) |
目的 2005年10月に介護保険制度の施設給付の見直しとして実施された,居住費・食費の自己負担化が介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設(以下,介護保険3施設)施設数および入所利用人数に対してどの程度,影響を及ぼしているかを明らかにすることを目的とした。
方法 厚生労働省が公表している介護給付費実態調査月報の2002年4月から2006年3月までの48カ月分のデータを用い,介護保険3施設それぞれにおける施設数,利用人数と1施設当たり平均利用人数を経時的に図示し,その傾向をみた。その上で,見直し前24カ月のデータから,見直し後の6カ月を予測し,実測値との差を検討することで見直し前後に有意な変化があったかどうかを検討した。
結果 施設給付の見直し前後で有意な減少があったのは,介護療養型医療施設の施設数と利用人数のみであった。さらにこの減少を利用人数の介護度別でみた結果,介護度5の利用人数が有意に減少していた。介護療養型医療施設において減少した利用者の行き先としては,医療療養型医療施設の可能性が示唆された。介護給付費実態調査は月報であり,本データによる分析では介護老人福祉施設,介護老人保健施設の利用人数に有意な減少は認められなかったが,実際にはこの2つの介護保険施設においても退所者が存在していたことが報告されている。介護老人福祉施設,介護老人保健施設では,今回の見直しにより退所者が発生したが,すぐに利用者が入所したことにより利用者人数に変化がみられなかった可能性が考えられる。
結論 施設給付の見直し前後における施設数と利用人数の変化をみることで,居住費・食費の自己負担化が介護療養型医療施設の施設数と利用人数,特に介護度5の利用人数減少の影響を与えていたことが明らかになった。
キーワード 介護保険制度,施設給付,介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設
第55巻第2号 2008年2月 子育てネットワークと行政との関係に関する研究-エンパワーメントプロセスからの分析-中谷 奈津子(ナカタニ ナツコ) 橋本 真紀(ハシモト マキ) 西村 真実(ニシムラ マミ) |
目的 本研究は,子育てネットワークと行政との関係を久木田のエンパワーメントプロセスに基づき調査した結果の再分析である。顕著な特徴の表れた,意志決定の段階と活動の独自性に着目し,組織を3分類した上で比較検討した。これら組織の特性を明らかにし,さらなるエンパワーメントプロセスについての分析を試みた。
方法 予備調査において乳幼児を対象として子育てネットワークを実施していると回答した218組織に質問紙調査を行った。回収は118票,回収率54.1%である。子育てネットワークと行政や専門職との関係を把握するため,エンパワーメントプロセスに沿って10項目の質問を設定し,組織の主観的状況を測定した。その結果,顕著な特徴を示した第8項目「意志決定の段階」と第10項目「活動の独自性」に着目しクロス表を作成した。意志決定協力型,独自性型,バランス型の3群に分類し,比較検討を行った。
結果 意志決定協力型はボランティア養成講座がきっかけとなり,市町村を運営主体とし,活動数,活動頻度も少なかった。会員がすべて女性である割合も高く,仕事を持たない会員が多かった。行政からの援助を多く受け,「あらかじめ決められたことに協力するよう依頼される」という面が強い。独自性型はNPOが多く,必要感を強く感じて発足する傾向にある。活動数が多く,活動頻度も高い。男性の参加率も高く,仕事を持つ会員の割合も高い傾向にあった。しかし行政からの援助は最も少なく「あらかじめ決められたことに協力するよう依頼される」という得点は低い。また「行政から特に意見を求められることはない」側面の強い組織であった。バランス型は相談・助言を多く実施し,仕事を持つ会員も多い傾向にあり,行政から資金援助を受ける傾向にあった。「行政から特に意見を求められることはない」とする得点は低く,「行政主催の会議などで意見を述べると,その決定権を共有していると感じることが多い」と感じる傾向が強いことが明らかになった。
結論 子育てネットワークにおいては,行政等と意志決定の段階から協力して活動を進めずとも,エンパワーメントプロセスをたどる組織が存在することが分かった。また一方で意志決定の段階から協力して活動を進める組織であっても,エンパワーメントプロセスをたどっているといいがたい組織も存在した。
キーワード 子育てネットワーク,エンパワーメントプロセス,行政,子育て支援,意志決定,活動の独自性
第55巻第2号 2008年2月 三重県東紀州医療圏南部における救急医療の機能分担の現状-搬送動向に関するロジスティック回帰分析を用いた検討-岩城 孝明(イワキ タカアキ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) |
目的 住民の医療需要に見合った施設連携や医療資源の適正配置等を検討するためには,医療機能の分担状況を把握することが必要と考えられる。そこで,本研究では医療提供体制のうち救急医療体制について考えることとし,県境を挟んだ熊野保健所管内(三重県)と新宮保健所管内(和歌山県)の中核的な病院間での救急医療機能の分担状況,県境を越えて搬送される要因を明らかにすることを目的とした。
方法 熊野保健所管内にはA病院,新宮保健所管内にはB病院と中核的な病院が1施設ずつ存在する。A病院とB病院の間に位置する3町村から両病院へ搬送された傷病者について分析を行った。分析は,搬送先を従属変数とし,搬送者の性別,年齢,傷病程度,傷病分類(心疾患,脳疾患,呼吸器系,消化器系,精神疾患,その他の急病,診断名不明の急病,外因性傷病),現場到着から病院収容までの所要時間,救急車の出場先(搬送元)から両病院への道程距離差を独立変数として,単変量および多変量ロジスティック回帰分析を行い,A病院と比較してB病院への搬送されやすさを示すオッズ比とその95%信頼区間およびP値を求めた。
結果 B病院への搬送者には心疾患が有意に多く(オッズ比(95%信頼区間):2.38(1.56-3.63),P<0.01),また,精神疾患が搬送される傾向があった(1.62(0.71-3.66),P=0.25)。一方,A病院への搬送者には,外因性傷病が有意に多かった(0.55(0.38-0.78),P<0.01)。
結論 医療施設調査報告などの既存資料によって,医療圏における一定の救急医療機能の把握は可能であるが,より実質的な機能分担の状況は把握困難であった。本研究では救急搬送者の主要な傷病について病院間の機能分担の一端を明らかにした。保健医療計画策定などにおいて,住民の医療需要に見合った施設連携や機能分担を検討するための有用な基礎的資料のひとつになると考えられた。また,ロジスティック回帰分析は,危険因子と疾病の関連を明らかにするために用いられることが多いが,医療機能の分析にも有用であると考えられた。
キーワード 救急医療体制,病院機能,機能分担,ロジスティック回帰分析,医療圏,日常生活圏
第55巻第2号 2008年2月 保健所における夜間HIV抗体検査を受ける
北川 信一郎(キタガワ シンイチロウ) 臼井 忠男(ウスイ タダオ) 土井 渉(ドイ ワタル) |
目的 保健所で実施するHIV抗体検査を受けるMSM(Men who have sex with men)のHIV・STD関連知識を把握し,今後の検査・相談のあり方を検討する基礎資料とする。
対象と方法 平成18年5~10月に,京都市内の保健所で実施する夜間HIV抗体検査の受検者を対象に,自記式の質問票を配布した。
結果 受検者216人のうち,受検動機を「性的関係による感染を心配して」と答えた203人を有効回答とした(94.0%)。男性117人(57.6%),女性86人(42.4%)で,男性のうちMSMであると回答した者は12人であった。MSMを除く男性(非MSM)とMSMを比較したところ,属性では,平均年齢は非MSM群の方が高い傾向がみられたが,有意差はみられず,また,年齢別の分布,居住地にも有意差はみられなかった。HIV・STD関連知識では,①HIVに感染すると,すぐに抗体検査で陽性になる,②HIVに感染しても,早く病院を受診すれば,エイズの発症を抑えられる,④日本の若者の間で,淋菌・クラミジアなどの性感染症が広がっている,⑤性感染症に罹(かか)ると,必ず症状がでる,⑥フェラチオなど口を使ったSEXでクラミジアは咽頭(のど)に感染することがある,⑦性器クラミジア感染症は,女性の場合,不妊の原因になることがある,の6問では2群間に有意差はみられなかったが,③クラミジアなどの性感染症に罹っているとHIVに感染しやすくなる,⑧性感染症であるパピローマウイルスは子宮頸がんの原因となることがある,の2問でMSM群の正解率が有意に低かった。
結論 MSMは,非MSMと比較し,HIV・STD関連知識に関し異なる傾向があることがわかった。今後,MSMに対し,検査・相談の場でどのように正しい知識を提供し,どのような内容のカウンセリングを行うのか,詳細な研究と,根拠に基づいた質問票,配布資料,待合室での視覚教材等の開発が必要である。
キーワード HIV抗体検査,MSM,保健所,HIV・STD関連知識
第55巻第2号 2008年2月 介護老人福祉施設高齢者の排泄自立に関連する要因の検討原野 かおり(ハラノ カオリ) 濱口 晋(ハマグチ ススム) 柳 漢守(ユ ハンス)桐野 匡史(キリノ マサフミ) 岡田 節子(オカダ セツコ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ) |
目的 要介護高齢者の排泄に対する介入方法の指針を得ることをねらいとして,介護老人福祉施設高齢者を対象に,身体機能ならびに知的機能と排泄自立の関係性を明らかにすることを目的とした。
方法 調査は,A県内の介護老人福祉施設のうち協力の得られた39施設で実施した。調査内容は,基本属性(性,年齢,施設入所期間,要介護度),身体機能(粗大運動・微細運動),知的機能(認知機能),排泄自立の可否で構成した。統計解析には,回収された1,376名のデータのうち欠損値を有さない921名のデータを用いた。粗大運動2項目(移乗,歩行),微細運動4項目(「食事のときに茶碗を持ったままで箸が使える」「小さなボタンのかけはずしができる」「ひもを結ぶことができる」「タオルをきちんと絞ることができる」),MMSE6項目(「場所の見当識」「物品の復唱」「物品名の想起」「計算」「物品名の呼称」「文章の指示実行」)を独立変数として投入し,排泄の自立の可否を従属変数としてロジスティック回帰分析を行い,排泄自立に関連する要因を抽出した。次いで,集計対象を約50%ランダム抽出法で2群に分割し(A群:461名とB群:460名),ロジスティック回帰分析で得た偏回帰係数を用いてA群およびB群における予測値を算出し,それぞれの排泄の実測値における関係性を確認した。
結果 ロジスティック回帰分析の結果,「移乗」「ひもを結ぶことができる」「歩行」「小さなボタンのかけはずしができる」「物品名の想起」の5項目が排泄自立に統計学的に有意に関連することが明らかになった。排泄自立予測値(0.08で分割)と実測値との関係性をクロス表で確認した結果は,真陽性143名(自立と予測して実際に自立),真陰性661名(非自立と予測して実際に非自立),偽陽性108名(非自立であるが自立と予測),偽陰性9名(自立であるが非自立と予測)であり,感度94.1%,特異度86.0%であった。
結論 「移乗」「ひもを結ぶことができる」「歩行」「小さなボタンのかけはずしができる」「物品名の想起」の5項目が施設高齢者の排泄自立に関連し,かつ予測にも利用できる可能性が示唆された。
キーワード 介護老人福祉施設高齢者,排泄自立関連要因,排泄自立予測
第55巻第3号 2008年3月 大学生の健康習慣と自己管理スキルおよび生活満足度との関連鈴木 みちえ(スズキ ミチエ) 宇野木 昌子(ウノキ マサコ) 山本 るり子(ヤマモト ルリコ)中丸 弘子(ナカマル ヒロコ) 鈴木 知代(スズキ トモヨ) 中野 照代(ナカノ テルヨ) 顧 寿智(コ ジュチ) |
目的 青年後期にある大学生が好ましい健康習慣を獲得すること,自己の健康管理力を高めることは学業と匹敵するほど重要な課題である。そこで,健康学習支援の方法を検討するための基礎資料を得ることを目的に健康習慣と生活背景,保健行動実現のための自己管理スキルおよび学生生活満足度との関連について検討した。
方法 2006年度大学入学生327名を対象に生活背景,健康習慣,一般的自己管理スキル尺度,生活満足度に関する自記式質問紙調査を実施した。調査の時期は2006年11月である。有効回答が得られた18,19歳の者243名を分析対象とし基本統計量の算定,健康習慣と生活背景,自己管理スキル尺度,生活満足度との関連性について検討した。
結果 好ましくない健康習慣保有者は,運動しない63.8%,塩分をひかえていない47.3%,睡眠時間5時間以下27.6%,間食をほぼ毎日食べる23.9%,栄養バランスを考えない20.6%,1日の学業・アルバイト11時間以上14.0%,朝食を食べない7.4%,喫煙している4.5%,ほぼ毎日飲酒する1.6%,であった。サークル活動に参加していない者の方が運動しないが多く(p<0.01),家族と同居していない者の方に朝食を食べない者が多かった(p<0.01)。塩分をひかえていない,間食をほぼ毎日食べる,栄養バランスを考えないの3項目の好ましくない食習慣を有する者はそうではない者より自己管理スキル得点および自己向上と学習に関する満足度得点が有意に低かった。
結論 大学生の健康習慣には生活背景や自己管理スキル,生活満足度が関連することが明らかになり,好ましくない健康習慣を指摘し行動変容を働きかけるというより,学業も含めた学生生活全体を視野に入れた関わりの中で,いかに自己管理スキルを高めていくかが課題であり,特に,健康管理の基盤ともいえる食習慣に対する意識啓発の必要性が示唆された。
キーワード 大学生,健康習慣,自己管理スキル尺度,生活満足度
第55巻第3号 2008年3月 大都市独居高齢者における子どもの有無,
林 暁淵(イム ヒョヨン) 岡田 進一(オカダ シンイチ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ) |
目的 大都市独居高齢者の子どもの有無,子どもとの関係が彼らの日常生活満足度および全体的生活満足度にどのような関連があるのかを明らかにすることを目的とする。
方法 調査対象は,無作為抽出による大阪市居住の65歳以上の独居高齢者1,020名であった。調査方法は,郵送による横断的調査法を用いた。有効回収率は,51.6%(526名)であった。分析方法は,①子どもの有無によって独居高齢者の日常生活満足度および全体的生活満足度に違いがみられるかを検討するため,子どもの有無を独立変数,日常生活満足度の各生活領域ごとの総得点および全体的生活満足度の得点を従属変数とするt検定を行った。②子どもとの関係が独居高齢者の日常生活満足度および全体的生活の満足度に与える影響をみるために,子どもとの関係とコントロール変数として性別,年齢,暮らし向き,主観的健康度を独立変数,日常生活満足度の各生活領域ごとの総得点および全体的生活満足度の得点を従属変数とする重回帰分析を行った。性別(男性=0,女性=1),暮らし向き(低位群=0,高位群=1),主観的健康度(低位群=0,高位群=1)はダミー変数を用いた。
結果 t検定の結果,子どものいる独居高齢者が子どものいない独居高齢者より,「対人関係(p<0.01)」「居住環境(p<0.01)」「食事(p<0.05)」領域における満足度が高いといった結果が示された。また,重回帰分析の結果,子どもとの関わりについて普段うまくいっていると認識しているほど,「対人関係(p<0.001)」「居住環境(p<0.01)」「食事(p<0.01)」「睡眠(p<0.05)」「家事(p<0.05)」領域における満足度と「全体的生活満足度(p<0.001)」が高いことが明らかになった。このような結果から,子どもの有無が高齢期の生活に密接に関連していること,子どもがいても子どもとの関係が断絶されることは,独居高齢者の生活にさまざまな困難をもたらす可能性が高くなることが示唆された。
結論 独居高齢者の生活の質を高めるために,子どものいない独居高齢者には補完システムを地域社会で作っていくこと,子どものいる独居高齢者には子どもとの情緒的連帯感を高められるような支援を配慮していくことが求められる。
キーワード 独居高齢者,子どもの有無,子どもとの関係,日常生活満足度,全体的生活満足度
第55巻第3号 2008年3月 新型インフルエンザ大流行に備えた
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目的 新型インフルエンザ大流行に備えた危機管理研修教材を開発し,その有用性を検討することを目的とした。
方法 ゲーミング・シミュレーションであるクロスロードゲーム新型インフルエンザ編を作成し,地域における新型インフルエンザ対策会議において試用した。ディブリーフィング(ふりかえり)を経てゲーム終了後,記述式による質問紙調査を実施した。質問内容は,「まわりの人の決断で意外だったもの」「他の人の意見で,なるほどと感心した,あるいはためになると思った意見」そして感想である。また,参加が楽しかったか否かを「楽しかった」から「楽しくなかった」の5択で尋ねた。感想は,KJ法によって分析した。
結果 参加者30名全員から回答を得,「一生懸命考えたので苦しかった,頭が痛かった」と記述していた1名を除き,参加して「楽しかった」と感じていた。「まわりの人の決断で意外であったもの」「他の人の意見で,なるほどと感心した,ためになると思った意見」ともに,回答がある問題カードに集中するなどの偏りがなかった。感想は「手法に対しての感想」(3項目),「自覚させられたこと」(5項目),「手法の応用」の3つに分類された。
結論 危機管理は,ゲーミング・シミュレーションの教育目的に沿った能力が求められている。感想シートの分析結果から,このクロスロードゲーム新型インフルエンザ編は,ゲーミング・シミュレーションの目的に沿って学習がなされていると考えられた。また,それぞれが多くの質問カードに意外性をもつなど回答が寄せられたことから,問題カードの内容およびクロスロードゲームの実施が妥当であったと評価できる。参加者の楽しかったという回答から,積極的な参加が見込まれると考えられた。以上により,新型インフルエンザに関する危機管理の教材として有用と考えられた。
キーワード 新型インフルエンザ,危機管理,ゲーミング・シミュレーション,クロスロードゲーム
第55巻第3号 2008年3月 精神障害者通院公費負担制度の利用者増加の要因-平成12年度および17年度のレセプト調査の比較-箱田 琢磨(ハコダ タクマ) 竹島 正(タケシマ タダシ) 三宅 由子(ミヤケ ユウコ)泉 陽子(イズミ ヨウコ) 鷲見 学(スミ マナブ) |
目的 精神障害者通院医療費公費負担制度(通院公費)は昭和40年に創設されて以来,利用者数が増加してきたが,制度の趣旨をこえた利用の拡大の可能性も指摘されている。本研究は通院公費に関するレセプト調査(平成12年度調査,17年度調査)のデータを用いて,その間にどのような利用者が増加しているかを明らかにし,増加の要因を検討することを目的とした。
方法 対象は通院公費に関するレセプト調査において診療報酬明細書(医科レセプト)が収集された通院公費利用者とした(平成12年度調査1,759件,17年度調査3,674件)。性別,主たる傷病名(ICD-10による),生活保護の有無,医療機関の種類(病院,診療所)にはχ2検定,年齢にはt検定,診療報酬請求点数の解析にはマンホイットニーのU検定を用いて,平成12年度と17年度の対象者を比較した。なお,レセプトには院外処方箋の出ているもの(処方箋ありレセプト)と出ていないもの(処方箋なしレセプト)があり,それぞれについて解析を行ったが,診療報酬請求点数では処方箋なしレセプトでのみ行った。
結果 主たる傷病名では気分(感情)障害(F3)(気分障害)が増えていた(p<0.0001)。全レセプトでは診療所で診療された対象者の割合が有意に増加していたが(p<0.0001),処方箋なしレセプトにおいては病院が約7割のままであった。1件当たりの診療報酬請求点数では有意な増加がみられ(p<0.0001),症状性を含む器質性精神障害(F0)(器質性精神障害)と統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害(F2)(統合失調症),成人のパーソナリティ及び行動の障害(F6)(人格障害),てんかんの診療報酬請求点数が有意に増加していた。
考察 患者調査によれば平成11年から17年にかけて気分障害による推計外来患者数が大きく増加していることから,外来患者数の増加が通院公費利用者の増加の背景にあると考えられる。通院公費利用者の医療機関では,特に院外処方箋を出している診療所が増加しているものと考えられる。診療報酬請求点数の増加には器質性精神障害,統合失調症,人格障害の診療報酬請求点数の増加が関わっていると考えられる。
結論 通院公費利用者の属性は精神障害の入院外診療における推計外来患者数と同様の傾向を有しており,通院公費利用者増加の背景には通院精神医療全般の患者の増加があると考えられる。
キーワード 精神障害者通院医療費公費負担制度,診療報酬明細書(レセプト),自立支援医療
第55巻第3号 2008年3月 禁煙した勤労者の生活習慣の変化高田 康光(タカタ ヤスミツ) |
目的 職場の分煙化が進み,禁煙する勤労者が増加しているが,禁煙後の体重増加の問題が発生している。禁煙した勤労者の健康維持を支援する方法を検討する。
方法 職場の分煙活動が展開された2002年度から2006年度までの期間に禁煙した男性勤労者(禁煙群)64名を対象とした。その生活習慣を健康診断結果より後ろ向きに調査し,同職場に在籍した同年代の269名の喫煙勤労者(喫煙群)を対照として比較した。
結果 禁煙開始前には禁煙群,喫煙群に喫煙・運動・飲酒習慣,血圧,Body mass index(BMI)に有意な差を認めなかった。ただし,禁煙群では寝る前に食事をする習慣の割合がより高く,睡眠時間が少なかった。観察終了時に,喫煙群では低下した週1回以上運動する割合が,禁煙群では有意に増加していた。また,観察開始時に認めた禁煙群と喫煙群の食習慣,睡眠時間の有意差はなくなっていた。一方,観察終了時の禁煙群のBMIと血圧は,喫煙群に比べ有意に高値を示した。また,禁煙群で運動頻度が週1回以上増加しないと,BMIが対照喫煙群に比べて,有意に増加していた。
結論 喫煙を継続した群に比べ,禁煙した勤労者でBMI,血圧が高くなっていたが,同時に食事,運動習慣の改善を認めた。特に運動頻度が増加していたが,運動頻度が増えなかった勤労者での体重増加が顕著であり,禁煙直後の運動指導を体重増加の予防方法として考慮する必要性を示した。
キーワード 禁煙,喫煙,運動習慣,肥満,健康日本21
第55巻第4号 2008年4月 新潟県中越地震で被災した児童による
永幡 幸司(ナガハタ コウジ) 守山 正樹(モリヤマ マサキ) 鈴木 典夫(スズキ ノリオ) |
目的 新潟県中越地震で被災した児童が,避難生活で体験した出来事をどのようにとらえていたのかを明らかにすることを目的とした。
方法 新潟県中越地震の際,全村避難した地域である,旧山古志村の小学生47名(男児24人,女児23人)を対象とし,2次元イメージ展開法と呼ばれるワークショップの手法(避難生活で体験したと考えられる31種類の出来事を書いたラベルの中から,各児童にとって特に印象的な出来事を表すものを10枚以内で選択してもらい,それらを体験の「いやさ」「うれしさ」という観点から評価し,2次元座標平面上に展開することで,生活のイメージマップを作成する)を用いて,児童自身に避難生活を振り返ってもらった。
結果 児童が「避難生活で体験した特に印象的な出来事」として選択したラベルには,学年差,性差はほとんどみられなかった。各児童が作成したマップにおける,各出来事を表すラベルが布置した座標値を基に,出来事ごとのラベルの散布図を作成したところ,それらの布置は,①いやさの評価に関わらず,うれしさが一定の評価であるもの,②いやではないと評価されたものほど,同時に,うれしいと評価されるもの,③いやさの評価とうれしさの評価の間に関係性のみられないものの3通りに分類でき,その中で,特に①については,うれしさの評価が高評価のものと,低評価のものに分類できることがわかった。そして,①のうれしさが高評価のものには,支援物資や励ましの手紙をもらったことが,①のうれしさが低評価のものには,地震による被害に関する出来事が,②には学校に関する出来事と家庭生活に関する出来事が,③には避難行動に関する出来事と避難所での直接的支援活動に関する出来事が,主として分類された。
結論 避難生活中に児童が体験した出来事は,皆がうれしいと評価するもの,皆がうれしくないと評価するもの,うれしさといやさの評価の間に負の相関関係がみられるもの,うれしさといやさの評価の間に相関関係がみられないものの4種類に分類できる。被災児童への支援のうち,物資や手紙の送付は児童にとってうれしい出来事として評価されるが,被災地において児童と直接接するような活動は,児童のニーズにあわなければ,うれしくない活動として評価されてしまう危険性がある。
キーワード 新潟県中越地震,被災児童,避難生活,2次元イメージ展開法,支援活動
第55巻第4号 2008年4月 在宅要介護高齢者の主介護者における
岡本 和士(オカモト カズシ) 原澤 優子(ハラサワ ユウコ) |
目的 在宅介護者の介護負担感と心理的・精神的および家族環境との関連を明らかにする目的で,通所介護施設を利用する主たる介護者を対象に留め置き法による自記式質問紙調査を実施した。
方法 対象は2006年6月に研究協力が得られた通所介護施設の利用者250名のうち,主たる介護者を持つ195名を対象に自記式質問紙を用いて実施した。質問紙の配布は施設スタッフが通所サービスの際,介護者に直接手渡しにて行い,回収は介護者が調査用紙を直接施設へ郵送した。質問紙の回収数は152名(回収率77.9%)であった。このうち,欠損値のなかった122名を今回の解析対象とした。介護者の介護負担感の測定にはZarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)の8項目を用い,その合計点を対象者全体の3分位に基づき,高位1/3(高負担群)とそれ以外(低負担群)の2群に分類した。介護負担感と各要因の関連の検討は,介護負担感を従属変数,性,年齢のほか検討に用いた要因を独立変数としたロジスティック回帰分析にて行った。
結果 単変量解析にて高負担群と低負担群の間で有意差を認めた要因(健康状態,感情抑制,生きがい感,ストレス,家族のサポート状況)について,それらの独自の関連の程度をロジスティック重回帰分析を用いて検討した結果,「生きがい感(なし)」のオッズ比のみ有意(オッズ比4.9;95%信頼区間1.1-18.5)な関連を認めた。生きがい感の介護負担感への関連の程度を調べる目的で直接的な関連と他の要因を介しての間接的な関連の程度を比較した結果,生きがい感が介護負担感に直接的に関連する割合(91.2%)は間接的な関連のそれ(8.8%)に比べ高かった。
結論 介護に対する生きがい感をもつことが,介護負担感の低減に重要な役割を有する可能性が推測された。本研究で得られた結果は生きがい感など心理的・精神的活動性の保持・向上を目的とした,医療関係者のみならず心理の専門家などの他職種らとの連携による包括的な支援体制の構築の必要性を示唆する知見と考えられた。
キーワード 介護者,介護負担感,心理精神的要因,生きがい感,横断的研究