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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第59巻第12号 2012年10月

高齢者の健診受診と「将来の楽しみ」,うつ,
社会経済的要因との関連

-AGESプロジェクト-
芦田 登代(アシダ トヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ)
白井 こころ(シライ ココロ) 近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 三澤 仁平(ミサワ ジンペイ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 厚生労働省の目標値よりも健診受診率が低いことが指摘されている。そこで,どのような人が健診を受診しているのか明らかにすることを目的に,ポジティブな心理要因(将来の楽しみ),うつ,所得などと受診経験の有無との関連を分析した。

方法 愛知老年学的評価研究(Aichi Gerontological Evaluation Study,AGES)プロジェクト2006~2007年調査データの一部を用い要介護状態でない高齢者15,726人を分析対象とした。目的変数は健診受診経験の有無,説明変数は「将来における楽しみ」の有無,年齢,性別,等価所得,教育年数,婚姻状態,就労状態,主観的健康感,IADL,現在治療中の疾患の有無,高齢者うつ尺度15項目版(GDS)の計11変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。

結果 変数をすべて同時に投入すると,「将来の楽しみ」がない者に比べある者が健診を受診したオッズ比(OR)は,男性で1.25,女性で1.45であった(p<0.01)。等価所得については,100~200万円未満のグループと比較すると,400万円以上では男女1.27(p<0.01),男性1.57(p<0.01)と有意に高かったが,女性では1.10で有意な関連はみられなかった。うつと楽しみの有無とは関連がみられたが,両者を同時投入すると,男女ともうつは有意ではなくなり将来の楽しみのみが有意なORを示した。さらに,等価所得階層間で「将来の楽しみ」の有無と健診受診経験「有」の確率を比較すると,高所得層で「将来の楽しみ」がない人より,低所得でも楽しみのある人の方が受診経験「有」が多いという結果が得られた。

結論 将来の楽しみがある人・高所得の人において,男女ともに健診を受診した者が多く,うつと比べ将来の楽しみがあることの方が健診受診経験との関連が強く,所得が低くても将来の楽しみのある人のほうが,高所得で楽しみがない人よりも健診受診経験が多いことが示された。これらのことは,健診受診行動には,社会階層や将来の楽しみ等が関連していることを示唆しており,健診受診の促進には受診勧奨だけではない,総合的なアプローチの必要性が示唆される。

キーワード 将来の楽しみ,うつ,健診受診経験,社会経済的要因,所得

 

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第59巻第12号 2012年10月

訪問看護ステーションの管理者の
インフルエンザワクチン接種に対する意識

豊島 泰子(トヨシマ ヤスコ) 鷲尾 昌一(ワシオ マサカズ) 今村 桃子(イマムラ トウコ)
荒井 由美子(アライ ユミコ)

目的 訪問看護ステーションの管理者のインフルエンザ感染予防の意識を明らかにし,訪問看護サービスを利用する利用者のインフルエンザ感染予防を行うことを目的にした。

方法 九州7県の訪問看護ステーションの管理者426名を対象に調査内容は,インフルエンザワクチン接種の勧奨をしている対象者について,訪問看護サービスを利用している利用者以外の介護者や同居家族へのインフルエンザワクチン勧奨について,訪問看護ステーションで勤務する看護・介護職員のインフルエンザワクチン接種割合,インフルエンザワクチン接種費用の負担について等であった。

結果 訪問看護ステーションの管理者は,92.6%が利用者,86.6%が家族介護者,67.1%が介護者以外の同居家族に対してインフルエンザワクチン接種の勧奨を行っていた。89.2%の施設でワクチン接種に対する金銭的補助がなされ,看護介護職員のワクチン接種割合が90%以上の施設は84.0%であった。

結論 看護介護職員のワクチン接種割合が90%以上の施設は84.0%であり,訪問看護の利用者のインフルエンザ感染予防の点から看護職の接種割合100%を目標にさらなる接種割合の向上に努める必要があると考えられた。

キーワード 訪問看護ステーション,インフルエンザワクチン,意識,管理者,同居家族

 

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第59巻第12号 2012年10月

アジア太平洋地域における全死亡に占める
脳卒中病型別死亡割合の動向

-政府統計に基づく検討-
月野木 ルミ(ツキノキ ルミ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 アジア太平洋諸国の脳血管疾患(以下,脳卒中)対策を講じるためには,国全体の脳卒中死亡・発症について経時的な実態把握および国際比較を行い,各国の脳卒中死亡の特徴とその要因を捉える必要がある。同時に脳卒中において脳出血と脳梗塞では発症機序や治療など予防対策が異なるため,また医療資源や対策を考える上で,脳卒中死亡だけでなく脳卒中病型別死亡の実態把握が重要となる。本研究ではアジア太平洋地域の4カ国の政府統計に基づき,全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合を指標として,その年次推移を観察,国際比較を行った。

方法 対象はアジア太平洋地域の政府統計とし,公的統計が整備され精度が高い,脳卒中,脳梗塞,脳出血死亡者数の男女別データが経年で入手可能な国を探索したところ,日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの4カ国が選択された。これら4カ国の政府統計に基づき脳出血,脳梗塞,病型別不明/その他の各死亡数を全死亡数で除した値を全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合として算出し,年次推移を観察した。

結果 全4カ国で全死亡に占める脳卒中死亡割合は減少傾向であること,日本と韓国では全死亡に占める脳出血死亡割合が減少しているのに対し,脳梗塞死亡割合は増加後,日本は1990年代以降横ばい傾向,韓国は2005年以降減少傾向を示すこと,オーストラリアとニュージーランドでは,日本と韓国に比べて全死亡に対する脳卒中死亡割合は少なく,脳卒中病型別でみると全死亡に占める脳出血死亡割合は不変,脳梗塞死亡割合は減少傾向であることなどがわかった。

結論 日本,韓国,オーストラリア,ニュージーランドの政府統計に基づく全死亡に占める脳卒中病型別死亡割合は,日本と韓国,オーストラリアとニュージーランドでそれぞれ類似した傾向を示した。オーストラリアとニュージーランドの結果は脳卒中病型別死亡不明の割合が多く,過去のコホート研究結果を考慮すると脳梗塞死亡割合が過小評価されている可能性がある。政府統計を用いて脳卒中病型別死亡を検討する場合は,全脳卒中死亡に占める脳卒中病型別不明の割合,その国の脳卒中病型別の診断状況,その国のコホート研究結果を考慮して検討する必要がある。

キーワード 脳卒中,脳梗塞,脳出血,政府統計,国際比較,アジア太平洋地域

 

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第59巻第11号 2012年9月

人口動態調査の調査票情報を用いた
大規模コホート研究における死因照合作業の問題点の検討

原田 亜紀子(ハラダ アキコ) 岡山 明(オカヤマ アキラ) 喜多 義邦(キタ ヨシクニ)
大橋 靖雄(オオハシ ヤスオ) 上島 弘嗣 (ウエシマ ヒロツグ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
日本動脈硬化縦断研究(JALS)グループ

目的 循環器疾患の発症と死亡をエンドポイントとした疫学研究であるJapan Arteriosclerosis Longitudinal Study(JALS)参加者を対象として,新統計法のもとで人口動態調査の二次利用申請から死因の照合作業までを実際に行い,人口動態調査を疫学研究で活用する際の課題を検討した。

方法 人口動態調査の二次利用の申請を行い,性,生年月日,死亡年月日,死亡時の居住市町村名を照合変数とし,JALSで登録された死亡者(3,220件)のデータと照合することで原死因を確定した。さらに,実際の照合作業に加え,照合に用いる性別,生年月日,死亡年月日,死亡時市町村コードの4変数を選択的に操作した際の照合状況への影響も検討した。

結果 初回照合の結果,原死因が特定できたのは3,135件(97.4%)であった。照合不能であった85件については,JALSの各コホート研究者に対して照合変数に該当する情報の確認を依頼し,修正した結果,最終的な照合者は3,203件(99.5%)であった(第2回照合)。計2回の照合から,初回照合で照合不能であった85件について,どのような情報の誤りにより照合できなかったか,JALS側,人口動態調査側で考えられる原因を整理したところ,JALS側の要因としては,「死亡日として調査日を誤記入」が16件,「1~2日の日付の違い」が14件と多かった。一方,人口動態側の要因としては,「文字(日付)入力の誤り」が7件,「生年月日,死亡日ともに同じ日が入力」が4件と多くみられた。さらに,照合変数を選択的に操作し照合状況への影響も検討したところ,性別,生年月日,死亡年月日,死亡時市町村コードの4変数を用いた場合では,生年月日,死亡年月日いずれかが日付まで正確に得られていれば,照合候補者の重複を低率に抑えられた(死亡年月日が「月日」まで正確な場合は重複率が0.2%,生年月日が「月日」まで正確な場合は,0.2%)。

結論 人口動態調査を用い,死亡者の原死因を確定する作業を通じ,照合を困難にする原因は,申請者側のみならず人口動態調査側にもあることが明らかになった。また,照合に用いる変数を選択的に操作し照合状況を検討したところ,生年月日,死亡年月日のいずれかの情報が,月日まで正確に得られていることが重要であった。

キーワード コホート研究,人口動態調査,統計法,死因照合

 

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第59巻第13号 2012年11月

日本の将来推計人口(平成24年1月推計)

金子 隆一(カネコ リュウイチ) 石川 晃(イシカワ アキラ) 石井 太(イシイ フトシ)
岩澤 美帆(イワサワ ミホ) 佐々井 司(ササイ ツカサ) 三田 房美(ミタ フサミ)
守泉 理恵(モリイズミ リエ) 別府 志海(ベップ モトミ) 鎌田 健司(カマタ ケンジ)

Ⅰ は じ め に

わが国では今後,人口減少が加速的に進行し,同時に世界でも例を見ない著しい人口高齢化に直面していくことになる。こうした人口の変化は,経済や社会保障制度をはじめとする社会の在り方を根本的に変えることになるだろう。国立社会保障・人口問題研究所は平成24(2012)年1月に新たな「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」を公表したが,本稿では推計手法の解説とともにその結果について概観する。

Ⅱ 結果の概要

まず,推計が描く日本の将来人口のプロフィールから見ていきたい。図1に明治期から21世紀を通してのわが国総人口の推移を示した。2010年までは実績値であり,2011年以降について「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」出生中位・死亡中位推計による推計値を示している。現在われわれは人口の歴史的ピーク付近をわずかに越えた地点にいるが1),将来推計によれば今後は一転して人口減少が進み,約50年後の2060年には現在のほぼ3分の2の規模にあたる8674万人となることが示されている。

 

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第59巻第13号 2012年11月

国民生活基礎調査の匿名データによる健康状態と喫煙の解析

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ) 山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ)
谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 栗田 秀樹(クリタ ヒデキ)

目的 平成16年国民生活基礎調査の匿名データに基づいて,健康状態と喫煙の関連を解析した。健康状態としては,自覚症状,通院状況,日常生活への影響と健康意識を取り上げた。

方法 統計法36条に基づき厚生労働省から提供を受けて,匿名データを利用した。喫煙状況の得られた20歳以上の73,110人において,健康状態の調査項目ごとに,喫煙のオッズ比をロジスティック回帰により年齢を調整して算定した。

結果 たばこを以前吸った者の吸わない者に対する年齢調整オッズ比は自覚症状なしを1.0とすると,36症状ともに症状ありが1.5以上であり,いずれかの症状ありが男1.62と女2.34であった。通院なしに対する年齢調整オッズ比は,13傷病の中で男の6傷病と女の12傷病の通院ありが1.5以上であり,いずれかの傷病の通院ありが男1.38と女2.10であった。日常生活の影響なしに対する年齢調整オッズ比は,日常生活の5つの活動の中で男の4活動と女の5活動の影響ありが1.5以上であり,いずれかに影響ありが男1.58と女2.42であった。健康意識がよいに対するよくないの年齢調整オッズ比は男1.57と女2.23であった。たばこを毎日吸う者と時々吸う者の吸わない者に対する年齢調整オッズ比は自覚症状,通院,日常生活の影響,健康意識ともに一定の傾向でなかった。

結論 健康状態の多くの面に対して喫煙が強く関連することが確認され,匿名データ利用の有用性が示唆された。

キーワード 国民生活基礎調査,匿名データ,喫煙,健康状態,保健統計

 

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第59巻第13号 2012年11月

院内がん登録における匿名化手法の検討

渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ) 山城 勝重(ヤマシロ カツシゲ)
海崎 泰治(カイザキ ヤスハル) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ) 固武 健二郎(コタケ ケンジロウ)
猿木 信裕(サルキ ノブヒロ) 岡村 信一(オカムラ シンイチ)
柴田 亜希子(シバタ アキコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ)

目的 全国で指定されているがん診療連携拠点病院から提供される院内がん登録全国データは,わが国のがん診療の現状を示す貴重なデータである。このデータの個人情報保護特性を明らかにし,より多くの研究者が解析利用できるように,匿名化手法の検討を行った。

方法 まず,院内がん登録データ2008年症例(N=424,983)のリスク評価を行った。次いで,全データで一律にキー変数の情報量を減らす加工(大域的再符号化)とリスクの再評価を行い,さらに安全性を上げるためにリサンプリングの効果も検討した。リスク評価には「一意」の数・割合を用いた。

結果 病院名削除と年齢の処理で,一意割合は1.7~3.0%にまで低下したが,母集団が大きいことから依然として7,140~12,699が一意であった。ランダムサンプリングを行うと,例えば50%の抽出率で,抽出後の標本で一意に見えるデータの約半数が母集団一意でない状態となった。

結論 診断病院名の削除と年齢のグルーピングやトップ/ボトム・コーディングを行うことで,ほとんどのデータについて一定の安全性が確保できると考えられる。今後,リスクレベルに関し社会的な合意を得た上で,安全な二次利用が促進されることが望まれる。

キーワード 院内がん登録,ミクロデータ,開示リスク,匿名化

 

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第59巻第13号 2012年11月

DPCデータを用いた臨床指標の算出

-AHRQのPatient Safety Indicator(患者安全指標)に焦点を当てて-
小林 美亜(コバヤシ ミア) 池田 俊也(イケダ シュンヤ) 藤森 研司(フジモリ ケンジ)
松田 晋哉(マツダ シンヤ) 伏見 清秀(フシミ キヨヒデ)

目的 米国のAHRQ(The Agency for Healthcare Research and Quality)は,病院の管理データ(Administrative Data)を用いてPSI(Patient Safety Indicator:患者安全指標)を算出し,患者安全の保証に活かしている。本研究は,日本の病院の管理データであるDPCデータを用いることにより,AHRQのPSIの抽出を行い,抽出したPSIに関する在院日数や医療費の分析を行うことを目的とした。

方法 日本のDPCデータからPSIを抽出することができるように,AHRQの仕様書で用いられているICD9-CMコードをICD-10コードに置き換え,DPCデータの構造からPSIを算出するロジックを作成した。平成22年度厚生労働科学研究「診断群分類の精緻化とそれを用いた医療評価の方法論開発に関する研究」へ参加協力が得られたDPC対象・準備病院において,各PSIの分母に該当する患者(平成21年7月1日~12月末日に退院)が10症例以上ある施設を分析対象とし,11種類のPSIの発生率および医療費について算出した。

結果 抽出した11種類のPSIのうち,「麻酔合併症」および「輸血による副反応」に該当する症例の報告は0件であった。各PSIの事象発生有無群別にみた医療費の総点数比較では,いずれのPSIにおいても事象の発生有群の方が発生無群に比べて統計学的に有意に点数が高かった。

結論 病院の管理データを活用したPSIの抽出は,容易に大規模集団のデータを活用し,経時的に傾向を把握することが可能であることから,効率性が高い。今後は,算出した各PSIについて妥当性検証を行うとともに,データの精度に影響を与える要因を検討する必要がある。医療費については,各指標に該当する事象が発生した群について総点数等が高くなっていたが,今後,事象が発生した症例については,適切な対照群を設定して比較を行うなど,さらなる検討が求められる。

キーワード 臨床指標,医療の質,患者安全,PSI,DPC

 

 

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第59巻第13号 2012年11月

高齢者の生活機能の状況と介護予防支援との関連

-二次予防事業対象者選定の基本チェックリストのデータ分析から-
大鐘 啓伸(オオガネ ヒロノブ) 寺社下 葉子(ジシャゲ ヨウコ)
佐古 智代(サコ トモヨ) 諸岡 大揮(モロオカ タイキ)

目的 介護保険法に基づく介護予防支援プログラムの実施については,二次予防事業対象者選定のための基本チェックリストが活用されている。基本チェックリストの項目は,高齢者の生活機能の状況に関する質問から構成されているが,項目の内容について改善が指摘されている一方で,妥当性・信頼性の検証も課題となっている。そこで,本研究では,基本チェックリストの各項目について高齢者の属性と介護予防支援との関連を分析して,その結果から高齢者の生活機能の状況を検討し,また基本チェックリストの活用の有用性を検証する。

方法 A市の70歳から75歳までの高齢者3,204名を対象として,平成22年4月に自記式の郵送調査により実施した。回答率は70.7%であった。調査票は,高齢者の生活機能を確認するための厚生労働省の基本チェックリスト(25項目)にうつに関する質問3項目を追加して作成した。分析は,基本チェックリストの各質問項目における対象者の性別・世帯の状況の特徴についてχ2検定を行った。また,二次予防事業対象者と介護予防支援プログラムとの関連について数量化Ⅲ類およびクラスター分析を行った。

結果 生活機能の状況のうち運動器に関する機能について,40.0%の高齢者が不安を感じていた。基本チェックリストにおける介護予防支援プログラムごとの特徴として,一人暮らしの場合は,閉じこもり,認知症,うつの予防支援の項目に該当する割合が多かった。二次予防事業対象者は,70歳から75歳までの高齢者のうち25.6%であった。特に,女性あるいは一人暮らしの場合で介護予防支援を必要とする割合が多かった。また,介護予防支援プログラムは,“行動系生活機能予防支援群”“神経心理系生活機能予防支援群”“食育系生活機能予防支援群”に分類された。

結論 高齢者の属性によって,生活機能の状況に違いが認められ,チェック項目の該当者が多かった運動器に関する機能支援にはポピュレーション・アプローチを実施し,それ以外の支援については,生活機能の特徴に応じた個別の介護予防支援プログラムを実施することが適切であると示唆された。そのような予防支援を展開するうえで,基本チェックリストは有用であった。

キーワード 介護予防・支援,一次予防事業,二次予防事業対象者,基本チェックリスト,生活機能

 

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第59巻第13号 2012年11月

「老衰死」の地域差を生み出す要因

-2005年の都道府県別老衰死亡率(性別年齢調整死亡率)と医療・社会的指標との関連-
今永 光彦(イマナガ テルヒコ) 山崎 由花(ヤマザキ ユカ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 「老衰死」の地域差を生じさせる要因はこれまで検討されていないことから,今回,2005年の都道府県別老衰死亡率と医療・社会的指標との関連を調べることで,その要因を検討した。

方法 基礎資料として,2005年人口動態特殊報告・都道府県別年齢調整死亡率,2005年人口動態統計,統計でみる都道府県のすがた2007~2010,2004年国民生活基礎調査,2005年医療施設調査,2006年医師・歯科医師・薬剤師調査,2006年度保健・衛生行政業務報告,2005年病院報告,2005年患者調査,2006年度福祉行政報告例を用いた。それらの基礎資料から,老衰死亡率に関連する可能性がある2005年または直近の医療・社会的指標を抽出した。単変量解析としてPearsonの積率相関係数を計算した。次に,それらの中から,Pearsonの積率相関係数の絶対値が0.3以上であった変数を説明変数とし,都道府県別老衰死亡率(性別年齢調整死亡率)を目的変数とした重回帰分析を行った。

結果 重回帰分析の結果,男性では,75歳以上の入院受療率(標準偏回帰係数-0.390,P=0.001),心疾患の年齢調整死亡率(標準偏回帰係数0.229,P=0.04),悪性新生物の年齢調整死亡率(標準偏回帰係数-0.322,P=0.005)が有意な関連指標であった。このモデルの決定係数(R2)は0.824であり,自由度調整済み決定係数は0.800であった。女性では,病院死亡割合(標準偏回帰係数-0.303,P=0.005),85歳以上の年齢階級別死亡率(標準偏回帰係数0.291,P=0.007),訪問診療を行っている病院数(標準偏回帰係数-0.423,P=0.001),第3次産業就業者割合(標準偏回帰係数-0.380,P=0.001)が有意な関連指標であった。このモデルの決定係数(R2)は0.796であり,自由度調整済み決定係数は0.774であった。

結論 2005年の都道府県別老衰死亡率と医療・社会的指標との関連の検討を行ったところ,有意な関連指標をいくつかみとめた。これらの背景には,病院へのアクセスの容易さや医師や患者側の終末期ケア・高齢者ケアへの考え方などの影響があると推測された。今後,実際にどのようなプロセスで老衰死と診断されているかを探索していく必要がある。

キーワード 老衰,老衰死,高齢者医療,超高齢者,地域差

 

 

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第59巻第15号 2012年12月

介護費用と家族介護の評価に関する日韓比較

増田 雅暢(マスダ マサノブ)

目的 日本と韓国において要介護高齢者を抱える家族の介護費用負担額や負担感などを調査することにより,介護保険制度導入後の介護費用の状況を把握するとともに,日韓比較により介護費用負担に関する両国の特徴を分析する。あわせて,介護手当の導入の是非について意識調査を行い,今後の介護者支援の方策について検討する。

方法 本研究は,日韓において在宅で要介護高齢者を介護している家族介護者を対象に,日本では3市,韓国では2市において,留置調査と面接調査を併用して実態調査を行った。

結果 日本では,毎月の介護費用は,月額平均43,800円,介護サービスの利用に伴う毎月の負担額は,月額平均26,100円であった。日本の先行研究では,介護保険導入前の1993年では,月額34,146円,導入直後の2002年では,月額38,928円であった。一方,韓国では,月額平均45.5万ウォン(約3.4万円),介護サービスの自己負担額は,月額平均23.4万ウォン(約1.7万円)であった。介護手当の導入については,日本では54%の人が,韓国では75%の人が賛成した。手当の水準については,日本よりも韓国の方が高い水準を希望している人が多かった。

考察 日韓比較において大きな相違が2点みられた。ひとつは,介護費用の負担者の相違である。日本では全体の3分の2は要介護者本人であるが,韓国では,同居・別居の子どもが全体の3分の2であった。韓国では,国民皆年金の歴史が浅く,高齢者の年金等の所得水準が低いことや,「親孝行」の精神から,子どもが親の介護費用を負担するという考えが一般的であるということが考えられる。もうひとつは,介護サービスの利用に伴う自己負担額の負担感に関する認識の相違である。日本では,負担に感じる人は全体の3分の1であるのに対し,韓国では全体の7割が負担を感じている。韓国では,負担者が介護者である子ども自身であることや,介護保険の自己負担割合が日本よりも高いことによるものと考えられる。介護手当については,ドイツの介護保険では制度化されているが,日本では制度がなく,韓国では小規模の制度が存在しているにすぎない。日韓とも,家族介護者から導入の要望が高いことを考慮すると,今後,介護者支援の観点から制度化に向けて検討を進める必要があると考えられる。

キーワード 介護保険,介護費用負担,家族介護,介護手当

 

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第59巻第15号 2012年12月

認知症高齢者に合わせた
コミュニケーション技法習得に向けた取り組み

-介護福祉士を目指す学生に回想法の技法を活用して-
津田 理恵子(ツダ リエコ)

目的 認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける回想法の技法を活用したコミュニケーションをロールプレイで再現した授業を展開し,思い出に働きかけるコミュニケーション技法が習得できたかを確認することを目的とした。

方法 調査対象は,4年制大学介護福祉コースの1回生23名とした。方法は講義後,認知症高齢者の思いを受け止めたうえで,懐かしい思い出に働きかける関わり方についてロールプレイを取り入れた演習を行い,記名式で演習前後に,思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールを作成し使用して調査を行った。さらに,演習後のみコミュニケーションの習得度に関する意識について調査を実施した。

結果 演習前後の思い出に働きかけるコミュニケーション技法評価スケールの得点は,25項目すべてにおいて得点が有意に上昇していた。演習後のコミュニケーションの習得度に関する意識では,演習を通してコミュニケ-ション能力が向上し,ロールプレイが学びにつながったと答えた者が多かった。コミュケーションの特徴として「返答の際にあいづちしかうっていない」と答えた者が多く,演習を通してあいづちのみの返答では相手の言葉を引き出せないことを理解し,普段の生活の中でも「あいづちの後に言葉を付け足すようになった」と答えた学生が多かった。

結論 認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法を習得するため,回想法の技法を活用したコミュニケーションを授業に取り入れた結果,演習後に思い出に働きかけるコミュニケーションスキルは向上することが示された。その際,ロールプレイやモデリングを取り入れることが有効で,代理的経験から成功経験が得られるよう導くことで,望ましい行動を引き起こす正の強化につながることが明らかになった。また,認知症高齢者に合わせたコミュニケーション技法の習得を目指すことは,学生にとっては必要な対人支援スキルであり,介護実践現場においても介護職員のストレス軽減につながる可能性がある。さらに,学生や介護職員にとどまらず広く回想法の技法を活用したコミュニケーション技法を啓蒙していくことで,認知症高齢者が懐かしい思い出を語る機会が増え,認知症高齢者にとっては安心した生活の実現につながっていく可能性がある。

キーワード コミュニケーション,認知症高齢者,回想法の技法,ロールプレイ

 

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第59巻第15号 2012年12月

大学生の違法薬物への意識とライフスタイル要因との関連

北田 雅子(キタダ マサコ) 武藏 学(ムサシ マナブ) 大浦 麻絵(オオウラ アサエ)
中村 永友(ナカムラ ナガトモ)

目的 本研究では,成人形成期(Emerging adulthood)と呼ばれる青年期後半の大学生を対象に,違法薬物への意識とライフスタイルとの関係を明らかにし,大学における効果的な健康教育を検討することを目的とした。

方法 札幌市内の総合大学の学部生1~4年生3,970名を対象に自記式質問紙での調査を行った。大麻などの違法薬物へ何らかの効用を認めている群を「肯定群」,そうでない者を「非肯定群」とした。学生を取り巻く環境(薬物入手の可能性,周囲の乱用者の有無),ライフスタイル,タバコへの心理・社会的依存度(加濃式社会的ニコチン依存度調査票:KTSND)について回答を求めた。

結果 3,579名の大学生から回答が得られた(男子2,569名:71.8%,女子1,010名:28.2%)。ライフスタイルを学年間で比較すると,不健康なライフスタイルを持つ者の割合は,1年生に比べて2年生以上の学年で高かった。特に,喫煙率や飲酒率は,男女とも学年を経るごとに増加する傾向を示した。違法薬物への肯定群は362名(10%),非肯定群は3,194名(90%)であった。ライフスタイルを群間で比較した結果,肯定群では食事バランスへの関心が低く,野菜や果物の摂取頻度が低く,飲酒・喫煙する者の割合が有意に高かった。タバコへの心理・社会的依存度についてKTSNDの合計得点を比較すると,肯定群では18.9(±6.8)点,非肯定群では15.1(±7.0)点であり,肯定群の方が有意に高値を示した。さらに,肯定群では「薬物の入手が可能」「周りに乱用者がいる」という回答者の割合も非肯定群に比して有意に高かった。

結論 薬物乱用防止教育を積極的に実施する時期としては,ライフスタイルが著しく変化する入学後から2年生へ移行する時期が特に重要であることが示唆された。違法薬物を肯定的にみなす群は,不健康なライフスタイルを持つ者が多く,喫煙を文化的な嗜好品として容認する意識を持つ者の割合が高かった。ゆえに,大学における薬物乱用防止教育の普及啓発内容としては,健康的なライフスタイルの推奨とともに,喫煙・飲酒を含め,違法薬物を肯定的に容認する認知の是正を目的としたアプローチが重要であると考えられた。

キーワード 大学生,薬物乱用防止教育,ライフスタイル,喫煙,心理社会的依存

 

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第59巻第15号 2012年12月

未就学児を持つ共働き夫婦における
ワーク・ライフ・バランスと精神的健康

-1年間の縦断データから-
島田 恭子(シマダ キョウコ) 島津 明人(シマズ アキヒト) 川上 憲人(カワカミ ノリト)

目的 従来のワーク・ライフ・バランス(以下,WLB)と精神的健康に関する研究では横断研究が多く要因間の因果関係を特定できない限界があった。また「仕事と家庭役割間のネガティブなスピルオーバー」が主に注目され「両役割間のポジティブなスピルオーバー」を考慮した研究は少ない。本研究は,両役割間のネガティブおよびポジティブなスピルオーバーが心理的ストレス反応に与える影響を,縦断データを用いて検討することを目的とした。

方法 ベースライン調査(T1:2008年11月)は都内某区の保育園に子どもを通わせる共働き夫婦を対象に実施され2,992名が回答した。フォローアップ調査(T2:2010年1月)は,T1調査時にT2調査への参加に同意した1,466名を対象に実施され,963名が回答した(追跡率65.7%)。本研究では,両調査での有効回答者894名(男性394名,女性500名)を分析対象とした。解析は,心理的ストレス反応(T2)を従属変数とし,以下のステップで独立変数を追加投入する階層的重回帰分析を男女別に行った。ステップ1:基本属性(T1),ステップ2:心理的ストレス反応(T1),ステップ3:仕事領域変数(T1:量的負担,裁量権,サポート),ステップ4:家庭領域変数(T1:量的負担,裁量権,サポート),ステップ5:WLB変数(T1:仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバー,家庭から仕事へのネガティブ・スピルオーバー,仕事から家庭へのポジティブ・スピルオーバー,家庭から仕事へのポジティブ・スピルオーバー)

結果 男性ではステップ5で,仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバー(T1)が,心理的ストレス反応(T2)と正の関連を示していた。女性では家庭での量的負担(T1)が正の関連を,家庭での裁量権(T1)が負の関連を示していた。ポジティブ・スピルオーバーは,男女ともに心理的ストレス反応(T2)と有意な関連を示さなかった。

結論 男性では仕事から家庭へのネガティブなスピルオーバーが1年後の心理的ストレス反応の高さに関連している一方,女性では家庭の量的負担と裁量権が1年後の心理的ストレス反応に関連していた。わが国の共働き夫婦の精神的健康を考える際,男性では仕事から家庭へのネガティブなスピルオーバーに,女性では家庭での負担の低減と裁量権を上げることの重要性が示唆された。本研究ではポジティブ・スピルオーバーは,男女ともに1年後の心理的ストレス反応と有意な関連を示さなかったが,さらに他の健康アウトカムとの関連を含め研究が行われるべきである。

キーワード 共働き世帯,ワーク・ライフ・バランス(WLB),ネガティブ・スピルオーバー,ポジティブ・スピルオーバー,役割間葛藤,精神的健康

 

論文

 

第59巻第15号 2012年12月

介護保険制度の導入・改定前後における
居宅サービス利用と介護負担感の変化

-反復横断調査に基づく経年変化の把握-
杉原 陽子(スギハラ ヨウコ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 中谷 陽明(ナカタニ ヨウメイ)

目的 介護保険制度の導入4年前から制度実施10年までの間の要介護高齢者と介護者の変化を,特定地域における反復横断調査データを基に把握し,居宅サービス利用の量的拡大と介護負担の軽減の観点から介護の社会化の到達状況を検証した。

方法 1996,98,2002,04,10年に,東京都A市の65歳以上の住民に対して,日常生活動作能力と認知機能を調べるスクリーニング調査を郵送法(未回収者には訪問回収を併用)にて行った。スクリーニング調査の対象者は,1996年は65歳以上の住民全数で,それ以降は3~4分の1の確率で無作為抽出した。日常生活動作能力と認知機能の状態から要介護高齢者を把握し,その介護を主に担当している家族・親族に対して訪問面接調査を行った(独居等で介護者がいない場合は本人に調査を依頼)。各年における面接調査の完了数は,941人,404人,595人,441人,414人であった。

結果 14年間で単身世帯と二人世帯がいずれも約10ポイント増加し,2010年時点では回答者の過半数を占めた。要介護高齢者と介護者ともに高齢化が進み,介護年数が10年以上の長期介護の割合は約8ポイント増加していた。居宅サービスの利用率や利用希望の充足率は,介護保険導入前よりは増加していたが,導入以降も経年的に増加していたのは通所サービスだけであった。訪問介護は2005年の制度改定以降,減少傾向で,短期入所や訪問看護は,制度導入後は増加していなかった。介護者の負担については,毎日かかりきりで介護している人の割合や介護者の身体的・精神的・社会的負担,特養入所希望のいずれの指標とも,介護保険導入前と比べて改善する傾向は確認できなかった。

結論 居宅サービス利用の量的拡大の観点からは,介護保険導入前よりは介護の社会化は進展したといえる。しかし,制度導入以降はサービスの種類によって進展に差があり,特に短期入所や訪問看護のように家族による代替が難しいサービスほど進展していなかった。さらに,介護負担や入所希望の軽減の観点からは,介護の社会化は未だ不十分であることが示唆された。その理由として,居宅サービスの量的不足やサービスメニューの乏しさの問題とともに,家族の介護力の低下や介護の長期化,社会経済的な問題の増加等で介護状況が複雑・多様化しており,現行の介護保険制度で対応するには限界がある可能性が考えられた。

キーワード 介護保険制度,反復横断調査,居宅サービス,介護負担,介護の社会化,家族の介護力

 

論文

 

第60巻第2号 2013年1月

推計平均在院日数の数理分析

-推計平均在院日数と病院報告の平均在院日数の関係-(平成24年9月)

標記の資料は,平成24年9月に下記の厚生労働省 ホームページに公表された。

 ( http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken /database/zenpan/sankou.html

 公表部局(厚生労働省保険局調査課)では,資料の「はじめに」にあるように「本稿の目的は・・推計平均在院日数,推計新規入院件数・・の医療保険や医療分野における活用に資することである」との考えであって,本誌の読者にもご覧いただき,ご質問やご意見等は公表部局に直接お寄せいただき,ご活用いただければとのことである。

 平均在院日数は衛生統計においても重要な指標であるので,読者が資料をご覧になる際に参考となるよう,資料の概要等を紹介する。

 

(1) 資料の概要

 現在,入院患者の平均在院日数・新規入院患者数は患者調査の退院患者平均在院日数・新入院患者数,病院報告の平均在院日数・新入院患者数により得られているが,本資料は,医療保険のレセプト統計を用いて実質的に病院報告の平均在院日数・新入(退)院患者数と同じ「推計平均在院日数」「推計新規入院件数」が算定されるという事実とその根拠の分析を示すものである。この算定式を使うと,例えば毎月の都道府県別 75歳以上の平均在院日数,新規入院件数など,これまでの衛生統計では得られなかった統計が得られることとなる。

 下記の厚生労働省のホームページに,月次,年次,都道府県別等の統計が公表されている。

 (http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryou_doukou_b.html)

 衛生統計において,年齢階級別や疾病分類別等,入院患者の属性別平均在院日数等の統計が重要であるが,このような区分別統計は,3年に1回行われる患者調査により9月1カ月分の抽出調査で得られる。病院報告では,毎月,全数調査により医療機関単位の病床種類別に平均在院日数等の統計が得られているが,入院患者の属性別統計はない。このため,入院患者の属性別平均在院日数等の統計は,毎月単位,毎年度単位,全数では得られていなかった。

 一方,医療保険におけるレセプト統計では毎月,全数で,医療保険制度別かつ年齢区分別(未就学者, 65歳未満,65~70歳, 70~74歳,75 歳以上別)の入院統計が得られているほか,毎年度,全数で,制度別,性別,年齢階級別,疾病中分類別の入院統計が得られている。この統計は国民医療費の年齢階級別,疾病分類別統計の大部分を占めるものでもある。

 このレセプト統計に本資料の算定方法を用いると,レセプト統計の属性区分に対応した平均在院日数,新規入院件数等の統計が得られることとなり,衛生統計への活用が期待される。

 標記の資料について説明する。ホームページ上の資料には数理分析の性格上数式が多く読みやすくはないが,冒頭の「目次」「はじめに」と末尾の「むすび」には数式を用いないで資料の概要やねらいが書かれており,この部分だけを読んでも資料の概要やねらいが理解することができる。さらに,文書中に枠囲みの記述があり,日常の言い方で要点や数式の意味などを説明しており,理解を助けるようにしている。

(2) レセプト統計

 レセプト統計について説明する。レセプトとは診療報酬明細書のことである。病院や診療所は,入院患者の費用のうち患者から3割分を受け取り,残りの7割分を入院患者の加入している医療保険者に請求するが,その際,入院患者に行った診療行為や投与した薬とその価格,入院した日数などの明細を記した診療報酬明細書も併せて医療保険者に提出する。請求は患者1人について暦の各月の1カ月分まとめて行う。このレセプトの枚数を「件数」,各レセプトに書かれた入院日数の合計を「日数」,3割分と7割分の合計金額を「医療費」といい,件数,日数,医療費等の統計をレセプト統計とよび,ホームページに公表されている。 

 

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第60巻第1号 2013年1月

ICD改訂の動向について

谷 伸悦(タニ ノブヨシ) 及川 恵美子(オイカワ エミコ)

ICD改訂に係る動向を適切に理解していただくために,まず, ICDに関する基礎的な概念,組織,現状等について述べ,続いて ICDの改訂についてお話しいたします。

Ⅰ は じ め に

ICDとは,世界保健機関:WHO( World Health Organization )で定められている「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:( International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems )」の略称であり,通称,「 ICD=国際疾病分類」と呼ばれている。 ICDはこれまで何度も改訂が行われてきており,現在,日本ではこの ICDの第10回改訂( Tenth Revision)の2003 年度版に基づいたものが,「統計法第28 条第1項及び附則第3条の規定に基づく疾病,傷害および死因統計分類」(平成 21年3月23日総務省告示 176号)(以下,ICD-10 )として総務省より告示され,人口動態や医療分野等における公的な統計等に使用されている。

Ⅱ ICDの基本

(1) 「ICD-10」の構成

「ICD-10」は,基本分類(約14,000 項目),疾病分類(大分類,中分類,小分類),死因分類により構成されており,その構成要素の数は,基本分類>小分類>中分類>死因分類>大分類 の順番となっている。大分類と死因分類はおおむね似通ってはいるが完全に同一とはなっていない。

日本において告示されている統計分類表としては,「疾病,傷害及び死因統計分類基本分類表」「疾病分類表」(大分類・中分類・小分類),「死因分類表」の3つの分類表があり,いろいろな分野での統計,調査等において,その分類表を基にしたものが使い分けられている。

 

(2) 「ICD-10」の活用例

 例えば,人口動態統計では「死因分類(死因簡単分類)」「基本分類(人口動態死因統計分類基本分類表)」「選択死因分類表」「乳児死因簡単分類表」「感染症分類表」が使用されており,患者調査では「疾病分類(大分類,中分類,小分類)」が使用されている。また,社会医療行為別調査では「疾病分類(中分類)」が,国民健康保険等における診断群分類包括評価に用いられる標準病名等には「基本分類」が用いられており,さらに国民健康保険等に関連する電子カルテや電子レセプト等にも「基本分類」が活用されている。

 

(3) 「ICD-10」の分類

 ICD の分類は病名をアルファベットと数字を用いたコードで表記しており,各国においてその疾患の名称が異なっても同一のコードとなるように構成されている。

 

 

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第60巻第1号 2013年1月

知的障害者グループホーム利用者の利用継続を
促進/阻害する要因に関する研究

-共同生活援助(G/H)事業・共同生活介護(C/H)事業からの転居者の状況に関する全国調査の分析-
松永 千惠子(マツナガ チエコ)

目的 本研究では,2010(平成22)年に行った「共同生活援助(G/H)事業・共同生活介護(C/H)事業からの転居者の状況に関する全国調査」から,知的障害者グループホーム利用者の利用継続を促進・阻害する要因を抽出し,不本意ながらグループホームでの生活継続を断念することのないよう,それらの人の生活を支える当事者の立場に立った対応策を検討することを目的とした。

方法 全国のG/H・C/Hの事業所から無作為抽出した1,000法人を対象として郵送法による質問紙調査を実施し,知的障害者グループホーム利用者の利用継続を促進・阻害する要因の抽出を行った。

結果 発送数1,000通,回収は357通,回収率35.7%,無効18通(期限切れを含む),有効回答率33.9%であった。その結果,知的障害者の転居理由の第1位は,「家族の希望」,次いで「人間関係の不和」,第3位「1人暮らしを希望」,第4位「医療的なケアが必要」,第5位「高齢」などであった。数量化3類の分析結果では,利用継続を阻害する要因は「個人的な要因」「家族的な要因」「社会的な要因」「身体的な要因」となった。これに対し促進要因は,「職員の人数の要因」「バリアフリー等の施設要因」「職員の教育の要因」「制度・外的要因」「施設内の人間関係の要因」の5つが示唆された。

結論 本研究の結果からは,知的障害者の移行後の生活の継続のためには,職員による家族へのていねいな説明や利用者本人の意思表出支援,意思決定支援を含めたコミュニケーション支援,職員教育,そしてそれらに関連する制度の改正が望まれる。

キーワード 知的障害者,グループホーム,ケアホーム,全国調査,転居者

 

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第60巻第1号 2013年1月

佐賀県におけるインフルエンザ年齢構成の検討

大日 康史(オオクサ ヤスシ) 菅原 民枝(スガワラ タミエ) 谷口 清州(タニグチ キヨス)
岡部 信彦(オカベ ノブヒコ) 森屋 一雄(モリヤ カズオ) 嘉村 明子(カムラ アキコ)
山口 邦彦(ヤマグチ クニヒコ) 永尾 一恵(ナガオ カズエ) 末次 稔(スエツグ ミノル)
古川 次男(フルカワ ツギオ) 平子 哲夫(ヒラコ テツオ)

目的 インフルエンザ対策は公衆衛生上重要な対策のひとつであり,インフルエンザ患者数を推定することは,政策決定をする上で必須である。薬局サーベイランスによるインフルエンザ推定患者数と発生動向調査のインフルエンザ報告数の相関は高く,薬局サーベイランスはリアルタイムな情報として2009年からインフルエンザ流行時に活用されているが,年齢構成の検討は行われていなかった。そこで本研究の目的は,薬局参加率の最も高い佐賀県において年齢構成の情報を加えることで,今後のインフルエンザ対策に役立てることとした。

方法 薬局サーベイランスの抗インフルエンザウイルス薬の処方数による推定患者数と発生動向調査のインフルエンザ患者数の年齢構成を比較する。年齢構成は発生動向調査に従い,0~4歳,5~9,10~14,15~19,20~29,30~39,40~49,50~59,60~69,70歳以上とした。データ期間は,2010年36週(9月6日~12日)~2011年35週(8月26日~9月4日)の1年間とした。

結果 佐賀県の薬局サーベイランスの疫学曲線は,2011年第3週(1月17日~23日)がピークで17週(4月25日~5月1日)に2度目のピークがあった。年齢群別では5~9歳が最も多く15.8%,次いで30歳代が15.6%であった。15歳未満は38.8%で,20~49歳が40.4%であった。同県の発生動向調査の疫学曲線も2011年第3週がピークで17週に2度目のピークがあった。年齢群別では5~9歳が34.7%,次いで0~4歳が25.7%であった。15歳未満は77.2%で,20~49歳が14.3%であった。発生動向調査と薬局サーベイランスによるグラフのパターンは同じで,ピークのタイミングも同じであった。発生動向調査と薬局サーベイランスを週単位で相関をみたところ,相関係数は,0.962と強い相関を示した。

結論 インフルエンザ患者数の年齢構成は,2つの調査で大きな違いがみられた。インフルエンザが小児と成人の両方で流行する場合には動向は似るが,成人のみで流行が起こると,現在の発生動向調査ではとらえられない可能性があることが示唆された。薬局サーベイランスでは,すべての医療機関から処方せんを受けつけており,また面分業も広がっているので,特定の年齢に偏る可能性は医療機関より低い。勤労世代の罹患状況を迅速に把握することは,各企業等の事業継続計画(BCP)を運用するうえで重要であると考えられた。

キーワード インフルエンザ,発生動向調査,薬局サーベイランス,処方せん,年齢構成

 

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第60巻第1号 2013年1月

高校生の恋愛観・性役割観と家族形成意欲に関する調査研究

-男女共同参画社会に向けた若者への支援について-
齋藤 幸子(サイトウ サチコ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 内山 絢子(ウチヤマ アヤコ)
近藤 洋子(コンドウ ヨウコ) 原 美津子(ハラ ミツコ) 宮原 忍(ミヤハラ シノブ)

目的 少子社会における次世代育成策として,虐待やDV(domestic violence)とは無縁の養育力を備えた家庭形成を目標とした,若者への支援について検討する。その資料収集を目的に,高校生の将来の家族形成意欲と恋愛観・性役割観などとの関連を調べることとした。

方法 都内3カ所の公立高等学校の1〜2年生を対象として,倫理的配慮のもと集団調査法によりアンケートを実施し,2011年1〜4月に回収した有効回答554件について分析した。調査内容は,恋愛観,結婚意欲,出産意欲,発達課題(親密性,達成意欲,協調性,自尊感情),性役割観などであった。分析にあたっては,恋愛について積極的か消極的か,固定的な性役割を肯定するか否かの問いの回答によって,対象を4類型(1群「恋愛積極・性役割肯定」,2群「恋愛積極・性役割否定」,3群「恋愛消極・性役割肯定」,4群「恋愛消極・性役割否定」)に分け,群間の違いを検討した。4群が現在一般で使われている用語でいう「草食系」の概念に近いと考えられる。

結果 恋愛に積極的な1・2群は,恋愛に消極的な3・4群に比べて,親密性・家族形成意欲など多くの項目で値が高かった。1群の男性は自尊感情が男女通じて最も高かった。1群の女性は親密性が最も高いが,男女が互いに理解することが難しいと感じていた。2群は1群に次いで親密性,家族形成意欲が高いが,日本の将来は希望がもてると思う割合が最も低かった。3・4群は,ともに自尊感情・親密性が低く,特に3群男性は,子どもや子育てを肯定的に捉える得点が低く,異性の友達が少ないなど,家族形成に最も遠いと思われた。4群男性は,結婚を希望する割合が最も低かった。3・4群の女性は同じ群の男性に比べれば家族形成意識は高く,3群女性の8割,4群女性の7割は結婚を希望していた。

結論 男女共同参画社会を目指すわが国における家族形成は,恋愛に積極的で固定的性役割を否定する2群に期待がかかるが,この群が日本の将来に希望を持つ割合が低いことが問題である。一方,恋愛に消極的な3群や4群であっても,将来の家族形成意欲はある程度持っているので,自尊感情,親密性を育み,次世代育成力につながる支援が望まれる。固定的な性役割観をもつ1群については,互いを尊重し共生するための男女のパートナーシップを育み,現代社会に即した家庭形成の支援が必要となることが推察された。

キーワード 少子化,男女共同参画社会,次世代育成支援,恋愛観,性役割観,親密性

 

論文

 

第60巻第1号 2013年1月

健常者における手指巧緻動作と認知機能の関連

坪井 章雄(ツボイ アキオ) 門間 正彦(モンマ マサヒコ) 河野 豊(コウノ ユタカ)
中村 洋一(ナカムラ ヨウイチ) 新井 光男(アライ ミツオ) 林 隆司(ハヤシ タカシ)
大貫 学(オオヌキ マナブ)

目的 認知機能に関する研究では,健常者と認知症患者の認知レベルの違いに関する検討は行われているが,健常者の認知機能やそれと関連する動作能力について,年齢別の詳細な報告はない。本研究は,健常者の手指巧緻動作と認知機能の関連について年齢別に比較検討した。

方法 自宅で暮らす上で介助を要さない自立者で上肢運動機能障害のない者を対象とした。手指巧緻動作の指標としてIPU巧緻動作検査(Ibaraki Prefectural University Finger Dexterity Test:IPUT)を,知的能力の指標として改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いた。3~94歳の健常者2,247名(男性983名,女性1,264名)にはIPUTを測定し,その内18~94歳718名(男性272名,女性446名)にはHDS-Rも合わせて測定した。

結果 測定の結果,認知機能の指標としたHDS-Rは20歳代から50歳代まではほぼ変化がないが,その後加齢と共に徐々に低下することが示された。また,巧緻動作の指標となるIPUTでも同様に5歳より手指巧緻動作機能が向上した後は,ほぼ20歳代から50歳代までほぼ一定になり,その後加齢により低下する傾向が示された。一方,健常者に対するIPUT各サブテストの結果は,すべてで年齢群間に有意差がみられ,年齢とIPUT各サブテストはすべて有意な相関(0.445~0.583)を示した。また,年齢群ごとにIPUTとHDS-Rの相関を調べたところ,64歳以下の群に比べ65歳以上の高齢者群で有意な負の相関関係が多く示された。全年齢でみても,IPUT各サブテストとHDS-Rの相関はすべてで有意であった(-0.390~-0.488)。

結論 健常者でも高齢になると手指巧緻動作の低下と認知機能の低下に大きな相関を示すようになっていた。このことから,今後,動作性認知症スクーリング検査として応用できる可能性が示された。

キーワード 健常者,認知機能,ペグボード,手指巧緻動作,加齢

 

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第60巻第1号 2013年1月

食の外部化にみる都道府県単位の食品の消費パターンと
栄養習慣・食生活支援環境の関連性

児玉 小百合(コダマ サユリ)

目的 食の外部化評価による47都道府県の食品の消費パターンと,健康日本21の栄養・食生活分野の目標未達項目,地域の食生活支援環境との関連を明らかにすることを目的とした。

方法 総務省平成21年度「全国消費実態調査」から都道府県の2人以上世帯(50,836世帯)月間食品消費(購入)金額を分析に用いた。32食品のデータのうち穀類,生鮮食品類,調味料の合計は家庭食の内食,調理食品計は家庭外調理食品を家庭で食べる中食とし,中食は主食的調理食品の中食⑴,他の調理食品の中食⑵に分類した。内食,中食⑴⑵,外食の4種を都道府県の食品の消費パターンを示す食の外部化指標とし,全国平均値における金額構成比,地域分布,指標間の関連を分析した。栄養習慣は脂肪エネルギー比率・野菜摂取量・食塩摂取量,食生活支援環境は世帯環境・食環境(生産・流通)・社会人口経済環境の指標を収集し,食品の消費パターンとの関連を分析した。

結果 2人以上世帯の金額構成比は内食(55.4%),外食(13.6%),中食(10.7%),中食⑴(41.3%)・中食⑵(58.7%),食の外部化率(24.3%)であった。単身世帯の食の外部化率(34.9%)は2人以上世帯と比較し,1.4倍高かった。指標間の関連,地域分布の類似性は内食・中食⑵(r=0.556),外食・中食⑴(r=0.578)に認められ,前者は高食塩・高野菜摂取量,後者は高脂肪エネルギー比率・低野菜摂取量の傾向を示した。重回帰分析の結果,内食は老年人口高割合(β,0.360),稲作経営体多数(β,0.768),中食⑵は共働き世帯高割合(β,0.576),中食⑴は離婚率高率(β,0.322),外食は食料低自給率(β,-0.633),人口高密度(β,0.361)などと有意な関連(p<0.05)を示した。流通支援環境は内食,中食⑵はスーパー購入金額(β,0.537,0.569),外食はコンビニ構成比(β,0.492)との関連が有意に認められた。

結論 都道府県の食品の消費パターンとして,4種の食の外部化指標を作成した。外食・中食の主食を含む食の外部化の消費パターンと,健康日本21の栄養・食生活分野の目標未達項目が関連する傾向が認められ,支援環境として食料低自給率,生鮮食品販売店の少ない流通環境,離婚率高率などの負の世帯環境が関連する可能性が明らかになった。

キーワード 食の外部化,消費パターン,全国消費実態調査,都道府県,支援環境,健康日本21

 

論文

 

第60巻第2号 2013年2月

縦断調査の厚生労働政策への応用に向けて

北村 行伸(キタムラ ユキノブ) 金子 隆一(カネコ リュウイチ)

目的 本稿は,厚生労働統計協会の委託により実施した「縦断調査データの厚生労働政策への応用に関する研究」の研究成果を紹介し,21世紀縦断調査の概説とその利活用への各方面からの参加の促進を目的としている。

方法 21世紀縦断調査(出生児,成年者,中高年者調査)は,出産,子育て,成長,就業,家族形成,引退期の健康・生活などの国民生活の重要な側面について,同一客体を長年にわたって追跡するパネル調査手法により動態の把握を行い,各種の厚生労働施策の企画立案等に資することを目指しているが,政府がこれまで実施してきた横断調査とはデータ管理,統計分析手法,結果の解釈,応用の仕方などが異なっており,調査実施部局だけでなく専門的分析を行う研究者の協力や政策形成現場との問題意識の共有などが必要である。本事業ではそうした枠組みの検討や素材となる研究を行い,さらに有識者によるアドバイザー・グループを組織して調査の利活用や方向性の検討を行った。

結果 同調査は因果関係の検証や政策効果の測定などに効果的なパネル調査であり,また3調査の組み合わせによって国民生活をライフコースの視点から体系的に捉えるという諸外国にも例を見ない特徴を有し,厚生労働行政において科学的知見に基づいた政策形成を図って行く上で有効であり,かつ科学的な政策形成過程構築の基礎となる調査である。

結論 調査実施,分析研究,政策形成の3分野の連携をはじめ,各方面からの協力による利活用が望まれる。

キーワード 21世紀縦断調査,パネル調査,科学的知見に基づいた政策形成

 

論文

 

第60巻第2号 2013年2月

介護支援専門員と主任介護支援専門員の支援関係の実態と課題

-両者におけるスーパービジョンに着目したアンケート調査から-
吉田 輝美(ヨシダ テルミ)

目的 本研究では,介護支援専門員を支援するための主任介護支援専門員が行うスーパービジョンの現状を明らかにし,両者の支援関係を検証した。地域包括支援センターの主任介護支援専門員と,特定事業所加算のある居宅介護支援事業所の介護支援専門員との関係についても検証した。

方法 調査は2010年2月2日~26日に実施した。対象者は,①特定事業所加算の指定を受けている居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員214名,②特定事業所加算の指定を受けている居宅介護支援事業所に勤務する主任介護支援専門78名,③委託型地域包括支援センターに勤務する主任介護支援専門員99名,④直営型地域包括支援センターに勤務する主任介護支援専門員69名,合計460名について集計・分析を行い,自由記述はカテゴリーに分類した。

結果 214名の特定事業所加算のある居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員のうち,スーパービジョンを「知っている」197名(92.1%)で,そのうち,スーパービジョンを「受けている」のは122名(62.0%)であった。①に該当するスーパービジョンを受けている介護支援専門員122名を対象とした,事業所内のスーパービジョンの機能に関しては,スーパービジョンが「十分ではないが機能している」と回答したのは58名(47.5%),「十分機能している」は47名(38.5%),「機能していない」は15名(12.3%)であった。スーパービジョン研修に,「まあまあ満足」81名(32.9%),「不満足」63名(25.6%),「十分満足」53名(21.5%)であった。「まあまあ満足」の自由記述は,「業務活用型」「業務活用不安型」に分類し,「業務活用不安型」は,「継続した学びの機会」「研修内容」「実践環境」「実践のあり方」のサブカテゴリーに分類した。「不満足」の自由記述は,「継続した学びの機会」「研修内容」「実践環境」「実践のあり方」「未受講」のカテゴリーに分類した。主任介護支援専門員同士の連携について気づいたことの自由記述は,「満足」「制度上の課題」「個人の力量」「改善案」のカテゴリーに分類した。

結論 両者の支援関係は,これまでの慣例主義による「実践環境」での立場の違いなどや,多忙業務により十分良好とはいえない。それには「継続した学びの機会」の無いことや「研修内容」に対する不満が関係し,併せて主任介護支援専門員のスーパーバイジーとしての経験の無さが,スーパーバイザーとしての力量不足となり,スーパービジョンが十分機能しない要因であると考えられる。主任介護支援専門員が,役割を遂行できるようにするためには,「制度上の課題」改善,「研修内容」の改善,「継続した学びの機会」の保障で業務に活用する不安を軽減し,実践できる主任介護支援専門員の人材育成を行うための条件整備が喫緊の課題であると考える。

キーワード 介護支援専門員,主任介護支援専門員,居宅介護支援事業所,地域包括支援センター,スーパービジョン,支援関係

 

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第60巻第2号 2013年2月

ホームヘルパーの確保と
定着への取り組みの現状と結果に関する研究

宮本 恭子(ミヤモト キョウコ)

目的 訪問介護事業者によるホームヘルパーの確保と定着への取り組みの現状を分析するとともに,ヘルパーの確保と定着を規定する取り組みの要因を明らかにする。

方法 まず,(社)シルバーサービス振興会が実施した「介護サービス従事者の人材確保に関する調査事業報告書」における個票データを用い,ヘルパーの確保と定着への取り組みの回答を解釈しやすくするため,探索的因子分析を実施した。分析は,確保と定着への取り組みの項目に分けて行った。次に,因子分析の結果抽出された尺度を説明変数として採用し,ヘルパーの確保と定着を規定している取り組みの要因を重回帰分析により検討した。なお,被説明変数には「仮にヘルパーを10人採用した場合,1年後に定着している人数は何人か」に対する回答によって把握する「定着状況」を採用した。統制変数には事業所の属性を考慮した。

結果 ヘルパー確保への取り組みについては2つの因子が抽出された。第1因子は,3項目から主に構成される「募集コスト重視型」の取り組みだと捉えることができた。第2因子は,2項目から主に構成される「情報提供重視型」対策をあらわしていた。ヘルパー定着への取り組みについては,3つの因子が抽出された。第1因子は,11項目から主に構成される「教育訓練充実型」対策だと捉えることができた。第2因子は,6項目から主に構成される「雇用条件整備型」対策だと考えられた。第3因子は,3項目からから主に構成される「人間関係重視型」対策をあらわしていた。ヘルパーの確保と定着を規定する要因としては,確保への取り組みである「募集コスト重視型」と,定着への取り組みである「教育訓練充実型」が定着状況に対してプラスに有意な影響を持っていた。一方,「雇用条件整備型」対策は,定着状況に対してマイナスに有意な影響を持っていた。

結論 ヘルパー募集の際,幅広い人材を集めるためにコストをかけることや,入職後に教育訓練機会を充実させることは,ヘルパーの確保と定着に一定の効果を発揮していた。今後,採用方法を工夫すること,ヘルパーの職務能力の向上に役立つよう能力開発の機会を設けることで,ヘルパーの確保と定着が促進する可能性が示唆された。

キーワード 訪問介護事業者,ホームヘルパー,定着と確保への取り組み

 

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第60巻第2号 2013年2月

社会性を育む統合保育の推進要因に関する研究

-フォーカス・グループインタビューを用いて-
松本 美佐子(マツモト ミサコ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユウカ)
田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
望月 由妃子(モチヅキ ユキコ) 徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 杉田 千尋(スギタ チヒロ)
宮崎 勝宣(ミヤザキ カツノブ) 枝本 信一郎(エダモト シンイチロウ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 40年にわたり統合保育を実施している保育専門職に対しグループインタビューを行い,質の高い統合保育とインクルーシブ教育の推進要因を明らかにすることを目的とした。

方法 障害児を積極的に受け入れている認可保育園の専門職に対してフォーカス・グループインタビューを実施した。対象は8名(男性4名,女性4名),社会福祉法人理事長,保育園の園長,主任クラスの保育専門職者,障害者の共同生活介護事業管理者であった。内容は,統合保育の原点と展開についてであった。グループインタビューから得られた結果をカテゴリー化し,質の高い統合保育を展開するための要因を抽出し分析した。

結果 質の高い統合保育の推進要因を「個の領域」「相互の領域」「地域システムの領域」の3領域に分類した。具体的な要因としては「共感性の獲得」「表現力の獲得」「自己効力感の獲得」「仲間同士のかかわり」「保育士のかかわり」「地域社会とのかかわり」「社会ニーズへの先見性」の6点であった。

結論 質の高い統合保育とは,仲間同士や保育士とのかかわりを通し子どもの社会性の育みを促進する保育である。インクルーシブ教育の推進には社会ニーズへの先見性,養育者にとどまらず地域住民を巻き込み地域の活性化に貢献するコミュニティ・エンパワメントの必要性が示唆された。

キーワード コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,保育専門職,子育て支援,統合保育

 

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第60巻第2号 2013年2月

山形県庄内地域における地域・職域がん検診受診者数の把握

菅原 彰一(スガワラ ショウイチ) 松田 徹(マツダ トオル) 田澤 縁(タザワ ユカリ)
富樫 真二(トガシ シンジ) 上野 晃一(ウエノ コウイチ)

目的 山形県庄内地域における地域,職域,任意型検診のがん検診受診者数を把握し,その推移を明らかにすることを目的とする。

方法 庄内地域の地域検診,職域検診,任意型検診のがん検診受診状況を把握するため,平成20~22年度の受診者数について各機関へ照会・集計した。また,市町が毎年取りまとめる「職場で受診予定」の人数を照会・集計し,概算を算出して,上記調査と比較検討した。

結果 主要部位(胃,大腸,子宮頸部,乳房)のがんでみると,胃がんと大腸がんでは地域検診と職域検診(任意型検診を含む,以下同じ)がほぼ同数であり,子宮頸がんと乳がんでは地域検診が多かった。平成22年度は地域検診と職域検診を合わせた受診者数が,すべての主要部位で平成20年度と比べて増加した。平成22年度の対20年度比は,胃がん,大腸がん,子宮頸がんで職域検診が地域検診に比べて増加数は大きく,また増加率も高かった。職場受診予定者の概算値でも,全部位で平成22年度の対20年度比は増加した。

結論 当地域において「職域」におけるがん検診受診者が胃がんと大腸がんで「地域」と同程度,子宮頸がんと乳がんで「地域」の4~5割程度存在することが確認され,「職域」における受診者数は「地域」に比べて増加傾向にあることが明らかとなった。本研究で捕捉することができなかった受診者については,引き続き検討を要することが示唆された。また,標本調査では申告と実態でかい離が生じる可能性があることと,正確な受診率の算定には含むべき課題があることについて言及した。

キーワード がん検診,受診者数,受診率,地域検診,職域検診,任意型検診

 

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第60巻第2号 2013年2月

訪問看護ステーションにおける
夜間・早朝サービス提供体制の変化

-2003年と2009年の全国調査から-
村嶋 幸代(ムラシマ サチヨ) 田口 敦子(タ口グチ アツコ) 永田 智子(ナガタ サトコ)
成瀬 昂(ナルセ タカシ) 桒原 雄樹(クワハラ ユウキ) 福田 敬(フクダ タカシ)
山田 雅子(ヤマダ マサコ) 田上 豊(タガミ ユタカ)

目的 本研究では,訪問看護ステーション(ST)における夜間・早朝訪問看護体制の変化を明らかにすること,および夜間・早朝の計画的訪問を実施しているSTの特徴を明らかにすることを目的として調査を行った。

方法 全国のSTに質問紙を送付し,郵送で回収した。2003年は全3,013カ所,2009年は全3,578カ所のSTを対象とした。STの属性,夜間・早朝の訪問看護の対応体制,電話対応の回数および臨時訪問回数,夜間・早朝の計画的訪問を実施していないSTにはその理由を尋ねた。分析方法は,単純集計の後,2003年と2009年の比較を行うことで6年間の夜間・早朝の訪問看護体制の推移を明らかにした。比較には,χ2検定,Fisherの直接確率検定,t検定,Mann-Whitney検定を用い,有意水準は両側5%とした。

結果 回収数は,2003年は1,891(有効回答62.8%),2009年は1,188(有効回答33.2%)であった。「2交替または3交替」の体制をとっているSTは,2003年と2009年を比較すると,0.3%から0.6%へと移行し,倍にはなったもののさほど変化がみられなかったが,夜間・早朝の計画的訪問の実績のあったSTの割合は,2003年と比べて2009年には,いずれの時間帯も増加傾向であった。計画的訪問を実施していないSTに時間帯別に「計画的訪問を実施していない理由」を尋ねたところ,2003年に比べて2009年には,「ニーズがない」がいずれの時間帯においても有意に減少し,一方で「ニーズはあるが人手が整わない」が有意に増加していた。

結論 ST利用者は,1カ所ST当たり50名程度と少ないため,小さなSTでは夜間・早朝の計画的訪問では安定的な利用者確保が難しい。よって,夜間・早朝には,複数のSTで連合体制を組めるような報酬体系や支援体制が必要である。具体的には,現在,医療保険では同一日には1カ所のSTしか報酬を請求できないことが連合体制の推進を阻んでいるため,日中と夜間とを分けて請求することを可能にする,地域ごとに夜間・早朝の訪問看護を担うべき基幹型のSTを設置する等の制度設計が急務である。さらに,ST管理者に夜間・早朝の利用者ニーズは認知されるようになってきたものの,訪問看護師不足が明らかとなった。地域全体の課題として保健所等で人材育成を行い,人材確保に取り組むことが肝要である。

キーワード 訪問看護ステーション,夜間・早朝訪問看護,全国調査,提供体制,在宅ケア

 

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第60巻第3号 2013年3月

中学生における喫煙と大麻など違法薬物に関する意識調査

舘 英津子(タチ エツコ) 磯村 毅(イソムラ タケシ) 渡辺 愛(ワタナベ アイ)
加藤 裕子(カトウ ユウコ)

目的 大麻はタバコと同様に煙の吸引により使用するため,喫煙の常習化からの進展が想定できる。今回,中学生を対象として喫煙と大麻など違法薬物に関する意識調査を行ったので報告する。

方法 愛知県内の2つ,および鹿児島県内の1つの公立中学の1~3年生の生徒 1,144名に,喫煙行動および大麻など違法薬物に関する無記名の自記式意識調査を実施した。1,024人より回答が得られ,そのうち意識調査部分のすべてが無回答,および調査の承諾を得られなかった8名を除く1,016名を有効回答として解析した。

結果 大麻などを手に入れるのは「簡単だと思う」または「何とか手に入ると思う」と回答した人(大麻などの入手可能群)は,1年,2年,3年の順に,76.0%,72.4%,76.8%であった。常習的喫煙の経験者(現喫煙者+前喫煙者)は順に,3.4%,1.9%,3.2%であった。常習的喫煙経験者とその経験のない人(非喫煙者+試し喫煙者)を比較すると,周囲に大麻などを所持または使用した人がいると回答した人は前者では24.1%で,後者の3.7%と比較して高かった(p<0.01)。大麻などをすすめられたことがあると回答した人は前者では13.3%で,後者の0.3%と比較して高かった(p<0.01)。大麻などを手に入れるのは「不可能」と回答した人のうち,大麻には中毒になる危険はない,もしくは大麻には犯罪に巻き込まれる危険がないと答えた人は,それぞれ12.7%,14.0%で,大麻などの入手可能群の3.1%,3.2%と比較して高かった(p<0.01)。

考察 対象とした中学では,多くの生徒が中学1年の段階から大麻などを入手しようと思えばできると考えていることがわかった。入手できないと回答した人は,入手できると回答した人に比べ大麻の危険性の認識が乏しい人が多く,現状に対する関心の低さと認識の甘さが懸念された。今後は,入手しようと思えばできるが,大麻をはじめとした薬物を,自分の意志で,主体的に,拒否していく態度を養うことを目指していく必要がある。また,多くの薬物のゲートウェイドラッグとなるタバコを吸わないという防煙教育を徹底することが大切と思われた。

キーワード 喫煙,大麻,違法薬物,ゲートウェイドラッグ,中学生

 

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第60巻第3号 2013年3月

引越後の高齢者における
年齢別にみた情報とサービスに関する要望

工藤 禎子(クドウ ヨシコ)

目的 引越した高齢者の年齢別にみた情報とサービスに関する要望を明らかにし,支援のあり方を検討する一助にすることである。

方法 一都市部の1年間の転入者全731人に質問紙を郵送し,回収した310通中299通を分析対象とした。分析は,年齢階級別に,引越後に困ったこと,知りたかった情報,あればよかったと思うサービス等の変数について,χ2検定,一元配置分散分析を行った。

結果 対象者は,男性118人,女性181人,平均年齢は75.6±7.2歳であった。69歳以下67人,70~74歳83人,75~79歳65人,80~84歳38人,85歳以上44人であり,この5区分別に分析を行った。引越後に困ったことは,80歳以上では「周辺環境が分からず外に出にくい」「家族に気を使う」が有意に多かった。引越後の情報源は,79歳以下は,ちらし・新聞,広報,市民便利帳からが多く,高齢な人ほど,介護保険サービス関係者と家族からが多かった。知りたかった情報は,79歳以下は交通機関についてが多く,80~84歳では老人クラブについてが多かった。高齢な人ほど介護保険等福祉サービスの情報を求めていた。引越した高齢者向けのサービスについては全体の64.9%があればよいと答え,80歳以上では,保健師等の訪問による相談を求める割合が有意に多かった。

結論 高齢者の引越後の生活の支援においては,前期高齢者が求めている外出先や交通機関の情報を広報やマスメディアを通じて提供すること,後期高齢者には個別の訪問型の相談や家族を通じた支援などが有用であることが示唆された。

キーワード 高齢者,介護予防,転居,年齢,情報,要望

 

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第60巻第3号 2013年3月

ラダートレーニングを用いた健康教室が
高齢者の運動器の機能向上に及ぼす影響について

吉村 良孝(ヨシムラ ヨシタカ) 本田 倫江(ホンダ ミチエ) 下瀬 裕子(シモセ ユウコ)
小野 政文(オノ マサフミ) 中村 弘幸(ナカムラ ヒロユキ) 江崎 一子(エザキ イチコ)

目的 高齢化が進む現代において,高齢者における心身の健康づくりは重要な課題である。高齢者における転倒は,運動器の機能低下が要因となり引き起こされる。先行研究において,トレーニングと運動器の機能向上との関係について報告されているが十分ではないと考えられた。このため,高齢者の運動器の機能向上に及ぼすトレーニング効果の検討がさらに必要となる。本研究の目的は,高齢者を対象に行ったラダートレーニングを用いた健康教室が,参加者の運動器の機能向上に及ぼす影響について検討することである。

方法 被検者は,豊後高田市在住の65歳以上で市が行う特定健診の結果,生活機能評価で運動機能の低下に該当する者23名である。内訳は男性3名,女性20名である。教室は週1回の頻度で合計5回実施した。1回の実施時間は90分である。この教室が運動器の機能向上に及ぼす影響について検討するため,教室前と終了時において開眼片足立ち,timed up and go test,5m通常歩行時間,5m最大歩行時間,椅子10回座り立ち時間を行った。

結果 timed up and go test,5m通常歩行時間,椅子10回座り立ち時間は,教室終了時に有意な短縮が見られた。開眼片足立ち,5m最大歩行時間は,教室前後の値に有意な変化は認められなかった。

考察 本研究で被検者の動的バランス能力,歩行能力が改善したことから,ラダートレーニングは転倒予防に有効ではないかと考えられた。また,実際のトレーニングでは,なかなかできない者,ラダーを何度も踏む者,ラダーにつまずく者,動きが逆になる者がいたが,トレーニングを繰り返すことによりこれらの問題は解消されて,被検者は達成感を得ていた。このことからラダートレーニングを高齢者の運動器の機能向上のトレーニングに用いる時は,本来の方法とは異なるが,素早さは重視せずゆっくり正確に行うことが重要ではないかと考えられた。

キーワード 高齢者,運動指導,ラダートレーニング,介護予防,運動器の機能向上

 

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第60巻第3号 2013年3月

乳幼児をもつ女性保護者の育児ストレスの
労働形態別にみた多母集団同時分析

池田 隆英(イケダ タカヒデ)

目的 育児をめぐる事件は,注目されて久しく,今日もなお絶えない。その背景に育児ストレスとの関連が指摘されてきたが,従来の実証研究では要因分析が十分に行われていない。そこで,乳幼児をもつ女性保護者を対象にして,育児に関するアンケート調査を行った。本稿では,労働形態別に育児ストレスの要因分析を行うことで,子育て支援の課題を明らかにすることを目的とした。

方法 調査は,2007年11~12月,乳幼児をもつ保護者1,911名に調査票を配布して実施した。回収数1,219部,回収率63.8%,有効回答1,156部,有効回答率60.5%であった。本稿では女性保護者(n=1,125)を分析対象とした。質問項目のうち,気になる様子,子育て環境,自尊感情,子育て状況を独立変数,ストレス反応を従属変数に,重回帰による労働形態別の多母集団同時分析を行った。

結果 ストレス反応に対して,特に,気になる様子や自尊感情が,3つの労働形態に共通して有意な影響をもつ。また,子育て環境や子育て状況の一部の因子は,2つの労働形態あるいは1つの労働形態だけで,有意な影響をもつ。しかも,労働形態のすべてに共通する要因,フルタイムとパートあるいはパートと専業主婦に共通する要因,専業主婦に固有の要因があることがわかった。すなわち,賃労働を行うフルタイムやパートタイムの場合,「暴力の表出」をするほどストレス反応が現われやすい。フルタイムの労働ではないパートタイムや専業主婦の場合,子どもと離れた「1人の時間」がないほどストレス反応が現われやすい。賃労働を行っていない専業主婦の場合,社会的なサポートのある「良好な環境」がないほど,ストレス反応が現われやすい。

結論 育児ストレス反応に対する相対的影響は,労働形態と単純に対応しているわけではない。今後,育児ストレス反応の要因分析では,労働形態別の複雑な相対的影響を丹念に分析する必要がある。また,労働形態は経済階層や文化階層と関連が深いことから,育児ストレス反応が階層性と関連することを考慮して,より実態に即した子育て支援策が必要であると考えられる。

キーワード 乳幼児,女性保護者,育児ストレス,労働形態,育児行動,多母集団同時分析

 

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第60巻第3号 2013年3月

茨城県市町村の健康余命(寿命)と健康格差の関連要因

栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 澤田 宜行(サワダ ノブユキ)
山田 大輔(ヤマダ ダイスケ) 星 旦二(ホシ タンジ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ)

目的 「健康日本21」に続く新しい「次期国民健康づくり運動プラン」では,健康寿命の延伸に加えて,健康格差の縮小が目標とされている。健康寿命の延伸と健康格差の縮小の背景には,2042年以降,高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇し続けること,社会格差を示すジニ係数が一貫して拡大し,そのことが健康格差を拡大させていることがあげられる。本研究は,茨城県の市町村(N=44)を単位に,主要な社会統計指標を選定し,これらの指標と,健康寿命の一つである障害調整健康余命(DALE)および障害をもつ割合である加重障害保有割合(WDP)との関連について検討し,茨城県における健康余命に影響を及ぼす要因と健康格差を生じさせる要因を明らかにすることを目的とした。

方法 選定した指標を健康指標,保健医療指標,人口学的指標,社会経済指標に4区分した。年齢調整WDPとDALE(65~69歳)(以下,DALE)との関連要因の解析には,Spearmanの順位相関係数を用いた。重回帰分析はステップワイズ法を用い,年齢調整WDPとDALEを従属変数とし,区分ごとの指標を説明変数として投入して,分析を行った。

結果 格差の大きかった要因は一般病院病床数,医師数であった。指標との関連は,女性の年齢調整WDPは保健医療指標,人口学的指標,社会経済指標との間に有意な相関が認められた。男性のDALEはすべての健康指標との間に有意な負の相関が認められた。また,男女ともDALEは高齢夫婦世帯数,高齢単身世帯数との間に有意な正の相関,公的年金の160万円以下との間に有意な負の相関,産業別就業人口割合(第二次産業)(以下,第二次産業就業人口割合)との間に有意な負の相関が認められた。重回帰分析の結果,男性の年齢調整WDPはどの指標とも有意な関連が認められなかった。女性は,悪性新生物,公的年金300万円以上の2変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。男性のDALEは,悪性新生物,不慮の事故,高齢世帯夫婦の3変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。女性のDALEは,悪性新生物,公的年金160万円以下と300万円以上,第二次産業就業人口割合の4変数を説明変数とする有意な回帰式が得られた。

結語 茨城県においては,悪性新生物が男女の健康余命の延伸を阻んでいる可能性があること,健康余命の延伸にはある一定以上の収入が必要であること,産業構造による健康格差を縮小する必要があることが示唆された。さまざまな地域特性を有する茨城県では,その特性に合った健康余命を延伸させ施策,および健康格差を縮小させる施策の策定が急務である。

キーワード 障害調整健康余命(DALE),加重障害保有割合(WDP),健康余命の延伸,地域格差,健康格差

 

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第60巻第4号 2013年4月

第14回OECDヘルスアカウント専門家会合の報告

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌において,第10回OECDヘルスアカウント専門家会合から報告をしてきた。今回は,2012年10月10~11日に開催された第14回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。

 ここ数年の議論の中心であったSHAの改定作業も2011年6月に終了したため,今回の会合は,SHA2011に準拠した推計を行うに当たっての諸外国間での情報共有,データ提出のスケジュール調整等が中心であった。

Ⅰ は じ め に

 SHA(System of Health Account)は,OECD(経済協力開発機構)加盟国の国民保険計算(National Health Accounts)を推計する際のガイドラインである1)。国民保健計算には,傷病の治療に要する医療費に加えて,長期ケア(介護保険),健康増進・疾病予防,一般薬(OTC),保険制度の運営,設備投資等も含めた保健医療に関する支出が含まれる。

 日本の国民医療費(厚生労働省統計情報部)は,推計範囲が公的な医療保険対象の費用(支出)を推計したものである2)。しかし,諸外国と比較する際には,国によって公的医療保険の対象範囲も異なるために,現在では事実上のグローバルスタンダードになっているSHA準拠の推計値が用いられることが多い。OECD加盟国は2001年から,このSHAに沿った推計結果を総保健医療支出としてOECD事務局に提出している。提出データはOECD事務局が検収・編集して,OECD.Statとしてインターネット上で公開されている3)。

 2006年,OECDヘルスアカント専門家会議において急速な医療技術の進歩,多くの国で複雑化している保健医療システムをより正確にモニタリングするための改良が求められていた等の理由から,SHA(以下,改定以前をSHA1.0)の改定作業が始まった。この改訂作業は,通常はOECD加盟国間でも同意を得ることが難しいことが多いのが実情であるが,より広範囲の国での適用も視野に入れてWHO(世界保健機関)とも共同したため(WHOは開発途上国への適用を目的としており,先進国が主たるメンバーのOECDとは興味・関心が異なる場合がある),合意形成に至るまでに多くの労力と時間を要した。だが,当初の予定より半年の遅れが生じたものの,2011年6月にSHA1.0の改訂作業は終了し,改訂版SHAはSHA2011という名

 

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第60巻第4号 2013年4月

OECDヘルスデータ担当者会合(2012)の報告

中山 佳保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

 OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,ウェブ上のデータベース「OECDヘルスデータ」として,毎年公表している。データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当者会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2012年10月11,12日に開催された会合(於パリ,参加者数約90名)の議論について報告する。

Ⅱ 2012年OECDヘルスデータ担当者会合

 OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,提示された議論のポイントについて参加国が発言する形式をとる。議長団は形式的に立候補と選挙により選ばれ,今回は,Francis Notzon氏(米国),MikaGissler氏(フィンランド)が共同議長,またスイス,豪州の担当者が議長団のメンバーとなった。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる。

 ここ数年来の慣例であるが,今回も前半は,ヘルスアカウント専門家会合との合同セッションの場が設けられ,後半がヘルスデータ担当者による単独会合となった。議題は,表1のとおり,多岐にわたるが,その中から,疾病別医療支出,乳児死亡,健康格差の議論についてご紹介する。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイトから参照可能であるので適宜ご参照いただきたい注1)。

 

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第60巻第4号 2013年4月

グループホームにおける管理者の仕事裁量に関連する要因

谷垣 靜子(タニガキ シズコ) 岸田 研作(キシダ ケンサク)

目的 グループホームに勤務する管理者の仕事裁量に関連する要因を明らかにすることである。

方法 対象は,WAMNETに登録されている全国のグループホームから無作為抽出(抽出率70.0%)された6,064のホームの管理者である。調査内容は,管理者特性(性別,年齢,職業資格,勤務年数,認知症介護経験年数),管理者の仕事裁量度合い,事業主体に関する項目である。管理者の仕事裁量度合いと項目を,χ2検定とKruskal-Wallis検定を用いて分析をした。

結果 分析対象となったのは,1,575のグループホームの管理者であった。管理者の仕事裁量度合いに有意に関連したものは,年齢が高い,勤務年数が長い,認知症介護の経験が長いであった。資格では,看護師・ケアマネジャー・社会福祉士の資格をもつ者は,資格をもたない者に比べ仕事の裁量度合いが有意に多かった。また,事業主体では,有限会社やNPOで働いている管理者は,仕事の裁量度合いが有意に多かった。

結論 社会福祉法人や医療法人の事業主体で働く管理者の仕事の裁量度合いは,少ない割合を示した。このことは,社会福祉法人や医療法人で働く管理者は,グループホーム独自の介護方針・目標を認めてもらえてない可能性があると考えられる。今後は,グループホームの管理者の仕事裁量と離職の関連について直接検討できるような調査を設計することである。

キーワード 認知症高齢者グループホーム,グループホームの管理者,仕事の裁量

 

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第60巻第4号 2013年4月

電子レセプトにおける未コード化傷病名の分布

谷原 真一(タニハラ シンイチ) 西連地 利己(サイレンチ トシミ) 野田 龍也(ノダ タツヤ)
徳本 史郎(トクモト シロウ) 上原 里程(ウエハラ リテイ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 2010年8月請求分よりすべての病院および医科診療所に対して診療報酬明細書(以後,レセプト)を原則としてオンラインもしくは電子媒体にて提出することが義務づけられた。電子化されたレセプトの傷病名は「疾病および関連保健問題の国際統計分類」の第10回修正版(ICD10)に準拠したマスタに対応するコードを用いることが求められている。何らかの事情でICD10に対応付けされなかった傷病名については,未コード化傷病名として処理される。本研究は電子化されたレセプトにおける未コード化傷病名の現状を明らかにすることを目的とした。

方法 K県国保連合会において2010年12月に審査を実施したレセプトの中でオンラインもしくは電子媒体で提出された医科レセプトのすべての傷病名について,未コード化傷病名が占める割合を検討した。また,医療機関ごとの未コード化傷病名の割合を算出し,各医療機関が提出したレセプト件数との関連を検討した。氏名や医療機関名などの個人を特定可能な情報はK県国保連合会において削除し,匿名化を行った上で分析を実施した。

結果 2010年12月に審査が実施された医科レセプトの中でオンラインもしくは電子媒体で提出を実施した医療機関数は1,162であった。医科レセプトの総計689,233件に記載された傷病名は4,506,492件であり,そのうち,428,150件(9.5%)が未コード化傷病名であった。提出したレセプトに記載された傷病名のすべてが未コード化傷病名であった医療機関と,すべての傷病名がコード化されていた医療機関の両方が存在しており,医療機関によって未コード化傷病名の割合が大きく異なることが明らかになった。未コード化傷病名の割合が30%以上の医療機関の占める割合はレセプト件数が多くなるにつれて増加する傾向が認められた。しかし,各医療機関が提出したレセプト件数(対数変換後)と未コード化傷病名が占める割合の相関係数は0.038(p=0.196)であり,統計学的に有意ではなかった。

結論 電子化されたレセプトに記載された傷病名の10%弱が未コード化傷病名であることが明らかになった。未コード化傷病名を用いる傾向の強い医療機関の特性やコード化の困難な傷病名を明らかにし,レセプト情報の電子化をさらに推進することで傷病名を考慮したより精度の高いレセプト分析が実施可能になる。

キーワード 診療報酬明細書,レセプトオンライン,ICD10,未コード化傷病名

 

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第60巻第4号 2013年4月

地域高齢者における運動・スポーツの実施量と
ストレス対処力(Sense of Coherence)との関連

門間 貴史(モンマ タカフミ) 武田 文(タケダ フミ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ)
朴峠 周子(ホウトウゲ シュウコ) 浅沼 徹(アサヌマ トオル) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 地域高齢者における運動・スポーツの実施量とストレス対処力との関連を,前期高齢者・後期高齢者それぞれについて運動・スポーツ活動の強度別に検討する。

方法 茨城県笠間市に在住する65歳から85歳の高齢者のうち,2011年8月に実施した体力測定会に参加意思を表明した360人に調査を実施し,有効回答を得た272名(有効回答率75.6%)を分析対象とした。分析項目は属性(年齢,性,教育年数,等価所得,世帯人数,既往症の有無),運動・スポーツの実施量(Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)の余暇活動項目),ストレス対処力(13項目5 件法版Sense of Coherence scale(以下,SOC))とした。前期高齢者・後期高齢者の年齢層別に,運動・スポーツの実施量とSOCとの関連について,属性を統制したSpearmanの偏順位相関分析により検討した。

結果 前期高齢者では運動・スポーツの総実施量および「中程度に激しいスポーツやレクリエーション活動」がSOCと有意な正の相関を示した。一方,後期高齢者では運動・スポーツの総実施量とSOCとの有意な相関は認められず,「中程度に激しいスポーツやレクリエーション活動」がSOCと有意な負の相関を示した。

結論 地域高齢者における運動・スポーツの実施量とストレス対処力との関連性には年齢層による違いがみられた。前期高齢者では,運動・スポーツの総実施量とストレス対処力との関連が認められ,その中でも中程度に激しいスポーツやレクリエーション活動の実施量が多いほどストレス対処力が高かった。一方,後期高齢者では,運動・スポーツの総実施量とストレス対処力との関連は認められず,強度別にみると中程度に激しいスポーツやレクリエーション活動の実施量が多いほどストレス対処力が低かった。したがって,ストレス対処力向上のための運動・スポーツ活動によるアプローチは,年齢を考慮に入れた検討が必要であると考えられた。

キーワード 地域高齢者,運動・スポーツ,ストレス対処力,Sense of Coherence,年齢層,横断調査

 

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第60巻第4号 2013年4月

BPSDを改善するための支援における
介護職員の自己効力感に影響を与える要因

-介護職員の個人要因との関連に焦点を当てて-
郑(鄭) 尚海(テイ ショウカイ)

目的 本研究の目的は,BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,認知症高齢者の行動・心理症状)を改善するための支援における介護職員の自己効力感と介護職員の個人的要因との関連について構造方程式を用いて検証することとした。

方法 WAM-NETに登録されている全国の特別養護老人ホームとグループホームに所属する介護職員2,000名を対象に郵送調査を行い,分析に必要な質問項目に欠損値のない534票を分析対象とした。

結果 多重指標モデルを用いて検証した結果,年齢が1 %,パーソンセンダートの介護態度と自主的外部研修回数が0.1%水準で有意な正の影響,性別(女性1 ,男性2 )が0.5%水準で有意な負の影響を与えている。ただし,介護経験年数では有意な関連はみられなかった。

結論 本研究の結果,介護専門職養成の教育カリキュラムや介護職員の現任研修のプログラムにパーソンセンタードの介護態度に関する内容の導入の必要性が示唆され,自主的外部研修の参加意欲を高めるとともに,外部研修に参加できるように柔軟な勤務体制の確立の重要性が明らかとなった。

キーワード BPSD,介護職員,自己効力感,パーソンセンタードの介護態度,自主外部研修

 

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第60巻第4号 2013年4月

山間部在住円背高齢者における日常生活活動に対する
自己効力感,社会交流活動,および健康関連QOL

古戸 順子(フルト ジュンコ) 石井 裕美子(イシイ ユミコ) 佐藤 幸子(サトウ ユキコ)
渡部 育子(ワタベ イクコ) 鈴木 礼子(スズキ レイコ) 室井 宏育(ムロイ ヒロヤス)
高田 和秀(タカダ カズヒデ) 結城 美智子(ユウキ ミチコ)

目的 高齢者の円背(えんばい)は,歩行能力や運動機能の低下とともに,閉じこもりや転倒を招き要介護状態に移行する要因の一つであることから,山間部在住高齢者の円背保有状況を把握するとともに,円背高齢者における日常生活活動に対する自己効力感と社会交流活動,および健康関連QOLについて検討した。

方法 山間部に在住する65歳以上の高齢者を対象に参加を依頼し,会場に参集した291人(男性124人,女性167人)を分析対象とし,円背指数計測および,日常生活活動に対する自己効力感,社会交流活動,および健康関連QOLについて質問紙を用いた面接聞き取り調査を実施した。円背指数13.0以上を円背群,13.0未満を非円背群とした2 群間における各要因について比較検討した。

結果 対象者の平均年齢は74.9±6.4歳,円背指数は2.4~23.0の範囲にあり,平均指数は10.2±3.6であった。男性では,年齢とともに円背指数が上昇し,80歳以上の者は65~69歳の者より有意に高い結果を示したが,女性の円背指数は年齢との関係はみられず,80歳以上に次いで65~69歳の者が高い傾向がみられた。円背保有者は,男性21.0%,女性20.4%と全体の20.6%を占めていた。円背と各要因との関連では,男女とも,自己効力感,健康関連QOLにおいて円背群では得点が低い傾向にあったが,その中でも,男性円背者は非円背群よりも,自己効力感,健康関連QOLの下位尺度である「身体機能」「日常役割機能(身体)」「日常役割機能(精神)」で有意に低かった。

結論 男性は年齢とともに円背の程度が進行し,男性円背者は身体機能が低下し,日常生活活動に対する自信がなくなるという心理的な要因から,仕事や普段の活動を控えることが考えられた。一方,女性では,加齢とは関係なく,65~69歳代の高齢期の初期に円背を保有していた。円背を加齢によるものと漫然と捉えず,介護予防の観点から,円背者の早期発見や追跡,円背の悪化防止,下肢機能やQOL維持,若い世代からの円背予防対策が必要であることが示唆された。

キーワード 地域高齢者,円背,自己効力感,社会交流活動,健康関連QOL

 

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第60巻第5号 2013年5月

社会保障費(特に総医療費)と今後の国民負担増について

-大阪府医師会府民調査より-
遠山 祐司(トオヤマ ユウジ) 島田 永和(シマダ ナガカズ) 中村 正廣(ナカムラ マサヒロ)
鈴木 隆一郎(スズキ タカイチロウ) 加納 康至(カノウ ヤスシ) 松原 謙二(マツバラ ケンジ)
伯井 俊明(ハクイ トシアキ)

目的 日本の総医療費は,対GDP比でみると先進国の中でも下位に属し,民主党は,2009年のマニフェストにおいて,総医療費をOECD加盟国平均並みに引き上げるとしたが,いまだ達成されていない。医療崩壊をくい止め,地域医療を再生させるためには,総医療費を増額する必要があると考えるが,現在の経済状況や国民負担の増加などをも考慮して国民が納得するよう慎重に対応すべきである。そこで,総医療費や,医療費を構成する公費・保険料・患者負担,それぞれについての大阪府民の意識を調査し,今後の総医療費のあり方についての国民的議論と,広報活動の方向性を決定する指針とすべく,その結果を分析し,まとめた。

方法 大阪府医師会は,平成7年より府民調査を隔年実施している。エリアサンプリング(調査会社の調査員が訪問し記入を依頼)により1,320件の完了票を得た。今回は,これらの調査結果から主として医療費に関する質問を使用し,検討した。

結果 平成23年調査において,日本の総医療費が低いことを「知らなかった」は61.5%であり,「知っている」38.4%をかなり上回った。政府の社会保障費抑制政策に「反対」は59.6%,社会保障分野を増やすべきが43.6%と多かった。健康保険料については,「高い」が61.0%であり,窓口負担金についても42.8%と「高い」が多かった。受診を考えたけれども受診しなかった理由として「窓口での診察代金の支払いが負担であるから」は17.6%であった。また, 47.3%が,窓口負担金が「高い」ため「日本の総医療費も多い」と誤解していた。

結論 医療機関で支払う窓口負担金の負担感は強く,諸外国と比べても著しく高いことから,今後これ以上の負担増は難しいと思われた。また,窓口負担金の「高さ」ゆえ,「日本の総医療費も多い」と思い込んでいる国民(府民)の誤解を解く必要がある。健康保険料については,就業年齢の人々を中心に負担感が強いものの,被保険者・事業主の負担割合は年々減少しており,増額の余地はありそうである。公費負担については,国庫負担割合は横ばいであり,国の歳出増による適正額の支出が必要である。日本の医療水準を維持し,さらに向上させるには,医療費総額を引き上げる必要がある。そのためどのような負担増を受け入れていくのか,国民的な議論のための正確な資料提示と広報が急務である。

キーワード 社会保障費,国民負担増,窓口負担金,健康保険料,公費

 

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第60巻第5号 2013年5月

都道府県における自殺死亡率の推移と地域要因の分析

鈴木 隆司(スズキ タカシ) 須賀 万智(スカ マチ) 柳澤 裕之(ヤナギサワ ヒロユキ)

目的 日本の自殺者数は1998年から急増し,13年連続で年間3万人を超えた。以前より自殺死亡率には地域差を認めることが指摘されているが,その要因は十分に明らかにされていない。本研究では1990,1995,2000,2005年の自殺の都道府県別年齢調整死亡率について,地域要因との関係を男女別に解析した。

方法 自殺の都道府県別年齢調整死亡率(人口10万対)は,平成2,7,12,17年の都道府県別年齢調整死亡率(人口動態特殊報告)より得た。地域要因として人口・世帯,自然環境,経済基盤,労働,健康・医療,社会保障の6分野,計25指標は各官公庁の統計資料より得た。年別・性別に自殺死亡率と各指標との相関を調べ,重回帰分析(逐次変数選択法)を行った。

結果 地域要因25指標のうち有意な相関を認めた指標は,男性で最大15指標(2000年),女性では最大9指標(1995年)に上ったが,そのうち重回帰分析で有意に選択された指標は,男性で課税対象所得(1990,1995,2000,2005年:β=-0.68~-0.58,p<0.001)と日照時間(1995,2000,2005年:β=-0.39~-0.30,p<0.001~0.01),女性では第1次産業就業者比率(1990年:β=0.62,1995年:β=0.61,いずれもp<0.001)と日照時間(2000年:β=-0.47,p<0.001)であった。また,2005年の女性の解析では有意な指標を認めなかった。モデルの自由度調整済決定係数は,男性が0.45~0.61,女性は0.20~0.37(2005年を除く)であった。

結論 自殺と関連する地域要因として,男性で課税対象所得(1990,1995,2000,2005年)と日照時間(1995,2000,2005年),女性では第1次産業就業者比率(1990,1995年)と日照時間(2000年)が示され,自殺者数が急増した1998年前後で有意となる指標は変わらなかった。

キーワード 自殺死亡率,生態学的研究,地域要因,課税対象所得,第1次産業就業者比率,日照時間

 

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第60巻第5号 2013年5月

要介護認定データを用いた
特別養護老人ホームにおけるケアの質評価の試み

-11指標群の作成と施設間比較-
伊藤 美智予(イトウ ミチヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) 泉 真奈美(イズミ マナミ)
藤田 欽也(フジタ キンヤ)

目的 本研究の目的は,ケアの質評価指標の開発に向けた基礎的分析として,既存の要介護認定データから要介護度維持改善率など11指標を作成し,活用可能性を検証することである。

方法 A県内40保険者から提供を受けた要介護認定データと保険者向け給付実績情報を結合し,データセットを作成した。分析対象は,2007年6月と2008年11月の2時点で継続して特別養護老人ホームを利用していた者(n=4,923)と施設(n=91)であった。2時点における利用者の状態像変化を把握したうえで, 11指標を用いてケアの質評価を行った場合,施設間にどの程度の差がみられるのか,また指標間にはどのような関連があるのかについて検討した。

結果 指標ごとに,要介護度別の2時点における利用者の状態像変化をみると,大きく3つの類型に分けることができた。A群は軽度の人ほど悪化する指標であり,B群は重度な人ほど悪化する傾向にある指標,C群は中間にある要介護2~3の群で悪化する傾向にある指標であった。施設間比較では,より包括的な指標である要介護度維持改善率や寝たきり度維持改善率,認知症自立度維持改善率は,いずれも76%程度であった。これらの指標の平均値は全指標の中でも相対的に低く,悪化する人が多い傾向にあった。一方,褥瘡2時点でなしの割合は,平均値が92.2%(最小値75.0%,最大値100%)と高かった。指標間では,指標値に最小約21ポイント(歩行維持改善率)から最大約74ポイント(拘縮部位の維持減少率)の差がみられ,多くの指標で40ポイント程度の差があった。また,褥瘡2時点でなしの割合を除く10指標間では全体的に相関が高く,いずれも有意な正の相関がみられた。

結論 内容的妥当性の検討を踏まえると,今回試作した11指標のうち要介護度維持改善率は包括的指標として,食事摂取維持改善率と排尿・排便維持改善率は個別的指標として活用可能性があると思われた。指標を作成・解釈するうえで,分析対象をどうするか,死亡データを含めるかどうか,利用者の属性の調整をどこまで行うかについて検討する必要がある。既存データをケアの質評価に活用することは,評価のための新たなデータ収集が発生しないなどの利点がある。他方で,縦断データを作成する作業を簡略化するためのデータ仕様と収集・蓄積方法の開発や,事業所内で評価結果をうまく活用することができる仕組みづくりが求められる。

キーワード 特別養護老人ホーム,ケアの質評価,要介護認定データ,施設間比較

 

論文

 

第60巻第5号 2013年5月

認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所
における外部評価によるサービス向上の考察

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 社会福祉事業の経営者にはサービスの質の評価が求められている。本調査は,地域密着型外部評価の対象である認知症対応型共同生活介護(グループホーム)と小規模多機能型居宅介護(小規模多機能),両事業所のサービス向上を支援するため,全国の事業所の外部評価結果から,現状における問題点・課題およびサービス向上に向けた目標達成計画の実態を明らかにすることを目的とした。

方法 平成23年度に外部評価を実施しワムネットに公開した45道府県の事業所10,196カ所を対象に目標達成計画を調査し,現状における問題点・課題の項目が何であったかを明らかにし,件数の多い上位3項目は目標達成計画の内容を分類・区分して分析した。調査時期は2012年1月15日から9月5日である。

結果 問題点・課題のある項目は21,961件で特定の項目に集中し「災害対策」「運営推進会議を活かした取り組み」「重度化や終末期に向けた方針の共有と支援」の上位3項目が過半数を占めた。災害対策は「地域へのはたらきかけ」の計画が4割で地域からの協力が十分でないことが示され,運営推進会議では「多様な参加者」を得る計画が3割で年6回の会議頻度での参加確保が容易でない実態が確認された。重度化・終末期では「職員の資質向上」の計画が3割でマンパワーの重要性が示された。情報公開上の課題としては,一部の目標達成計画がわかりにくいほか,項目番号の記載がない,そもそも目標達成計画の掲載がないなどが見られ,ユーザー・閲覧者への配慮が必要である。

結論 グループホーム・小規模多機能事業所には共通の課題が多く,計画の内容も同じ傾向のものが多かった。外部評価の本質は継続にある。今の仕組みを確実に実行して問題点・課題を発見し計画を実行することが,結局,サービス向上の最善策である。外部評価の仕組みについても,現場の意向を踏まえての見直しが必要である。

キーワード 外部評価,認知症対応型共同生活介護(グループホーム),小規模多機能型居宅介護(小規模多機能),目標達成計画,現状における問題点・課題

 

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第60巻第5号 2013年5月

特定保健指導の予防介入施策の効果に関する研究

-大規模データベースを使用した傾向スコアによる因果分析-
石川 善樹(イシカワ ヨシキ) 今井 博久(イマイ ヒロヒサ) 中尾 裕之(ナカオ ヒロユキ)
齋藤 聡弥(サイトウ トシヤ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル)

目的 先進諸国では共通して非感染性疾患(NCD)が深刻な健康問題になっている。メタボリック症候群の要素の1つである肥満状態に陥っている人は,通常体重の人に比べて平均8年から10年寿命が短く,年間医療費が25%多いと推計されている。日本は2008年からメタボリック症候群の予防施策として,すべての医療保険者に40歳以上の加入者に対して特定健診と該当者の保健指導を義務づけ,メタボリック症候群予防政策を世界で初めて施行した。本研究の目的はこの予防政策の効果を検討することである。

方法 北海道から九州に至る地域(北海道,岩手県,東京都,石川県,三重県,山口県,香川県,高知県,宮崎県)の特定健診受診者のデータベースが使用された。これらの道都県における市区町村の国保加入者で,特定健診の受診者355,374人のデータを基に,2009年積極的支援の該当者かつ2010年の特定検診を受診した40~64歳までの4,052人を分析対象者とした。この対象者において積極的支援の利用の有無により,身体計測数値および検査数値に改善がみられるか検証を行った。分析には,傾向スコアによる重み付け推定法を用いた。

結果 解析対象となった4,052人のうち,積極的支援を利用した者は924人,積極的支援を利用しなかった者は3,128人であった。傾向スコアで調整した結果,積極的支援を利用した群は,利用しなかった群に比べて,体重は-0.88㎏(p<0.001),BMIは-0.33㎏/㎡(p<0.001),腹囲は-0.71㎝(p<0.001),ヘモグロビンA1cは-0.04%(p<0.05),中性脂肪は-11.30㎎/㎗(p<0.001),HDLコレステロールは+1.01㎎/㎗(p<0.001)と,統計学的に有意な改善がみられた。一方,収縮期血圧は-0.79㎜Hg(p=0.11)および拡張期血圧は+0.06㎜Hg(p=0.85)と,積極的支援の利用による統計学的に有意な改善はみられなかった。

考察 メタボリック症候群に対する国の予防政策として,積極的支援対象者に対する特定保健指導の効果について検証を行った。これまで日本人のリスクのある人を対象に,6カ月間の保健指導(非薬物療法,食事指導,運動指導など)により効果があるか否かについて,大規模データを使用して正確に検討されていなかった。本研究は,積極的支援対象者に対する特定保健指導について,一定の効果があることを明らかにした。

キーワード 特定健康診断・特定保健指導,積極的支援型プログラム,メタボリック症候群,傾向スコア,逆確率処理推定法,因果推論

 

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第60巻第6号 2013年6月

共働き世帯の両親の育児・仕事関連DHに
対する認知と育児行動の関係

小山 嘉紀(コヤマ ヨシノリ) 中島 望(ナカシマ ノゾミ) 朴 志先(パク ジソン)
近藤 理恵(コンドウ リエ) 桐野 匡史(キリノ マサフミ) 中嶋 和夫(ナカジマ カズオ)

目的 本調査研究は,共働きの両親を対象に育児と仕事に関連した日常的ないら立ちごとDaily Hassles(DH)に対するストレス認知が,彼らの育児行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

方法 K県の保育所2カ所を利用する500世帯の養育者を対象に,無記名の質問紙調査を留め置き法にて実施した。本研究の分析では,属性(年齢,子どもの数,家族構成,末子の年齢,就労状況),育児関連DHに対するストレス認知,仕事関連DHに対するストレス認知,適切な育児行動,不適切な育児行動(マルトリートメント)を抜粋し,これらの項目に欠損値のない父親164名,母親170名のデータを使用した。

結果 両親に共通して,育児関連DHに対するストレス認知が児に対する教育的育児行動,心理的虐待,身体的虐待に影響していることを明らかにした。さらに父親では仕事関連DHのうちの職務ハッスルズに対するストレス認知が強くなると保護的育児を放棄する傾向にあり,他方,母親では職場環境ハッスルズに対するストレス認知が強くなるほど身体的虐待の発生頻度が高くなる傾向が認められた。

結論 共働きの乳幼児の両親,特に母親においてはワーク・ライフ・バランスの充実に向けた喫緊の施策の展開が強く望まれることが示唆された。

キーワード 共働き,育児ストレス,仕事ストレス,育児行動,マルトリートメント

 

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第60巻第6号 2013年6月

メタボリックシンドロームのリスク因子が
循環器疾患死亡に及ぼす影響について

-福島県郡山市における基本健康診査受診者の追跡調査から-
浜尾 綾子(ハマオ アヤコ) 阿部 孝一(アベ コウイチ) 早川 岳人(ハヤカワ タケヒト)

目的 郡山市の保健指導を効果的に実施することを目的に,肥満の有無やメタボリックシンドロームを構成するリスク因子の重積が循環器系の疾患(心疾患,脳血管疾患,循環器疾患)の死亡に影響を与えているかを検討した。

方法 後ろ向きコホート調査により,平成11年度の基本健康診査の受診者の内19,107人を対象とし,循環器系の疾患の死亡の有無を平成13年から平成20年まで追跡調査した。メタボリックシンドロームのリスク因子をわが国の診断基準で定義し,肥満の有無別にメタボリックシンドロームのリスク因子の保有数と心疾患,脳血管疾患,循環器疾患調整死亡ハザード比を算出した。また,リスク因子ごとの調整ハザード比も算出した。ハザード比とその95%信頼区間の算出はCox比例ハザードモデルを用いた。

結果 経過中,心疾患,脳血管疾患,循環器疾患の死亡者はそれぞれ209人,168人,425人であった。リスク因子数0個の非肥満群を基準とした循環器疾患死亡ハザード比はリスク因子2個または3個の非肥満群およびリスク因子2個および3個の肥満群でそれぞれ1.55(95%信頼区間:1.06-2.29),1.55(95%信頼区間:1.03-2.35),脳血管疾患死亡ハザード比はリスク因子数2個または3個の非肥満群で2.10(95%信頼区間:1.17-3.95)と有意なリスク増加を認めた。心疾患死亡ハザード比は肥満の有無,リスク因子数と関連のある有意な増加は認めなかった。リスク因子ごとのハザード比では,高血圧が脳血管疾患,循環器疾患の死亡リスクを有意に上昇させ,高血糖は脳血管疾患,循環器疾患,心疾患の死亡リスクを有意に上昇させたが,肥満によるリスク増加は認めなかった。

結論 肥満の有無に関係なくリスク因子数2個または3個の群で,循環器疾患による死亡リスクが有意に増加していた。また,リスク因子としては高血圧,高血糖が死亡リスクを有意に影響していた。以上より,本市での循環器疾患死亡に寄与するリスクとして肥満よりも高血圧および高血糖が重要であることが明らかになった。

キーワード メタボリックシンドローム,肥満,高血圧,高血糖,コホート調査

 

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第60巻第6号 2013年6月

高齢者における首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)
と自己効力感との関連

松井 美帆(マツイ ミホ) 大野 安里沙(オオノ アリサ)

目的 高齢者の首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)は人間を身体面だけでなく,精神的,社会的,さらには価値観・信念が反映された全体的な存在として捉えることが重要であるが,わが国のこれまでの報告ではSOC短縮版を用いたものが多く,類似概念との関連を検討した研究は十分に行われていない。そこで本研究では,一般高齢者を対象にSOCと自己効力感との関連を明らかにする。

方法 対象は九州地方のA県B市の老人クラブ会員300人で,このうち質問紙調査に有効回答の得られた182人を分析対象とした。調査内容は29項目からなるSOC評価スケール日本語版,一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES),基本属性として年齢,性別,世帯構成,教育歴,健康状態,経済状態,別居家族・友人との交流等であった。

結果 対象者の平均SOC得点は平均137.4±20.4点であった。SOCとGSESの相関については,総得点では有意な正の相関(r=0.464,p<0.001)を認めた。また,各尺度の因子間および,両尺度の因子間についてもすべて有意な正の相関が認められた。さらに,単変量解析においてSOCと関連が示唆された経済状態,友人との交流,GSESに年齢,性別を加えて独立変数とし,SOCを従属変数として重回帰分析を行った結果,GSESが関連要因として認められた。

結論 高齢者のSOCは一般成人よりも強く,老年期においても生命力あふれる人生を生きる可能性が開かれていることが示唆された。また,自己効力感との関連も認められたことから,身体面だけでなく,社会面や価値観・信念について考慮することが重要である。

キーワード 首尾一貫感覚,自己効力感,高齢者,ストレス

 

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第60巻第6号 2013年6月

命の意味づけ尺度の開発

池田 幸恭(イケダ ユキタカ) 落合 亮太(オチアイ リョウタ) 菱谷 純子(ヒシヤ スミコ)
高木 有子(タカギ ユウコ)

目的 命や生命の問題を考える上では,個人がどのように命を意味づけているかが重要になると考え,命の意味づけ尺度を作成し,その信頼性と妥当性を確かめることを目的とした。

方法 生命および命に関連する先行研究と医療系大学生より収集した命の意味づけに関する自由記述に基づいて項目を作成した。作成した命の意味づけ尺度68項目について質問紙調査を医療系大学生に実施した。質問紙調査への協力者484名のうち,回答不備などを除いた434名の回答を分析した(有効回答率89.7%)。因子分析によって命の意味づけ尺度の下位尺度を構成し,α係数および再検査法による安定性から信頼性を検討した。さらに,命の意味づけ尺度について,死生観尺度との相関や,生死に関する経験による得点差から妥当性を検討した。

結果 命の意味づけ尺度は,因子分析の結果に基づき,「命としてあることの実感」「自分の命を人のために役立てたいという使命感」「世代を超えた命のつながり感」「命の相互のつながり感」「自他の命の証を遺したいという願い」「限りある命の実感」という6下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.63~0.87,再検査時の相関係数は0.35~0.56であり,「限りある命の実感」以外の5下位尺度に死生観尺度における『人生における目的意識』と0.18~0.35の相関係数が得られた。命の意味づけ尺度について,内的整合性と安定性,死生観および生死に関する経験との関連から,一定水準の信頼性と妥当性が確かめられた。

結論 命の意味づけ尺度は6下位尺度から構成され,一定水準の信頼性と妥当性が確かめられた。開発された命の意味づけ尺度を命の教育での授業評価あるいは看護や医療における臨床現場に活用することができると考えられた。

キーワード 命の意味づけ,生命,死生観,尺度

 

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第60巻第6号 2013年6月

離島地域における医療・福祉サービスと島内での看取りとの関連

堀越 直子(ホリコシ ナオコ) 桑原 雄樹(クワハラ ユウキ) 田口 敦子(タグチ アツコ)
小澤 卓(オザワ タカシ) 永田 智子(ナガタ トモコ) 村嶋 幸代(ムラシマ サチヨ)

目的 日本の高齢化率は23.1%であり,今後も増加傾向にあることが予想されるが,すでに離島地域の高齢化率は30%を超え,高齢社会を先取りする地域である。離島地域で暮らす高齢者の島内に住み続けたいというニーズに対し,島内での看取り体制の構築に向けた示唆を得るため,人口規模別に医療・福祉サービスの整備状況と島内での看取りとの関連について明らかにすることを目的とした。

方法 離島振興法等に指定された有人離島310島のうち,全国離島振興協議会に属する309島を管轄する137市町村を対象とし,2011年8月に郵送および電子メールを用いて,島の人口規模,医療・福祉サービスの有無,要支援・要介護認定者数,島内および島外での65歳以上の死亡者数などについて質問紙調査を実施した。また,島内看取り率(=島内での65歳以上の死亡数/対象地域に住民票を有する65歳以上の1年間の死亡数)の平均値を2群に分けて,島内の人口規模別に医療・福祉サービスの整備状況と島内看取り率の高低の関連を検討した。

結果 人口が99人以下の島(以下,少人口群),100~999人以下の島(以下,中人口群),1,000人以上の島(以下,多人口群)の島内看取り率の平均値は,それぞれ33.3%・19.5%・57.6%と多人口群で最も高かった。また,多人口群の島内看取り率高群の割合は65.4%で,少人口群38.5%・中人口群28.3%と比べ,有意に高かった(p=0.009)。さらに,多人口群のなかで,有床診療所あるいは病院(p=0.001)および介護保険施設(p=0.008)のある島は,ない島と比べ,島内看取り率高群の割合が有意に高かった。

結論 全国の離島地域の約8割が1,000人未満の島であることから,多くの離島地域に暮らす高齢者は,住み慣れた島ではなく,島外で亡くなる者が多いという実態が明らかになった。また,多人口群では,医療・福祉サービスの充実が島内看取り率に関連があった。しかし,現実的な解決策として,病院や介護保険施設などを新たに整備することは難しい。そのため,離島の特性にあった地域密着型のサービスの導入を検討していくことは重要であろう。

キーワード 医療・福祉サービス,高齢者,死亡場所,離島

 

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第60巻第6号 2013年6月

日本人自殺者数とその増減による空間集積性の評価

冨田 誠(トミタ マコト) 石岡 文生(イシオカ フミオ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
藤田 利治(フジタ トシハル)

目的 日本における自殺者数は,長年にわたって高い水準で推移しており,この問題の解決のためには統計的な把握が重要であることは明白である。日本人の大規模かつ大量データを用いて,地理的な空間集積性を把握し,さらに時間的な増減の変化も考慮し,各地域における詳細な傾向・推移を考察する。

方法 「自殺死亡についての地域統計」を2008年の隣接情報に従って空間・時空間的な集積性構造を明らかにし,Echelon scan法によって得られた最大尤度比となる領域をmost likely clusterとして同定した。

結果 時空間解析を用いた結果と異なり,期間ごとの増減率を用いた結果では,男性は特に急増した第3~5期に大都市圏に近い領域が集積地域として検出され,また,女性は第4~6期に大都市圏に近い領域が検出された。

結論 男性・女性ともに,首都圏または近畿圏などの大都市圏を中心とした領域が集積地域として検出され,先行研究とそれぞれ異なる推移・傾向を示した。年間の自殺者数が3万人を超えた第5期以降(1998年以降)の超高水準期に移る前の大都市圏での変化が,現在の自殺者数増加という状況に影響を与えた何らかの兆候を示しているのではないかと考えられた。

キーワード 自殺データ,空間集積性,空間スキャン統計量,時空間解析

 

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第60巻第7号 2013年7月

日本人の感染症に対する脆弱性認識とリスク認知

稲益 智子(イナマス トモコ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 丸井 英二(マルイ エイジ)

目的 感染症のリスク認知は,感染症予防対策において,人がどの程度予防対策を順守するかを決定づけるため,その効果を左右する重要な要因の一つである。本研究は,日本人一般の感染症に対するリスク認知と,性別,年齢,主観的な脆弱性レベルとの関連を明らかにすることを目的とした。

方法 2008年に実施した20~59歳の日本人を対象としたウェブ調査の一部を解析した。感染症に対する脆弱性認識のレベルは,回答者が評価した「感染症で死に至る可能性」から測定した。リスク認知は,「個人へのリスク」「社会に対するリスク」として5段階評定で測定し,感染症12項目の合計点および各感染症項目の得点の平均を算出した。算出したリスク認知の平均値を,性別,年齢,感染症に対する脆弱性認識のレベル別に比較した。

結果 回答者全体においても各人口集団においても,新型インフルエンザのリスク認知が最も高く,「社会に対するリスク」を「個人へのリスク」より高く評価する傾向にあった。エイズとノロウイルスに対するリスク認知で年齢との相関が,感染症7項目で性差が認められた。感染症に対する脆弱性認識のレベルの高い「悲観群」は有効回答の23.8%を占め,すべての感染症項目で,「楽観群」より顕著に高いリスク認知を示した。回答者全体および「楽観群」では,リスク認知の平均点が4点を超えたのは新型インフルエンザのみだったが,「悲観群」は12項目中7項目で4点を超え,鳥インフルエンザに対するリスク認知が新型インフルエンザに次いで高かった。

考察 日本人一般における感染症に対するリスク認知の傾向は,日本における実際の罹患状況と連動しており,妥当なものといえる。リスク認知の差は,性別や年齢よりも,感染症に対する脆弱性認識のレベルの異なる2群間で最も顕著であり,日本人一般に一定数含まれると推定される「悲観群」の存在は,感染症のアウトブレイクや予防に際し,考慮すべきである。

キーワード リスク認知,感染症,脆弱性認識

 

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第60巻第7号 2013年7月

原爆被爆者健診における肺がん検診の効果

横田 賢一(ヨコタ ケンイチ) 三根 真理子(ミネ マリコ) 柴田 義貞(シバタ ヨシサダ)

目的 本研究は高齢化する原爆被爆者に対する肺がん対策としての肺がん検診の有効性を評価するため,一般住民を対象とした日本での先行研究と同様に,がん診断日以前のがん検診の受診ががん死亡にもたらす効果について症例対象研究による評価を行うことを目的とした。

方法 2000年1月1日から2007年12月31日までの肺がん死亡448人のうち,死亡時年齢が80歳以上の170人と喫煙状況の情報が得られなかった39人を除外した239人(男168人,女71人)を症例群とした。対照は,症例と対照の比を1対3として,各症例にその死亡時点で生存していた被爆者を,性(男/女),出生年(1年ごと),喫煙習慣(有/無)並びに被爆状況(3区分)でマッチさせた717人(男504人,女213人)を対照とした。症例のがん診断日を基準として遡り,それ以前の肺がん検診受診の有無について症例と対照を比較することとし,がん診断前の受診時期別と診断前10年間の平均受診頻度別との比較を行った。解析は条件付きロジスティック回帰分析(SAS PHREGプロシージャ)により,喫煙指数で調整した検診受診のオッズ比を求めた。

結果 がんの診断前1年以内の受診は症例群で12.6%,対照群で23.6%,オッズ比は0.56(95%信頼区間0.35-0.88,P=0.012)と検診受診は肺がん死亡群で有意に低かった。また,診断前の10年間における受診頻度別の解析では,ほぼ毎年~3年に2回以上は症例群6.3%,対照群12.3%であり,オッズ比は0.52(95%信頼区間0.27-1.00,P=0.050)であった。

結論 被爆者検診における肺がん検診の有効性について症例対照研究により評価した。がん診断前の1年間のがん検診受診により肺がん死亡リスクを44%低減でき,毎年ないし3年に2回以上の受診を継続すれば48%の効果が期待できることが示唆された。高齢化する被爆者の肺がん対策として毎年の検診受診を勧奨しなければならない。しかし,がんに関連する症状や兆候があるための受診を考慮した解析がさらに必要である。

キーワード 肺がん,がん検診の有効性,肺がん死亡,症例対照研究,原爆被爆者

 

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第60巻第7号 2013年7月

子どもの心の診療拠点病院機構推進事業に
かかる人的費用推計

植田 紀美子 (ウエダ キミコ) 奥山 眞紀子(オクヤマ マキコ)

目的 子どもの心の診療システムの整備を目的とした「子どもの心の診療拠点病院機構推進事業(以下,拠点病院事業)」が,平成20年度からの3年間実施された。今後,子どもの心の診療が推進されていくためには,拠点病院事業の実態を把握し,それに伴う人的費用を明らかにすることが重要である。本研究の目的は,分析の立場を事業提供者側として,拠点病院事業の実施状況と人的費用を記述し,部分的経済的評価を行うことである。

方法 平成23年11月,11自治体18カ所の拠点病院に対して電子メールで記名式自記式質問票による調査を実施した。調査内容は,拠点病院の基本情報,子どもの心の診療従事者,拠点病院事業の基本情報および事業従事者の内訳などである。本稿では,事業の実態を明らかにし,事業最終年度の事業内容別職種別の年間人的費用を解析した。

結果 10自治体14病院から回答があった。拠点病院間で,診療報酬上の病院の機能が異なっていた。この相違が診療報酬の相違として大きかった。医師数の多い病院ほど,診療支援や医師への初期研修や後期研修,コメディカルへの実施研修などの専門的かつ継続的な研修事業を実施していた。拠点病院事業のほとんどすべての事業項目で医師が関与していた。 子どもの心の診療医は,小児領域での他の診療分野や大人の精神科領域に従事する医師とは異なり,診療業務に加えて,調整業務,連携業務等が要求されていた。出張医学的支援・巡回相談は,医師数の多い拠点病院のみ行っており,1人1回当たりの時間が比較的長く人的費用も高かった。診療支援にかかる人的費用は普及啓発や研修事業にかかる人的費用よりもそれぞれ5倍,2倍と極めて高く,約570万円であった。本調査により,拠点病院事業の必要経費である人的費用が総額約955万円と推計できた。

結論 子どもの心の診療の需要ニーズは年々増加する一方,専門医や対応可能な医療機関の不足等のため,政策医療としての対応が望まれる。今後,子どもの心の診療が充足されるためには,拠点病院事業の後継事業である「子どもの心の診療ネットワーク事業」が全国規模で推進される必要がある。中でも出張医学的支援・巡回相談は効果的な連携強化,タイムリーな介入が期待できるものであるからこそ,費用面の対策も必要である。また,子どもの心の診療に関わる専門職の育成は,全国的に事業展開される前提条件となる重要課題である。

キーワード 子どもの心の診療拠点病院機構推進事業,人的費用,部分的経済的評価,子どもの心の診療医,ネットワーク

 

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第60巻第7号 2013年7月

入院児の母親の睡眠に関する研究

-小児専門病院における分析-
萱場 桃子(カヤバ モモコ) 小澤 三枝子(オザワ ミエコ)

目的 乳幼児を持つ母親の多くは,子どもの不安を軽減するために入院における母親の付き添いは必要であると考え,夜間の付き添いを希望している。しかし,付き添い家族のための環境は十分に整備されておらず,入院児の母親は心身ともに多大な負担を抱えていることが予測される。入院児の母親の主観的な睡眠(入眠,中途覚醒,熟睡感)が入院後にどのように変化したかを調査し,付き添い家族のための援助について検討した。

方法 2006年7~10月,小学2年生以下の入院児の家族を対象に自己記入式の質問紙調査を実施した。調査票の配布は看護師長に依頼し,郵送で回収した。面会・付き添い状況と入院児の母親の睡眠との関連について明らかにするために,小児専門病院2施設に入院している入院児の母親からの回答を対象に分析を行った。

結果 小児専門病院2施設に入院する児の母親94名のうち,付き添いをしている母親は57名(60.6%)であった。「入院児の年齢」「入院日数」「同胞の有無」の変数で調整した多変量ロジスティック回帰分析を行った。付き添いをしている母親は,面会をしている母親に比べ,「入眠困難」になるリスクが7.2倍(95%信頼区間(CI):1.9-27.6,p=0.004),中途覚醒が増加するリスクが12.9倍(95%CI:3.5-47.6,p=0.000),熟睡感が低下するリスクが6.0倍(95%CI:1.8-19.9,p=0.004)であった。付き添いをしている母親のうち,病院貸出しの寝具を利用している母親は48.3%であり,51.7%は児のベッドで添い寝をしていた。児のベッドで添い寝をしている母親に比べ,病院貸出しの寝具を利用している母親の方が寝具に対する満足度が低かった。

結論 入院児と家族のための環境が整っていると考えられる小児専門病院においてさえも,付き添いをしている入院児の母親は面会をしている母親に比べ,主観的な睡眠の質が低いことが示された。付き添いをしている母親の約半数は子どもと添い寝をしていること,病院貸出しの寝具を利用している母親の寝具に対する満足度が低いことから,母親の添い寝を想定した寝具の導入や付き添い家族のための睡眠環境の整備を行うことにより,付き添い家族の負担軽減が見込まれる。

キーワード 入院児の母親,付き添い,睡眠,入院環境,小児専門病院,寝具

 

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第60巻第7号 2013年7月

地域在宅75歳以上の介護保険利用者における転帰

-小田原市お達者チェック調査5年間のデータ分析-
相原 洋子(アイハラ ヨウコ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 75歳以上高齢者人口の増加に伴い,同年齢グループにおける要介護認定者の数も増加している。要介護状態にある高齢者は,日常生活動作機能の低下から,自立している高齢者と比較し,生命予後が悪い,転居や施設入所といった居住移動の可能性が高いことが示唆されている。本調査では,75歳以上の居宅高齢者を対象に,介護保険サービス利用と転帰との関連について検証することを目的とした。

方法 平成19~23年度に実施された,75歳以上高齢者の見守り調査の回答者23,620人を分析対象とした。調査時の介護保険利用状況と,5年間の累積生存率をKaplan-Meier法にて,性・年齢階級別に算出した。またCox比例ハザードモデルを用いて,死亡,転出,施設入所のハザード比を性別に算出した。

結果 介護保険サービスを利用している人は,3,031人(12.8%)であった。介護保険利用者は,男女ならびにすべての年齢階級において,5年間の累積生存率が有意に低く,特に男性において生命予後が悪くなる傾向にあった。多変量によるハザードモデルでは,80歳以上男性,75~79歳の女性において,介護保険サービスの利用と死亡との関連が有意であった。また男女ともに介護保険サービスの利用は,施設入所のリスクとなっていたが,転出との関連はなかった。

結論 介護保険サービスを利用している75歳以上在宅高齢者は,生命予後は男性において悪く,施設入所する傾向は女性において高いことが明らかとなった。要介護状態となっても,住み慣れた環境で生活できる支援が重要であると考えられる。

キーワード 介護保険サービス,後期高齢者,転帰,日常生活動作

 

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第60巻第7号 2013年7月

地域社会での人的関わりと高齢者の主観的健康との関連

立福 家徳(タテフク イエノリ)

目的 高齢者が社会的に孤立したり地縁社会が弱体化したりする中で,高齢者が地域社会で主体的に活動し健康でいることは,高齢者個人の問題ではなく,高齢化の進む日本社会全体の問題となってきている。そこで,日本においてそれほど多くみられないそのような関係性に関する全国規模の実証研究を行い,関係を明らかにする。

方法 高齢者の健康と地域社会との関わりについての調査項目を含む「老研-ミシガン大学全国高齢者パネル調査」の個票データを用いて,60歳から95歳までの高齢者を対象に5段階の主観的健康感を被説明変数に用いた順序ロジット分析を行った。

結果 分析結果からは,親友の人数と行き来のある隣人の人数,参加しているグループの会合への参加の頻度,人からの頼まれごとの程度,ちょっとした事を頼める人の存在が高齢者の主観的健康感を高めていることが明らかとなった。また,女性のみに対象を限定した分析では,親友の人数は統計的に説明力を持たず行き来のある隣人の数が健康に良い影響を与えていた。また,オッズ比から見る影響の大きさでは頼まれごとの程度の与える影響が男女を対象にした場合と男性のみを対象にした場合よりも大きくなっていた。

結論 加齢や,所得といった個人の社会経済的な要因をコントロールしても,地域社会との積極的な関わりが高齢者の健康に良い影響を与えていることが明らかになった。今日の日本において,高齢者の健康に地域社会が与える影響の重要性は,保健医療政策を考える上で十分認識されているとはいえない。さらに頼りにされているという充足感が健康に大きな影響を与えている点は今後の高齢者と地域との関わり方についてその一方策を示すものであると考える。

キーワード 順序ロジット,高齢者,地域社会,人的交流,主観的健康

 

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第60巻第7号 2013年7月

東京都23区ごとの孤独死実態の地域格差に関する統計

金涌 佳雅(カナワク ヨシマサ) 阿部 伸幸(アベ ノブユキ) 谷藤 隆信(タニフジ タカノブ)
野崎 一郎(ノザキ イチロウ) 森 晋二郎(モリ シンジロウ) 福永 龍繁(フクナガ タツシゲ)
舟山 眞人(フナヤマ マサト) 金武 潤(カネタケ ジュン)

目的 区役所や各区の住民組織等に資することのできる孤独死問題への施策立案のための基礎資料や,孤独死の社会疫学的分析に資する基礎データを提供することを目的に,東京都の区ごとで発生した孤独死数・率,死後経過日数ならび死亡時年齢を集計した。

方法 異状死のうち,死亡場所が自宅である単身世帯者の事例を孤独死と定義し,平成2・7・12・17・22年に東京都監察医務院が取り扱った孤独死を調査対象とした。調査項目は性,年齢,世帯分類,住所(区)であり,集計項目は住所別・性別の孤独死数,孤独死率,死後経過日数,死亡時年齢とした。また,孤独死の発生が統計的に有意に高い区があるか否かを,性・年別孤独死について空間集積性の検定を実施した。さらに,性・年・区ごとの死後経過日数と死亡時年齢について分散分析・多重比較を行い,これらの値の区ごとの差を検出した。

結果 いずれの区でも,男女とも孤独死数は経年的に増加傾向が認められた。男性孤独死は23区の東部・北部地域で,統計的に有意に集積していたが,女性孤独死の孤独死発生の地域格差は明確にはみられなかった。死後経過日数は全般に男性の方が女性よりも長い傾向にあり,死亡時年齢は男女共に年々上昇している傾向が認められた。

結論 孤独死事例の生前の様子を死後に詳細に分析することは難しいことが多く,孤独死の個別の特徴を把握するのは困難と考える。しかし,本研究で観察された区ごとの男性孤独死の地域格差に基づき,孤独死の地域的特徴といった統計的実態を明らかにできる可能性は示唆される。

キーワード 孤独死,孤立死,監察医,単身世帯

 

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第60巻第8号 2013年8月

摂食・嚥下障害が在宅療養に及ぼす影響

川辺 千秋(カワベ チアキ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)
新鞍 真理子(ニイクラ マリコ) 下田 裕子(シモダ ユウコ ) 廣田 和美(ヒロタ カズミ)
東海 奈津子(トウカイ ナツコ) 道券 夕紀子(ドウケン ユキコ) 梅村 俊彰(ウメムラ トシアキ)
吉井 忍(ヨシイ シノブ) 安田 智美(ヤスダ トモミ)

目的 摂食・嚥下障害が在宅療養に影響しているかどうかを明らかにする。

方法 A県B地区において,2000年4月1日~2008年12月31日の期間に初回介護認定を受けた第1号被保険者5,185人のうち,初回介護認定から1年以内に2回目の介護認定を受けた人の中で,初回介護認定調査場所が自宅で,かつ初回介護認定時の嚥下能力が「出来る」「見守り等」に該当し,経管栄養を使用していない2,724人の介護認定審査会資料を対象とし,性別,年齢,嚥下能力,排泄行為(排尿・排便)の介助の方法,要介護度,認知症高齢者の日常生活自立度,脳血管疾患の有無を調査した。認定調査場所を療養場所と仮定し,初回・2回目介護認定時ともに自宅の者を在宅療養継続群,初回が自宅で2回目介護認定時が自宅以外の者を在宅療養中断群とした。また,嚥下能力の変化について,初回介護認定時と2回目介護認定時の判定結果から,「嚥下出来る状態維持」群,「嚥下出来る状態から悪化」群,「嚥下見守り等の状態維持または改善」群,「嚥下見守り等の状態から悪化」群の4群に分類した。嚥下能力の変化が在宅療養の継続に及ぼす影響をみるため,性別,年齢,排便行為の介助の方法の変化,初回の認知症高齢者の日常生活自立度および脳血管疾患の有無を調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った。

結果 初回介護認定時は男性923人,女性1,801人で,平均年齢は81.7±6.8歳であった。在宅療養継続群は2,423人,中断群が301人であり,初回介護認定時,嚥下能力は「嚥下出来る」群が2,367人,「嚥下見守り等」群は357人であった。また,二項ロジスティック回帰分析の結果,嚥下能力の変化では,「嚥下出来る状態から悪化」群は「嚥下出来る状態維持」群に比べて,在宅療養中断のオッズ比が3.13と有意(p<0.01)に高かった。

結論 在宅療養を中断する要因として,嚥下能力の変化の中でも嚥下出来る状態から悪化することが影響していることが示唆された。

キーワード 在宅療養,摂食・嚥下障害,介護認定,嚥下能力

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第60巻第8号 2013年8月

23価肺炎球菌ワクチンの再接種およびインフルエンザワクチン
との同時接種に関する実態

-自治体の接種に対する助成の有無による相違について-
星 淑玲(ホシ シュリン) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 大久保 一郎( オオクボ イチロウ)

目的 2009年10月に23価肺炎球菌ワクチン(以下,23-PPV)の再接種(以下,再接種)およびインフルエンザワクチンを含む他の不活化ワクチンとの同時接種(以下,同時接種)が承認された。本研究は,診療所における再接種および同時接種の承認に対する医師の認知状況,同時接種または再接種に対する医師の態度とその理由,接種の実施状況や自治体の23-PPV接種に対する助成の有無がこれらの項目とどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。

方法 2010年8月までに23-PPV接種に対する公費助成を実施した374自治体にある14,953の内科を標ぼうする診療所(以下,助成あり群)と公費助成を行っていない1,376自治体にある50,421の内科を標ぼうする診療所(以下,助成なし群)から,それぞれ2,000の診療所を単純無作為法で抽出した。2011年2~4月にこれら計4,000の診療所に郵送法によるアンケート調査を実施した。診療所を代表する医師1名にアンケートの回答を求めた。

結果 回収率は34.0%であった。同時接種の承認に対する認知割合は,助成あり群が47.6%,助成なし群が41.8%であり,両群間に有意な差は認められなかった。一方,再接種の承認に対する認知では前者が77.6%,後者が70.8%であり,有意な差が認められた。2010年10月~2011年1月の期間中の23-PPVの接種,再接種および同時接種の実施状況は,助成あり群でそれぞれ84.8%,39.0%,11.3%であり,助成なし群では74.2%,31.2%,5.8%であった。いずれの接種においても助成あり群で有意に高かった.再接種または同時接種をすすめない理由については,「副反応」と「自治体による助成がないこと」が上位にあげられた。

結論 自治体の23-PPVの助成の有無にかかわらず再接種の承認に対する認知割合が同時接種のそれより高かった理由として,再接種に対する要望や調査報告などが頻繁に学術誌,各種医学会またはマスコミなどに取り上げられたことが考えられる。「再接種の承認に対する認知の有無」と「23-PPV接種に対する助成の有無」の間に有意な関連が認められたことから,再接種に関する情報は助成あり自治体の医師の間でより認知されていることが示された。23-PPVの接種実施状況,同時接種/再接種の実施状況などは,それぞれ「23-PPV接種に対する助成の有無」と有意な関連が認められた。これらの結果から23-PPV接種または同時接種の接種実施割合を向上させるためには,自治体の23-PPVの接種費用に対する助成が重要であることが示された。

キーワード 23価肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチン,再接種,同時接種,自治体,助成

 

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第60巻第8号 2013年8月

鹿児島県における自殺死亡の地域集積性と社会生活指標との関連

寒水 章納(カンスイ アキノ)

目的 鹿児島県市町村における自殺死亡の地域集積性を明らかにし,性別にみた自殺死亡と社会生活指標との関連を分析し,自殺死亡高率・低率地域の較差を明らかにすることを目的とした。

方法 鹿児島県45市町村における自殺死亡標準化死亡比(自殺死亡SMR)(2003~2007年)のデータを基に四分位偏差を算出し,75%パーセンタイル値以上を示した地域を自殺死亡高率地域,25%パーセンタイル値以下を示した地域を自殺死亡低率地域と定義し,性別にマップ化を行い,自殺死亡の地域集積性を明らかにした。また自殺死亡高率・低率地域の二群について,性別に社会生活指標24項目の平均値の差の検定を実施した。

結果 鹿児島県市町村における自殺死亡SMRは,過疎地域に集積性を認めた。性別では男性は宮崎県との県境にある曽於地域,熊本県との県境にある伊佐地域,そして南九州市,女性は男性同様,宮崎県との県境にある曽於地域,南九州市,加えて出水市,そして霧島市に集積していた。性別にみた各社会生活指標の平均値の差の検定では,男性の自殺死亡高率地域で離婚率(人口千対)が有意に高かった。女性の自殺死亡高率地域では,第一次産業就業者比率(%)が高く,第三次産業就業者比率(%),完全失業率(%),そして一般診療所病床数(人口10万対)は有意に低かった。

結論 鹿児島県市町村における自殺死亡は,過疎地域に集積性を認めたが,女性の自殺死亡に関して,過疎地域以外の自殺死亡高率地域では長期的な調査が望まれる。自殺死亡と社会生活指標の関連について,男性の自殺死亡高率地域では離婚率(人口千対)が高く,家族構成および家族機能が自殺死亡と関連している可能性が示された。女性の自殺死亡高率地域では第一次産業就業者比率(%)が高く,第三次産業就業者比率(%),完全失業率(%),一般診療所病床数(人口10万対)は低いという特徴が明らかとなり,女性がより過疎化の影響を受ける可能性が示唆された。今後は自殺死亡と社会生活指標との関連について,市町村別・性別を考慮した質的調査が望まれる。本研究は地域相関研究であり,集団間の交絡因子の調整が困難であるため,今後はこれらの問題を除去した上で個人レベルでの検証が必要である。

キーワード 自殺,地域集積性,社会生活指標,鹿児島県,地域相関研究

 

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第60巻第8号 2013年8月

原子力発電所事故による県外避難に伴う近隣関係の希薄化

-埼玉県における原発避難者大規模アンケート調査をもとに-
増田 和高(マスダ カズタカ) 辻内 琢也(ツジウチ タクヤ) 山口 摩弥(ヤマグチ マヤ)
永友 春華(ナガトモ ハルカ) 南雲 四季子(ナグモ シキコ) 粟野 早貴(アワノ サキ)
山下 奏(ヤマシタ ソウ) 猪股 正(イノマタ タダシ)

目的 東日本大震災によって避難を強いられた者のうち,埼玉県へ県外避難を行った福島県民を対象に,精神的健康の現状および今後の生活に影響を与えると考えられる避難先地域社会における近隣関係の実態を把握することで,孤立化に対する支援の方向性を提言していくことを目的とした調査・分析を行った。

方法 埼玉県内に避難中の福島県住民2,011世帯に自記式質問用紙を配布するアンケート調査を実施した。調査期間は2012年3月から同年4月までであり,有効回答数は490票(回収率:24.4%)であった。調査項目については,「年齢」「性別」「現在の住所地」「震災以前の住所地」「住宅の被害状況」「現在の住居に落ち着くまでの滞在場所の数」に加え,「心的外傷ストレス症状の度合い(IES-R)」「震災前後の近所づきあいの人数」の質問項目で構成された。

結果 本調査の結果におけるIES-Rの合計点平均は36.2±21.4であり,極めて高い値を示していた。また,25点を超えた割合は全体の67.3%であり,回答者の半数以上がPTSDの可能性がある高いストレス状況にあることが明らかとなった。また,震災前に構築された地域コミュニティが避難によって崩壊し,現在は従前に比して希薄化した人間関係の下,避難者が生活している実態が調査より明らかとなった。加えて,「互いに相談したり日用品の貸し借りをするなど,生活面で協力し合っていた人」が極端に減少した者は,IES-R得点が有意に高値であった。

結論 多くの県外避難者が高いストレス状況下で避難生活を送っており,近隣関係というソーシャルサポートを失っていた現状が明らかとなった。今後は,孤立化を防ぐためにも積極的に地域との接点を創出しつつ新たなコミュニティづくりを模索していくとともに,公的な資源を投入することでセーフティネットを構築していくことが求められる。

キーワード 近隣関係の希薄化,県外避難,IES-R,PTSD,東日本大震災

 

論文

 

第60巻第8号 2013年8月

都内勤労者における高血圧と各種健康行動との関連

-性・年齢別の比較-
田島 美紀(タジマ ミキ) 李 廷秀(リ チョンスゥ) 渡辺 悦子(ワタナベ エツコ)
髙山 真由子(タカヤマ マユコ) 深堀 敦子(フカホリ アツコ) 土屋 瑠見子(ツチヤ ルミコ)
朴 淙鮮 (パク ジョンソン) 片岡 裕介(カタオカ ユウスケ) 森 克美(モリ カツミ)
川久保 清(カワクボ キヨシ)

目的 高血圧該当者割合は加齢とともに増加し,30歳以上の人口の5割に及ぶ。高血圧の予防・改善のためには適正体重の維持,身体活動,節酒,減塩等の健康行動が推奨されているものの,その実施状況は性・年齢により異なり,高血圧との関連も異なることが考えられる。本研究は都内勤労者における高血圧と健康行動との関連を性・年齢別に明らかにすることを目的とした。

方法 都内A健診機関において,2008年度または2009年度の健診を受診した30~69歳の男女11,399人を対象とした。健診結果より高血圧(収縮期血圧≧140㎜Hg,拡張期血圧≧90㎜Hg,降圧剤服用中のいずれかに該当),肥満(BMI≧25㎏/㎡),各種健康行動(20歳からの体重増加,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,身体活動,歩行速度,夜間間食,就前食事,朝食欠食,食事速度,睡眠による十分な休養)に関するデータを収集した。分析対象者の年齢を10歳ごとに区分し,性・年齢別に高血圧と健康行動との関連を年齢とBMIを調整した多重ロジスティック回帰分析にて検討した。

結果 分析対象者9,840人(男性60.7%)のうち高血圧該当者の割合は男性28.9%,女性14.2%であった。肥満であることはすべての性・年齢で高血圧と有意な正の関連がみられた。年齢とBMIを調整した結果,20歳からの体重増加が10㎏以上あることは男性の30歳代で,酒をほぼ毎日男性2合以上,女性1合以上飲むことは男性の40~60歳代と女性の40歳代で高血圧と有意な正の関連がみられた。身体活動を毎日1時間以上行っていないことと食事速度が速い・普通であることは男性の50歳代で,運動習慣がないことは男性の60歳代で高血圧と有意な正の関連がみられた。喫煙習慣があることと高血圧とは男性30・50歳代,女性の50・60歳代で有意な負の関連がみられた。その他の健康行動と高血圧との間には有意な関連はみられなかった。

結論 すべての性・年齢において肥満は高血圧のリスクを高めることが再確認された。各種健康行動と高血圧との関連は性・年齢別に異なることが示され,男性30歳代は体重増加の予防,男女ともに40歳代からリスクの低い飲酒の仕方,男性50歳代は身体活動量の確保と食事速度を意識的に遅くすること,男性60歳代は運動を定期的に行うことが重要であり,性・年齢を考慮した高血圧対策の支援が必要である。

キーワード 勤労者,健康行動,高血圧,性,年齢,肥満

 

論文

 

第60巻第11号 2013年9月

東日本大震災における
居宅介護支援事業所と地域包括支援センターによる
利用者の安否確認の実態の比較と課題

-岩手県・宮城県の沿岸部と内陸部の比較をもとに-
岡田 直人(オカダ ナオト) 白澤 政和(シラサワ マサカズ) 峯本 佳世子(ミネモト カヨコ)

目的 東日本大震災発生直後において,岩手県と宮城県の居宅要援護高齢者の安否確認を実施した居宅介護支援事業所の介護支援専門員(以下,CM)および地域包括支援センター(以下,包括)が果たした活動の実態を整理・比較することで,地域包括ケアシステムにおける地域の主要な担い手であるCMと包括の今後のあり方を検討した。

方法 CM調査と包括調査は,岩手県と宮城県のすべての事業所・包括を対象とし,質問紙による自記式郵送調査を行った。有効回収数(率)は,CM調査は464件(46.9%),包括調査は139件(48.3%)であった。2011年12月28日~2012年2月10日に回収されたデータを基に単純集計とχ2検定を行い,2調査の結果の違いを考察した。分析は,2調査はともに,宮城県と岩手県を合算したデータを用い,市町村所在地により沿岸部グループと内陸部グループを比較して行った。

結果 多くのCMと包括が震災直後から安否確認を開始し,3月20日までに終了していた。包括では,2次予防事業対象者の安否確認も実施していた。沿岸部と内陸部の比較では,CMと包括ともに沿岸部での安否確認に困難が生じていた。安否確認の情報源は,CMは同居家族,ヘルパー,デイ職員,同じ事業所のケアマネジャーが多く,包括はケアマネジャー,民生委員,近隣住民が多かった。優先的に安否確認した人は,CMと包括ともに,独居の人,高齢夫婦のみの人,医療ニーズの高い人で共通し,それ以外は違いがあった。優先的安否確認者への日頃の緊急対応策では,CMと包括に共通点がみられた。安否確認実施のきっかけは,沿岸部と内陸部に違いはなかった。安否確認が困難だった理由は,CMと包括ともに沿岸部で共通した。

結論 CMと包括ともに震災の初動期から居宅要援護高齢者の安否確認が行われていた。CMと包括の平常時における連携先の違いが,震災時の安否確認の情報源の違いに現れたと示唆された。安否確認では介護保険制度によるCMと包括の存在意義は大きかったといえる。今回の経験から,災害に限らず緊急時の対応方法を検討することで,CMと包括ともに平常時の業務の質の向上の可能性を高め,地域包括ケアシステムにおける地域のネットワーク構築の強化に資することが期待できる。

キーワード 東日本大震災,利用者,安否確認,居宅介護支援事業所,介護支援専門員,地域包括支援センター

 

論文

 

第60巻第11号 2013年9月

高齢者向けの運動教室が参加者の身体機能と
医療費に及ぼす効果

渡邊 裕也(ワタナベ ユウヤ ) 山田 陽介(ヤマダ ヨウスケ ) 三宅 基子(ミヤケ モトコ)
木村 みさか(キムラ) 石井 直方(イシイ ナオカタ)

目的 首都圏のH市で実施された高齢者を対象とした健康づくり事業が参加者の身体機能および医療費に及ぼす効果を検討することを目的とした。

方法 H市が平成19年度から2年間,6カ月を1サイクルとして,4サイクル開催した運動教室の参加者を分析対象者とした。選出基準は,運動教室に連続3サイクル以上参加していること,6カ月ごとに実施した体力測定に連続3回以上参加したこと,国民健康保険(後期高齢者医療制度)の加入者であることとした。体力測定では身長,体重,安静時血圧,握力,閉眼片足立ち,長座位体前屈,2ステップ値,複合関節動作(チェストプレス,プル,スクワット)の等速性最大筋力を測定した。医療費(医科・調剤)については,抽出期間を運動教室開始前1年間と開始後2年間の計3年間とし,推移を観察し,運動教室非参加群(対照群)と比較した。対照群の選出基準は,同市に在住で,同時期に運動教室に参加していないこと,国民健康保険(後期高齢者医療制度)の加入者であることとし,参加群と性別,年齢でマッチングした。分析対象者数は両群とも72名(男性5名,女性67名)とした。

結果 収縮期血圧は運動開始前に対して6カ月後,12カ月後で有意に低値を示した。チェストプレス,プル,スクワットの等速性最大筋力および2ステップ値は運動開始前に対して6カ月後,12カ月後で有意に高値を示した。その他の測定項目では,3回の測定を通して有意な変化は認められなかった。両群の運動教室開始前1年間の年間医療費に統計学的な有意差は認められなかった。参加群では3年間で有意な年間医療費の増減は認められなかったが,対照群では平成18年度に比べ20年度で有意な年間医療費の増加が認められた。また,両群の3年間の年間医療費の変化量を比較したところ,対照群の増加量が参加群と比べ有意に高値を示した。

結論 本研究により,介護予防や健康増進を目的とした高齢者向けの運動教室の効果として,下肢および上肢の筋力増強が生じること,安静時の収縮期血圧が低下することが明らかになり,運動教室への参加が医療費上昇の抑制をもたらす可能性が示唆された。いくつかの問題点はあるが,うまく動機づけを行い教室への参加を続けさせ,適切な情報を提供して行動変容を促すことができれば,月に1~2回の運動教室の開催でサルコぺニアを予防でき,かつ医療費の上昇を抑えることができるかもしれない。

キーワード 高齢者,運動事業,医療費,サルコぺニア

 

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第60巻第11号 2013年9月

市町村におけるがん検診精度管理指標の評価方法について

-Funnel plotによる評価-
松村 香(マツムラ カオリ) 沼田 加代(ヌマタ カヨ) 畠山 玲子(ハタケヤマ レイコ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 工藤 明美(クドウ アケミ) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 健康増進法に基づき市町村が実施するがん検診事業は,各都道府県に設置された生活習慣病管理指導協議会が,その実施において適正であったかを評価することが国の指針で望まれている。がん検診の精度管理指標には,要精検率,精検受診率,がん発見率などがあり,これらの指標は「厚生労働省がん検診事業評価に関する報告書」に記された許容値等と比較することで評価されるが,自治体の規模の大きさにより各指標にばらつきが生じうるため,単純な比較には問題がある。人口規模の違いを考慮に入れた上で,各精度管理指標が極端に低い(あるいは高い)市町村を検出することができるFunnel plotを用いて,大阪府の市町村におけるがん検診の各精度管理指標について評価を行った。

方法 大阪府で毎年刊行している「大阪府におけるがん検診」の平成20年度の各市町村のがん検診精度管理指標を評価した。本報告では大腸がん検診を例とした。横軸を分母の値(検診受診者数や要精検者数)とし,縦軸を各精度管理指標(要精検率,精検受診率,がん発見率)の点推定値とし,市町村の散布図を描く。その上に厚生労働省のがん検診事業の評価に関する委員会で決められた許容値を水平に描き,横軸の数値に応じた縦軸の95%信頼区間および99.8%信頼区間を描いた(Funnel plot)。各市町村の規模に応じた許容値の信頼区間を基準とし,統計的に有意に逸脱していないかを評価した。全体の評価および検診の実施方式(集団・個別)別にも検討した。

結果 全体では男性で要精検率が統計的に有意に高い市町村が多く(21/43市町村),精検受診率は男女とも低い市町村が多かった(男性12/43,女性13/43)。要精検率は集団方式と比べて個別方式の方が,統計的に有意に高い値を示す市町村が多かった。一方,精検受診率は個別方式でのばらつきが大きく,許容値に比べて統計的に低い値を示した市町村が多かった(男性13/26,女性14/26)。集団方式では,個別方式よりもばらつきが小さく,高い精検受診率を示した市町村が多かった。

結論 市町村において実施されているがん検診の精度管理指標は点推定値で比較されることが多く,人口規模の違いを考慮することができなかったが,Funnel plotを用いることで,人口規模に応じた許容値の達成度を評価することが可能となった。

キーワード がん検診,がん対策,がん検診精度管理,Funnel plot

 

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第60巻第11号 2013年9月

急性期脳神経疾患リハビリテーション患者の疾患特性

鈴木 雄介(スズキ ユウスケ) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 福田 寛二(フクダ カンジ)

目的 脳神経外科病棟に入院した代表的な脳神経疾患患者における,在院日数やリハビリテーション開始までの日数,リハビリテーション開始時および終了時の日常生活動作能力,退院転帰について分析を行い,急性期病院での疾患特性に応じた効率的なリハビリテーション介入を行うための方策を検討した。

方法 過去3年間に当院脳神経外科病棟に入院した代表的な脳神経疾患である脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,脳腫瘍の各疾患における在院日数,リハビリテーション開始までの日数,リハビリテーション開始時および終了時のFunctional Independence Measure(以下,FIM),退院転帰について分析した。

結果 リハビリテーションの開始が早く,開始時のFIMが高いほど在院日数が短く,終了時のFIMも高かった。在院日数,リハビリテーション開始までの日数は,くも膜下出血と脳腫瘍が脳梗塞と脳出血に比べ有意に長かった。すべての疾患の開始時と終了時のFIMには有意差を認めた。退院転帰は,脳梗塞と脳出血は回復期リハビリテーション病棟への転院が多く,くも膜下出血は回復期リハビリテーション病棟と一般病院への転院が同程度,脳腫瘍は自宅退院が最も多かった。

結論 脳梗塞と脳出血は集中的な機能訓練,くも膜下出血は回復期リハビリテーション病棟への転院に向けた調整,脳腫瘍は早期からの自宅復帰支援の必要性が示唆された。

キーワード 脳神経疾患,FIM,退院転帰

 

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第60巻第11号 2013年9月

農村部地域住民における家族構成と首尾一貫感覚との関連

森 浩実(モリ ヒロミ) 斉藤 功(サイトウ イサオ) 江口 依里(エグチ エリ)
丸山 広達(マルヤマ コウタツ)古川 慎哉(フルカワ シンヤ) 加藤 匡宏(カトウ タダヒロ)
谷川 武(タニガワ タケシ)

目的 農村部地域住民を対象に,ストレス対処能力とされる首尾一貫感覚(Sense of coherence:SOC)と家族構成との関連について検討することとした。

方法 愛媛県大洲市において,2009~2011年の特定健診受診者(40~74歳)のうち,本研究参加の同意を得た男性1,427人,女性2,040人に対し,SOC13項目を含む質問紙調査を実施した。家族構成は,独居,夫婦世帯,2世代世帯,その他の世帯に分類した。喫煙,飲酒,身体活動量,高血圧,糖尿病,脂質代謝異常の有無を調整因子として,共分散分析およびロジスティック回帰分析により,家族構成とSOCとの関連を検討した。

結果 共分散分析の結果,家族構成とSOC総得点との間に有意な関連が認められ,男女ともに,夫婦世帯より独居者のSOCは有意に低かった(p<0.05)。40~64歳,65~74歳の年齢階級で層別化すると,40~64歳ではSOC総得点と家族構成との有意な関連は認められなかったが,65~74歳において有意な関連を認め,男性の独居者は2世代世帯より,女性の独居者は夫婦世帯よりSOC総得点が有意に低かった(p<0.05)。SOC総得点が平均値以下である多変量調整済みオッズ比は,男性の65~74歳において2世代同居に対して独居者では1.97(95%信頼区間:1.08-3.59)であった。女性では,家族構成とSOC低下との有意な関連は認めなかった。

結論 農村部地域住民において,独居者のSOCが低下しており,特に65歳以上の男性においてその傾向が顕著であった。男性の高齢者では,ストレス対処能力に配偶者や家族がいることが強く影響していることが示唆された。

キーワード 首尾一貫感覚,ストレス対処能力,家族構成,高齢者,独居

 

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第60巻第11号 2013年9月

医師数,医療機関数,病床数,患者数のバランスから評価した
医療資源の地域格差とその推移

 
関本 美穂(セキモト ミホ) 井伊 雅子(イイ マサコ)

目的 医師不足および医師の偏在は,わが国の医療の大きな課題である。政府は二次医療圏の診療機能の均てん化を目標としてきたが,地域格差はほとんど解消されていない。われわれは人口当たり医師総数で二次医療圏を層別化し,各グループにおける平成8年から22年までの医療資源や業務量の推移を検討した。

方法 「政府統計の総合窓口(e-Stat)」上で提供されている平成8年から22年までの「国勢調査」「医師・歯科医師・薬剤師調査」「医療施設調査」「患者調査」を二次医療圏単位で集計したうえで結合し,時系列データを作成した。同期間に大きな再編のなかった224の二次医療圏を人口当たり医師総数の4分位で4群に分け,平成8年,14年,20年における各種指標の分布を群間比較した。検討した指標は,①医師数/人口比,②病院数/人口比・病床数/人口比,③医師数/病院数比・医師数/病床数比,④患者数/医師数比,⑤患者数/病院数比・患者数/病床数比,⑥手術件数/人口比・手術件数/医師数比である。

結果 医師数/人口比が大きいグループほど人口に比して病院や病床が多く,病院数や病床数に対する医師数も大きかった。最上位グループに人口の47.5%,医師の65.1%が集まっていた。医師数/人口比の格差の大部分が,病院あるいは大学病院の医師数の違いに由来した。すべてのグループで医師数/人口比が経年的に増加したがグループ間格差は解消されず,平成20年における下位グループの医師数/人口比は最上位グループの平成8年時の値に達しなかった。医師が少ない地域では,医師数に対する外来患者数,入院患者数,全身麻酔件数の比が大きく,医師の負担が大きいことが示唆された。最上位グループは他の医療圏からの患者を受け入れて急性期を中心とする医療を提供していた。

結論 二次医療圏レベルでみた医療資源の地域格差は非常に大きく,この格差は過去12年間ほとんど解消されていない。ただし医師が多い地域と少ない地域では提供する医療の内容も異なり,複数の医療圏が機能を補完し合って診療を提供している。医療資源や保健医療財政の限界から考えると,地理的なアクセスの平等性を目指すのではなく,思い切った医療資源の集約や診療のボリュームをコントロールすることを目指すべきである。

キーワード 医師数,二次医療圏,地域格差,医療資源

 

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第60巻第12号 2013年10月

全国の婦人相談所の運営に関する実態調査

阪東 美智子(バンドウ ミチコ) 森川 美絵(モリカワ ミエ)

目的 全国の婦人相談所の運営状況を概観し,支援体制や業務内容に関する全国的様相と地域間の相違を明らかにすることを目的とした。

方法 平成22年度婦人保護事業実施状況報告および婦人保護事業実態調査の結果を二次的に利用した。分析においては,都道府県の女性人口を補足データとして用い調整した。

結果 婦人保護事業における各都道府県の職員の配置(女性人口10万人当たり)は,婦人相談所では最少0.17人,最多4.77人で28倍の格差が,一時保護所では最少0.26人,最多3.66人で14倍の格差が,婦人相談員(市区を含む)は最少0.39人,最多3.95人で10倍の格差がみられた。婦人相談所の業務として必要と思われる16項目に関する要綱または手引き等の策定状況は,「DV被害者の保護支援」「ケースの要保護性の判断基準や保護の実施方法」「緊急対応(暴力加害者からの追及への対応等)」「電話相談」の4項目について半数以上の婦人相談所が策定していたが,一時保護中および退所後の支援,妊婦や性暴力被害者など特段の配慮が必要と思われる対象者への支援,市町村や他機関との連携に関しては,制度や環境の構築が遅れていることが明らかになった。相談の受付状況については,婦人相談所で受け付けるものとそれ以外の場所で婦人相談員が受け付けるもので,その方法や来所相談者の類型が異なっており,都道府県間の差も大きかった。なお,婦人相談員数と婦人相談員が行った相談実人員数の間にはかなりの相関があった。

結論 婦人保護事業は国全体として取り組むべき大きな課題となっているが,本調査からは,婦人保護行政のあり方が地域特性に帰す範囲を越えて地域ごとに大きなばらつきのあることが示唆された。婦人相談所等の機能や体制を見直し,再構築を図ることが求められる。

キーワード 婦人相談所,婦人保護事業,婦人相談員

 

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第60巻第12号 2013年10月

高齢知的障害者の死亡原因と疾患状況

-国立のぞみの園利用者の診療記録から-
相馬 大祐(ソウマ ダイスケ) 五味 洋一(ゴミ ヨウイチ) 志賀 利一(シガ トシカズ)
村岡 美幸(ムラオカ ミユキ) 大村 美保(オオムラ ミホ ) 井沢 邦英(イザワ クニヒデ)

目的 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(以下,国立のぞみの園)入所者の罹患の状況と死亡原因に関するデータを整理し,知的障害者の健康管理と医療・介護を考える上での基礎的資料を得ることを目的とした。

方法 国立のぞみの園の過去の診療記録から,入所者の死亡原因および既往歴に関する情報を収集し,集計・分析した。調査対象は,1971年4月から2011年3月の間に死亡した162人とした。病名はICD10国際疾病分類第10版ならびに植田の文献を参考に分類した。

結果 2000年度以前に亡くなった利用者は90人であり,死亡時の平均年齢は41.6歳であった。一方,2001年度から2010年度に亡くなった利用者は72人で,死亡時の平均年齢は59.7歳であった。この結果から,高齢知的障害者に関する死亡原因や疾病については,2001年度から2010年度の間に亡くなった者を対象に,より詳細に分析することが有効と判断した。2001年度以降とそれ以前の死亡原因を比較すると,呼吸器系疾患で死亡した人の割合が全体の43.1%にのぼり,大幅に増加していた。次に,72人の利用者が罹患して最初に診断を受けた年代を疾患別に整理した。その結果,疾患ごとに最初に診断を受けた年代の傾向は異なり,4つに疾患を分類することができ,50歳代で初発となる疾患が多い傾向にあった。

結論 本研究の結果,障害者支援施設で生活する高齢知的障害者の死亡原因としては,新生物や脳血管疾患の割合が比較的低く,呼吸器系疾患で死亡する割合が高いことがわかった。そのため,国立のぞみの園では嚥下機能の低下による肺炎のリスクの備えとして,特別食導入等の食事の工夫や口腔機能の向上・維持を目的とする摂食・嚥下訓練等を実施している。また,罹患状況の分析の結果,30歳代以降の身体状況の変化に注視するとともに,50歳代での多様な疾病の罹患に備える必要性がうかがえた。そのため,身体機能等の変化のない30歳代以前の身体機能,認知機能等をベースラインとして記録するとともに,30歳代以降はそれらの情報を定期的に記録しておく必要性があるといえる。グループホーム・ケアホームは職員数が少なく,非正規職員の世話人が多い傾向にあり,通院の介助や医療機関との連携についても対応に苦慮する実態が指摘されている。上記の取り組みの他,障害福祉分野に限らず,高齢福祉,医療分野の専門職を交えた検討が必要といえる。

キーワード 高齢知的障害者,死亡原因,罹患状況

 

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第60巻第12号 2013年10月

総合健康保険組合被保険者に対する
職業性ストレスチェックを加味した禁煙プログラムの効果

 
冨山 紀代美(トミヤマ キヨミ) 春山 康夫(ハルヤマ ヤスオ ) 猿山 淳子(サルヤマ アツコ)
金子 牧子(カネコ マキコ) 武藤 孝司(ムトウ タカシ)

目的 禁煙プログラムに加えて職業性ストレス調査結果をフィードバックしたプログラムの効果を明らかにすることを目的とした。

方法 本研究は準実験研究であり,研究対象である総合健康保険組合に加入する1事業所の5,721名に対して喫煙および職業性ストレスのアンケートを実施した。有効回答者は4,304名(75.2%)で,そのうちの喫煙者1,396名(32.4%)を本研究の対象者とした。喫煙者のうち1,250名には禁煙プログラムとして禁煙の情報提供および禁煙治療サポートへの参加の推奨等を実施し,146名には禁煙プログラムに加えて職業性ストレス結果のフィードバックを実施した。1年後,追跡調査としてアンケートを実施したところ2年間続けて参加した対象者はそれぞれ789名(63.1%)と120名(82.2%)であった。アンケートの項目は性,年齢,仕事関連因子,喫煙および職業性ストレスであった。職業性ストレスの評価は厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)を用い,仕事のストレッサー,身体的ストレス,精神的ストレスおよび社会的支援の各指標はリッカート尺度で計算した。カテゴリー変数についてはχ2検定,連続変数は対応のないt検定,職業性ストレス各指標の前後比較は対応のあるt検定を用いた。また,群別の1年後の禁煙成功者については多重ロジスティック回帰分析を実施した。

結果 禁煙+BJSQ結果フィードバック群では仕事のストレッサー平均得点は有意に低下しており(P=0.042),精神的および身体的ストレスに関しては有意な変化はみられなかった。一方,社会的支援の平均得点は禁煙のみ群で有意に減少していた(P<0.003)。年齢,性,雇用形態,シフトワーク,職位および労働時間を調整した結果,禁煙のみ群に対し禁煙+BJSQ結果フィードバック群は2.05倍(95%信頼区間:1.002-4.208)禁煙に成功した。

結論 禁煙+BJSQ結果フィードバック群では仕事上のストレッサーが減り,禁煙のみ群に対し,禁煙+BJSQ結果フィードバック群の喫煙禁煙成功者が2倍多かった。本研究の結果から事業所にて禁煙を推進していくためには,喫煙に関するアプローチのみでなく,職業性ストレスの軽減も考慮した働きかけが必要であることが示唆された。

キーワード 産業保健,健康保険組合,喫煙,禁煙,職業性ストレス

 

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第60巻第12号 2013年10月

がん検診受診率の算定対象変更に伴う精度管理指標の変化

岸 知輝(キシ トモキ) 濱島 ちさと(ハマシマ)

目的 日本のがん検診受診率は10~20%と諸外国に比べ低い。2012年6月にがん対策推進基本計画が見直され,諸外国との比較等も踏まえ,がん検診受診率の算定対象が40~69歳(子宮頸がんは20~69歳)までに変更となった。そこで算定対象変更が,がん検診の精度管理指標である,がん検診受診率,要精検率,精検受診率,がん発見率,陽性反応適中度に及ぼす影響を検討した。

方法 2008,2009年度地域保健・健康増進事業報告,2005年国勢調査のデータを使用し,2008年度に40歳(子宮頸がんは20歳)以上の全年齢を対象とした場合と,40~69歳(子宮頸がんは20~69歳)を対象とした場合(以下,算定対象変更後)の胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮頸がんについて,がん検診受診率,要精検率,精検受診率,がん発見率,陽性反応適中度を算出した。がん検診受診率の算定方法は標準算定方式を用いた。比較検討はχ2検定を用いた。

結果 算定対象変更後では全年齢を対象とした時よりも,がん検診受診率は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮頸がんにおいて有意に増加した。要精検率は,胃がん,大腸がん,肺がんにおいて有意に減少したが,乳がん,子宮頸がんにおいて有意に増加した。精検受診率は,大腸がんは有意に増加し,胃がん,乳がんにおいて有意に減少したが,肺がん,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。がん発見率は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がんは有意に減少したが,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。陽性反応適中度は,胃がん,大腸がん,肺がん,乳がんは有意に減少したが,子宮頸がんでは有意差はみられなかった。

結論 がん検診受診率算定対象に上限を設定したことで,壮年期の死亡率減少効果が期待でき,がん検診受診率を把握できるようになった。対策型がん検診は,対象年齢の上限を設けず実施しているが,今後,根拠に基づいた対象年齢の上限を研究する必要がある。現在では,その根拠が不明であることから,70歳以上のがん検診受診率の把握も引き続き必要と考える。精度管理指標に許容値,目標値が設定されているが,要精検率,がん発見率,陽性反応適中度については,対象年齢の罹患率の影響を受ける精度管理指標であるため,算定対象変更後の年齢層の罹患率に対応した許容値,目標値を再検討する必要がある。がん検診受診率,精検受診率については現状の許容値,目標値の達成に向け,取り組んでいく必要がある。

キーワード がん検診,受診率,算定対象,精度管理指標

 

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第60巻第12号 2013年10月

二次医療圏における研修医マッチ者数の変化について

-平成15~17年および平成21~23年の比較-
江原 朗(エハラ アキラ)

目的 医師の新臨床研修制度導入により,都会と地方の医療資源の格差が拡大したとの報じられることが多い。そこで,新臨床研修制度導入後9年間の各二次医療圏における研修医マッチ者数の変化を解析する。

方法 平成15年から23年における各研修病院のマッチ者数は医師臨床研修マッチング協議会のホームページから引用した。平成22年12月末の各二次医療圏に相当する圏域の研修医マッチ者数を算出し,平成15~17年合計値と平成21~23年合計値とを比較した。

結果 平成21~23年に「0~15人」および「201人以上」のマッチ者数を有する二次医療圏の数は,平成15~17年よりも少なかった。一方,「16~200人」のマッチ者数を有する二次医療圏の数は平成15~17年よりも多かった。二次医療圏における研修医マッチ者数の10および20パーセンタイル値は,平成15~17年,平成21~23年ともに0人で変化がなかった。しかし,平成21~23年における30から80パーセンタイル値は,平成15~17年に比べて増加する一方,90パーセンタイル値は減少していた。大学病院がない場合,マッチ者数が「0~30人」および「51~100人」のマッチ者数カテゴリに属する二次医療圏では上方のカテゴリに移動する地域が多く,「31~50人」および「101~200人」のカテゴリに属する二次医療圏では下方のカテゴリに移動する地域が多かった。大学病院がある場合は,「1~15人」および「51~200人」のマッチ者数カテゴリに属する二次医療圏では上方のカテゴリへの移動する地域が多かった。しかし,「201人以上」のマッチ者を有する二次医療圏では下方のカテゴリへ移動する地域が多かった。

結論 平成15~17年と比べて,平成21~23年には「16~200人」の研修医マッチ者数を有する二次医療圏の数が増加し,「0~15人」ないし「201人以上」のマッチ者数を有する二次医療圏の数が減少していた。大学病院の有無によって規模は異なるが,マッチ者数の少ない二次医療圏ではマッチ者数が増え,ある一定規模以上のマッチ者がいた二次医療圏では逆にマッチ者数が減っていた。

キーワード マッチング,新臨床研修制度,二次医療圏,偏在,医師不足

 

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第60巻第12号 2013年10月

患者調査のオーダーメード集計による主傷病と副傷病の関連

橋本 修二(ハシモト シュウジ ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ ) 山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ)
谷脇 弘茂(タニワキ ヒロシゲ) 栗田 秀樹(クリタ ヒデキ)

目的 平成20年患者調査のオーダーメード集計に基づいて,主傷病と副傷病の関連性を検討した。

方法 統計法34条に基づくオーダーメード集計を利用して,入院・外来,性・年齢階級と主傷病別の副傷病の推計患者数を得た。主傷病は傷病大分類,副傷病は糖尿病,高脂血症,高血圧(症),虚血性心疾患,脳卒中とした。入院と外来ごとに,主傷病別の副傷病の推計患者数を観察するとともに,性・年齢構成を調整した期待値に対する比(O/E比)を算定した。

結果 主傷病が虚血性心疾患と脳血管疾患に対する副傷病が糖尿病,高脂血症と高血圧(症)のO/E比はいずれも1.5以上であった。O/E比が1.5以上の組み合わせとしては,主傷病が糖尿病と高血圧性疾患に対する副傷病が虚血性心疾患と脳卒中,主傷病が「糸球体疾患,腎尿細管間質性疾患及び腎不全」に対する副傷病が糖尿病,高血圧(症),虚血性心疾患と脳卒中などであった。

結論 主傷病と副傷病の中に強い関連性を有する組み合わせがみられ,オーダーメード集計の利用の有用性が示唆された。

キーワード 患者調査,オーダーメード集計,主傷病,副傷病,保健統計

 

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第60巻第13号 2013年11月

再生医療の臨床研究参加意向に関する調査

-Web調査を利用して-
堀口 逸子(ホリグチ イツコ) 川南 公代(カワミナミ キミヨ) 城川 美佳(キガワ ミカ)
重松 美加(シゲマツ ミカ)

目的 国民の再生医療における臨床研究参加促進のためにiPS細胞の認知について,また研究参加と提供者不明ヒト幹細胞利用およびドナーとレシピエントの個人情報の取り扱いに関する意向の把握を目的とした。

方法 (財)日本情報処理開発協会による「プライバシーマーク」を取得しているリサーチ会社モニター20~69歳の日本国内居住者を対象に,iPS細胞に関する認知調査と,その調査においてiPS細胞を「おおむね知っている」または「言葉を聞いたことはある」と回答した5,128人(回収率59.7%)に対して,再生医療の臨床研究参加意向に関する調査を実施した。意向調査の質問は,臨床研究参加意向,提供者不明のヒト幹細胞利用意向,ドナーおよびレシピエントへの情報提供の4問である。調査は平成23年2月25日から3月2日に実施した。

結果 iPS細胞を「おおむね知っている」「言葉を聞いたことがある」は約70%で,男性が女性より認知群が有意に多かった(p<0.0001)。臨床研究参加の肯定群は76.1%で,iPS細胞を「おおむね知っている」が「言葉を聞いたことはある」より有意に多かった(p<0.0001)。提供者不明のヒト幹細胞利用意向の肯定群は46.0%で,男性(52.2%)が女性(39.3%)より有意に多かった(p<0.0001)。iPS細胞を「おおむね知っている」(50.4%)が「言葉を聞いたことはある」(44.1%)より有意に多かった(p<0.0001)。情報提供をドナーおよびレシピエントに求める肯定群は全体の90%を超えた。

結論 iPS細胞の認知や臨床研究参加意向は過去の世論調査や研究と大差なかった。提供者不明ヒト幹細胞利用意向は約半数で,ドナーの情報が明白なこと,いわゆる連結可能であることが求められている。また,レシピエント,ドナーともに将来の健康状態の変化に対する情報提供を望んでおり,トレーサビリティ(追跡透明性)が期待されている。iPS細胞を「おおむね知っている」が「言葉を聞いたことはある」より有意に研究参加意向が高かったため,iPS細胞とはどういうものか等の理解促進が研究参加の促進につながると考えられる。

キーワード iPS細胞,ヒト幹細胞,再生医療,臨床研究,情報提供,Web調査

 

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第60巻第13号 2013年11月

地域住民を対象とした家族に認知症症状がみられた場合の
受診促進意向と認知症に対する受容態度との関連

杉山 京(スギヤマ ケイ ) 中尾 竜二(ナカオ リュウジ ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 本研究は,地域住民における認知症の早期受診の実現に有用な示唆を得ることを目的に,地域住民が自身の家族に初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向と認知症に対する受容態度との関連について検討した。

方法 A市小地域ケア会議に属する福祉委員206名に対し,無記名自記式の質問紙調査を実施した。調査内容は,属性,認知症の知識量,初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向,認知症に対する受容態度等で構成した。統計解析には,各質問項目に欠損値のない資料を用いた。解析方法として,社会心理学における援助行動理論を援用し,「認知症に対する受容態度」が「家族に認知症症状がみられた場合の受診促進意向」を規定するといった因果関係モデルを構築し,構造方程式モデリングを用いてデータに対する適合度を確認した。

結果 本研究における因果関係モデルのデータに対する適合度は,統計学的な許容水準を満たしており,「認知症に対する受容態度」と「初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向」との間に有意な関連が確認された。

結論 本研究の結果,「認知症に対する受容態度」が高いほど,「初期の認知症症状がみられた場合の受診促進意向」が高いことが確認され,早期に受診を促進しようとする意向を向上させるには「認知症に対する受容態度」を高めることが重要と示唆された。

キーワード 認知症,早期受診,家族,援助行動理論

 

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第60巻第13号 2013年11月

特別養護老人ホームの生活相談員が行う
ソーシャルワークとケアワーク実践の両立性に関する研究

上田 正太(ウエダ ショウタ ) 岡田 進一(オカダ シンイチ ) 白澤 政和(シラサワ マサカズ)

目的 本研究は,特別養護老人ホーム(以下,特養)のソーシャルワーカーとして位置づけられる生活相談員(以下,相談員)が,ソーシャルワークとケアワーク両実践を両立して行っているかの検証を目的としたものである。重篤な要介護者を支援対象とする特養相談員がケアワーク実践を遂行することの必要性は,多くの研究者が主張するところであるが,相談員の本来業務であるソーシャルワーク実践に弊害をもたらすと一部否定的な見解がある。職務のあいまい性が問われて久しい相談員の実践概念の確立に向け,現場における実践状況の実証的な検討を行った。

方法 関西圏の特養に勤務する相談員に実施した郵送調査から,欠損値のなかった415の回答を対象に検討を行った。先行研究で確認された尺度をもとに,相談員ソーシャルワーク実践5領域と相談員ケアワーク実践4領域で構成される相談員実践モデルを設定し,適合度を確認した。さらに基本属性を独立変数,相談員実践モデルを従属変数とするMultiple Indicator Multiple Cause Modelを作成し,関連を検討した。

結果 相談員のソーシャルワークとケアワーク両実践の両立性を検証することを目的とした因子構造モデルについては,確認的因子分析の結果,統計的な許容水準を満たした。ソーシャルワーク実践とケアワーク実践の相関も0.700と高い数値が示され,ソーシャルワーク実践を行っている人ほど,ケアワーク実践を行っている傾向が明らかとなった。基本属性を独立変数,相談員実践を従属変数とするモデルの適合度についても,統計的な許容水準を満たした。相談員ソーシャルワーク実践に対しては,役職と正の関連,利用者数と負の関連が確認された。相談員ケアワーク実践に対しては,介護福祉士所持者,特養の相談員数,特養の運営年数と正の関連,男性,社会福祉士所持者,特養の利用定員数と負の関連が確認された。

結論 特養の相談員が,ソーシャルワークとケアワークを両立して実践していることが実証的に確認された。複数の先行研究にて,重篤な要介護者である利用者の情報収集や他職種と連携を深めるうえでソーシャルワークおよびケアワークの両立的実践の重要性が唱えられてきたが,実際の現場でも両立した実践が行われていることが明確化された。

キーワード 生活相談員,ソーシャルワーク,ケアワーク,特別養護老人ホーム

 

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第60巻第13号 2013年11月

高齢期記憶機能低下の予後と危険因子

天野 秀紀(アマノ ヒデノリ ) 吉田 裕人(ヨシダ ヒロト ) 西 真理子(ニシ マリコ)
藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)渡辺 直紀(ワタナベ ナオキ ) 李 相侖(イ サンユン)
深谷 太郎(フカヤ タロウ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)新開 省二(シンカイ ショウジ)
  土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)

目的 エピソード記憶機能の簡便な検査手順を,L’épreuve de rappel libre/rappel indicé à 16 items(RL/RI-16)の翻案により作成し,その予測妥当性を地域高齢者において確認した。また,記憶機能低下の危険因子の探索として,循環器・代謝性疾患ならびに食品摂取パタンの寄与を検討した。

方法 介護予防健診にて地域高齢者612名の全般的認知機能-Mini-Mental State Examination (MMSE)-,生活機能-老研式活動能力指標の手段的自立得点(IADL)-,既往歴,11食品群の摂取頻度などを調査した。また,受診者の一部について記憶機能を測定し(351名),さらにその一部については2年後に記憶機能(149名),3年後にMMSE(206名)とIADL(315名)を測定した。

結果 3年後に測定したMMSEの3点以上の低下は解析対象者の10.7%にみられた。その危険度は初回記憶機能の得点が高かった者(15~16点)に比し低かった者(0~10点)において有意に高く,オッズ比は6.5(95%信頼区間:1.5-28.5)であった(ロジスティック回帰モデルにより,性,年齢,初回MMSEを調整)。同様に,3年後に測定したIADLの1点以上の低下は8.6%にみられ,初回記憶機能の低かった者(0~10点)におけるオッズ比は9.0(2.7-30.0)であった(性,年齢,初回IADLを調整)。一方,初回記憶機能に比べ2年後の記憶機能の得点が4点以上低下する事象(以下,記憶機能急速低下)は,追跡完了者の5.6%で発生した。その互いに独立な危険因子としては,脳梗塞の既往:オッズ比26.8(2.5-292.8),糖尿病既往ありまたはHbA1c(国際標準値)6.5%以上:5.2(1.6-17.7),糖尿病既往なしかつHbA1c5.9-6.4%:3.9(1.2-12.9)が見いだされた(性,年齢,初回記憶機能を調整)。食品摂取頻度データの因子分析により,大豆・大豆製品・海藻類・いも類・緑黄色野菜・魚介類の高頻度摂取に対応する因子1,油脂類・肉類・卵に対応する因子2,果物・乳製品・牛乳に対応する因子3を同定した。因子1と因子3の因子得点が共に中央値より高かった者は,共に低かった者に比し,記憶機能急速低下の危険が小さく,オッズ比0.2(0.1-0.9)であった(性,年齢,初回記憶機能を調整)。

結論 作成したエピソード記憶機能検査は,その低得点者の全般的認知機能と生活機能の予後が悪いという意味で,予測妥当性を有する。エピソード記憶機能低下には,生活習慣病や食品摂取パタンのような改変可能な危険因子が見いだされ,予防の余地があると考えられる。

キーワード エピソード記憶機能,全般的認知機能,生活機能,生活習慣病,食品摂取パタン

 

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第60巻第13号 2013年11月

東日本大震災前後での自覚症状有訴者率の変化

-被災者健康診査と国民生活基礎調査の比較-
渡邉 崇(ワタナベ タカシ ) 鈴木 寿則(スズキ ヨシノリ ) 坪谷 透 (ツボヤ トオル )
遠又 靖丈 (トオマタ ヤスタケ) 菅原 由美 (スガワラ ユミ ) 金村 政輝 (カネムラ セイキ )
柿崎 真沙子(カキザキ マサコ ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 災害後に様々な疾患が増加することが報告されているが,過去の報告は受療行動に基づいており,より頻度の多い軽症で潜在的な自覚症状の推移を把握できていない。本研究では被災から6~11カ月経過した時点での東日本大震災被災者を対象として多様な自覚症状の有訴者率を調査し,震災前の一般集団における自覚症状有訴者率と比較することを目的とした。

方法 東日本大震災の被災地域である宮城県内4地区の20歳以上の住民を対象に,平成23年9月から平成24年2月にかけて国民生活基礎調査で集計されている自覚症状の有無を自記式質問紙および対面聞き取りにより調査した。性・年齢階級別の有訴者率をもとに,平成22年国勢調査における20歳以上全国人口をモデル人口として1,000人当たりの有訴者率を直接法により推定した。平時の一般集団の有訴者率として平成22年国民生活基礎調査の全国値を用い,比較検討した。

結果 20歳以上の回答者1,583人(平均64.8歳,女性56.9%)から研究同意を得た。平時の一般集団と比較して有訴者率の差が大きかった自覚症状としては(括弧内の数字は順に,被災地におけるモデル人口1,000人当たりの有訴者率;相対有訴者率比;絶対有訴者率差),「いらいらしやすい(138.4;4.2倍;+105.3)」「月経不順・月経痛(147.5;3.5倍;+105.2)」「頭痛(150.4;3.2倍;+104.0)」「腰痛(204.2;1.7倍;+80.8)」「手足の関節が痛む(127.3;1.9倍;+60.8)」「便秘(104.0;2.3倍;+59.8)」「腹痛・胃痛(70.4;3.1倍;+47.4)」等が挙げられた。

結論 東日本大震災被災者を対象とした自覚症状有訴者率の調査により,全身症状(いらいら,頭痛)・消化器系症状・筋骨格系症状・月経関連症状などが平時の一般集団と比較して被災地域住民に多く認められた。より軽微な自覚症状を網羅的に調査した本研究の結果は被災地域の保健・医療ニーズをより的確に反映していると考えられ,災害後の公衆衛生活動の道標となることが期待される。今後,経時的推移を観察するため,同地区での調査を継続中である。

キーワード 東日本大震災,自覚症状,国民生活基礎調査,公的統計,災害公衆衛生

 

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第60巻第15号 2013年12月

地域別人口の将来推計と全国世帯数の将来推計

鈴木 透(スズキ トオル) 小山 泰代(コヤマ ヤスヨ) 小池 司朗(コイケ シロウ)
山内 昌和(ヤマウチ マサカズ) 菅 桂太(スガ ケイタ) 貴志 匡博(キシ マサヒロ)
西岡 八郎(ニシオカ ハチロウ) 江崎 雄治(エサキ コウジ)

Ⅰ は じ め に

国立社会保障・人口問題研究所は,国勢調査が行われるたびに将来人口推計と世帯数の将来推計を更新している。まず全国人口の将来推計が公表され,それに基づき一方では都道府県別・市区町村別といった地域別人口の将来推計が行われ,他方では全国の世帯数の将来推計が行われる。最後に地域別人口と全国の世帯数に基づき,都道府県別世帯数の将来推計が行われる。

2010(平成22)年国勢調査に依拠した将来推計としては,まず全国人口の将来推計である「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(以下,全国人口推計)が公表された。それに基づき「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」(以下,地域別人口推計)と「日本の世帯数の将来推計(平成25年1月推計)」(以下,全国世帯推計)が公表された。本稿では地域別人口推計と全国世帯推計の概要を紹介する。詳細は国立社会保障・人口問題研究所のホームページを参照されたい(http://www.ipss.go.jp)。なお,都道府県別世帯数の将来推計は,現在作業中である。

Ⅱ 地域別人口の将来推計

(1) 推計の枠組と方法

地域別人口推計は,2010~40年の5年ごとに,男女別,5歳階級別,地域別人口を将来推計したものである。地域別とは福島県の県全体の人口,および福島県以外の市区町村別人口である。福島県については,原発事故のため長期間立ち入りや居住が制限される市町村が複数あり,市町村別の将来人口推計が可能な状態ではないと判断された。福島県以外の市区町村は1,799で,東京23区,12政令市(札幌,仙台,千葉,横浜,川崎,名古屋,京都,大阪,神戸,広島,北九州,福岡)の128区,それ以外の764市,715町および169村から成る。全地域の合計は,全国人口推計の出生中位・死亡中位の結果に合致する。

従来は全国人口推計に次いで,まず都道府県別の将来人口推計を行い,その後に市区町村別の将来人口推計を行うという2段階の方式を採用していた。しかし東日本大震災以降,新たな県内・県間移動パターンが数多く生じたため,今回は最初から市区町村単位で将来人口推計を行い,その積み上げによって都道府県別将来推計人口を得た。

推計方法は従来どおり,コーホート要因法による。これは期末に5歳以上になるコーホートの規模は2010~15年から2035~40年に至る各5年期間の生存と移動に関する仮定から,期末に0~4歳になるコーホートの規模は,再生産年齢(15~49歳)にある女性コーホートの出生に関する仮定からそれぞれ求めるものである。

推計の出発点となる基準人口は,2010年国勢調査報告による市区町村別(福島県は県全体)

 

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第60巻第15号 2013年12月

市町村合併前後における保健師活動の変化

-管理者と係員の認識の相違に注目して-
生田 惠子(イクタ ケイコ) 桝本 妙子(マスモト タエコ) 都筑 千景(ツヅキ チカゲ)
石川 貴美子(イシカワ キミコ) 平野 かよ子(ヒラノ カヨコ)

目的 保健師活動の成果について一定の成果を上げていた市町の保健師を対象に,合併前後の保健師活動の変化,合併後の保健師活動への影響の認識などを職位別に比較し,保健師のリーダーに求められる能力を検討した。

方法 調査協力の得られた22市町の保健師の責任者に,一括して調査票を郵送し,保健師全員に配布することを依頼した。回答は無記名とし,各自で郵送してもらい回収した。調査票の配布数は460で,回答数は297(回収率64.6%)であったが,合併が保健サービスに及ぼした影響が大きいことから福祉部門を除き,保健部門に所属する保健師の回答(n=224)を分析対象にした。分析は,職位を係長以上群(以下,管理者)と係員群(以下,係員)に分け,統計的解析を行った。

結果 職位別の保健師の行動実践で,係員よりも管理者の方が有意に高いのは,「合併前に地域診断を実施」「資質向上のために自らの努力」「市町は組織的に資質向上の努力をした」「旧市町村,現在とも行政内で保健師への支持があった」であった。保健師の行動実践の変化を合併前後で比較してみると,「地域診断の実施」「関係機関とのネットワーク」「住民からの支持」「行政内の支持」「保健所との関係」のすべてにおいて管理者および係員ともに合併後よりも合併前の方が有意に高くなっていた。合併後の保健師活動への影響の認識については,「新市町の中にサービスの非効率・不均衡がある」「合併により保健師間の協力体制の確保が出来るようになった」の項目において管理者の方が係員より有意に高かった。管理者と係員に共通している項目は「旧市町村からの学びがある」「住民のアクセス性が低下した」「新市町の中にサービスの非効率・不均衡がある」「業務見直しにつながった」であった。

結論 保健師の行動実践および認識において,管理者の方がより地域診断を実施し,合併により住民サービスに非効率や不均衡が生じていることをより認識し,資質向上に向けて組織的な取り組みおよび自己研鑚に努めていた。合併前後の保健師活動の変化では,管理者および係員ともに「地域診断の実施」「関係機関とのネットワーク」「住民および行政内の支持」などにおいて合併後の活動が低下したと認識していた。以上のことから,時代の変化に対応した保健師活動を維持発展させる保健師のリーダーには,地域診断を進め,行政や住民に支持される環境づくりなどの能力が求められ,そのリーダーシップ能力を持つ保健師の育成が急務であると考えられた。

キーワード 市町村合併,保健師活動の変化,保健師管理者,リーダーシップ能力

 

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第60巻第15号 2013年12月

高齢女性の転倒経験および転倒不安感に関連する体力

古屋 朝映子(フルヤ サエコ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 金 美芝(キム ミジ)
清野 諭(セイノ サトシ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 高齢者のQOLを規定する要因の一つとして,転倒や転倒不安感が重要視されている。転倒不安感は転倒経験の有無とは関係なく起こりうるとされており,転倒不安感そのものが体力低下の危険因子となりうることから,転倒経験および転倒不安感は,各々独立して体力に影響を与えるということが考えられる。よって,本研究は,高齢女性において,転倒経験と転倒不安感の両方を合わせ持つ者は低体力であり,さらに,転倒経験のみを有する者と転倒不安感のみを有する者には,何らかの体力的な違いが存在するという仮説を立て,この仮説を検証することを目的とした。

方法 地域在住の高齢女性131名(73.7±5.4歳)を対象とし,転倒経験および転倒不安感に関する質問紙調査,形態測定,バランス能力・下肢筋力・歩行能力に関する体力測定8項目を実施した。対象者を転倒経験および転倒不安感の有無により4群に分け比較した。

結果 体力測定値を比較したところ,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない群が一番低体力である傾向にあった。また,機能的移動能力(functional mobility)を測定する項目であるTimed up and goに関しては,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない群が,転倒経験も転倒不安感もない群と比較して有意に低値であった。

結論 質問紙調査,形態測定,バランス能力・下肢筋力・歩行能力に関する体力測定8項目を調査した結果,転倒経験はあるが転倒不安感を持たない者の体力が一番低い可能性が示唆された。特に,機能的移動能力において有意に劣る結果であった。その原因として,自己の体力に対する危機意識の違いや,転倒不安感の捉え方に違いがある可能性が示唆された。

キーワード 高齢女性,転倒経験,転倒不安感,体力,機能的移動能力

 

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第60巻第15号 2013年12月

妊娠期から3歳児健診まで精神的健康調査票を用いた健康状態の変化

-紋別市における養育環境・虐待リスクの把握と養育者支援-
小銭 寿子(コゼニ ヒサコ)

目的 子ども虐待の発生予防と地域における早期の養育者支援に役立てるために,妊娠期から児の3歳児健診時点までの養育者の精神的健康状態の変化を分析し,早期介入に有効な時期を特定することである。

方法 調査研究に同意した紋別市の妊娠女性190名中,妊娠届時に精神的健康調査票(GHQ28)の自記式質問紙を実施した162名から,その後の3時点①4カ月健診時,②1歳6カ月健診時,③3歳児健診時においてGHQ28に回答した71名(43.8%)について精神的健康状態の変化と生活環境との関連性を分析した。また,4カ月健診時には虐待リスクアンケートも自治体の保健事業として実施しており,子の健康・育児力・愛着形成・親準備性・家庭基盤の項目とリスク得点合計との関連性や4時点におけるGHQ28の合計得点とハイリスクについても検討した。

結果 4時点における精神的健康調査票の得点が7点以上のハイリスクであったのは妊娠届時の57.7%であり,その次に高かったのは1歳6カ月健診時の33.8%であった。さらに受診勧奨の対象となる9点以上も妊娠届時の52.1%と1歳6カ月健診時の19.7%で高かった。3歳児健診時点では精神的健康と家族形態との関連が示された。4時点のGHQ下位尺度である,うつ傾向・社会的活動障害・不安と不眠・身体面と虐待リスクとの関連性が明らかになった。

結論 精神的健康の変化は妊娠時から1歳6カ月までの虐待リスクと関連しており,介入時期としては妊娠届時や1歳6カ月健診時における情報の把握とその養育環境を背景とした支援が重要と示唆された。精神的健康の評価指標としてGHQ28は下位尺度(身体的症状・不安と不眠・社会的活動障害・うつ傾向)や合計得点によるリスク判定においても養育者の精神的健康状態を把握し,養育者支援に活用することが可能であると示唆された。

キーワード 虐待リスク,精神的健康調査票(GHQ-28),養育者支援,3歳児健診,養育環境

 

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第60巻第15号 2013年12月

山梨県民の食塩摂取に関連する要因について

-平成21年山梨県民栄養調査より-
古閑 美奈子(コガ ミナコ) 早川 文子(ハヤカワ フミコ) 望月 邦子(モチヅキ クニコ)
小林 治子(コバヤシ ハルコ) 相原 恵子(イハラ ケイコ) 沓川 洋子(クツカワ ヒロコ)
千頭和 功(チズワ イサオ) 藤原 瑞穂(フジハラ ミズホ) 山下 ますみ(ヤマシタ マスミ)
山田 智子(ヤマダ トモコ) 黒瀬 百合(クロセ ユリ) 後藤 あずさ(ゴトウ アズサ)

目的 わが国の食塩摂取量は,諸外国に比べてきわめて高い。食塩の過剰摂取は高血圧の原因となることが知られており,国内外で減塩対策が進められている。山梨県民の食塩摂取量は全国で最も高く,今後,効果的な減塩対策を行うことが課題である。本研究では,平成21年に実施した山梨県民栄養調査のデータを用いて食塩摂取に関連する要因を明らかにし,今後の方策を明らかにすることを目的とした。

方法 平成21年に実施した山梨県民栄養調査の調査協力者660人のうち,食塩摂取量,エネルギー摂取量,各栄養素摂取量および各食品群別摂取量のデータがある517人を本研究の解析対象者とした。対象者を性別,年齢階級別に区分し,食塩摂取量とエネルギー摂取量,各栄養素摂取量,各栄養素摂取割合,各食品群別摂取量との関連をPearsonの相関分析を用いて検討した。

結果 食塩摂取量とエネルギー摂取量,炭水化物摂取量,たんぱく質摂取量との関連を検討したところ,男性,女性ともに,すべての年齢階級で正の相関がみられた。食塩摂取量と各栄養素摂取割合との関連については,相関が低かった。食塩摂取量と食品群別摂取量との関連については,性別,年齢階級別に違いがみられた。相関が高かった食品群は,男性では20~39歳において穀類(r=0.511,p=0.001),野菜類(r=0.543,p<0.001),海藻類(r=0.409,p=0.005),魚介類(r=0.599,p<0.001),卵類(r=0.413,p=0.004),40~59歳において野菜類(r=0.482,p<0.001),魚介類(r=0.426,p<0.001),60歳以上において穀類(r=0.405,p<0.001)であった。女性では,20~39歳において,魚介類(r=0.492,p<0.001),40~59歳において野菜類(r=0.534,p<0.001),海藻類(r=0.411,p<0.001),魚介類(r=0.494,p<0.001),60歳以上において,野菜類(r=0.458,p<0.001),魚介類(r=0.500,p<0.001)であった。

結論 すべての性別,年齢階級別で食塩摂取量と関連がみられた食品群は,野菜類と魚介類であった。これらの食品を摂取する際に減塩を行うことが,食塩摂取量の減少につながることが示唆された。

キーワード 食塩摂取量,山梨県,県民栄養調査,性別・年齢階級別,食品群別摂取量

 

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第60巻第15号 2013年12月

地域高齢者の1日平均歩数が骨密度に及ぼす影響

齊藤 昌久(サイトウ マサヒサ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ) 渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ)
河野 公一(コウノ コウイチ) 窪田 隆裕(クボタ タカヒロ)

目的 本研究は,地域高齢者における1日平均歩数と骨密度との関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,65歳から84歳の地域高齢者499名(男性159名,女性340名)であった。測定項目は,1日平均歩数,骨密度および握力であった。1日平均歩数は,多メモリー加速度計付き歩数計を用いて,連続7日間測定できたものとした。骨密度は,定量的超音波測定法(QUS)により右足踵骨の超音波減衰係数(BUA),超音波伝搬速度(SOS)およびStiffness値(SI)を測定した。握力は,デジタル握力計を用いて測定した。

結果 身長,体重,握力,SI,BUAおよびSOSはいずれも男性が女性に比べて有意に高い値を示した(p<0.01)。しかし,年齢,BMIおよび1日平均歩数は男女差がみられなかった。QUSパラメータ(SI,BUA,SOS)と1日平均歩数との関係は,男性のBUAを除いて有意な正の相関関係が認められた(p<0.05~0.001)。QUSパラメータと1日平均歩数の目標値未満/以上群比較では,女性がすべてのパラメータに有意差がみられた(p<0.05~0.001)。しかし,男性はいずれのパラメータも有意差がみられなかった。有意差のあった女性のQUSパラメータを目的変数に,年齢,BMI,握力および1日平均歩数を説明変数に多重ロジスティック回帰分析(変数減少法,尤度比)を行った。その結果,女性について1日平均歩数がSIとSOSに関連性が認められた(オッズ比2.2,p<0.05;2.0,p<0.01)。

結論 地域高齢期における女性の1日平均歩数は骨密度の評価指標であるSIおよびSOSと関連していた。しかし,男性では関連していなかった。したがって,高齢期の女性においては1日の歩数の多さ,6,000歩/日以上の歩数が骨密度の高さに寄与していることが明らかとなった。

キーワード 1日平均歩数,歩数計/加速度計,骨密度,定量的超音波測定法(QUS),地域高齢者

 

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第63巻第3号 2016年3月

電子レセプトによる保健・医療統計の改善に向けて

-「電子レセプトを用いたレセプト統計の改善に関する研究」の概要(その1)-
伏見 惠文(フシミ ヨシフミ) 村山 令二(ムラヤマ レイジ) 野々下 勝行(ノノシタ カツユキ)

目的 電子レセプトの持つ豊富なデータを体系的に統計情報化し,社会医療診療行為別調査等,厚生労働統計調査の整備,改善および普及に資することを目的とする。具体的には,観察単位をレセプトから患者に変換し診療の過程を時系列化することにより,これまで全数では成し得ていない在院/通院期間別,また,地域別,転帰別,傷病分類別等および診療行為別の観察ができるよう,統計数理的分析手法を含め,技術問題を整理するとともに,具体的な統計表現を提案することを目指す。

方法 研究会を組織することにより,外部有識者等からの情報収集,課題の整理・検討を進めるとともに,全国健康保険協会からレセプト・データの提供を受け,推奨すべき新たな統計表を実験的に集計する。

結果 レセプト情報の活用・分析の現状を精査することにより課題を抽出し,これからの電子レセプト統計のあり方を具体的に提案した。すなわち,患者の保険制度間移動や診療報酬改定の影響を避けることの難しいコホート統計ではなく期間統計の方法によって診療エピソード統計を作成するというアイデアを取り入れることである。それによって,NDB利用を開始したことから集計客体数が飛躍的に増加した社会医療診療行為別調査は,大きく改善し得ることを示した。医療費を受診患者発生数と1診療期間当たり医療費に分解してみせる診療エピソード統計は,医療費の増加要因分析においても有効である。本稿では,調剤レセプトについて実現している調剤MEDIASの仕組みを医科,歯科にも拡張することにより医療費分析がより充実したものになることなど,具体的提案をさらに何点か行っている。

結論 電子レセプトデ-タは,診療エピソ-ド統計の作成手法を用いることにより,社会医療診療行為別調査等,保健・医療統計の改善および医療費分析の深化に資することが示された。

キーワード 電子レセプト,レセプト統計,診療エピソード統計,コホート統計,期間統計

 

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第63巻第3号 2016年3月

地域における要援護者見守りネットワーク構築の研究

-支援を求めない「セルフネグレクト」等への支援アプローチを焦点に-
斉藤 千鶴(サイトウ チヅル)

目的 本論文では,「孤立化」「孤立死」に陥りやすいといわれる「セルフネグレクト」等(支援拒否者)への地域支援者による支援アプローチの手がかりを探ることを目的とし,地域における要援護者見守りネットワーク構築のための基礎資料を得ることを目的としている。

方法 阪神・淡路大震災以降,単身高齢者等の要援護者見守り活動において先進的な取り組みを実践しているA市において,「地域包括支援センター」と,高齢者が多く居住する公営住宅の空き室を利用した,地域包括支援センターのブランチ的役割の「見守りひろば」に配置された「見守り推進員」130人全員を対象に,「要援護者」あるいは「要援護者予備軍」の発見や,「支援拒否者」(「セルフネグレクト」と思われる対象者を含む)への関わりやアプローチ,介入の工夫等を中心として日常の支援活動に関して,郵送配布による自記式質問紙調査を行った。調査期間は,2013年11月1日から同月末日までである。

結果 調査票130件の郵送配布に対して,83件(うち,白票1件)の有効返送があり,有効回収率は63.1%であった。支援が困難な人に対する関わり方や支援の方法・アプローチとして,「気長に訪問」「嫌がられ,怒鳴られながら何度も訪問」「本人の負担にならない声掛け」「チラシをポスティング,常にあなたの事を気にかけていることをさりげなく知らせる」「何かあれば相談できる人がいる事をアピールし続ける」などがあげられた。

結論 「セルフネグレクト」等(支援拒否者)へのアプローチの手がかりを得るためには,地域支援を担当する直接の当事者だけでなく,地域住民(民生委員,自治会等)や彼らと関係を持つ社会資源(病院,店等)と連携して対応することで,有効な支援が実施できることが調査より明らかになった。とりわけ,支援を求めない「セルフネグレクト」等への支援開発には,支援担当者は,地域住民との関わりによって,相談しやすい環境づくりをし,迅速な対応ができるようなネットワークづくりに普段から心がけることが重要である。関係者の地道な努力と,地域住民と専門機関・専門職の連携の重要性が明らかになった。

キーワード セルフネグレクト,支援拒否,孤立死,支援アプローチ,見守り推進員,要援護者見守りネットワーク

 

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第63巻第3号 2016年3月

精神科救急病棟における服薬支援の現状と課題

-病棟看護管理者へのアンケート調査から-
野中 浩幸(ノナカ ヒロユキ) 清水 純(シミズ ジュン) 酒井 千知(サカイ カズノリ)
伊藤 栄見子(イトウ エミコ) 吉川 武彦(キッカワ タケヒコ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)

目的 わが国の精神科救急医療は,1996年に精神科急性期治療病棟入院料が診療報酬上で認められ,2002年には精神科救急入院料の急性型包括病棟群が登場した。当該病棟の治療で,患者への服薬支援は最も重要なものと考えられる。そこで,本論文は服薬支援の考え方やあり方,看護師が行う意義をアンケートで把握し,今後の課題を明らかにすることを目的とした。「服薬支援」の用語は,「主に統合失調症患者に,抗精神病薬の効果や副作用などの説明を通し,服薬を勧めて促し,拒薬等がある場合はその理由を聞くなど一緒に考え,自己管理を目標に服薬を習慣づけられるように支援する行為」と定義した。「服薬支援マニュアル」は,「服薬支援」の方法が記載されているものとした。

方法 研究対象者は,精神科救急病棟を持つ全国104病院(2012年10月1日時点)で,1病院ごとに1病棟を選択してもらい,病棟看護管理者1名(総数104名)に無記名・自記式の質問票を郵送した。調査項目は,性別,年齢(年代別),精神科看護師経験年数,看護師経験年数を基本属性とし,主に関わっている職種,拒薬時の対応職種,服薬支援マニュアル配備の有無と使用状況,服薬支援の開始時期,看護師への教育・研修等の35項目で,有効回答者60名(57.7%)であった。分析は,単純集計とχ2検定を用いた。

結果 服薬支援を実施している職種は,看護師が41名(70.7%),拒薬時の対応でも看護師が51名(87.9%)を占め,他職種よりも多かった。また,服薬支援マニュアルありは35名(58.3%),そのうち使用しているのは22名(62.9%)であった。看護師へ何らかのサポートあり40名(66.7%),具体的な教育の実施は,38名(63.3%)が「行われていない」と回答した。このような状況の中で服薬支援が行われている実態が明らかとなった。

結論 今回の調査では,服薬支援マニュアルの配備は約半数,服薬支援で与薬は看護師が業務として行っていた。サポートと教育は十分ではなく,教育機会の提供と活用できる服薬支援マニュアル作成の必要性が示された。今後,こうした調査を継続することにより,精神科救急病棟の看護師が実践している服薬支援の実態を継続的に把握し,看護師支援の施策立案の基礎データとして活用することが望まれる。

キーワード 精神科救急病棟,服薬支援,病棟看護管理者,アンケート,服薬支援マニュアル

 

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第63巻第3号 2016年3月

保健福祉の専門職による住民主体,行政,民間による
配食サービスおよび訪問介護による食事提供の評価

-地域包括支援センターへの全国調査の二次分析-
野村 知子(ノムラ トモコ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ) 友永 美帆(トモナガ ミホ
吉岡 英司(ヨシオカ エイジ) 武安 眞珠(タケヤス シンジュ) 渡邊 範江(ワタナベ ノリエ
内園 薫(ウチゾノ カオル) 片寄 あつみ(カタヨセ アツミ) 大澤 英児(オオサワ エイジ

目的 住民主体,行政,民間による配食サービスおよび訪問介護による食事提供の特徴や機能の違いを,介護予防および高齢者ケアの第一線にいる地域包括支援センターの職員やケアマネジャーを対象とした調査に基づき量的に明らかにすることである。

方法 分析対象は,東京都調布市で活動している地域包括支援センターの職員とケアマネジャーとし,2012年2月1日から28日までの期間に,郵送調査で回答した102名である。調査期間は2012年2月1日から同年2月28日までであった。評価を求めたのは,住民主体の食事サービスを提供している調布ゆうあい福祉公社,行政,民間の各々による配食サービスと訪問介護による食事作りの4形態である。分析には,コレスポンデンス分析を用いた。

結果 地域包括支援センターの職員とケアマネジャーを併せた分析結果では,住民主体の配食サービスに対しては利用者の安全性と日頃からの住民育成,行政の配食サービスに対しては利用者の安全性と見守り,民間の配食サービスに対しては利用者の利便性,訪問介護による食事提供については利用者の安全性と緊急時即応性に対して,高く評価していた。一方,地域包括支援センターの職員とケアマネジャーを個々に分析すると,住民主体と民間の配食サービスについては,それぞれの提供主体の近くに同じ項目が位置し,全体で分析した結果と同様であった。しかし,行政の配食サービスと訪問介護による食事提供については結果が異なっていた。地域包括支援センターの職員では,行政の配食サービスと訪問介護による食事提供のいずれに対しても,緊急時即応性の面から評価が高かった。他方ケアマネジャーの場合は,訪問介護による食事提供に対してのみ,緊急時即応性への評価が高かった。

結論 住民主体,行政,民間による配食サービスおよび訪問介護による食事提供は,保健福祉の相談専門職から異なるものとして評価されており,それぞれの特徴を生かし,地域包括ケアに活用していくことが必要であることが示唆された。

キーワード 配食サービス,住民主体,機能評価,訪問介護,地域包括支援センター,ケアマネジャー

論文

第63巻第3号 2016年3月

乳幼児を持つ親の子育て観尺度開発

-保育者が子育て支援を行う視点から-
山城 久弥(ヤマシロ ヒサヤ)

目的 近年,家族構造や社会経済状況の変化などにより,児童とその家庭を取り巻く環境は厳しい状況となっている。そうした中,地域の保育所をはじめとした保育士の子育て支援機能が重要視されている。そこで,本研究では保育者が子育て支援を行う視点から,「喜びや楽しみ」「悩みや不安」「責任感」の3つの下位概念に着目しながら,乳幼児を持つ親の「子育て観尺度」を開発することを目的とした。

方法 先行研究から,子育て観に関する27項目の質問項目を採用し,保育所を利用している乳幼児を持つ5,460名の保護者を対象に郵送留置調査法を実施し,回収数は2,060名(回収率37.7%)であった。その中から,親(母親か父親)で年齢や子育て観に関する質問項目にすべて回答している1,680名を分析対象者とした。分析方法として,子育て観を尺度の項目に対し探索的因子分析を行った。信頼性については,内的整合性(Cronbachのα係数)を算出した。

結果 「子育て観尺度」は,因子分析の結果から「子育てに対する負担」「子育てによる自身の成長の楽しみや喜び」「親としての責任感」の3つの下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.66~0.81であり,3因子構造が示された。さらに,3つの下位尺度を構成する項目が同一因子に0.4以上の因子負荷量を有し,構成概念の妥当性をある程度確保していることも示唆された。

結論 乳幼児を持つ親の「子育て観」を把握するための尺度として,「価値」と「態度」を網羅した概念で構成され,ある程度の信頼性と妥当性が確認された。今後の課題としては,尺度の改良を重ね,さらなる信頼性と妥当性の確保や実際の保育現場で活用されるよう尺度の短縮版が必要となるだろう。

キーワード 子育て観,乳幼児を持つ親,保育者,子育て支援

論文

 

第63巻第3号 2016年3月

高齢者のセルフ・ネグレクト事例の類型化と孤立死との関連

-地域包括支援センターへの全国調査の二次分析-
斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ) 岸 恵美子(キシ エミコ) 野村 祥平(ノムラ ショウヘイ)

目的 セルフ・ネグレクトと判断された高齢者について,その主要な状態像を類型化し,基本属性および孤立死を含むセルフ・ネグレクト状態の深刻度との関連を分析した。

方法 2014年10~11月にかけて全国の地域包括支援センターを対象に行われた調査データを使用した(回収数1,731事業所,回収率38.9%)。本調査では,セルフ・ネグレクト事例として「相談受付時に高齢者自身の生命・身体・生活に影響がある」事例から「孤立死」事例まで4段階の深刻度別に該当者がいる場合に直近の1事例を収集している。ここでは,性別とセルフ・ネグレクトの状況について欠損のない1,355事例について分析した。セルフ・ネグレクトの状況は「不衛生な家屋に居住」「衣類や身体の不衛生の放置」「不十分な住環境に居住」「必要な介護・福祉サービスの拒否」「必要な受診・治療の拒否」「地域からの孤立」「近隣住民の生命・身体・生活・財産に影響」で把握しており,クラスター分析によってその主要な組み合わせを析出した。

結果 分析の結果,「不衛生型(16.5%)」「不衛生・住環境劣悪型(12.8%)」「サービス拒否型(17.4%)」「不衛生・住環境劣悪・拒否型(9.4%)」「拒否・孤立型(13.0%)」「複合問題・近隣影響なし型(12.3%)」「複合問題・近隣影響あり型(18.7%)」と命名できる7クラスターが析出され,各クラスターで認知症高齢者の日常生活自立度,障害高齢者の日常生活自立度,精神疾患の有無,住居形態,世帯構成,セルフ・ネグレクト状態のきっかけに相違がみられた。また,セルフ・ネグレクト事例のなかでも,「不衛生型」よりも「不衛生・住環境劣悪・拒否型」「拒否・孤立型」「複合問題型(近隣影響あり・なし)」のほうがより深刻な状態に該当しやすく,孤立死との間では「拒否・孤立型」のみで有意な関連が認められた(オッズ比=2.68:95%信頼区間:1.35-5.34)。

考察 高齢者のセルフ・ネグレクト状態にはいくつかの異なるパターンがあり,とくに孤立死対策という意味では複合問題型の事例だけではなく,サービス拒否や近隣関係から孤立しがちな人々へのアウトリーチが必要であることが示唆された。

キーワード 高齢者,セルフ・ネグレクト,孤立死,地域包括支援センター,複合問題,類型化

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第61巻第1号 2014年1月

特定健康診査・特定保健指導の効果分析

-全国健康保険協会東京支部における特定健康診査受診者の健康状態の年次変化-
吉川 彰一(ヨシカワ ショウイチ) 小川 俊夫(オガワ トシオ) 馬場 武彦(ババ タケヒコ)
南 友樹(ミナミ ユウキ) 尾川 朋子(オガワ トモコ)  田島 哲也(タジマ テツヤ)
山根 明美(ヤマネ アケミ) 今村 知明(イマムラ トモアキ)

目的 公的医療保険の保険者は,特定健康診査・特定保健指導の結果の分析とその活用に取り組んでいるが,その詳細な分析や分析結果の活用は充分になされていないのが現状である。本研究は,全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部における2009年度の特定健康診査受診者を抽出して健康状態の変動を把握し,特定健康診査・特定保健指導の効果を検証することを目的として実施する。

方法 協会けんぽの被保険者のうち,2009年度の特定健康診査の東京都内での受診者および他県で受診した東京支部の被保険者を抽出し,特定保健指導階層化の判定基準を用いて,積極的支援,動機付け支援,情報提供・服薬無しの各群に区分した。また積極的支援群と動機付け支援群についてはさらに指導参加群と不参加群に区分した。抽出した各群について2009〜11年度の特定健康診査の結果を集計し,2009年度と2010・11年度の各健診項目の判定結果および健診数値の平均値の変動について分析した。

結果 特定保健指導階層化に用いられる各健診項目の判定結果を2009年度と2010・11年度を比較した結果,積極的支援群および動機付け支援群では,腹囲や血圧,中性脂肪,空腹時血糖などの指標で改善傾向がみられた。また,男性の腹囲などで指導参加群は不参加群よりも高い改善傾向がみられた。健診数値の平均値の経年変化については,情報提供・服薬無し群ではほぼすべての健診数値で徐々に悪化傾向にあったが,積極的支援群の腹囲,血圧,中性脂肪などでは逆に改善傾向がみられた。また指導参加群では,男性の腹囲などで不参加群に比べてやや高い改善傾向がみられた。

結論 積極的支援群および動機付け支援群は,情報提供・服薬無し群に比べて改善傾向が大きい可能性が示唆された。また指標によっては指導参加群の改善傾向が不参加群より大きい可能性があり,特定保健指導の健康状態の改善効果が示唆された。さらに指導不参加群においても健康状態の改善傾向がみられたことから,特定健康診査の判定結果の通知などにより,対象者の行動変容につながった可能性も示唆された。この結果より,各保険者は特定健康診査・特定保健指導への参加促進に加え,指導対象者に対して行動変容につながるような啓発事業を実施することが,加入者の健康状態の改善に効果的であると考えられる。

キーワード 特定健康診査,特定保健指導,メタボリックシンドローム,行動変容,全国健康保険協会(協会けんぽ)

 

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第61巻第1号 2014年1月

女子中学生のHPV感染予防ワクチン接種経験とその要因に関する研究

-ワクチン接種率向上をめざした啓発活動への提案-
服鳥 景子(ハットリ ケイコ) 小田 彩香(オダ アヤカ) 山本 智恵(ヤマモト チエ)
額田 麻子(ヌカタ アサコ) 平田 千紗(ヒラタ チサ) 伊東 美佐江(イトウ ミサエ)

目的 現在,わが国では2種類のヒトパピローマウイルス感染予防ワクチン(ワクチン)が使用されている。2010年に「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により,13~16歳の女性を対象にしたワクチン接種助成が開始され,2013年度から定期予防接種対象となった。しかし,中高生女子のワクチンに対する意識や影響要因に関するこれまでの研究は非常に少なく,ワクチン接種普及活動についての検討報告もみられない。本調査の目的は,ワクチン事業開始後の女子中学生に対して,ワクチン接種経験とそれに関連する要因を明らかにし,接種率向上に向けた啓発活動への示唆を得ることである。

方法 対象は,3都道府県に所在する公私立中学校4校に在籍する女子中学生1~3年生736名であった。無記名自記式質問紙法による「中学生の子宮頸がん予防ワクチン接種についてのアンケート調査」を実施した。ワクチン接種経験と質問項目の関連(χ2検定)と関連の強さ(Cramer’s V)について分析した(有意水準5%)。

結果 対象者本人とその保護者から承諾および回答が得られた者は,301名であった(有効回答率40.9%)。ワクチン接種率は,25.2%であり,学年が上がるほど高くなった(p<0.001)。また,子宮頸がんに対する認知率は94.0%と高く,ワクチン接種経験と有意な関連がみられた(p<0.001)。さらに,ワクチン認知率,ワクチン無料化,および3回接種の必要性の認知についても,ワクチン接種経験と有意に関連した(p<0.001)。副作用の不安を感じているのは2年生が最も多く,学年間で有意差があった(p<0.05)。3回接種の必要性の認知がワクチン接種経験と最も関連が強く(CV=0.423),次に副作用の認知との関連が強かった(CV=0.349)。対象がワクチン接種を決定する際には,母親の意見が最も重要であると考えていた。また,ワクチン接種経験者は未経験者と比べ,学校の意見も重要であると考える傾向にあった(p<0.05)。

結論 ワクチン接種率向上をめざした啓発活動は,女子中学生とその保護者(特に母親)を対象とし,学年による準備状況をふまえた内容を,学校保健事業の一環として実践することが有効である。

キーワード 子宮頸がん,子宮頸がん予防ワクチン,子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業,質問紙調査,女子中学生

 

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第61巻第1号 2014年1月

日本の病院における救急外来での外国人患者への看護の現状に関する調査

久保 陽子(クボ ヨウコ) 高木 幸子(タカキ サチコ) 野元 由美(ノモト ユミ)
前野 有佳里(マエノ ユカリ) 川口 貞親(カワグチ ヨシチカ)

目的 わが国の救急指定病院の救急外来において,外国人患者の受け入れがどの程度発生しており,またその対応においてどのような看護提供上の困難が発生しているのかなどについて,その現状を明らかにすることを目的として全国調査を実施した。

方法 調査は,平成21年12月から平成22年3月に自記式質問紙を用いて郵送法にて実施した。対象は救急指定病院として登録されている全国382施設とした。調査項目は,外国人救急外来患者への看護で困ること,看護の対応,支援制度の実際,外国人患者受け入れに対する思い,現在行われている取り組みと今後必要と思われる対策とした。調査結果からそれぞれの項目ごとに単純集計を行い,自由記載された内容を抽出した。倫理的配慮については,産業医科大学の倫理審査委員会による審査を受け承認を得た。

結果 調査の結果,382施設中101施設(回収率26.4%)から回答を得た。過去3年間に101施設中97施設(96.0%)が1名以上の外国人患者を受け入れており,患者数が多い施設では3年間で約5,000名の受け入れを報告した。また,外国人救急外来患者への看護について,外国人患者受け入れ経験のある97施設中84施設(86.6%)が困難を訴えた。看護提供上の困難として,言語の違い,文化の違い,生活習慣の違いによる問題のほかに,無保険や医療費の問題,制度・体制上の問題,通訳者の医療に関する知識や理解力が乏しいことなどが報告された。外国人救急外来患者への看護をするための支援制度の現状として,「外国人患者の対応ができる看護師の配置」や「研修制度」があると回答した施設はいずれも3施設(3.0%)のみであった。そして約9割の施設が今後何らかの対策が必要であると回答した。

結論 回答を得た救急指定病院の96%の病院が救急外来で外国人患者を受け入れており,そのほとんどの病院で看護上の困難が生じていることが明らかになった。言語や生活習慣の異なる外国人救急患者に,必要な看護を提供するための体制整備は急務といえる。しかしながら現状はほとんど体制が整っておらず,単施設で受け入れ体制を整備していくことは容易ではないと思われる。今後,外国人救急患者受け入れに係る看護体制の整備について,行政や大学などの研究機関による組織的支援が強く求められている。

キーワード 外国人患者,救急外来,看護

 

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第61巻第1号 2014年1月

障害者福祉施設における若年性認知症の受け入れに関する調査研究

小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 田中 千枝子(タナカ チエコ)

目的 若年性認知症は65歳未満で発症する疾患であり,高齢者とは異なる様々な課題がある。障害者福祉施設における若年性認知症の受け入れ状況,支援の実態を把握し,分析する。

方法 愛知・岐阜・三重の指定障害福祉サービス事業所1,295カ所に対し,調査票を郵送して回答を求めた。内容は,事業所の属性(種別,運営主体),職員の職種と人数,若年性認知症の受け入れの有無,ある場合の人数,病名や,日常生活の自立度,認知症の程度,受け入れの決め手になったこと,支援方法,工夫していること,受け入れの課題,受け入れの条件などである。

結果 調査票の回収割合は59.7%であった。若年性認知症の受け入れ経験ありと回答した63事業所で受け入れた人数は131人で,性別と年齢が確認できた129人では男性は85人,年齢は50~59歳が最も多く,女性は44人,年齢は50~59歳が最も多かった。認知症の原因疾患の記載があった130人では,アルツハイマー病が最も多く45.4%であった。利用開始時の状態が記載された126名の日常生活自立度では,「屋内での生活はおおむね自立しているが,介助なしには外出しない」が最も多く47.6%,次いで「何らかの障害等を有するが,日常生活はほぼ自立し,隣近所なら外出する」が15.1%であった。認知症の程度では,「日常生活に支障をきたすような症状があり,介護を必要とする」が最も多く59.2%,次いで「日常生活に支障をきたす症状はあるが,見守りで自立できる」が24.8%であった。利用者に対する支援では,「他の利用者とほぼ同じプログラムで支援している」が最も多く46.7%,次いで「他の利用者とほぼ同じプログラムで支援をしながら,職員を常に配置している」「認知症の症状に合わせた支援をしている」がともに31.7%であった。受け入れの課題は「認知症の症状が進行すると継続して受け入れができなくなる可能性がある」が最も多く66.7%,次いで「認知症の症状のため,他の利用者に比べ作業やプログラムをこなすのが困難である」が40.0%であった。

結論 今回の調査では,障害者施設における若年性認知症の受け入れはまだ不十分ではあるが,前回の調査に比べ受け入れている事業所が増加しており,少しずつ理解が進んでいると考えられた。一方で,受け入れ申請がないとする事業所が多く,介護福祉関係者に対するさらなる情報提供が必要であり,就労を希望し,可能な若年性認知症の人に,有用な情報が適切に提供されることが必要である。

キーワード 若年性認知症,障害者福祉施設,受け入れ状況,福祉的就労

 

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第61巻第1号 2014年1月

低出生体重児の母体要因に関する疫学研究

邱 冬梅(チュウドンメイ) 坂本 なほ子(サカモト ナホコ)
荒田 尚子(アラタ ナオコ) 大矢 幸弘(オオヤ ユキヒロ)

目的 日本の新生児の平均出生体重は低下する傾向にあり,低出生体重児(出生時体重が2,500g未満:LBW)の割合が増加している。本研究はLBWおよび不当軽量児(SGA)と母体要因との関連をコホート研究により検討する。

方法 2003年11月から2005年12月かけて成育コホート研究に参加協力した妊婦のうち単産の1,477組の母子を対象に,LBWとSGAにおける妊娠前からの母体要因を,多変量ロジスティック回帰分析により検討した。

結果 1,477名児の平均出生体重は2,997.7g±414.3gであり,LBWとSGAの割合はそれぞれ7.9%と6.8%であった。多変量ロジスティック回帰分析では,妊婦の身長が高いほどLBWとSGAのリスクが低かった(P<0.05)。妊娠初期に就労している妊婦のLBWのオッズ比(OR)は1.75(95%CI:1.03-2.98)であった。家計収入600万円未満に比べ,1,000万円以上のLBWのORは2.18(1.03-4.61)であり,家計収入が多いほどLBWのリスクが増大した(P<0.05)。妊娠前BMIが18.5~21.0㎏/㎡未満に比べ,やせ(BMI<18.5㎏/㎡)のLBWとSGAのORはそれぞれ2.25(95%CI:1.31-3.89)と2.08(1.29-3.35)であり,BMIが高いほどLBWとSGAのリスクが低減していた(P<0.01)。妊娠中の体重増加量が多いほどLBWとSGAのリスクが低くなり(P<0.01),妊娠中の体重増加9~12㎏未満に比べ,体重増加が7㎏未満の母親のLBWおよびSGAのORはそれぞれ2.01(95%CI:1.08-3.75)と2.23(1.29-3.88)であった。妊娠初期にストレスを感じない母親に比べ,ストレスを感じる母親のLBWとSGAのORは低かった(OR=0.42,95%CI:0.22-0.79;OR=0.55,0.32-0.96)。鉄剤内服既往がある母親のLBWおよびSGAのORも低かった(OR=0.27,95%CI:0.13-0.58;OR=0.52,0.28-0.96)。妊娠高血圧症候群(PIH)である母親のLBWおよびSGAのORは高かった(OR=7.52,95%CI:2.91-19.46;OR=4.80,2.03-11.35)。

結論 本研究では,母親の低身長,妊娠前のやせ,妊娠中の体重増加不良およびPIHがLBWおよびSGAのリスク因子であることが明らかになり,妊娠初期のストレスや鉄剤内服既往によってLBWとSGAのリスクが低減することを示した。妊娠初期の就労または家庭の経済状況が良いことはLBWのリスクを増大させていた。低出生体重児の出生を予防するには,医療関係者による妊娠中の栄養指導や健康管理だけでなく,妊婦の健康意識変容や社会的な関心と協力により女性の妊娠前の若いころからの生活習慣やライフスタイルの改善も重要である。

キーワード 出生体重,低出生体重児,不当軽量児,コホート研究,母体要因

 

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第61巻第2号 2014年2月

WHO-DAS2.0日本語版の開発とその臨床的妥当性の検討

筒井 孝子(ツツイ タカコ)

目的 WHO-DAS2.0(WHO Disability Assessment Schedule2.0)は,障害の評価を行うためにICFコードを用いた計測ツールとは異なる視点から開発された。この評価尺度が日本語化され,利用できるようになればICFの概念に基づいた生物心理社会学的モデルを基礎とした,いわゆる障害の程度を評価できる可能性を高めることができる。また,この評価尺度を用いた得点は国際比較も可能とすることから,日本における社会福祉関連制度を国際的な観点から評価する際の資料としても重要となると考えられる。本研究では言語学的観点からWHO-DAS2.0の評価票を訳出し,専門家によるレビューおよびフィールド調査を踏まえて臨床的な観点からその妥当性を検討することを目的とした。

方法 WHO-DAS 2.0の各種評価票およびマニュアルを言語学的な観点から日本語訳を行った。その後,これらの調査票について,医師,看護師をはじめとした保健医療・社会福祉関係の専門家,障害の当事者の意見を聴き,実態に合わせて修正した。次にヒアリング調査結果を踏まえて修正された調査票を使用したフィールド調査を実施し,その臨床的妥当性を検証した。

結果 言語的に忠実に訳した調査票は保健医療・社会福祉関係専門家,障害当事者の意見を収集した結果,表現の修正が必要とされた。この指摘に基づいて修正された調査票を用いて自己記入版と面接者記入版のフィールド調査を行い,評価結果の比較をした。その結果,全調査対象者の自己記入版と面接者記入版の回答結果が一致した項目はなかった。

結論 今後,WHO-DAS2.0を日本において実用可能なものにするためには,臨床的観点からの障害福祉,医療,保健,介護分野の学識者や専門家によるレビューや言語学観点からの原語の意味を踏まえつつ,日本文化に適応した修正をさらに重ねていく必要があると考えられた。同時に,これを臨床現場においてアセスメントツールとして活用していくためには,障害特性に応じた調査票の工夫や評価のためのガイドライン作成が必須と考えられた。

キーワード WHO-DAS2.0,ICF,WHO,生物心理社会学的モデル,評価

 

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第61巻第2号 2014年2月

都営住宅に居住する1人暮らし高齢者の生活満足度とその関連要因

福島 忍(フクシマ シノブ)

目的 本研究では,都営住宅に居住している1人暮らし高齢者の生活満足度の状況と,生活に満足をしている人の特性を明らかにし,生活の満足感を高めるための方策を考察することを目的とした。

方法 対象者は,東京都S区A都営住宅のうちの2つの自治会の号棟に居住する1人暮らし高齢者である。調査方法は郵送法による無記名自記式質問紙調査である。調査は事前に調査協力への同意を得た人に行い,同意の確認は自治会役員が行った。調査協力への同意者は135人であった。調査期間は,B自治会が2010年11月下旬から同年12月初旬まで,C自治会が2010年12月末から2011年1月中旬までである。回収数は116であり,有効回答者は114人であった。分析は,生活満足度を従属変数として,身体状況や住宅環境,親族や近所とのつきあいの状況などに関する15変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。

結果 現在の生活に「満足している」「まあまあ満足している」と回答した人を合計した生活満足群の人の割合は約7割であり,全国調査と比較して大きな違いは認められなかった。生活満足度と有意な関連がみられたのは,近所づきあいの状況,緊急通報装置の有無,子どもの有無,結婚の状況の4変数であり,近所に「立ち話をする程度以上」の人がいる人,緊急通報装置を設置している人,子どものいる人はそうでない人に比べて生活満足群になる確率が高く,結婚の状態で「離別」している人は「未婚・その他」の人に比べて生活満足群になる確率が低かった。

結論 本研究の対象者は近所づきあいの状況が全国調査と比較して活発に行われている傾向にあり,近所づきあいは本研究において生活満足度に最も影響がある項目であったことから,この傾向が都営住宅の1人暮らし高齢者の生活満足度を上げている一要因になっていることが考えられた。また,緊急通報装置の設置や子どもの有無,結婚の状況も生活満足度に影響しており,1人暮らし高齢者が急速に増加していくことが予測される都営住宅においては,サロン活動や防災活動などの機会を通した異世代を含めた近所づきあいが継続あるいは新たに構築されるような意図的な働きかけや,緊急通報装置の円滑な設置を図るなどして,1人暮らしを基準とした高齢者の生活支援の体制整備を早急に実施していく必要がある。

キーワード 都営住宅,1人暮らし高齢者,生活満足度,近所づきあい,緊急通報装置

 

 

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